チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
晩餐会の翌日、俺はアイールディとある程度長期で行動するため、関係各所で調整をかけている。
ついでにアイールディと行動した後に行う予定である教皇派拠点の潜入調査に備え、魔女狩りを終わらせるための下準備のためにシューベトをある程度空けることがあるのも父上と母上に伝え、了承を貰っている。(教皇派拠点に潜入することは止められそうな気がしたので伏せたが)
調整が終わった後は領内を巡回して教皇派の勇士を叩き出していたフレアと合流し、アイールディの様子を見るために彼にリアート村まで飛んでもらった。
再び巡回業務に戻るフレアを見送った後、俺はリアート村に入って軽く村を見回るが……教皇派の勇士達は村に来ていないようだ。
村の人達の表情は可もなく不可もなく、というには不可寄りという所か。
だが始めて訪れた時に見た生きながら死んでいるという顔をしていた時とは比較にならないぐらい快復していると言えるだろう。
そば、さつまいも、ソルガム、2種類のヤシの木、カラハリスイカが各所に植えられ、彼らの糧になっているからね。
そうだな、魔女狩りが終わったら肥料系とかも更にテコ入れしてもいいかもしれない。
丁度シューベト城西海岸までの道中に、まだ切り開かれてない好き勝手出来そうな場所がいっぱいあるし、何かしら肥料になるものをそこで呼び出してもいいかな。
まあ先の事はいい。今はアイールディの状況を確認しよう。
……リアート村の村長に話を伺った所、砂漠サソリを倒して村人を助けたアイールディは、ヨハネスさんの勧めに従い、リアート鉱山の部分崩落に合わせて湧いた魔物を退治することで鉱員を救助しているそうだ。
あそこに現れる魔物となると……確か人間より大きい巨大蝙蝠か。
だが、現状の魔力と体捌きから推察できる今のアイールディの力量なら余裕で倒せる相手だ。
まず問題ないとは思うけど、一応念のため様子を見に行っておこうかな。
リアート鉱山を進んでいくと、途中で更なる崩落の音が聞こえる。
……音からして鉱山が崩落しきることはなさそうだけど、少し急ぐか。
そう決めた俺は集中してアイールディの気配を探り当て、彼女のいる方に駆け足で進んでいく。
ああ、どうやら大岩で道が塞がり、迂回路の縄ばしごも切れてアイールディは困っていたみたいだな。
縄ばしごの方からアイールディに無事か声掛けをすると、彼女から返事が返ってくる。
「あ、アドリアン……!うん、大丈夫……!」
よし、返事もしっかりしているな。
俺は転生特典で獲得したワイヤーフックを使用してアイールディの立っている所まで飛んでいき、彼女を抱えた状態でワイヤーアクションで再度飛び上がり、無事この子を安全地帯まで回収することに成功した。
魔物退治と鉱員の救助を果たしたアイールディは村長を始めとする村人達に口々にお礼を言われていた。村長はアイールディが神族であることに気づき、これからも大陸に残ってほしいと祈っていたけど、流石に教皇派の勇士に感づかれると大問題なので口止めをしておいた。
村人達が落ち着いた後、俺は鉱員の様子を見て重症の人はいないことを確認した後、アイールディと合流している。
アイールディは俺がいない間、どうやらヨハネスさんと話をしていたみたいだね。
鉱山で怪我が無いか改めて彼女に聞くも、大丈夫そうで何よりだ。
「ねえ、アドリアン。アドリアンは他にも神族の友達がいるって言ってたけど、私は会えない?ヨハネス、勇士に後をつけられるといけないからって居場所を教えてくれなかった……」
なるほど、神族に会えないかヨハネスさんと話していたのか。
ふむ……ヨハネスさんは神族の安全については結構保守的なんだな。
顔合わせも含めて一度は行っておいた方がいいと俺は思うから、俺の方でルーカス達の所に案内するとしようか。
ええと、ルーカス達に確実に会えるタイミング……そうだ、ヨハネスさんが神族の皆の支援に行けなくて代わりに俺達が食料を届けた日に、確か今日から10日後にパディさんとフィリアがルーカスの所に顔を出すって話を聞いたな。
そのタイミングであればエイリン以外の神族に纏めて会えるから効率が良いと判断し、10日後にルーカスの潜んでいるリアート村近郊にあるワディラムへ一緒に行くことをアイールディに伝えると、彼女は頷いてくれた。
見た所、リアート村での人助けもひと段落したみたいだし、ルーカス達を訪ねるまでの間、俺と一週間程、主に人助けしながら一緒に行動しないかと、アイールディに提案し「いいよ。いつから?」……言い切る前にOKされたよ……。
えっと、他に予定があったりすれば「大丈夫。それでいつから?」……晩餐の時と同様即答なのは有難いけど、君はそれでいいのかい?
ヨハネスさんの時はしっかり考えてたのに、今回は凄く果断だね……。
ちょっと不安になってしまうよ。
俺は明日は残務処理とシューベトの皆との予定調整、そして口にはしないがアイールディと一緒に行動する上での関係各所への根回しを行うので、明後日から霧の森へ迎えに行くことを伝えて彼女に了承してもらい、今日はひとまずお別れとなった。
……さて、それじゃあ秘密基地も活用して今日明日で残っている仕事を一気に片付けよう。
父上と母上から受けている依頼で少なくとも10日ぐらいは通常業務に顔を出せないってヨハネスさん達にも言っておかないとね。
俺が想定している日程だと、ジーヴ村のルイスさん達や真水作りの時にお世話になった地主さん達とも調整をする必要があるな。
ああ、素材採取も日程に組み込むつもりだから、現状のアイールディには危険度が高いカルダリア洞窟のラバロードは予め排除しておくか。
やることが多岐に渡っているから、効率良くテキパキ進めないと……。
それでは、快く時間を取ってくれたアイールディのためにも、彼女が良い経験や思い出を重ねられるよう準備をしていくとしよう。
無事に関係者への調整を済ませ、アイールディと一緒に過ごす初日を迎えた。
朝食を済ませ、霧の森入り口まで歩いていくと、既にアイールディがそこにいた。
多分だけど、今日以降の予定を楽しみにしてくれていたのだろうな。
「アドリアン、今日はどこに行くの?」
挨拶をした後、アイールディはそう聞いてくるので、今日は(俺が予め声掛けしておいた)シューベト郊外にいる農家の人達の所でお手伝いをするつもりだと回答する。
シューベト領内から教皇派の勇士はできる限り排除しているし、まだ残っている奴がいても俺が気配察知をして迂回すれば問題ない。
農家の人達は領内の奥側だし、そこまで行ってしまえばアイールディが教皇派の勇士に見つかる可能性はまずほぼない。
細道を行ったりするので、ないとは思うけどはぐれないよう俺はアイールディの手を取り、農家さん達の所へ彼女と一緒に歩いて行くことにする。
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……幸い教皇派の勇士は全く遭遇せずに、農家さん達の畑に辿り着けた。
ここからは俺達を待っていた農家さんからの依頼の元、農業の作業手伝いを2人で行っていく。
土づくりの補助、苗植え、作物の収穫に倉庫への収穫物の運搬……その他雑多な作業を農家の人達とも協力しながら進めていく。
途中農家の人達のご厚意で簡単な昼食をいただいた後、更にいくつかの農家を2人で手伝って回り、今日の人助けはひと段落だ。
最後に手伝いをした老夫婦からは、いつぞやのようにまた黄金芋を2人分貰ってしまったので、アイールディとお別れする前に彼女へ焼き芋をご馳走してあげることにする。
落ち葉を集めて開けた所で焚火をし、予め洗っておいた黄金芋を濡らした厚めの紙で包んで焼いていく。
焼き芋ができるのを待っている間に、以前できなかった人間の村……アイールディがまだ行っていないだろうジーヴ村やデルカル大陸の外と行き来する時に使う埠頭について、アイールディに話しておこうかな。
特にジーヴ村に詰めているデルカル大陸支援隊の勇士達は魔女狩りをしないことも併せて言っておかないとね。
聞き役になっているアイールディとお話してある程度時間が経った後、俺は焼き芋の具合をチェックし、問題ないことを確認してからアイールディに焼き芋を渡してあげた。
うんうん、流石は推定マロンゴールドの焼き芋。
甘味と舌触りが通常品種と段違いだよね。
アイールディも無言だけど美味しそうに食べてくれている。
焼き芋を食べ終えた後は、明日も霧の森入り口から迎えに行くことをアイールディに伝え、今日はお開きとした。
さて明日はシューベトにある飲食店と工房にお世話になるな。
一昨日のうちに話は通しているけど、家への帰り際に予定通り明日訪ねることを言っておこう。
アイールディと一緒に過ごす二日目、初日と同様に霧の森入り口で待っていたアイールディと合流する。
「それで、今日はどこに行くの?」
こちらも昨日と同様の問いかけをする彼女に対し、今日はカルダリア洞窟で素材集めを行う旨を伝える。
集めるものはモレフの皮とラバラックの角。
どちらも海水から真水を作る工程を効率良く進めるために使用しているもので、これを工房に納品する予定だ。
ついでに工房で塩分を吸着するモレフ筒の作製工程をアイールディに見せてあげられるよう職人さんにお願いしている。
工房に行く前に予約していた飲食店で昼食を取る予定だけどね。
何にせよ、まずは素材採取のためにカルダリア洞窟に行くとしよう。
昨日と同様に彼女と手を繋ぎ、カルダリア洞窟へと足を向けた。
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……よし、今日も教皇派の勇士に会わなかった。
フレアとシューベト勇士達の頑張りに感謝しつつ、カルダリア洞窟をアイールディと2人で探索していく。
探検家として学んだ洞窟の歩き方・魔物の特徴・素材の剥ぎ取り方などを実地で彼女に解説しながら洞窟を歩き回り、無事にモレフの皮とラバラックの角を採取できた。
多めにとれた分はアイールディに渡して調合素材にしてもらうことにする。
それでは、今度は採取した素材を届けるためにシューベトに移動するとしよう。
今回は俺が排除したけど、洞窟のボス格であるラバロードの特徴についても洞窟から出る際の雑談で彼女に教えておこうかな。
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巡回中のシューベト勇士を遠目に見たぐらいで何事もなくシューベトに来れた。
前回同様、俺が案内することでアイールディ共々正門を通してもらう。
工房に行く前に、予約していた飲食店で一緒に少し遅めの昼食を取ることをアイールディに提案し、了承してもらっている。
初め彼女は飲食店についてピンときてなかったけど、商人から商品を買うときのように、お金……この世界の通貨であるゴールドを支払うと食事を作ってくれると説明すると、理解してくれたみたいだ。
今回行く飲食店は一般的なシューベトの民も利用する店の中でも評判が良く、自分でも美味しいと思えた所をチョイスしたつもりだ。
飲食店に入った後、店の方にゴールドを先払いし、予約していた店の最奥にある個室に案内してもらう。
今日は日替わりランチ的なメニューを2人分注文しており、席に着くとそば粉パン・野菜と豆を煮込んだスープ・メインのミートパイを直ぐに出してくれた。
あっ。メニューにはないはずだけど、ビスケットをおまけで付けてくれているな。
アイールディもビスケット含めて綺麗に平らげていたし、お店の人に感謝しておこう。
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昼食を取った後は改めて工房に向かい、素材の納品を行う。
そして予め根回しした通り、アイールディに見せるために、モレフ筒の作製工程を強面の職人さんに実演してもらった。
今回担当している職人さん、顔が怖いだけじゃなく口も悪いからちょっとアイールディが後ずさっていたけど、悪い人ではないからできればこの子も慣れてあげてほしいな。
最後まで工程を見学させてもらい、完成したモレフ筒を真水作り用の鍋セットと共に俺が受け取る。
ラバラックの角は予め渡していたラバロードの核と合わせて海水の沸騰装置にしてもらい、こちらも一緒に渡してもらう。
アイールディは受け取ったそれらをどうするのか首を傾げていたけど、3日後にジーヴ村方面の氷の洞窟で採取したものと合わせ、真水作りのセット一式としてジーヴ村の人に納品すると伝えると納得したようだ。
氷の洞窟探索時はアイールディ用の防寒着ランブリオを忘れずに持って行かないとね。
工房での見学を終えて今日の予定は終了となったので、明日も霧の森入り口に迎えに行く約束をした後に、アイールディは目立たない場所に移動した上で空間移動の魔法で帰っていった。
さて、3日後にジーヴ村に持っていく真水作りのセットを自室に置いた後は、明日訪ねる予定のシューベト郊外の小村落群に、明日手すきの人と一時雇用の人員が依頼を対応すると各小村落群に伝令を入れておくとしよう。
小村落に関する報告書とシューベトに回された依頼を確認する限り、明日は恐らく害獣や魔物を退治をすることになるだろうけど、実は明日行く予定の小村落群には横柄な人が代表を務めている所も混ざっているし、対立している小村落同士もある。
……小村落の人達が俺の想定した通りに動くのであれば、ここでアイールディに人間の宜しくない部分を示せるだろう。
アイールディと一緒に過ごす三日目、俺はアイールディと共に小村落群が依頼した害獣・魔物退治を実施した。
依頼数が多いので、俺達はお互いの担当範囲を決めて、小村落の人への報告も含めてアイールディに半分ほど対応してもらう。
作業そのものは最低限の戦闘能力があれば対応可能なレベルなので、昼過ぎには小村落群への報告含めて終わったのだが……。
「…………」
俺達は小村落から人目に付きにくい場所に移動しているが、アイールディの表情はずっと陰っている。
予想通り小村落の人達の一部に心無い言葉をぶつけられたようだ。
俺の方も口には出されずとも、村落の人達から冷たい視線を何度か食らったからなぁ。
念のため仕事に取り掛かる前に、小村落群の人達には好ましくない噂を聞いていることを伝えてはいた。
ショックなのは変わりないだろうけど……。
かなり心苦しいが、それでもこの子が人間と関わる以上、遅かれ早かれ目にするものでもある。
加えて、今なら俺がこの子をフォローできるため、彼女が落ち込む可能性を見越しつつもあえて今回の仕事を受けた。
「……助けてあげたのに、『来るのが遅すぎる』って怒鳴られちゃった……。『どうしてあっちの村落を助けたんだ』って言ってくる人もいた……。それに、アドリアンが顔を出すと、途端に態度を変える人も……」
俺は今いる場所で昼食の準備をしつつ、アイールディの言葉を聞いている。
彼女の言葉を聞き終わった後、人間の中には今あった人のように、理不尽なことを言ってきたり、自分勝手な人もいることを俺は彼女に語る。
そしてアイールディが最後に口にした外的要因で自分の態度を変えてしまう人も含め、ああいった人達は様々な要因で増えてしまうことも合わせて教えてあげる。
「……どんな理由?」
今回の場合だと、相対的な貧しさかな。
俺の力不足を口にすることになるが、デルカル大陸で最も豊かなシューベトと言えど、民全員に富が行き渡っている訳ではない。
あの小村落群にはまだシューベトの富が届ききっておらず、シューベト町で暮らす人に比べて心が荒んでいるようだった。
俺に対して急に頭を下げたのは、自分たちの貧しさを改善できる可能性がある人間の不興を買いたくないという打算があったのだろう。
彼女は内容を咀嚼するのに苦労しているようだったので、外的要因で態度を塗り替えられるケースで一番分かりやすい、今も実施されている魔女狩りを例にして彼女に伝えることにする。
「魔女狩りで、人間の心が変えられてしまう……?」
イメージしやすいのは暴力による行動の強要だ。
神族に感謝している人も教皇に従う勇士が犯罪者として殺すと脅して来たら、感謝していた神族を迫害する方に回り、いつしか本気で神族を嫌うようになる事例はバベリア大陸で沢山あり、子どもの時に大陸渡りの行商人から聞いた具体例も含めて彼女に語ってあげる。
「そんな……ことが……」
でも、これらは誰もが当たり前に持つ悪性や弱さが引き起こしているものだからね。
対応はとても難しい。恐らく完全に無くすのは不可能だろう。
「……ねえ、アドリアン。アドリアンも、自分の心に悪い所、弱い所を持ってる?」
アイールディの疑問に対し、間違いなく持っていると頷き、但しそれに呑まれないようにしているとも添えておく。
あまりにも当たり前すぎる話だが、俺も負の側面を持っているのは間違いなく事実だ。
秘密基地とかでは割と個人的な欲望全開でフレアと一緒に遊んだりしているし、基地での訓練後に取る夜食も予定よりちょっと多く食べるとか悪いことだってしてるからなぁ……。
さっきの村落の人達にムッとしてしまう気持ちだって0じゃない。
でも、そういった良くない所も含めて自分だからね。
暗い話題ばかりだとアイールディも辛いだろうし、俺が領主の息子として、あるいは次の領主として目標にしている未来も語っておこうか。
前約束した魔女狩りを終わらせるのは勿論のこと、これまで対策してきた飢え・渇き・黒い魔力を含めた皆の間に不和を齎すものを少しずつでも解消し、今回アイールディが経験したようなことをこのデルカル大陸から減らしていきたいと彼女に伝えてあげる。
まあ領主の息子が大言を吐いているだけだから、話半分で聞いてほしいとも添えておくが。
「ううん。私、信じるよ。アドリアンが、そんな世界にしてくれることを」
おお、この子に即座にそう言ってもらえると、これからもしっかり努めないといけないなって思えるよ。
とりあえずは目先の魔女狩りを終わらせるための対応として、もう少し後に行う教皇派拠点への潜入調査をきっちりこなす所からかな。
さて、俺が目指す未来の展望を語ったことでアイールディの表情もいつも通りになったみたいだし、丁度出来上がったスープパスタをこの子と一緒に食べようか。
食べ終わった後はシューべロードやリアートリードを一緒に散歩して、アイールディに俺が見つけてきた植物について実地でも教えてあげよう。
ちょっとは気晴らしになるといいな。
それに明日は人助けを休憩し、特別ゲスト……もとい、フレアと一緒に各地の地理を実地でぐるっと見て回る予定だ。
今日アイールディが感じただろう嫌な気持ちを、フレアの力も借りて吹き飛ばさないとね。
幸運「あの子と過ごすのに余計な横槍はちゃんとブロックしておくね」