チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
俺達は砂嵐が起こっているリアート砂漠をフレアの翼によって飛び越え、リアート村に辿り着いた。
ちなみにリアート村上空付近も砂交じりの風が吹き荒れており、空からでは視界が塞がれている。
フレアには予備兵力として上空に移動してもらい、待機していてもらう。
……3人に言ってはいないが、俺の直感が正しかった時は、これでフレアに3人の離脱を頼めるだろう。
リアート村に入るとここでも風がけっこう強く吹いていて、砂で周りが見にくいが……おおう、いるな。超巨大なムカデみたいな見た目の魔物……。
これは恐らく砂漠の主と呼ばれている魔物だな。
ジーヴ村で撃破した連中と同様に、全身が黒い魔力で汚染されている。
しかも砂漠の主に触れてしまったのか、気を失っている村人で黒い魔力に汚染されている人が何人もいる。
っと、汚染された人達をヨハネスさんが見ていてくれたみたいだな。
「ああ、アドリアン様。他の皆さんも来てくださったのですね。あの魔物に弾き飛ばされた人達が黒い魔力に侵されており……。すみません、浄化剤を使っていただけませんか?」
了解。すぐに取り掛かるよ。
アイールディ達は俺が浄化に専念すると判断をしたようで、3人とも少し離れた所で暴れている砂漠の主の元に向かう態勢だ。
「アドリアンは、この人達の浄化をするよね。大きな魔物、私達で倒しとくよ」
「でかいな……。エイリン、俺達でこいつの目を引き付ける。威力の高い魔法でぶっ飛ばせ!」
「うん、任せてお兄ちゃん!」
村人の浄化をしつつも横目で状況を確認していたが、ちゃんと3人で連携しながら戦闘をしている。
無理のない立ち回りでこれなら安心して見ていられそうだ。
俺が全員の浄化を済ます頃にはエイリンのエカールヴェルテルが炸裂し、黒い魔力に侵された砂漠の主はこれ以上の被害を出すことなく消し飛ばされた。
「ああ、流石は神族だ……」
「ありがとう、本当にありがとう……!!」
ジーヴ村と同様、リアート村の人々の歓声とお礼がアイールディ達に向けられる。
アイールディは落ち着いているように見えるが、それでもルーカス・エイリン共々満足そうにしているようだ。
戦闘中も吹いていた風もいつの間にか落ち着いている。
「神族さん……どうか一日も早く、貴方達が治める時代を取り戻してください。そして、再びこの大地に緑が戻りますよう……!」
リアート村の村長も自身の願いを述べながら3人に祈りを捧げている。
「……なるほど、お前達は魔女に頼るんだな。残念だが、この村の連中は悪に落ちてしまったみたいだ」
どこかで聞き覚えがある声がしたのでそちらを見る。
深紅の重装鎧と大剣で装備した15人前後の勇士達、そして3人の白装束と仮面をつけた子どもがいるのを確認した。
彼らのいる位置から察するに、どうやら、リアート村西の勇士キャンプにいたようだ。
まず目に入るのが先頭に立つ白装束の子達……あれが執行者か。
執行者は手斧、細剣、双剣を各々携えている。
実力を見て取った感じ、本気の俺やフレアであれば殲滅は容易くても、確かに一般戦力では相手にならない力量のようだ。
加えて双剣を持つ子は頭一つ実力が抜けている上、身のこなしから隠形もできそうだ。
恐らくは双剣の子が執行者の筆頭格ということなのだろう。
少なくとも、双剣の執行者は現状のアイールディでは勝つのが難しいレベルの相手だな。
続けて勇士達の方に目を向けると、中心にいる、声を上げたのであろう金髪翠眼の勇士は見覚えがある。
ジーヴ村で俺を強制検査した教皇直属・特殊部隊のザファーだ。
鎧と大剣の意匠が前よりもずっと豪華になっている……もしかしたら、デルカル大陸における魔女狩りの責任者クラスに出世しているのかもしれない。
いや、デルカル大陸は僻地に準じる扱いで、体の良い島流しの可能性もあるか。
また、勇士ザファーについて気になるのが、彼から黒い魔力の波動を感じ取れることだ。
……勇士ザファーは黒い魔力の石に触れてしまっている・あるいは自分から手に取った可能性があるな。
まだ理性を失いきってはいないようだが……。
「ふざけたことを抜かすでない!朝にリアート村へ来たと思ったら水と食料を私達から奪い取り、魔物が襲ってきても砂が目に入ると言って勇士キャンプに引っ込み、全てが終わってからのこのこ出てくる……この人でなしどもが!!」
「風が収まったからこうして魔物退治に出てきてやったのだが、村長はお気に召さないようだな」
リアート村の村長と勇士ザファーが言い合っている。
うーん、こいつらの存在を隠すような風……。
加えてごくごく微かに感じる、感覚が鋭敏な俺以外は誰一人気づけないほどの魔力のような……いやどちらかというと、意志の流れか……うん、この感じは古代神モレルの波長だな。
つまり、今の現場がアイールディにとっての試練の場、ということだ。
(アドリアン、手出しをしてはいけないということだな?)
そうなってしまうね……。
内的世界にある加護の方からも、ごく微かにだが静止を願う意志が感じ取れるように思える。
……凄まじく嫌悪感の募る事態が起こることが目に見えているけど……仕方ない。
最優先事項として、加護の方から俺を留める意志がなくなり次第、アイールディ達3人を離脱させよう。
……それに、もしかしたらチャンスかもしれない。
(……?アドリアン、どうするつもりだ?)
(試練が一区切りついたら、以前お遊びで取得し、フレアが今も持っている竜巻を呼ぶ宝玉を使ってこの場に砂嵐を起こしてほしい。大混乱になるだろうから、フレアはその間にアイールディ・ルーカス・エイリンを回収してほしいんだ。俺は砂嵐によって飛んできた何かに頭をぶつけて気絶した振りをしてここに留まる)
今回の件を利用して、予定していた通り教皇派拠点に潜り込むとしよう。
勇士ザファーが俺に対する憎悪を今も持っており、他者を痛めつけるのが好きという趣向が変わっていないのであれば、俺を教皇派拠点の牢屋なり拷問部屋なりに運んで傷付けていくことを望む可能性が高い。
気絶している振りをしたこちらを即殺そうとするなら流石に諦めるけどね。
例え黒い魔力の石を使った干渉を彼が仕掛けてきても、「肉体・精神・魂への汚染を無効化できる異世界技能」を取得している今なら全く怖くはない。
……訓練と能力向上を促すクリスタルによる強化で身体スペックが跳ね上がっている現状、ぶっちゃけ拷問で上手い具合に傷を受け、苦しむ演技をする方が難しいかもしれないね。
(なるほど……。敵拠点の内部に潜り込んだ後は、異世界の技能や道具を利用して悪事の証拠を回収していくつもりなのだな)
そうそう。
狙いは黒い魔力の石を使った研究の証拠の回収だ。
黒い魔力の石を利用した研究は国王陛下だけでなく、セルビス氏自身も全面的に禁止している事項である以上、これを確保すれば教皇派拠点を潰す名分は8割以上抑えたも同然だ。
秘密基地の入り口を教皇派拠点にも作ってしまえば見つけた証拠の回収は余裕だし、基地に新たに追加している設備を使えば、相手方に物証を奪われたという事態にすら気づかせないこともできる。
ついでに秘密基地ならフレアとやり取りもできるので、こちらの状況もフレアと共有可能だ。
(分かった。後はザファーが己の欲に引っかかるか、という所だな。……そういえば、ヨハネスはどうする?)
うーん……若干悩むけど、ヨハネスさんは一旦置いておこうか。
教皇派の勇士と言えども、流石に王宮特使は殺さないと思う。
俺と一緒にヨハネスさんを捕まえるようなら、脱出の際、ついでにヨハネスさんを回収するようにすればいいだろう。
彼の動向をチェックできるアイテムで、ヨハネスさんは自身の管轄業務について指示を出し終えた直後にリアート村に来ていることを確認しているので、彼がしばらく不在でも政務は回るだろうし。
そんな風にフレアと意思を伝えあっている間も状況は進んでいく。
「皆が見ておる!この村はこちらの神族の方々に救われた。貴様らのような」
「やれ」
ザファーの指示により、村長が双剣の執行者に切りつけられ、倒れ伏す。
それと同時に勇士達が村人に向かい、各々大剣を突き付けていく。
「魔女共、動くなよ。そっちの生意気なガキ共もな。動けば村人を皆殺しにする」
当然、ザファーは俺やヨハネスさんも認識しているか……。
「魔女を崇める村長は倒れた。それで、お前達も魔女を幇助する悪党か?」
「こ、こんな、ふざけ」
「殺せ」
ザファーの指示に従い、手斧を持った執行者が抗議の声を上げようとした村人の首を刎ねる。
血しぶきを上げて倒れた村人を見て、アイールディ達は顔を完全に青ざめさせ、体を硬直させている。
「もう一度言う。お前達も魔女を幇助する悪党か?」
「やめて、やめてよ……」
「お、お願いします。これ以上は、どうかお許し」
「殺せ」
今度は泣きじゃくる子どもとその母親らしき女性の喉を細剣を持った執行者が貫き、2人を一瞬で絶命させる。
……加護からの静止を願う意志はまだ感じる。
そうなると、古代神モレルが村人を使って課す試練は……人間の裏切り、か。
守ったはずの人達の死だけでなく、続けて助けた人の豹変を見せつける……なんて残酷な……。
「あ…ああ……」
「お前、お前ぇ!!!」
「こんな、こんなの……」
容赦なく村人が殺められる状況にアイールディは震え上がっている。
ルーカスはザファー達に憤怒の声を上げ、エイリンも涙を流して体をガタガタ震わせている。
「三度目だ。次はない。お前達も魔女を幇助する悪党か?」
「ち、違います!!」
「……違います!私達は、あの魔女共に騙されただけですっ!!」
「あいつらが、俺達を惑わせてきたんだ…。俺達は、何も悪くないっ……!」
「あ……違う……」
村人達は、先ほどまで感謝していたはずのアイールディ達に石を投げつけていく。
アイールディはその光景に弱弱しくも否定する声を上げているが……。
「お前らのような、存在するだけで罪になる連中を本気で受け入れる場所があると思ってるのか?汚らわしいな……。どうした、魔女を支援してないというなら、魔女を捕まえろ」
ザファーがその光景を見ながら3人を嘲笑しつつも、村人に指示を出そうとしている。
村人達はザファーの言葉を受け、昏い目で神族の皆を見つめている。
「お、俺達が魔物を倒して助けたんだよ!?さっきまで、皆あんなに!!」
「君達のせいで村が酷い目にあってるんだよ……」
「村の子どもだって死んだんだ……村から出て行ってくれ……」
「しょうがないだろ……俺達だって苦しいんだよ……!!」
ルーカスが抗議するも、村人達は意に介さず、神族の3人へにじり寄っていく。
「っこ、こんの裏切り者がぁ!!!」
ルーカスが今度は村人に激昂する……お、加護から制止の意志が消えた。
つまり、試練は完了ということだ。
フレア、やっちゃって!
(うむ。アドリアンが今更この程度の連中にどうこうされることはないだろうが、気を付けてな。後ほど秘密基地で合流しよう)
フレアと互いに意思を伝え終えた直後、フレアが発動させた宝玉の効果でリアート村に突風が巻き起こり、小さな砂嵐が発生する。
「うおおおおおおっ!?」
「きゃあぁっ!!」
「な、何だぁ、何が!?」
想定通りこの場にいる全員の視界が塞がれ、大騒ぎになっている。
フレアはその隙に急降下して、アイールディ・ルーカス・エイリンを爪にひっかけ空中に放り投げて自分に背に乗せ、そのまま全速力で西……確実に追撃を躱せるマリー神殿に向かった。
宝玉の効果が続いている内に、俺は秘密基地の入り口をこの場に作って貴重品を予め放り込んでおき、教皇派の連中に取り上げられないようにする。
その後は適当な礫の落ちている所に移動し、壁にもたれかかる形で気絶した振りをしておく。
転生特典全開で拠点調査をすることが予想されるから、古代神の加護も内的世界のずっと奥側に入れておけば準備万端だ。
あ、ヨハネスさんは本当に礫が頭に当たって気絶してる……。
風が収まり、体を屈めて砂嵐をやり過ごしたザファーが立ち上がる。
「くそ、今日は最悪の天気だな……魔女をこの村から確実に引き離せたのは僥倖だが……ん?あいつ……」
お。気づいたな……。
「クク、いや、やっぱり最高の天気だったな。おい、あの生意気なガキを地下監獄にぶち込むから引きずってこい。ジーヴ村でできなかったことをやらせてもらうとしようか……」
よし、あっさりかかった。
黒い魔力の石で勇士ザファーの思考が欲望に寄っているからっていう可能性もあるけどね。
……ふむ。恐らくだが、手斧を持った執行者が俺を運ぶみたいだな。
「ザファー様……。あ、あちらの王宮特使はどうしましょうか?」
「あん?あー、一応捕まえておく。何かの役に立つかもしれん。後は台車も使ってこの村から追加で食料と水とゴールドを回収しておけ。丁度いい懲罰になるだろうさ」
「し、承知しました……」
ヨハネスさんも教皇派拠点にご案内、と。
俺が身動きできない間に変な暗躍を彼にされないから寧ろ良かったかもしれない。
まあ俺が教皇派拠点を出る時には一緒に回収してあげるから、それまで我慢してもらおう。
ヨハネスさんに対しての勇士ザファーのどうでもよさげな態度なら、多分拷問は俺だけが受けることになるだろうし。
……ただ、勇士ザファーは声の感じから味方にも怯えられているようだな。
やはり、石の影響で理性が削れてきているのかもしれない。
「戦利品は持ったな。撤収するぞ」
勇士ザファーの掛け声とともに、俺もリアート村の外へ引っ張られていく。
……この上なく心を傷つける試練だったな……。
それにしても……俺がこれまでやっていた古代神の手伝いについては、殺人の場面を見過ごすことまでしたんだから、もう十分過ぎるほどやっていると思う。
魔女狩りだってさっさと片付けたい所を、後継への試練に使うだろうから終わりの時期調整までしてるんだし。
所詮俺は臨時の育成補助担当(多分)なんだし、魔女狩りが終わった後は、シューベトやデルカル大陸の環境整備や黒い魔力の浄化に専念してもいいかな……。
俺は執行者に引きずられながらもそんなことを考えていた。