チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
デルカル大陸での魔女狩り終結に向けた準備は問題なく進み、国王陛下からも教皇派拠点の制圧許可を頂くことができた。
また、教皇城決戦の数日後となる今日、ごく早朝に秘密基地を経由してバベリア大陸のドラゴンバレーに向かい、雷竜イメルに決戦での対応結果を確認した所、膨大な黒い魔力を宿したアンシエントドラゴンを黒い魔力の浄化剤で撃破する事が出来たそうだ。
ふむ、決戦の目玉は巨大ゴーレムじゃなくてドラゴンだったのか。
イメルが言うには、アンシエントドラゴンは自我があったそうなので、教皇に自分から協力していた可能性が高いと思うけど、両者にどんな繋がりがあったんだろうな……。
まあ済んだことだし、デルカル大陸の魔女狩りへの対応もあるからとりあえず置いておこうか。
俺はイメルに決戦で依頼を果たしてくれたお礼を伝え、雷竜に渡していた姿隠しの衣と放水砲を返してもらい、秘密基地にそれらを置いてからデルカル大陸に帰還した。
さて、陛下から教皇派拠点の制圧許可が出たので、魔女狩り終結の為にシューベト勇士を動員できるようになった。
どうも父上はジーヴ村に派遣する勇士隊の編成準備について、重要な箇所は事前に済ませていたらしく、ラークさんが派遣部隊の指揮官を務めるのは確定しているそうだ。
だが……何故か、父上の姿が自宅でもシューベト城でも見当たらない。
母上やラークさん、執事のグレイソンさんにも尋ねたが、皆父上の行方を知らないと言う。
魔女狩り終結に向けた派遣部隊の手配で父上の承認が必要な手続きは全て完了しているので、そちらは一安心だけど……流石に父上が誰にも言伝なく不在というのは明らかに不穏なものを感じる。
魔女狩り終結への対応を止める訳にもいかないので、ラークさんにはそのままジーヴ村への派遣部隊の編成・指揮を担当してもらい、今日は俺は父上を探しつつ、同時に父上の目撃情報をシューベトの皆に当たってみるとしよう。
……フレアにも一時協力してもらいながらシューベト領内を探し回ったが、未だ父上は見つからない。
父上を見かけた人もほぼいなかったがシューベト町で一つだけ目撃情報があった。
昨日父上が町の装飾店の一つに1人で入ったのを見た、というものだ。
該当の装飾店に入り、店員さんに事情を説明して父上が何を依頼していたかを教えてもらうと、父上は以前白いクリスタルのアクセサリーをこの店に預け、クリスタルを身につけるための鎖の修理とクリスタルそのものの複製を作るよう依頼し、完成品を受け取っていったという。
……白いクリスタル……確か、アイールディが母上を治療してくれた際に、俺が誤って鎖を切ってしまったものだ。
あのクリスタルからは非常に危険な気配を感じ取ったのでバッチリ覚えている。
だが、複製……?
あれは父上と母上の思い出の品……ただ母上に返すだけなら複製など必要ない筈……。
俺は急いで自宅に戻って母上の執務室に入り、領主代行として政務を行っている母上に白いクリスタルの件について尋ねると、確かに昨日父上からクリスタルを再び贈ってもらったとのことだ。
母上にお願いし、白いクリスタルを見せてもらったが……それは、あの時見た白いクリスタルでは無かった。
今母上が手の上に乗せている白いクリスタルからは、母上の治療時に感じた第六感による警告が全く働かない。
ただ、見た目だけがそっくりのもの……つまり、母上が持っている方が複製だということだ。
いかん、非常に嫌な予感がする。
父上の行方は恐らく領の外……ここはまず……。
「アドリアン、リーガルがこのクリスタルの件で危険な状況下にいるかもしれないのは、貴方の表情から私にも分かったわ。でも、貴方は魔女狩りを終わらせる仕事がある筈よ。リーガルのことは私が捜索の手配を出すから、貴方は魔女狩りの対応に専念しなさい」
うーん、母上に今の自分の仕事に集中するよう釘を刺されてしまった。
だが、せめてベリータさんに話を回すぐらいは……ってフレアが家のすぐ近くに飛んできて……しかも、アイールディを乗せている……?
(アドリアン、シューベト領内を回った後にジーヴ村方面にも行った所、ベリータ配下の手の者がリーガルを目撃したらしくてな。その人物の話を元に、アイールディがリーガルについて情報を集めてくれた。私はその手伝いだ。……聊か以上に状況は良くないが)
フレアが心の繋がりを通じてこちらに来た理由を教えてくれる。
……フレアの言葉からも嫌なものをひしひしと感じるが、情報を得た当事者のアイールディが俺の家に来てくれているので、まずは彼女に情報を共有してもらおう。
母上の執務室に来てくれたアイールディが父上の行方を白いクリスタルの正体と合わせて俺達に教えてくれるみたいだけど……かなり面倒な状況になっていそうだな……。
情報を得た経緯をアイールディに聞くと、父上が一人でドラゴンバレーに……しかも、かつてシューベトを襲ったアンシエントドラゴンの住まう領域に向かったという情報をアイールディは支援隊詰所に来たベリータさんの配下から手に入れたため、彼女はフレアの力を借りてドラゴンバレーに急行したそうだ。
そしてアンシエントドラゴンの住処にて、モネットという人型のアンシエントドラゴンと言うべき存在から、父上の現状と白いクリスタルについて聞き出してくれたという。
まず父上が母上に贈った白いクリスタルの正体だが、これはアンシエントドラゴンの霊魂が生まれ、還る場所である「巣」と呼ばれるものだそうだ。
この「巣」の力によってアンシエントドラゴンは純血神族のように永遠の命を持つとも言われており、モネット達アンシエントドラゴンの至宝でもあるという。
だが、神族から魔力を貰って「巣」の影響を受けなくなったジュードという最強のアンシエントドラゴンが、アンシエントドラゴンの一族全員を制圧して強引に「巣」を奪い取り、父上の命と「巣」を魔法で繋いだ上で父上に「巣」を引き渡したとのことだ。
……もうこの時点でお腹いっぱいだけど聞かない訳にはいかない。
アイールディの説明をこのまま順に要約していくことにする。
至宝を強奪されたアンシエントドラゴンは当然の如く「巣」を取り返すためにシューベトを襲撃するも、ジュードはアンシエントドラゴンがシューベトに来る時期を予め教えておき、父上がバベリア大陸の神族に救援を呼べる体制を整えていたため、バベリア大陸の守護動物で最強のマグリックドラゴンがシューベトを救援、町を守り切るが……。
件のジュードはマグリックドラゴンがシューベト救援のためにバベリア大陸から離れた隙を狙い、魔女狩りの発端となる泉の戦争を引き起こしたという。
泉の戦争の引き金って、もしかしなくてもアンシエントドラゴンのシューベト襲撃だったのか……。
大陸を跨いで計略を巡らせるジュードはとんでもない奴だな……って思ったけど、俺は人のことは余り言えなかった。
神族から魔力を貰いながらも教皇と手を結んで泉の戦争を引き起こした……つまり、ジュードこそが、俺が予想していた神殿長を裏切った存在、ということだ。
そうなると、イメルが教皇城決戦にて撃破したアンシエントドラゴンは、件のジュードと見做して間違いないだろう。
……もしかして俺ってシューベト襲撃を引き起こした元凶にそうとは知らずに復讐していたのか?
正直もうどうでもいいことだけど。
今は「巣」に関する情報と父上の行方の方が大事だしね。
アイールディの話を纏めていくのに集中しよう。
アンシエントドラゴンはシューベト襲撃後も「巣」を取り戻すのを諦めることはなかったが、「巣」が父上の命と繋げられてしまったことにシューベトを襲撃した後で気づき、父を殺害して「巣」を奪い取るという手段が封じられ、迂闊に手が出せずに困っていた。
しかも「巣」の破壊が父上の死に繋がらないようジュードに魔法で細工をされていたため、父上から「巣」を破壊すると脅されて隷属を強要されるかもしれないと、アンシエントドラゴン達は戦々恐々としていたが、何故か父上は巣を持つだけでドラゴン達に何かをしろと命じるようなことは一度もなく、ドラゴン達は疑問に思っていたという。
「巣」がアンシエントドラゴンの祭壇にないことを除き、一応普段通りにドラゴン達は日々を過ごしていた所、昨日父上がモネット達の暮らす領域に巣を持って訪ねてきたという。
丁度その時は他のドラゴンが出払っており、モネットと父上が一対一で話した所、会話の中で父上もジュードに騙されていたことにお互い気がついたらしい。
というのも、父上は「巣」はドラゴン達の至宝であると共に、ドラゴンの生命力に満たされ高い治癒効果を持つ霊石だとジュードから説明を受けていたらしく、実際に母上が「巣」を身に付けてから体調が急激に回復したので、ジュードの言葉を当時父上は信じたそうだが……。
「でも、それ、ジュードの嘘だったみたい。ドラゴンの巣は、新しいアンシエントドラゴンの霊魂を生み出すために周りの生命力を吸収するってモネットは言ってた。エステルが昔一度回復したのは、多分ジュードの治癒魔法のせい。私、エステルに魔法がかけられた跡があるの、霊石で治療をした時に見たから……」
うわぁ……母上の体にあった古い治癒魔法の跡はそれかぁ……。
アイールディの言葉に納得する。
ジュードの奴、全方位を敵に回しているな……もう死んでいるだろうし、奴が持っていたという黒い魔力の浄化時に相当痛い目を見たと思うからこれ以上は言わないが……。
多分、霊石の治療時に「巣」を外した母上が元気そうだった姿を見て父上は疑念を抱き、「巣」の複製を母上に渡してからモネット達アンシエントドラゴンに確認を取りに行ったんだろうな……。
「リーガル……。いいえ、あの時貴方から貰ったのは、治癒のクリスタルではなく、私を守りたいと思う気持ち……。アドリアン、大丈夫だと思うけど、あの人を責めないでね……」
父上が犯した過ちをこれ以上咎めないよう母上はお願いしてくるが、それは勿論のことだ。
一番悪いのは策略を巡らせてきたジュードなのは間違いないからね。
……父上が上手い話に乗ってしまったのは母上が死に瀕していて追い詰められていたからという事情もあるし、ジュードの誘いを受け入れなかった場合は奴自身の暴力でより状況を悪化させられていた可能性もあるから、ある意味選択の余地もなかったのだろう。
そして、そろそろ父上の行方をアイールディに教えてもらえそうだ。
この子の曇った表情からして、父上の現状は明らかに良くないのだろうが、続きを促し、話してもらう。
モネットからアイールディが聞いた話によると、父上は「巣」を返還する代わりに、「巣」を奪ったことによるシューベトへの報復対象を自分だけにしてほしいとモネットに願い出ていたとのことだ。
色々モネットは嫌味を言ったそうだが、父上が自分達に一度も隷属を強いることもなく、「巣」を返す意思を示した事、父上自身もジュードに騙されていたことを鑑み、直ぐに「巣」を返して今後ドラゴン達に接触しなければいいという条件に緩和したらしい。
父上もモネットの条件に同意し、「巣」を返そうとしたが……ここで第三者の乱入があった。
最悪なことに、乱入者は双剣の執行者と勇士ザファーで、隠形を行っていた双剣の執行者に父上が背後から切りつけられて重症を負い、「巣」をザファーに奪われてしまった。
そしてザファーは(ジュードは死んでいるので魔法は解けていると思うが)「巣」と連動している父上の命と「巣」そのものを人質に、アンシエントドラゴン達を隷属させ、そのまま気絶した父上と「巣」を携えて拠点に戻ったそうだ。
……父上、一人で抱え込み過ぎでは……。
それだけジュードに誑かされたことを責任に感じていたんだな……。
「ドラゴン達は教皇派拠点の守りに回されていて、それ以外のドラゴンは、ドラゴン達の霊魂が離れた後の遺骨を地面から掘り起こさせてザファーに提供を命じられているってモネットが言ってた。もしかして、なにかの実験に使われそう?」
アイールディがそう聞いてくるが、十中八九連中が研究しているキメラの素体に使われるな……。
アンシエントドラゴンの全身骨格をメインフレームにして、最強の生物兵器を試作すると見て間違いないだろう。
「分かった。気を付ける。あと、ドラゴンの巣を見つけたらモネット達に返すって約束したけど、大丈夫だよね?」
それは当然だね。
「巣」が彼らの宝物である以上返すのは当然だし、周囲から生命力を吸収するという時点で、俺達が絶対に持っていてはいけないものなのだから。
「アイールディちゃん、貴重な情報を集めてくれて、本当にありがとう。でも、そうなると……教皇派拠点を押さえる際、リーガルを救出するのは勿論だけど、ドラゴン達の宝物である巣も取り返さないといけないわね……」
母上が悩まし気に言葉を紡ぐ。
加えてアンシエントドラゴンを教皇派拠点の守りに使ってきているというから、拠点制圧の難易度が一気に上がった。
個体数は10に満たないだろうが、それでも成体のアンシエントドラゴンに対抗できるのは俺、フレア、パディさん、アイールディ……後は最大火力のエイリンぐらいか。
しかも執行者の対応もしながら建物内で父上と「巣」を探さなければいけないので、フレアがどれだけドラゴン達を抑え込めるかが鍵になりそうだ。
(了解だ。枯れた森にて複数のアンシエントドラゴン達を相手にする状況設定で、秘密基地での摸擬戦を重ねておくとしよう)
心の繋がりでフレアがそう返してくれる。
うん、よろしく頼むよ。
ドラゴン達はザファーに戦闘を強要されているから殺しはNGなのが縛りではあるけど、今のフレアの実力なら余裕を持って対応可能だろう。
バベリア大陸での決戦が終わったが、デルカル大陸での締めの決戦も一筋縄ではいかない、ということなんだろうな。
もしフレアがいなかった場合は神族に本気で協力してもらわないと被害甚大となることが確実な状況になってしまったが……この戦いがアイールディが超えるべき試練の区切りとなる可能性が高い以上、難易度上昇は避けられなかったかもしれない。
状況からして、父上が絶対に相手方に殺められることがないだろうことは不幸の中の幸いだが……。
まずは、この情報をジーヴ村の皆とも共有してアンシエントドラゴンとドラゴンの遺骨を使ったキメラの脅威を周知しないと……。
【+α:とある竜の祭壇での会話の抜粋】
「貴様は……ここに何の用だ。とうとう貴様に従えと我々に言いに来たのか?」
「いや……かつてはそれを考えたことはあるが……最早その気はない。恐らくだが、私はお前たちにこの宝を返すことになるだろう。だが、その前に、いくつか聞きたいことがある」
「返すだと……?」
「お前達は神族の泉を復活させられるか?あるいは、火山の噴火を止められるか?」
「急に何を言い出す!我らは力ある種族ではあるが、何でもかんでもできる訳がないだろうが!」
「だろうな。だからこそ、これを使ってお前たちの協力を得ても、シューベトを真に守ることはできないということだ……。もう一つ、聞かせてくれ。クリスタル……宝を私に渡したジュードは、これが強い治癒効果を持つと言っていた……。私が今までこれを手放せなかった理由でもあるが、ジュードの言葉は、本当か?」
「なんだその出鱈目は!我らの至宝は新しい一族を生むために周囲より生命力を吸収する!我らの霊魂は至宝たる巣に還る以上問題ないが、他の生命体がそれを所持するなど自殺行……!そういう、ことか……!ジュード……!!あの野郎!!」
「都合の良い話には裏がある。私は当たり前のことを失念していたな……。クリスタルを身に付けたエステルが回復した以上、縋る他なかったが……。竜の一族よ、無理を承知で希う。お前達の宝を返すが、代わりにシューベトへの報復は、私にだけに留めてもらえないか……」
「グルル……!それは我らの宝と命を繋げられた貴様を殺せないと分かった上での発言か!?薄汚い発想だな……!」
「……」
「結局治癒効果があると信じてそれを手放さなかったのだろう!必要ないと分かったからもういいと交渉に使う……反吐が出る!」
「……」
「どうした!何か言い返してみろ!」
「……反論の余地がない。私は妻の命に重きを置いてジュードに騙された、欲望に濡れた愚か者なのだから。だが……この上なく強いジュードであっても死ぬ、あるいはお前達が殺すのだろう?それが果たされた時、抵抗せず首を差し出す気持ちは偽りではない。断るのなら、今日の所は引き下がり、また来るが……」
「チィッ。巣を戻してもらう取引を僕が拒否できないと分かった上で言っている辺り、本当に腹立たしい。……しかし、貴様がジュードに騙された愚か者なら、僕達もジュードに叩きのめされ、道具としていいように使われるという無様を晒している。認めたくないが、僕達と貴様はある意味同類ではあるのか……」
「……」
「……お前が一度でも巣を盾にして我ら一族に行動を強要するようなことがあれば、先の提案を表面的には受け入れても、後で反故にした。だが、お前は一度も僕達を縛るような真似はせず、一族の至宝を返すと一応は自分から申し出た……」
「……」
「……もういい。僕達はなんとしてもジュードの首を取る必要があり、奴を殺すことに結びつかないお前にこれ以上時間と頭を使いたくない。僕達の巣を返したら、二度と顔を見せなければそれでいい」
「……いいのか?」
「気が変わらないうちにさっさと巣を返せ。そしてすぐにここから出ていけ!」
「……分かった。感謝する。……これを……ゴブッ……」
「な、なにっ!?貴様ら!?」
「まだ終わらん……終わる訳には……まだ、理性がある内に……」