チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
イレギュラーはなく、教皇派本拠地を脱出する予定時刻となった。
いやアイールディを回収しないといけないこと自体がイレギュラーか。
巡回の勇士が来ていないことを確認した後、俺は特殊勇士の装備を身につけ、牢屋の鍵を異世界の万能鍵で開けて脱出し、急ぎ足でアイールディのいる牢屋に向かう。
ありがたいことにアイールディの見張りをしていたのは下級勇士達だったので、苛立ち交じりに交代を命じる形で彼らを牢獄から離れさせることに成功した。
また、アイールディの牢獄付近に置いてある机には、彼女の牢屋の扉用・枷用と思しき鍵とアイールディの鞄も置いてあったのでそちらも回収する。
幸運にもアイールディを脱出させるのに必要なものはさくっと揃ったので、彼女のいる牢獄の前に近づいていく。
少し驚いたのは、アイールディが普段の服とは別の服を着ている所だ。
新しい服は左右非対称で体にぴったりとフィットした純白の衣装だが、各所に金の装飾品が付属し、首回りも透き通るような淡緑の装飾品が飾っている。
教会の聖女が身に纏うような服……そんな印象をうける。
牢屋越しにアイールディを更に確認したが、執行者にやられたダメージはまだあれども、行動する分には問題なさそうに見受けられる。
加えて、彼女に内在する魔力が大きく増大していた。
推測になるが、アイールディが試練を越えたことで古代神から加護か加護に相当する力の付与が行われたのだろう。
ただ、監獄は魔力を吸収する仕掛けがある上、彼女は特殊な魔石で作られた枷を腕にはめられており、抵抗を完全に阻害されているようだ。
確か枷に使われている物は……魔力の使用を妨げるという混魔石だったかな。
神族対策として納得のアイテムだ。
「アドリアンは、どうなったの?」
顔を含めて全身を鎧った特殊部隊の勇士に扮する俺を認識するや否や、アイールディはそう聞いてきた。
それを質問するってことは、この子にとっての救助対象は俺だったか。
やっぱり神族の皆に情報共有しておけば良かったなぁ……。
とりあえず、尋ね人は尋問で傷つけられはしたが命は無事であり、結局何も言わなかったからそろそろ放逐される(実際には自力で出て行くが)とアイールディに言う。
「これ、開けて」
アイールディは短くこちらに要求している。
なんというか……混魔石の腕輪で魔力が練れないはずなのに、これまでの彼女では考えられないぐらいに伝わってくる感情の圧が物凄い。
ちょっとその思いの源泉が気になったので、改めてどうしてここに来たのかを聞いてみる。
俺とヨハネスさんの救助が理由だとしても、これまでの彼女と比して大分気合いが入っているみたいだし。
「……好き。だから、彼に会いたい、一緒に行きたいの……!」
「暗くて、どこにも進めなかったこの世界で……アドリアンは私の手を引いてくれた。アドリアンだけが光になってくれた……」
おおう、アイールディの情緒がまだまだ成長途中なのを知らなければ、映画の危険地帯での告白みたいな感じに思えちゃうよ……。
とんでもなく可愛い美少女にここまで純粋に慕われるのは個人的には嬉しいけど……古代神から(多分)育成補助を頼まれた身としては、俺という一個人に対して入れ込み過ぎるのは余りよろしくない気がするぞ。
うーん、もしかして、俺は知らず知らずのうちに、自分に都合の良い方向へアイールディを誘導してしまった……?
だとすると、俺はこの子の育成方針を誤ってしまったかもしれない……。
もっと早く神族の皆に会わせて、ルーカス達と交流させる方を優先すべきだったのかなぁ。
でも、俺の注意に反してでも自分の意志で決断・行動できているとも見做せるから、一概に悪いこととは言えないか。
いかん、それなりに切羽詰まった状況なのだから考察するのはまた今後だ。
まずは脱出を優先しないと。
この子を牢屋から出す口実として、王宮特使のヨハネスさんを離脱させるのに付き合ってくれれば彼女の尋ね人に合わせるという条件を出すと、アイールディは頷いたので、素早く牢屋と彼女の枷を外し、鞄を返してあげる。
「……貴方は魔女狩りをしないの?」
不思議そうにアイールディは俺にそう尋ねてくる。
教皇派の本拠地で勇士が魔女を逃すような行動をすればそりゃ疑問に思うか。
「必要だからここにいるだけで、魔女狩りに興味はない」とでも返しておくか。
これなら嘘じゃないしね。
それでは直ぐに移動を開始しよう。
ただ、アイールディは混魔石を身につけていたせいでしばらく魔力が使えないみたいだから、自衛が難しい状態だということには気を付けないと。
記憶した勇士達の巡回ルートを元に勇士を避けつつ、ヨハネスさんの軟禁されている部屋に近づいていく。
ヨハネスさんの部屋前にいる見張りは……恐らく中級勇士が1人か。
ただアイールディがいる以上、もう口八丁では誤魔化せないし、これは制圧するしかないな。
(アドリアン、今大丈夫か?)
おっとフレア、教皇派拠点に到着したのかな?
(いや、まだマリー神殿付近を出たばかりなのだが……マリー神殿を通りがかる際、他の神族達に捕まってな。今はルーカス達4人を乗せて教皇派拠点上空に向かっている所だ。皆はアドリアンを助けに向かったアイールディを援護すると言っている。アドリアンの方は脱出の算段が既に付いていて、私が今日迎えに行くだけと皆に伝えたから、そこに便乗された形だな)
あちゃー、結局神族の皆を俺の行動に巻き込んじゃったよ。
こうなるとリアート村で態と捕まるよう動いたのは完全に失敗だった。
神族全員を最大の危険地帯に引き込む結果になっているのだから。
傷を浅くする為にも早く脱出しよう。
幸いアイールディは回収済みで、ヨハネスさんももうすぐ合流できるからね。
(それならば手間は省けるな。教皇派本拠地を出る際、想定される出口はどちらだ?)
フレアの質問に対し、夜でも見張りが厳しい正門は避け、本拠地内の北側にある勝手口から離脱するつもりであると返答する。
(では本拠地北寄りの上空を目指すとしよう。皆を降ろす場合もその勝手口付近にしておく)
ありがとう、フレア。
では改めて、ヨハネスさんの見張りを制圧しよう。
俺は見張りの勇士へ態と相手が反応できる速度で接近し、見張りが不審に思って剣を抜こうとする動作の勢いを利用して彼の体勢を崩し、そのまま見張りの脳を揺さぶって気絶させる。
「……相手の、力を利用する……。ね、ねえ、貴方は、もしかして……」
おっとアイールディに俺の体捌きで正体に気付かれた。
それならもうネタバレしても良さそうだね。
どうせリアート村で俺とアイールディが一緒に行動してたのを見られてるし、同時期に脱獄してる時点で神族に協力してることへの言い逃れは出来ないだろう。
兜を取ってアイールディに素顔を見せてあげると、
「やっぱり!アドリアン……!」
そう言いながらこの子はパッと表情を明るくさせ、走って一気に距離を詰めてきた。
でも、動きだけでよく分かったね。
「うん。一緒にいた時のこと、覚えてるから。……アドリアン、大丈夫?マリー神殿にある真実の泉で、アドリアンが此処で拷問されてる幻想を見て、助けに来たの」
情報の出所は古代神の設備かぁ……。
名前からして、条件を満たすと何かしらの情報を教えてくれる所なのだろう。
あの時古代神マリーの気配を感じたのは、俺の現状を真実の泉に映すためだったからなのかもしれない。
こうなると、俺が教皇派拠点に忍び込んだ場合でも、アイールディはこの場所に誘導されてた可能性が大だな……。
つまり、このアイールディ逃走劇の一幕は避けられない試練の場であった、ということだ。
まあ俺もフォローができるから古代神モレルのリアート村での試練よりは遥かにマシだけど。
それに彼女は俺の体調を心配してくれているけど、こうして勇士を倒せるぐらいに元気だし、今も計画通り脱出できていると伝えておく。
「……計画、あったんだ」
アドリブ利かせたとはいえ、俺が教皇派拠点にいるのは内部調査のためだからね。
反則使ってフレアとやり取りしてたのは黙っとくけど。
とりあえずはヨハネスさんを回収しよう。
「アドリアン様、ご無事で何よりです……!アイールディさんが僕達を助けにきてくれたのですね?本当にありがとうございます」
「うん。でも、私も捕まっちゃって、アドリアンが変装して牢屋から出してくれたの」
「え?……そういえば、勇士の装備を奪っておられますね。牢を自力で破られたのですか……」
そんなやり取りの後にヨハネスさんの状況を確認した所、彼は特に拷問等はされず、通り一遍の質問をされた後はそのまま放置されていたらしい。
ヨハネスさんの体調に問題がなさそうなら直ぐに出発しよう。
北側の勝手口付近にフレアが来ることを伝え、ヨハネスさんに移動を促す。
「ということは、以前からこの拠点の内偵を進め、緊急時の脱出計画を前もって準備されていたのですね。本当に心強いです。分かりました、僕も動けますので直ぐに向かいましょう」
微妙に勘違いされているけど、転生特典を使っていることを説明はできないので訂正はせず、俺が先導する形で出口へ向けて出発した。
途中2度ほど特殊部隊の勇士と遭遇したが、ヨハネスさんを見張ってた勇士と同様サクッと気絶させ、無事到着した勝手口から外に出る。
まだフレアは到着していない。
マリー神殿に寄った分遅れているようだが、それでもあと少しで到着するだろう。
だが、勝手口を出てすぐそこに、勇士ザファーと双剣の執行者がいた。
俺がいる以上、対応は可能だが……どうも勇士ザファーの様子がおかしい。
彼はうめき声を上げながら、立ったまま近くの木にもたれかかっている。
……いや。理由が分かった。
勇士ザファーから感じられる黒い魔力のオーラがリアート村よりも際立っているから、黒い魔力に理性を削られているのか。
「う、うぐ……。収まったか……。日に日に頻度が……ちっ……」
勇士ザファーはまだ黒い魔力に耐えているようだが、これは遠からず……おっと、勇士ザファーがこちらに気づき、双剣の執行者が彼を守る位置に移動した。
「貴様ら……それにシューベトのガキ……何故、お前は身動きできている!あれだけ体を痛めつけてやったのに!黒い魔力の石を使った拷問までかけてるんだぞ!!」
「えっ!?」
「ア、アドリアン様!?だ、大丈夫なのですか!?」
大丈夫大丈夫。
前者は秘密基地での訓練の方が余程きついし、後者は転生特典で汚染を無効化してるから……とは口にはできないので、拷問で苦しむ演技をする方が大変だった、とだけ返しておく。
……汚染無効化が無くても、原因不明の理由で黒い魔力は平気だとも思うけど。
「ふ、ふざけるな……!体の苦痛は耐えられたとしても、黒い魔力を転用した心を砕く拷問はどうやって耐えた!?」
うーん、特典で無効化って言えないのは面倒くさい。
でも、何もなしだとな……。
とりあえず、勇士ザファーが度々言っていた魔女の情報を吐けという言葉を受け入れないことを心に強く決めていたから、とでも言っておく。
これも嘘ではないし。
「……そ、その魔女共を裏切らないようにしていた。ただ、それだけだと……?」
「ア、アドリアン……そんなに……」
呆然と勇士ザファーが呟いている。
アイールディも何だか感動しちゃってるけど、実際は特典に頼ってるから何の自慢にもならないんだよね……。
「お、俺が、お前のような奴に劣るだと……!!認められっうお!?」
「ちっ外した!よっ、アイールディ!アドとヨハネスもな。助けに来たぜ!」
勇士ザファーは怒りのまま喚こうとしていたが、森から突如飛び出て来たルーカスの炎魔法による強襲を間一髪で飛びのいて回避する。
多分、ルーカスは魔力で身体強化し、皆より先行して救助に来たのだろう。
「くそ、まだ終われん…まだ……!」
そう言うや否や勇士ザファーは丸い球を地面に叩きつける。
急速に煙が広がるから、煙幕弾か!
奇襲に備えてアイールディの側で武器を構えるが、勇士ザファーは「離脱しろ!」と双剣の執行者に命令し、双方あっという間に逃げ去ってしまった。
初手逃走とは思い切ったな……。
だが、相手方の援軍が不明瞭であれば、その判断は英断とも言えるか。
「はっはっはっ…。あ、アイ姉ちゃん!アド君!ヨハネスさん!はあ、はあ。良かった、皆いるよ!」
「よし合流!っとと、喜ぶ前に、はいアドリアン。私とお父さんで用意した特製ポーションよ!拷問されてるってアイールディちゃんが言ってたし、準備しといたわ!」
「皆、良く無事で……いや、アドリアン君については無事というのは間違いですね……。そのポーションは傷痕も残さず治療できます。君がそれを飲み次第、直ちにあちらで待機しているフレア君に乗って離脱しましょう」
エイリン・フィリア・パディさんもルーカスを追って来たみたいだ。
到着と同時にフィリアの差し出すポーションについても、ありがたく飲ませてもらう。
……傷つけられた部分がもぞもぞするけど、ポーションが効いてるってことだろう。
ポーションを飲み終え、ついでにエイリンの息が整うのを待った後、俺達はフレアの元に走って移動し、全員揃った上での教皇派拠点からの脱出に成功したのだった。
また、パディさんがルイスさんに話をつけてくれていたらしく、一旦の避難先としてデルカル大陸支援隊の詰所に俺達はお邪魔することになった。
……支援隊詰所に来ていたベリータさんからは
「こうして再び顔を出して頂けて何よりですけど……アドリアン様の方でも連中の拠点について調査していたのなら、未確定でもいいから分かったことをあたしの方にも回して下さいよ!」
って苦言を呈されたけどね。
ちなみに古代神達は世界の流れに干渉できます。常に何でもできる訳ではないとしますが。