ドラフト会議があるホテルの会場。
そこに足を運んで早々、スカウトが作成した獲得候補リストに目を通す。
もちろん、そのリストには俺が口説いた松坂、こちらのスカウトに快く応じてくれた
が、それでも見落としている人材がいないか確認している。
ここまで徹底しておかないと、強い球団を作るというのは夢のまた夢であり、今の神奈川を変えることはできない。
リストには確かに俺の知る選手の名前もあったが、そのほとんどはすでに他球団にマークされているはず。
球団的に、競合になるとほとんど勝ち目はない。
だから今、必死になっていい穴場を見つけようとしているのだ。
と、スカウトが酷評している選手の中に、気になる名前があるではないか。
送球が不安定すぎる、守備力は皆無、打撃は中途半端とスカウトが評価しているが、どうしてもその選手の名前が引っかかる。
そういう選手はもうひとりいる。こちらは高校生で2年生までは他球団から注目されていたそうだが、大怪我をしてしまった経験があり敬遠されているそうだ。
ペンを取り出し、その名前欄に丸を描く。
今日のドラフトは決められた。
あとは、本番の勝負だけだ。
プロ野球の関係者がぞろぞろ集まってくる中、会場に入ると、賑やかだが妙な緊張感が走っているように思う。
どの球団も獲得したい選手は決まっているはずだ。
他との競合、チームが求めているポジションなどにも気を配りながら指名しないといけない。
球団フロントの関係者からしたら、まさに試合の場だろう。
で、肩の力を抜きながら座っていると、同じテーブルに神奈川監督の中さんが席に着く。
続くように他の関係者も、おずおずと席に着く。
「長月さん、去年は見事なドラフトでしたね。まさかルーキーたちがあそこまでやれるなんて」
「いえ、たまたま掘り出しものを掘り当てられただけですよ」
「特に斉藤、あれはもっと伸びますよ。今年だけでも新人王、最多奪三振とタイトルも獲れてますし」
「それならよかった。正直、斉藤くんが活躍してくれてホッとしています」
「来季の開幕戦、彼で臨めるのを楽しみにしてますよ」
「やめてくださいよ中さん、そんなプレッシャーかけないでください」
中さんと談笑していると、会場の空気が一層張り詰めたものになっていく。
さて、俺の勝負はこれからということか。
『これより、2021年度ドラフト会議を開催します』
アナウンスが響いて、各球団の1位指名選手がまず映し出されていく。
上原、
『神奈川ブルーホエール、1位指名。松坂浩輔、ピッチャー』
神奈川は最初からこれと決めた選手にしている。
巨大モニターには神奈川の1位指名として単独で松坂の名前が映し出されている。
その光景に内心、ガッツポーズを決めそうになるが、2位以降も油断はならない。
文売ガイアントが上原、
が、意にも介さず2位を指名する。今年も最下位だったため、神奈川が優先的に指名できる。
『神奈川ブルーホエール、2位指名。和田剛、ピッチャー』
2位にはもちろん大学生投手の和田を。こちらも我が球団、いや、俺からしたら逸材だ。
「……3位、どうするおつもりで?」
ふと中監督が耳打ちしてきた。
「大丈夫です。決めてあります」
小声でそう返し、3位を指名していく。
俺が知っている選手なら、間違いなく
『神奈川ブルーホエール、3位指名。
大怪我した経験があるとはいえ、それはすでに完治しているはず。
しかも他球団はほぼノーマーク。なら指名しない理由がなかろう。
間違いなく、我が球団の戦力になってくれるだろう。なぜ3位でも獲得できたのか謎なぐらいだ。
3位指名が終わり、4位指名に移り、神奈川も指名する。
『神奈川ブルーホエール、4位指名。
この社会人野手も4位で指名できるとは思ってもいなかった。
他球団も打撃にはちょっと注目していたようだが、守備走塁面が響かなかったか。
「え、小笠原いくんですか」
中さんが唖然としていたので、
「大丈夫です。彼は侍になりますよ」
と返しておく。
『以上を持ちまして、2021年度ドラフト会議を終了します』
場内にアナウンスが流れ、各関係者が席を立ち去っていく中、俺たちも席を立ち、帰路に着こうとする。
さて、後日の新聞と来季のオープン戦が楽しみだ。