チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
シューベト町での瓦礫の撤去もひと段落し、後の復興作業は一旦他の勇士や領民に任せるようリーガル父上とエステル母上にやんわりと言われた俺は、ドラゴン襲撃前のように勉学と訓練に励み、合わせて特典取得用のポイントを稼ぐ日々を送っている。
領主に必要とされる知識をどんどん前倒しで頭に入れ、空き時間に各種学問や雑学の情報も意欲的にインプットしていく。
ドラゴン襲撃で危機感を覚えた俺は訓練の方も熱が入り、現時点で特級クラスの勇士も余裕を持って降せるぐらいの力量を納めている。
特級勇士を超える勇士は最高勇士のみであるため、7歳足らずで人間としては最上位に準じる実力者になったと言える。
元シューベト最高勇士で現在も非常に優れた戦士であるリーガル父上も息子が出した成果にご満悦である。
エステル母上にはハードワークになっていないか少し心配されているが、自分がやろうとしていることはポイントの余剰が必要なんだ。ごめんなさい母上……。
さて、シューベトは現在復興作業の真っ最中であるが、実は復興作業開始と合わせて重要な政策変更があった。
リーガル父上はリアート村とジーヴ村への支援を大幅に縮小し始めたのである。
まあ言うまでもなくシューベトの復興を最優先するという思惑が父上にあるのだと思う。
エステル母上は他村との関係悪化が今後の禍根になると主張して支援縮小に反対しているが、父上はその意見を受け入れていない。父母の家族仲は間違いなく良いのだが、政策面でぶつかり合ってしまっている状態だ。
どちらかというと自分も母上寄りの意見ではあるが、稼働する泉が1つしか無いことによるリソース不足という現実がある以上、得られる食料や水を被災した自身の領地であるシューベトに優先配分するという父上の判断も誤っている訳ではないから難しい。
シューベトと他村のどちらも満たすには、食料・水というリソース自体を増やす必要がある。
……方策は練っている。まずはとっつき易く、成果を出しやすい食料の増加を目指すことにする。
第一段階として、まず痩せている土地でも育つ作物をシューベト領で入手し、シューベト領内でも泉から距離があったり火山性の堆積物が積もっている等の理由で通常の作物を育てにくい土地で栽培してもらうことを考えている。
そんなに都合良く救荒作物なんてあるのかと思ったが、シューベト領はデルカル大陸でもっとも肥沃な分、荒地で育つ作物なんかは全く見向きもされていなかったため、シューベト領の外れに野生化した救荒作物が手付かずで残っているようなのだ。
なんで現地に行ってもいないのにそんなことが分かるのかというと、ポイント取得のミッション内容から逆算できたからである。
「食料自給率の増加」などでミッションをソートすると、「荒地でも育つ作物を見つけよう」と言った内容のミッションが出てくるのである。それも以前確認した山の青い花を見つけるミッションと同様マップ付きで。
しかもこのミッションリストは自分が日常生活で学習や鍛錬を進めていくとリスト自体もどんどん更新されるが、それに加えてミッション内の記載もより詳細になっているようだ。
ドラゴン襲来により避難した時に持っていた植物図鑑を読破する前後で青い花を探すミッションのマップが変わっているのを確認できたからほぼ間違いないだろう。当然図鑑を読破した後の方がより詳細で分かりやすいマップとなっている。
この仕様のおかげで勉強にも大分気合いが入ってしまったんだよなぁ。
学ぶという行為は褒賞に釣られるのではなく自分が学びたいという意志が大切なのは重々承知しているけど、特典用のポイントと合わせて明確な目に見える成果があるとつい頑張ってしまう……。
お陰でこの後首尾よく作物を見つけた後、自分が試したい用途分のポイントは十分以上に溜まったから良しとする。
ちなみに余談だが、余剰分のポイントを使って装着者に活力を与えるブレスレットを取得し、流れの行商人からお小遣いで購入したという体でエステル母上にプレゼントした。
母上は大変喜んでくださり、「ずっと身に付けるようにするわね」と言ってくださったので俺もとても嬉しい。
体調はほぼ回復されているようだが、これで今後も元気に過ごしてもらいたいものである。
デルカル大陸全体を鑑みて、最も食料が不足しているリアート村でも育てられる作物の発見を優先するプランも検討はしてみた。
リアート方面の荒地にもごくごく少数だがまだ活用されていない食用植物があることもミッションから確認できている。
だが実績のない状態でよその村近辺に探索へ行くのは、幾ら自分の実力が高まっているとはいえ、安全面から父母共に反対される見込みが高いと判断したのでこのプランは断念した。リアート村方面への出張はシューベト領内で成果を出してからだ。
実際に現地に行くための理由付けはもう決めている。
ウィークリーミッションのうち、「領内の巡回を3回行う」といった項目が出てきているので、巡回業務への参加を希望し、そのついでに行う予定である。
ウィークリーに出てきた以上、余程おかしな話の振り方をしない限り要望は通るだろう。
勇士の巡回ルートも予めヘクター教官に聞いており、ルート付近に目的のものがあることは確認済みだ。
もちろん父上と母上に救荒作物捜索の件について話を通す必要はあるが。
ただ、父と母は政策のスタンスが異なるから、話の持っていき方に気をつけた方がいいな。
母上は他村との協調を重んじるから、荒地で育つ作物を発見する意義はすぐ気づくから反対される可能性はまずないと思う。
問題はシューベトの利益にならなければ頷かない可能性が高い父上の説得だ。より食料が増えるため猛反対はされないかもしれないが、普通の作物が十分とれるシューベトでは優先度が低いと考える可能性もある。
もし疑義を呈されたら、過激かもしれないがシューベトの豊かさの源であるデルカル大陸最後の泉となる『古代神レフガトの泉』の枯渇やデルカル大陸の活火山である『カルダリア山』の噴火による荒地化に今から備えておく、という流れで説得を試みようか。
首尾よく見つけた作物が問題なく生育できることを確認した後になるが、他村に救荒作物の苗等を提供する提案をする際もシューベトの利益に繋がるものを相手方に出させるようにすれば話は通しやすくなるはずだ。
無難なのは成育記録を取ってもらい、作物のサンプルと合わせてシューベトに回してもらうことかな。これなら将来レフガトの泉が使えなくなった時に備え、泉の恩恵が無い土地での耕作記録を蓄積するという理由付けができる。
幸いこの世界は識字率がそこまで低くなかったので、記録をつけてもらうのは可能だと思う。
それではタイミングを見計らって父上と母上に許可を貰いに行こう。まずは母上に話を通し、自分が抱えている父上の説得方針で意見を受け入れて貰えそうかも合わせて確認してもらおうかな。
そんな訳で母上の部屋を訪ね、使用人に少し席を外してもらって2人だけで会話をしている。
「それでアドリアン、お話したいことって何かしら?」
えんじ色で短めの髪を結い上げた上品な女性、エステル母上が尋ねてくる。
「はい、母上。少し遠回りかもしれませんが、シューベト以外の村について食料を支援するための案を練ってみました」
「あら、話してみてくれる?」
少し目を見開いた母上に穏やかに促され、自分の腹案を母上に伝えていく。
「……確かにシューベトにも小麦を上手く生育できない土地は相当数あるわ。アドリアンが言うように、今まで栽培されていなかった作物をそんな土地でも育てることができれば、ほとんどが荒地のリアート村やジーヴ村でも栽培できる可能性は十分あるわね」
一時期色々な植物の図鑑や土地の記録を見比べていたのはこれを考えていたからかしら、と母上は微笑んでいる。どんなことを自主勉強しているかとかはそりゃ報告されるか。
「私は反対しないわ。ただ、他の勇士の方と一緒でも、こんなに早く町の外を散策させるのはどうしても心配してしまうわ。貴方がどれだけ強く育ってくれても、まだ子供なのだから。……絶対に無理をしないこと。約束してね?」
「はい、約束します」
一転して真剣な表情になった母上から本気で俺の身を案じられている気持ちが伝わってくるため素直に頷く。
よろしい、と母上も頷くが、今度は少し困った表情を浮かべている。
「ただ、リーガルが許可を出してくれるかは分からないわ。知っての通りあの人はシューベトを優先した政を執っていて、リアート村とジーヴ村への支援を抑えている今なら食料の余剰は十分だと判断する可能性もあるのよね……」
やはり母上から見ても父が必ず許可をくれるとは限らないか。
「一応、説得の流れも考えてみたのですが……」
「もう、準備がいいのねアドリアン」
と、母上は苦笑して今度はどう説得するのかを尋ねてきたので、俺は自分が考えている説得材料、「最後の泉が失われる可能性」と「活火山の噴火」を説明した。推定神殿長、もとい古代神レフガト達による仕込みで、最後の泉は即座に枯れる可能性は恐らく低いだろうという推測は伏せて……。
「アドリアン、あなたはそこまで考えていたのね……」
悲痛な表情を浮かべつつ母上は言葉をこぼした。
自分でも悲観的な将来予測であるのは承知している。だが、枯れてしまった泉と活火山という現実は、為政者である以上目を逸らしてはいけない筈だ。
環境の変化によって耕作不適地が増加してしまった時に備え、今から少しずつ準備しようというのは動く理由として十分だと思う。
「これならリーガルも否とは言わないでしょう。分かっていたつもりだけど、デルカル大陸は本当に厳しい状況ね……」
それはその通りである。俺も無言で頷く。
食料自給率という概念はこの世界にはないかもしれないが、シューベトだけならともかくデルカル大陸全体の人々を飢えさせないようにするには他大陸からの輸入が必須だからなぁ。
余り交流がないが、バベリア3大陸の一つで作物生育の観点で肥沃な土地を大規模に抱えているらしいウルパ大陸が羨ましい限りである。
「アドリアンが作物を見つけた時に栽培をお願いする農家を私の方で見繕っておくわ。それに、万が一リーガルが反対しても、私が動かせる人達に頼んでアドリアンの案は進められるようにするつもりよ。デルカル大陸の今後を考えれば、作物の増産は必ず必要になるでしょうから」
フォローもばっちりしていただけるのは本当に有難い限りである。
母上にお礼を伝え、部屋から退出する。
次は父上だな。父上の手が空く時間を見計らって話をしてみよう。
思ったよりすんなり父上からも許可がいただけたな。
なんというか、「お前なら考えなしの行動はしないから構わないが、一応理由を教えてくれるか?」程度の確認だった。
しかし理由を尋ねられた以上答えない訳にも行かないので、母上に話した内容と同じく泉の枯渇と活火山の噴火に備える旨を理由として伝えた。これを理由にしておけば、案を練っていた際に考えた通り、リアート村やジーヴ村に救荒作物を提供する訳をシューベトに利益がある形で理屈付けしやすい。
理由を伝えた後の父上は明らかに顔色が悪くなってしまったが、それでも巡回中の作物捜索許可はいただけた。
ストレスを増やしてしまいごめんなさい父上。でもシューベト領主として災害に備えるのは必須だし、デルカル大陸全体でも食料自給率は上げていく必要があるので飲み込んでください……。
あと、ヘクター教官の小隊で巡回に参加したいと追加で希望したが、そちらは簡単に通ってくれてよかった。ヘクター教官は俺がトップクラスに信頼してる方だし、小隊内の下級勇士達も何度も一緒に訓練してたから気心が知れている。
巡回業務開始は2日後だから、それまでにヘクター教官と小隊メンバーに今回の件について話をしておこう。
小隊メンバーには流石に今回の目的を全部話す訳にはいかないが、ヘクター教官なら父上や母上に話した内容と同じレベルで情報共有しても大丈夫だろう。
さて、ヘクター教官達に情報の事前共有をしっかり済ませ、巡回業務当日である。
小隊メンバーの下級勇士であるソードさんとブレイドさんにも特に反対されなかったので何よりである。
ちなみに名前から何となく予想できるが2人は兄弟で、ソードさんが兄、ブレイドさんが弟である。名前から受ける印象に反して2人ともおおらかで暖かい人柄なので付き合いやすい方達だ。
ヘクター教官には「そのお年で相当先が見えてしまうのですな……」と少し悲しそうにされてしまったが提案自体は受け入れて貰えた。
教官は直接口にはしなかったが、言いたかったこと……自分がやろうとしているのは前途多難なのは承知している。
特典に頼る所も多分にあるが、それでも道筋を立てた上で解決に向けて動けるのだから、母上が弱っていった時やドラゴン襲来時のような何もできない事態より100倍マシである。
教官からは巡回業務をきちんと行うことが前提であることも合わせて伝えられているが、そちらが主任務なのだから当然である。しっかり務めよう。
今俺はヘクター教官の指揮の元、シューベト主要街道であるシューベロードを巡回している。小隊メンバー全員で死角をカバーしつつ進むが、幸い大した魔物はいなかった。2回ほど巨大なカタツムリのような魔物が出たが、1匹目は俺が1撃で切り捨て、2回目はソード兄弟の経験のため連携重視で戦い無事撃破した。「初めての魔物退治」というミッションでそこそこ多めにポイントを貰えたのでありがたい。
ヘクター教官の授業や自主学習で学んでいた地理を実地でも確認しつつ、規定の巡回ルートを3周した。
残り1周という所で小隊の皆から視線が集まり、ヘクター教官が代表して尋ねてくる。
「では、アドリアン様の探し物を任務のついでに拾いにいきますが、場所の目星はついているのですか?」
その問いかけにもちろんです、と返しつつ地図を取り出してミッションから確認した場所を指で示し、指し示した場所へ隊列を崩さず向かう。
無事に現地に到着後、皆に念のため周囲の警戒をお願いし、目的の品を探す。
……あった。目を付けていたミッションもクリアとなったからこれで間違いないだろう。
脳内展開した検索機能の画像と比較した上での推測だが、おそらく前世の「そば」に相当する作物だ。
これなら火山由来の堆積物が積もっている土地でも栽培出来るかもしれない。初手で大当たりを引いたと言っても過言ではないだろう。
内心小躍りしながら巡回用の装備と別に持ってきた採取用の手持ちスコップと袋を取り出し、サンプルを回収していく。
手伝いを申し出たソードさんが作物をちぎってしまうというアクシデントもあったが、それ以外には特に問題なく今回の巡回業務と救荒作物捜索は完遂となった。
シューベトに戻った後は他に目星をつけている場所を小隊の皆に共有してから解散し、俺は帰路についた。
作物を引き渡した後は母上と農家の方々の対応になるが、この世界の植物図鑑や検索機能で確認・予想できる作物の特徴を念のため母上に共有しておこう。
それと栽培を依頼する農家が決まったらその相手を母上に教えてもらい、依頼を引き受けてくれたことを俺からもちゃんとお礼を言いに行こうかな。礼節は大事だからね。
なんにせよ、最初の1歩は無事成功したことを喜ぼう!
転生アドリアン君はこの世界の伝承に出てくるような超人と皆に思われている上、真面目に勉学・訓練に取り組み十分結果を出している他、町の復興作業にも積極的に協力していたため周囲からの評価と信頼度はとても高いです。
そのため、転生アドリアン君とエステルは悲観的に推測していましたが、説得する理由を用意していなかった場合でも巡回時に救荒作物を捜索する許可はリーガルから普通に貰えました。