チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
「よかった〜。ちゃんと恋人付き合いできてるんだね!うーん、いいなぁ、素敵だなぁ……」
「そこまで心配はしてなかったけど、私も安心したわ。上手くやれてるなら何よりよ」
マイルド版に差し替えた近況報告ではあるものの、パイベリーさんとルナさんは満足そうにしている。
アイールディの告白について相談に乗っていた分、やっぱり気がかりだったんだろうね。
……まだアイールディは戻っていない……今なら丁度いいかな。
俺もアイールディに関する内容で、ちょっと心に引っかかっていることを相談してみよう。
アイールディと同じような状況を経験している可能性が高い二人なら、的を得た回答が返ってくるかもしれない。
「アドリアンの相談?うん、いいよ。どんな話?」
「アイールディのことで、ね。何か問題があったのかしら?」
今更言っても仕方ないことではないんだけどね。
悩みというのは、自分がアイールディの道を狭めてしまったのでは、という心残りだ。
「「……?」」
これだけだと、二人は何のことか分からないよね。
アイールディには黙っていてもらうことを二人に了承してもらい、俺は話を続けていく。
実は俺がアイールディと交流するきっかけとなったのは古代神の啓示によるもので、本来彼女の育成担当を担う方が老衰で仕事ができなくなったことにより、アイールディの育成補助を臨時で担当してもらえないかと、古代神から遠回しに頼まれたことを、パイベリーさんとルナさんに説明した。
「ああ、アイールディが会話の機微や人間社会に疎い所がチラチラあったのは、元々予定されていた教育を受けられなかったからなのね……」
「でも、アイールディちゃんはとっても優しくていい子だよ?それはアドリアンが元の教育担当さんから、ちゃんとバトンを受け取れてるからだと私は思うな!勿論アイールディちゃん自身が素敵な人だからっていうのも大きいけど」
ルナさんはアイールディの様子から俺の言葉に納得しており、パイベリーさんは別に何も問題ないんじゃ?という感じで話している。
……パイベリーさんの意見も分かるけど、教育というのは他者に与える影響が非常に大きく、最大限言葉を悪くすると、洗脳とも言い換えられる。
そして、交流の幅が狭かったアイールディにとって、俺から受けた影響は自惚れではなく極めて大と言っていい筈だ。
あの子自身の優しさの発露ではあると思うけど、俺はアイールディとの交流で人間を助けることを是とする価値観を過剰に刷り込んでいなかったか……あるいは、育成担当として必要な範疇以上にアイールディが自分へ好意を向けるよう、無意識の内に振る舞っていなかったか……心のしこりとして、そんな気持ちがある。
自分では気を付けていたつもりでも……ということがあるからね。
当事者以外の客観視できる人にちょっと聞いてもらいたかったのだ。
もしかしたら、俺というフィルターを通すのを最小限にし、より広範に人々や世界と関わり、その過程で自分の道を見つけていく方が良かったのでは、なんてことも考えたからなぁ。
「……なるほど……言わんとしていることは何となく分かるわ……」
「心配してるのは、アドリアンがアイールディちゃんの可能性を自分の都合の良いように誘導してしまったかもってことなんだね。だから、道を狭めるって言ってたんだ」
パイベリーさんとルナさんもこちらが懸念していることを概ね理解してくれたようだ。
先にも言ったように、今更の話だというのは承知しているけどね。
俺の言葉を受け、二人は少し考え込んでいる。
「……多分、大丈夫だと思う。私もアイールディと結構話をしたけど、貴方が言うように、彼女の優しさは彼女自身の気質。そこに他者からの意志を押し付けられている感触は、少なくとも私は感じなかった。アドリアン、貴方はアイールディの心を曲げることなく、あの子と接することができていたと判断していい筈よ」
俺がアイールディを歪めるようなことはしていないと、ルナさんは回答している。
「えっと、これは私の体験談になるんだけど……。一時は勇士に追われ、色んな人に疎まれていた私達にとって……『この人は私のことを嫌わないかも』って感じでピピっときた人は、特別になると思う。それも、初めてそんな人に会った場合は、きっと相手のことが気になって気になって仕方がなくなるんじゃないかな。あたしの場合は、相手があたしを殺そうとする勇士でもそうなったし」
初めて会った、自分を嫌わない人、か……。
「教育担当の人にアクシデントが起きたせいで、もしかしたらレフガト様達も想定外なアドリアンとアイールディちゃんの出会いだったのかもしれないけど……。それでも、アイールディちゃんを嫌うことなく接した最初の人であるアドリアンは、アイールディちゃんにとって運命の人だったんだよ。きっと育成補助とか難しい事情がなくても、アイールディちゃんはアドリアンに夢中になってた気がするなー」
教育云々の事情は関係なく、会った時点でアイールディは俺に好意を抱いていた。
パイベリーさんはそう言っているんだね。
それに、アイールディは告白の時、「初めて会った時からずっと好きだよ」って確かに話していた……。
「うん。だから、自分を好いてもらおうとしていたとしても、何にも問題なかったと思うよ。アイールディちゃんは、初めからアドリアンと仲良くなりたがってただろうし!」
なるほど。つまり、そこまで気にしなくてよい、というのが結論になるのかな?
「そうだね。アドリアンはアイールディちゃんと誠実に関わってきたってあたしにも見えるし、自分があの子の恋人なんだって胸を張っていいんじゃないかな!」
「ええ。そもそもアイールディのことをそんな風に心配できるのなら、まず問題はないでしょう」
笑顔で二人は太鼓判を押してくれた。
アイールディと一緒に幸せになることに意識を向けるべきだというのは分かっていたけど、心のどこかに小骨が刺さってるような感じがして気になってたからなぁ。
でも、パイベリーさん達に話したおかげでそれも無くなった気がする。
2人に相談に乗ってくれたことにお礼を伝えておくとしよう。
「お役に立てたら何よりだよ!……あれ?この魔力は、もしかして……」
「アイールディが来たみたいね」
うん、確かにアイールディの気配と魔力の波長が近づいている。
アイールディ用のカップも事前に用意しているので、そちらにも紅茶を淹れておく。
「アドリアン。素材採取、終わったよ。魔力を感じたから分かってたけど、パイベリーとルナも遊びに来たんだ」
「うん、お邪魔してまーす!」
「ちょっと近況が気になって顔を出したわ。アドリアンから話を聞いてた限りでは問題ないみたいだけど」
「うん、大丈夫。何事も無いよ」
三人は和気あいあいと話し始めている。
ふむ、丁度三時前だし、俺は厨房を借りて何かおやつでも用意しようかな。
ちょっと断りを入れて席を外させてもらおう。
その間、女の子同士の会話を楽しめるだろうしね。
「分かった。待ってるね」
「ありがと。でも、なんか気を遣わせちゃって悪いわね」
「わぁい!へへ、じゃあ、あたしは待ってる間、アイールディちゃんにアドリアンと恋人になる前はどんな風だったのか聞いちゃおっと!」
パイベリーさんの話ぶりからちょっと恥ずかしい話題になりそうだな……。
苦笑いをしつつも、俺は自分の言葉通り、皆のおやつを用意するために厨房に向かった。
厨房でパンケーキを4枚焼き上げ、ジャム・蜂蜜・食器と一緒にアイールディ達がいる部屋にパンケーキを運んだのだが……何か様子がおかしい。
パイベリーさんとルナさんがアイールディを挟んで、ジト目でアイールディの頬をいじっている……?
「ふ、二人とも、ほっぺを引っ張らないで……」
「ずるいよ~羨ましいよ~」
「いくら何でもこれはね……どうなってるのかしら……」
い、一体どうしたんだろう。
アイールディに聞いてみると……。
「わ、私は魔女狩り中に、アドリアンとどんな風に過ごしたかをパイベリーとルナに話しただけ……」
そ、そうなんだ。
でも、それだけで何でこんな状況に……?
「アドリアンは自分が魔女と分かっても全然気にしなかったっていうのは良いよ。私も知ってるし。でも……何で魔女狩り中も、アドリアンと二人でデート三昧なの!?色んな所にお出かけして、お互いの家に何度も遊びに行って、素敵な時間をいっぱい過ごしてたって~ずるいずるい~!!」
パイベリーさんが頬を膨らませ、唇をとんがらせながらアイールディの右頬を指でプニプニしている。
「家はどっちも2回ずつだし、い、一回はエステルの病気を治療しにいっただけだから……」
「でも、他は一緒に遊んだり食事を楽しんでたんでしょう?とんでもない高値で取引されてるって噂の黄金芋もご馳走してもらったって言ってたわね。それに、空を自在に飛べるフレアもいるから、遠方に遊びに行く時も勇士を無視できてたってことよねぇ。マニル島やバベリア大陸を空から観光してたんだっけ……何だか不公平なものを感じるのよ……」
「そ、そんなことを言われても……」
ルナさんはちょっと頬をヒクヒクさせながらアイールディの左頬を抓っている。
も、もしかして、魔女狩り期間中のパイベリーさんとルナさんが過ごした日々は意中の人とのグッドイベントが少なかったから、その逆であるアイールディを羨ましがっているってことかな?
まあ、確かに俺はアイールディが色々経験できるよう企画を組んだりしたけど……。
「綺麗なアクセサリーやあったかいお布団とかもアドリアンにプレゼントしてもらってたんでしょ~?孤児院に案内してもらって子ども達と一日楽しく遊んで、大好きな人と一緒にピクニックにも行ってさ~。こんなのおかしいよ!あたしと差があり過ぎる!厳重に抗議しないと~!!」
パイベリーさん、誰に抗議するの……?
仮に神殿長に訴えても仕方ないと思うんだけど。
口にはしないけど、そもそも君達を死地に落としたのはあの人達だし……。
「危険な時はいつだって助けてくれて、一度たりとも貴方を裏切らなかったってね……。例え黒い魔力の石を使われても、だったかしら。……私もやっぱり格差が大き過ぎると思う。待遇の改善を要求するわ……」
ルナさん、だから誰に改善を要求するんだい……?
ああ、でも、アイールディの頬を突いたり引っ張ったりしたりしてるパイベリーさんとルナさんから何となく思念を感じる。
「迫害されてた
「ア、アドリアン、助けて……」
今は2人にほっぺたをむにむに引っ張られているアイールディがちょっと涙目で助けを求めている。
……とりあえず、皆のお皿にパンケーキを取り分けたらイタズラはやめるよう、パイベリーさんとルナさんに言っておく。
2人共ともからかい交じりにやっているだけからこれで大丈夫のはず……。
「「はーい(むにむにむにむに)」」
「うう……。アドリアン、早めにしてね……」
うん、分かったよ。もうちょっとだけ待ってね……はぁ。
もしかして、魔女狩り期間中の俺は、この子にちょっとだけかまいすぎだったのかなぁ……。
でも、過ぎたことだししょうがないよね、うん……。