チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
3話ほどになる予定です。
本話の時間軸はデルカル大陸での魔女狩り終結後にある程度日数が経過した辺りとなります。
マリー・モレルの泉はまだ復活しておりません。
それでは、ヨハネスの視点を通して、ifルートにて転生アドリアン君が色々手を加えたデルカル大陸の様子を確認していきましょう。
時刻は昼過ぎ、王宮特使からシューベトの上級政務官となった僕は、昼食を済ませた後にシューベト領主宅に割り当てられた自分の執務室へ移動し、朝から進めていた書類の作成を再開しています。
……うん、新しい混合肥料の各町村への分配比率はまとめ終わりました。
おっと、シューベト領で暮らす農家の方々が必要としていた情報について、リアート村の皆さんには新肥料使用時の生育記録へ添えてもらえるよう書類にも記載しておかないと……これでよし。
後ほどエステル様にこちらの書類をお持ちして承認をいただければ完了ですね。
肥料関連の政務に一区切りをつけ、ぐっと伸びをする。
それにしても、最近の自分は精神的にとても充実しているという自覚がありますね……。
ただ、今日急ぎ対応が必要なものは……少なくとも今はない筈。
水でも飲んで、一息いれましょうか。
部屋の水差しから自分のコップに水を入れ、一口飲む。
ひと心地つくと、かつての飢えに苦しんでいた自分ではデルカル大陸にあるとは思いもしなかった様々なものが次々に頭の中へ浮かびます。
(……魔女狩り中に見つかったシューベト城西海岸までの道中にあった草木灰と、魔女狩り終了直前に見つかったシューベト西の海に生息している小魚を砕いたもの……魚肥、でしたか。あれと草木灰、更に西海岸にあった貝の粉末を組み合わせると、荒地でも作物が問題なく育つのは驚きましたね……)
草木灰だけでも相当な効果だったのですが……と自然と笑顔が浮かぶ。
魔女狩り中、西海岸までの道のごく一部で見つかった植物の灰肥料は素晴らしい効能で、各町村から届く生育記録を纏めながらも、もっとこの植物があればと願ったものです。
魔女狩り後に実際にアドリアン様が見つけてくれましたが、西海岸寄りの目立たない場所に本当に大規模な群生地があったため、植物発見の報が届いたあの時は思わず叫んでしまいました……。
しかもシューベト城西海岸の海に大量にいる小魚……普通に食べても美味しいものでしたが、砕いて魚肥にすると、肥料としても絶大な効果が出る。
草木灰と魚肥に加え、同じく西海岸のあちこちにある貝の殻を粉末化したものを少量追加し、混合肥料として地面に撒けば、あのリアート村でも少し瘦せている土地と同程度に作物を育てられるようになりました。
ああ……本当に、本当に良かった……。
ふふふ、つい、涙が零れてしまいましたね……。
笑いながら服で涙を拭う……我ながら何とも奇妙な行動です。
それと、僕ではよく分からない領分になるのですが、アドリアン様がリーガル様とエステル様の許可の元、バベリア大陸で活動されている時に回収された投棄済みの人造ゴーレムに備え付けられた機構やモーターを転用されたという……圧搾機と遠心分離機でしたか。
あれらを使うと、あの小魚を肥料にする過程で油やエキスも取れるらしいですね。
特にエキスの方は塩と一緒に発酵処理をすると、とても風味の良い調味料となるみたいですし、海水から真水を生成する過程でできる塩にも良い使い道が一つできて何よりです。
シューベト西海岸までの道を開くための開発行程で見つかったものはその他にも色々あります。
海岸までの道程では野生化した家畜や鉱山、見たことがない野菜、変わった味の木の実をつける樹木、魚がいる湖群までもが多数見つかり、魔女狩りの期間中の割と初期には、確か温泉というものも発見されたのでした。
以前アドリアン様が確認した所、温泉は肉体・精神共に極めて優れた治癒効果がある上、様々な病気にも有効である可能性が高いらしく、宿を用意して観光資源にもできるという話を持ち込んでおられましたね。
領主・エステル様と前領主・リーガル様はどちらも賛成してこの件は別の政務官が既に対応されていた筈……ああ、宿自体は既に完成していましたか。
温泉宿では湖群の魚や野菜・木の実などを使った地産料理を提供できれば、という話も耳にしましたね。
とんでもないことに、シューベト西海岸では例の肥料化できて実は身も美味である貝殻以外にも、大粒の真珠や鮮やかな赤珊瑚も発見されています。
真珠と珊瑚はどちらもバベリア三大陸で最高峰の品質であるのは確実と見込まれており、海岸での密漁禁止の法案をリーガル様が急いで通していましたね……。
シューベト領以外でも、様々な発見がありました。
まず、ジーヴ村では
結果、どれもこれも素晴らしい味だった、という報告を受けています。
それら元外れの魚や貝を加えると、ジーヴ村南西の埠頭付近で取れる魚介類については、シューベト西海岸を……いえ、恐らくバベリア王国にある全ての港を上回る充実ぶりと言えるでしょう。
新たに食用に適しているとされた魚や貝で特に人気の高いものは既にかなりの高値で取引されており、ジーヴ村はもしかしたら漁師の村となる可能性もあるかもしれません。
そして、リアート村……こちらも新しく見つかったという訳ではないのですが……
あまりにお腹を空かせた村の子どもが棘を恐れず植物を口にしてみた所、何と普通に食べられたことからこの事実が発覚しました。
ジーヴ村の魚介類もそうですが、思い込みというのは恐ろしいですね……。
ですが、実際に危険な毒性がある魚や植物も当然存在するので、二匹目のドジョウを狙い過ぎないよう気をつけなければいけません。
新たに食べられることが分かった様々な植物のうち、現時点で特に収穫できる量が多かったものには、酸味と粘りのあるもの・瑞々しさが際立つもの・淡泊ながら優しい甘味のあるものという特徴がそれぞれあり、名前は確かウチワサボテン、グラパラリーフ、ピタヤというものだったそうです。
今ではこれまで肥料を使っても作物が育てられなかった場所に、各植物の挿し木等が植えられています。
棘だらけの植物やその類似物について王立図書館で急遽調査をしていただいたアドリアン様も、例の植物群が全て食べられるという情報には流石に驚愕なさっていましたね……。
加えて、魔女狩り終結直後に入った特大の朗報で、本当に信じがたい内容ではあったのですが……ジーヴ村やリアート村付近には一部湿った岩盤があり、その岩盤を取り除くと……小さいとは言え、水源がいくつか見つかったのです。
泉の加護がない両村にとって、新たに発見されたこの水源は、真に福音と言えるものでしょう。
……それにしても、神族を泉に捧げて泉の復活を果たすという、かつて僕が練っていた計画……当時は他に道がないと思い込んでいましたが……枯れた大陸である筈のデルカル大陸で、こうして様々な資源が次々に見つかっていくのを考えると、あの時の自分は殴ってでも止めなければならない存在でした……。
今更言っても仕方がないというのは分かっているのですが……。
リビアさんはご自身も洗脳された経験があるらしく、僕が洗脳や思考誘導の実験を気づかぬうちに施されていた可能性が非常に高いと証言されて、最終的に僕はアドリアン様の要請に応える形でシューベトへ移籍し、改めて大陸中の人々の為に励むというほぼ形だけの罰でお咎め無しとなったのです。
……本当に洗脳や思考誘導をされていたのかは、今となっては僕自身も分からない……。
ですが、僕が傷つけてしまったのに、快く許してくれたエイリンちゃんに約束したこと……このデルカル大陸に住まう全ての人々のために、正道を歩んだ上で全力を尽くしていくという誓いは、決して嘘にしてはいけませんね……。
それに、例え泉は復活せずとも……古代神達は僕達に更なる慈悲を示してくれました。
例の水源もあの方々の恩寵なのかもしれませんが……魔女狩りの期間中に亡くなった方が、ごく一部ではありますが復活したのです。
具体的には魔女狩り終結に合わせ、リアート村で執行者に殺められた筈である三人の村人が、他に亡くなったと思われていた行方不明の村人達と一緒に五体満足で村に帰還しました。
執行者に襲われた三人は遺体すらも砂嵐に吹き飛ばされてしまったと、リアート村の村人達は悲嘆にくれていたそうですが……まさに、神の慈悲でしょう。
レフガトの泉以外が枯れ果て、余剰の魔力が無いだろうと推測される状況でも……それでも、でき得る限りの慈悲をあの方々は示してくれた……。
デルカル大陸の神々は今も僕達を見守ってくださっている。
希望はないと思い込んでいたデルカル大陸には、本当は多くの希望が隠されていた。
そう、例え泉がなくとも、きちんと目を見開き知恵を絞れば、人々が生きていける道がこの大陸には確かにあった。
ならば、僕がしなければならないのは、見つけた希望を新たな葛藤の元にはせず、デルカル大陸に暮らす人々が幸福な人生を歩むための種となるよう、自分にできる仕事を精一杯頑張ること。
きっと、それだけで良いのでしょう。
さて、そろそろ肥料関連の書類をエステル様の所へ持って行かなければ。
同時にエステル様に優先度の高い業務が来ているかも確認しましょうか……。
自分の執務室を出て、エステル様の執務室へ向かおうとすると、どうも玄関口にいくつかの冊子を持った見慣れぬ男性が……いや、成人の神族……?
おっと、玄関口にいらっしゃる神族の方も僕に気付きましたか。
「ありがたい。人が来てくれたか。空間移動の魔法であの二人の所に上がっても良かったのだが、この家の人達を驚かせてしまいそうだったからね。こちらで待たせてもらっていた」
……?空間移動の魔法で領主宅の人を訪ねる……?
しかし、あれは魔法陣が無い場所には飛べない……いや、魔法に熟達した神族であれば、魔法陣なしでもある程度の距離なら問題ないのでしたか。
それよりも、そもそも誰を訪ねてきたのかこちらの神族の方に伺わないと……。
「すまない。これだけでは意味が分かる筈がないな。私はこちらに来ているアラムートとエリシオンを訪ねに来たのさ。あの二人が出ても直ぐに問題の決着へと至らなかった以上、明らかに揉めているようだからね。解決の手助けができれば、そう思ってシューベトまで飛んできたのだよ」
…………え?神殿長が来ている?ここに?
あ、あの、あなたは、どなたですか……?
「エイムハードさ。バベリア大陸の神殿長を務めているよ」
………………え、ええぇ!?
おまけ
転生アドリアン君の独り言集
「趣味で温泉をシューベト領内にいくつか配置しようかな。でも実用性もバッチリな奴にしよう。それと、西海岸までの土地はこれまで全く開発が進んでないから好きに手を入れられるけど、他の資源追加は魔女狩り期間中の試練に影響が出ないよう、タイミングを調整しながらにしないと。第二段は周りの反応を確認してからにしようか……」
「……よし、身代わりは成功したな。流石に死を覆すのは古代神に咎められる……でも、まだ亡くなっていない方を助けるのはセーフだよね……?」
「Mod付きマイ〇クラ〇トの異世界技能か……。さつまいもみたいに、元々この世界にあった扱いとする異世界適用機能を例外的に有効化できる技能である分、もの凄くお高くて何となく敬遠してたけど、黒い魔力の浄化で転生特典ポイントが増える一方の今では誤差の範疇だね。魚を呼び出すための湖群を手作業で整備するのは割と大変だったから取っちゃおうか」
「ふむふむ、技能に習熟すると適用Modを増やせるみたいだな。しかもこの技能はバニラのゲームプレイでも熟練度が上がるのか……。水源作ったはいいけど、カクカクしてるのが気になるから早めに鍛えよう。No C〇besのModを入れてカクカクを抜けるようになったら水源の調整を……これ、練度を上げれば土地の改良もいけそうかな……」
マリー「まさか使い道がないあれらを資源にしてしまうなんて……」
モレル「雨水が溜まってできた地下水源は気に留めていなかった……完全に誤算だな……」
レフガト「まずいね……彼とあの子を結ぶための説得材料が減っている……このままでは……」
無限水源、どこかで聞いたことがあります。
私はプレイしたことがないですけどね。