『では以上をもちまして、2020年度ドラフト会議は、終了となります』
ドラフト会場となっているホテルの大広間。
その場に集まった誰もが、みなプロ野球に携わる役職の者たちだ。
なにを目的としているかというと、もちろんドラフト――新たな戦力、有望な新人選手を指名し獲得すること――だろう。
かくいう俺も、またそのひとりなのだが。
なのだが。うん、そうなっているはず。うん、きっと。
しかしこのドラフト、うちに入ってくる選手は間違いなく少ない。
なぜか。理由は明白すぎてもはや誇れる。
選手が求めるのは基本的に名誉、向上、金銭など。それらが揃っている誉れある球団ならば、選手は指名されたとなれば尻尾を振って入団するに違いない。
うん。つまりなにがいいたいかというと……。
うちの球団、ちょっと弱すぎて名誉も向上心も資金もないのだ。
「……今年、大丈夫ですかね……?」
俺の顔を覗き込むようにして、同行させていた球団スタッフのひとりがそう尋ねてくる。
はっきり言って無理、と告げたいが。この場では他球団の目もあるし、無難に答えさせてもらおう。
「大丈夫。なんとかなるさ。うん、なんとなく思う」
この言葉にスタッフ一同、大きな溜め息で返してくる。
「……なんとかならない気しかしないんですが……」
俺も本当はそう思っているから。キミたちだけじゃない、安心したまえ。
「……というか大丈夫なんですか?
「大丈夫だってなんとかなる」
「しかも彼の出身地、ここからだいぶ遠いですよ……?」
「まあなんとかなる」
「いくら甲子園出場の経験がない高卒新人獲ったところで、この状況は……」
「もうどうにでもなってくれ」
眉間に親指を押しつけて、もう沈黙するしかなかった。
ゲームの世界に転生という、よく昨今のライトノベルやらで使われているテンプレートがある。
初めは現実じゃないだろと笑い飛ばしていたが、今の身としては、過去の自分を道頓堀に投げ込んでやりたい気分。
いやだって、普通に転生していたのだから。
朝目覚めて、気がつきゃ知らないベッド、知らない部屋、知らないインテリア……その時点では信じたくなかったが。
自分の部屋で寝てたら転生だなんて、現実的にはありえないだろう。
しかも転生先なのだが、これがまた厄介だった。
なんと、もともといた世界とほとんど変わらないのだ。なんということだろう。
なのだから、夢かと誤解してしまったわけだ。で、鏡でようやく気づいた。
――誰これ?
そうなってくるともう困惑やら混乱やらで頭の中は混ざりっぱなし。もはやわけがわからない。
しかもこの世界、あんまりにも元いた現代と変わらなさすぎる。なのでどのゲームに転移したのか特定するのは秒で諦めた、うん。
だがひとつだけ、ひとつだけ得られた情報がある。
――どこかの球団スタッフ。転生先での俺はどうやら、その球団内でも権力のある方らしかった。
んで、どこの球団なのかちょっと探ってみた。
名刺入れからひとつ、お借りさせてもらい、情報と現状を確認してみた。
神奈川ブルーホエール。そんな球団に所属しているという。
ではどんな球団なのか。足を弾ませながらパソコンを開いた俺の気持ちを返してほしい。
だってサジェストの時点で弱小やら弱いやら出てきたのだ。もうダメだと崩れ落ちかけた。
しかも名刺をよく眺めていたら、ゼネラルマネージャーとあった。うん、終わった。
その瞬間、目の前が真っ暗になったようだった。
もうちょっと調べてみたら、投手陣完全崩壊、野手やる気なしの極貧打線、とか書かれている記事が表示された。顔を覆いたくなった。
そこまで書かれている球団ってなんだよ……深く息を吐くしかないのだ。
で、GMとしてこの一年を過ごしてみたが、とにかく散々としか言えない。
神奈川県横浜市に本拠地のブルーホエールスタジアムがあるのだが、立地はいいはずなのに球団カラーのグッズを身に着けているファンはほぼいなかった。試合ではほぼ他球団ファンが来るぐらい。
ならば強引にでも戦力の補強をと意気込んで、外国人選手を発掘したりトレードを依頼してみたりしたのだが……ほとんど実を結んでくれなかった。
原因はもうわかっていた。うん、資金だ。どう足掻いてもどうにもならない。
2020年シーズンのセ・リーグ。もちろん我が神奈川ブルーホエールはダントツの最下位に轟沈した。
だが強いて幸運があるとすれば、スタッフで京都観光に行けるぐらいの資金は上が出してくれたことぐらいだろう。
そこで高校球児たちの試合も時折偵察しながら、京都観光を楽しんでいた。が、今考えれば自分はなにをしていたのかわからなくなっている。
……光明があるとしたら、京都で何人かの有力選手たちと顔見知りになれたことぐらい。もうそれに賭けるしかない。
でもそのうちのひとり、どこかで見かけた気がするのは気のせいだろうか。今年のドラフトはそれにすべてを託しているといっても過言ではない。
ドラフト会議を終え、球団事務所内にある自身の専用室。
だだっ広いそこに置かれているソファに腰かけ、改めて一枚の資料に目を通してみる。
これにはドラフトで指名した選手たちの特徴やデータ、球歴が載っている。しかも、スカウトによる評価も。
んで、今年指名したドラフト1位の選手なのだが。
「『球筋がまだノビない印象』かぁ……」
とりあえず確認してみた資料。
やはりといっていいか、内容は散々だった。
まあそうだわな、とひとり納得してしまう。
甲子園出場経験はあるものの怪我しがちで、その甲子園でもあまり奮わなかった
だがドラフト1位でその投手を指名してしまった以上、責任を持って育てさせてもらう。
恐らく、
と、今後に酔い痴れていたら、ドアが二度叩かれる。
「どうぞ」
「長月さん、失礼します。もうすぐ、入団会見です」
「ああ。了解っと」
球団事務所内にある記者会見用のスペースには、すでに今年指名した、五人の選手が立っていた。
みな表情は様々だが、大方、緊張はしているはず。
記者の方を一目見向く。……三、四人ほどしかいないが。
それでも今年の新人選手はきっと、ひと味違うはず。俺が
と、俺が期待を寄せる彼が一瞬こちらを窺ってくる。
俳優のようなスマートな顔立ちには、確かに緊張が見え隠れしていた。
「んじゃ、我が球団のドラ1。早速だけど、頼むよ」
そう呼びかけると、ビクリと一瞬、肩を震わせた。
マイクをおずおずと受け取ると、いよいよ
「……斉藤、