ようやく、ようやくこの時がやってきた。
プロ野球のオフシーズン、その目玉のひとつ、ドラフト会議だ。
その会場となっているホテルに着き、大広間に赴くと、やはりプロ野球関係者だったり、報道陣のカメラだったりが散見される。
今年のドラフトで最注目されているのは、高校ナンバーワン投手の
夏の甲子園でこそ相手の
ちなみにだが、その田中を負かしたエース兼4番は日本ではなく海外でプレーすると宣言し、ドラフトにはまったく名前があがっていない。
……
「長月さん、一応聞いておきますが、ドラフト順位どうします?」
脇目に伴っていた球団スタッフからそう聞かれ、顎に手をやる。
が、結論はすぐに口から出てきた。
「……1位はやっぱ、彼でしょ」
「そう、ですね。年齢もありますし」
「まあ重複した時が怖いけどね」
苦笑し、スーツの襟を整える。
「長月さん、ご武運を」
「戦うわけじゃないけどね。……でも、なるべくいけるとこまでいくよ」
『お待たせしました。これより、2022年度ドラフト会議を開催します』
場内にアナウンスが響き渡り、思わずぐっと手を握る。
全身が重たい。背中に重りがのしかかっているようだ。
まずは、各球団のドラフト1位の一斉発表から。
勝負はそこから。火蓋が切られた以上、想定外もありえる。
『各球団、ドラフト1位指名の発表です』
無意識に、手を合わせてしまっていた。
額から垂れてくる汗が止まらない。
モニター内の幕が開かれると、そこには。
『神奈川ブルーホエール、1位指名。柳田悠也、野手』
1位指名した柳田の名を探しても、神奈川以外にはない。
つまり、神奈川により単独指名。なのだが――
『北海道フライヤーズ、1位指名。
やっぱり、やりやがった。
田中が9球団で競合していたりしたが、今はもう、それどころではなかった。
北海道フライヤーズによる、強行1位指名。
会場内は一瞬ざわめきを醸したが、田中との交渉権の抽選ですぐに収まる。
田中との交渉権は東北の宮城生命リーガースに渡ったみたいだが、それでも脳内は真っ白だ。
だがドラフトはまだ終わっていない。まだ――とモニターを見直して、また唖然とする。
『文売ガイアント、1位指名。
文売が指名した選手の名前。それを目の当たりにして、内心でやられたと頭を抱える。
今年の高卒新人は確かに大豊作だ。が、ここまでは流石に読めなかった。
もうすでに胃が締めつけられるようだが、2位指名に移行したため、指名を行う。
『神奈川ブルーホエール、2位指名。
ここは前々からスカウトの交渉をしていた社会人捕手を指名。
捕手としては絶壁のような選手で、どんな球でもノーサインで受け止められるような技術を持っている。
打撃面ではそこそこ止まりかつ、今年が豊作すぎて漏れていたようだった。
3位指名では、もちろんあの高卒投手を指名する。
『神奈川ブルーホエール、3位指名。稲尾智久、ピッチャー』
柳田との1打席勝負。あの瞬間、間違いなく稲尾の球はプロでも最上位にあると確信できた。
今日1位指名した柳田がセカンドゴロに討ち取られたほどだ。間違いなく期待はできるはず。
と、妥当に今までスカウトしてきた選手たちを指名してきたが、4位指名では残っている高卒選手を獲ろう、と考えていたら。
「長月さん長月さん、突然すみません。なーんかすっごい球のピッチャーが残ってるみたいで……」
耳元に割り込んできたのは、同伴していた球団スタッフのひとり。
そのスタッフからの耳打ちされ、頷く。
「……
4位指名で、その選手の緊急獲得に乗り出した。
『神奈川ブルーホエール、4位指名。
先ほど耳に入れた情報的には、コントロールが壊滅的すぎるのが原因で敬遠されていたようだ。
最速158km/hの剛速球を誇る投手なのだが、ここでこの順位で獲得できたのは完全に予想外だった。
まあコントロールに関しては、今日指名したドラ2にどうにかしてもらうとしよう。
そろそろ選手枠の上限が近づいているため、神奈川はドラフト指名を以上とした。
指名した選手たちが来シーズン、どんな活躍をしてくれるのか楽しみで仕方ないが……。
パ・リーグのほうは、ひと波乱あるシーズンとなりそうだ。