チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
白いクリスタルの正体と父上の行方についてアイールディに教えてもらった後、
俺はアイールディ共々フレアに乗せてもらって直ぐにジーヴ村のデルカル大陸支援隊詰所へ向かい、彼女が手に入れてくれた父上誘拐とアンシエントドラゴン、そしてかれらの宝である白いクリスタル……ドラゴンの巣に関する情報を皆と共有した。
支援隊の勇士達は頭を抱えたり真っ青になったりしていたけど、ルイスさんが情報を受け取ってもいつも通り悠然としている様子を見て気を取り直し、現在進めている埠頭にある教皇派施設制圧の準備に戻っている。
……ルイスさん、成体になっていないアンシエントドラゴンなら何とか倒せそうだし、成体のドラゴン相手でも戦線維持ぐらいはできそうだしね。
神族の皆にもアンシエントドラゴンの件を伝え、ガチで協力してもらわないといけないことに頭を下げたけど、全員寧ろ奮い立っていたなぁ。
アイールディにも改めてお願いしたけど、あの子、凄まじくやる気になっていたし……。
まあ、フレアがいる以上、神族の皆が実際にドラゴンとやり合う可能性はそんなにないとは思うけど。
さて、アイールディが集めてくれた情報だと、アンシエントドラゴンは拠点防衛と遺骨の採掘に回されているそうなのでこちらには仕掛けては来ないかもしれないが、念のため注意しつつ準備を進めていこう。
教皇派拠点の攻略難易度は上がったけれど、これまでの方針そのものは変える必要はないだろうしね。急ぐ必要は当然あるが。
相手側も盗み聞きしたことで、あるいはモネット自身から聞き出したことで父上の命が巣と繋がっていると情報を得ている以上、ドラゴンを隷属させる上で鍵となる父上を絶対に殺す訳にはいかないというのも好材料だ。
巣に並んで重要な存在として守られているだろう、というのはマイナスかもしれないが……。
とにかく魔女狩り終結のため、そして父上救出のため、このままドンドン準備を進めないと。
父上誘拐の発覚から魔女狩り終結の準備を更に進めて数日後、ラークさんが率いるシューベトからの派遣部隊がジーヴ村に到着した。
ラークさんとルイスさんは手早く挨拶を済ませ、事前の約束通り、ルイスさん達デルカル大陸支援隊はシューベトに移籍となった。
その時ルイスさん達が一斉に俺に対して膝をついて礼を取っていたのはちょっとびっくりしたけどね。
埠頭にある教皇派施設の位置取りは事前に調べているので、ラークさんが率いてきたジーヴ村防衛用の部隊以外の人員で順番に制圧していくことになる。
幸い埠頭では執行者もドラゴンも見かけていないので、勇士の数だけに注意すればいい認識だ。
神族達は遊撃役で、敵戦力が多い・あるいは強力な所の援軍として動いてもらう。
また、俺はお飾りの総指揮官ではあるが同じく遊撃役で、神族の皆が動けない時の予備兵力となる。
執行者等の超級戦力が複数いる上、救助・回収対象が増えている教皇派本拠地攻めでは、前線に立たないと被害の拡大が想定されるから頑張らないといけないけどね。
大まかな部隊編成をラークさんとルイスさんと合わせて共有した後、埠頭への出発まで少し時間があったが、俺は詰所に来たベリータさんに呼び止められ、他に誰もいない部屋で話したいということで、詰所の一室に来ている。
……要件は、きっと彼のことだろうね。
部屋の鍵をかけ、盗み聞きされないよう部屋の奥に移動してベリータさんの話を聞く。
「アドリアン様、ヨハネス君に動きがあったわ。シューベトで領主様が訪れた装飾店に彼も行って、領主様が依頼したのと同じ白いクリスタルの複製の作成を頼んでいたってあたしの部下から報告が入っている。……これ、絶対すり替えを狙っているわよね?」
そうだろうね……。
俺もヨハネスさんの動向を異世界のアイテムで適宜確認してたけど、彼が白いクリスタルの複製作成依頼を出していたのをこちらでもチェックしてたからね。
ヨハネスさんに巣を騙し取る意思があることは間違いないだろう。
これはもう、ドラゴンの巣を使った脅迫を行い、アンシエントドラゴン達を神族を泉の生贄にするための道具として利用しようとしている、と見做していい。
つまり俺の予感通り、ヨハネスさんは自分の手段を何も諦めていなかったということだ。
「困った子ね……はあ……。きっとヨハネス君は本拠地の地理がある程度分かるって理由で、巣の捜索役として決戦時に志願するわね。あたしが護衛の体でヨハネス君に張り付いておくようにするわ。首尾よく巣を見つけたらヨハネス君がそれを持っておくと言い出すでしょうけど、彼がドラゴン達に巣を返す時、ネコババしないように注意しとく」
お願いしようとしていたことをベリータさんに先回りされて言われちゃったか。
それでも、ヨハネスさんの件へ継続して対応してくれることに対して改めてベリータさんにお礼を伝えておく。
それと説得が不可避になった以上、ヨハネスさんを説得する際に協力してもらえるよう、今のうちに神族の皆へ根回ししておこう。
対象の人物について今はぼかすけど……。
もう、作戦開始当初より状況が悪化しているのに余計なリソースを使わせないでほしいなぁ……。
神族の皆にも例の人物の説得時に協力してもらえることを無事了承して貰えた。
ちょっと訝し気にしてはいたけどね。
ちなみに、アイールディだけはコミュニケーションが苦手な点が心配だったから、説得時に神族の誰かが意思を表明した時に数度頷くだけでいいと言っている。
今俺達は、埠頭に移動し、教皇派の施設を順に制圧している所だ。
事前の予測通りけっこうな数の勇士が居たが、力量が高い者は誰もおらず、制圧は順調に進んでいる。
踏み込んだ倉庫にブービートラップ的な形で闇の勇士が複数潜む所があったが、該当の倉庫に入ったのがルイスさん直率の部隊とパディさんだったので大事なく制圧に至っている。
「アドリアン様、該当の施設を全て制圧しました。こちらの被害は僅かに負傷者がいるのみです」
ラークさんが埠頭の教皇派施設制圧が終わった旨を教えてくれる。
黒い魔力持ちの魔物についてもここまで神族の皆が頑張ってくれたおかげでジーヴ村周辺ではもう姿を見ないぐらいになっているし、これで教皇派本拠地に攻め込む障害は全て排除したと見做していいだろう。
一旦ジーヴ村に戻り、最後の決戦に向けて作戦会議を進めるとしよう。
埠頭で撃破した捕虜の勇士達を武装解除して簡易な牢屋に閉じ込めてから一晩休養を取った後、主要メンバーは支援隊詰所の会議室に再び集まった。
「では、魔女狩りを終結させるための作戦、その最終段階である教皇派本拠地の制圧作戦の流れを説明します。以前情報を共有した時と違い、アンシエントドラゴン達の撃破、彼らの宝である巣の奪取、そして領主様の救出任務が加わっているため、各人にかかる負担がどうしても増えてしまいますが……どうか奮戦をお願いします」
ハードモードになった教皇派本拠地戦について既に皆で軽く打ち合わせはしているが、今回も司会役を務めるヨハネスさんが改めて全員に作戦の説明をしていく。
「既に了承を取っておりますが、本拠地攻めの最先鋒はフレアさんに務めてもらいます。対応していただくのは、当然ですがアンシエントドラゴン達です。複数のドラゴン相手ではありますが……ここで彼にドラゴン達を撃破か拘束していただかないと、こちらの通常戦力の被害が拡大して本拠地攻めどころではなくなってしまいます」
事前にフレアに話していた通り、フレアはアンシエントドラゴン達を制圧する役割を担う。
それと小細工に近いが、フレアが仕掛ける際はやや大回りをして通常の侵攻ルートの反対側から攻撃してもらい、こちらの歩行戦力にドラゴンの目が行きにくくしてもらう。
秘密基地でのシミュレーションでも10体以上の成体アンシエントドラゴン(強化パッチ付き)を気絶させる形で勝てていたから、こちらの部隊が攻撃を仕掛けて乱戦になる前にフレアを先行させておけば、ドラゴン達を優先して無力化するのは十分可能だ。
「教皇派拠点の防衛に回っているドラゴンの大半、あるいは全てをフレアさんが対処し次第、全戦力で教皇派本拠地に攻撃を仕掛けます。勿論最低限の防衛戦力をジーヴ村に残した上でですが。ただ、前回の想定とは異なり、誘拐された領主様の救出とドラゴン達の宝である巣の回収を実施する必要があるので、他部隊よりも優先して本拠地に突入し、該当の人・物を捜索するチームを2つ決めておきます。このチームは通常戦力の部隊が教皇派本拠地付近に仕掛け次第、本拠地の勝手口より侵入します」
「1チーム目はアドリアン様とアイールディさんです。本拠地内の地理に最も詳しくご自身も高い戦闘力を持つアドリアン様と、神族の中でも特に強力なアイールディさんのペアなら、執行者の襲撃を含めて十分対応可能だと思います。2チーム目はルーカス・エイリンちゃん・フィリアさんのチームで、ここに多少なりとも本拠地内部を見ている僕が案内役として加わります。3人は互いに穴を補い合えるので、一緒に動いてもらったほうが良いでしょう」
俺が本拠地内を回る役になるのは当然だが、予想通りヨハネスさんも本拠地捜索班に名乗りを上げた。
「ヨハネス君。捜索チームの件だけど、あたしもヨハネス君達のチームに同行するわ。神族の子達が執行者に対応する必要が出てくる可能性があるし、戦えないヨハネス君に専任の護衛が居た方が良いでしょう。あたしなら斥候技能で本拠地捜索の補助もできるしね」
「ありがとうございます、ベリータさん。とても助かります」
ベリータさんは事前の打ち合わせ通り、ヨハネスさんに張り付けるよう同行の提案をし、ヨハネスさんも表情・反応からしてベリータさんを全く疑うことなく受け入れている。
「捜索チームについてですが、領主様の救助についてはご子息であるアドリアン様の班が中心に、巣の捜索は人数の多いルーカス達の班で主に担当する、と一旦はしておきます。ただ、本拠地の内部状況に応じて、この辺りの割り振りは柔軟に切り替えていきましょう」
「そして、各チームの支援を務める遊撃役も決めておきますが、執行者に単独で対応可能なパディさんとルイス隊長にお願いします。大変申し訳ありませんが、元支援隊の指揮はルイス隊長の副官さんに取っていただく形になります。ドラゴン達が戦場に加わっていることで、敵の超級戦力への対応がより重要になってしまったので……」
パディさんとルイスさん、そしてルイスさんの副官さんが頷いている。
通常戦力に執行者が仕掛けてきた場合や捜索チームに危険な状況に陥った場合の援軍役、(フレアが対処する以上あまり無いとは思うが)フレアの撃破したドラゴンが再度動き出そうとした場合の足止め役、何もなければ通常部隊の支援役など状況を見て柔軟に動いてもらうため、戦闘力と判断力を兼ね備えた2人が遊撃役となっている。
「そして通常戦力である勇士達を、ラーク隊長が率いるシューベトからの派遣部隊、ルイス隊長の副官さん率いる元支援隊の部隊で排除します。執行者や復調したドラゴンがこちらに来てしまった場合は基本的に戦闘は避け、遊撃役やフレアさんが対処するまで遅滞戦闘、あるいは逃げに徹してもらう形になります」
通常の勇士隊は当初の予定と一部ずれるが、ラークさんとルイスさんの副官さんが務める。
ある意味最も危険な部隊ではあるが、彼らなくして教皇派拠点の制圧はできない。
道理も何もかも無視して、俺が異世界の魔法や技能を使って父上と巣を回収し、更に俺かフレアが教皇派拠点を更地にする強硬案も考えはしたが、余りにも乱暴極まりないのでこの手は状況がにっちもさっちもいかなくなった時の最終手段かな……。
「最低でも領主様の救出が終わり次第、本来の目的である教皇派本拠地の制圧と勇士ザファーの撃破を果たし、魔女狩りを終結させます。その時までにドラゴンの巣が見つかっていない場合は、全ての部隊で捜索する形になりますが……くれぐれも破損には気をつけてください」
そうヨハネスさんが締める。当初想定していた状況よりも大分余裕がないが、そこはもうしょうがない。
補足として、教皇派がアンシエントドラゴンの遺骨を使用したキメラを繰り出してくる可能性についてもここで改めて補足しておく。
「すみません。キメラの件がありましたね。アドリアン様が発見した違法実験の研究成果によると、魔物の死体やドラゴンの遺骨を使用したキメラが襲撃をしかけてくる恐れもあります。黒い魔力の石を使った生物兵器である以上、相手によっては執行者に並ぶかそれ以上に危険な相手でしょう。今回は参加メンバーの多くがアドリアン様の作製された黒い魔力の浄化剤を持つとは言えど、強力なキメラが出てきた場合は神族の皆さんやフレアさんに対応してもらう方が良さそうですね……。他に質問や補足事項が、おや?」
……気配察知で誰かが近づいているのは既に気づいていたが、アンシエントドラゴンに似た気配を纏い、大剣と鎧を装備した漆黒の肌の女性が会議室に入って来た。
恐らく彼女は……。
「あ、モネット」
アイールディが相手の名前を口にする。
やはり、アンシエントドラゴンの一族の人だったか。
「一族のことを任せる以上、この目で相手を確認しておきたかった。そこの神族から聞いていると思うが、念のため伝えておく。一族の霊魂が生まれ、還る場所である巣は周囲の生命力を吸い込む性質を持つ故、人間の手には絶対に渡ってはならない物……。約束しろ。首尾良く巣を入手したら、必ず我々に返却すると」
この場の皆が頷く。まあヨハネスさんは形だけだろうけど。
「枯れた森にある建物の防衛に回された一族は4体。指揮官の護衛役を指示された僕を含めれば5体だ。巣そのものと巣に結びつけられたリーガルを人質に取られている以上、僕達は従う他ない……。巣の奪取とあの人間の救出、どちらも成功させろ。戦場に立つ一族が誰もいなくなった場合でも、今回の戦闘に参加しない一族が巣を受け取りに行くからな」
言うや否や、モネットは直ぐに踵を返して会議室から出ていった。
……おそらく、ザファー達の僅かな隙をついて、こちらに情報を回しにきてくれたのだろう。
内心で感謝の念を送っておく。
ドラゴンが4体……その数ならフレアが確実且つ迅速に対処できる。
フレアの手が直ぐに空くのであれば、俺が覚悟していた想定よりも相当余裕ができそうだな。
「事前に数が分かるのはありがたいですね。他に質問事項のある方は…………。いないみたいですね。では部隊編成を済ませて数日後に作戦を開始しますが、その前にアドリアン様、総指揮官として一言どうぞ」
おおう、割と唐突……でもないか。一応形だけとは言え総指揮官だからね。
この手のものは素直な気持ちをぶつけるのが一番だ。
では失礼して……。
「……神族を傷つけ殺め、人間の心を歪めた原因の一つを払うために、私達は最後の戦いに赴きます。
この戦いに勝利することができれば、デルカル大陸での魔女狩りを終結に導けます。
ですが……これであらゆる状況が好転するかというと、実はそうでもないのです。
資源の不足・飢え・渇き・貧困・差別・黒い魔力……今を生きる人々を苦しめ、不和を生む要因は数限りなくあり、この一戦に勝ったから薔薇色の未来が待っている等という都合の良いことはありません」
「……では、この戦いが無意味なのかというと……そんなことも全くありません。
魔女狩りは私達全員に不和と分断を齎した主要因……。
魔女狩りを終わらせることで、デルカル大陸全体がより良い未来へ進むための大きな一歩となるのは間違いないのですから。
この大陸に暮らす全ての心ある人々が、今日よりマシだと思える明日をつかみ取るのに、絶対に必要なこの一歩のために……どうか、協力をお願いします!」
最後の作戦会議を終え、俺達は教皇派拠点制圧の準備を進めているが、教皇派拠点へ出発する前日に、唐突な援軍を迎えることになった。
「いや~デルカル大陸に来て最初の村で、早々に知ってる人に会えて良かったよ~。アドリアン、お部屋を手配してくれてありがとね!」
「パイベリー、貴方はデルカル大陸にも面識ある人がいたのね……。しかも例の浄化剤を作った人が別の大陸で暮らしているとか考えもしなかったわよ……」
バベリア大陸の魔女狩り終結を知らせるために、なんとバベリア大陸の神殿長後継であるパイベリーさんと、その友達である混血神族のルナさんがデルカル大陸にやって来たのだ。
パイベリーさんは前にあった時より体が一気に成長していたのでちょっとびっくりしたけどね。
2人はどうやらアラムート神殿長による大陸を跨いだ空間移動の魔法で埠頭に飛ばしてもらったらしい。
ただ、魔女狩りをやっている連中は今教皇派拠点に詰めていて、そこを制圧しないとデルカル大陸での魔女狩りが終わらせられないことを教えると、「じゃあ私達も手伝うね!」と、サラリと合流の意思を伝えられてしまった。
ルナさんもしょうがないわね、っていう表情をしてはいるけど、パイベリーさんの意見に反対する様子もない。
ドラゴンや執行者に対応できる実力者は非常にありがたいけど、危険な戦闘になるのは間違いない。
本当に参加してもらって大丈夫かな?
「勿論だよ!アドリアンとフレアにあたしは助けてもらったんだから。それにアドリアンがくれたあの浄化剤のおかげで、あたしの友達が助かったんだもん!」
「……大ポカしてたけどね。私の……えっと、こ、恋人も貴方の浄化剤のおかげで生き延びた口だから。私も手伝うわよ」
「うう~それはゴメンってば~。でもルナも良かったよね。これがきっかけでロビンと本格的にお付き合いが始まったんだから。決戦の翌日に真っ先にロビンの所に行ってお互い謝り合った後、抱き合ってキスを」
「ちょ!?こ、こらパイベリー!私にとっても恩人とはいえ、初対面の人にそういうことをバラすな〜!」
大ポカ……?
ルナさんの事情は突っ込んでほしくないだろうから傍に避けといて、ミスの件についてちょっと聞いてみると、パイベリーさんは緊急時に黒い魔力の浄化剤を使ったので、本人の慣れと無意識の焦りによって対象の方に浄化剤を振りかけるのではなく、飲ませてしまったらしい。
しまったな……それ、予備の飲用瓶に入れてた奴を渡した俺も原因の一つだぞ……。
2人はそっちの責任じゃないって言ってくれてるけど、申し訳ないことをしてしまった。
……あと、せっかくバベリア大陸からも神族の方が来てくれたんだ。
こっちの気遣い不足でもあった話の後に言うせいでちょっと気が引けるけど……パイベリーさんとルナさんに、二つお願いをしてみよう。
どちらも大した手間にはならないと思うし。
「なになに?遠慮しないでドーンと言ってみて!」
「そんな風に安請け合いしないの。内容次第よ?」
ちょっと否定的な発言をしたルナさんからも断られる気配を全然感じないので、彼女達にそのままお願いを口にする。
一つ目はこちらに集まっている神族の皆と交流してほしいことだ。
大陸間の神族同士で会話して見聞を広げるのはきっと皆にとって良い機会となるだろう。
口にはしないが古代神達の後継である故、特に交流範囲を広げる必要性が高いアイールディ、バベリア大陸へ旅行に行く希望を持っているらしいルーカス・エイリンの兄妹と話してもらえると有難いと付け加えておく。
「おお〜、それは寧ろこちらからお願いしたかったかも!いいに決まってるよ!」
「そうね。バベリア大陸では魔女狩りの期間中に周りの神族は殆どやられちゃってたから、こっちにいる神族に私も興味ある。勿論、今貴方が口にした子達ともちゃんと話すわ」
ありがとう二人とも。
もう一つの件は、ヨハネスさんの説得への協力だ。
人物はぼかすが、危険な計画を企てている人にその計画を諦めさせるため、恐らく決戦後になるが、こちらが二人に話を振った時に指定した内容でちょっと回答してほしいとお願いした。
まあ他の神族にお願いしたのと同じ内容だけどね。
「んん?別に良いけど……ホントにそれだけでいいの?」
「私も構わないわ。……でも、その危ない計画を練ってる人は、それで諦めてくれるのかしら?」
恐らくは。
ヨハネスさんの計画に内包される最大のデメリットに説得力を持たせるには、神族がそれを口にする必要がある。
バベリア大陸の魔女狩りを終わらせ、神殿長から別大陸に派遣されるほどの凄い二人なら、最大の説得力が引き出せるはずだ。
「へへ~。でも頑張ったのはあたしだけじゃないよ。皆で力を合わせて勝ち取った成果なんだから。アドリアンとフレアの力もだよ!」
「でも、貴方が一番頑張ったと思うわよ。パイベリーのお母さんであるエリシオン様も鼻が高いと思うわ」
エリシオン様……ああ、神殿長の方か。
こちらについてももう少し話を深掘りさせてもらうと、パイベリーさんはエリシオン神殿長の実の娘で、本名はルシアと言うそうだ。
ルナさんもアラムート神殿長の教えを受けており、どちらも将来的に神殿長となる見込みらしい。
……本名
口にはしないが、パイベリーさんにそんな名前を付け、かつバベリア大陸での計画を練り上げた一人であるエリシオン神殿長は、少なくとも大陸の未来のためなら娘であっても千尋の谷に落とす計画を是とする人物ということだ。
表面上はともかく、内面は非常に厳しい方である可能性が高いから十分注意しておこう。
会話もひと段落したので、最後にドラゴンの巣や父上のことなど今回の作戦について絶対に外してはならない点を二人に共有しながら神族達のいる場所まで二人を案内し、彼女達と一旦お別れした。
バベリア大陸で大活躍したであろう二人が、最後の戦いとその後に予定されているヨハネスさんの説得に参加してくれるのは本当に助かる。
父上の件があるから過度に楽観するのは駄目だが、最終決戦も思ったより丸く収まるかもしれないな……。
そんな気持ちを抱きながら、俺は戦いの準備に戻っていった。