チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
アイールディと一緒に過ごす四日目、今日は中日ということで根回しした依頼対応は中断し、フレアの背に乗って飛行を楽しんでもらいつつ、各地の地理を上空から彼女に見せるつもりだ。
多分時間に余裕ができると思うから、フレアの高機動形態でマニル島やバベリア大陸も見せてあげられるだろう。
無論、高機動形態を使用する時は、アイールディの体に負担が掛からないよう俺が最大限注意して指示を出すつもりだ。
フレアと一緒に霧の森入り口へ向かうと、果たしてアイールディはそこにいた。
この子に挨拶しつつ表情を窺うも、昨日のことは引きずっていないようだ。
ちょっと安心しながら今日の予定を改めて彼女に伝える。
それでは、アイールディがまだ行っていないだろう場所を実地で空から見て回ろう。
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明日訪れるジーヴ村近辺を中心にフレアに飛行してもらい、無事アイールディにデルカル大陸の様子を見せることができた。
空を飛んでいる時、前回同様アイールディは体を安定させるために俺にしがみついていたな。
慣れてくればそこまでしなくても大丈夫だけど、飛行自体に不安があるならその体勢で身体のバランスを取ってもらおう。
それに、今日は高機動形態でも移動するからより安定する今の体勢の方がいいだろうし。
ジーヴ村近辺の情報で、一番教えておきたかった教皇派勇士達の拠点についても上空からしっかり見せ、何があろうと近づいてはいけないこともしっかり伝えておく。
彼女も頷いていたからこれで大丈夫だろう。
デルカル大陸内を概ね飛行した後は2人で俺が用意したスコーンと野菜スティックを摘まんで軽い昼食を取り、予定していた通り、アイールディの体調に十二分に注意しつつもフレアの高機動形態でマニル島とバベリア大陸へ移動し、それぞれの土地の様子も空からアイールディに見せる。
子どもの時に転生特典用ポイントで取得した小型望遠鏡をアイールディに貸してあげると、この子は各地の様子を目を白黒させながら眺めていたので、きっと楽しんでくれたんじゃないかな。
三日目の後味の悪い出来事が少しでも薄れてくれるといいんだけどね……。
別大陸の光景を十分に楽しんだ後はデルカル大陸に帰って彼女を霧の森入り口まで送り、明日予定している氷の洞窟探索時に使用する防寒着ランブリオを渡しておく。
もしかしたら魔力の盾などで寒さを防げるのかもしれないけど、念のため明日はこの防寒着をアイールディにも羽織ってきてもらおう。
アイールディと一緒に過ごす五日目、今日もフレアに協力してもらい、ランブリオを纏った俺とアイールディをジーヴ村近郊にある氷の洞窟に運んでもらった。
カルダリア洞窟と同様に、氷の洞窟を探索する際に注意すべき点をアイールディに適宜伝えながら溶けない氷を集めていく。
洞窟を回りきる頃にはやはり納品分を超過した数の素材が集まったので、余剰分はアイールディに使ってもらうことにしよう。
足元に気をつけつつ洞窟を出た後は、ジーヴ村にいる素材の納品先……デルカル大陸支援隊のルイスさん達の所に向けて出発する。
アイールディをルイスさん達と顔繋ぎさせるために、こういう形を取っているからね。
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2日目に用意した真水作りの装置を背に乗せておいてくれたフレアから受け取り、アイールディと一緒にジーヴ村にあるデルカル大陸支援隊の詰所に向かう。
ルイスさん達に今日集めた素材と共に装置一式を渡し、無事依頼完遂となった。
アイールディは支援隊の皆にリアート村での人助けや素材集めの件で褒められていたので、対応に困りながらも満更では無さそうだったな。
支援隊のメンバーはルイスさんと国王陛下が直接選抜した人だけで構成されているから、気風のいい人達ばかりだからね。
それにしてもルイスさん、事前の根回しで俺との模擬戦は遠慮してもらっていたけど、代わりに木剣とはいえ初対面のアイールディに対して模擬戦を仕掛けたのはどうなんだろう……。
アイールディの方はルイスさんの強さにとても驚きつつも、悪感情は持ってなさそうだから良かったけど、ちょっとだけ心配しちゃったよ。
唐突な模擬戦も終わり、支援隊の皆と昼食を取った後は人助けの一環ということで、(教皇派の勇士が村に入っていないことを念のため確認した上で)ジーヴ村の見回りを支援隊の皆と行った。
これはアイールディが自分から交流しにいくことがないだろう勇士達が普段どんな業務をしているかを知ってもらうため、一種の職場体験として手配してもらっている。
あと、こうして支援隊の人が見回るだけでも相応に犯罪抑止の効果はあるってことを道中でも伝えておく。
巡回の結果、前世で言うひったくりをアイールディと協力して1人捕まえてしまったが、衝動的な犯行とはいえ盗みを働いた彼は支援隊の皆さんにコッテリ絞られることだろう。
五日目の予定は概ねこなしたが、最後に以前俺が真水作りの実験時にお世話になった地主さんに挨拶に行く。
というのも、六日目の予定は依頼という体を取りつつではあるが、アイールディと一緒に孤児達の相手をするつもりだからだ。
アイールディと共に地主さんの邸宅を訪れ、地主さんとの挨拶と明日の予定について共有を済ませ、今度こそ今日の予定は完了だ。
アイールディにも明日1日は俺と一緒に孤児の相手をすることを了承してもらい、今日は解散となる。
アイールディと孤児達の相性は分からないが、いずれにせよ、明日も彼女に取って良い経験となるよう努めるとしよう。
アイールディと一緒に過ごす六日目、昨日と同じくフレアの力を借りて俺達をジーヴ村まで乗せてもらい、そのまま地主さんの孤児院に直行する。
丁度地主さんの使用人さんが孤児院に入る所を見かけたので、使用人さんに声をかけて挨拶をし、孤児院の皆に俺とアイールディを紹介してもらう。
流石に孤児院の顔触れは一新されていたが、あの時の雰囲気は変わってないな……。
俺達も改めて孤児の皆に挨拶をする。
早速この子達と一緒に遊んだり勉強見てあげたりしようか。
勿論アイールディが本気で対応に困ってたらフォローもするけどね。
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外で遊びたい子は使用人さんが見てくれているので、俺は孤児達の勉強面を中心に見ており、アイールディは以前俺が作った遊具を使って遊ぶ子達を担当している。
アイールディも初めは対応の仕方に戸惑っていたけど、割と早い段階で孤児達に馴染めたみたいだ。
「木とんぼは片方の手を動かさないようにすると上手く飛ばせるのよ!」
「う、うん……。こう、かな?」
「いい感じだよ、お姉ちゃん!」
孤児達の面倒を見るというよりは、彼らと一緒に楽しむ感じになっているけど、アイールディは精神面で幼げな所もあるからその方が自然なのかもしれないね。
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昼食を挟み、もう暫く皆の勉強を見てひと区切りした後、俺は今度は孤児達のリクエストに応えて本を読んであげている。
……ってアイールディ、君も聞く側に回るのかい?
彼女と遊んでいた孤児達も一緒に聞いているみたいだからいいんだけどさ。
そのまま孤児達に数冊ほどゆっくり読み聞かせた後は、そろそろ夕食の時間が近くなってきたので、今日最後のお手伝いとして使用人さんと一緒に夕食を作ることにする。
そこまで時間をかけないようにするから、調理中はアイールディに孤児達を見ていてもらうとしようか。
調理場に行くと妙に魚介類が多かったので使用人さんに理由を聞いてみると、以前一緒に過ごした釣りの上手な子とがたいがいい子を中心にかつての年長組が漁師になっており、彼らが孤児院に魚を持ってきてくれているそうだ。
あの子達も孤児院を巣立って立派な大人になったんだなぁ。
そんなことを思いつつも、魚を順々に捌いていく。
「うん、アドリアンのことは好きだよ。友達だから」
「じゃあお姉ちゃん、あのお兄ちゃんのどこが好き?」
「え、と…………上手く、言えない……ごめんね……」
「えー、残念」
調理しながらでも会話が聞こえてくるな。
アイールディは居間で孤児の皆とお話しているみたいだ。
ちょっと気恥ずかしくなる内容の話も耳に入ってくる。
3日目の件があるからアイールディに嫌厭されてもおかしくなかったのに、それでも俺を好意的に見てくれているみたいでありがたい限りだ。
……よし、後は塩で味を整えて魚介鍋の完成だ。
使用人さんと協力して鍋と食器を食卓に並べ、皆で鍋をつついていく。
うん、あの子達が獲ってくれた魚はいい味だな。
周りを見ると、孤児達やアイールディも食が進んでいる。
綺麗に鍋を食べ尽くし、食器を洗って片付ければ今日の予定は完了だ。
孤児達が見送りに出てきているので俺達はジーヴ村の外に普通に出た後、巡回をひと段落させたフレアにアイールディを霧の森入り口へ、俺をシューベトへ送ってもらった。
明日は最終日ということもあり、単純にあの子が楽しめるようにするため、シューベト南東にあるシューベト山でのんびりピクニックをする予定にしている。
アイールディと過ごしている期間もフレア達が領内を見回ってくれているから可能性は低いと思うけど、最後の最後で教皇派勇士に遭遇して台無しにならないよう注意しておこう。
アイールディと一緒に過ごす最終日、今日は俺一人で霧の森入り口に向かい、アイールディと合流している。
今日は最終日で、これまで人助けに力を貸してくれたねぎらいも兼ねて、シューベト山へピクニックに行く旨をこの子に伝えると……おっとアイールディの方から手を繋いできたな。
何かを確かめるように俺の手を握って何度か頷いているけど、どうしたんだろう?
アイールディに出発しても大丈夫か確認すると、この子は俺の言葉にも頷いているから、とりあえずこのままシューベト山へ向かおうか。
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教皇派の勇士達とはすれ違うこともなく、アイールディと周囲の景色やこの1週間についての雑談を楽しみながら、シューベト山の山頂に到着した。
山頂に着いてからもカルダリア山や周囲の景観を眺めながら暫く取り留めのない話をした後、地面にシートを敷きつつ昼食の準備をする。
といっても、出発前に準備しておいた二人分のお茶とサンドイッチを出すだけなんだけどね。
二人で山頂からの景色や会話を楽しみつつも昼食を取り、食べ終えた後はアイールディに対して1週間時間を取ってくれたお礼を伝える。
「ううん、私も、色々なことができて良かった」
そう言ってもらえると本当に助かるよ。
嫌な気分になった日だってあるだろうに。
「それはいいの。アドリアンが悪い訳じゃないから」
3日目の件はどうなるか分かった上で選択した責任が俺にはあるから、その言葉には同意してはいけないかな……そう内心だけで口にする。
この子の優しさに甘え続けるのは良くないからね。
「……ねえ、アドリアン。私、アドリアンのこと、手伝ってあげるね。アドリアンが目指す世界を作れるように」
目指す世界……ああ、3日目に教えた俺の目標についてアイールディは言っているのか。
でもそれは、最後は俺達人間が自分自身と向き合って取り組むべき課題でもあるからなぁ。
ただでさえこの子は古代神達の後継としての試練や修行が待ち受ける身なのだから、抱え込みすぎるのはまずいだろう。
それでもまた余裕があるのなら、他の神族や信のおける人間との交流、後は人生を彩る趣味を広げたりするのにリソースを割いた方が良いと俺は思うな。
それに、ここまで彼女のために臨時の育成担当として勤め、圧縮日程による詰め込みではあるものの、知識の拡充・人間に関する教育・情操を育む土台を用意出来たと思うから、もう育成補助を一区切りつけても良いだろう。
教育という行為が他者に与える影響を鑑みれば、俺と交流することばかりに時間を費やすのは健全とは言えない。
短期間とは言え、この子と相応に濃い時間を過ごした分確かな寂しさはあれども、そろそろ守破離の破や離に移らないと。
勿論、この大陸での魔女狩りを片付けるまではアイールディのことをしっかりサポートするつもりだけどね。
とはいえ、さっきのセリフは彼女の純粋な気持ちから出たものだから、手伝いたいという気持ちや言葉での応援だけでも充分だってと返しておこう。
あと、明後日は他の神族に会いに行くことを覚えているか、確認の意味を込めて口にしておく。
……アイールディ、「そういえばそうだった」みたいな顔をしてるな。
君自身が興味を持ったことなんだから忘れないでね……。
でも、この一週間は彼女にとって普段やらないこと尽くしだったからしょうがないかな。
気を取り直して明後日また霧の森入り口で合流した後、リアート村北東のワディラムへ一緒に神族を訪ねる予定を再共有し、少し早いが今日はお開きとなった。
空間移動の魔法で帰っていくアイールディを見送り、俺も一旦シューベトの自宅に戻る。
さて、今日の残りと明日は秘密基地もフル活用して俺しかできない雑事を片付けておこう。
通常業務から外れた最終日となる明後日は先ほど確認した通り、アイールディをルーカス達と顔合わせしてもらう日となる。
神族同士の顔合わせが済めば、俺自身はいよいよ本格的に魔女狩りを終わらせる準備に移行するつもりだ。
具体的には、教皇派拠点へ潜り込む段取りを本格的に組むことになる。
教皇派拠点では黒い魔力の石を使った違法研究をしているのは間違いないから、研究の証拠を確保してしまえば、教皇派拠点を潰す名分が立てられる。
こちらの決戦時期を調節し、バベリア大陸での魔女狩り終結の日、すなわち教皇城決戦の後に俺達が教皇派拠点に対して攻撃を仕掛ければ、魔女狩りに関連した試練の邪魔をせずに済む上、かつ外部からの敵増援をほぼ考慮せずに戦えるだろう。
詰めを意識するには少しだけ早いが、魔女狩りの終わりをしっかり見据えつつ行動していこう。
マリー「あの子の心、凄く成長してるわね……。特に、三日目で」
モレル「こうなると、私の課す試練は最早通過が確定してしまっているな。喜ばしいことなのだが、何故こうも的確に……」
レフガト「最も苦しい試練の筈なのだけどね……。彼女に例の服を仕立てるよう伝えておくよ……」