チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
霧の洞窟探検後に起こった事故を受け、俺は数日ほど黒い魔力の浄化剤をさらに作り、シューベト城西海岸までの道方面の工事現場にも浄化剤を配置しておいた。
といっても、上位の勇士が石を触っちゃったら周りの人間が浄化剤をかける余裕は無いだろうけどね。
ホント黒い魔力の石は面倒だよな……。
ただ、面倒程度で済んでるのは研究成果が実ったおかげなのは間違いないからね。
そこは胸を張れるだろう。
ちなみに俺は雑多な用事を更に数日程こなしており、今日の午前中に残務を終わらせたので、午後は霧の森を探検しようと考えている。
ついでにデルカル大陸の黒石窟にも黒い魔力の浄化剤が効くことを念のため確認するつもりだ。
それと、今日は洞窟からじゃなくて、森の北側から入る一応の正規ルートから霧の森を探検してみようと思う。
デルカル大陸の黒石窟は霧の森の最奥にあるが、ミッションリストのマップで位置を確認できるので、方角を誤ることがないのは大きな助けだ。
最悪木々の上に飛び乗ってフレアを呼んで移動すればいいしね。
運が良ければアイールディに会うこともあると思うが……なんでだろう。
霧の森方面をうろつくと、割と高確率であの子に遭遇しそうな気がしてならないんだよな。
全く根拠はないんだけど。
まあ、(多分)あの子の育成補助を依頼されている身だから、都合が良いことでもあるんだが。
いつか俺があの子にとって変人から知人や友達にランクアップしたら、どこで暮らしているのか教えてもらえるといいんだけどね。
恐らくそれはもう少し先のことになるだろう。
それではフレアに乗せてもらって森の入り口まで移動し、霧の森の探検を開始しよう。
ううむ、霧の森というだけあって湿度があるな。
加えて気温も低い。
それに魔物の気配がそこかしこにあるから、今更森の魔物にどうこうされる可能性は低いとはいえ、奇襲には一応気を付けないと。
訓練用の剣で遭遇する魔物をサクサク倒しながら俺は森の探検を進めていく。
人間を食べるため、森で人間が命を落とす主要因でもある霧ガマはやはり遭遇率が高い。
倒すと魔力を含んだ水玉を落とすが……あんまり使い道はないな。
他には自然発生した土のゴーレムもいたか。
こちらは倒すとこの世界の魔法陣を刻める石板が手に入るな。
神族の皆と雑談したり摸擬戦を見学させてもらう際に見せてもらった魔法陣の形は覚えているから、秘密基地でこの世界の魔法を使って遊ぶのにちょうどいいかもしれない。
後、巨木がモンスター化したような大きな木霊も森の奥まった場所にいたが、こいつも手加減した一撃で撃破する。
この木霊は木の破片を落としたな。
木の破片は生命力に溢れており、恐らく材質的にアイールディの使っていた杖兼用の剣にも使われているようだ。
この木の破片と洞窟の植物が落とした種で体力増強用に煎じ薬を作ってみるのもいいかもしれないな……。
そんなことを考えつつ、そこまで生命力は籠っていないようだが近くの木霊の枝も一応回収する。
また、森を歩き回りながら落ちている素材も拾い集めているが、毒キノコ、食用の木の実、魔力を回復できそうな葉と、病気の治療に使えそうなものはなかった。
むう、やはりそう都合よく生命力を補充できそうな物がごろごろ見つかることはないか。
一番良かったのは木霊の落とした木の破片という所かな。
よし、一旦一区切りとして、次は浄化実験のために黒石窟を目指そう。
獣道に近いが、ある程度踏み固めた道を通って黒石窟のあるエリアまで来れた。
探検家資格取得で学んだことはこういう時のルート選定にも役立っている。
やっぱり知識は大切だなと実感しながらも魔物を撃破しながら進んでいく。
このエリアは針を通して電撃を放つ巨大蜂が多くいたが、刺される前に剣で両断する。
蜂からは電気を帯びた針を剥ぎ取れたが、こちらもすぐには使い道が思いつかない。
それでも一応鞄に放り込んでおく。
さて、そうこうしているうちに暗いオーラを放つ洞窟・黒石窟に辿り着いた。
黒い魔力に汚染された洞窟の入り口で、浄化剤の効果を試そうと鞄から浄化剤を取り出した所、北から誰かが歩いてくる。
「あ、アドリアン」
近づいてきた人はアイールディだった。
本当に遭遇率が高いな。
俺が挨拶をすると、アイールディは小走りで近づいてきた。
「……何しに来たの?」
そう聞いてくるので、前と同じく母親の病気を治せるものを探すのに加え、一番黒い魔力が濃い黒石窟に黒い魔力の浄化剤が効くことを確かめに来たことを彼女に教えてあげた。
「浄化剤……アドリアンも、調合するの?」
ちょっと処理をした鉱石の粉をレフガトの泉を源泉とする水に溶かしこむ程度だけどねとアイールディの質問に返し、実際に浄化できるかを洞窟に振りかけて確認する。
果たしてバベリア大陸の黒石窟と同様に、浄化剤のかかった所は一瞬でただの岩壁に変わった。
よし、こちらの黒石窟でも問題なく浄化剤は効果を発揮しているな。
しかし、この子大丈夫か?
俺が言えることじゃないかもしれないが、「アドリアン
「あ、本当に浄化された。でも、その浄化剤だと、ただの岩になっちゃうんだね」
アイールディの言葉に頷きつつ、その代わり、人間を汚染する黒い力ごと浄化できるから安全性が高いことも教えてあげる。
そういえば、アイールディは何をしてたんだろう。
「私は……おばあちゃんに教えてもらった物を作るために、湧き水を取ろうとしてた」
アイールディの話によると、ここから南側にある泉の湧き水を採取する予定だったそうだ。
なんでも、その泉の湧き水も浄化効果があるらしい。
ふむ、そうなると、その泉はレフガトの泉を源泉としてそうだな。
それに、アイールディのいうおばあちゃんってどんな人なんだろう。
シェザール人なのかな……?
「おばあちゃんのこと?私に色々なことを教えてくれた人。今ではもう、全然耳が聞こえなくて、大体おんなじ言葉しか話さなくなってる」
あっちゃあ……。
これが、古代神達が俺にエマージェンシーコールを出した理由か。
アイールディの教育を担当する人が老衰で仕事できなくなっちゃったんだね……。
……これ、今更だけど、割と責任重大では?
と、とりあえず情緒面に加えて知識面、後はこれから関わっていくだろう人間についてもか、とにかく色々教えないといけないかもしれない。
ただ、一番気になる情緒面についてはすぐに育つものではないから、色々経験してもらってそこから学びとってもらう感じになるか。
それと、特に人間については都合のいい所だけじゃなく、人間の良くない所もちゃんと伝えるようにしないと、「偏った教育をするんじゃない」って古代神に怒られるな。
……どこかでタイミングを見て、アイールディと最低でも1週間は一緒に行動できるよう予定を調整しようか。
その中で事前に幾つかイベントを用意して知見を深めてもらおう。
然程凄いことは出来ないと思うけどね。
勿論この子が俺と一緒に森の外で行動してもいいと思ってもらえるようになってからだが。
まあ将来の話はいい。
頭の中にて超高速で書きだしたタスクを胸の中に秘めつつ、今気になる湧き水の所に一緒に行ってもよいかアイールディに聞いてみると、彼女は頷いてくれたので同行させてもらう。
アイールディとお話をしながら森の泉へ進むが、大きなゴーレムが泉への道を塞いでいたので、二人で協力して戦闘をする。
アイールディに向かう攻撃をいなしてゴーレムに隙を作り、そこを彼女に攻撃させることで無事ゴーレムを無傷で撃破した。
泉の湧き水を採取すると、確かに魔力を含んでいる。
浄化の力がレフガトの泉の水筋からとった水より心なしか強いように思えるので、
こちらの水で浄化剤を作ればより効果を上げられるかもしれないな。
ただ、ここまで採取に来るのが手間か。
それに今なら秘密基地で加護の魔力を使えば魔力水を作れちゃうからね。
とりあえず、湧き水の所まで案内してくれたアイールディにお礼を伝える。
俺の事情はともかく、森の中でも貴重な効果のある湧き水だろうから、何かお礼にあげられるといいんだけど。
ああ、手持ちの食材でおやつでもご馳走してあげればいいか。
今日はこの前のココアの他に、探検中の間食用に大き目のマシュマロとビスケットを持ってきているし。
でも、この森で焚火を焚いて大丈夫かな……。
「火がいるの?………………私の家でも、火を焚いているよ。来る?」
あれ、いいの?
彼女からすれば、俺は数回会った程度の怪しい探検家に過ぎないと思うんだけど……。
でも、「アドリアンなら別にいい」って言ってくれてるし、お言葉に甘えようか。
……この子の危機管理が若干心配になってきたけどね。
アイールディに連れられ、遠目に彼女の家が見える場所まで移動した後、「準備するからちょっと待ってて」というアイールディの言葉に従い、そのまま待つ。
あの警報装置の人形があるから、人形を外すか俺を対象外に設定するかしないといけないだろうしね。
待つこと十数分、戻ってきたアイールディの案内の元、俺は彼女の家に上がらせてもらった。
彼女の家は木造建築で、地下室もあるようだ。
デンと部屋の中央に蓋を被せた大きな窯が置いてあるが、窯の真下に空間移動の魔法陣の魔力を感じるから、魔法陣を隠しているのだろう。
閉じられた大きな本が部屋の奥にあるが、あれは魔法図鑑か。パディさんの家で見たことがある。
部屋の隅にあるウサギのぬいぐるみは……恐らく衝撃を吸収する素材を詰めてあるから、体を鍛えるためのトレーニング用具だな。
あと特に気になることとして……窯用に火を焚いているとはいえ、家の中がかなり冷えていると思う。
寝床もクッションしかないみたいだし、今度この子の家を訪ねる時に羽毛布団と羽毛枕でも持ってこよう。
軽く家を見回してそこまで思考した後、アイールディに断りを入れてシートを敷かせてもらい、まずはお湯を沸かしてこの前持ってきたココアを用意し、続けてマシュマロとビスケットを持ってきた皿に出していく。
そしてマシュマロを焼く用の串を複数本取り出せば準備完了だ。
ココアを出した所で目を輝かせていたし、おやつとしての食べ物のチョイスも誤っていないはず。
シートの上に二人で並んで座り、串に刺したマシュマロを焼きつつ、マシュマロの焼き方・食べ方を教えてあげる。
焼きマシュマロはそのまま食べてもココアにつけてもビスケットに挟んでも美味しいからね。
きっとアイールディも気に入ってくれるだろう。
……うんやっぱりだ。目をキラキラさせてる。
これが湧き水のお礼になれば何よりだ。
そうそう、せっかくの貴重な機会だし、マシュマロを焼きながらこの子に森の外について教えてあげようか。
今日は無理かもしれないけど、また同じような機会があったらマニル島やバベリア大陸のことを話してみてもいいかもね。
こうして俺はアイールディと一緒におやつを楽しみつつ、ココアのおかわりを彼女のコップに淹れながら、彼女に森の外の世界について俺の経験談を交えながら時間の許す限り教えてあげた。
会話の際、あの子は反応が薄かったけど、ちゃんと聞いてはくれたから良しとする。
押し付けがましくなってないといいんだけどね。
そして、母上の病気を治療するための素材探索以外で時間ができたら、またアイールディを訪ねに行くことを約束し、アイールディとお別れするのだった。
帰宅した後、木霊の破片と洞窟で採取した植物の種をそれぞれすり潰して混ぜ、蜂蜜で味を調え煎じ薬にして自分で毒見をしてみた。
結果は木片を使っている割には意外と口にしやすく、体の感覚からして体力増強にも良さそうだった。
お腹を壊すこともなかったので、この煎じ薬はエステル母上にも提供してみた。
母上は笑顔で飲んでくれたが、これでちょっとでも元気になってくれるといいんだけどな……。
モレル「……やはり彼は我々の企図を誤解している所もあるようだな」
レフガト「結果的にはこちらの想定に近い動きにはなっているのだから、一旦は見守ろうか」
マリー「順調に仲良くなっているみたいで良いことなのだけど、この誤解のせいでズレが出そうな気もするのよね……」