チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
魔女の泉Rの主人公・パイベリー視点の幕間となります。
あたしはパイベリー。パイとイチゴが好きで、自分で自分の名前を付けた魔女。
夢で見た美味しいパイを食べたい。
そんな願いをきっかけに、あたしの家がある森を出て色々な所を冒険している。
旅の過程で神殿長のアルア様、エイムハード様から認められて加護を貰ってるけど……。
本当のお母さんではない。でも、もう一人のお母さんと思っているパイ職人にして今のあたしにとって一番大切な人、アンナをあたしは亡くしてしまった……。
アンナを失ったあたしは完全に気力を無くしていたけれど、あたしの奴隷……もとい部下である、黒くて丸っこいブサイクな鳥のブラックジョーが本当に熱心にエリシオン神殿へ行くことを奨めてくるから、深く抉られた心の傷を自覚しながらも、彼を信じて旅を再開しているんだ。
今、あたし達はエリシオン様に封印された世界で最も大きなドラゴン・ナルエルと交渉してエリシオン神殿に近づくためのルートの一つである黒石窟の入り口を開いてもらった。
危険ではあるけど、神殿への最短ルートが塞がれていたからしょうがない。
早速黒石窟に踏み込んだんだけど……。
「う……ここ、黒い魔力が充満してる……」
「多分大陸で一番黒い魔力が濃い所っすからね。ここでは黒い魔力の石も大量に見つかるっす。魔物も黒い魔力に汚染されていると思うから、危険度も高いっす」
黒い魔力にひるみつつも歩みを進めていくと、ブラックジョーが黒石窟の特徴について詳しく教えてくれる。
「北東方面に抜けていきましょう。北西はドラゴンバレーに通じるので危険っす」
ブラックジョーはそう道を示してくれているが……。
「ねえ、ブラックジョー。何かさ、北西方面の黒い魔力、明らかに弱く感じない?」
「はあ?いやいや。黒い魔力は一定量以上だと神殿長だって完全な浄化は無理な代物っすよ。黒石窟内の黒い魔力が弱くなるなんてことが起きる訳…………ホントに弱く感じるっすね」
危険であるという北西方面からは、黒い魔力が弱くなってると思えるんだ。
ブラックジョーも同意しているから勘違いじゃないよね。
……寄り道かもしれないけど、すごーく気になる。
「んー、危険かもしれないけど……北西方面、見に行ってみない?神殿長でも浄化できないほどに濃密な黒い魔力が浄化されている……。それ、気になるんだ」
「マジっすか?いやまあ、気になるかならないかで言ったら、メチャクチャ気になるっすけど……。でも、エリシオン神殿からは遠くなるっすよ。それと繰り返しになりますが、竜の巣窟であるドラゴンバレーはバベリア大陸でも最大の危険度っす。それでも行くっすか?」
「うん。危なくなったら空間移動で逃げるよ!」
あたしの返事を聞いたブラックジョーはため息をついていたけど、ちゃんと注意してくださいよ、とだけ言ってそれ以上の反対はしなかった。
本当、ブラックジョーは付き合いが良いよね。
黒石窟を北西方面に進んでいく。
黒く汚染された魔物やゴーレムは回避しながら先へ進んでいくと……。
「途中から、ただの洞窟になってるね……」
「マジで黒い魔力が浄化されているよ……。誰がやったんだ、これ……」
北西に近づくたびに黒い魔力が弱くなり、途中から黒石窟はとうとう普通の洞窟に変わってしまっていた。
普通の洞窟となっている箇所にはゴーレムがウロウロしていたが、そちらも黒い魔力に侵されている様子はない。
「このまま、進んでみるよ。ここから黒い魔力が無くなってる手がかりがあるかもしれないし」
「しつこいですけど、危なくなったらすぐ撤退っすよ」
ブラックジョーの注意に頷きつつ、あたしは普通になってしまった洞窟を抜け、ドラゴンバレーへと足を進めた。
切り立った峡谷の間にある細道を進んでいくが、幸いエリシオン平原で見かけたドラゴン達の姿は見えない。
……あれ?少し進んだ先、開けた所に煙が上がっている。
何となく、いい匂いがするけど……。
ちょっと行ってみよう。
煙の上がっている所に辿り着くと、実際に目の当たりにしても信じがたいことに、そこでは一人の人間の男の子が鍋に火をかけていた。
美味しそうな匂いは鍋から漂ってくるから、この子は途轍もなく危険なはずのドラゴンバレーで料理をしているんだ。
あ、男の子が私達に気が付いた。
「珍しいね。こんな辺鄙な所に俺達以外に旅人が来るなんて。それもこの危険な情勢に、神族の」
「ブッホ!!!」
「いや、人間の貴方がこんな危ない所にいる方があたしには信じられないよ!!!」
動揺した心のまま全力で叫ぶ。
あと、突然ブラックジョーが噴き出してるけどどうしたのよ。
「あー。それもそうだよね……」
片手で頭を搔きながら、ブラックジョーに目線を向けつつもう片方の手の指で唇をなぞっている。
今度はブラックジョーが激しく頷いているけど、ホントどうしたのよ……。
「まあとりあえず、初めまして。俺はアドリアン。危険な場所にいるのは、俺が探検家だからだね。君の名前を聞いてもいいかい?」
青い瞳で金髪、とてもかっこいい顔立ちである男の子・アドリアンはマイペースに自己紹介している。
動揺もやっと落ち着いてきたので、あたしも名乗ることにする。
それと、彼の視線から感じた疑問も聞いてみよう。
「えっと、あたしはパイベリー。こっちは部下のブラックジョー。でも……あなたはあたしを見て『邪悪な奴』とか『殺してやる』とか言わないの?」
そう、彼は魔女であるあたしを見ても嫌悪や敵意を全く向けていない。
ララク村で交流したセラやダヴィド達みたいに。
「え?君は俺を暴力で叩きのめして所持品を奪ったりするの?」
「しないよ!!」
それをやるのは問答無用であたしを襲ってきた勇士とかだけだよ!!
「じゃあそれが答えだね。俺は目の前の人がどんな種族か、ということでは相手を判断しないさ。襲ってくるなら抵抗するけど、そうでないなら交流しようとするよ」
君はちゃんと話ができそうな人だと思うし、そうアドリアンは続けて言ってくれた。
「だから、あたしが魔女でも気にしない?」
「うん」
即答されちゃった。……えへへ、なんだか嬉しいな。
あれ?アドリアンが近くの岩を2つ抱えて鍋の周りに置いている。
「せっかくこんな所まで来たんだし、良かったら、今作ってるシチューを一緒に食べていくかい?ご馳走するよ」
そんな提案をアドリアンはしてきた。
彼が鍋の周りに置いた岩は平らで座りやすく、お皿を置くこともできる。
つまり、私達用の席ということだ。
「え、いいの?嬉しいけど……どうしてそんなに親切にしてくれるの?」
私達、初対面なのに。
まあ彼が飛び切り親切っていうだけかもしれないけど。
「何となくだけど、君が凄く苦労してそうに見えたからだね。……それに、深く傷ついているみたいだから、僅かばかりでも気晴らしになれば。そう思ったんだ」
アドリアンは悲しそうに、でも、同時に労るようにこちらを見つめている。
彼は、あたしが受けた心の傷に、詳細は分からずとも気づいているんだ……。
……うん、ありがとう。
いっぱい歩いてお腹も空いているし、一緒にいただくね。
シチューが煮えるまでもう少しかかるということで、あたしは岩に腰かけ、アドリアンと雑談しながら料理が完成するのを待っている。
不思議なことに、エリシオン平原で見かけたドラゴン達はこの場所の近辺にやって来ない。
「ねえねえ。アドリアンが探検家だって言うならさ、あっちの黒石窟が途中から浄化されている理由って分かる?」
あたしはドラゴンバレーに踏み入れるきっかけになった件についてアドリアンに聞いてみると、衝撃的な回答が返ってきた。
「ああ、それは俺が自作した黒い魔力の浄化剤を使って浄化しているからだね。俺は黒い魔力の浄化研究もしていてね。ドラゴンバレーに来ているのは、浄化剤の材料を取るためでもあるんだよ」
危険物である黒い魔力の溜まり場は放置できないからねー、なんて呑気なセリフを続けて彼は言っている。
「えええええ!!?アドリアンが浄化したの!?本当に!?」
「お前人間じゃねぇか!!法螺を吹くにしても、もうちょっとマシな嘘を付けよ!!」
ブラックジョーもたまらず叫んでいる。
あたしも嘘なんじゃないかと一瞬頭に過ぎったが、彼はそんなつまらない嘘を言う人ではないと本能は訴えている。
「元から魔力を帯びてたり含んだりしている素材を使えば、魔力のない人間でも作れる魔法薬はあるんだよ」
そうアドリアンは穏やかに返しながら、彼は分厚い手袋を嵌めつつ、鞄から厳重に封をした箱を開き、少し大きめの黒い魔力の石を1つ取り出して地面に置いた。
そして、続けて取り出した小さな薬瓶に少しだけ残った銀色の液体を数滴垂らすと……黒い魔力の石は、一瞬でただの石に変わってしまった。
本当に、黒い魔力が浄化されちゃったよ……。
「う、嘘だろ……。神殿長辺りがこっそり用意していた薬品を使っているだけじゃないのか……?」
「調合の基礎はしんぞ……コホン、魔女として追われている人から習ったのは間違いないけどね。作り上げたのは俺自身だよ。3年以上試行錯誤したんだ」
ブラックジョー、アドリアンは嘘を言ってないよ。
あんた自身も自分のセリフを信じてないでしょ?
ちょっとやってることが凄すぎて理解が追い付かないのは分かるけど……。
「だがよ、その薬品の材料を確保するためとはいえ、お前がこんな危険地帯に踏み込んで、これまでずっと無事なのは何でだよ?」
それはあたしも疑問に思った。
今はドラゴンが出払っているみたいだけど、ここは本当はバベリア大陸でも飛び抜けて危険な場所のはずだ。
「それは頼もしいパートナーも一緒に来ているからだね。そろそろ戻ってくるんじゃないかな?」
頼もしいパートナー?
そう疑問に思うや否や、ドラゴンバレーの奥側から、一直線に赤いドラゴンが私達の方に高速で飛んできている。
あまりの急展開に体を硬直させてしまった私達の目の前に、体の鱗が赤く熱されているドラゴンが降り立った。
『アドリアン、戻ったぞ。シチューが出来るにはもう少し、という所か?……ふむ、客人が来ているようだな』
赤いドラゴンはアドリアンに声をかけつつも、私達のことに気が付いている。
彼へ親しげに話しかけているということは、この赤いドラゴンがアドリアンの言うパートナーってことだよね。
……何となくだけど、このドラゴン、ものすごーく強そう。
(デュラック神殿長の守護動物テーマル……いや違う。マグリックドラゴンではあるが、あいつより明らかに若い。だ、だが、若い個体であるにも関わらず、人間の言葉を操る上、炎熱のオーラがテーマルですら比較にならないぐらい磨き上げられているぞ……)
「ブラックジョー?」
ドラゴンを見て戦慄しているブラックジョーに声をかけると、彼は小声でドラゴンについて補足してくれた。
「ご主人様、絶対に、あのドラゴンに喧嘩を売らないでください。若い竜ですが、恐らくあのドラゴンは天賦の才を持っているとしか言いようが無い……早い話が、人間の天才ならぬ竜種の天才っす。エリシオン平原を飛んでいたドラゴンも、ゴミのように消し飛ばせる強さだと思って間違いないっす」
え゛。そ、そんなに?
……もしかして、平原で見た岩みたいな表皮のドラゴンがこの近辺にいない理由って……多分、とんでもなく強いだろうこの赤いドラゴンを避けているからってことだよね……。
だからアドリアンはドラゴンバレーに入っても大丈夫だったんだ……。
『アドリアンの客人なのだろう?そこまで警戒せずとも、襲うような真似はしないさ。私はマグリックドラゴンのフレアだ。お前達の名前を教えてくれるか?』
「えっと、あたしはパイベリー!こっちは部下のブラックジョーだよ!」
『ああ、よろしく頼む。パイベリー、ブラックジョー』
「……若いドラゴンのくせに、いやに穏やかな奴だな。まあご主人様を襲わないなら何でもいいけどよ」
でも、優しそうなドラゴンで良かったよ。
ブラックジョーの見立てが合っていれば、戦闘になったら逃げたり加護を発動する間もなく死んでた可能性が高いと思うし……。
「さ、クリームシチューができたよ。どうぞ、パイベリーさん。そちらのブラックジョーさんも」
いつの間にかシチューができたみたいだ。
アドリアンがシチューをよそってくれた木の皿と木匙を受け取る。
ブラックジョーの分も小皿にいれてくれてありがとう。
フレアはどうするのか気になってたけど、お玉で直接口に入れてあげるんだね。
気を取り直し、あたしは木匙で自分の分の白色シチュー……アドリアンがクリームシチューと呼んでいた料理を口にする。
「うん、美味しいよ!」
スープに入っている野菜は良く煮えているから簡単に噛み切れるし、一緒に入っている鶏肉が濃厚だけど優しい味のお汁と凄く合っている。
夢中で匙を動かしつつ、シチューを口へ運んでいく。
「気に入ってくれたのならよかったよ。お代わり、いるかな?」
アドリアンも笑顔でシチューを食べていたけど、食事の途中にそんなことを言ってきた。
お代わり……あ、あたしの分をまた入れてくれるんだ。ありがとう!
そうしてあたしはアドリアンの作った美味しいシチューをお代わりした分も含めてたっぷり堪能させてもらった。
へへ、お腹いっぱいになっちゃった。
「俺に色々なことを教えてくれた教官の受け売りになってしまうけど、それでも深く傷ついた君に俺が出来そうなこととして、励ましの言葉を伝えるね」
……?何を伝えるんだろう……?
「今の料理は君が心から求めたものではない以上、君の受けた痛哭を癒すには至らないはずだ。世の中は思い通りに行かないことがあまりに多い……。それでも、今君がそうしているように歯を食いしばって進んでいけば、君が元々求めていたものとは別のものを得たとしても、頑張ってよかったって思える未来が君を待っているはずだよ」
この先に進めば、こんなシチューなんかよりも、もっと素敵なものを手にすることができる、そう彼は締めくくる。
「そう、かな……」
言葉が、ついこぼれる。
「絶対にだ。希望は必ずやって来る。これ程までに、傷つきながらも君は頑張っているんだから」
アドリアンは、そうあたしを励ましてくれている。
「あたし、頑張ってるかな……」
「この上なく。良い報いが必ずあると、初対面の俺が確信できるぐらいには」
またこぼれた言葉に、彼は力強く断言した。
何でだろう。何だか、涙が出てきちゃった……。
「君は頑張ってる。頑張ってるよ……」
アドリアンは表情に悲しみを湛えながらも、ポロポロ涙を零すあたしの頭をゆっくり撫でてくれている。
……少し、心が軽くなったと思う。
落ち着いたあたしは、アドリアンに励ましてくれたお礼を伝えておく。
……泣いちゃったのは、ちょっぴり恥ずかしかったけどね。
「それじゃあ、今度は口だけの励ましだけでなく、ちゃんと役に立つ物も贈らせてもらおうかな」
入れ物が予備で間に合わせの飲用ポーション瓶で恐縮だけど、と言いながらアドリアンはあたしに見慣れたポーション瓶を2本渡してくる。
中には銀色に輝く液体が入っているけど、これ、もしかして……!
「俺が作った黒い魔力の浄化剤だよ。黒い魔力に汚染された生物にも大体4ヶ月以内なら効果があるのを確認してる。何かの役に立つかもしれないから持っていってね」
「やっぱり!ありがとう、アドリアン!」
黒い魔力の厄介さは身に染みている。
黒石窟すらも浄化させる代物なんて、あたしがどれだけ研究しても作れるか分からない魔法薬だ。
よく考えて、大事に使わせてもらおう!
『では、苦難の道を歩むお前達に対して、私からも僅かばかりではあるが助力を行うとしよう。お前達の次の目的地を教えてくれるか?』
「いいよ。エリシオン神殿に行く予定なの!」
『分かった。ならばエリシオン神殿まで、私の翼をお前達に貸すとしよう』
え……!翼を貸してくれるってことは……!
「貴方の背中に、私達を乗せてくれるの!?」
『ああ。私と共に行けば、然う然う他のドラゴンに襲われることはない。他の生物が仕掛けてきたとしても、無事に神殿へお前達を届けてみせよう』
「やったぁ!私達、回り道をしていて、なかなか神殿に近づけなくて困ってたの!」
とっても強いだろうフレアに乗せてもらえるなら、エリシオン平原を飛んでるドラゴン達も手は出せない。
寄り道したつもりだったけど、むしろ近道になっちゃった!
「姿勢は大丈夫かな?バランスを崩しそうになったら伏せ気味になってね。本当に危なくなったら俺が後ろから押さえるよ」
『パイベリー。お前に問題がなければ飛び立つが、行けそうか?』
「うん、大丈夫!いつでも行けるよ!」
アドリアンからフレアに騎乗する際の注意を受けながら、この赤いドラゴンの背中に乗る。
あたしはアドリアンの前側に乗っており、もし落ちそうになってもアドリアンがあたしの肩を押さえて落下を阻止できる位置だ。
『よし、では行こうか』
フレアは翼を羽ばたかせ、静かに空へと舞い上がった。
ちょっと独特の揺れがあったので、アドリアンのアドバイス通り、体を少し伏せ気味にする。
おおー、ドラゴンバレーを空から眺めると、迫力満点だ!
「最短距離でエリシオン神殿に行こうとすると、教皇城に近くなるね。フレア、念のためエリシオン平原側から神殿に向かえるかな?」
『分かった。では南東に移動してから神殿に行こうか』
教皇城……教皇がいる場所ってことだよね。
ありがとう。あたしのこと、教皇にばれないよう気を遣ってくれたんだ。
内心お礼を言いつつ、爽やかな空の旅を暫く楽しんでいると、急にアドリアンが厳しい声を出した。
「……!フレア、北西方面!敵が来るよ!」
『ああ、気づいている。あれは……ドラゴンではないな。ヌーク種、か?』
え、敵!?
あたしも北西方面に目を向けると、遠くから闇色に染まった大きな鳥らしき生き物がこちらに近づいてきている。
「合っている。あれはヌークだ。それも黒い魔力に汚染された死体だな……。鎧を着けているから、教皇の生物兵器だぞ!」
ブラックジョーがこちらに仕掛けようとしているヌークについて補足してくれる。
教皇の兵器……!フレア!対応できるの!?
『無論だ。すぐに済ませる。……せめて一撃で眠らせよう』
直後、ごく一瞬でフレアの口元に膨大な熱が集い、超速で打ち出されたフレアの収束ブレスがこちらに近づいていた汚染ヌークの頭を消し飛ばし、そのままヌークの全身を貫いていった。
頭を失い、体にも大穴を空けた汚染ヌークは力を失ったように地表へ墜落していく。
と、とんでもない威力だね……。
ほんの瞬きの間しかチャージしてないのに、あたしがアルア様の加護を使って放つ雷でも全然敵わない超強力なブレスだったよ……。
「フレア、あのヌークの上に白装束の女の子がいなかった?どことなく、パイベリーさんに似た気配の気がする子だったんだけど」
『間違いなくいたな。大鎌を構えていたから敵と判断して配慮はしなかったが。だが、ヌークが落下したことで私の射程範囲外となってしまった。恐らく下の木々とヌークの死体がクッションになるから命は無事だろうが……』
あたしに似た感じの女の子?じゃあ汚染されたヌークの上に見えた白っぽい何かは魔女だったのかな?
「ご主人様。教皇の話を盗み聞きして僕は知ってるんですけど、そいつは多分教皇の戦闘兵器である執行者って奴っす。教皇は捕らえた魔女の魔力を奪った後、黒い魔力を使った改造と洗脳を施して執行者として運用してるっす」
「何それ……最悪すぎるよ……」
「度し難い所業だね……」
ブラックジョーの説明を聞き、あたしとアドリアンの感想が重なる。
うん、教皇ってほんっとうに悪党だね。
『済まないが距離が空いてしまっているので、其奴への追撃は控える。お前達を神殿付近に届けるのを優先するが、構わないな?』
「うん、大丈夫だよ」
あのヌークの死体は今の位置からずっと遠くに落ちちゃったからね。
その執行者も徒歩ではエリシオン神殿へ早々には来れないだろうし、一旦は忘れていいと思う。
あたしの返事を聞いたフレアは神殿への飛行を再開した。
それじゃあ、あたしはもう少しの間、空の旅を楽しもうっと!
『さあ、着いたぞ。後は丘を道なりに進めば神殿に辿り着けるだろう。ここからでも建物が見えるしな』
「すっごく助かったよ、フレア!」
お礼を言いつつフレアの背から降りる。
空を進む感覚はとても気持ち良かったから、少し名残惜しいね。
「パイベリーさん、ブラックジョーさん。俺達はここでお別れだ。君達の旅の結末が良いものになるよう願ってるよ」
『生きていれば、またどこかで会えるだろう。達者でな』
「うん!アドリアン、フレア、本当にありがとう!また会おうね!」
再びドラゴンバレーの方に飛び去っていく、とっても優しくて親切な彼らをあたしは長いこと手を振って見送った。
「僕が予定していた方法とは違いますけど、何とか神殿前に辿り着けたっすね。エリシオン神殿にはすぐ行くっすか?」
「んー、少し周りを見てから出発するよ!」
ここ、景色がいいしね。周りを眺めてからにしたいな。
それじゃあ、ちょっとあっちの方から見てみよう!
いくよ、ブラックジョー!
アルア「(絶句)」
エイムハード「素晴らしい……黒い魔力の完全なる浄化……こういった形で果たすとは……」
以下余談ですが、アルア神殿長は空の権能を持つ神で、エイムハード神殿長は絶対結界の力を持つ神です。
エイムハード神殿長は黒い魔力や邪悪な魔物の封印を担当していますが、そんな彼をもってしても一定水準を超えた黒い魔力の完全な浄化はできません。