チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
「ヴァヘンダー!」
アイールディはまず魔力を使い、ドラゴンキメラよりは小さいが、大鎌を携え、翼を生やした大きな人型人形を呼び出した。
あれは確か、アイールディがモレル神殿で手に入れたという、彼女の育ての親であるおばあちゃんが作った切り札の人形だったか。
ヴァヘンダーは大鎌を振るってドラゴンキメラに攻撃を仕掛け、1本の骨首に確かなダメージを与えていく。
「わぁっ、とっても強そうな人形!あたしも負けてられないね!」
「凍りつけ!はっ!」
パイベリーさんとルナさんもそれぞれ炎魔法と氷魔法でヴァヘンダーがダメージを与えた竜の骨首を更に損傷させる。
「うーん。黒い魔力で覆われてる上、骨がベースだからか何だか燃えにくいなぁ……」
「ダメージは通るけど、黒い魔力で氷魔法の魔力を押し流されるから、動きを阻害するまでには至らない、か」
炎魔法や氷魔法も有効打にはなるが、ドラゴンキメラから噴き上がる黒い魔力のせいで魔法の副次効果は期待できないみたいだな。
俺も攻撃面で全力を出して援護をすることは可能だけど……それをやってしまうとすぐに決着がつくので、アイールディに取って魔女狩りの締めとなるであろうこの試練をあまり意味がないものにしてしまう。
皆の負傷や消耗には最大限注意を払いながらだけど、やり過ぎには気をつけないといけない。
……とはいえ、もし自爆とかその他大規模破壊を仕掛けてきたり、変にパワーアップするような事態になるようなら、その時は一気にケリを付けさせてもらおう。
その前提で、俺がどうするか……。
……沢山持ってきた黒い魔力の浄化剤を使ってキメラの黒い魔力を弱体化させようか。
幸い投擲スキルを取得しているので、浄化剤の瓶を遠投でドラゴンキメラにバシバシぶつけていくと、少しずつキメラが保有する黒い魔力が弱まっていく。
……おっと、ブレスが来るから回避を!
「分かった!」
「わわわっ!?」
「っとと、3つも首があるから攻撃範囲が広いわね……」
良かった。ヴァヘンダーも含め、皆回避できている。
3つの竜の骨首は連携している訳ではないので身を躱す隙はちゃんとあるが、ルナさんの言う通り、広範囲を薙ぐように攻撃してくるのが面倒だ。
ドラゴンキメラは特徴的な三つ首からのブレスやレッグトリーノの角を利用した電撃属性の頭突きだけでなく、サソリの毒が滴る尻尾や骨の爪での肉弾戦も仕掛けてくるので、中々攻撃パターンが豊富な相手でもある。
訓練であればもっと色々試したいが、これは実戦なので確実に敵戦力を削る必要がある。
俺は手傷を負っている竜の骨首に集中して浄化剤をぶつけ、一時的に黒い魔力を一本の骨首から取り除く。
意図を察した3人の神族は黒い魔力の守りが剥がされた無防備な骨首に集中して魔法や魔力剣を叩き込み、ついにドラゴンキメラの首を一本もぎ取り、破壊することに成功した。
首が取れた衝撃でドラゴンキメラを構成するパーツもいくらかこぼれ落ち、キメラが発する黒い魔力がまた少し弱まっていく。
「よーし!あと二つ!」
「うん。でも、動きが素早くなってる……!気をつけて!」
アイールディの指摘通り、2つ首になったドラゴンキメラは動き自体は俊敏になり、爪や尾による攻撃の速度も増している他、ヌークの翼を使って飛び上がって踏みつけ攻撃も仕掛けてくる。
だが、踏みつけ攻撃を筆頭にまだまだ攻撃を仕掛ける間隙は十分ある。
俺もワイヤーフックを使いながら立体的に攻撃を回避しつつ、骨首の一つに浄化剤を再び連続して叩きつける。
「行って、ヴァヘンダー。五機・電撃球!」
「な、何だか変わったロープね……って驚いてる場合じゃない。氷よ!」
「お~、ビュンビュン空を飛んでるみたい!そして~チャージ完了!アルア様、最強の雷を!」
浄化剤を喰らったキメラが怯み、そのチャンスを逃さずアイールディとルナさんが同時に仕掛けてキメラを仰け反らせ、続けざまにアルア神殿長のものと思しき加護から魔力を引き出したパイベリーさんが黒い魔力の勢いが弱まった骨首へ向けて、狙い過たず強大な雷を落とす。
神殿長の加護の魔力が込められた雷撃によって、二つ目の竜の首も砕かれたが、ドラゴンキメラの戦意はまだ衰えない。
「ちっ、最後まで抵抗する気ね!」
「うう、メチャクチャ暴れてる!上手く隙を狙わないと……!」
パイベリーさんの言葉通り、ドラゴンキメラは残存する黒い魔力を滾らせながら全身を振り回し、ブレスを吐き、こちらにガンガン攻撃を仕掛けてきている。
その上、キメラは2つ目の首が取れて更に身軽になったようで、こちらの攻撃チャンスはぐっと減っている。
下級魔法やヒットアンドアウェイの斬撃・投擲でじりじりキメラにダメージは与えられているが……。
ここからは地道に削る必要があるかもしれない……と思ったその時、大広間入り口から援護が飛んでくる。
「よぉし、間に合った!喰らえ骨ドラゴン!」
「四機・落雷雨!エイリン、あたしの改良した魔力刺激剤は飲んだわね!ぶっぱなしなさい!」
「うん!やぁあああ!」
ルーカス・エイリン・フィリアが大広間に突入しながら各々の魔法でキメラを攻撃してくれたようだ。
特に魔法薬で魔力を強化したエイリンの魔法の威力は凄まじく、彼女が発動した大爆発の直撃を受けたキメラはたまらず床に倒れ伏した。
「「「今!!」」」
アイールディ・パイベリーさん・ルナさんが仕掛けどきを外さず攻勢に出る。
俺も援護としてキメラの頭と胴体に浄化剤を投げつけ、黒い魔力の勢いを更に削いでおく。
パイベリーさんとルナさんは2人の魔力を複合した爆裂魔法で最後に残った竜の骨首を破壊し、続け様にアイールディが魔力を収束させた聖剣アルメダークを通して大魔法・エカールヴェルテルを発動させ、首が全て取れたキメラの胴体も完全に粉々にした。
……ドラゴンキメラが再生する様子はない。
三つ首のドラゴンキメラ討伐戦は終わった、と見て良いだろう。
念の為、黒い魔力の浄化剤を周囲に撒いてはおくけどね。
「ふう……」
「よーし、勝った〜!」
「手強い相手だったわ……皆、お疲れ様」
アイールディ達も戦闘体勢を解き、武器をしまっていく。
「うし、みんな無事みたいだな!俺達、細剣持った執行者を倒して、そいつが守ってた部屋からドラゴンの巣を見つけたんだ。丁度その後、2階の方でデカいのが暴れてるみたいだったから、巣をヨハネスと護衛の人、あと正門を破って突入してきた勇士達に任せて、俺達はここまで援護に来たんだよ」
アイールディ達が息を整えている間、ルーカスがこちらに来た経緯を説明してくれた。
良かった。ドラゴンの巣も見つかったか。
俺達が遭遇しなかった細剣の執行者は巣の防衛に回されていたんだな。
そして俺が予感した通り、ヨハネスさんの手に巣が渡った……。
「シューベトの勇士達がこの建物に踏み込んできた以上、正門での戦闘も勝ったと見ていいでしょ。それにさっきの大きな骨ドラゴンのキメラが連中の切り札なら、これで決着は着いたんじゃない?ここの制圧は勇士の人に任せて、あたし達は一旦外に出ましょうよ」
うん、フィリアの言う通り、執行者・ドラゴンキメラを排除して指揮官のザファーも亡くなった今、本拠地の始末はラークさんやルイスさんの副官さんに任せてよいだろう。
俺達は互いの健闘を讃えたり、援軍に来てくれたルーカス達にお礼を伝えたりしながら教皇派本拠地を後にした。
教皇派本拠地から出ると、勇士達が教皇派本拠地制圧のために忙しく動き回る中、一種異様な雰囲気を漂わせている所がある。
誰がそこにいるかを確認すると……フレア・ベリータさん・ルイスさんが小柄な人……ヨハネスさんを囲んでいる。
ヨハネスさんは一部服が切り裂かれており、表情からは消沈した様子が窺える……多分、ドラゴンの巣のすり替えを周りに見抜かれたんだな。
それと、少し離れた所にパディさんがいるな。恐らく父上を勇士キャンプまで連れて行った後、またこちらまで戻って来たのだろう。
「あ、アドリアン様。終わったみたいね。それに、皆無事で良かった。アドリアン様はもう状況を察していると思うけど、こちらの予測通りヨハネス君がやらかそうとしたから、フレア君と一緒に阻止しといたわ」
『戦闘が落ち着いた頃に小柄なアンシエントドラゴンが巣を受け取りにやって来てな。ヨハネスは服の内ポケットに本物のドラゴンの巣を入れたまま、別のポケットから取り出した偽物の巣をドラゴンに渡そうとしたので、こちらで本物を取り上げて彼らに返しておいた』
「あたしは執行者が守っていた巣をヨハネス君がどこのポケットに入れたかきっちり見ていたからね〜」
ベリータさんによってヨハネスさんのすり替えを見破られ、フレアが爪を使って有無を言わさず本物の巣を回収し、改めて受け取り役のアンシエントドラゴンに巣を返した、ということか……。
『……ヨハネス、あの巣をドラゴン達への脅迫材料にして己の目的を果たそうとしていたことは既に分かっている。神族を人柱にして泉を復活させる腹案をまだ捨てきれないのなら、アドリアンからその案の欠点を3つほど聞いてから、今一度よく考えてみるがいい』
フレアの言葉に神族の皆がぎょっとした表情をする。
「……ああ……フレアさんに、気づかれましたか……。貴方を経由してアドリアン様にも……やはり僕では……ですが、欠点……?」
うん、とりあえずそこの教皇派拠点内の詰所にあった会議室に皆で行こうか。
そこでフレアの言っている欠点を伝えるから。
はあ。ちょっと気が重いけど、今後神族の皆がヨハネスさんの余計な謀略に巻き込まれないようにするためにも、ちゃんと説得を済ませないとな……。
勝手に設定:最終決戦の仕様
・ゲスト参戦するパイベリー・ルナが繰り出す攻撃の威力はアイールディのステータスに比例する。(最低保証値あり)
・3つ首のドラゴンキメラの首を全て破壊し、最後に胴体に一撃加えれば勝利。(胴体への攻撃は必ずアイールディの攻撃となる)
・3つ首のドラゴンキメラは黒い魔力に覆われており、通常時は被ダメージが減少し、状態異常を無効化する。
・ゲストのアドリアンは黒い魔力の浄化剤を一番体力が低いキメラの首にぶつける。浄化剤をぶつけられたキメラの首は、キメラの首にターンが回るまで防御力がダウンする。また、消耗が激しい味方がいる場合は、体力・魔力回復ポーションによる味方の支援も行う。
・パイベリー・ルナはアドリアンに浄化剤をぶつけられた首を優先して攻撃する。
・キメラの首が破壊される度に、ドラゴンキメラの攻撃力・素早さが上昇する。
・ドラゴンキメラが1つ首になった後、一定以上のダメージを与えるか規定ターン数が経過すると、ルーカス・エイリン・フィリアが増援として戦闘に参加する。