チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
……魔女の私は今日も勇士達から隠れながら、霧の森で過ごしている。
以前ほんの少し森の外を覗いた時、森の外で私と目が合ったシンプルな鎧の勇士はそそくさと離れてしまった。
次の日も森の外を覗いたら、強そうなゴテゴテした鎧の勇士が殺気立って
森の霧ガマが人間を食べるから、勇士達は霧の森に全然入りこまない。
でも、やっぱり森の外は危なそう……。
……魔女の私は今日も勇士達から隠れながら、霧の森で過ごしている。
マナを回復してくれる霧の森の葉を拾い、食料となる霧の実を集める。
森を回って魔法調合に使えそうな素材も食料と一緒に回収する。
運よくイノシシに会えたら、殺さない程度にイノシシから肉を取る。
……。
……魔女の私は今日も勇士達から隠れながら、霧の森で過ごしている。
勇士に襲われても身を守れるよう、毎日修練をしている。
体を鍛える時は本を読んで身に着けた剣術の練習に腕立て伏せ・パンチング・ランニングを組み合わせる。
魔力を鍛える時は、魔力の持続化・具体化練習を行う。
魔法図鑑を元に新しい魔法を研究したり、魔法調合の研究を進めることもある。
…………。
……魔女の私は今日も勇士達から隠れながら、霧の森で過ごしている。
お話したいから私に色々なことを教えてくれたおばあちゃんの所に行くけど、おばあちゃんはもう耳が聞こえないみたいで、「腰が痛いのじゃ。もうあたいも歳じゃからねぇ……」としかほとんど話せない。
偶に大事なことを教えてくれたりするけど。
…………寂しいな。
……魔女の私は今日も勇士達から隠れながら、霧の森で過ごしている。
霧ガマをたくさん倒して、おばあちゃんからもらった生命力を溜められる霊石を満杯にする。
集めた生命力を使ってお話できる人形を作ろうとしたけど……失敗した。
音は出せるけど、言葉を話せない。器も小さい。
失敗作という意味で、この人形に「フェイリア」と名付ける。
フェイリアは自分の存在を維持する魔力を吸うために私の頭の上に乗るようになったけど、フェイリアが不完全になったのは自分のせいだから受け入れる。
…………やっぱり寂しいな。
……魔女の私は今日も勇士達から隠れながら、霧の森で過ごしている。
また霊石に生命力を溜め、家の地下にある人形倉庫で「エミリア」に生命力を注いで起動する。
エミリアは言葉を話せない。
でも、戦闘時に呼べば、エミリアは私の傷を治してくれる。
巨大な霧ガマもエミリアと一緒ならやっつけられるし、新しく研究した魔法も使えば、大きな霧ゴーレムにも何とか勝てた。
今なら、弱そうな勇士だったら1人ぐらいは倒せそう。
凄く疲れたので直ぐ家に帰り、日記をつけた後は家のクッションに体を横たえ、眠りに就く。
…………お話できる、友達が欲しいな…………。
……魔女の私は今日も勇士達から隠れながら、霧の森で過ごしている。
今日はイノシシを狩って生命力を集め、肉も貰う。
霧の洞窟の奥、イノシシを追い詰めるも、岩の隙間から逃げてしまった。
隙間の向こうは霧の森の外に通じてそうだから、進むのはちょっと躊躇われる。
でも、できればお肉が欲しい。
意を決して膝立ちになり、下を見ながら隙間に入りこもうとすると……何か硬いものに頭をぶつけてしまった。
「ご、ごめん……」
声がするので正面を向く。
そこには、人間の男の子がいた。
その子は黄色い髪・青い瞳で、そして魔女を探し回っている勇士達とは違う、全然トゲトゲしくない顔だった。
彼は黒いマントと、マントと似たような色合いの服を着ていた。
私はこの子の頭とぶつかってしまったらしい。
「人間……?」
おばあちゃん以外で始めて勇士じゃない人間を見た私は、思わず声を上げていた。
「うん、人間だよ……。ごめんね、ぶつかっちゃって。今、傷薬を塗ってあげるから」
私は魔女だから、人間なのが問題なの……と思うけど、私、なんだか、おかしい。
心配そうにしているこの子の顔を見ていると、胸がドクドクしてくる。
私が頭をぶつけてしまった所にこの子が傷薬を塗っていると、もっと心臓がドクドクする。
「大丈夫?立てそう?」
どうしてこんなに心臓の鼓動がドクンドクンしているんだろう?
……男の子が私に何かしている?
ううん、男の子は勇士達みたいに剣を突き付けている訳じゃない。
私を心配してそうな声をかけて、まるで壊れ物のように私の手を取って立たせようとしているだけなのに。
「どうしたの?」
不思議に思って男の子の顔をじっと見ていると、彼がまた声をかけてくる。
誤魔化すためになんでもないと言っておく。
「とりあえず、初めまして。俺はアドリアンって名前なんだ」
男の子は、「アドリアン」というらしい。
この子に、なんで人間が全然来ない霧の森に入ろうとしたのか聞いてみる。
「俺は探検家で、探し物があるからここを訪れたんだよ」
と答えが返ってきた。何を探しているんだろう……?
疑問を口にしようか考えていると、アドリアンがまた話かけてくる。
「君はシェザール人だよね。俺は、霧の森の近くまで来れたみたいだね」
シェザール……?なんだろう、それ……。
私からは特に聞いてはいないけど、男の子・アドリアンはシェザール人について説明してくれた。
霧の森の外で暮らしている人間は、霧の森で暮らしている人達のことをそう呼んでいるらしい。
「そうだ、君の名前を教えてくれないか?」
アドリアンはそう聞いてくるが……私は名前を持っていない。
この子の質問に答えられない。
「そういえば、シェザール人達は、風習で名前を持たないんだったか……」
そうなんだ。
あ、おばあちゃんも、シェザール人なのかな……。
そんなことを考えていると、アドリアンは私のことを見つめ、ひとつ頷いていた。
どうしたんだろう?
「もしよかったら、俺が名前を君にあげるよ」
彼はまた私の手をそっと取り、優しそうな青い目を私の目と合わせてくる。
ん……。また、心臓がドクンドクンと大きな音を奏で始めてる。
どうして、なんだろう……。
「君のことは、『アイールディ』と呼ぶよ」
「
アイールディ……アイールディ……私の、名前……。
「どうだろう?」と聞いてくるアドリアンの声に、貰った名前を頭の中で反芻していた私は我に返り、彼の言葉に何とか頷いた。
「気に入ってくれるといいけど」って言いながら笑っているアドリアンをじっと見つめていると、「そろそろ夜になっちゃうな……」と彼は言い出した。
「今日はもう帰るけど、たぶん近いうちにこの洞窟や森を探索しに来るよ。それじゃあアイールディ、縁があればまた会おうね!」
そう言ってアドリアンは私に手を振り、岩の隙間から洞窟の外へ出ていった。
……あ、イノシシ、逃がしちゃった。
今度は絶対捕まえる。
今日はもう遅いし、もう家に帰って修練して寝よう。
……そういえば、アドリアンの手。
人形と違って、暖かかったな……。
……これが、始まり。
私の運命の人、私の光であるアドリアンとの、一番最初の出会いだった。