チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
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【薬は用法を守って正しく使いましょう】
あたしはパイベリー。パイとイチゴが好きで、自分で自分の名前を付けた魔女。
本当の種族は神族で、エリシオン神殿長……お母さんから教えてもらったあたしの本当の名前はルシアっていうみたいだけどね。
教皇を打ち倒し、教皇城にある最後の泉でアラムート様の加護を受け取るために、あたしとブラックジョーは決死隊の作戦に参加している。
今、あたしは金髪でイケメンの勇士・敵対していたけど友達になったジャスティス、決死隊隊長のヴェルシュタインおじさんと一緒にバベリア廃坑のレールを伝い、教皇城の地下監獄を目指している。
地下監獄で教皇に捕まってた捕虜を助け出した後、そのまま教皇城に攻めあがる予定なんだ。
でも……地下監獄に繋がる場所に到着したんだけど、なぜか勇士が全然いない。
ここは侵入経路の一つだって教皇も分かってる筈なのに……。
「何か、異常事態が発生しているかもしれない。気を付けながら進もう」
ヴェルシュタインおじさんの注意に頷きつつも、私達は廃坑を進む。
ジャスティスの一撃で塞がれた進入路を破壊し、地下監獄の一室に辿り着いたんだけど……う、うわぁ、沢山の勇士が部屋ごと氷漬けになってる……。
「めちゃくちゃだな……どうなっているんだ?」
ジャスティスがそう言っているけど、氷魔法……もしかしたら……。
部屋を見渡すと、予想した人がそこにはいた。
雪原で友達になった青いローブを纏う氷魔法の達人・神族のルナだ。
ルナの幼馴染である、同じく神族のミシェルも近くにいる。
でも、誰かがルナの近くに倒れていて、ルナは膝をついて泣いているから、明らかに只事じゃない……!
私達はルナの近くに駆け寄り、声をかける。
ルナ、いったい何があったの!?
「うう……」
ルナはポロポロ涙を零して話ができないみたい。
ルナの近くで倒れている人へ目を向けると……あたしはルナが泣いている理由が分かった。
倒れていた人は、ルナと喧嘩はしていたけど、ルナの幼馴染であるロビンだったからだ。
しかも、ロビンは黒い魔力で汚染されている……!!
「君……まさか、ロビンか!?」
ヴェルシュタインおじさんもロビンのことに気づいたみたいだ。
「ロビンが決死隊と内通してたのがバレちゃった……罰として、教皇がロビンを闇の勇士にしちゃって……それでルナは、ロビンと戦うしかなくなっちゃったんだ!」
ミシェルがロビンが倒れてしまった理由を説明してくれる。
そっか、ロビンは教皇に……。
「ロビン……うう……ぐすん……」
ルナはずっとすすり泣いている……。
多分ルナは、ロビンのことを、女の子としても……。
「ねえ、ルナ……ロビンは……いつもルナにごめんねって謝りたがっていた」
「うん、わかるよ……私にしてきたことが本心じゃないってことぐらい……私に正直に話してくれないから許せなかったけど……仲直り、先延ばしにし過ぎちゃった……」
あたしの言うこと、ルナはとっくに分かってたんだね……。
「なんということだ……早くも犠牲者が出てしまうとは……。すまないロビン、もっと早く我々が到着していれば……!」
ヴェルシュタインおじさんは深く嘆いてる……。
黒い魔力は意志力が足りなければ決して取り除くことができないもの。
闇の勇士になってしまったロビンの生存をおじさんが絶望的だと思ってしまうのは無理もない。
……今こそ、大事に取っておいたあれを使う時なんだと思う。
友達を助けるために……アドリアン、黒い魔力の浄化剤、使わせてもらうね。
あたしは黒い魔力の浄化剤が入った飲用ポーション瓶の封を開け、開いたままのロビンの口に浄化剤を一気に流し込む。
「あ、ちょっ、ご主人様、その黒い魔力の浄化剤は……!」
「ううん、止めないで、ブラックジョー。これが本当に貴重な薬品だっていうのは分かってるよ。教皇が黒い魔力を切り札に使ってきても、対抗できる可能性があるかもしれないのは……」
ブラックジョーは2本しかない浄化剤をここで使ってしまうことに懸念の声を上げていたけど、ロビンはあたしの友達で、あたしが危ない時にも助けてくれた人だ。
そして、ルナのかけがえのない幼馴染でもあるんだ。
友達のために浄化剤を使うのに、何の躊躇いもないよ。
「く、黒い魔力の、浄化剤……!パイベリー……ほ、本当にそんなものが……?」
「あたしが作ったものじゃないけどね。ああ、よかった。ちゃんと効いたよ!」
浄化剤を飲ませたロビンが一瞬光り、ロビンを蝕んでいた黒い魔力の汚染は完全に消え去った。
さっすが、黒石窟ですら浄化可能なだけはあるね!
「あ、ああぁ……ロビン、良かった、良かったよぉ……うう……」
ルナは今度は安堵と歓喜の涙を流しながらロビンに縋り付いている……。
「う、うーん。ルナが落ち着くまで、ちょっとこっちは動けなさそうだね……。ルナが落ち着いたら、私は捕虜が隠れている通路の氷を溶かしてロビンと捕虜達を一緒に避難させるから、パイベリー達は先に進みなよ。ルナ自身は、ロビンの退避を確認したらパイベリー達のことを追いかけると思うし……」
そうミシェルが薦めている。
ジャスティスもヴェルシュタインおじさんも頷いてるから、確かにミシェルの言う通りにする方が良さそうだね。
この場をミシェルに任せて、私達は地下監獄から行ける教皇城のロビーを目指して移動を開始した。
地下監獄を抜け、私達はロビーに居た勇士達を撃破していく。
途中で地下水路を抜けてきた決死隊副長・レイラの小隊とも合流できたんだ。
「隊長、ご無事で何よりです。ですが……お気づきになりましたか?」
「ああ、こちらの想定より兵力がやや少ない。それに加えて、士気もどこか低いように思える」
レイラとヴェルシュタインおじさんが情報交換しているけど、二人が話している内容にあたしも気づいてはいた。
私達が教皇城を攻める際に他の決死隊メンバーによって兵力の誘引は行われているけど、それを差し引いても城に詰めている勇士の数がちょっと少ない気がするし、ここにいる勇士達の一部はどこか怯えているというか、動揺を抑えているというか……そんな相手が混ざっている。
「何か、教皇にとって不都合なことが起きたというのか……?」
ジャスティスも原因について悩んでいる。
うーん……あたしにも、心当たりがない……何があったんだろう……。
あ、でも城の入り口からこちらを追撃する勇士達がちらほら来ている!
「とはいえ、全く増援がない、という訳にはいかないのね……。教皇の心臓をこの魔力剣で貫けないのは残念ですが、私達は一旦城の入り口からやって来る勇士達の相手をします」
レイラ達が追撃を防ぐ役を買って出てくれるみたいだ。
「分かった。この場は任せるぞ」
「ええ、どうかご武運を」
勇士隊の迎撃をレイラに任せ、私達は教皇城の奥へと進んでいく。
でも、教皇城の2階で、ララク村で何度もあたしの邪魔をし、執行者にまで落ちてしまったケイトと、ジャスティスの幼馴染であたしの友達である勇士……教皇から黒い魔力による改造と洗脳を受けて執行者にされてしまったリビアと私達は戦闘になってしまった。
2人は手強い相手だけど、今の私達なら押し切れる……!
「ぐ……リビアに手柄を立てさせるのは嫌だが……私が死ぬよりも!!」
いけない!ケイトが、結界で私達を拘束して!?
「お前らがいくら強くても、数秒ぐらい動けなくさせることはできる!リビア!パイベリーの首から切り落とせ!……え?」
あ、あれ、洗脳されている筈のリビアが、ケイトを斬った……?
「ふう。やっと自分の思い通りに動けるようになったわ」
ってことは、リビア、洗脳を自力で解いたんだ!
「わ、私が、またあんたに……」
リビアに斬られたケイトは倒れ伏し、体が崩れ去っていき……後にはケイトが持っていたぬいぐるみだけが残された。
「リビア!!お前、洗脳を解いたのか……!!」
ジャスティスは驚きながらも彼にとって幼馴染のリビアに駆け寄っていく。
「カッコ悪いでしょ?紫色の肌に、色の抜けきった髪……恥ずかしすぎる。服も何なのよ……舞踏会で着るようなドレスを剣士が着てるなんて!」
「どれだけ心配したと思ってるんだ。何も言わずに消えたりなんかして……」
ジャスティスとリビアは仲良さげにやり取りをしている。
本当に良かった……。
「ごめんごめん。私にもどうしようもなかったんだって。でも、あんたたちに強くぶたれたおかげで意識を取り戻せた。パイベリー、今回もありがとね」
へへ、お礼なんて。私達は友達じゃん!
それに、友達のリビアにはいいものをあげるつもりなんだから!
「え、いいもの……?」
「はい、黒い魔力の浄化剤だよ!グーっと飲んじゃって!」
「ええっ!?浄化剤!?そ、そんなのが本当にあるの!?わ、分かったわ……パイベリーはこんな場面で嘘なんて言わないだろうし……」
リビアはあたしが手渡したポーション瓶に入った黒い魔力の浄化剤をすぐに飲んでくれた。
「あっ!だからご主人様、その浄化剤は!」
「もー、貴重品だっていうのは分かってるってばブラックジョー!でも、友達のために使うのが、あたしにとって一番大事で有意義なんだから!」
リビアは既に洗脳が解けているけど、黒い魔力に汚染された状態では人間の世界でとても生きてはいけない。
それに黒い魔力に心を侵される可能性だって残っている。
ブラックジョーは最後の浄化剤を使うことに注意しようとしてるけど、これは絶対必要なことなの!
浄化剤を飲んだリビアはロビンと同様一瞬光り、リビアの身体から黒い魔力の汚染があっという間に抜け去った。
髪も、肌も、目も、全部普段のリビアのものだ!やったね!
「も、戻った……。ああ、パイベリー……相応しい感謝の言葉が何にも見つからないわ……本当にありがとう……」
「ふふ、だから気にしないでってば。リビアが元通りになったのがあたしは嬉しいんだから」
……あれ、後ろから誰かが……あ、ルナだ!
「ふう、追いついたわ。さっきは醜態を見せちゃってごめんなさい。ここからは、私も協力する。それとパイベリー。改めて、ロビンを助けてくれてありがとう。……どれだけ言葉を重ねてもお礼の気持ちを伝えきれないから、この後の働きで返すことにするわ」
うん、とっても頼もしいよ!
そういえば、ロビンやミシェル達は大丈夫?
「ええ、捕虜達と一緒に脱出してる最中よ。……え、えっとパイベリー。実は、さっきの黒い魔力の浄化剤で聞きたいことがあるのだけど……」
浄化剤のことで……?ルナが何だか微妙な表情してるけど、何か問題があったのかな……?
「うん……。黒い魔力の汚染はロビンから完全に抜けているのは間違いないんだけど、気絶しているロビンが、何だかお腹を痛そうにしていたの……。もしかして、浄化剤は副作用とかあったりする?あ、黒い魔力の汚染と腹痛だったら腹痛の方が何万倍もましだから、責めてるわけじゃないからね」
え、えぇっ!?副作用!?
「パ、パイベリー……。私も、何だか、お腹が痛くなってきたかも……」
うっ、リビアもお腹をさすっているってことは、偶々って訳じゃ無さそう。
ど、どういうことなの?アドリアンのくれた浄化剤は未完成だったか、副作用が避けられないものってこと?
でもそれなら、浄化剤を渡す時にアドリアンがちゃんと注意しそうだけど……。
「あー、ご主人様。今度こそ、いいっすか?」
ブラックジョー、もしかして2人の症状に心当たりがあるの?
それに、今度こそって?
「もう浄化剤を使っちゃったから遅いんすけど……さっきから僕が注意しようとしていたのは、浄化剤を使うことそのものではなくて、浄化剤の使い方が間違ってるってことっす」
…………え、使い方?
「はい。ご主人様も見ていた筈ですけど、浄化剤をくれたあいつが黒い魔力の石を浄化する際には、石に魔法薬を振りかけて使っていたっすよね。飲用ポーション瓶に入ってはいますけど、あれは対象に振りかけて使うものであり、断じて飲ませるための薬品ではないっす。あの人間も、瓶は予備で間に合わせって言ってたじゃないっすか」
「………………あ゛」
ちょっと呆れた口調でブラックジョーから指摘されて、あたしはやっとアドリアンとのやり取りの細かな部分を思い出した。
……普段から使ってる飲む用のポーション瓶に浄化剤が入ってたから、日頃の慣れもあってそのまま2人に飲ませちゃったよ……。
「お前……」
あうう、ジャスティスが白い目であたしのことを見てる。
「パイベリー……何でそんなミスしてるのよ……」
ルナも頭を抱えてるし……。
「まあ、誰にでも間違いはある。致し方がないな」
「そ、そうね。あの姿でいるよりは……う、うう……パイベリー、私は気にして、ないから」
ヴェルシュタインおじさんとリビアは慰めてくれてるけど……。
そんなお腹を痛そうにしながらリビアに言われても、申し訳なさしか感じないよう……。
ううう〜。ロビン、リビア、本当にごめんなさい!
……教皇との決戦後にロビンとリビアに確認したけど、腹痛は決戦翌日の朝までには治ったみたい。
ずっと腹痛に悩まされるみたいなことがなくて良かったよ……。