チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
2度目となる活動内容の振り返りを済ませた翌日、俺はシューベト城西海岸までの街道整備の手伝いやカルダリア山や氷の洞窟での素材採取を済ませ、黒い魔力で汚染された魔物が領内にいないかフレアと別行動で確認している。
今は丁度シューべロードを見回っており、汚染された魔物も普通の魔物も特におらず、教皇派勇士も入りこんでいないことを確認できた。
そろそろいい時間になるし今日は家に戻ろうか、と思った矢先、俺の中にざわめくものを感じた。
いや、正確には魔力を収めるために心の中に用意した内的世界で何かが起きている。
精神を集中して内的世界に意識を向けると、古代神達の加護を収めた領域が、しきりにイメージを伝えてきている。
イメージの内容は洞窟、それも霧の森に通じる洞窟である通称「霧の洞窟」だ。
上空から見たようなイメージで位置も分かる。
少し分かりにくいが、古代神レフガトの泉北東付近にある動物の棲家らしき場所に入口があるようだ。
古代神達の加護はどれも必死さすら感じる形で洞窟のイメージを俺の心に写し続けている。
霧の森は古代神達の後継が育成を受けている場所で、俺も行かないように気を付けるって加護に以前伝えた筈なんだけど……。
まさか、後継の神族か霧の森に何らかの異常があったのか?
理由を考えている最中も、全ての加護は洞窟のイメージを様々な角度から写して俺に届けている。
これほど全力で訴えてくるってことは、どう考えてもエマージェンシーコールってことだよな……。
となると……古代神達にとって何か想定外の事象が起きて、俺の力を借りる必要が出てきたということか。
うーん、古代神達が俺の手を必要とする事態というのはあまり考えられないんだけど、本気で困っている以上、きっと手伝った方が良いのだろう。
それに、頼んだ訳ではないけど、俺は古代神の方々から加護を受け取っている。
加護を鍛えることで日々の修練と摸擬戦に彩りを加えることができているし、母上の病状改善に加護の力を借りる可能性もあるから、ここで恩返ししておくとしようか。
ついでながら、この状況なら母上の治療に役立つものをこの洞窟や霧の森で探すことを古代神達に許してもらえるかもしれない。
「貴方達の依頼通り、これから霧の洞窟の様子を見に行くので、母上を治療するための素材をこの洞窟や霧の森で探してもよいでしょうか」と古代神達の加護に念じると、加護から送られてくるイメージはすうっと消えていった。
……了承してくれたんだよね。
(アドリアン?何かあったのか?)
む、フレアが俺の心の揺らぎを察知したみたいだ。
俺は古代神達から緊急事態なので手を貸してほしいという依頼を加護を通じて受けたので、これから霧の洞窟に向かう旨をフレアに伝える。
(……!古代神からか。分かった。私は洞窟には同行できないので、レフガトの泉付近に待機しておく。それでも、危険な事態が発生した場合はすぐに呼んでくれ。その時は私の炎熱をアドリアンに回す)
了解、とフレアに返し、俺はデルカル大陸でまだ踏み入れたことがない霧の洞窟へ足を向けた。
余り開かれていない道を進み、湧き水の溜まった小さな泉を通り過ぎていく。
そして獣、恐らくイノシシの棲家らしき場所……ここだな。
ここにも湧き水が溜まっている。特別な力はなさそうだが……。
さて、霧の洞窟への入り口は……と。
ああ、あの辺だな。
木々の間に隠れて見えにくいが通れそうな穴がある。
穴に近づいていくと、イノシシが飛び出してすごい勢いで俺の脇を通り過ぎていった。
……?洞窟に何かいるのか?
でも古代神と約束した以上、行くしかない。
膝立ちになりながらちょっと下を向きつつ穴の中に入っていくと、「いたっ」……穴の出口で誰かと頭をぶつけてしまった。
謝りながら頭をさすりつつ正面を見ると、そこには俺と同じく膝立ちになった一人の少女がいた。
目の前にいる女の子の肌は透き通るように白く、今ぶつけてしまった額の箇所以外は一切の瑕疵がないと言えるぐらいに途轍もなく整った容貌だった。
彼女は動きやすそうな白いバトルドレスと白色の大きなフードを纏い、手足には黒いオペラグローブ・靴と一体化したタイツを身に着けている。
魔力を感じるので神族だと思うが、神族の特徴である大きな耳はフードの中の白い長髪で隠しているようだ。
また、頭の上には四角形に長い耳がついたような人形らしきものを乗せており、胸元には金色の石が輝いていた。
総評して非常に美しい少女だが、特に目を引くのは深紅の瞳で、彼女は
……つまり、正面にいるこの子は、古代神レフガトの系譜となる神族ということだろう。
それと、肌と瞳孔はどうやら本来の姿から色を変える魔法が定着しているように見て取れた。
恐らく神族であること……瞳孔も偽装しているから、純血神族であることを隠しているのだろう。
そうなると、この少女が古代神の後継となる神族であるのはほぼ確実だ。
ただ、体へ偽装魔法が完璧に定着しているから、この子は今の姿が自然な状態だとも言えるみたいだ。
一目この子を見てここまでの情報を瞬時に看破したが、まずはぶつかってしまった箇所を手当てしてあげないと。
「人間……?」
と少女はぼんやり声を上げているので、改めて謝りながら懐から傷に効く軟膏を出して少女の額にそっと塗ってあげる。
その後、恐らく勇士に狙われた経験があるだろうこの子を怖がらせないよう、出来る限り優しく少女の両手を取って立たせてあげた。
少女はどこか不思議そうな目で俺の顔をじっと見つめているので、どうしたの、と声をかけてみたら「なんでもない」と返された。
一旦は大丈夫そうなので、とりあえず自己紹介のため、名前を名乗っておく。
「……あなたはどうして霧の森に来たの?勇士じゃない人間達はこの森には誰も入って来ないのに」
少女が尋ねてくるが、「古代神のエマージェンシーコールを受けたから」なんて言ったら流石に正気を疑われるだろうから、無難に探しているものがあるから探検に来たと伝える。
母上の治療に役立つ素材なりアイテムなりを探しているのは事実だしね。
少女が体を偽装している以上、神族であることを隠したいのだろうからそこには触れず、俺はこの少女が霧の森に住まう部族・シェザール人として会話を試みる。
ただ、どうもこの子、こちらの話の振り方に応答が鈍いというか……明らかにコミュニケーションに慣れていない感じだ。
続けて目の前の少女に名前を尋ねてみたが、反応を窺う限りこの少女は名前を持っていないようなので、この子はやっぱり風習上名前を持たないシェザール人に育てられているみたいだ。
とはいえ、この子を名無しの子でずっと通すのはちょっと難しいな。
俺が名前をつけるとシンプルな物になるけど、この子に名前を贈ってあげようか。
……特徴的なのは紅い瞳か……よし。
シェザール人の風習にはないかもしれないけど、名前は大切な物だ。
びっくりさせないようにゆっくり彼女の手を取って目線を合わせ、真心を込めてこの子に名前をプレゼントする。
「君のことは、『アイールディ』と呼ぶよ」
「ぁ……。うん……」
良かった。ゆっくりではあるが了承してくれた。
おっと、結構時間がたってしまった。
そろそろ夜が近い時刻だ。
今日はもう戻るべきだな。
今日は帰るけどまた洞窟や森を探索しに来る旨をアイールディに伝え、俺は彼女とお別れした。
アイールディと別れた後、俺はフレアと合流し、そのままシューベトへ帰還した。
そして、既に完成しているシューベト正門前にある橋・ドラゴンテールの脇にあるフレアの寝床で俺はフレアに今回の顛末を共有している。
『古代神の依頼内容は、アドリアンがアイールディと名付けた後継であろう神族に会ってほしかっただけ……とはいかないだろうな』
イメージを伝えてきた時の感触からして、絶対にそれだけではないと俺も思う。
アイールディの印象は、とても純粋で悪意のない真っ白な子というところか。
だが、会話の中で見て取れたように、アイールディは明らかに会話という行為そのものに慣れておらず、ある種の幼さすら彼女から感じとれた。
ちなみに、あの子は魔力や戦闘力がまだそこまで高くなかったが、素養に優れた純血神族であるのなら、恐らく一気に育つからそっちは然程気にならない。
でも、俺の少し年下ぐらいと見受けられる彼女が見せた、あの他者への応対の不慣れさはあまりにも行き過ぎのような……。
……もしかして、それが理由か?
『アドリアン。古代神の頼み事について、何か思い至ったのか?』
うん。
場所か人かはわからないが、アイールディの育成環境に古代神にとっても何らかの想定外な事象が起こったせいで、自分達の後継であるアイールディの育成……特に情緒面での育成に難航している可能性があるかもしれない。
その補填として、加護を与えた俺に彼女の育成を一時的に任せようとしているのでは、という予想を俺はフレアと共有した。
……もしかしたら、フレアを(多分)立派に育てた経験を当てにしている可能性もあるしね。
『なるほど……加護にどの程度の価値があるのか私にはわからないが、古代神は手ずから加護を与えるほどにはアドリアンを評価している。そして、少々面はゆいが、他種族である私をアドリアンは育ててくれた。実績を買われて、ということか。……だが、そのような事情であるならば、これからはある程度定期的に霧の森に通わなければならないのではないか?』
そうなるんだよね。
俺は保育士でも家庭教師でもないんだけどなぁ……。
いや、家庭教師はこの世界でも孤児院の皆やルーカス達相手にやってたか。
他に適任はいないのかな、とか思わないでもないけど、3人の加護から伝わったあの必死さは決して嘘ではない。
育成補助の区切りはどこかでつける必要はあるが、俺もできる限り協力するとしよう。
『分かった。その少女の件で私に手伝えることがあれば何でも言ってくれ』
うん、ありがとうフレア。
それにしても、会うことはまずないだろうと思ってたデルカル大陸における古代神の後継者と、一時的にとはいえ交流することになるとは考えもしなかったなぁ。
それも、ビックリするほどの美少女だったし。
……ちょっとぐらいなら役得とか思ってもバチはあたらないよね。
まあ一般の人と較べると、神族の人達はみんな容姿が本当に綺麗だからなぁ。
魔女狩りは容姿の優れた神族を妬んでなんて側面も1%ぐらいはあるのかも、なんて馬鹿なことを一瞬考えながらも、俺はフレアと今後の予定を共有し、自宅に戻った。
幸い父上と母上は家で談笑していたので、人払いをした部屋で2人に今日の顛末を報告する。
と言っても加護のことは黙っているつもりなので、古代神から啓示を受けて、という内容に差し替えたが。
育成計画が難航しているらしい後継の神族に対する育成補助を古代神から(多分)依頼されたという俺の説明に、「
古代神の依頼を優先して動く状況がこれからは出てくるかもしれないから、他の人でもできる魔女狩り対策とかはヨハネスさんや他の政務官にもっと任せていこう。
シューベト西海岸までの道路沿いの救荒作物栽培等なら他村に回すリソース増大に繋がるから、ヨハネスさんも喜んで対応してくれるだろう。
バベリア大陸での魔女狩り終結の日に少しずつ近づきつつある中、全然想定していないタスクが出てきてしまったが、神とは言え本気で困って俺を頼ってきたんだ。
アイールディが古代神の後継として立派に巣立っていけるよう微力を尽くすとしよう。
レフガト「良かった、本当に良かった……。ここで彼があの子に悪印象を持ってしまうと、全てが御破産になっていた……」
モレル「こちらの想定を外し続けている彼を見ていると、心配しすぎだ、とは言えないな……」
マリー「流石にそこは大丈夫よ。あの子は素直で優しそうだし、きっとお互いに仲良くなれるわ」
ちなみに本人は無頓着ですが、転生アドリアン君も神族に負けないくらいイケメンです。