チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
一旦デルカル大陸支援隊の詰所に集った俺達は、各々しなければならないことを片付けることにした。
俺とヨハネスさんはシューベト不在時に溜まった仕事を終わらせ、ベリータさんと協力して俺が教皇派本拠地から回収した各種資料の整理と精査を進める。
アイールディは、どうやら古代神モレルと古代神マリーから幻想を通じて啓示を受けたらしく、古代神レフガトに由来する真実の泉を探し出し、そこでも幻想を見に行くそうだ。
そして他の神族達は、ジーヴ村襲撃時に使用したポーション補充のための材料を採取しにいくらしい。
あと、パディさんがジーヴ村の鉱山奥にある部屋に空間移動の魔法陣を設置してくれたから、神族の皆もジーヴ村に集まりやすくなっている。
もう教皇城決戦の日、つまりバベリア大陸での魔女狩り終結の日もあと少しだ。
こちらもデルカル大陸での魔女狩り終結に向けて、テキパキ準備を進めていこう。
……予定していた仕事と証拠の精査を無事終えることができた。
ヨハネスさんも現状変な動きをしていないのを、異世界の道具とベリータさん達の監視を組み合わせて確認しているので一安心だ。
母上には拠点調査の件で無茶しすぎだって怒られたけどね……。
でも教皇派拠点に潜入して情報を持ったまま生きて帰ってこれるのは俺だけだったし、しょうがない側面もある。
……ただ、父上の様子が気にかかるな。
父上もこちらを注意はしていたものの、何か別のことに悩んでいるようだった。
大丈夫だろうか……。
あと、神族の皆も全員目的を果たしたようだ。
余った時間は神族同士談笑したり遊んだりする時間も十分取れていたみたいだから本当によかったよ。
教皇派本拠地でのやり取りで、アイールディがどうも俺との交流を大分重視している傾向が見て取れたからなぁ。
アイールディは特にエイリン・次いでフィリアと仲良くやり取りしているようで、ルーカスがエイリンとの話の内容を気にしてはいたけど、割って入るのは良くないとパディさんと共にルーカスに伝えて引き下がらせた。
女の子同士だけでおしゃべりしたい時もあるだろうしね。
アイールディはルーカスやパディさんともちゃんと交流しているし、それで問題ないだろう。
全員の予定が完了した今日、俺達は再度支援隊の詰所にある会議室へ集まっている。
この場にいるのはシューベトからは俺・ヨハネスさん・ベリータさん、支援隊からはルイスさんとその副官さん、そして俺が交流している神族の全員が揃っている。
神族の皆にも俺達の動きを共有しておかないと、教皇派拠点の騒動みたいなことになっちゃうと骨身に染みたからなぁ……。
それとちょっと気になるのが、隣にいるアイールディが俺との距離を詰めてきている気がするんだよね。
まあ複数人で集まったりする時は、これまでも基本的に俺の隣の位置をこの子は陣取っていたんだが。
表情はいつも通りだから、心理的な不安とかではないとは思うけど……いけない、今は会議に集中しないと。
「では僭越ながら、デルカル大陸での魔女狩りを終結させるための作戦を僕が説明していきます。アドリアン様とベリータさんには情報精査の過程で既に作戦の流れを共有しておりますが、僕の説明に誤っている箇所や補足する箇所があれば、ご指摘をお願いします」
デルカル大陸で魔女狩りを終わらせるための流れを全員で共有すべく、司会役のヨハネスさんが説明をしていく。
「第一段階は、教皇派拠点を潰す名分を立てることです。アドリアン様の拠点調査により、拠点側での黒い魔力の石の取引記録と違法実験の証拠は確保できました。後は教皇派に黒い魔力の石を流した相手側の取引記録を押さえれば、もはや教皇であっても、デルカル大陸の教皇派拠点を潰す判断を非難することはできないでしょう」
「黒い魔力の石を教皇派に流している主要な取引相手として、暗闇団が挙げられます。ただ、教皇派が取引した場所・石の量共にアドリアン様が押さえていますので、暗闇団に一度力を見せつけて制圧した後、この情報を元に揺さぶれば、まず問題なく証拠を確保できると思います」
「暗闇団の取引記録を確保次第、僕が国王陛下に全ての証拠を提出し、教皇派拠点の制圧許可を国王陛下に願い出ます。教皇がどれだけ内心で反対しようとも、教皇自身が定めた法に教皇派拠点の連中が違反している以上、国王陛下の決定を覆すことはできませんからね」
暗闇団は中立的な立場で闇取引を行っている集団だが、主に取り扱ってるのが黒い魔力の石で、教皇派にも大量の黒い魔力の石を卸しているのがヨハネスさんとベリータさんの調査で判明している。
こいつらから取引記録を確保すれば、教皇派が絶対に言い逃れできない状況を完成させられる、という訳だ。
正直俺が確保した証拠だけでもほぼ十分とは思うけど、魔女狩り終結までの時間調整もあるから、石橋を叩く方向に持って行っている。
「第二段階は、教皇派拠点を制圧する前に障害となる要素の排除です。これは、第一段階と並行して進めます。まず、彼らの実験記録に黒い魔力で汚染した魔物は誘導が可能、とありました。なので、教皇派拠点を攻める際に魔物を使った横撃・挟撃を防ぐため、ジーヴ村周辺のデルカルド、そしてリアート砂漠にて発見された黒い魔力に侵された魔物を可能な限り撃破します」
教皇派の連中は試作品の魔物寄せの粉を使い、黒い魔力で汚染された魔物を誘導できることが分かっている。
拠点攻めの時に別方向から魔物の攻撃を受けるのはまずいので、全ては無理でもできるだけ黒い魔力に侵された魔物を排除しておくことにする。
これは俺の作った黒い魔力の浄化剤が力になるだろう。
拠点制圧の時にも浄化剤は大量に持って行くつもりだが、シューベト城・西海岸への工事現場・支援隊に備蓄した浄化剤があり、俺も浄化剤の補充作業を行う予定だから、ここでいくらか使ってしまっても問題はない。
「そして国王陛下から教皇派拠点の制圧許可が下りた後になりますが、ジーヴ村南西の埠頭にも教皇派が利用している詰所や倉庫がありますので、そちらを制圧します。こちらも教皇派拠点を攻撃する時に横槍を入れられるのを防ぐことが目的です。多数の教皇派勇士が埠頭の詰所に控えている可能性はありますが、陛下の許可が下りた時点でシューベトの勇士隊も表立って動かせますので、人手が足りないということもないでしょう」
埠頭にも教皇派が占有する施設があるので、そこも制圧してしまえば本命の教皇派拠点を攻撃する際に邪魔してくるものはほぼない筈だ。
そして父上・母上とも共有済みだが、教皇派の詰める埠頭施設を制圧する段階からシューベト勇士を動員した戦闘になる。
「あ、補足だけど、指揮系統の統一のために、埠頭施設の攻撃時点からデルカル大陸支援隊はシューベトへ正式に移籍することになるわ。教皇派撃破のために派遣されるシューベト勇士隊・デルカル大陸支援隊の指揮権を、教皇派拠点制圧までの間はアドリアン様が両方持って指揮系統を一本化する形ね」
ベリータさんがルイスさん達支援隊の配属について追加で説明をしている。
また、体制上は俺が上に立つが、実際には派遣されてくるシューベト勇士の指揮官を第1部隊指揮官、ルイスさんを支援隊率いる第2部隊指揮官としてそのまま運用する旨を俺も説明する。
要するに、総指揮官としての俺はほぼお飾りだ。
ルイスさん達が下す判断の責任は俺が取るけどね。
それに俺は執行者のような一般勇士では戦えない敵戦力の排除に動かないといけないという事情もある。
「そして最終段階、全戦力で教皇派拠点を攻撃します。最奥にある教皇派本拠地の制圧と、教皇派拠点……並びにデルカル大陸での魔女狩りの総指揮官であるザファーを倒すのがこちらの勝利条件となるでしょう。この作戦の終了をもって、デルカル大陸での魔女狩りを終結させます。少なくとも、教皇が再度デルカル大陸へ魔の手を伸ばすまでは。ですが、バベリア大陸でも決死隊という教皇へ強く抵抗している勢力があるそうなので、こちらに手を出す余裕はそうないでしょう。……説明は以上となりますが、質問のある方はいらっしゃいますか?」
支援隊の副官さんが手を上げ、質問する。
「教皇派の違法行為に関する証拠の提出から、教皇派拠点の制圧許可をこちらで受理するまで、どの程度の日数がかかりそうでしょうか?」
「そう、ですね……マニル島への往復期間も含めて考えれば、約1週間という所でしょうか」
ヨハネスさんが必要日数について回答している。
直ぐに暗闇団から取引記録を押収して証拠提出に動くと仮定すれば、丁度教皇城決戦日前後に国王陛下から教皇派拠点の制圧許可がこちらに届く計算となる。
バベリア大陸での決戦準備に忙しいだろうセルビス氏が、この件で邪魔をする余裕はまずないと見てよい。
……俺もちょっと嫌がらせをする予定だし。
さて、他には……あれ?エイリンが手を上げている。
「はい!エイリン達はどんな風に協力すればよいですか?」
え?これは人間同士の争いだし、作戦中は神族の皆は一旦避難してもらうのが丸いと俺は思ってたんだけど……。
実際そう口にするも……。
「いやいやいやいや、この大一番に避難してるだけとかねーって!」
「アド君!とっても大事な作戦なのに、ここで仲間外れは無しですよ!」
「アイールディちゃんから聞いたけど、貴方は黒い魔力の石を使って拷問されても、あたし達のこと売らなかったんでしょ。そこまでやってもらって、この局面で芋を引くとかあり得ないわよ」
「フィリア、その表現はどうかと思いますよ。……ですが、私達は皆同じ気持ちです。どうか、君の示した心意気に応えさせてください」
神族全員から俺の考えは否定されてしまった。
あ、アイールディはまだ発言してなかったけど……。
「……私、アドリアンのこと、手伝うから。なんでも、言ってね」
アイールディは俺の手に自分の手を重ね、こちらの目を覗き込みながらそう口にする。
うん、まぁ、ここでこの子だけが「分かった」って言って引き下がるようなことはない気がしてたよ。
それにアイールディに課せられる試練のことを考えれば、彼女が教皇派拠点での最終決戦に参加しないっていう流れにはならない筈。
無理に遠ざけても確実に何らかの手引きがあると見做していい。
試練のための誘導があったとはいえ、教皇派拠点へ暴走気味に単独で突っ込んだ前科がアイールディにある以上、この子に仕事を割り振って誰かしらがフォローできる範囲内で動いてもらう方が良さそうだ。
うーん、アイールディといい、ヨハネスさんといい、何で俺は味方側の動向に頭を悩ませているんだろうか……。
……その他に質問はなかったので、神族の皆も含めて仕事を分担していく。
アイールディはどうも暗闇団と面識があるらしく、ヨハネスさんと一緒に暗闇団から取引記録の回収する作業をお願いした。
証拠を押さえ次第、ヨハネスさんは直ぐに国王陛下とのやり取りを開始する予定となる。
他の神族達は手すきの支援隊のメンバーと協力して黒い魔力に汚染された魔物の排除を進めてもらう。
また、フィリアとパディさんは合間を見て決戦時に使用するポーション等の薬品も用意するという。
それとアイールディも暗闇団と話がついた後で魔物排除のチームに合流してもらい、魔物退治をお願いするつもりだ。
残りの俺・ルイスさん・支援隊の副官さん・ベリータさんはヨハネスさんが怪しい行動を取らないかを適宜チェックしつつ、陛下から教皇派拠点の制圧許可が下りた際の埠頭施設・教皇派拠点制圧の流れをより詰めていくことになる。
ただ、俺は重要な個所が確定したら、残り時間を黒い魔力の浄化剤作成に当てるつもりだ。
それとフィリア達の薬品で思い至ったが、一応俺も転生特典を使って体力や魔力を完全に回復できるアイテムを複数準備しておこうかな。
使わないに越したことはないけどね。
それでは早速各々の仕事に取り掛かるとしよう。
……魔女狩り終結の作戦開始から数日経過しているが、現状作戦は全て順調に進行しているな。
アイールディとヨハネスさんは暗闇団から取引記録を回収し、そのままヨハネスさんは教皇派拠点の制圧許可を得るための対応を始めた。
こちらについては後は待つだけになるだろう。
黒い魔力に汚染された魔物も順調に数を減らしている。街道付近の魔物は排除し終えたそうなので、次は奥まった場所の捜索がメインになるだろう。
後は国王陛下からの教皇派拠点の制圧許可が下りるまでにどこまで汚染された魔物の数を減らせるか、だな……。
さて、俺は現在就寝時間前の日課として秘密基地に来ているのだが、教皇城決戦の数日前となったので、セルビス氏への嫌がらせの準備をしている。
やろうとしているのは、一種の流言飛語・ハラスメント攻撃といえるようなものだ。
セルビス氏は決戦前にバベリア大陸の勇士達に召集命令を出すはずなので、そこに合わせてこの嫌がらせを行う。
嫌がらせの具体的な内容だが、まず筆跡を偽造するペンで勇士を装い、セルビス氏が勇士を実験材料にするために召集命令をかけているので、今回は命令に従ってはいけないという手紙を筆跡を変えながら多数用意する。
その手紙を教皇派拠点で集めた非道な実験結果のコピー、特に闇の勇士化に関連するものを添えてバベリア大陸各地の勇士詰所・及び武器屋など勇士が訪れる場所にひたすら撒いていく、というものだ。
透明になる衣・万能鍵・壁抜けの腕輪があれば、勇士の施設にいくらでも侵入可能だしね。
同じく透明になれる衣を身に着けたフレアが居れば、高速で移動してバベリア大陸中の勇士詰所を一夜で、かつ誰にも悟られずに回れるだろう。
この作戦のいい所は、失敗しても流言飛語を止めるために相手方のリソースを使用させることができる点だ。
口止め・信じないよう訓示をするのも手間だし、証拠も添えて流言を流してくる相手がいるというだけでもストレスになるしね。
勿論俺の嫌がらせを信じて決戦時の召集に応じなかったり平常心を失ったりする勇士隊が出るのが一番だけど。
『アドリアン、手紙は書き終えたか?』
ちょっと待って、これが最後の一通……よし、終わった。
大量の証拠書類と手紙を大容量の鞄に入れて背負えば準備OKだ。
『では、早速秘密基地の出入口からバベリア大陸のドラゴンバレーに移動し、勇士詰所を回っていくとしよう』
うん、お願いするよ、フレア。
バベリア町から順に、ぐるっと時計回りにバベリア大陸を回っていく感じで行こう!
ふう、結構な移動距離になったけど、教皇城込みで把握できる限りの勇士が集まる場所に悪事の証拠と手紙を撒くことができたな。
ちなみに配ったコピー書類は教皇城決戦開始から数時間後に合わせて物理的に消えるように秘密基地の機能で指定してるので、決戦後に余計な証拠も残らず安心だ。
詰所や各種施設を回り終え、バベリア大陸ドラゴンバレーに戻って来た俺達は、教皇城決戦に備えたもう一つの仕込みについて確認するために雷竜イメルの所に向かい、かの雷竜と最後の打ち合わせをする。
【結局予定通りに実行するのか。まあ、放水の練習が無駄にならずに済むのなら、それに越したことはないが……】
やれやれ、といった気配を少しだけ漂わせながらも巨大な放水砲と透明になる衣を手に持ちながら、雷竜イメルが確認してくる。
【アラムート神殿……いや、今は教皇城だったか。我は汝から借り受けた透明となる衣とこの放水砲を装備し、汝らの指定した日に教皇城上空にて待機する。黒い魔力の大規模な発生が確認された際に、この放水砲を用いて黒い魔力の浄化剤を発生源にぶつける。それで良いのだな?】
それで大丈夫だよ。
放水砲は既に秘密基地にある浄化剤を満載したタンクに連動させたので、準備は万端だ。
離脱のタイミングはイメルに任せるから、これ以上は無理、あるいはもう十分と判断したら退いてもらって構わない旨も伝えておく。
【承知した。だが、二代目の主に任された以上は必ずやり遂げる。黒い魔力は全ての命に対する脅威でもあるからな。これも、必要なことだろう……】
うん。ありがとう、イメル。
……これで、バベリア大陸での魔女狩り終結に向けた準備は完了だ。
恐らく、神殿長の後継であるパイベリーさんとそのお供のブラックジョーさんは、教皇城にあるアラムート神殿長の泉を目指して教皇に決戦を仕掛ける筈だ。
彼女達の無事を願いつつも、俺達は秘密基地に戻ることにした。