-幼い頃、あたしはヒーローになりたかった。-
テレビで初めて見たその姿はとても印象的で今も覚えている。怪人相手にベルトを使って変身し、華麗に戦い…そして大切な人を守って去って行く。
その姿が何よりも好きで堪らなかった。
でも…ヒーローに憧れて良いのは男の子だけだ。
女の子はヒーローなんて成れはしない…。
これが現実、これが事実なんだ。
でも、ある日突然その事実が突然覆る事となる。
あの日彼女と出会った事で…あたしの運命は変わった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「新発売の変身ベルト!?嘘だろ…やっべ…ちょーかっこいいじゃん!! 」
携帯片手にキラキラと目を輝かせている金髪少女、可能の名前は津上カナ。現役の女子高生だ。
「カナ本当に好きだよね…男の子の変身アイテムとかさ。」
そしてその横に居る桃色の髪を後ろで結んだ彼女はカナの理解者兼友達の1人、南コヨミ。弟が居る事から多少のそういった知識は持っている。
「当たり前だろ、変身出来なくてもこういうの持ってると凄いワクワクするんだよ!バイトして貯めた給料で買っちゃおうかな…♪」
「確か…仮面ソニックだっけ?」
「そう、仮面バッターシリーズの最新版が仮面ソニック!疾風の如く現れて素早く敵を薙ぎ倒す!でも前の仮面フォックスも面白かったんだよなぁ…ベルトは軒並み人気だったし。」
「ベルト…買わなかったの?」
「…買えなかった。通販も市販も全部ダメでさ…中古なら有るだろうけどさ…多分高い…。」
ガックリと肩を落としていると青髪のツインテールと黒い髪を伸ばした少女達が来る。
彼女達もカナの友達。ツインテールが野上ナナ、黒い髪が五代ユリカ。そうしているとナナが話し掛けて来る。
「また大好きな特撮の話してるの?凄いわね…あれだけ話しても飽きないなんて。」
「まぁそれがカナの生きる原動力だもん、夢中になれる事が有るのは良いんじゃない?ほら、仮面ソニックのストラップあげる。今朝買ったコーヒーのオマケに付いてたんだ。」
そうユリカがナナの後に続けるとポケットから仮面ソニックのストラップを取り出してカナへ渡した。
「コラボの奴!?ありがとー!マジでユリカ様様!!」
受け取ったカナは子供の様に目を爛々と輝かせていた。それを早速開けて彼女はリュックサックのファスナーへ付けてみる。普通のリュックサックもこうなれば全然違う。4人が暫く話しているとチャイムが鳴り、授業が始まった。
彼女達の通う阿澄高等学園は1学年から3学年の人数がかなり多いマンモス学校そのもの。
生徒数は約2000人近くにも登るレベルだ。
男女共学、そしてスポーツも盛んな学校である。
「変身……か。」
ふとカナは呟いた。
幼い時、兄と一緒に見ていた特撮ヒーロー番組。
それはとても面白かったし毎日が楽しみだった。
でも…ヒーローになんて成れない、成れる訳ない。
-女の子はもっと女の子らしく!-
-アレは男の子の玩具!カナは女の子だから他のにしなさい!-
-女の子はヒーローに成れないんだぜ?-
周りからそんな事を散々言われて来た。
一緒にテレビを見ていた兄もいつの間にか見なくなってしまった…卒業という言葉をそこへ付け加えて。だから今見ているのは自分1人だけだ。
ふとノートへ変身という言葉を片隅に書き記すと
授業を聞きながらノートへ板書する。
好きな物は好き…それの何が悪いのだろうか?
女だからとか男だからとか…そんなつまらない事に縛られていても何も楽しくない。
窓の外へ目をやると青空が澄んで見える。
雲一つない晴天…とても美しく見えた。
「津上さん?…津上さん、140ページの真ん中から読んでくれる?」
「え?あ、はいッ…!」
女性教師から呼ばれて立ち上がると教科書を読み始める。ついうっかり色々と考えてしまっていた。
そして彼女が読んだ辺りで授業が終わり、チャイムが鳴った。
「あ、危なかった…!」
「…危なかったじゃないでしょう?また授業中に考え事してたの?」
近寄って来たのは
腰辺りまで伸ばした紫寄りの黒髪が特徴な美人の先生。じーっとカナの方を見つめていた。
「えーっと…ごめん…なさい?」
「全く…また例の番組の事?」
「へ?あ、いや…えっと…!」
「ねぇ…一応先生もそれ見てるのは内緒にしてよ?2号の人、結構タイプかもしれない。仮面ハヤテ…又の名を早川スグル!」
ヒソヒソとカナへ説教してるフリをして話し掛ける。彼女、鈴々はイケメンが好きなタイプなのだ。
「先生、まさかの2号推しなの?」
「顔とか結構好みなのよね…後、声のトーンも聞いてて心地良いし…殺陣も最高!!あ…次の授業が有るから私はこれで。次は気を付けてよ?」
「はーい…気を付けます…。」
この特撮談義も結構やっている。
個人調査の時にウッカリ話したら案外向こうも乗る気だったらしい。様子を見たコヨミが近寄って来た。
「カぁナぁ、また怒られたの?」
「色々悩み事とか有るんだよ、あたしにも!」
「ふぅん…カナは好きな人とか居ないの?先輩とか同い歳の子とか。」
「無理だよ…あたしの事なんか好きになる奴なんてこの世に居ないよ。絶対ガッカリされるもん…良い歳して男児向けのテレビ見てはしゃいで…玩具も買って…ドン引きされて終わりだよ。」
「何もそこまで言わなくても…大丈夫、きっと解ってくれる人見つかるって!」
励まされるがそれも何処か心が痛い気がする。
そしてその日の放課後、4人は街の方へ遊びに向かった。といっても向かったのは大きなショッピングモールの中にあるゲームセンター。
放課後はいつもそこで遊んだり、ここ以外の別の店で買い物したりしているのだ。
ユリカとナナはゲームセンターへ、コヨミとカナは玩具売場に来ていた。
「うーむ…7000円かぁ……。」
「ソニックのベルトじゃん、買うの?」
「思ったより良い値段するなぁ…って。コヨミぃ…どうしよう?」
「私に言われても…そんなに欲しいなら買ったら?」
2人が話していると黒い髪の女性と目が合った。
珍しくこの人は少し谷間の出たワンピースと併せて白衣を着ている。そして不思議そうな顔をしてカナを見つめていた。そして近寄るとカナをまじまじと見つめて手を握り締めた。
「あの…何か?」
「良い…!」
「へ?」
「良い!とても良い、素晴らしい!貴女はライクリアエネルギーで満ちていますッ!!」
「ライ…何?」
カナとコヨミは危ない人に絡まれたと思っていた。
宗教勧誘か何かと思って警戒しカナは怪しい目で見ていた。
「…はッ!?こほん!私の名前はロイン・ラーヴ。遙か銀河の彼方から来た天才科学者です。あとこれは私の名刺。」
手を離した彼女がポケットから取り出したのは名刺、それをカナへ手渡して来る。
確かにそこには彼女の名前が記されていた。
「…宗教勧誘ですか?それならお断りですけど。」
「違いますッ!!宗教勧誘とか怪しい教材売ってる人間じゃ有りませんッ!セールスも違いますッ!」
グイグイとカナへ迫ると彼女が肩を押して戻す。
するとコヨミがヒソヒソと話し掛けて来た。
「カナぁ…怪しい人じゃないの?」
「多分…頭イッてる人かも…?」
2人がヒソヒソと話していると後ろから悲鳴が聞こえ、咄嗟に見回した。ロインが悲鳴のした方へ走るとゾロゾロと変な動きをした人型の何かが建物の入って来た。銀色の仮面に下半身は黒。手には槍の様な物を手にしている。2人も追い掛けて合流した。
「あれは…アンチテリア!?ッ…もう来てしまった!」
「アンチ…テリア?」
「ライクリアエネルギーを奪う悪しき集団です!もう地球へ来ていたなんて…!」
「あのー、さっきから何言ってるか全然解らないんですけど!?」
「…何かを好きと思う気持ち、それがライクリアエネルギー。それを奪って我がモノにしようとしているのがアンチテリア…奴等は星々を渡り歩いてはライクリアエネルギーを根こそぎ奪って…星を壊滅させて来た…まさに極悪非道の集団!」
「つまり悪い奴って事?」
「そういう事ですッ!」
カナが納得するとロインが頷く。
コヨミは置いてけぼりにされていた。
するとロインは途端に3階から1階へとエスカレーターを使って駆け下り、下の階へ降りると懐から拳銃を取り出して彼等へ向けた。
「止めなさい!此処の人達を巻き込むのは私が許しませんッ!」
彼等はロインを見付けるとそこで止まり、突然襲い掛かって来た。彼女が発砲するとエネルギー弾が放たれ、1体へ命中すると仰け反って倒れる。
槍を突き出されればそれを避けてブーツで蹴り飛ばし、倒す。また1人、また1人と襲って来るがイマイチ倒し切れていない。
「ッ…この銃じゃウバーウもロクに倒せない…!」
槍が投げられ、それを避けると再び発砲する。
だが攻撃を喰らうと銃を落としてしまう。
そして油断した所を殴られてしまい、近くのテーブルへぶつかると倒れてしまった。
「ロインさんッ!?くッ…!」
「カナ、逃げよう?ヤバイよ…これ!」
「ッッ…!!」
カナが視線を別方向へ向けると泣いている小さな男の子を見つける。恐らくこの騒ぎで親とはぐれてしまったのだろう。そうこうしてる内に
「…コヨミ、私あの子を助けて来る…!」
「か、カナ…何言ってんの!?」
「…大丈夫、私にはソニックがついてるから!」
カナが駆け出すと戦闘員の2人がカナへ襲い掛かる。彼女は槍から放たれたビームを避けて子供の元へ駆け付けるとしゃがみ込んで見つめる。
「…僕、このベルト…少しだけお姉ちゃんに貸してくれるかな?」
カナは子供が巻いていたソニックのベルトを外し、それを自分へ巻き付けると立ち上がって身構えた。
「疾風の如く現れて、風と共に悪を討つ!聞け…悪人共!!俺は疾風の戦士…仮面ソニック!!」
慣れた動きで変身ポーズを決めるとリュックサックを下ろし、カナは戦闘員の1人へ向けて走ると飛び蹴りをかまして1人を退けた。目線でコヨミへ合図すると彼女が子供を抱えて走り去った。
無論、戦った事なんてない…けどやるしかない。
突き出された槍を防いで強めに殴り付けるがビクともしない。
「え…ッ!?倒れないなんて…!」
「ギギーーッ!!」
「あぐ…ぅうッッ!!?」
するといきなり正面から突き上げを喰らい、カナが倒れてしまった。背中から地面へ激突した事から背中へ激痛が走る。そこへ追い討ちを掛ける様に殴り飛ばされ、腹部を蹴られ、髪を掴まれた挙句に投げ飛ばされてしまった。
「痛ったぁ…ッ…!!」
思い描いていたヒーローはこんな無様な戦い方をしない。悪人をバタバタと薙ぎ倒し…本丸の敵と戦う…それが理想。でも、現実はそうではない。
非力過ぎるだけではない…力の差が有り過ぎる。
痛む身体を起こして視線を変えると戦闘員の残りは人間を襲って額へ手を充て、何かを奪い去っているのが解った。
奪われた人間は座り込む様に倒れていく光景がそこら辺で繰り広げられている。戦闘員の群れを掻き分けて来たのはバッタの様な怪人、そして彼と目が合った。
「おい、小娘1人に何を手こずっている…さっさとライクリアエネルギーを奪ってしまえ!」
あの緑色の怪人が彼らを率いているのだろう。
戦闘員らがカナの方を向くと今にも襲って来そうだった。すると近寄って来たバッタの怪人はカナの腰にある物を見てニヤリと笑った。
「これはこれは…女の癖にそんなモノを巻いて…ヒーローでも気取っているつもりか?」
「ッ…!」
「どうした、ヒーローなら俺に掛かって来い。ヒーローなんだろ?悪に立ち向かわなくてどうする?」
「ッ…おらぁああッッ!!」
立ち上がるとカナはバッタ怪人へ殴り掛かる。しかし足を引っ掛けられて転倒してしまった。
立ち上がって殴り掛かっても避けられてしまい、完全に相手に手玉に取られていた。
「どうしたどうした、その程度か?ヒーローなのだろう?」
「こんのぉ…バカに…するなぁあッ!!」
殴り掛かった途端に腹部を正面から思い切り蹴り飛ばされ、カナは悶絶し蹲ってしまった。
「が…ッ!?げほッ、げほげほッ…!!」
「所詮はその程度か…これで解っただろう、女はヒーローにも何も成れはしない…これが現実だ。幾らそんなモノを身に付けても…戦っても何も成れない!それにお前は女だ…女は女らしくしていれば良いのだ!!」
「ッッ……!!」
昔言われた言葉が今言われた言葉と共に胸に突き刺さった。女の子らしく…女の子はヒーローに成れない…女の子だから…と様々な言葉が脳裏を過ぎる。
でも言い返せなかった…だって事実だから。
「悪いか…」
「何だ?」
「女の子が…ヒーロー…が好きで…悪いかって聞いてんの…!!」
「何を言い出すかと思えば…そんな事か?」
「お前に…とっては…そんな事…かもしれない……でも!あたしに…とっては…生きる原動力…希望なんだ…ッ!」
「希望だと?ふん…お前は未だ理解していないのか?お前は女だ…何故そんな空想のモノに浸る?お前は馬鹿なのか?」
「確かに…空想だよ…有り得ない…居る訳ない……こんな時でも…助けに…来てくれない……。」
フラフラと立ち上がると俯いたまま話し続ける。
そして顔を上げて睨み付けた。
「でも…ッ、大切な事は…彼らが…教えてくれた…女も…男も…子供も…大人も…好きなモノは…好きで…良いんだって…ッ!!だから…あたしも…好きで…居られる…ッッ!!」
「なら…その希望とやらを根こそぎ奪い去ってやる…ライクリアエネルギーを寄越せ…小娘!!」
「ッッ…!!」
やられる…そう思った時、横から誰かに突き飛ばされて共に倒れる。そこに居たのはボロボロになったロイン、そしてそのまま流れで店の中へ逃げ込む。
「…ロインさん!?」
「貴女の想い…確かに受け取りました。…貴女の言う通り、ヒーローは何処にも居ません…でも…ヒーローが居ないなら…生み出せば良い…!」
彼女が銀色のアタッシュケースを開けて取り出したのは黒い腕輪、赤い球体の物が埋め込まれている。
「これ何?ヤバい奴…?」
「ええ…飛び切りヤバい奴です…!名付けてライクギア!」
「ライク…ギア?」
「簡潔に言えば使用者のライクリアエネルギーを元にして変化させるシステム…先ずはコレを右手首に嵌めて下さい。」
言われた通りにカナが右手首へ嵌めるとリストバンドの様にそこへ固定される。
「うわわッ!?えー…凄い…何これ…!」
「…掛け声はトランス・イグニッション。これで作動する筈です!アレは恐らくレイドリアン…アンチテリアの怪人クラスです…でも、貴女ならやれます。ヒーローが大好きな…貴女なら!」
「トランス…イグニッション……!」
2人が話していると此方の方へビームが放たれ、辺りを破壊していく。カナは咄嗟に飛び出すと再びバッタ怪人の前へ立ちはだかった。
「漸く諦めて死にに来たか小娘。んん…?今度は腕輪か…未だ懲りないか?良いだろう…今度こそ貴様からライクリアエネルギーを吸い尽くしてやる!!」
「…やれるもんならやってみなよ…あたしは…みんなの好きを守る…お前なんかに奪わせない…奪わせたりなんて…しないッ!!」
カナが叫ぶと右腕を前へ突き出し、そして戻す動作を行うと大声で彼女は叫んだ。
「トランス・イグニッションッッ!!!」
すると左手首のギアが上下に開き、彼女の全身を黄色い光が包み込んだ。制服が弾け飛んで裸になると腹部の空いた黒いレオタードの様な物にスカートが下へ出現し装備される。
そして左右の足に赤い装甲の様なブーツ、そして両手にも同じカラーの装甲が出現し装備された。
スカートを覆う様に腰周りにも装甲が出現すると最後に後ろ髪へ機械の様な黒いリボンが装備され、光が解き放たれる。
カナは目を開いてその名前を口にした。
「皆のスキを守る伝説の守護者…ブラックルミナス、見参ッ!!!」
黒と赤を基調とした戦士、ブラックルミナスは
バッタの怪人へそう名乗った。
「ブ、ブラックルミナスだとぉ!!?」
驚いている怪人を他所にカナも近くの姿鏡に映った自分を見て思わず2度見してしまう。普段の自分より何処か大人びた雰囲気…そして少し胸が大きくなった気がする。どう見ても自分なのだが自分ではない。
「へ…これがあたし!?な…ななな、なんじゃこりゃああッッ!!?」
光の戦士ブラックルミナス。その伝説は今、此処から始まろうとしていた。平凡な女子高生…津上カナはふとした事からヒーローになってしまった。自分が憧れている存在とはちょっと違うけど…ヒーローになった。
-誰かのスキを守る為のヒーローに。-