チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
ヨハネスさんがマリーの泉にエイリンを突き落としたって……何故?
正直俺も理解でき……いや、相談を受けている俺が思考を放棄してはいけない。
それに冷静に考えると、ラガー神官がマリーの森への通行を許可している人物で、今日アリバイがないのはフレアを除いて1人しかいない……。
仮にフレアが現場を見てなくても、ラガー神官が森に許可した人以外を通していないことが確認できれば、これでヨハネスさんが実行犯だと確定できてしまう。
(アドリアン、理由はわかるか?それとも、例の執行者にかけられているという洗脳に類するものが原因だろうか)
……第一候補の理由はヨハネスさんが洗脳を受けた、でいいかもしれない。
ヨハネスさんは戦闘能力がない以上、誘拐されても抵抗はできないだろう。
だがその場合、エイリンの状況はフレアが口にしたものとは異なる形になる可能性が高い気もする。
ただ、ヨハネスさんに動機が全くなければこれが一番怪しい。
第二候補の理由、つまりヨハネスさんが自分の意志で事件を起こした場合の動機……動機…………うわぁ……情を完全に切り捨てた形にはなるけど、あるな……。
即ち、デルカル大陸の……特に貧しい村の未来を拓くために泉を復活させる、という理由だ。
一番魔力が多いエイリンを泉に叩き込むことで、マリーの泉に魔力を一気にチャージさせるという魂胆なのだろう。
アイールディが泉の根幹部で「吸い込まれそう」と表現していたことから、実際に神族を泉に落とすことで魔力を溜めることは可能であると思える。
そうなると、洗脳ではなく自分の意思でやった説の方が有力だよ……。
だが、ヨハネスさんが俺が想定した通りの目的を果たすために事件を起こしたとしても、その手法にはデメリットが3つある。
1つ目のデメリットはリスクリターンを天秤にかけて必要だと判断し、実行に踏み切ったと想定することは可能だ。
2つ目のデメリットはシンプルに知らない可能性が高い。俺も王立図書館の古書を読んで知った内容なのだから。
そして、3つ目のデメリット……ヨハネスさんはなんでこれをスルーしてるんだ?
そんなことしたら大問題だってちょっと考えれば分かるのに……。
ヨハネスさんが単に気づいていないとしたら、神族達の心情に対して余りにも想像力が欠けているとしか言えない……。
(どうするアドリアン。ヨハネスが自身の意思で事件を起こしたのなら、遠目から私の見る限りだが、彼の目的は果たせずに終わっている。泉は何一つ変わらなかったからな。だが、今回の一件で単純にヨハネスを排除してしまうと、別の問題が浮上する気がするのだ)
そうなんだよね……。
ヨハネスさんは王宮特使……デルカル大陸を救うという使命を携え、国王陛下の名代にかなり近い存在としてシューベトに派遣されてこちらを手伝っているという立ち位置のため、その立場は非常に高いと言える。
流石にシューベト領に被害を与えうる行動を取った場合は拘束できるけど、そうでない場合は彼を掣肘することはできないのだ。
魔女狩りに本心から賛成しているのなら、魔女を助けたという理由で捕まえられるかもしれないが……。
しかもバベリア王国への法律では人間同士の傷害で罰則はあれども、神族関連の加害や被害については定義されていない。
つまり、今回の事件ではヨハネスさんを捕まえる公的な根拠を用意できないため、表立って捕まえるのが難しい状況だ。
加えて救荒作物の栽培・シューベト城西海岸の工事など魔女狩り対策を始めとする政務の多くをヨハネスさんに回しており、彼はその有能さできっちり仕事をさばいている。
俺が強襲してヨハネスさんを無理やり牢屋に叩き込むなど真っ当ではない手段でヨハネスさんを拘束・排除してしまうと、今度はシューベトが政務面で大混乱を起こしてしまい、せっかく始まった魔女狩りを終わらせるための動きに多大な悪影響が出てしまう。
もどかしいが、少なくとも魔女狩りを終わらせるまでは、実務面の問題でヨハネスさんを排除するのは難しいように思える。
なんて面倒くさいんだ……。
しかし、何も対策せずに放置はあり得ない。
ヨハネスさんが自発的に事件をおこしたのなら、最良の流れは今回の失敗を受けて彼が自分の手段を諦めることだ。
この場合はヨハネスさんにエイリンへ謝らせ、エイリンから裁きを受けさせればそれで済む。
だが、あくまで同じ方法でヨハネスさんが目的を果たそうとするなら……。
ヨハネスさんが実際に行動に移す、あるいは移す布石を打てない様にしないとまずいな。
それとヨハネスさんが親しく付き合いのあるエイリンすら生贄に捧げたことから分かるが、彼は目的のためなら手段を選ばない性質である可能性が高い。
そうなると、毒や睡眠薬、人質、他人を唆すといった手法を決定的な場面で使ってきてもおかしくないから、今後の皆の安全を鑑みれば、状況を整えてヨハネスさんが取った手段の欠陥を示し、彼がやろうとしていることを諦めるよう説得する必要もあるか。
前者は情報収集を担当しているベリータさんに事情を説明して力を貸してもらおう。
俺が覚えているベリータさんの予定が合っていれば、今日は丁度ジーヴ村の支援隊詰所に居るはずだ。
ついでに俺も転生特典を使って監視用のアイテムなり能力なりを取得して、ヨハネスさんがおかしな動きをしていないか適宜チェックするようにしよう。
マルチタスクを鍛えているからヨハネスさんの監視に割くリソースは最低限で済む。
なんなら特典で呼び出した自立型の監視装置に任せてもいい。
後者は俺の話に説得力を持たせるために、神族の協力がいるな。
もしヨハネスさんが自身の手段を諦めていないと確信が持てたら、皆に根回ししてOKしてくれた人に説得を手伝ってもらうか……。
(方針は分かった。では、アドリアンは一度ジーヴ村に降ろす。エイリンの救出はパディが森に行った以上、アドリアンが最短ルートで行かずともまず問題あるまい。私はそのままアイールディを森に運び、念のためラガーに許可した人物以外を通していないか聞いておこう。それと限界はあるが、今後は私の方でもヨハネスが妙な真似をしないか注意しておく)
うん、頼むよ。
一番はヨハネスさんが今回の失敗で断念してくれることだけど……。
ジーヴ村に到着すると、教皇派の勇士がマリーの森付近で活動していたかを支援隊の勇士達に確認するという名目で一旦フレア・アイールディとお別れした。
デルカル大陸支援隊の詰所に入れてもらい、ベリータさんを探すが……ああ、こっちの部屋でルイスさんといるみたいだ。
ノックをし、了承を得てから部屋に入る。
「あら、アドリアン様。丁度良かった。シューベトへは早馬で情報を上げたのだけど、あたしが見つけたものと、こっちのルイス隊長達が確認した内容と合わせて、ちょっと気になる報告があるのよ」
表情が少し厳しい。良くない情報があったのかな……?
それに、支援隊とベリータさん達双方の情報網に引っかかった内容?
嫌なものをどことなく感じながらも続きを促すと、今度はルイスさんが説明してくれた。
「教皇派拠点、あるいは教皇派勇士と共に白装束で仮面を付けた子どもが目撃されています。互いの情報を照合すると、数は恐らく3人。肌を露出しないようにしていることから、神族であることを隠しているように思えてもどこかおかしい……そんな子達です」
うわぁ、執行者がこっちにも出てきたか……。
俺はブラックジョーさんから聞いた執行者の情報を2人に共有しておく。
「教皇……冒涜が過ぎるな……」
「完全に同意見だけど、現実を見ないとまずいわね。神族がベースの兵器ってことは、どれだけ実力を低く見積もっても、特級勇士を大幅に上回るはず。こっちの戦力でその子達に勝てるのは、アドリアン様とフレア君、後はルイス隊長ね。戦闘になっても粘れる勇士は領主様とラーク守備隊長、それと支援隊の副官さんもかしら?でも、それ以外の勇士では被害が拡大するだけでしょうね……」
ベリータさんの見解は合っていると思うけど、やはり厄介だな……。
教皇派勇士の連中が執行者をどのように運用してくるか分からないが、執行者が仕掛けてきたら俺やフレアの担当にした方が良いということだろう。
「アドリアン様、貴重な情報感謝します。私の部下にもこの件を伝えておかなければならないな」
「あたしももう一度シューベトに早馬を出さないと。……そういえばアドリアン様、ここを訪ねたってことは、あたしかルイス隊長に用があるのかしら?」
そうなんだけど、こっちの話も面倒事だ。
ルイスさんも信頼できるし、このままマリーの森で事件を起こした人物・ヨハネスさんについて相談しよう。
「何ということを……」
「そんなことするようには思えない子ではあるけど……でもアドリアン様とフレア君は、その手の真剣な話で冗談は言わないわよね……」
そんなことをしそうに見えないというのは俺も同意する。
でもヨハネスさんの経験しただろう出来事……絶望するほどの飢えや渇きを考えると、動機があるんだよなぁ……。
「ヨハネス君を無理にでも捕まえる……駄目ね。魔女狩り終結のために動き出した今、それをやってしまうとシューベトの内政面で問題が起きるってあたしでも分かる。だからアドリアン様がヨハネス君を捕まえずにこうして相談に来てるんだし。狙ってやってるなら大したものだわ」
「しかも今回ヨハネス君がしでかしたことは、バベリア王国における現行の法では罪には問えず裁けない。余計に捕まえることはできないな……」
そう、ここでヨハネスさんを捕まえても私刑になってしまう。
その他にも問題が出てくるから本当に困ってる。
俺はベリータさんにゴールドの入った袋を渡しつつ、ヨハネスさんが怪しい動きをしていないか出来る範囲で監視してもらうことを依頼した。
「まあ、そうなるわよね……。承ったわ、アドリアン様。教皇派に対しての情報収集があるからこの件に専念はできないけど、一緒に対応しておくわ」
「あまり他言できない内容なので、私も副官にのみ情報を共有し、ヨハネス君の同行に気を付けておきましょう。……ベリータ、お前はこんな時にも報酬を要求しているのか?」
「傭兵だからねー。それでもアドリアン様の頼みだから、ゴールドなしでもやってたと思うわ。領主様の依頼とかち合わない範囲限定だろうけど。ただ、このままシューベトに永久就職しそうではあるから、そろそろ依頼料も要らなくなるかもね」
良かった。ベリータさんに引き受けてもらえたか。
何だかんだ言いつつも、ベリータさんはほとんどシューベトの一員になりつつあるみたいだね。
それにルイスさんにも気を付けてもらえるならありがたい限りだ。
あと、ヨハネスさんがあくまで諦めないようなら、俺が彼のやり方の欠点を指摘して説得することも二人に話しておこう。
「なるほど……言語化するのが難しいですが……ヨハネス君は一種の視野狭窄に陥っている可能性がある。状況を整えれば、説得の余地は十分にあるでしょう」
「あー、ヨハネス君が神族を物凄ーく尊敬してるっていう普段の態度が嘘でなければ、その指摘は確かに効果がありそうね。じゃあ、あたし達はヨハネス君が変な行動をしていることを確認できたら、アドリアン様が説得の段取りを組めるよう動き方を調整しましょうか」
2人から見ても説得できる可能性があるなら上手くいきそうかな。
あのデメリットを無視しているのが本気で理解できないからなぁ。
……勘ではあるけど、ヨハネスさんを説得する羽目になりそうな気がするな。
ヨハネスさんが諦めてくれるのが本当は一番いいんだけどね……。
「……ヨハネス君の件については方針が決まったので、少し話題を変えましょう。アドリアン様、現在のシューベトの動きからして、デルカル大陸の魔女狩りを終結させるため、最終的には教皇派拠点を攻撃し、かの場所を制圧ないし破壊するという心算でよろしいでしょうか?」
ルイスさんがそう尋ねてくる。
実際ルイスさんの言葉通り、教皇派拠点がデルカル大陸における決戦の地となるだろうから、肯定の返事をする。
支援隊の方々にも力を貸してもらえると助かるけど、難しいかな?
「分かりました。無論作戦には我々も参加させていただきます。ただ、大規模な戦闘になることが予想される以上、できれば統一した指揮系統で戦いたいのです。本格的な作戦開始前までに、我々、デルカル大陸支援隊の隊員全員を正式にシューベトへ移籍させていただけませんか?」
デルカル大陸支援隊の全員?
思わず聞き返してしまったけど、国王陛下や隊の皆とは相談済みで元々その予定でしたから、とルイスさんは笑っている。
少なくとも父上や母上は反対しないだろう。勿論俺もだ。
ルイスさんは純戦力・指揮官として何一つ不足がない……寧ろ超級の実力者だしね。
「そう言ってもらえると何よりです。必ずや、デルカル大陸の未来を拓く一助となりましょう」
「執行者の件もあるし、ルイス隊長の申し出についても早馬で一緒にシューベトに伝えておくわ。元最高勇士が選りすぐった部隊を拒むなんて判断を領主様がする訳ないでしょうしね」
支援隊の所属変更について話した後は、一応マリーの森方面で教皇派勇士を見かけていないことを2人に確認し、俺もフレア達を追う形でマリーの森へ出発した。
移動しながらも、俺は個人の動向を文面で細かくチェックできる異世界のアイテムを取得し、ヨハネスさんの行動の履歴を確認すると、シューベトに戻って魔女狩り対策の政務に関連した指示を出した後はリアート村方面に移動していることが分かった。
ついでに、前世で言うステルス機能付きの情報収集ドローンみたいなものも取得し、さっそくドローンを起動して履歴から確認したヨハネスさんの位置に送り、彼に張り付けておく。
はっきり言ってプライベートも何もない気がするが、ヨハネスさんがエイリンを生贄にしようとした以上、もはやそのような遠慮は無用だろう。
ルーカスあたりに彼がやったことをばらして問答無用で殺さないだけマシだとも言える。
ヨハネスさん……「身勝手な人間の欲望により、神族が犠牲になって欲しくはない」とか言っといて、貴方が神族を生贄にしちゃいけないでしょうに……。
デルカル大陸の未来には泉の復活が必要不可欠だからとか、本人の中では実行するに足る理由はあるんだろうけど、ダブルスタンダードにも程があるよ……。
デルカル大陸に派遣された執行者は本作のオリキャラです。