チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
デルカル大陸での魔女狩りが終結し、シューベトは決戦の事後処理を進めている。
真っ先に手を付けられたのは教皇派本拠地の解体だ。
特に本拠地の研究室・資料室にあったド級のやばさである実験記録や物品は、バベリア王宮からの見届け人が見守る中、全て焼却処分、無理なら破壊して破棄となった。
また、決戦までの過程で捕らえた教皇派の勇士についてもバベリア王宮に引き渡しており、彼らの処遇は王宮で決まるだろう。
直感では教皇派の勇士とはもう関わる可能性が無さそうだけどね。
状況の変遷に伴い、シューベトでも色々変化がある。
一番大きいのは、勇士ザファーに誘拐され人質とされていたリーガル父上が、左足の喪失を理由にシューベト領主の地位をエステル母上へ譲り渡した点だ。
義足と杖もしっかりした物が手に入ったし、そのまま領主として政務をする分には問題ないのでは、という意見も母上のものを含めて出てはいたが、「私は、やり方を誤りかけたからな……」とだけ言い、結局初志を翻すことはなかった。
神殿長に足の治療を願い出るという案が出た時も静かに首を振っていたし、何らかのけじめが父上の中であったのかもしれない。
ただ、父上は政務面・軍事面での母上の補佐役に就き、主体は変わっても引き続き父母で協力しながら政務を進めているので、然程混乱は起こらなかったけどね。
改めてシューベト領主となった母上は、俺と父上の了承を取って、俺が見つけた作物をリアート村・ジーヴ村が使用する条件を緩和し、収穫した作物のうちシューベトに納める量を2割から5分に減らした。
リアート村・ジーヴ村がシューベトに納めるのは、あくまで泉の加護がない土地で収穫した際のサンプル分であるという、俺が当初想定した形になったということだ。
他にも教皇派勇士による略奪の被害を受けたリアート村への追加支援も母上は手配しており、これでデルカル大陸は復興に向けて歩み始めたと言えるだろう。
そして大問題を起こしかけた……いや実際に起こしていたヨハネスさんについては、約束通りエイリンに謝りにいった。
説得直後に話していた通り、エイリンはヨハネスさんを許しており、「今度はやり方を間違えずに、デルカル大陸で暮らす皆の為に頑張って下さいね!」と彼女に諭され、また涙を流していたそうだ。
そして俺が罰として提示したシューベトへの引き抜きと労働についても彼は受け入れており、「贖罪と挽回の機会と思い、全力で励みます」と移籍時に彼が口にした言葉通り、王宮特使からシューベトの上級政務官にジョブチェンジしたヨハネスさんは各種政務に精力的に取り組んでくれた。
……そういう後悔とかをする暇がないぐらいに沢山の仕事をヨハネスさんに振ったつもりだったけど、結局全て捌かれてしまった所は誤算だったかな。
まあ、魔女狩りの事後処理やリアート村への追加支援等が急ピッチで進んだのは、ヨハネスさんの働きによる所が非常に大きいのは間違いないので良しとする。
エイリンに謝ったことも含め、これで最低限の禊も済んだと見做していいだろう。
また、俺も政務をこなしつつも魔女狩り終結に合わせて転生特典を使い、シューベト城西海岸までの道の近く、まだ探索が進んでなかった荒地の一部に「生育が物凄く早く、灰にすると荒地でも植物を育ちやすくする肥料になる異世界の植物」を呼び出しており、ヨハネスさんに試験的に肥料として試すよう手配をお願いしている。
シューベトの農耕不適地・リアート村とジーヴ村付近の荒地の全てで収穫量を大きく増やしてくれる異世界の灰肥料にヨハネスさんは本当に感動してたなぁ。
ヨハネスさんがあの膨大な量の業務をこなせたのは、灰肥料の効果を見てモチベーションが最高潮だったから、というのもあるかもしれないね。
「ふう……。これまでもリーガルの補佐をしてはいたけど、政を主導するのは久々だから、やっぱり勝手が違いますね……」
今、俺と母上とヨハネスさんは、決戦の後始末と喫緊の政務を全て終わらせ、会議室でお茶を一服している。
ちなみに父上はシューベト城でルイスさん達を含めて部隊再編の業務中だ。
「エステル様、ありがとうございます。救荒作物使用の条件緩和でリアート村、ジーヴ村に回る作物の量が増え、両村共にかなり生活が上向いています。他村であるにも関わらず、収奪を受けたリアート村へ追加で資源を拠出していただいたことも……」
ヨハネスさんは少し疲れが見える母上に対し、感謝の言葉を伝えている。
「リアート村が立ち直ったのは、シューベトの政務官として正式に着任したヨハネス君の頑張りもあると思いますよ。各村で何の資源がどれだけ必要かを算出して、的確な支援の手配を進めてくれたのは貴方ですもの」
「あはは……。それでも僕が出来たことは、限られた物をやり繰りするぐらいですから。それ以上に、何より有難かったのは、新たに開かれた地でアドリアン様が見つけられた草木灰の肥料ですね。あれのおかげで、全ての町村で作物の収量を更に上げられます。勿論、まだ試行錯誤は必要ですけど」
そのやり繰りの部分がとても難しいんだけどね。
これまでの作物と水の増産分を含んで対応しているとはいえ、ヨハネスさんは本当に神がかった仕事ぶりを示してくれた。
「……実は、以前お話した泉の件も含め、僕はこの大陸に希望はあるのかと疑っていました。ですが、デルカル大陸を真に人が生きるに能う地へと変えることも、僕達の頑張り次第では不可能ではないと……今なら本気で思えます」
そう口にするヨハネスさんの表情は明るく、声にも手ごたえがある。
母上も明るい未来を語るヨハネスさんのことを穏やかな表情で見ている。
……ヨハネスさんが神族の生贄案を抱えていたのは、大陸の先行きが中々見通せないことで、どこか心理的に追い詰められていたから、というのもあるかもしれない。
でも、魔女狩りというデルカル大陸への特大デバフも消え、未来への展望がきちんと開けている以上、今のヨハネスさんであればもう道を誤ることもないだろう。
すぐに除いてはいけない理由があるとはいえ、本っ当に、途轍もなく、魔女狩りは邪魔だったからなぁ。
魔女狩りによって亡くなった人を思うと全く誇れることじゃないけど、俺もよく忍耐が持ったよ……。
「そういえば、今となっては急ぎという程では無いのですが……。僕が正式にシューベトに移籍するのに合わせ、デルカル大陸の泉を復活させる方法について、バベリア大陸にて復活された神殿長に誓願を立ててもよいか国王陛下にお伺いしていたのですが、問題ないというお返事のお手紙を昨日受け取りました。別大陸からの誓願者というのは非常に珍しいかもしれませんが、よい回答が頂けて何よりです」
泉の扱いについては、もう道を踏み外す訳にはいきませんからね……とちょっと自虐的にヨハネスさんは続けて言葉を紡ぐ。
実は、魔女狩りが終わってもデルカル大陸にあるマリーの泉とモレルの泉はまだ復活してないんだよな。
魔力が足りないからか、条件を満たしていないからなのかは、こちらでは分からないが……。
「そうね。時間的にも丁度余裕ができたし、神殿長の方々に泉についてお尋ねするのには良い機会かもしれません。大陸をどうにかできる目処が少しずつ立ちつつあるとはいえ、泉の加護についてはこちらでは如何ともし難いですからね。ただ、誓願を断られた場合は、もう泉の件は忘れましょう。あの方々が意地悪で答えない、という事はないでしょうし」
母上は神殿長達へ泉について問い合わせをするのに前向きみたいだな。
確かに政務が落ち着いた今ならタイミングがいい。
まあ、単純に魔力を溜めれば良いと回答が来てしまったら、今度はモレルの泉を管理してくれる神族を探す必要があるだろうけどね。
稼働しているとはいえ魔力を溜める神族がいないレフガトの泉については、古代神レフガトの直系であるアイールディが将来管理する可能性が高いから、一旦置いておいてよい筈だ。
「バベリア大陸の神殿長達に誓願を立てに行くとなると、決めなければいけない事があります。当たり前のことですが、誰が誓願を立てるか、という点です。泉の復活について願いを強く抱く人が望ましいとは思いますが……」
顎に手を当て、ヨハネスさんが発言する。
そうだな……まず、父上は除外される。
神族に願掛けするなんてことは、父上の性格上しないだろうし。
口にはしないが自力で大陸の状況を改善できる俺も止めた方がいい。
この場では、「灰肥料の件に関心が向いてしまっているので、泉についての願いが自分では弱くなってしまう」とでも言っておくか。
「そうなると、アドリアン様と同じ理由で僕も遠慮した方が良さそうです。……大陸全体を考慮した政を為されている点を鑑みても、大変恐縮ですがエステル様に誓願を立てていただくのが一番無難かと思います」
「貴方達でも十分大丈夫ではあるとは思いますけど……確かに、私が行うのが神殿長達への誠意の示し方としては適切かもしれませんね。……その場合、問題は……」
苦笑しながらも母上は自分が誓願を立てることを了承しているが、途中から思案顔となっている。
母上が気にされているのは、神殿長達が魔女狩りからの復興に伴う誓願を捌いているだろう状況で、今バベリア大陸に渡って神殿に向かっても、当日誓願を立てられる訳ではないということだろう。
「確実にそうなるでしょうね……。ですが、遠方から来る人のために、神殿では誓願を立てる日程の予約ができる筈ですので、今回はそちらを使わせていただきましょう。ちなみにですが、同時期に複数の神殿で予約を取ることも可能です。当然ながら、その場合でも誓願を立てられるのは一つの神殿のみですが」
ふむふむ、思ったより融通が利くんだな。
ヨハネスさんの説明にそんな感想を抱く。
「……ただ、大陸を渡る負担を考えると、回復されたとはいえ、何度もエステル様にバベリア大陸にご足労いただくのは控えた方が良いでしょう」
それなら、誓願の予約を取りに行くのは俺が代行する方がいいな。
ただ、誓願の予約は代理が可能なのかという点と、予約の手続きそのものに俺が疎い点は気になるな……。
「大丈夫ですよ。委任状があれば親類縁者の方が代理で誓願の予約を取ることは可能です。委任状の形式は僕が知ってますし、現地の神殿での段取りについても僕が補佐できますので、アドリアン様がよろしければ、僕とバベリア大陸の神殿へ向かいましょうか」
それは非常に助かる申し出だ。
神殿関連の手続きだとヨハネスさんはかなり頼もしいな……神族を尊敬している彼なら意外ではないかもしれないが。
なら、ヨハネスさんと一緒にフレアに乗って三名でバベリア大陸へ行くとしようか。
戦闘能力のないヨハネスさんが騎乗するのでフレアの高機動形態は控えた方が良いから、行きの飛行とバベリア町での宿を取るのに1日、誓願の予約で1日、帰りの飛行で半日……今回の旅程では、大雑把に計2日半かかると見ておくか。
時間に余裕があれば初日時点でアラムート神殿に予約へ行ってもいいかもね。
マニル島や各地の無人島で適宜休息を取りながら飛んで行けば、ヨハネスさんにも負担を掛けずに大陸を渡れるはずだ。
「分かりました。僕は業務上の指示を出し終えているので、アドリアン様の都合がよろしければ明日にも出発できますが……」
こちらも喫緊の仕事は全て片付けたから、その日程で問題ないかな。
委任状が直ぐにできるのなら明日出発しようか。
「ありがとう、アドリアン、ヨハネス君。予約については二人に任せるわ。でも、誓願者が多くてどうしても予約を取るのが難しい場合は、そのまま戻ってきても構いませんからね。ではヨハネス君、誓願の予約用にアドリアンへの委任状を認めるから、形式を教えていただけるかしら」
「承知しました。委任状はそこまで時間が掛からず作れる物ですので、明日出立する日程で問題ありません。エステル様、紙を取ってくるので少々お待ちください」
そう言ってヨハネスさんは一旦会議室を出ていった。
俺も母上に断りを入れ、明日の荷造りの為に自室に戻ることにする。
魔女狩り後のバベリア大陸か……。
黒石窟の浄化で通うことは元々予定していたが、ちょっと変わった形であの大陸を訪ねることになったな。
とはいえ、神殿での対応に自信があるヨハネスさんが居る以上、そうそうおかしな事態は起こらないだろう。
これはデルカル大陸全体に関わる真面目なお仕事でもあるし、現地でしっかり務めを果たすとしよう。
【バベリア大陸・アラムート神殿の一室にて】
「最後の一押しを手助けしてほしい、ということか……。ルナ、準備が出来てからで良いので、もう一度デルカル大陸に行ってくれないか。大切な存在を失いかけるも、再び絆を紡ぎ直し、最後に愛で結ばれた君の経験談は、きっとあちらの子の成長に必要だろう」
「わ、分かりました、アラムート様。かなり恥ずかしいですけど……。ただ、ちょっとハードルが高いから、あちらのエイリン辺りにも手伝ってもらいます……」
【バベリア大陸・エリシオン神殿の一室にて】
「わぁ……素敵な泉の復活方法だね!んー、でも、アドリアンと彼は性格が大分違いそうだから、あたしの話が参考になるか分からないなぁ……。そうだ!じゃあ、あたしが読んだ恋愛関連の本もアイールディちゃんの家にいっぱい持っていこうっと!」
「ルシア……ちゃっかり付き合わされてるのに、やる気満々ねぇ。ただ、その子が結ばれるお相手の男の子からの誓願を受け付けた方が、どう考えても話は早そうだけど……。それに、あんなに大量の黒い魔力を完全に浄化してくれた件についても何かお礼をした方がいいかしら……」
誓願の手続き回りはオリジナルです。