チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
私はマリーの泉でエイリンを救助した後、ジーヴ村とリアート村それぞれを襲う魔物を退治した。
でも……魔物退治の後、リアート村には教皇に従う勇士達と、教皇が作った戦闘兵器・執行者がその後にやって来た。
そして……私達と一緒にいたリアート村の人達は、勇士達の脅しに屈した。
笑顔と共に感謝していたリアート村の人間達は様変わりし、私達を魔女と罵り、嫌悪の目と共に石を投げつけてきた……。
私達のせいで迷惑しているって……。
もう来ないでほしいって……。
そんなの、そんなのって……。
「っこ、こんの裏切り者がぁ!!!」
私は暗い気持ちで胸が溢れかえりそうになっていて、ルーカスがリアート村の人間に怒りをぶつけており、私の隣にいるエイリンは村人が殺された頃からずっと泣いている……そんな時、異変が起こった。
先ほどまでリアート砂漠で吹いており、今は止んだはずの砂嵐が、再びリアート村付近で巻き起こったのだ。
猛烈な勢いで吹きすさぶ砂が目に当たり、思わず手で顔を覆ってしまう。
「きゃあぁっ!!」
「エ、エイリン!?」
叩きつけられる砂の勢いに悲鳴を上げるエイリンの声にルーカスが気づき、砂に視界を塞がれながらもこちらに近づいてくる。
だが、混乱の最中にいた私達3人は、突然何か尖ったものに服を引っかけられて空中に投げ出され、そのまま空へと高速で運ばれていった。
混乱した頭を落ち着かせると、私とルーカスとエイリンは、今はフレアの背に乗せられて空を飛んでいることに気がついた。
『全員、心はともかく、命は無事だな?』
「フ、フレア君、助けてくれたんだ……ありがとう……」
「うえぇ、砂が口に……でもサンキューな、フレア」
どうやら砂嵐で騒ぎになった隙をついて、フレアが私達を村から引き離してくれたようだ。
うん、勇士も執行者も手出しできない、絶妙なタイミングの割り込みだった。
ありがとう、フレア。
でも、村の人達、あんなに感謝してくれたのに……。
「ちくしょう!何なんだよこれは!!皆で協力してやっつければいいのに!あーあ、人間なんて、助けなきゃよかったぜ!あいつらすぐに裏切るんだから!!」
「お兄ちゃん……」
ルーカスは村人の有様に怒り心頭だ。エイリンも表情をとても陰らせている。
助けただけなのに、私が魔女で、私が悪いって……。
「おい、アイールディ、大丈夫か?でもお前はあんまり人間と関わりがなかったから、ショックが大きいのも仕方ないか」
うん、ショックだけど、これ、アドリアンに教えてもらってる。
人間は誰もが心に悪や弱さを持つってアドリアンは言ってたの。
それに、バベリア大陸では今のリアート村みたいなこと、いくつも起こっているってことも。
リアート村の人達は、自分の悪い心と弱い心に飲み込まれちゃったんだ……。
「アドの奴、ホント変わってるな……。なんで人間に不都合なことをわざわざアイールディに教えているんだ?でも、それ合ってるよ。人間なんて、もともとそんなものだろ?弱いんだよ」
ルーカスはちょっと怪訝そうしながらも言葉を紡いでいく。
「まあ、今回のことで身に染みたと思うけど……アドのことも、ヨハネスのことも、本気になって信じるのは止めた方がいいよ。その二人だって人間だし、お前が今言ったように悪い心や弱い心があるんだから。村の奴らと同じように、都合が悪くなったらあっさり裏切るかもしれないしな」
……なんだろう。今ルーカスの言葉と共に、誰かに問われた気がする。
「それでも、信じられる人間はいるか?」って……。
でも、その質問に対しての答えはもう決まっている。
霧の森で、彼は私を襲ったりしないと最初に信じた。
私の家で、私が魔女でも彼は変わらないと再度信じた。
人間の悪い側面を実感して、つぶさに教えてもらった後でも、今リアート村で起こったような悲しい出来事を彼が減らしてくれると3度目も信じた。
もう、何度聞かれても答えは変わらない。私は彼を信じている。
「ルーカス、そんなこと、ないよ」
「私は、アドリアンのことを信じてる。たとえアドリアンに弱い心があったとしても、アドリアンはそんなものに負けたりしないって信じてるよ」
私はルーカスの言葉に、そう返した。
「うむ、当然俺もアドのことは良い奴だって思ってるけどさ。でも俺達いつも裏切られて……ああ、あんなことの後じゃ、俺もなんて言えばいいのかわかんねーよ……」
ルーカスも私の言葉を受け止めてくれているが、彼は自分の気持ちが整理できていないようだ。
「ねえ、お兄ちゃん……。エイリンも、アド君は危ない場面でリアート村の人達みたいなことはしないって思う」
エイリンは私の意見に同意してくれてるみたい。
「エイリン……でもよ……」
「聞いて、お兄ちゃん。私達をついさっき村から助け出してくれたのは、誰?」
「…………あ」
……そうだった。私達はフレアによって村から離脱することができている。
ねえ、フレア。もしかして……。
『お前達の推測通りだな。何らかの危険が迫った場合はお前達を優先して救助するよう、アドリアンからは言い含められていた』
やっぱり。
私、アドリアンのことを手伝うって決めてるけど、何だか助けられてばっかりだね。
「ね?お兄ちゃん」
「うん……俺が間違ってた。ごめんフレア。アドにも謝っとかねーと……」
『気にするな。あのようなことがあったのだから、疑心暗鬼になっても無理もあるまい。思考停止して他者を愚直に盲信するよりは、余程健全だろう』
フレアもやっぱり優しいね。
……あ!で、でも、アドリアンとヨハネスがあの場から逃げられていない!!
『大丈夫だ。アドリアンもヨハネスも、人間の世界で高い地位を持つ。仮に村から離脱できずに連中に捕まった場合でも、いきなり殺されるという事態になる可能性は非常に低い。それに、アドリアンは魔女狩りを終わらせるために元々教皇派を調べる予定だった。寧ろ今回の件を奇貨として、教皇派の調査を更に進めることができる筈だ。故に、今は己の身の安全を優先して考えるといい』
リアート村で姿を見られたお前達を教皇派の勇士が積極的に狙ってくるだろうしな、そうフレアは続けている。
うーん……フレアは自信を持って言っているみたいだけど、本当に大丈夫かな……。
『ああ。それに言うまでもないことだが、より身の危険があるのはお前達の方だからな。まずは確実に勇士達を撒けるマリー神殿に向かうとしよう。アイールディも、空間移動の魔法で神殿に飛べるよう、場所の登録だけはしておくといい』
うん……分かった。
アドリアン……お願いだから、無事でいてね……。
私は空中に浮かぶマリー神殿に足を踏み入れ、空間移動の魔法の移動先として登録を済ませた。
フレアは教皇派の調査の件でアドリアンからの頼まれ事を済ませに行くと言い残し、私達を降ろすとすぐに去っていった。
ルーカスとエイリンに今後どうするのかを聞くと、安全度の高いマリーの森かマリー神殿に一旦潜伏するみたい。
私は……もう一度、リアート村へ確認にいこうと思う。
もしかしたら、脅されて仕方がなかったって村の人間達が謝るかもしれないから。
……でも、アドリアンの話が正しければ……多分、そうはならないと思う……。
空間移動でワディラムに飛んだ後、再度リアート村に行ったけど……私は教皇派の勇士に脅されたというリアート村の勇士達に剣を向けられ、本気で私を殺そうと襲い掛かられた。
……弱かったから、すぐに叩きのめしたけど。
リアート村の村長のおじいちゃんは、以前私に見せてくれた優しく穏やかだった姿は欠片もなく、私のことを憎々しげに見ている。
あんなに神族のことを好きだって言っていたのに……。
「ヨハネス様は王宮からの使者であり、我々のことを誰よりも考えてくださっていた……。お前がヨハネス様の計画や指示の下でだけ動く戦闘人形になっていればよかったのに。お前が生意気なことをした所為で……見ろ。略奪され、子どもが殺され、村がどんなに無残な姿になったか」
村長は、憎悪に満ち溢れた言葉をぶつけていく。
「今もお前のせいで勇士達が怪我をしただろう!何もかもお前のせいだ……!さっさと村を出て行け!お前は村の絶望、村の恐怖だ……!」
ああ、やっぱり……そんな感想が私の心に浮かんだ。
村長は、アドリアンが教えてくれた話の通りになっていた。
優しい村長のおじいちゃんの心が、変えられてしまっていた。
そしてアドリアンは、今みたいな状況を減らそうとしているんだね……。
そんなことを思いながらも、私は空間移動の魔法で自分の家に撤退した。
家に帰った私は寝床のクッションに腰かけ、アドリアンから貰った枕を片手で抱きしめつつ、同じく彼から貰った布団をもう片方の手で撫でながら考え事をしている。
……アドリアンは、リアート村の人達のような人間が優しさを失わず、裏切ったりしないで済む世界にしようと頑張っている。
私もアドリアンの力になりたいけど……でも、どうすれば、アドリアンと同じように、他の人間達も裏切ったりしないと信じられるようになるんだろう……。
うーん……アドリアンはいつだってきらきらしていて素敵だけど、他の人間も同じように……うーん……うーん……。
私だけだと、分からないかも……。
誰かに相談したい……そうだ、おばあちゃんなら、聞いてくれるかもしれない。
今の私の悩み、何となくだけど、とても大切なことのような気がする。
きっと、おばあちゃんの耳にも届くと思う。
私は家を出て、霧の森の奥、黒石窟の北にあるおばあちゃんの家に向かう。
「ほっほ、来たかい〜」
おばあちゃんの家に入ると、最後に会った時と変わることなく、おばあちゃんが迎えてくれた。
「おばあちゃん、相談したいことがあるの」
「ほう、何だい〜?」
やっぱり、今のおばあちゃんは私の声がちゃんと聞こえている。
今なら、私の相談に乗ってもらえる。
「私、人間達を助けて、彼らに少し近づけたと思ってた。でも、助けてあげただけなのに……裏切られたの。魔女だって、私のせいだって言われちゃったの……」
「それが、人間というものじゃ。落ち込んじゃいかんよ」
おばあちゃんがそう慰めてくれる。
でも、本当に相談したいのはそこじゃない。
「うん。でも、そうじゃない、それだけじゃないって信じられる友達が1人できたの」
「ふむ……?」
「その友達、人間達が優しいままでいられるように、裏切ったりしないでいいようにするために頑張ってる。私も、友達を手伝いたいけど……どうすれば、他の人間達が裏切らないようにできるのか、分からないの……」
「ほっほ……そうかい……もうそんなことまで、考えられるようになったんかい……とっても立派になったねぇ……」
立派になってるのかな……?でも、おばあちゃんでも分からない……?
「あんたの相談だけど、そこまでできておるなら、もうほとんど自分で答えが分かっとるようなものじゃよ……?」
え、そうなの……?
「よいか、信じるというのはねぇ、お互いが信じているから裏切らないのじゃ。裏切らないからその人を信じて良い、ということじゃあないのう。あんたがその友達を心から信じられるというのなら、あんたはその友達に、本当の信頼を渡したんじゃないかい……?」
……うん。私は3回、いや、ルーカスとの会話も入れれば4回アドリアンを信じている。
そして、当然これからも。
でも、初めのきっかけは、アドリアンの方から声をかけてくれたからだけど……。
「そう、それじゃ。あんたも同じ事をすればええ。あんたは人間より優れた存在なのじゃから、あんたの方から、先に人間達へ信頼を見せてあげな?そうすりゃ、人間達も変わるはずじゃよ。あんたの信頼でねぇ……」
私から、先に信頼を見せればいい……。
「そうじゃ。そうすりゃ、あんたが望む結果を掴めるじゃろう。辛抱強く取り組まなければならんけど、あんたならできるじゃろ?」
うん……少しずつだけど、やってみるよ。
「ほっほ……それでいいんじゃよ。ちょっとずつでいいんじゃ……」
ありがとう、おばあちゃん。
……あれ?おばあちゃんの隣に、見た目と背格好が私に似た人形がある……?
人形は、白を基調とした衣装を身につけている。
「ああ、あんたとそっくりの人形を作ってみようとしたけど、失敗してしまってねぇ。……服が気になるかい?」
……うん。とても綺麗な服だ。
「ほっほ……可愛いのう~。せっかくじゃから、服だけでも着てみるかい?」
そう、だね……気になるから、それ、着てみる。
私はおばあちゃんが用意した、純白の衣装に着替えた。
……うん、私にぴったりだ。
なんだか着せ替え人形になった気分だけど。
でもこの格好、アドリアンが見たらどう思うかな……。
「ほっほ……やっぱりあたいの作った服は、あんたが着るのが一番ねぇ。本当に可愛いのう~。あんたの友達も、きっとそう思うんじゃないかい?」
そ、そうかな……。
アドリアンも、この服を着た私のこと、可愛いって思ってくれる……?
何だかほっぺが熱くなってくるけど……そうだと、とっても嬉しいな……。
「ほっほ……ありがたいことじゃ、もうすっかり大人になったわね~。……そうじゃな……今なら大丈夫じゃろう」
……?何が大丈夫なの?
「あんたのことを守れる強い人形も、これから大変な道を進むあんたには必要になるんじゃろ。あたいの作った最高の作品……ヴァヘンダーを起こしな」
あ、おばあちゃんの作った人形、他にもあるんだ。
おばあちゃんの話を詳しく聞くと、ヴァヘンダーはずっと昔に泉を守る守護動物の代わりとなる守護人形として古代神モレルにあげた人形で、今はモレルの泉近くの神殿にあるらしい。
「ヴァヘンダーは今は主なしじゃが、モレル様の魔力がまだ残っているかもしれん。あんたの魔力を入れる時、きっと人形が抵抗するじゃろう。昔よりはマシでも、相当に強い人形じゃから、準備をしてから神殿に行ってみな」
……分かったよ。
おばあちゃんの申し出は、私を守るためだから。
そして、私の光と、アドリアンと一緒に進めるようになるためにも必要だと思うから、モレルの神殿に行ってみるよ。
【+α:おばあちゃんの述懐】
あたいの愛娘がこの家から出ていくのを、感慨深い気持ちで見送る。
……あの子に新しく着せた服は、あの方々の指示で仕立てた「神殿長のローブ」。
モレル様の課す最も厳しい試練を忍耐で克服し、善き心を守り抜いた象徴じゃ。
そして、モレル様、マリー様、あたいを助けてくださったレフガト様……古代神全員が、あの子を次の神殿長として認めた証……。
本当に立派になったねぇ、アイールディ。
それに……あの青年には感謝しないとならんのう。
娘を人間の学び舎に送ること……娘をピクニックに連れていくこと……。
あたいが自分の娘にしてあげたかったが、叶わぬと諦めた夢……。
彼は、あたいの夢をかなり近い形で、あるいはそのものを代わりに叶えてくれたのじゃから。
両者共に古代神から認められた二人が手を取り合い、新しい未来を拓いていく……二人が作る未来は、希望と喜びに満ち溢れたものとなるじゃろう。
愛するアイールディ、あんたは一番苦しい試練をもう乗り越えておる。
大変な所はまだいくつもあるが、おばあちゃんはあんたのことをもう何にも心配しておらん。
あんたをこの上なく大事にしてくれている、あの青年と幸せにおなり……ほっほ……。