チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
魔女の私は今日も勇士達から隠れながら過ごしている。
アドリアンと遊んだ日の翌日、私は黒石窟で黒い魔力の石を集め、霧の森の湧き水と合わせて魔法調合を行い、自分の霊石を大きくした。
これで私の家の地下にある人形倉庫で、エミリアよりもっと大型の人形を目覚めさせることができる。
そして、余った材料を使ってアドリアンにお礼をするための霊石も無事用意できた。
後はアドリアンが霧の森に来た時に霊石を渡せばいい。
調合がひと段落した後、私は以前シューベロードで知り合った元シューベト勇士のおじさんを訪ね、しばらくの間おじさんに訓練を付けてもらっていた。
おじさんは戦闘の立ち回り・道具の使い方・身の隠し方など、生き残るための技能を私に丁寧に教えてくれた。
おじさんが昔使っていた道具用ポケットもくれたけど、何で私にここまで親切にしてくれるのか気になったので、理由を聞いてみる。
すると、昔おじさんには神族の兄がいたけど、魔女狩りがデルカル大陸でも起こったことで処刑されてしまったっておじさんは教えてくれた。
おじさんが仕えていた領主も魔女狩りを防ぐために頑張っていたけど、教皇に従っている勇士が見張っていて、おじさんのお兄さんを逃がせなかったらしい。
自分も軍属の身分があり、兄を救うために動けなかった後悔を拭いたいから私に親切にしてくれたんだって。
……おじさんが私に親身になってくれた理由は分かったけど、領主が本当は魔女狩りを嫌がっているってことは、シューベトの領主は魔女が嫌いじゃないのかな……?
訓練がひと段落して家に帰る前、魔女や魔女狩りのことを領主はどう思っているのかおじさんに質問してみると、こんな風に答えてくれた。
「私が領主様の内心を推測するのは失礼ではあるが……領主様自身は魔女と呼ばれる君達が好きでも嫌いでもないだろうな。加えて、生存に難い環境であるデルカル大陸の土地を治めるには優先して取り組むべき課題がいくつもある。領内で暮らす人々の利益へ直接繋がらない魔女狩りに人手や時間を割きたくない、という所が近いのではないかな。……私の口からは言いにくいが、事情が事情なので、領主様の個人的な理由も多分に含まれているとも思うが……」
もしかしたら、何人かの勇士達が私を見つけても無視していたのはそのせいかもしれない。
でも、魔女の私にとっては、勇士に狙われる確率が落ちる分には何も問題ない。
おじさんと同じ服や紋章を身につけている勇士はそんなに魔女狩りに積極的じゃないってことは覚えておこう。
……それじゃ、おじさんも帰っちゃったし、今日は私も家に帰ろう。
でも、おじさんが教えてくれなかった、シューベトの領主が魔女狩りに協力したがらない個人的な理由って何だろうね。
おじさんの訓練がひと段落して何日かしたある日、私はおじさんの教えてくれたことを盛り込んで修練を済ませた後、アドリアンがまた来てくれないかなって思いながらも霧の森に散策へ出た。
今日は霧の洞窟方面に足を向けてみたが、丁度霧の洞窟の方から人間の足音が近づいてきている。それも複数。
身構えつつ相手を確認しようとしたが、先頭の人物が視界に入ると私の警戒心は霧散した。
近づいてきた人は、私が会いたかったアドリアンだったからだ。
あ、アドリアンもこちらに気づいて挨拶をしてくれた。
……でも、一緒にいる小柄な男の子と長い黒髪の女性は誰なんだろう。
洞窟の地下で盗掘でもしにきたのかな?
アドリアンが私のことを仲良くなったシェザール人としてこの人達に紹介しているのは、都合がいいから訂正しないけど。
「いやいや、どっちも盗賊じゃないから。こちらの方はバベリア王宮の特使であるヨハネスさん。霧の洞窟地下にあった泉の根幹部を調査に来たんだ。こちらの傭兵ベリータさんと俺はヨハネスさんの護衛だよ」
盗賊じゃないんだ。
でも、泉の魔物は強そうだったから、またあの場所に行くなら気をつけてほしいけど……。
いや、今はそれよりも、アドリアンに霊石をあげないと。
私はアドリアンのために準備した霊石を彼に手渡した。
ヨハネスって言う眼鏡をかけた男の子が霊石について知っていたみたいで、アドリアンに石のことを説明している。
でも、彼にどこで霊石を手に入れたかを聞かれてしまったので、泉の地下で拾ったと答えておく。
私が作ったって言ってしまうと、多分魔女だとバレてしまうだろうから。
「アイールディ、ありがとう、本当にありがとう。凄い貴重品だろうに……」
アドリアンが私の手を握ってお礼を伝えてくる。
……彼に手を握られた時、胸がきゅっとして、何だか変な感じだった。
「この石のお礼として充分かは分からないけど、これをあげるよ。お守りとして作られたもので持っているだけでも大丈夫だけど、アクセサリーとしても使えるから気に入ったら身につけてみてね」
そう言ってアドリアンは綺麗な網紐のリングを私に渡してきた。
霊石は前に私のことを泉の地下で助けてくれたお礼だから気にしないでいいのに。
アドリアン達はアドリアンのお母さんを霊石で治療するため、シューベトに帰っていった。
アドリアンから貰った網紐のリングをどうするかちょっと考えたが、とりあえず左手に付けておく。
……あ!霊石を渡したのはいいけど、霊石を起動するには魔力が必要だった!
このままだと、アドリアンのお母さんを治療出来ない!
……シューベトに行って、私が霊石を起動してあげないと。
人間の町に行くのは危険かもしれないけど、おじさんの話では、シューベトの領主自身は魔女狩りに積極的じゃないみたいだからまだマシだ。
治療が終わったらすぐ帰れば大丈夫……だと思う。
私は森を出る決心を固め、アドリアンの暮らしているシューベトに向けて出発した。
おじさんの装備とは違う服を着た勇士達が目をギラギラさせて私に襲いかかってきたけど、その都度気絶させながら進む。
魔力探知機っていう装備を持っている勇士は私が魔女だと気づくから凄く厄介。
とりあえずシューベト町付近までは来れたけど、まだ町に入っていないのに人間の声で何だか騒がしかった。
声がする方を見ると、馬車を引いている男の人が、粗末な剣や斧で装備した集団に襲われそうになっていた。
皆強そうな勇士には見えないし、馬車に乗っている人がアドリアンの名前を言っていたので、私は馬車引きさんを助けてあげた。
「助かったよ。君のおかげでシューベトの領主に納める作物や生育記録は無事だ。しかし、こんな人里近くに神族が来るなんて……」
馬車引きさんに話を聞いてみると、アドリアンが見つけた荒地で育つ作物をリアート村で使うための条件として、シューベトの領主に指定されているものを盗られそうになってたらしい。
そういえば、この人も私のこと、魔女って呼ばないんだね。
「魔女狩り?あんなもの、バベリア大陸の教皇が勝手にやってることだ。そんなお遊びに付き合うぐらいなら、アドリアン様が提供してくれた作物を少しでも多く収穫できるよう試行錯誤する方がずっと大事だよ……。シューベトの領主や勇士達だって、教皇の手の者がいなければ魔女狩りなんてまるっきりやる気がないし……」
「……貴方みたいな人間に会えて良かった」
私は思わずそんな言葉を口にしていた。
それにおじさんの言った通り、やっぱりシューベトの領主や勇士達は魔女狩りを進んでやろうとはしてないみたい。
……魔女の私は生まれながらに人間に嫌われているって思ってたけど、もしかしたら……。
でも、まずはシューベトに行かないと。
きっとアドリアンはお母さんを治療できなくて困ってる。
「……事情があって、どうしてもシューベトの町に入らないといけないのなら、俺の馬車にある荷物の中に隠れておくといい。さっきの連中みたいな勇士崩れや、許可証を持たない外部の勇士が町に入らないようシューベトの入り口では検問を敷いている。警備の勇士に顔馴染みがいないのであれば、確実に止められるだろうからな」
私がシューベトに行くことを聞いた馬車引きさんは始めは止めようとしていたが、引く様子のない私を見て、そんな申し出をしてくれた。
どうしようかちょっと迷ったけど、結局私は馬車引きさんの提案に乗り、誰にも咎められることなくシューベトに入り込むことができた。
「さあ、着いたぞ。だが、本当に大丈夫か?教皇派の連中が来てしまった場合は、流石にシューベトの勇士達も動くことになってしまうぞ?」
「うん。友達が待ってる。助けたいの」
「……そうか。なら、もうこれ以上は言わない。どうか気をつけてくれ」
馬車引きさんが去っていった後、改めて周りを見渡す。
どっちを向いても人間が居て変な気分。
でも、何とかしてアドリアンの家を見つけないといけない。
まずは一番広い通りを進んでみよう。
「よし、予定した真水作りのノルマは終わりっと……」
「今日のおやつはブルーベリーを使ってパイを焼きましょうか」
「西海岸の工事に使うシャベルが規定数できた。城に納品してきてくれ!」
「一昨日フレアに少しだけ背中に乗せてもらえたんだ〜」
……どうしよう。
人間達の口から色々話は聞こえてくるけど、アドリアンが住んでる家の場所を話している人はいない……。
次はどっちを探そうか周りをグルグル見ながら悩んでいると、誰かが私の背中をちょんちょんつついてくる。
「ねえ、お姉ちゃん、道に迷ってるの?」
「綺麗な姉ちゃんだね。商家のお嬢様?」
振り返ると、私より年下だろう女の子と男の子がいた。
「うん、町は、初めてで……」
思わず道が分からないことを正直に答えてしまったけど、どうやらこの場ではそれで正解だったようだ。
「おお、箱入りってことなんだ……」
「良かったら、案内してあげるわ。自分に余裕がある時は困ってる人を助けてあげるってフレアと約束してるし」
「……お願い」
自分だけで辿り着けるか分からなかったので、素直にこの子達の言葉に甘えることにする。
アドリアンの家に行きたいって話したら、「本当にシューベトの町は初めてなんだね~」って言われちゃったけど……もしかして、アドリアンの家、凄く目立つのかな?
「昨日いたずらでシューベトの壁に落書きしてたらフレアに見つかって怒られちゃったんだ。凄い迫力で怖かったよ~」
「あんたね……そんなことすれば勇士の人も怒るでしょ。ちゃんと謝って落書き消したの?」
「うん。でも、目いっぱい背伸びして書いた所は僕だけだと消せなかったから、フレアの手に乗せてもらって消したんだ」
この子達のおしゃべりを聞きながら歩いているが、さっき町でも別の子が言ってた「フレア」って誰だろう?
手に乗るって言っているぐらいだから、物凄く体が大きい人間なのかな?
ちょっと聞いてみよう。
「フレアが誰って?あ、そっか。家の中にずっといるんじゃ会う訳ないよね。」
「シューベト正門前にある橋、ドラゴンテールの隣に住んでいる赤いドラゴンのことだよ。フレアが寝床に帰ってきた時とかに会えると、僕達を背中に乗せて飛んでくれることもあるんだ!」
え……。じゃあそのフレアっていうのが、多分おじさんが言っていたアドリアンと仲良しのドラゴンなんだ。
こんな人里近くに住んで、町の子ども達にも受け入れられているドラゴンもいるんだね。
「お顔は厳ついけど、アドリアン様みたいに優しいドラゴンよ。でも、人を襲う魔物とか、シューベトの外から来て乱暴したりする勇士にはすっごく怖くなるって聞いてるけどね」
「魔物は炎のブレスで燃やして倒すし、乱暴者の勇士は爪にひっかけて遠くに放り投げちゃうんだってさ!」
ドラゴンのフレアについて教えてもらっていると、そのうち案内してくれた二人が立ち止まり、目的の場所近くまで着いたことを教えてくれた。
「後はこの道をまっすぐ行けばアドリアン様の家に行けるよ!」
「それじゃあお姉ちゃん、今度は迷わないようにね!」
「うん、ありがとう」
私のお礼に2人は笑顔で「どういたしまして!」と返し、走り去っていった。
……それじゃ、アドリアンの家に行ってみよう。
原作でも大事なフラグ
困っている馬車引きを助けてあげる