チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
晩餐会の翌日、私はヨハネスの勧めに従ってリアート村を訪れ、人助けを行っている。
砂漠サソリを退治してリアート村の馬車引きさん達を助けた後、村長のおじいちゃんの許可を貰い、崩落が起きたリアート鉱山に出現した魔物を倒して鉱山で働く人間を助けている。
でも、全員助け終わったと思った所でまた崩落が起きてしまい、鉱山出口までの道が塞がれてしまった。
どうしよう、縄バシゴも切れているし……と悩んでいると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「アイールディ!無事かい!?」
あっ。アドリアンだ!
彼の姿を見て安堵する気持ちを感じながらも、切れた縄ばしごを挟んでアドリアンに無事であることを伝える。
「良かった。今助けるよ!」
彼はそう言うと、伸び縮みする不思議なロープを使って私の側に飛んできて、私を抱えてまた不思議なロープを使い、あっという間に切れた縄ばしごを飛び越えちゃった。
あのロープはもしかしたら、アドリアンが探検で見つけた特別な道具なのかもしれないね。
2人で鉱山を出ると、村長のおじいちゃんを初めとする村の人から口々にお礼を言われた。
良かった……私、上手く出来たんだ。
最後はアドリアンに助けてもらったけど、冷静に考えれば空間移動の魔法で鉱山を脱出すれば良かっただけかもしれない。
でも……鉱山が崩れる中、アドリアンが来てくれて嬉しかったし、安心できたな……。
リアート村に来ていたヨハネスからも村を助けてくれたお礼を言われ、彼はまた何かあれば連絡すると話していた。
彼と会話している途中、私はヨハネス達が私以外の神族を支援していることを思い出したので、神族達に会えないか聞いてみたけど、ヨハネスは他の神族が隠れ潜む場所まで教皇派の勇士に後をつけられてはいけないからって断られちゃった。
ヨハネスはそのままシューベトに今回の顛末を報告しに行ってしまったけど、入れ違いで今度はアドリアンが近づいてきた。
アドリアンは改めて私が怪我をしていないか聞いてきたけど、大丈夫である事を彼に伝える。
やっぱりアドリアン、心配性なのかも。
そうだ、私以外の神族に会えないか、アドリアンにも聞いてみよう。
「他の神族に会いたい?……うん、俺は顔合わせぐらいはした方がいいと思うし、構わないよ。ええと……今日からだと、10日後かな。丁度その時神族の隠れ家の一つがあるワディラムに複数人の神族が集まるから、その時俺が案内するよ」
10日後だね。分かった。
もしかしたら、アドリアンとエステルやリーガルみたいに、そこに私にとっての家族がいるかもしれない。
あれ?アドリアンが他に何か言おうとしている。
「そうそう。リアート村での人助けは落ち着いたみたいだし、アイールディさえ良ければ、他の神族を訪ねるまでの間、一週間ぐらい俺と一緒に活動し」
アドリアンと一週間も一緒にいられる?
勿論良いに決まってるのですぐに了承し、いつからなのか彼に時期を聞く。
「え?えっと他に予定があればずらしたり、飛び飛びでも」
大丈夫。今アドリアンの話してくれた予定が一番大事だから。
それで、いつからなの?
「……今回も即答してくれて有り難いけどさ。明日は仕事を片付けるのとシューベトの皆と予定調整をするから、明後日から、霧の森に迎えに行くよ。主に依頼を元にした人助けをしていくつもりだけど、それ以外の事もできればいいなって考えてるんだ」
アドリアンは何故か何とも言えない表情になってたけど、彼は明後日来てくれると言ってくれた。
話が終わった後はアドリアンと一旦お別れし、今日はシューベロード経由で家に帰ることにする。
胸が弾んでいるような気持ちで帰り道を進む途中で、またおじさんと会った。
おじさんは私がリアート村で頑張っていたことをヨハネスから聞いて知っていたみたい。
アドリアンはわたしが魔女であることを全然気にしてなかったっておじさんにも教えてあげると、彼も嬉しそうにしていた。
「君の道行きは困難に満ちていると思うが、一生懸命頑張った先には、それまでの苦労を忘れてしまうぐらいの素敵な結果が待っているはずだよ。たとえ、君にとっての報酬がこの剣ではないとしてもね」
そう言って、おじさんは昔彼が使っていた剣を私にくれた。
おじさんはもう散歩はやめて、これからはバベリア王宮で勇士の教育をすることで魔女狩りを終わらせる手助けをしてくれるって。
……今日でお別れみたいだけど、色々なことを教えてくれてありがとう。
アドリアンと過ごす一週間の初日を迎えた。
私は手早く朝食を食べ、アドリアンと早めに合流できるよう霧の森入り口に出発する。
通り道に落ちている素材は回収し、霧ガマを何体か倒しつつも問題なく入り口に到着した。
しばらく待っていると、一昨日話した通り、アドリアンが来てくれた。
主に依頼を受けて人助けをするって言ってたけど、今日は何をするのかを聞いてみよう。
「今日は人手が必要な農家さん達の手伝いをしに行くつもりだよ。ここで結構な時間待ってくれていたみたいだし、早速行こうか!」
アドリアンは私の手を引いて連れていってくれるみたい。
でも、彼と手を繋ぐと、やっぱり前と同じように胸がきゅうってする。
ちょっとだけ手に熱が籠って汗もかいてきてるみたい。
なんだか不思議だよね。
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アドリアンに案内してもらった農家さん達の土地で、私達は農家さん達に仕事のやり方を教えてもらいながら、色々な作業を手伝った。
仕事の意味を全部は理解できなかったけど、それでも全ての作業は作物を得るために絶対にやらないといけないことは分かった。
霧の森で取れる実と違って、作物を収穫するには色んなことをしないといけないんだね。
でも、今やっている作業の結果が、アドリアンが作ってくれた料理や前の晩餐で食べさせてもらった料理の食材に繋がっていくなら、農家さん達は大事なお仕事をしているんだなって思えた。
それに農家さんの人間達は何だか大らかな感じで、話しやすい人達だったな……。
「手伝ってくれたお礼だよ」って農家さん達がご馳走してくれた料理も美味しかったし、最後にお手伝いしたおじいちゃんとおばあちゃんからは黄金芋という薄黄色のお芋もお土産に貰っちゃった。
今、アドリアンは貰ったお芋を「焼き芋」って言う料理にしてくれている。
料理ができるのを待っている間、彼はこの1週間の間に訪ねる予定のジーヴ村と、村に隣接した埠頭について教えてくれた。
「ジーヴ村は別大陸の窓口である埠頭と隣接していて、バベリア王宮のあるマニル島からの支援が入るから、リアート村よりは状況が良いんだ。別大陸にいた犯罪者が村に入り込んだりすることもあるけどね。でも、数年前からバベリア国王陛下の直属であるデルカル大陸支援隊が駐屯するようになってから、大分治安は向上しているよ」
教皇ではなく、国王の直属……。
支援隊の人達は、魔女狩りをしてるのかな?
「いや、国王陛下は神族との協調を是とする方だ。神族への信仰厚いヨハネスさんをシューベトに派遣されたのも陛下だしね。だから、陛下直属である支援隊の人達は、魔女狩りをしない人員で構成されている。ジーヴ村に入っても支援隊の人達に狙われることはないし、彼らと交流もできるよ」
緊急時は教皇派の勇士からも匿ってくれると思う、ともアドリアンは言っていた。
教皇に従う勇士が一番多いのかもしれないけど、それが嫌な勇士もいっぱいいるんだね。
アドリアンの話を聴いて、そう思った。
ジーヴ村の特徴をアドリアンから色々聞いているうちに、焼き芋が出来上がったみたい。
アドリアンから改めて黄金芋を受け取り、アドリアンの真似をして息を吹きかけて冷ましながら口にする。
わぁ……このお芋、蜜みたいに甘いけど、それだけじゃない。
ホクホクしているような、ねっとりしているような……でも、舌の上をさらっと滑っていく感じ。
とっても美味しい……。
農家のおじいちゃんとおばあちゃん、きっと一番良いお芋をくれたんだ……ありがとう……。
私はアドリアンと一緒に黄金芋の焼き芋を味わった後、明日もまた霧の森の入り口で会うことを約束して今日はアドリアンとお別れした。
……こんなに楽しい日が後6日も……嬉しいな。
アドリアンと過ごす一週間の二日目、私は今日も彼に手を引かれ、カルダリア洞窟にやって来た。
今日はシューベトの工房の人が欲しがっている素材を集めるってアドリアンから聞いている。
以前彼が話してくれたカルダリア洞窟の特徴を思い出しつつ、私とアドリアンは洞窟の探索と魔物の討伐を進めていく。
アドリアンは探索中に洞窟内で注意しないといけない所、魔物を相手にする時に気を付ける点、素材をきれいに剥ぎ取る方法等をその場その場で分かりやすく教えてくれた。
ヨハネスも言ってたけど、アドリアンは優秀な探検家なんだっていうことがよく分かる。
私はアドリアンと力を合わせて、一切傷を負うことなく今回必要としていたモレフの皮とラバラックの角を必要数以上集めることができた。
納品分以外は私にくれるみたいだから、魔法調合に使わせてもらおうっと。
あと、今回は会わなかったけど、ラバロードっていう大きくて強いゴーレムが洞窟内に出ることもあるらしい。
アドリアンはラバロードの特徴も教えてくれたから、もしもの時に備えてちゃんと覚えておこう。
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アドリアンが門衛の人と仲介してくれるから、私も裏口を使わず堂々と正門からシューベトに入る。
でも、工房に行く前に飲食店って所で食事をするみたい。
何をする所か初めは分からなかったけど、商人さんにゴールドを渡すと品物をくれるように、飲食店では品物の代わりに料理を出してくれる所だとアドリアンの説明を聞いて理解できた。
アドリアンが2人分の料理のゴールドを支払うと、私達は飲食店の奥にある部屋に入れてもらい、そこで料理を食べさせてもらった。
うん、このお店が出している料理も美味しいね。
上手く口にできないけど、アドリアンが作ってくれた料理、晩餐会で出てきた料理、そしてこのお店の料理はどれも違った良さがある……そんな気がする。
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イノシシのお肉とはまた違うお肉の入ったパイを楽しみ、一緒についていたビスケットも含めて料理を食べ切った私達は、改めて素材を納品する工房に入った。
中にいた職人さん達のうち、顔が凄く怖い職人さんに持ってきた素材を渡すと、ぶっきらぼうに礼を言われ、何故か素材を使って何を作るのかを見せてもらうことになった。
……この人、言葉もきつくてちょっと怖い……。
顔が怖い職人さんは、一緒に働いている若い職人さんに罵声を浴びせてもいたけど、若い職人さんを心配しているからきつく言ってるようにも思える。
悪人さんって訳ではないのかも……。
職人さんの手により完成したのは塩分をくっつけるための筒で、これだけだと何に使うのか分からなかったけど、アドリアンに聞いた所によると、一緒に作ってもらった水の沸騰装置や大きな鍋2つと合わせて真水を作る装置にするらしい。
3日後にジーヴ村の近くにある氷の洞窟で真水作りの装置に足りない素材を集め、改めてジーヴ村の人に真水作りの装置として渡してあげるんだって。
……ということは、五日目は氷の洞窟で素材を集めることになりそうだね。
でも氷の洞窟っていうぐらいだから、霧の洞窟にあった物凄い冷気が出てくるような場所だと、人間のアドリアンは凍え死んじゃうと思う。
そうアドリアンに言おうとしたけど、アドリアンは特別な防寒着を持っているって以前お話してくれたことを思い出した。
氷の洞窟を探検する日は私の分の防寒着も一緒に持ってきてくれるみたい。
工房から各種装置を受け取って今日の依頼は終わりということなので、私はアドリアンとお別れし、人目につかない所へ移動してから空間移動で家に帰った。
……職人さんに怖い人がいたけど、それでも今日も楽しかったな。
3日目はどんなことをするんだろう……。
……アドリアンと過ごす一週間の三日目、私は、凄く、落ち込んでいる。
今日はアドリアンと手分けをしてシューベトから離れた所にある複数の小さな集落付近を回り、畑や土地を荒らす害獣や魔物を退治した。
依頼者である村落の人達に退治し終わったことをしたんだけど……これまでのように感謝をする人達だけじゃなかった。
遅すぎるって舌打ちしながら怒鳴ってくる人、「どうしてあっちの村落を助けたんだ」って怒ってくる人、「勇士の巡回を増やせないのか」とか報告の時にずっと文句を言っていたけど、私が戻るのが遅いことを気にしてアドリアンが顔を出すと、急にぺこぺこする人……。そんな人達がいた。
アドリアンはこの集落の人達の様子が好ましくないという報告を聞いているって言っていたけど、こんなに悪いとは思わなかった……。
でも、これ、ヨハネスが人助けを提案した時にアドリアンが注意していたのと同じ状況だ……。
依頼の報告が終わった後に静かな場所に移動し、アドリアンが昼食を準備してくれている中、私は彼に今日の村落の人達のことを思わずこぼしてしまう。
「残念ではあるけど、人間にはあんな風に自分勝手な人や理不尽なことを言ってくる人もいる。君が最後に言っていた急に態度を変えてきた人もそうだけど、ああいう人達は、色んな理由で生まれたり、増えたりしてしまうんだよ」
そう話すアドリアンに、村落にいた人達が出てくる理由を尋ねてみる。
アドリアンは「相対的な貧しさ」って説明してくれたけど、難しい……。
アドリアン達の努力がまだ足りないからとも言っているけど、シューベトの勇士や町の人達が話すアドリアンやリーガル達のことを聞く限り、とてもそんな風には思えない。
アドリアン達が魔女狩りへの協力を避けながらシューベトの皆の力になり、更に貧しい別の村にまで支援の手を広げているのは私も分かっているから……。
「少し難しいかな?……そうだな、さっきみたいに態度や心が悪い方に変わった人を生んでしまう理由として、一番分かりやすいのは魔女狩りかもしれないね」
魔女狩りで心が変わる?どういうことだろう?
「リアート村で神族を信仰しつつ感謝している人がいたよね。でも、神族に感謝している人達も教皇に従う勇士に犯罪者として殺すと脅されたことで、彼らはこれまで感謝していた神族を迫害するようになる。そして自分達が恐ろしい目にあったのは神族のせいだと思い込み、いつしか本気で神族を嫌悪するようになってしまう……。そんなことが、バベリア大陸では実は沢山起きている」
アドリアンは子どもの頃に聞いたという具体例も交えて説明してくれる。
……神族と友達だった子が、友達の神族を逃がした所為で家族を皆殺しにされ、本気で神族を憎むようになる、あまりにも酷い話を交えて……。
「こういった事例は全ての人間が心の中に持つ悪性や弱さによって起こることだから、完全に無くすのは無理だと思う。魔女狩りや、さっき言った貧しさを無くしていくことで、減らすことは十分できるんだけどね」
全ての人間が心に悪や弱さを持つ……。
じゃあ、前に疑問に思った、アドリアンもそれらを持っているのかを、彼に改めて聞いてみよう。
彼がさっきの村落の人達のようになったらと思うと、不安と疑念が頭を過ぎりはする。
それでも、今だって、彼がそんな心を持っているようには全く見えない。
「間違いなく、俺も持っているよ。自分の心にある、悪い所や弱い所を含めて俺なのだから。でも、そんな悪い心や弱い心に染まらないように、呑み込まれないように頑張っているんだ。アイールディが会ってきた人達の中にも、そんな風に頑張っている人はきっといる筈だよ」
あ、分かった。そういうことなんだ。
アドリアンが他の人間と同じように悪い心や弱い心を持っていても、いつもきらきらしていて輝いてる理由は、アドリアンが自分の心の中で、ずっと頑張っているからなんだね。
「俺はシューベトの領主を継ぐことになると思うけど、領主の目標として、前に終わらせるって約束した魔女狩りは勿論、俺がこれまで対策していた飢えや渇き、黒い魔力を含めて、皆を弱い自分・悪い自分に傾けてしまうものを少しずつでも解決したいって考えてるよ。君が今日経験したような、嫌な気持ちになってしまうことを無くせずとも、出来る限り減らしていければ……そう思っている」
彼の語る目標、それは人々がさっきの村落のような人になってしまうのをできる限り減らし、リアート村の村長のおじいちゃんやシューベトの農家さんみたいに優しい人達が、自分の弱い心に負けなくなることに繋がる……とても素晴らしいことだと私も思う。
「まあ今は領主の息子が大口を叩いているだけだから、話半分で聞いてくれればそれでいいよ」
「ううん。私、信じるよ。アドリアンが、そんな世界にしてくれることを」
そう私は自然と口にした。
うん、悪い心や弱い心を持っているって自分で認めていても、それに負けないように頑張っているアドリアンのことを、私は信じてる。
「ありがとう。でも、長い時間をかけて取り組むことだからね……。丁度料理ができたし、ひとまずは昼食にしようか」
私はアドリアンと昼食を食べた後、彼とシューべロードやリアートリードを回った。
アドリアンはこれまで彼が見つけてきた野草や作物を実際に示しながら改めて特徴を解説してくれている。
……彼の話を聞きながらも、私は決心した。
どうすればよいかはまだ全然分からないけど、アドリアンが目標を達成できるように、私が手伝ってあげよう。
私も彼が作る世界を見たいから、これからもアドリアンと進んでいこう。
そう、決めた。
原作で一番大事なフラグ
人間の悪性を見た後でも、アドリアンのことを信じる