チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
俺はアイールディの家から自宅に帰った後、父上と母上にアイールディが明日晩餐へ来ることに加え、彼女から魔女として追われていることについて相談を受けた旨を伝えた。
そこで(多分)古代神の依頼となるアイールディの育成補助と合わせて、改めて彼女のサポートすることを二人に了承して貰っている。
ただ、アイールディが神族であることをヨハネスさんが気付き、彼が明日の晩餐に同席することを希望していると母上から話があった。
父上と母上は既に同席させて構わないと判断しているそうだが、ヨハネスさんは神族を尊敬している人だし、アイールディをどうこうするということはまずないと思い、俺も了承した。
晩餐の調整を済ませた後、情報収集を開始したベリータさんやデルカル大陸支援隊から届いた報告書を読ませてもらったが、リアート砂漠付近で教皇派勇士が多数の魔物の死体を持ち帰っている所を目撃されている点が気にかかる。
汚染された魔物がデルカル大陸内で発見されていることから、教皇派の連中は持ち帰った死体を黒い魔力の石で汚染しているか、良からぬ実験に使っている気がしてならない。
何か仕掛けてくるかもしれない、ということは念頭に置いておこう。
加えて、教皇派の勇士で特に酷い奴らはリアート村で物資の収奪活動もしてるみたいだし……。
多分、ジーヴ村は
俺や巡回の勇士が収奪活動を見つけた時は追い払えるけど、リアート村の環境上、こちらの勇士を長期で駐屯させるのはまだ難しいからなぁ……。
アイールディを俺の家に迎えに行く今日、有言実行ということで、俺は昨日までにまだ追い払いきれなかった不法侵入している教皇派勇士や勇士崩れを皆と協力して領内から追い出した。
教皇派の勇士を領内から0にすることは不可能だけど、神族の皆が多数の勇士から一度に狙われる可能性も下げられるから決して無駄にはならない。
キリがいい所で作業を中断し、アイールディを迎えに行くため、霧の森へフレアに乗って移動する。
無事に森の入り口付近に着いたんだけど……。
……ねえフレア、森の入り口を出たり入ったりしている女の子って、アイールディだよね。
『そうだな。森の魔物を退治するために見回っているシューベト勇士は見て見ぬ振りをしているが、間違いないだろう』
待ちきれなくなって森の入り口まで来ちゃったのかな……。
……あの勇士が彼女を視界に入れないよう全力でそっぽを向いているのはちょっと痛々しいし、早い所アイールディを回収しようか。
フレアと一緒にアイールディに挨拶し、彼女にもフレアに乗ってもらってシューベトに移動する。
アイールディはまだ飛行に慣れていないせいか、フレアの背に乗っている時はしっかり俺にしがみついていたのはちょっと可愛かったな。
今回フレアにはシューベト正門前で俺達を降ろしてもらった。
俺が案内すればアイールディも正門を素通りできるしね。
おっと、シューベトの子ども達がフレアとお話しようと近づいてきているな。
『私はこの子達の相手をしている。何かあれば声をかけてくれ』
了解、とフレアに返事をし、俺は門衛の勇士に今後アイールディを通すよう伝えてから、彼女を伴って町の中に入る。
他の神族と違って、アイールディは見た目で見咎められにくいのは大きなメリットだと思うな。
ただ、町の通りを進む途中で、シューベト城西海岸への道で以前誤って黒い魔力の石に触れてしまった勇士達から、工事の手伝いや治療のお礼を言われたりしてちょっと足を止めたけど、それ以外は何事もなく自宅に辿り着いた。
「あら、いらっしゃいアイールディちゃん。また訪ねてくれてありがとう。アドリアンも、お帰りなさい」
家に入ると母上が迎えてくれた。
母上に挨拶をしながら晩餐について状況を確認すると、もう少しだけ時間がかかるらしい。
迎えに行くのがちょっとだけ早かったかな。
まあアイールディが待ちぼうけする時間を短くできたから良かったけど。
晩餐までにどこか見てみたい所があるかアイールディに聞くと、
「……じゃあアドリアンの部屋に行きたい」
との回答だったので、晩餐の時間までは俺の部屋にこの子を連れていくとしようか。
ニコニコした母上に見送られながら、俺はアイールディを自室にあげる。
秘密基地にも繋がる大き目の衣装ダンスと本がぎっしり納められた本棚が特徴的かもしれないね。
衣装の方はシンプルな物が多いから、どちらかというとこの世界での最初期に読み込んでいた植物と地学の本が部屋の中で特に目立つかもしれない。
アイールディも本の方に注目しているみたいだしね。
「……アドリアンが一番良く読んだ本って何?」
アイールディはそう聞いてきたので、年少期に読んだものだが、植物図鑑であると答える。
彼女は図鑑をじっと見ていたので、気になるようなら一緒に読んでみないかと声をかけると、この子は首を縦に振っている。
……椅子が一つしかないからベッドに腰かけながらになるかな。
二人並んでベッドに腰掛け、しばらくの間、植物図鑑に載っている植物の説明をアイールディにしていると、執事のグレイソンさんから晩餐の準備ができたと連絡が来た。
アイールディを伴い、食卓に移動して席に着く。
少しして父上・母上・ヨハネスさんも揃い、晩餐が始まった。
晩餐を食べつつ、ヨハネスさんが西海岸までの開通工事で切り開かれた土地での救荒作物の栽培状況を報告し、俺も今日の活動について父上と母上に共有をしておく。
報告が終わった後は改めて料理に集中する。
勿論今日のお客様であるアイールディを気にしながらね。
まあアイールディは美味しそうに料理を食べているし、母上が口に合うか彼女に尋ねてもしっかり頷いているから大丈夫そうだ。
料理を半分程食べ終わった後、今回の本題、アイールディとの協調について、父上が口火を切った。
「さて、前提として、ここにいる者は君の種族についてきちんと認識している。神族である君が教皇に狙われる身であることもな。エステルの治療をしてくれた際にそうではないかと私達は思ってはいたが……よく相談してくれた。今はアドリアンやシューベトの勇士達がシューベト領内から教皇派の勇士を可能な限り追い払っているが、もし他に必要な支援があれば、君が縁を結んだアドリアンを通して言うようにしてくれ」
……何だか魔女狩り発生直後の自分では考えられない台詞を父上が言っている気がするなぁ。
「ううん、今は別にない。でも、貴方に聞きたいことがあるの」
おや、アイールディが父上に?
「ふむ、何を聞きたいのだ?」
「あなたが魔女狩りをしようとしない、個人的な理由を知りたい。領主としては、皆の利益にならないからって話を教えて貰ったけど」
父上が魔女狩りをしない、つまりセルビス氏に従わない理由か。
確かに迫害されていたアイールディからすれば、領主の父上が権力者であるセルビス氏に従おうとしない理由が気になってもおかしくないか。
「良かろう。シューベトの民も知っていることなので隠すことでもない。経緯を伝えると長くなるので簡潔に言うが、こちらに一切の非がないにも関わらず、アドリアンの身を教皇の配下に脅かされたからだな」
「……!アドリアンの……」
当然きっかけは、ジーヴ村のあれだよね……。
父上は目に当時の怒りを湛えながら説明を続ける。
「君は黒い魔力の石を知っているか?余程の意志力がない限り、触れた者は力を求める欲望に飲まれ、理性を破壊される石だ。教皇直属の勇士がこの石を使い、アドリアンを壊そうとした。紙一重で回避されたがな。この件をきっかけに、教皇への対抗策として、アドリアンが黒い魔力の浄化剤を作製するに至っている。……息子の命、いや、心を砕こうとした輩に喜んで協力することなどあり得ん。これが理由だが、納得したか?」
「う、うん……」
アイールディは顔を青ざめさせ、表情を陰らせながらも返事をしていた。
父上の話に母上とヨハネスさんも厳しい表情を浮かべている。
黒い魔力の石を浄化するって宣言しておきながら、闇の勇士とかを生み出しているセルビス氏は超危険人物であるのは間違いないからなぁ。
今なら獲得した異世界技能で汚染はシャットアウトできるけど、あのジーヴ村での強制検査がシューベトへのドラゴン襲撃と並んで危なかったタイミングだろう。
俺があの時汚染されなかった理由は今もよく分からないけど……。
「……教皇は、どうして魔女狩りをしているの?」
俺達は軽く会話しながら再び食事を進めつつも、ふと思った、という感じでアイールディは疑問を投げかける。
これは推測になってしまうが幾つか理由が思い浮かぶな……。
アイールディの疑問に対し、ヨハネスさんは「教皇自身の立場を守るため」と回答している。
俺はそれに追加して、「神族を実験材料にし、泉の力を完全に制御できるようにするため」という自分の予想も伝えた。
セルビス氏はバベリア町に隣接するアラムート神殿長の泉に蓄えられた魔力を神殿長のように自在には使えていない。
もし使えていたら各大陸の状況はもっと極端になっていたし、そもそも後継育成の計画を企図した神殿長達がセルビス氏にそこまでの差配を握らせないだろうしね。
ヨハネスさんは俺の補足に頷きつつ、続けて各地の泉の状況について解説し、人間の欲望によって神族が犠牲になることは望まない、と話を締めていた。
アイールディは料理を食べつつも、今の話を自分の中で咀嚼しているようだった。
「私達は秘密裏にだが、デルカル大陸から魔女狩りを完全に廃するための準備を少しずつ進めている。だが、アイールディ君。君は君でやるべきこと、やりたいことがあるだろう。言える範囲で良いから、これから君がどうするつもりか教えてくれないか?私達の活動と君の活動が衝突しないようにしておきたいのだ」
概ね料理を食べ終えた後、父上がアイールディに一番聞きたかっただろうことを尋ねた。
後継として乗り越える試練の詳細が俺達には分からないからね。
意図せず試練の場をぶち壊しにしてしまうのを可能な限り避けるための問いかけだ。
「…………あまり、考えてない…………」
アイールディは少し考えていたが、今後の予定が具体的には思い浮かばないようだ。
ふむ……。ということは、アイールディに対して古代神が直接啓示とかをするという訳ではないんだな……。
時間経過や周囲の動きによる状況の変化で試練が発生するのか?
だからといって、霧の森に態と教皇の配下を通すとかは論外だからなぁ。
「予定がないということでしたら、一つ提案があります。アイールディさん、リアート村に行ってみませんか?」
おや、ヨハネスさんに腹案があるみたいだ。
ヨハネスさんの提案は、デルカル大陸で最も窮乏しているリアート村で人助けをしてみるのはどうか、というものだった。
リアート村は環境がまだ厳しいため、シューベトやジーヴ村の勇士が長期間駐屯できず、魔物の脅威も大きい。
リアート村の人達はかつて村に恵みを齎していた古代神を今なお信じており、村の人々の力になれば、神族であるアイールディのことをきっと受け入れてくれるだろうと彼女に説明していた。
詰まる所、ヨハネスさんは人間に積極的に関わっていく案を提示している訳か。
……メリットとデメリットは分かりやすいな。
メリットは、アイールディが今後デルカル大陸の人間に受け入れられる土壌を広げられる点。
デメリットは、活動の過程や結果で人間の悪性や弱さに触れる可能性が跳ね上がる点だな。
(森の外で活動する時点で教皇派の勇士に狙われやすくなる点は当然すぎるので省く)
俺はアイールディが判断しやすいように、ヨハネスさんの提案を受けた際のメリット・デメリットを具体例を添えて補足説明しておくことにする。
ヨハネスさんは俺にマイナス材料を口にして欲しくなかったのか、「アドリアン様、ですがリアート村には神族の手助けが……」と反論しようとしていたものの、母上にやんわり嗜められて引き下がっていた。
まあヨハネスさんの困窮する人を救いたい気持ちは伝わっているけど、リアート村の状況云々はあくまで人間側の都合だ。
厳しい言い方をすると、神族のアイールディ達が人間を救う義理や義務は全くないからね。
古代神や神殿長を筆頭とする神族達が施す恩恵は、当たり前に貰えるものと思うのはよろしくないだろう。
……古代神達から直接加護を受け取ってる俺が言っても、微妙に説得力がないかもしれないけど。
俺が追加で補足した説明を聞いてアイールディは考え込んでいたが、最終的に「……リアート村に行ってみる」と俺達に告げた。
この子がきちんと考えた上でそう決めたのなら、何も言う事はないな。
俺もリアート村にちょいちょい顔を出しているけど、彼女がリアート村で活動している時に様子を見に行けるよう予定調整しておこう。
ヨハネスさんはホッとした様子でアイールディに感謝を述べつつ、明日以降に目立たないよう単独でリアート村に行くよう彼女にお願いをし、アイールディもヨハネスさんの依頼を受け入れた。
真面目な話はこれでひと段落し、後は残りの料理を食べ切って晩餐会はお開きとなった。
晩餐会終了後はアイールディは空間移動で家に帰り、俺も自室に戻っている。
アイールディは人間と関わっていくことを決めたが、どうなることか。
この決断自体が試練に繋がる場合は、人間が併せ持つ善性と悪性を彼女がどう受け止めていくかが問われるかもしれないな。
まあとりあえずはリアート村での人助けが落ち着いたタイミングで、以前予定していた通り、アイールディと1週間ぐらい一緒に行動しようか。
名目は……シューベトやジーヴ村での人助けでいいかな。一緒に遊んだりする時間もできれば取るつもりだけどね。
基本的には俺と一緒に霧の森ではできない活動を楽しんでもらいながらも、その中で人間の良い所や悪い所を触れていけるよう俺の方で調整をかけていこう。
あと、初めてアイールディの家を訪ねた時みたいに、森の外のことを合間合間に教えてあげる機会も挟んでいけるといいな。
色々やるに当たって1週間は短いけど、古代神の依頼に応えるため、そしてアイールディが健やかに成長できるようにするためにも精一杯努めよう。