チート転生アドリアン君   作:ブロンズ探検家

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50話 アイールディの物語 その6

アドリアンに私の正体を打ち明けた翌日、私は心も体も絶好調の状態で起き上がった。

心はアドリアンとのやり取りで彼に嫌われる不安がなくなったからで、体の方はアドリアンがくれた布団と枕のおかげだ。

あと、アドリアンが今日も来てくれるからっていうのもあるかも。

 

今日は夕方ぐらいからアドリアン達と一緒に晩餐を取ることがもう決まっているから、なるべく午前のうちに自分で予定していた人形の点検を済ませてしまおう。

私は霧の実を食べて食事を済ませ、地下室へと降りていった。

 


昼食を挟んで午後になってしまったけど、人形の状態が問題ないことを確認できた。

点検作業が終わった後、私は魔法図鑑を読んで時間を潰している。

……素材を集めながら森の入り口まで行っておこうかな。

昨日のルートと同じ道を通るようにすれば、アドリアンと入れ違いになることもない。

そう考えた私は荷造りをして霧の森へ出た。

 

……今日はあまり魔物がいなかったので、霧の森から落ちた葉や霧の実、木霊の枝等を拾い集めておく。

大した妨害が無かったので、思ったよりも早く森の入り口まで到着した。

シューベトの勇士が森の近くを見回りしているみたいだけど、教皇に従う勇士が近くにいないから私を襲うことはないだろうと判断する。

手持ち無沙汰で森の入り口をウロウロしていると、シューベト方面の空から大きくて赤い何かが近づいてくる……あれは、フレアだ。

アドリアンも背中に乗っている。

 

フレアは私を認識したみたいで一気にこちらに近づき、森の入り口付近に着地した。

 

「やあ、アイールディ。迎えに来たよ!」

『アイールディ、元気にしていたか?』

「うん、大丈夫。でも、2人で来たんだ」

 

アドリアンだけで来るのかと思ってたからちょっとびっくりしちゃった。

 

『私もお前のことが気になって、顔を出させてもらった。今日は私がシューベトまで送っていこう』

 

……それは、フレアの背中に乗せてくれるってことだよね。

本当に親切なドラゴンさんだね。

私はフレアにお礼を言い、アドリアンにフレアへの乗り方を教えてもらって騎乗する。

 

わっ。フレアが空を飛ぶと独特の揺れを感じる。

アドリアンが自分にしがみついて良いって予め言ってくれていたので、彼に抱きついて体を安定させる。

 

……こうしてアドリアンの背中にくっついていると、なんだか凄く安心する。

アドリアンの体、暖かいし。

…………飛行の揺れには慣れてきたけど、もしまたフレアに乗せてもらう時があれば、その時もこの体勢のままでいよう。

アドリアンの体に回した腕の力を気持ち強くして彼の背中に密着しつつ、私はそう決めた。

 


フレアに乗って飛んできたので、教皇に従う勇士に邪魔される事なくシューベト正門へ到着した。

あっ、町の子ども達がフレアに近づいてきている。

前に私を案内してくれた子達はいないみたいだけど。

子ども達と挨拶しながらすれ違いつつ後ろを振り返ると、フレアと子ども達は仲良くお話しているみたいだった。

違う種族だけどあんな風に皆に受け入れてもらえる……良いことだと思う。

そんなことを考えながら歩いていき、そのままアドリアンの案内により、私は咎められることなく再びシューベトの町に入った。

 

「おお、アドリアン様。お疲れ様です!」

「先日はありがとうございました!アドリアン様のおかげで何とか復調しましたよ!」

「良かった。2人とも回復したんだね」

 

町の通りを進む途中で、アドリアンは2人の男性に声をかけられていた。

剣や兜は着けてないけど、どっちもシューベト勇士の服を着ている。

話の内容からしてアドリアンが2人を助けたみたいだけど、どういうことだろう?

首を傾げていると、勇士の人達が理由を話してくれた。

 

「良い服を着ているみたいだし、君はアドリアン様かエステル様のお客様かな?俺達はシューベト城西海岸への道路工事をしていた時、発掘された黒い魔力の石にうっかり触っちゃったんだよ」

 

「アドリアン様がフレア殿に乗って文字通り飛んできてくれて、ご自身が開発された浄化剤で俺達を汚染した黒い魔力を浄化してくれたのさ」

 

そうだったんだ。

アドリアンの作った浄化剤が生物にも効果があるなら、使い勝手は段違いだ。

アドリアン、凄いんだね。

そう口にすると勇士の人達は大きく頷いていた。

 

「勿論さ!工事の現場でも、アドリアン様とフレア殿が力を貸してくれると本当に助かるんだ。ずっと前にシューベトを黒いドラゴンが襲った時も、アドリアン様は町の復興作業に率先して協力されていたしな。まだ幼い時分であられた時から、町の皆を支えてくれたんだ」

 

「シューベトだけじゃないぞ。アドリアン様が見つけた作物や海水から真水を作る方法のおかげで、リアート村やジーヴ村でも餓死や渇死で亡くなる人達が大幅に減っている。国王陛下が直接褒賞を渡すぐらいのご活躍だ。デルカル大陸でアドリアン様に助けられてない人の方が少ないかもしれないな!」

 

アドリアン自身は2人の言葉に対して褒めすぎだって苦笑いしてるけど、エステルも同じようなことを言っていたから、多分この勇士達の言葉は間違っていないんだろう。

 

2人と別れてアドリアンの家に向かう道中でも、アドリアンは方々から好意的な声をかけられていたので、彼も町の人達に慕われているのがよく伝わってきた。

 


アドリアンの家に入ると、エステルが迎えてくれた。

ただ、晩餐までもう少し時間がかかるみたい。

 

「この家、いや町でも良いけど、行ってみたい所はあるかい?案内するよ」

 

アドリアンはそう提案したので、少し考える。

私はまだ見たことがないアドリアンの部屋に興味が湧いたので、そこに行ってみたいと彼に伝えた。

了承してくれたアドリアンの先導の元、私達は笑顔のエステルに見送られながら2人で彼の部屋に入った。

 

アドリアンの部屋は全体的に落ち着いた色合いで、本が一杯入った本棚が一番目立っていた。

両開きの棚もあったけど、これはきっと衣服を入れる場所だろう。

本棚の方に再度目を向けると、私ではよく分からない内容の本と、何となく何が書いてあるか分かる本が混ざっている。

意味が分かりそうなのは、多分町の外に関する何かが書いてあるもののような気がする。

興味本位でアドリアンがよく読んだ本を聞いてみると、「大分子どもの時に読み込んでいたこの植物図鑑かな?」って答えてくれた。

アドリアンが示した図鑑は分厚いけど、植物のことなら私でも分かりそう……。

 

じっと図鑑を見つめていると、「その図鑑が気になるなら、一緒に読んでみる?」とアドリアンは言ってくれたので、彼の言葉に頷く。

ただ、アドリアンの部屋には椅子が一つしか無かったので、彼の寝床であるベッドに私達は並んで腰掛け、一緒に図鑑を読み始めた。

アドリアンは特に食用の植物について図鑑を読み込んでいたみたいで、自分が見つけて農家の人に提供した植物とかは詳しく教えてくれた。

……私の家に初めてアドリアンを招いた時もそうだったけど、こうして彼と並んで一緒に何かを見たり読んだりするのはやっぱり楽しいな。

 


しばらくアドリアンと一緒に図鑑を読んでいると、アドリアンの家で働いている人が、晩餐の準備ができたことを教えてくれた。

私は再びアドリアンに案内してもらい、色々な食べ物……料理が並べられた食卓の前にある席に座る。

少しするとリーガルとエステル、そしてヨハネスも席につき、晩餐会が始まった。

 

あっ、この料理、凄く美味しい。

味がとても複雑……多分色々なものが入っている気がする。

卓に並べられた料理を順々に味わいながら食べていると、ヨハネスとアドリアンが料理を口にしつつも、自分の仕事についてリーガルとエステルに伝えている。

ヨハネスはシューベトで育てている作物の育ち具合をまとめたものを報告し、アドリアンはシューベト領内から教皇に従う勇士を追い出す活動の進捗を説明しているが、聞く限りではどちらも順調みたい。

……アドリアン、私との約束、守ってくれてるんだ。

 

「どうかしら、アイールディちゃん。お口に合う?」

 

エステルが穏やかに私にそう聞いてきたので、勿論と大きく頷く。

アドリアンはそんな私のことを優しい表情で見ていて、私も何だか嬉しくなる。

胸に暖かいものを感じながら、おいしい料理を食べる。

とっても素敵な時間だ。

 

2人の話が終わった後も私は静かに料理を食べていたが、リーガルはこの場にいるものは私が神族であることを知っており、必要な支援があればアドリアンに言うよう私に伝えてきた。

私が人間じゃないこと、リーガルとエステルは、治療の件で感づいたみたい。

森とこの家でしか会っていないヨハネスも気がついたのなら、私がアドリアンに自分の正体を告げなくても、彼が私の種族について察するのは、おじさんの言う通り時間の問題だったんだろうね。

 

でもリーガルの言う支援で必要な物……今は特に思い浮かばない。

アドリアンと一緒に遊べれば私はそれでいいし。

代わりに、前々から気になっていた、リーガル個人が魔女狩りをしようとしない理由を教えてもらえないか聞いてみよう。

 

 

リーガルは別に隠すことでもないと理由を教えてくれたけど……それは血の気が引いていく内容だった。

アドリアンやリーガル達は何も悪いことをしていないのにも関わらず、教皇に従う勇士にアドリアンが殺され……いや、彼らは黒い魔力の石でアドリアンの心を壊そうとしたというのだから、もしかしたら、命を奪おうとするよりもっと酷いかもしれない。

 

理由を語ってくれたリーガルは凄まじい怒りを瞳に宿していた……彼にとって、息子のアドリアンはエステルと並んで大切な存在だからこそ、こんなに怒っているんだね。

そして、勿論私にとっても……。

魔女狩りのことを抜きにしても、この件がある以上、私は教皇と手を取り合うことなどあり得ない。

そう、確信した。

 


重い話題を打ち消すようにエステルやアドリアンが料理を食べつつ味について話しているが、ふと、本当に根本的な疑問を覚えた。

教皇は、そもそもどうして魔女狩りをしているんだろう?

 

実際に疑問を口にすると、ヨハネスは顎に手を当てながら「推論になりますが……」と切り出し、予想を話し始めた。

 

「自分の立場を守りたいから、というのが理由に挙げられると思います。人間と異なる容姿、魔力という人間には扱えない力を使いこなす神族を人間全体の敵に仕立て上げ、教皇は人間の中で最大勢力を築き上げました。外敵を据えることで自勢力の統制と結束を固めるのは、過去の歴史でも幾度もありましたから」

 

教皇は自分の元に集った人や物を手放したくないから、魔女を狩れと指示しているってことなのかな……。

 

ヨハネスが話し終わった後、アドリアンも彼の予想を教えてくれた。

 

「俺は泉の力を完全に手中へ収めるためって考えている。ヨハネスさんの予想も合っているとは思うけどね。天候を操作し、死者をも蘇らせたという神殿長と同等の力を、教皇はバベリア大陸で唯一残ったアラムート神殿長の泉から引き出せていない。捕まえた神族を実験材料にし、亡くなった神殿長と同等に魔力を扱えるようになることを彼は目指しているんじゃないかな」

 

教皇は黒い魔力の石で自分の配下である勇士すら汚染したりしているぐらいだから、捕まった神族は実験動物として全く容赦されずに扱われると思う、そう彼は続けて語っていた。

 

もっと力が欲しいから……アドリアンは、教皇が魔女狩りをする理由をそう考えているんだ。

 

「アドリアン様の考えも十分にあり得ると思います。ただ、泉は神族の力を源としています。何故か古代神レフガトの泉とアラムート神殿長の泉は今も稼働していますが、神殿長や古代神が離れた泉は全て枯れてしまいました。神族が死に絶えれば、今も残った泉すら枯れてしまうかもしれません」

 

「ですが泉の件を抜きにしても、教皇を筆頭にした身勝手な人間の欲望により、神族が犠牲になって欲しくはない。僕達はそう願っています」

 

持っているものを手放したくない……もっと欲しい……この欲望が、教皇が魔女狩りをする理由ってことなのかも……。

ヨハネスの話を聞きながら、私はそんな事を考えていた。

 


料理を大体食べ終えた頃、魔女狩りを終わらせるための準備を皆で進めているけど、私の活動の邪魔にはならないようにしたいとリーガルは口にし、私の予定を教えてほしいとも言ってきた。

 

……予定……うーん……これというものが、ない……。

人形作りとかは、聞かれていることと違う気がするし……。

私は先のこと、あまり考えてない……リーガルに問いかけられて、そう気がついた。

 

正直にそう伝えると、リアート村で人助けをしてみないかとヨハネスが案を出してくれた。

 

「リアート村はデルカル大陸でもっとも貧しく、魔物の脅威も非常に強い村です。しかし、シューベトやジーヴ村の勇士の部隊もまだ長期に駐屯できないぐらいに村は水と食料を欠いています」

 

「そのような厳しい環境でも、村の皆は泉を統べていた古代神を今なお信仰しています。神族のアイールディさんがリアート村の皆さんのために力を貸してくれれば、きっと村人はあなたのことを受け入れてくれるでしょう」

 

一番貧しい村で人助け……人間に受け入れられる……。

 

「なるほど……。アイールディ、考えを纏めやすいように、ヨハネスさんの提案を受けた場合の利点と欠点を今思いつく範囲で教えておくね」

 

アドリアンがヨハネスの提案についてもっと詳しく説明してくれるみたい。

ヨハネスは自分の提案に自信があるのかアドリアンの説明を遮ろうとしてたけど、

 

「今一番大切にしないといけないのはアイールディちゃんの気持ちなのだから、この子のことを一番考えているアドリアンの説明も聞かせてあげてね」

 

そうエステルに言われて引き下がっていた。

 

「ええと、では改めて。利点は分かりやすいかもしれないけど、アイールディがリアート村の人々の力になることで、リアート村の人々は勿論のこと、デルカル大陸に住まう人々に君が受け入れられる土壌を作ることができる所だ。例えば村人を襲っている魔物を退治したり、村人に乱暴をしている教皇派の勇士を追い払ったりすれば、彼らに感謝される可能性はとても高いだろうね」

 

アドリアンが解説してくれるけど、利点の方は確かに想像しやすい。

 

「欠点の方だけど、君が人々の助けとなるための動く中、人間が当たり前に持っている弱さや悪性によって、思い描いた結果にたどり着けない可能性もあり得ることだ」

 

「これだけだとイメージしにくいだろうからこちらも具体例を添えるね。さっきの例だと、魔物を退治したは良いけど『なんでもっと早く来てくれなかったんだ』と助けた人に文句を言われてしまう。教皇派の勇士が増援を呼んだりしたら君が形勢不利と判断し、助けに来たはずの君を村人は見て見ぬ振りをする。そんなこともあるかもしれない。まあどっちも極端な例だけどね」

 

人間を助けても、望み通りに感謝されるとは限らない……こっちはちょっと難しい……。

例えを聞いてもまだ想像がしにくいけど……アドリアンは私よりも確実に長い間人々の中で過ごし、皆の力になっている。

つまり、これは実際にあり得る可能性なのだろう。

アドリアンはここまでずっと真剣な顔で私に説明してくれている。

欠点の方は人間にとって都合が悪い内容であるにも関わらず、嘘も誤魔化しも一切交えず、ヨハネスの提案に乗ることによる良い所と悪い所を、私にとっての視点できちんと教えてくれているのが分かる。

 

人助けをすることによる欠点はあるかもしれない……でも、私の脳裏にはシューベトの人達に暖かく迎えられているアドリアンやフレアのことが浮かんでいた。

リアート村の人々を助ければ、私も、2人のように……。

 

アドリアンの説明を何度も頭の中で繰り返してしっかり考えた結果、アドリアンとフレアのようにもっと人間に受け入れてもらえる可能性を求め、私はリアート村に行くことを決めた。

アドリアンも、「きちんと考えた上での選択なら大丈夫だよ」と頷いてくれていたし、きっと問題ないだろう。

ヨハネスは彼自身の提案に乗った私にお礼を言い、彼が続けて依頼した通り、リアート村に目立たないよう一人で行くことを私は了承した。

 

 

話が一区切り付いた後、皆で残りの料理を食べ切って晩餐会はお開きとなった。

私は一緒にいた皆に挨拶をしてから、空間移動で家に帰っている。

 

 

……アドリアンの説明は全部本当のことを言っているとは思うけど、その場では口にしなかった疑問が一つあった。

「人間は当たり前に弱さや悪性を持つ」ってアドリアンは言ってたけど、アドリアンも人間だよね。

ねえ、アドリアンも本当に弱さや悪性を持っているの?

全然そんな風に見えないし思えないよ?

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