チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
「アラムートとエリシオンは2階の一室にいるようだね。……ふむ、ルシアや他の神族の子も集まっているか。ヨハネス君だったかな?まずは、皆がいる部屋へ一緒に行こうか」
「は、はい、エイムハード様……」
「ははは!そこまで固くならなくても大丈夫さ。さあ、移動しよう」
ま、まさかバベリア大陸から神殿長がお越し下さるとは……。
しかも、エイムハード様の言葉が正しければ、
神殿長が三人も、それも別大陸に集まるという状況……尋常ならざる事態であるのは明らかです。
一体何が起こっているのでしょうか……。
「端的に言うと、男の子の……アドリアン君の取り合いだね。他の問題も絡んでいたせいで、話が拗れてしまった。想定通りの状況であれば、私の用意した解決案で丸く収まる可能性が高いが……」
僕の内心を読まれたのだろうエイムハード様が、起こっているらしい問題についてごく簡単に説明してくださる。
アドリアン様の取り合い……?
休暇前にどの作業へ注力してもらうか、ということでしょうか?
アドリアン様は政務に軍務、探検家技能を活かした各種資源の発見や調査、更に黒い魔力の浄化も手掛けています。
しかも魔女狩り期間中はフレアさんの速力にものを言わせ、バベリア大陸でも教皇の専横に楔を入れるべく、決死隊への物資支援、時には偶然縁を結んだルシア様のサポートを行なっており、過労をエステル様が心配されていました。
あの方は常に三足以上のわらじを履いていたようなものですから、エステル様がアドリアン様を案じられるのも当然ですね……。
魔女狩りが終結した今も、アドリアン様は大陸のために極めて精力的に活動されておりますが、流石のアドリアン様にも少し前からごく微かに疲れが見られ始めたので、そろそろ働き過ぎを解消するため、アドリアン様に長期休暇を取らせることをエステル様とリーガル様は以前から決めておりました。
少し前から僕も協力して準備は完了していた筈ですが……まさか、アドリアン様しか対応できない、神族に関連した緊急の業務が同時に複数入ってしまったのでしょうか……?
「恐らくだが、君が考えているようなことではないと思うよ。さて、到着だ」
たどり着いた一室は、会議室としても使われることがある大きめの部屋でした。
扉越しに話し声も聞こえますから、確かに部屋の中には複数の人がいるようです。
そっと扉を押し開けると……割と人が居ますね……しかも神族の方が人数は多い。
人間の方ですが、扉のすぐ近くにエステル様とルイス隊長がいらっしゃいました。
ただ、エステル様はここ最近滅多に見ていない困り果てたご様子……今回の問題の重さが伝わってきますね……。
ルイス隊長も、兜で表情は分かりませんが、どこか悩んでいるように見受けられます。
ただ、アドリアン様はこちらには居られないようです。
そして、神族の方達ですが……。
「…………アドリアン…………」
僕から見て左手にアイールディさんがいますが、普段表情の変化に乏しい彼女が僕でも分かるぐらいに沈みきった表情をしている……。
アイールディさんのすぐ近くにはエイリンちゃんがいて、心配そうな表情でアイールディさんに寄り添っています。
ルーカスはどこに、と一瞬頭をよぎりましたが、確か今日はフィリアさんの素材集めに協力すると数日前に会った本人が言っていたのを思い出しました。
ここに彼がいないのは当然ですね。
「う〜。アドリアン〜戻ってきてよ〜。今日は一緒に遊びに行こうって誘いたかったのに〜。チャンスを掴んで、大事な気持ち、きちんと伝えたいのに……」
右手にはバベリア大陸の次期神殿長・ルシア様が居られますが、こちらも明らかに涙ぐまれている……。
そして最後に、部屋の中央寄りの位置に、神族の方々が更に三人います。
うち、面識のある1人は次期神殿長のルナ様ですが、彼女もエイリンちゃん同様に気遣わしげな表情でアイールディさんとルシア様を交互に見られています。
残りは僕が面識のない成人神族の方が男女1人ずつ……つまり、こちらの方々がアラムート様とエリシオン様ということなのでしょうが……御二方とも、他の皆さんと同様平常とは言いがたいご様子です。
アラムート様はまだ落ち着いておられますが、それでも眉根を寄せ、悩ましげな表情でテーブルに置いてある手紙と、時折エリシオン様を見ています。
そして、最後のエリシオン様ですが……両手で頭を抱え、御息女のルシア様とよく似た顔立ちを苦悩一色に彩られている……。
不謹慎な例えですが、そんなつもりは全く無かったが、つい誰かに手を出してしまったことを深く後悔しているような……そんな表情です。
「エイムハード、貴方も来たのね……」
気落ちされているような声色でエリシオン様がエイムハード様にお声がけされている……。
「エリシオン、その様子だと彼らとの交渉は失敗し、しかも君が想定していない箇所で手を誤ったようだね。解決の助けに来たのだが、状況をキチンと確認したい。アラムート、その手紙を見ればエリシオンがそうなってしまった理由が分かるのかな?」
「ああ、そうだな。しかし、これは二者択一。何か案があるのか?」
「彼が心を決めていなければ、という所だね。決めてしまった場合は説得に難航しそうだが……。おっと、ヨハネス君、君も状況が分からないのは不安だろう。手紙を読み上げてくれないかな?」
「は、はい。分かり、ました……」
エイムハード様の言葉を受けて、アラムート様が僕に手紙を差し出されている。
少し震える手で僕は手紙を受け取り、エイムハード様に聞こえるよう、普段より大きな声で手紙を読み始めます。
私はフレアだ。
人物は伏せるが、私と縁のある者に事情を説明して執筆を頼み、この手紙を書いてもらった。
私と面識のある人にこの手紙を渡している筈なので、すまないが、2枚目以降の手紙をアドリアンの父・リーガルか、アドリアンの母・エステルに私からの連絡として届けて欲しい。
この手紙を渡した人物には一緒に金鉱石の入った袋を渡している筈だが、それは手紙を運ぶ代金代わりだ。
……つまり、この手紙は、フレアさんが代筆によって意思を綴ってもらったもの。
そして受け取ったのは……。
ルイス隊長に目線をやると、彼は頷いている。
フレアさんは代筆してもらった手紙をルイス隊長に渡し、彼を経由してエステル様に手紙を届けた、ということですね。
次からが、エステル様かリーガル様に宛てたものとなりますが……何故、彼が手紙を……?
いえ、内容を読んでいけばきっと理由が分かる筈。
まずは手紙を読み進めましょう。
ここからは、リーガルかエステルが読んでいるものとして文面を書いてもらうことにする。
単刀直入に言ってしまうが、デルカル大陸の古代神達とエリシオンの干渉があるせいでアドリアンが明らかに必要以上に疲弊しているので、彼を誘拐させてもらう。
アドリアンは上手く隠していたが、流石に見過ごせなくなったのでな。
あの者達が頭を冷やして今日までやっていた干渉を止めるまで、せめて両存在と物理的に距離を置かせるつもりだ。
実体がない古代神の方は、限界があるかもしれないが。
また、関係のあるアイールディとパイベリー向けにも言葉を綴ってもらう。
古代神やエリシオンの干渉を通してアイールディとパイベリーの感情にもアドリアンは気づいたが、両名とも好ましく思っているし、今回の件で嫌うことは絶対にないと誘拐前にアドリアンから確認を取っているから、そこは安心してくれて構わない旨、余裕があればで良いので両名に伝えて欲しい。
あの者達の干渉が落ち着いたら、アドリアンならちゃんと返事をするだろうから少々待っていてくれ、ともな。
それと、次の3枚目の手紙をエリシオンに読ませ、古代神達の泉の前でも誰かしらに手紙を読み上げてもらえないだろうか。
3枚目の内容自体はそちらで読んでくれても構わない。
いくつも勝手を言ってすまないが、どうかよろしく頼む。
ゆ、誘拐!?フレアさんが、アドリアン様を!?
しかもその原因は、この大陸の神々とエリシオン様……一体何がどうなっているのですか!?
「ヨハネス君は混乱しているようだから、補足するとしよう。私がこの部屋に到着するまでに君に話したこと……今起こっている問題はアドリアン君の取り合いだ、というのは覚えているかい?」
はい。覚えています。
恐ろしいことに、古代神とエリシオン様がどちらもアドリアン様を欲していることで対立しており、アドリアン様へ過度な干渉をしているというように読めてしまいます。
ただ、アイールディさんとルシア様がなぜそこに絡んでくるのかが僕にはわかりませんが……。
「率直に言ってしまうが、ルシアとそちらの子、アイールディはどちらもアドリアン君を異性として好いている。そしてエリシオンはルシアを、デルカル大陸の古代神達はアイールディをアドリアン君と結ばせようとしたことにより、両者の意向が衝突してしまった、ということだ」
エイムハード様の説明を受け、ついアイールディさんとルシア様のいる方に顔を向ける。
「…………(コクコク)」
「えへへ、エイムハード様にはお見通しだったみたい」
アイールディさんは少し頬を染めながらエイムハード様の言葉を頷いて肯定しており、ルシア様も同じく僅かに赤くなった両頬に手を添えるも、エイムハード様の言葉を否定されていない。
では、デルカル大陸の神々はアイールディさんを、エリシオン様はルシア様をアドリアン様の交際相手として推奨し、両者が自身の望む相手と結ばせるべく、アドリアン様へ必要以上に介入されたことがフレアさんの動いた理由である、と……。
ルシア様がエリシオン様の直系であり、次期神殿長という特別な存在であるというのは分かりますが、アイールディさんも古代神がここまで深く関与するほどの神族……。
かつて僕が例の計画を練っていた頃、アイールディさんは特別な神族と見込んでいましたが、それは間違っていなかったようです。
恐らく、アイールディさんは古代神の後継……デルカル大陸の次期神殿長になり得る方、ということなのでしょう。
……泉を復活させるために僕が準備していた計画を阻止していただけて本当によかった。
次期神殿長を泉の魔力補充に使い捨てるなど論外ですよね……。
しかし、神殿長や古代神達までもがここまで能動的にアドリアン様を欲する理由とは……?
「もう少し補足すると、デルカル大陸の古代神達がアドリアン君を求めた理由は、彼らの計画完遂にアドリアン君が必要だから、エリシオンの方はバベリア大陸の次代を担うルシアのパートナーとして彼がこの上ないと判断したから、という所かな。詳しく説明すると時間がかかり過ぎるから、この辺りにしておこう。情報の咀嚼が済んでからで良いので、最後の便箋を読んでくれるかい?」
僕が疑問に思っていることを、エイムハード様が更に説明してくださいました。
ただ、あくまで何らかの計画に必要な要素としてアドリアン様を欲されたという古代神の方々の理由はまだ分かりますが、エリシオン様が御息女のパートナーとしてアドリアン様を求めたというのは、何というか、失礼ながらとても人間味のある理由ですね……。
ですが、神族の皆さんにも人間のように心があるというのは、僕がかつて犯した過ちから学んだこと。
神殿長の方々にも人々と変わらぬ想いがあるという事実も、決して否定してはいけないのでしょう。
デルカル大陸の神々とエリシオン様の双方にアドリアン様へ干渉する理由がある、ということには一応納得できたので、フレアさんが用意した、最後となる三枚目の便箋を読み進めましょうか。
これはデルカル大陸の古代神とエリシオンが内容を確認しているものとして文面を書いてもらうことにする。
こちらも前置きなしに伝えるが、お前達はもう少し自重してくれ。
古代神の方はお前達が推すアイールディのイメージをアドリアンの脳内に何度も何度も流し込むんじゃない。
寝ている時も夢に仕込んでくる所為でアドリアンが寝不足になっている。
集中力を欠いて妙な所で怪我でもしたらどうするつもりなんだ。
エリシオン、お前が娘を推す気持ちは私でもある程度理解はできるが、アドリアンと会った際にその想いを滲ませて萎縮させるのは本末転倒ではないか?
意識的にやっているのか無意識なのかは知らないが。
一番最後にお前とアドリアンが顔を合わせた時は、あの後アドリアンは食したものを戻していた。どう考えてもやり過ぎだぞ。
そもそも問題の根本が恋愛沙汰である以上、外野は相談に乗ったり提案をする程度に留め、最後は当人達の中で完結させるものではないのか?
私の所感はともかく、別の手紙にも書いているが、お前達から受けるアドリアンの負担が目に余るので、物理的にお前達からアドリアンを遠ざける。一旦頭を冷やすがいい。
誰かしらを通して、今日までやって来た干渉を止めるという意思を古代神達とエリシオンの双方が示すのなら、アドリアンが望めばシューベトに戻す。
お前達ならそれぐらいできるだろう。
だが、まだ続けるというのなら、バベリア王国の更に外へアドリアンを連れて行くからな。
お、思っていた以上にアドリアン様が直接的な手出しを受けている!?
先の手紙でも薄々推測できてはいましたが、アドリアン様が僅かに疲れていたように見えたのは、もしかして古代神の方々とエリシオン様が根本の原因ですか!?
今度は思わずエリシオン様に目を向けてしまう。
「デルカル大陸の古代神達と言い争っていて、酷く気が立った直後にアドリアン君と会ってしまったのよ……」
「だが、告白をしようとした訳ではなく、告白を受けた訳でもない彼に、レフガト達との交渉が上手くいかない苛立ちをぶつけるのは明らかに理不尽だろう。エリシオンも承知しているようだが……」
「ええ、本気で反省してるわ……あの人達、節穴すぎるでしょう……この大陸、言うほど枯れてないじゃない……計画の段取りから間違っているんじゃないの……?」
エリシオン様が口にされた言葉の一部は聞き取れませんでしたが、おそらくエリシオン様は手紙に書いてあること……最後にアドリアン様とお会いした時の状況について言及しているのでしょう。
古代神の方々とアドリアン様を巡って激しい言葉の応酬を繰り広げてから直ぐにアドリアン様と顔を合わせてしまい、そこで思わずあの方を威圧してしまった、ということなのかもしれません。
ああ、アイールディさんと共に、娘のルシア様までもがエリシオン様へ冷ややかな視線を向けており、エリシオン様が縮こまっておられる……。
うーん、こんな状況ではエステル様が対応に苦慮されているのも当然です。
一体どうすればよいのでしょうか……。
古代神「大陸と人間の未来のため、泉の復活と次期神殿長誕生の計画に彼が必要なんだ」
エリシオン「次なる時代の旗頭となる娘を支えてくれる子を譲る訳にはいかないのよ」
フレア「恋愛事なんだから当人同士で決めてもらった方が良いのでは?」
各々言い分はありますが、誰の主張が一番真っ当なのでしょうね。
何にせよ、バベリア大陸で活動していた転生アドリアン君をパイベリーが己の運命の人と定めたことで、とある雷竜があるかもしれないと思った事態がバベリア大陸で発生してしまいました。
それと完全に余談ですが、フレアは秘密基地にある筆跡を自動で変えるペンをこっそり借りて、体を縮めた状態を維持して自前で手紙を書いています。