チート転生アドリアン君   作:ブロンズ探検家

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71話 誓願の予約を取りに行こう その2+α

「さあ、気楽にしてね。テーブルの食べ物は好きに取ってもらっていいわ」

 

神殿内の部屋にて、エリシオン神殿長に手振りで石造りの椅子をすすめられ、ヨハネスさん共々腰掛ける。

目の前のテーブルには果物が並べられているが……率直に言って、喉を通らない。

顔色が青白くなっている隣のヨハネスさんも同様だろう。

何の心構えもなく神殿長と顔を合わせちゃったからなぁ……。

 

「もう、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。初対面だし名乗っておきましょうか。神殿長のエリシオンよ。そちらは、ルシアとアークが言っていたアドリアン君ね。ふふ、かっこいい子ね。もう一人の子は……」

 

「ヨ、ヨハネスです、エリシオン様」

 

震える声でヨハネスさんは挨拶する。

俺も改めて名乗り、エリシオン神殿長に頭を下げる。

 

「ええ、よろしく、ヨハネス君。こちらは可愛い見た目の子ね。今回は誓願の予約に来たということだけど……内容を知っているなら貴方達が誓願を立てる形でも良いのよ?そのぐらいの融通は利かせるわ。順番もね」

 

……?おかしい、俺はパイベリーさんの提案は断った筈。

それなのに、どうして神殿長が直接面会までして過剰とも思える配慮をこちらにする……?

何となく不安な気持ちになったので、当初の予定通り、自分はあくまで日程の調整役であり、誓願はデルカル大陸全体を考慮して政務を行う領主の母上が立てる予定であることをエリシオン神殿長に話す。

……あれ、何でこの回答でエリシオン神殿長の方が困惑しているんだ……?

 

「そ、そうなの。えっと、じゃあアドリアン君、貴方自身の願いは何かあるかしら?よければ言ってみて欲しいのだけど」

 

……やっぱりおかしい。何故、神殿長の方から誓願を立てる訳でもない人間の願いを口にさせようとしているんだ?

だが、大陸の状況を自ら改善可能な俺が、自分の願いとして泉について誓願を立てるのは心からの願いとならないので、この場で話す訳にはいかない。

現状叶えて欲しい願いはないし、まだまだ自力でどうにかできることは沢山あるので、このまま精進する旨だけを伝えておく。

 

「う、うーん……分かったわ。じゃあ予約だけ、ということね。ちょっと待っててね……」

 

そういうと、エリシオン神殿長はこの場から転移する。

いや、だからどうしてこの回答でエリシオン神殿長の方が微妙に困り顔をしているのだろう……?

 

神殿長の気配やこちらを探る類いの魔法がないことを確認し、ヨハネスさんに神殿長があんな風に領主の息子に配慮するような話は聞いたことがあるかを聞いてみる。

 

「い、いえ、そのようなことは一度も耳にしたことがありません。あの方々が最も考慮するのは願いの正しさ。身分や血縁などではない筈。……ましてや、神殿長の方から願いを尋ねるなど、あり得ないでしょう」

 

顔が青白いままのヨハネスさんが回答してくれた。

でも今、そのあり得ない事が起こってたんだよなぁ。

表情とかを無視して簡単に推測するなら……そうだな、エリシオン神殿長は母上が立てる予定の誓願を事前に知っていて、俺達が安易に泉に関する願いを口にしないか試されていたのかな?

 

「なるほど……それはあり得るかもしれません。……神殿長の方々も、ただ人々に慈悲を与えるだけではない、ということですね。以前の僕は、本当に愚かだった……」

 

ああ、神族の生贄案を抱えていた時のことか……。

多分、神族を人柱に泉の復活を実施しても、他の神族は変わらず人々を助けてくれるだろうって思ってたって所かな。

ちょっと神族の心情を慮ればそんなことはないと分かる気がするけど、それは過ぎてしまったことだ。

もう反省しているし、エイリンにも許してもらえたのだから、今度は胸を張れる道を歩んでまた一つ一つ積み重ねていけばいいとヨハネスさんを励ましておく。

……む、転移の気配……エリシオン神殿長が戻られたようだ。

 

「誓願の予約について、証明書の用意をしたわ。アラムートの所でも同じことをしていれば、そちらに行くのかもしれないけど。……他の誓願の対応があるから、私はこれで失礼するわね。アドリアン君、ルシアの友達でもあるのだから、誓願は関係なしに、また遊びに来てね」

 

誓願の予約証明書を俺に渡すと、エリシオン神殿長はまた転移していった。

受付用の書類を書いてないし、委任状も彼女やブラックジョーさんに見せてないけどいいのだろうか。

しかも誓願の対応可能な日程が明日以降、期間制限なしになってるよ……。

 

「……町に戻りましょうか。緊張で、物凄い疲労感が……」

 

エリシオン神殿長の意図がイマイチ読み切れなかったのは気になるけど、全く予期せぬ神殿長との面会にヨハネスさんがぐったりしてるし、目的の予約証明は貰えたのだから、ヨハネスさんの言う通りさっさとバベリア町に戻ろうか……。

 


 

「どうしてあんなにピリピリしていたのかしら……あ!折檻を受けたアークの様子を見て、怖がらせてしまったかもしれないわ……私も反省しないと……」

 


フレアにバベリア町まで送ってもらい、昼時には若干時間が早いが軽く昼食を済ませた。

この後はアラムート神殿での予約証明を受け取りに行くが、ヨハネスさんは精神的な疲れがまだ取れないようだったので、彼には宿で休憩してもらい、俺一人でアラムート神殿に向かうことにする。

 

アラムート神殿に再度到着後、誓願の予約手続きを昨日済ませたので証明書の発行を待たせて欲しい旨を俺は案内や誘導をしている人に説明し、神殿内にある待合室の一つに入れてもらった。

……ふむ、気配からして隣の待合室には人が何人かいたが、こちらの部屋は俺だけか。

俺は部屋にいくつか備え付けられている椅子に座り、軽く目を閉じる。

 

この神殿で予約証明を貰えばバベリア大陸でやらなければならないタスクは完了となる。

アラムート神殿で貰える予約証明で誓願を立てられる時期が早ければアラムート神殿で、余りに遅いようなら、エリシオン神殿で母上に誓願を立ててもらうことになると思う。

でも、エリシオン神殿長のことを思うと、やっぱりアラムート神殿で誓願を立てられるといいなぁ……。

 

コンコン。

 

あれ、ノック?

誰が来たんだろう……?

とりあえず、入って問題ない旨を伝える。

 

「やあ、こんにちは!デルカル大陸からのお客人と聞いて、訪ねさせてもらったよ。君がこちらで順番を待っている間、私の話相手になってくれないかな?」

 

元気な声で挨拶とお願いをしながら入ってきた人は、男性の成人神族だった。

彼は白・赤・黒を基調としたローブに身を包み左頬に三角形に似た文様がある。

そして、エリシオン神殿長やパイベリーさんと同様白く光る瞳孔を持っている。

加えて彼に内在している莫大な魔力の波長は、パイベリーさんが所持している5つの加護の一つと同質……あの、神殿長の方が何故ここに……?

 

「ははは、初見で見抜くか!素晴らしいね。そうだよ、私はエイムハード。大陸東端のララク村、その北西にある泉を治めている。こうして会えて嬉しいよ、アドリアン君」

 

快活に近づいてくる彼に手を差し出されて握手まで求められてしまい、俺は急いで立ち上がってエイムハード神殿長の握手に応じる。

いや、魔力はともかく、その瞳孔の特徴で神殿長だと分かる人は分かると思います……。

それにしても……俺は何で誓願の予約を取りに来ただけで神殿長本人に何度も面会してるんだ?

しかもエイムハード神殿ってバベリア町からかなり離れている場所にある筈なのに……。

 


またも完全に想定外の邂逅だったが、エイムハード神殿長は本当に雑談しに来たらしく、俺が語るデルカル大陸の町や村の様子を楽しそうに聞いており、ご自身もララク村の様子……特に最近村に預けた神族の少女であるミーロという子が、ララク村の子ども達と遊ぶ様などを溌剌とした様子で語ってくれた。

 

「さて、こうして雑談に付き合ってくれたのだし、誓願の予約を取りに来た君に、役立つ物をあげておこうか」

 

雑談が一区切りした頃に、エイムハード神殿長は2枚の上質な紙でできたカードを俺に渡してきた。

それぞれのカードには空間移動の魔法陣をベースにしつつも遥かに精緻な陣が刻まれており、カードの陣は互いに連動しているのが感覚でわかる。

 

「使い捨てではあるが、大陸を跨いでアラムート神殿へ行き来できるよう魔法陣と魔力を刻んでおいた。1枚目のカードの魔法陣を指で3回叩くとアラムートの間へ飛び、2枚目のカードの魔法陣を指で3回叩くと1枚目のカードを使用した場所に戻れる。誓願を立てる人に渡してあげなさい」

 

……物凄く助かりますけど、それはアラムート神殿長本人に了解を取っているのですか?

 

「これから取りに行くから大丈夫さ!ではアドリアン君、お話に付き合ってくれてありがとう。時間がある時に私の神殿にも遊びに来てくれ。お土産も用意して待っているよ!」

 

エイムハード神殿長はそう言うと、最後まで明るい様子を崩さず待合室を出ていった。

……アラムート神殿長はバベリア大陸の神殿長達を取り纏めるリーダー役でもあるらしいけど、俺が会った二人の神殿長の様子からして、結構苦労されているのかもしれない。

 

更にもう少し待っていると、案内の人が待合室に来て、誓願の予約証明ができた旨を教えてくれたので、予約用の受付対応をされていた方が居る部屋に移動する。

……部屋に入るや否や、ぎょっとしてしまったけどね。

そこにはエイムハード神殿長と共に、青を基調としたローブを纏った純血神族の方……アラムート神殿長本人が居たのだから。

 

とりあえず初対面であるアラムート神殿長に挨拶を済ませ、俺はまた神殿長本人から直接誓願の予約証明を受け取ることになった。

ただ、エイムハード神殿長の魔法陣を使う場合は明日から1か月間、12時~13時の間にしてほしい、証明書の予約対応可能日もそこに併せてあるから、とアラムート神殿長から証明書の受領と同時に注意を受けている。

ニコニコしているエイムハード神殿長を横目で見ながらちょっと呆れた口調でアラムート神殿長は言っていたから、あの転移カードの件はアラムート神殿長にとって本当に突然の申し出だったんだろうな……。

 

いずれにせよ、大変な厚意を示してくれた両神殿長に頭を下げてお礼を伝えた後、俺は神殿を退出し、ヨハネスさんのいる宿へ戻ることにした。

 


「アラムート神殿長を含め、更に二人の神殿長に会われた、と。エステル様の負担を考えれば空間移動のカードについては本当に有難いですが、一体どうなっているんでしょうか……」

 

宿で休んで快復されたヨハネスさんに神殿での顛末を共有するが、その感想には同意する。

繰り返しだけど、何で俺は今日1日で3人もの神殿長と顔を合わせてるんだ?

さっきのヨハネスさんほど酷くはないけど、ちょっと気疲れしちゃったよ。

俺も休んだ後は、夕食だけ取って寝てしまおうかな……。

 

「そうですね。明日シューベトに帰還してエステル様に報告すれば、最速で明後日には誓願を立てられます。それも大陸間を移動する負担無しに。想定以上の成果を得られましたので、今日の残りの時間は休息しても問題ないと思います。……下手な行動を取ると、更に別の神殿長とお会いしてしまいそうな気がしますし

 

最後にぼそっと付け加えられたヨハネスさんの言葉は、俺の内心も代弁してくれた。

よし、ヨハネスさんの同意も取れたし、今日はもうゆっくり体と心を休めよう。

 


バベリア町来訪から3日目、この日も宿で朝食を取り、対応してくれた店員さん達にお礼を伝え、俺とヨハネスさんは宿を後にし、フレアのいるバベリア町郊外へ移動する。

そのまま行きとは逆順で島を渡りながら休憩を挟みつつ、俺達はシューベトに帰還した。

 

直ぐに自宅に戻って荷解きを済ませ、ヨハネスさんと共に母上に結果を報告するも、3人の神殿長に会い、彼らに妙に親切にしてもらった件には母上も仰天されていたなぁ。

ただ、貰った転移カードも含めて彼らに頂いた厚意については素直に甘えさせてもらうことにし、母上は明日の昼にはアラムート神殿で誓願を立ててくるそうだ。

 

出張の報告が終わった後、ヨハネスさんと母上は自分の業務に戻ったので、俺も残りの時間で自分の抱える仕事を果たしていくとしよう。

そうだな……俺が直ぐに対応する必要がある政務はないし、黒石窟の浄化もピッチを上げるために今日は黒い魔力の浄化剤をまた増やしていくとしようかな。

秘密基地で作る分も含め、浄化剤の量はあるに越したことはない。

方針を決めた俺は浄化研究室のあるシューベト城に向かうのだった。

 


【+α:人形魔女は苦手分野を頑張る】

(霧の森・人形の家での神族達の会話を抜粋)

 

「アイ姉ちゃん、アド君に気持ちを伝えるための練習は進めてますか?ホントは前にやった恋愛講座の内容をもっとしっかり進めてからの方が良かったのですが……。ふぇん、真実の泉を通して教えてくれたマリー様曰く、そんなに時間の猶予がないみたいなのです……」

 

「うん、ちゃんと練習してるよ、エイリン」

 

「でもでも、教皇派拠点から逃げた後にお話した内容と基本は変わりません。アド君のことが好きって思いを、出来る範囲を広げながら口にしていきましょう。難易度は上がりますが、アド君が喜びそうな台詞や仕草、後は手を繋ぐみたいな体の触れ合いを他にもどんどん覚えていくと、もっといい感じですよ!」

 

「分かった。アドリアンにいっぱい喜んでほしいから、それも覚えるね」

 

「はい!ファイトです、アイ姉ちゃん!」

 


 

「アイールディちゃん、アドリアンとは毎日会いたい?」

 

「うん」

 

「一緒にいると、幸せ?」

 

「うん」

 

「アドリアンは、他の友達よりも、誰よりも、ずっと、ず~っと一緒にいたい?」

 

「うん」

 

「それが愛してるってことだよ。アドリアンは、アイールディちゃんにとっての、特別な相手ってことなの!」

 

「特別……愛、してる……。私は、アドリアンを愛してる……」

 

「そうだよ。アドリアンと一緒にいる時の幸せな気持ちを思い出して!アドリアンが特別であること、そして、二人で幸せになりたいって気持ちを、愛してるって言葉と一緒に伝えるの!真心を込めて言えば、きっとアドリアンに届くよ!」

 

「ありがとう、パイベリー。私、やってみるね」

 

「うん!絶対成功させようね、アイールディちゃん!」

 


 

「アイールディ、私が前言った、仲直りが遅れて恋人のロビンを失いかけた話、自分とアドリアンに置き換えて考えるのも、ちゃんと試してみた?」

 

「…………(無言で涙を流し始める)」

 

「私は死ぬほど後悔したわ。あの時の絶望感は忘れられない……。貴方の思い人が作った浄化剤のおかげで最悪の未来は回避されたけど……嫌よね?そんなの認められないわよね?」

 

「コクコクコク(涙を拭いつつ頷く)」

 

「いい?状況は違うけど、本質は同じよ。好きってこと、好きになってほしいこと、愛してるってことを伝えるのを躊躇うのは絶対駄目。言葉でも行動でもよ。これはアドリアンが貴方のことを受け入れた後でも同じことが言えるけどね。機を逃せば、ああしておけばよかったという後悔の念に、一時の私みたいに苛まれることになるわ……」

 

「アドリアンに好意や愛を示すのは、絶対に躊躇ってはいけない……。うん、気を付ける……」

 

「多分、アラムート様かエリシオン様がアドリアンのお母さんとお話した後が最大のチャンスになる。ここを逃すともう後がない、そのぐらいの気持ちでいましょう」

 

「エステル、もしかして手伝ってくれるの?」

 

「貴方がアドリアンに自分の気持ちを伝える準備ができていなければ、援護はしてもらえないでしょう。アラムート様かエリシオン様が対応されたら私達に分かるようになっているから、その後アドリアンのことをどう思っているのか、彼女に練習がてら話してみなさい。ちゃんと言えれば、本番の舞台を整えてもらえる筈よ」

 

「分かった。ルナ、ありがとう」

 

「お礼は告白に成功してから!さ、行動で自分の気持ちを伝える練習の次は、自分の気持ちを言語化する練習よ!」

 

「うん、頑張る」




ちなみにエイムハード神殿長が想定しているお土産は、彼自身の加護です。
エイムハード神殿長は自身が取り仕切る仕事(黒い魔力や邪悪な魔物の封印)の関係もあり、黒い魔力を完全浄化できる本作アドリアン君を全神殿長の中で最も高く評価しています。

また、独自設定ではありますが、本作アドリアン君の持つ加護の特殊効果を一部抜粋すると、体力回復・被ダメージ減少・自動蘇生です。
ここにエイムハード神殿長の加護(効果適用中はダメージ無効化)を加えると、凄くやられにくい感じがしますよね。
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