チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
浄化剤作成がひと段落して自宅に戻り、執事のグレイソンさんに母上のことを聞いてみると、母上は打ち合わせが終わった後になるが、疲労が溜まって体調を崩してしまい、自室で横になっていると教えてもらえた。
母上のお見舞いをするとグレイソンさんに伝え、俺は母上の部屋に入る。
手近な椅子に腰かけつつ、ベッドに寝入っている母の顔色を見ると、やはり体調を崩すようになる前よりも不健康な白さが目立っていると思う。
以前俺が贈ったブレスレットが与えてくれる活力のおかげで病は母上の命には届いていないが……。
俺は母上を治療するため、アイールディから受け取った霊石を母上の手に握らせるが……何も起きない。
そういえば、霊石の使い方をアイールディに聞いてなかったな……。
いかん、凄い凡ミスをしてしまっている。
不完全な浄化をした元黒い魔力の石のように砕いて使うのは、替えがない以上駄目だろう。
どうしようか、一旦今日は引き下がって明日にでもアイールディに使い方を聞きに「……アドリアン」……え、アイールディの声!?
うんうん悩んでいる時に後ろから聞き覚えのある声を掛けられ、振り向くと確かにアイールディがそこにいた。
ここ人間の町だよ!?シューベトでは魔女狩りが抑えられているからまず狙われないとはいえ、どうしてここまで来たの!?
動揺を抑えながらアイールディに尋ねた所、「心配だったから……来たの」と言っていた。
それだけのために……?
この子は、本当に優しい子なんだな……。
来てくれたことに感謝を述べつつ、まずはアイールディが初めて目にする俺の母、エステル母上の病状について説明していくが……その説明の中、アイールディが魔力を練って霊石に注ぎ込むのを確認した。
そうか、霊石の起動には魔力を注ぐ必要があったのか……。
だからこの子は危険を冒してでも来てくれたんだね……本当にありがとう……。
内心でアイールディに感謝を述べているうちに霊石による治療が終わり、起き上がった母上の血色は完全に復調していた。
胸がいっぱいになり、病み上がりなのに起き上がった母上をつい抱きしめてしまった。
思わず力が入ってしまい、
母上もニコニコしながら首元から取れてしまった白いクリスタルのアクセサリーを近くの机に置いてから抱き返してくれたけどね。
ただ、こうして間近で母上と触れ合うことで気づいたが、母上の体にはかなり古いが治癒の魔法をかけられた形跡があるようだ。
俺が幼少の時、もしかしたら王宮の医者や薬師達の中に神族から魔力を受け取った人がいたのかな……?
まあ今は改めて、エステル母上にアイールディを紹介しないといけないか。
「体が、本当に軽いわ……。あなたが私を助けてくれたのね。どうもありがとう。私はエステル、アドリアンの母親よ。あなたのお名前を聞いてもいいかしら?」
母上がアイールディに問いかける。
アイールディは少し逡巡しているので、俺は「あの名前、君が嫌なら無理に使わなくてもいい」と小声で一応言っておく。
今更だけど、好みに合わない名前だったら本当に申し訳ない……。
「……アイールディ」
「あら、とても素敵なお名前ね」
アイールディは名乗ってくれたし、母上の感性からしても悪くないチョイスだったようだ。
内心ホッとする。
「ねえ、アドリアン。エステルの病気、いつからだった?」
母上が患っていた病気の時期についてアイールディが質問してきたので、「生死の境を彷徨うほどに悪化したのが10年前、また調子を崩し始めたのはまだ3か月も経っていない」と回答する。
アイールディ、ちょっとだけ何事か考えてたけど、どうしたんだろうな。
その後も3人で少し歓談していると、何とリーガル父上も母上の部屋に顔を出した。
多分、母上が調子を崩したと執事さんか勇士の誰かから連絡を受けたので顔を出したのだろう。
だが、父上は机に置かれた鎖の切れている白いクリスタルのアクセサリーと母上の顔を交互に見てから、
「エ、エステル、今、体調は大丈夫なのか!?」
と、妙に慌てた様子で母上の身体の調子を聞いてきた。
「ええ、これまでで、一番体調が良いわ。躍り出せるぐらいよ、リーガル」
しっかりと血の通った顔で母上は朗らかに父上に答えている。
「そ、そうか。………………そのアクセサリーはこちらで修理を頼んでおこうと思うが、エステル、構わないか?」
「……?ええ、大丈夫よ」
「ありがとう。修理が終わったら、改めて君に贈らせてくれ」
「……こちらこそ、ありがとうリーガル」
……?少し、不思議なやり取りだ。
父上は厳しい顔で考え込んでから修理を申し出ていたが、後半の会話では父上と母上はどちらもとても優しい表情をしている。
……そうだ、あの白いクリスタルについて思い出した。
確かアンシエントドラゴンの襲撃時、俺が城に避難していた時にあのクリスタルを母上に見せてもらった。
治癒効果を持つという父上からの贈り物だったはずだ。
つまり、2人にとってクリスタルは互いを想い合う証でもあるんだな……闇取引の末、手に入れた物である可能性が高いけどね。
父上は慎重な手つきで白いクリスタルを懐に入れているが……なぜだろう。
あのクリスタルを見ていた時、どうも心が騒めいた。
異世界技能を磨いたことにより鋭敏になった第六感が、「あれはここにあってはいけない物、持っていてはいけない物だ」と訴えているような気がする。
……あのクリスタルのことはちゃんと覚えておこう。
2人の思い出の品だからまだ強行手段には出るつもりはないが、ガチで危険物の場合は壊すなり封印処理なりをしないといけないかもしれない。
おっと、父上がアイールディに気が付いた。
俺は霧の森で新しく友達になった子であると彼女を父上に紹介する。
これで父上には意味が伝わるだろう。
「なるほど。君が、エステルを……。礼を言わせてもらおう。私はリーガル。知っているかもしれないが、ここシューベトの領主で、アドリアンの父でもある。新しいアドリアンの友人ということだが、名前を教えてくれるか?」
「アイールディ」
「そうか……ではアイールディ君。改めて、君に感謝を。……ふむ、エステルの治療に尽力してくれたのであれば、何か礼になる物を渡せると良いのだが……」
父上も自己紹介をしつつアイールディに感謝を伝えるが、彼女へのお返しについて悩んでいるようだ。
……貴重品ではあるが、我が家の家宝を一つ渡すのはどうだろう。
家の家宝は3つあり、その内、名剣シューベターは俺が所持している。
残り2つの家宝……古代神レフガトが使用したという「レフガトの杖」、古代神の祭事に使用され、剣としても強力な「聖剣アルメダーク」はどちらも神族が使用することでその真価を発揮できる武器だ。
この場で言いはしないが、神族であるアイールディならどちらの武器でも使いこなせるだろう。(今なら俺も加護を通して力を引き出せると思うけど)
そんな思いも込めて父上に提案してみる。
「ああ、我が家の家宝か……確かに、その価値はあるか。だが、あれは元はエステルの家に伝わるものだ。エステル、彼女に渡しても問題ないか?」
「ええ、勿論。私もお礼として申し分ないと思うわ」
「では、決まりだな。保管庫に家宝の剣と杖があるので、どちらか好きな方を持っていきなさい」
良かった。父上と母上に了承してもらえたか。
父上は古代神の後継からのヘイトを受けないようにする打算もあるかもしれないけどね。
「私、宝物に興味ないけど」
アイールディが無表情に言うが、母上の難病を治療してくれた対価としてあれらの家宝は間違いなく相応しいし、今後厳しい試練があるかもしれない彼女に良い装備はあって然るべきだろう。
だが、彼女を説得して保管庫へ案内しようとする前に、父上は恐らくアイールディにも聞かせる意図で、城で言っていた注意を再度口にした。
「アドリアン。もう言ったはずだが、今日は教皇がシューベトを訪ねる日だ。不愉快ではあるが、私は彼の対応をしなければならないので、この家はこれから慌しくなる。……君はどちらの家宝を受け取るか選んでからで良いが、今日は早めに帰るようにしなさい」
忠告をアイールディに残し、父上は足早に母上の部屋から去っていった。
「バタバタしてしまってごめんなさい。アドリアン、アイールディちゃんを家宝の部屋に連れていってあげてね」
「でも……」
母上が俺とアイールディを促すが、まだこの子はちょっと遠慮しているみたいだね。
きっと似合うとアイールディに伝え、この子の手を取り家宝の保管庫に案内する。
保管庫で改めて家宝の説明をし、アイールディに選んでもらおうとしたが、彼女はレフガトの杖と聖剣アルメダーク、どちらを持っていくか迷っていた。
最終的には俺が個人的な意見として伝えた「アイールディは剣術が優れているから、剣の方が合っているかもしれない」という言葉を受け入れたのか、アイールディは聖剣アルメダークを手に取った。
家宝の受け渡しが終わったので、セルビス氏と鉢合わせしないよう保管庫から町へ出られる隠し通路を開き、アイールディを家の外へ案内する。
ついでにシューベト町の正門・東門のどちらも通る事なく町に出入りできる箇所が町の北東部にあるので、その秘密の出入り口までアイールディを連れていく。
これでアイールディが何か緊急の要件でこちらに接触したい時は、この出入口と家に繋がる隠し通路を使えばこっそり来れるだろう。
まあ俺の家については門衛の人達にアイールディが来たら通すよう言っておくから、隠し通路は使わなくても大丈夫そうかな。
「……アドリアンは、エステルの病気が治ったから、もう探検はしないの?」
アイールディがそう聞いてくる。
ああ、目的の物を手に入れた以上、もう探検する必要はないのではって思ってるのか。
でも、魔女狩り対策の言い訳作りに使う素材採取はまだしばらく続けるし、黒石窟を始めとした各地の黒い魔力の石の浄化活動も当然行っていく。
シューベト以外の村や神族の皆の状況確認でも動く上、古代神の依頼であるアイールディの育成補助もある。
領主の息子としての勉強も十分すぎるほど先行して進めているし、浄化剤作成を除けば室内に籠る日の方が少ないかもしれないね。
まだまだ、家の外でやることがあるから探検は続けるし、アイールディの家もまた訪ねたい旨を彼女に伝えると、アイールディは心なしかホッとしているようだった。
勘違いでなければ、アイールディは俺と会えないことを惜しんでくれているからこんな質問をしたんだと思う。
母上の恩人でもあるこの子からも友達と思ってもらえているのなら嬉しい限りだ。
……正門前の方が騒がしくなってきた。
とうとうセルビス氏が来てしまったようだ。
「大陸の平和のための巡礼なのですが、迎え入れる声が少ない……聊か信心が足りないようですね。嘆かわしいことです」
「そのように悲しまれる必要はないでしょう。真に敬すべき相手であれば、民もその人物の振る舞いを見て自然と敬いましょうぞ」
転生特典により強化されている聴力を駆使すれば、セルビス氏と父上が嫌味を言い合っているのがここからでも聞こえる。
多分、アイールディにも聞こえているんだろうな。
しかも父上、ずっと前に俺がフレアに教えてあげたことを使って、遠回しにセルビス氏は尊敬に値しない奴だって言ってるよ……。
いや、二人のやり取りは置いておいていい。
こちらを察知されると面倒だし、アイールディを早く町から出してあげないと。
アイールディにセルビス氏が来たので一旦帰るよう伝えるも……。
「町に邪悪な魔女の匂いが漂っていますね……」
いけない。セルビス氏の魔法で魔力探知された。
アイールディも彼の声が聞こえたか、あるいは探知されたことに気づいたようだ。
「バイバイ」
そう言い残して彼女はダッシュで秘密の出入り口に向かい、町を出ていったのだから。
何とかアイールディの脱出を援護したいが、俺はセルビス氏や彼の配下と今日は顔を合わせないようにしないといけない。
……そうだ、巡回中のフレアにお願いをするか。
俺はフレアとの心の繋がりを通して、町の北東部から逃げたアイールディの脱出を援護するようフレアに頼んだ。
(分かった。では、あの子の進行方向に先回りしよう。逃げてきた魔女を不審者として灰も残らず焼き殺したという体を取り、彼女に近づいた勇士を追い払おうと思うが、それでよいか?)
(その案で大丈夫だけど、アイールディのことを見つけられる?)
(問題ないさ。秘密基地で数えきれないほど見ているレフガトの加護と同じ波長の魔力を探せば良いのだからな。まあそこまでせずとも、私は視力が良いので遠くの木々の隙間でも見ることができる。安心して任せてくれ)
(分かった。フレア、頼むよ)
フレアに任せた以上、後は信じて待つだけだ。
俺は教皇とその配下に捕捉されないよう、人目を避けつつシューベト城に退避しておくことにした。
しばらくして、アイールディを無事勇士達から逃がすことができたという連絡をフレアから受け取り、俺は心底ホッとした。
あと、アイールディが教皇の配下に存在を認識されたっていうことは……徐々に状況が動いていく可能性が高いな。
それに教皇城決戦の日……すなわち、魔女狩り終了のXデーがかなり近づいてきている。
……そろそろ、デルカル大陸の教皇派勇士達、そしてジーヴ村西の勇士キャンプ奥にある教皇派拠点を片付ける算段を練り始めないといけないかもしれないな。
足がかりとして、教皇派拠点に忍び込むなりわざと捕まった体で潜り込むなりしてもいいかもしれない。
これまで転生特典で入手したアイテムや異世界技能があれば、どちらの案で侵入しても内部調査は余裕で実行可能だろう。
ただ、拠点に入り込んだ後は俺が拠点内の調査に掛かり切りになるから、時間拘束が厳しくなる可能性が高い。
この案を実行するなら、より優先度の高いアイールディの育成補助用に一度まとまった時間を取った後にするべきだな。
まずは前段の準備として、
なるべくこちら側の人的被害が少ない流れに持っていけるといいんだけどね……。
幸運「これで治療に余計な物もパージ完了だよ」