チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
アイールディと恋人兼婚約者になり、デルカル大陸の泉が復活してから結構な期間が経過した。
俺は今、今日唐突に俺の自宅へ来たお客人二人を相手している。
「えへへ、急に来たのに、お持て成ししてくれてありがとう!」
「いきなりアイールディとアドリアンの様子を見に行くってパイベリーが言いだしたから、びっくりしたわよ……」
「アイールディちゃんの告白が上手くいったっていうのは聞いたけど、その後の経過はまだ知らないから、気になったんだ!」
来ている人は、そろそろ顔なじみを超えて友達といって良いだろうパイベリーさんとルナさんで、俺とアイールディの状況が知りたくて顔を出したらしい。
ちなみに二人の尋ね人の片割れであるアイールディはちょっと素材採取に行っているため、もう少ししたら俺の自宅に来る予定だ。
「それでそれで!アドリアン、アイールディちゃんとはどんな感じ?ルナだって気になるでしょ?私達の中で、ルナが一番気合いを入れてアイールディちゃんに協力してたと思うし!」
「そんなことは……はぁ。まあ、知りたくないって言ったら嘘になるわ」
俺が急いで用意した紅茶を飲みながらパイベリーさんがそう質問しており、ルナさんも台詞とは裏腹に、「それ、凄く気になる!」という気配を漂わせている。
うーん、恋人になった俺達の状況か。
そうだな、俺の視点だと……端的に言うと、最近のアイールディは好意を凄くはっきり示しているね。
恋人になった後のあの子とのやり取りがいくつか頭の中に蘇っていく。
【回想1】
次期領主としての勉強をいつものようにサクッと終わらせ、最近母上に減らされた自分が受け持つ仕事も片付けたある日、他に手伝うことが無いか通りがかった母上に確認した所、笑顔の母上にこう言われた。
「アドリアン。貴方が今持ってる一番大切な仕事は、貴方の可愛らしい恋人を満足させてあげることよ?」
その台詞に合わせて、近くの柱の陰からアイールディが出て来て近づいてくる。
いやまあ、気配は感じていたから、居るのは気づいていたけどね。
「あの、私も今日はもうやること無いから……。アドリアン、一緒に遊びに行こう?」
俺の服の端を摘まみ、上目遣いのアイールディからこんなお誘いを受けた。
うん、凄く可愛いから、OKしながらも思わずこの子の頭を撫でちゃったよ。
照れながらも頬を緩めていたのがまた良い表情だったなぁ……。
ただ、何処に遊びに行くか聞いた時に「どこでもいい。……えっと、アドリアンがいれば、どこでも楽しい」って言われて、行先に困っちゃったけどね。
最終的に、シューベト西海岸まで海を眺めに散歩しに行ったな。
【回想2】
ある日、ちょっと埠頭まで荷物を受け取りに行く用事ができたので、フレアに乗せてもらうことした。
アイールディは丁度こちらが出かける時に俺を訪ねてきてしまったので、家で待っていてもらおうとしたんだけど、この子はそのままついてきたんだよね。
そういう訳で二人でフレアに乗ったんだけど……。
フレアに乗る時、この子は決まって俺の背中にくっついている。
今までは飛行時の体勢を安定させるためだと思ってたけど……そうじゃなくて、単純にその姿勢が気に入ってるのかな?
ちょっと疑問に思ったのでアイールディに質問してみよう。
「うん。アドリアンの背中、暖かくて安心できるから好き。前にも言ったよ?」
体を摺り寄せながらアイールディはそう答える。
う、うん。告白の時、確かに話してたね……。
何とは無しに、腰に回されたアイールディの手を撫でてあげると、アイールディは彼女のほっそりした指を俺の手に絡めていき、俺にもっと密着しながら俺の肩に自分の頭を乗せてくる。
当然ながら、これは飛行に慣れていない、あるいは不安を抱いてる人が取る動きではない。
アイールディからも何だか満足げな吐息と気配を感じるし。
口にはせずとも、俺のことを好いている素振りは告白前からあったんだね……。
俺はちょっと鈍かったのか、あるいはこの子を古代神の後継だっていう色眼鏡で見すぎてしまっていたのかな……。
【回想3】
ある日、ふとしたきっかけで何か困っていることはないか、アイールディに尋ねた所、
「私の家とシューベトの距離があることがちょっとだけ大変。アドリアンにすぐに会いに行けないから」
という回答が返ってきた。
ふむ、空間移動の魔法陣はシューベト付近には無いし、アクセスに困るというのは分かる。
いずれアイールディはレフガトの泉を管理するようになるんだし、シューベトや泉への交通の利便性がある場所に、アイールディが暮らせるもう一つの家を空間移動の魔法陣付きで用意してあげるとしようか。
そういう訳で、シューベト郊外にアイールディの家を準備するプロジェクトを開始した。
当然ながら、自分で家を建てる訳では無いので、初手は建築の依頼内容を練る所からだ。
まず、アイールディが違和感を覚えにくいよう、建築する家の外観は普段彼女が暮らしている霧の森の家に近づけようか。
それと霧の森は気温が低かったのもあり、あの子には寒さと無縁に過ごしてもらえるよう、大陸渡りの行商人達のツテを使って寝具や暖炉は一番いい物を備えつけるのも決めている。
後、アイールディは将来神殿長になるだろうから、勉強用に古代言語の書籍や翻訳辞典も並行して取り寄せていく。
その他の間取りは霧の森の家から大きく外れなければ大丈夫かな。
家具は幾つか追加するけどね。
ただ、家というのは大事な物ではあるので、建築を依頼する上で俺に見落としが無いか、母上に確認した所……。
「概ね大丈夫だと思うけど、肝心のアイールディちゃんからも意見を聴いた方が良いわよ?アイールディちゃん
そんなアドバイスをもらった。
確かに、と頷ける内容だ。
ただ……アイールディから出てくる意見が、何となく予想できる。
嬉しいやら恥ずかしいやら……。
母上はニコニコしながら「達」って口にしているから、アイールディがどう答えるか、母上も間違いなく分かっているんだろうな……。
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「私の新しいお家?……嬉しい。じゃあアドリアンと一緒に暮らせる家がいい」
アイールディが俺の家へ遊びに来た時、彼女のために建てる新しい家について話をし、合わせて要望を聞いてみた所、案の定予想通りの回答だった。
「……駄目?」
アイールディは目を潤ませて不安そうにしているから、本気のお願いだというのは分かるけど……。
駄目では無いけど、霧の森の家よりどうしても大きくなっちゃうから、流石に外観の差分も出ると思うけど、それでもいい?
あと、政務や次期領主の勉強もあるから俺が常に新しい家で暮らすのは難しいよ?
「うん、どっちも大丈夫。家は、アドリアンと一緒に居られるのが一番大事。それに、一緒に過ごせる時間と場所、増えるだけで幸せだから……」
そう言いつつアイールディは俺の腕を取りながらそっと寄り添ってくる。
この辺りから分かってきたけど、アイールディの判断基準は、俺という要素が今でも只管に大きいみたいなんだよね……。
【回想4】
アイールディの新しい家について、「なるべく霧の森の家と外観の変更なく、でも二人分の生活スペースを」という割と無茶な建築依頼が何と通ってしまい、無事完成に漕ぎ着けられた。
流石に家が大きくなるのは避けられなかったけどね。
早速アイールディに連絡を、とは残念ながらいかず、その日はリアート村へ行き、シューベトからの支援内容について内容と期間を更新をする業務だけは実施する必要があった。
……フレアに乗る所でアイールディがやって来て、結局この子もリアート村へついてきちゃったけどね。
リアート村の人達と会わせるのは心配だったけど、教皇派勇士が来た時と同じような事がまたあっても、自分が何度でも助けるとアイールディはリアート村の村長に宣言しており、彼女は村の人がやってしまったことを許していた。
「あれはもう過ぎたことだから、気にしてない」
そうアイールディは村から出た時に話してたけど、正直、途轍もない度量の大きさだと思ったよ。
「それに……アドリアンさえいれば、他は……いいの」
アイールディは微笑みながらそう口にし、俺の手を握ってくる。
……裏を返すと、俺が何かしら事故や事件に遭ったりすると、この子は暴走しそうだよね。
俺に向ける感情がちょっと重い気がするなぁ。
「アドリアン、リアート村に行く前、私達の新しい家が出来たって言ってた。報告が終わったら、そっちに行くんでしょう?楽しみ。最初は何をして過ごそう……」
俺に体を寄せながら弾んだ声でアイールディは話している。
そもそも君のための家だって説明した筈なんだけど、この子の中では完全に俺との共用の家なんだね。
アイールディの希望通り、俺用のスペースも入れてるから間違ってはいないんだけどさ。
【回想5】
バベリア大陸の東端、ララク村に凄腕の仕立て屋が居ると聞いたので、アイールディがおしゃれを楽しめるよう、彼女の服を1着作ってもらいに時間を作ってララク村へ行ってきた。
勿論移動にフレアの力も貸してもらったけどね。
仕立て屋のセラさんは結構忙しそうだったが、恋人に服を贈りたいというこちらの依頼を快く引き受けてもらえたので有り難い限りだ。
今日はセラさんが指定した服の完成予定日で、丁度アイールディの新しい家が出来た翌日だ。
しかも終日お休みなので、早速フレアに乗せてもらってララク村へ行こうとしたけど……今回もアイールディに捕まってしまった。
本当はこっそりララク村へ服を受け取りに行って、この子にプレゼントする予定だったんだけどなぁ。
でも、一緒にいたいっていうオーラを放っているアイールディを振り払えなかったよ……。
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フレアにはララク村から少し離れた空き地で待っていてもらい、村で暮らすセラさんのいる家へ直行する。
セラさんは相手が神族だったのにちょっとだけ驚いていたけど、完成したカジュアルな洋服「ララバン」を俺達に見せてくれた。
「……可愛い」
良かった。アイールディも気に入ってくれたみたいだ。
実際作ってもらった服は、前世でも余裕で通じると思えるぐらい質・デザインともに秀逸だった。
これなら、また時機を見てアイールディの服を注文しても良さそうだ。
リピーター確定、という奴だね。
また、セラさんは服のサイズが合っているか確認するため、ララバンの試着をアイールディに薦めてくれたので、お言葉に甘えさせてもらう。
……アイールディはいきなりその場で服を脱いで着替えようとしたので、セラさん共々急いで止めたけどね。
仕切りで覆われた場所へアイールディに移動してもらい、改めてララバンを試着してもらうと……。
「……素敵」
「わぁ……。凄く可愛いです。抱きしめたいくらいですよ!」
服を試着したアイールディは顔を綻ばせ、セラさんも見事にオシャレをしたアイールディの様子に喜んでいる。
うん、本当に可愛いよ。セラさんの言う通りだ。
俺の台詞を聞いたアイールディは更に顔を輝かせている。
「アドリアン、本当?」
アイールディが念押ししてくるので勿論、と頷く。
素でも超ハイレベルな美少女が着飾れば、そりゃとんでもなく可愛いに決まってるからね。
「うん、いいよ。はい」
そう言いながら、アイールディは誰かを迎え入れるような感じで両腕を大きく俺に向けて広げる。
おや?その動作は……?
「アドリアン、この服を着た、私を抱きしめたいんでしょう?服屋さんと同じ気持ちなんだから」
えっと、それは比喩表現……しかも他の人が見ている中じゃ……。
「心配しなくても、大丈夫だよ?服屋さんが見てても、私がアドリアンに抱きしめてもらうの、嫌がる訳ない。嬉しいよ?だから、はい」
俺の躊躇いを勘違いしているらしいアイールディは、自分の言葉通り嬉しそうにこちらに腕を広げたまま近づいてくる。
いや嫌がられることとかを心配している訳ではなくて……もういいや。
おしゃれな服を着た恋人を抱きしめたいっていう気持ちは確かにあるんだから。
セラさんがいるから少しだけだよ、と言いつつアイールディを優しく抱きしめる。
服とアイールディの体からそれぞれ感じる柔らかさが纏めて腕と胸に伝わってきて、ドキッとしちゃったよ。
「他の人がいると、少しだけ……。分かった。それなら、続きは私達の家でしようね」
アイールディの方からも俺に抱き着き、俺の胸に顔を埋めながら彼女はそんなことを宣う。
……結局5分ぐらいアイールディは俺の体を離さなかったけど。
セラさんに怒られてしまうんじゃないかと心配したが、彼女は寧ろ俺達の仲睦まじさを祝福してくれた。
器の大きい方で良かったよ……。
ララバンの代金をセラさんに払った後、他にもアイールディ用の服を買えないか駄目元で聞いてみた所、デルカル大陸から流れてきたデザインを元に作られたという「グランマーニュ」と「ブルーベル」という洋服があり、元の買い手が購入をキャンセルしたことで今も売れ残っているという話だったので、そちらも購入させてもらう。
どちらもララバンよりカジュアルさは薄れるが素晴らしい洋服だったので、アイールディも喜んでいたから良かったよ。
またタイミングを見てアイールディの服を仕立ててもらいに来ることをセラさんに伝えた後は、セラさんに見送られながら彼女の家を辞した。
そしてアイールディの新居に購入した服を置くため、俺達はフレアに乗せてもらってデルカル大陸に戻ることにした。
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無事にデルカル大陸へ戻った後は、アイールディの新居に向かい、家に入れてあるクローゼットへ今アイールディが着用しているララバン以外の購入した服をしまっておく。
いやあ、とてもいい買い物ができたな。
「じゃあアドリアン、続きをしよう?」
アイールディの声がした方に振り返ると、彼女は期待に目をキラキラさせながらセラさんの所でしていたように両腕を俺に向けて広げている。
だ、大丈夫、忘れてないよ……。でもアイールディ、凄く喜んでるね。
彼女をまた抱きしめつつそんな感想を口にする。
「うん。アドリアンが、私のことを求めてくれてる感じがするから。この服を着た私のこと、アドリアンは好きになった?」
それは勿論。でも、素のアイールディだってもっと好きになってるよ。
アイールディがとても魅力的だってことを、今君が着こなしている服から教えてもらっているんだから。
「……!嬉しい……。アドリアン、私のこと、いっぱい好きになってね……」
俺の返事を聞き、頬を朱に染め笑みを浮かべたアイールディは甘い声でそんなことを言いつつ、感極まったのかこちらの唇をついばみ始めた。
可愛い洋服で着飾った飛び切りの美少女であるアイールディと、恋人として抱き合いながら口づけを交わす……この子と会ったばかりの、古代神の後継への育成補助を主眼に考えていた俺に話しても、この状況を多分信じないだろうな……。
一頻り口づけをした後は、一緒に買った他の洋服も試しに着てみたアイールディからララバンを着ていた時と同じようにしてほしいとせがまれて、この子と触れ合い、抱き合い、またキスをしていく。
結局この日の残りは、喜びに満ち溢れた様子のアイールディと一緒に、煮詰めた砂糖や蜂蜜を大量にかけたような時間を過ごすことになったのだった。
こんな感じに、アイールディは時にはちょっと過剰かなって思うぐらいに俺のことを好きって気持ちを向けている。
俺もちゃんと好意を返しているつもりだけどね。
ただ、現状はアイールディに気持ちを返せば返す程もっと大きな好意になって返ってくる、一種のループのように錯覚してしまいそうになる時もある。
付き合い始めはそんな物かもしれないが、今後一緒の時間を過ごす中で丁度いい塩梅を見つけないといけないな。
……今の状態が続くと、予期せぬ状況で一線を越えてしまう可能性が正直否定できないからちょっと怖いし。
しかもその場合、アイールディが積極的に受け入れてしまって歯止めが効かなくなりそうな予感もあるから気をつけないと……。
……思い浮かべたことを全て赤裸々に言うのは流石に恥ずかしいので、俺は内容をマイルドにしながらも、二人に俺とアイールディの近況を伝えていくのだった。
告白前の恋愛ブートキャンプにより、泉復活後の時間軸における本作のアイールディは、原作の彼女よりもアドリアン君に対してずっと積極的になっております。