チート転生アドリアン君   作:ブロンズ探検家

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幕間 古代神達は対応に苦慮する

古代神マリー、古代神モレル、そして古代神レフガトの意志は、アドリアンの心の中に用意された加護の領域……デルカル大陸再生計画を主導した古代神レフガトの加護が収められた領域に集合している。

各古代神の加護がある領域は互いに行き来できるようアドリアンが設定しているのでこのような芸当が可能となっており、泉から思念を飛ばすよりも速やかにやり取りできるので、これまでも古代神達はそれなりの頻度で加護の領域を使って意思疎通をしていた。

 

「……このまま時を進めても恐らく計画は完遂されない。認識は共通していると思うが、合っているね?」

 

レフガトが口火を切り、モレルとマリーが頷いている。

 

「私達の後継がレフガトの「命を与える力」に目覚める最後の条件は、「愛する人と互いに愛を伝え合うこと」。そして、命を与える力の発露を鍵として、泉の封印は解かれるようになっている。愛こそが、飽くなき欲望に対抗し、打ち勝つことができる力の一つ……」

 

「我々の後継であるウツワに注がれる最後の満たしは「愛」。彼と我々の後継が、何もせずとも自然に愛を伝え合うことで条件が達成されるのが最良ではあった。だが、そうならない場合、あるいは時間がかかりそうな場合に備えてきっかけを用意していたが……それも彼に先ほど潰されてしまった」

 

マリーとモレルが計画の内容と現状の問題を口にする。

 

「私達の後継を森の外に連れ出す契機となり、この大陸に蔓延る葛藤……魔女狩りを打ち破るために後継と力を合わせ、絆を育み、互いに恋をして…最後に愛を教え、愛を伝え合い、伴侶として結ばれる相手として、私達は彼を選んだ」

 

「だが、彼はこちらの計画の全貌は分からずとも、事前に大まかな所をどうやってか把握していた……。そのせいで、我々の後継に対する臨時の世話役と彼は自分自身を認識してしまっているようだった。それでもここまで計画は破綻することなく進行していたが、ここで最後の満たしのきっかけが無くなってしまうと……」

 

「時間が経過しても、彼が私達の後継に愛を教えることはなく、彼の方から愛を伝える、という条件が満たされないだろうな……」

 

……どうしようか。

これが現在の古代神達が抱く心境である。

 

 

 

「……少し視点を変えてみようか。私達の想定からずれた所を思い返してみよう。まずは……そうだな、魔女狩りの葛藤を生み出す起点がシューベトからずれた点だ」

 

「確か……ある日から魔女狩りを行う意志がシューベトから薄れ始め、更にある日を起点にこちらで流れを変えられないほどに弱まってしまった。ただ、代替となるものが直ぐに用意でき、少々の調整で済んだので然程気に留めなかったが……その時から、彼が?」

 

「意志が薄れ始めたのは彼がシューベトの外で活動するようになってから……そう見てよいでしょう」

 

「そして起点となった日に、彼はシューベトが葛藤の中心となる可能性を排除した、ということか……いったい、どうやって……?」

 

「最早この期に及んで手段は気にしても仕方がない。当初のこちらの想定と異なり、彼は幼い頃から世界の流れを変えることができる程の能力と意志を兼ね備えていたとしか言いようがない……」

 

……私達の後継が結ばれるお相手、こっちの想定より妙に能力高くない?

これが現在の古代神達が抱く心境である。

 

 

 

「……そして絶対に外せないのは、黒い魔力の脅威を完全に払う手段を確立したことだ」

 

「見事であった。そんな言葉では全く足りぬほどの大業を達成したと言える。我々は当然のこと、事を知れば全ての神殿長がその功績を認める所だろう」

 

「彼が成し遂げたことのご褒美に……そして、万が一私達の後継が試練を超えられなかった時や彼自身が不慮の事故に遭った場合でも、彼が絶対に生き残れるようにするために、私達は彼に加護を渡したものね」

 

「彼が彼自身の言葉通りに動くのであれば、黒い魔力の脅威は大半がこの世界から取り去られるだろう。正に偉業というに相応しい……。黒石窟の件で、彼が霧の森に行かないと言い出したのは本当に焦ったが……」

 

「そこも想定からずれた所の一つだな……。先に話した通り、彼は我々の計画をある程度知っていた。恐らくは、彼自身の能力によって推測できたということだろう。彼に計画を妨げる気がないというのは幸いだったが、彼は自分自身が計画に含まれているということは全く分かっていなかったな……」

 

「あの時は、計画の全てが瓦解する寸前だったよ……」

 

「彼は私達の後継が育成されている場の邪魔はできないと思い込んでいたみたいで、彼を中々動かしようがなくて、物凄く気を揉んだわ……。端的にまとめると、彼がこちらの計画をある程度把握できるぐらいに突き抜けた資質の持ち主だったから、色々ずれが出て、今こんな風に困っているということよね……」

 

……黒い魔力の完全な浄化手段の確立を除けば、普通に優秀ぐらいの人で良かったんだけどなぁ。

あるいは、計画が完遂し、あの子と結ばれて大人になった辺りで才能を発揮してくれてたらなぁ。

これが現在の古代神達が抱く心境である。

 

 

 

「だが、それ程に突出した能力を備えているとなると……そうか……彼にとっては、魔女狩りすらも大した障害ではないということだったのか……。そして、私達の後継に対して自分が臨時の世話役という認識……彼と私達の後継が織り成した行動が私達の想定通りでも、彼にとっては後継への愛を深める要因としては弱い……」

 

「我々の後継にとって魔女狩りは一人で動かしようがない大岩でも、彼にとっては摘まむのが多少面倒な小石に過ぎないのか……」

 

「でも、彼は魔女狩りを直ちにこの大陸から除きたかったはず。それでも、魔女狩りの終わる時期が私達の想定通りとなっているのは……ああ……。私達の後継への試練の舞台として、私達が魔女狩りを利用していると彼が気付いていたから……」

 

「計画が致命的な破局を終ぞ迎えず、繕いながらもここまで成立しているのは、彼が私達に配慮と譲歩をした結果でもある、ということなのか……」

 

「だが、その推測には頷ける……。リアート村での私の試練では、最悪彼が全てを阻止することを懸念していた。私が事前に敷いた試練の場による影響も受けていたが、最終的に彼は私の意を汲み、苦悩しながらも試練を止めないという選択をした。あの選択の根底には、あの子が成長するために必要な試練を準備した我々に対する気遣いがあったのだろう……」

 

「……そういえば、あの試練の後……私が用意した試練の場……葛藤を生む者達の場所に彼がいた時も、本当は加護を通して黒い魔力の影響は弾くつもりだったのだけど、彼は独力で耐えきってしまっているのよね……」

 

「……どうしてだろうね。全く根拠はないのだけれど、私の泉も含めて全ての泉が枯れた場合でも、この大陸に発生する問題を解決できる可能性が、彼なら幾らかはある気がするな……無論短中期的なものに限られるが……」

 

……そんな馬鹿なと思うけど、どういう訳か、頭からは否定できない。

これが現在の古代神達が抱く心境である。

 

 

 

「しかし、こうして考察していくと……最後の満たしに備えた仕込みが想定通りに動いた場合でも、上手くはいかなかったかもしれない……」

 

レフガトは後継・アイールディが首尾よく泉に落とされた場合の状況をシミュレートし、二人に共有する。

 


【ケース1】

 

まさかアイールディが泉に落とされるとは。

いや本当に何やってるんだヨハネスさんは……。

俺は大急ぎで新しく開発したどんな場所にいる生物でも引き寄せられる魔法(発見した魔道具でも可)を使用し、アイールディを泉から回収した。

 


 

「彼なら、こちらが想定する手段……自分が泉に飛び込むことなく、こんな風に対処してしまうんじゃないかな?」

 

「神族を泉に落とすという手法を彼が認識した以上、備えを用意しているというのは十分あり得そうね……」

 

「では、現状が我々の意図した通りであると伝えれば……」

 


【ケース2】

 

この子は、この大陸全体の命のために創造された子。

 

我々はこの子のために多くの試練を創り、

 

より多くを見て学ぶよう導き、

我々がこの子をここまで辿り着かせたのである。

 

この子は其方のモノではない……。我々のモノである……。

 

 

アイールディを助けようとした所で、泉の奥から声が響いた気がする。

 

古代神が望んでアイールディを泉に入れた?そしてあの子が自分達の所有物だという言葉……。

……なるほど、これも試練だったか。

 

となると、古代神達の狙いを壊さないよう、勝手に干渉するのは止めといた方がいいな。

そもそも俺は臨時の育成補助担当だしね。

恐らくだが、充分にアイールディが成長した今、余計なことはしないで彼女を信じて待つだけにしなさい、と嗜める意志を込めて古代神は声をかけたのだろう。

後は「試練の邪魔をしようとして申し訳ない、後はお任せします」と泉に向けて言葉をかけておくとしようかな。

 

声かけが終わった後、俺はアイールディの試練突破を願いつつも、泉の側を離れてシューベトに帰還した。

 

 

……そこは私の言葉に反発や反論をする所ではないのか……

 


 

「……いや、やはり駄目だな。彼の自己認識を鑑みれば、彼は何もせずに帰ってしまう可能性が高い」

 

「彼が自身の状況を誤解したことが、ここまで重い事態になってしまうとはね……」

 

「かといって、こちらが手をこまねいていると……」

 


【ケース3】

 

「アドリアン、私の知人からお前に縁談の話が来ていてな。お前にはまだ浮いた話もないのだし、良い機会だから一度会ってみるのはどうだ?」

 

食料と真水の増産に関連する政務、そして黒い魔力の浄化に励む日々を送る中、父上からお見合いの勧めを受けた。

まあ領主の息子なんだし、そういう話も当然来るよね。

でも、こうして父上が直接俺に伝えに来たということは、お相手も決して悪い相手ではないと父上も判断した、ということだ。

実際俺に付き合っている人は誰もいないのだし、父上の勧め通り、相手の方と顔合わせをすることを了承した。

 

======

……うん、実際に会ってみたけど良い相手だったと思う。

あの子なら、恋人として、夫婦としてちゃんとやっていけそうだ。

 

「その顔を見るに、上手くやれそうなようだな。相手方は婚約を結ぶことを望んでいるが、要望を受け入れても問題ないか?」

 

大丈夫だと思います、と父上に返事をする。

俺にもお付き合いするお相手ができるんだな……。

少し不安もあるが、父上と母上のように、互いに思い合い、支え合える間柄になれるよう頑張ろう。

 


 

「彼は人間の世界で身分がある子だから、きっと時間経過でこうなってしまうのよね……」

 

「分かりきったことではあるが、私達の後継が結ばれる相手を後から変更するのは不可能だ。あの子の心は完全に彼に向いている。対象が移ろうことは決して起こらない……」

 

「もうこの際、あの子は自分のモノだと彼が主張してくれれば、どれだけ良かったか……」

 

「だが、今回は感情の流れをこちらで動かしては意味がない……」

 

……いやホントどうしよう。

これが現在の古代神達が抱く心境である。

 

 

しかし、遠い未来まで人々を存続させる為に準備したデルカル大陸再生計画……大事な計画をあと一歩の所で放り投げる訳にはいかないので、レフガトとモレルは打開策を練るべく各々思索に入っていく。

マリーも同様に思考の海に沈む。

 

(必要な条件を細かく分けて考えてみましょう。まず、達成が容易なのは、私達の後継が満たすべき条件。既にあの子は彼へ誰よりも思慕を寄せている。こちらの想定より彼との交流頻度が大分多かった分、感情の濃度が凄いことになってるけど……。でも、ここまで重く、深く、一途に彼のことを想っている以上、あの子が愛を自覚し、彼に愛を伝えるきっかけは他の子達との交流で手に入れても問題はない)

 

(逆に達成が難しいのは、彼に満たしてほしい条件。ただ、私の感性ではあるけれど、人間が気持ちを動かすのに十二分の見目と心の美しさを私達の後継は持っている。これなら、彼は私達の後継を伴侶として魅力が無いとは思っていない筈。そもそも一切の脈が無いという最悪の可能性は除外していいわよね)

 

(問題は、私達が用意した試練の場が、彼にとってはあの子との絆を深める要因として弱かったこと。彼からあの子に向ける慕情がこちらの想定を下回っている状態でも、彼があの子の愛を受け入れ、愛を返す状況を用意する必要がある……)

 

(但し、これまでのように痛みや苦悩を伴う試練の場を配置するやり方では、同じ失敗を重ねるだけ。手法と発想を変えるべき……何か、ヒントは……)

 

癒しの神・マリーはずっと昔……シューベトとジーヴ村の戦争で、自身の守護動物であるラガーを人質に取られてシューベト軍に無抵抗で肉体を殺される前……人間と頻繁に関わり、恋や愛の話等も含めてたわいない会話を人々と楽しんでいた時期があるため、3人の中で人間の感性に最も理解が深い神でもある。

現在の状況を好転できる公算が大きいのは自分であるという自覚があるマリーは、実体を持っていた頃も含めて全力で記憶を掘り起こす。

 

(……そういえば……肉体がある時におしゃべりした内気な貴族の子……彼は会ったこともない人と婚約を結ぶことになったけれど、それでも互いを愛し合う良い夫婦になれたと話していた……。あの貴族の子が婚約のことを私に話した時、確か彼は……)

 

『マリー様、実は僕、父母や友達の薦めで縁がある家の次女と婚約が決まったんです。まだ、顔も見たことも無い人で心配ですけど……でも、こうして結ばれることが決まった以上、相手の子を愛せるよう、僕は頑張ってみようと思います』

 

その時、マリーの思念に電流が走り、ちょっと古いタイプの豆電球が思考に点灯した。

 

(そう、そうだわ!お見合いの時点で気付くべきだった!人間の貴族は、順序が逆でも良いのね!彼の父母が有力な結婚相手を見つけるより先に、私達の後継を彼の結ばれる相手として差し込んでしまえば、彼もあの子に愛を向ける……。そうすると……こうすれば……うん、いけそうね)

 

人は愛し合うから結ばれるというのは道理だが、伴侶となるのが決まったことで生まれる愛もある……これは盲点だったとマリーは内心で独りごちる。

 

「……何か、案が浮かんだのか?」

 

モレルはマリーの様子が変わったことに気づき、声を掛けている。

その言葉を耳にしたレフガトも一旦思考を中断し、マリーの方に向き直った。

 

「ええ。私にいい考えがあるわ」

 

……何故かそこはかとなく不安を感じる言い回しだが、まだ策が浮かんでいない二人はそのままマリーの案を聞く姿勢を取る。

 

「彼は、私達の意向を彼が分かる範囲で壊さないよう、配慮して動いていたわ。私達も、彼のやり方に倣えばいいのよ」

 

「「……?」」

 

「丁度、次期神殿長の子達がバベリア大陸の神殿長に話を回すみたいだし、そこに便乗して私達の意志をあちらの神殿長に伝えましょう。そのまま、彼女達を私達の後継に自覚を促すきっかけとして巻き込めるわ。黒い魔力を完全に浄化できる彼との接点を強められるとなれば、あちらの神殿長達も否とは言わない筈……。加えて、彼自身が誓願を立てる可能性は低いでしょうから、誓願を立てる人は彼の母親が一番有力……うん、とても好都合ね……」

 

「マリー、話がまだ見えないのだが……」

 

「これまでと違って、人間である彼が受け入れやすいよう、人間風のやり方で場を整えてみましょう、ということよ。確か、人間はこの手法を……【外堀を埋める】って言ってたかしら……」

 

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