「しかしいいんですか? 長月さん。一軍のリリーフ3枚放出して」
球団職員からふと疑問を問いかけられ、ふむと頷く。
「大丈夫。ウィリアムスも獲得できたし、今までの宮西、藤原に加えて新たに、いや今まで以上に戦力になってくれているじゃん」
「放出したリリーフは確かに能力面では少し不安がありましたが……。それでも阪神から故障明けの久保田を獲るのは大丈夫なのかと」
「うん、そこはどうにかなる。というかどうにかした。ひとまずはね」
我が神奈川は新たにふたりの戦力を獲得した。
オーストラリア出身の元メジャーリーガー、ジャフ・ウィリアムス。
史実では甲子園球場にてリリーフエース、そして勝ちパターンのJFK、そのJとして大活躍した助っ人外国人だ。
この世界ではいつの間にかメジャーリーガーになっていたし、しばらくは手出しができないと見ていたが、今季から登録枠と年齢の都合でマイナー降格したため、こうして来日してくれたわけだ。
もうひとりは阪神からトレードしてもらった、大卒4年目の
こちらも史実ではJFKの一角、Kとして中継ぎ登板しまくったタフネス右腕。シーズン90登板という記録は、史実においてとんでも記録として残っている。
だがこちらの世界では、まだ身体が馴染めていないうちに登板しまくったせいか、1年目から肩肘を壊し、その後はリハビリ含めて二軍調整だったようだ。
ウィリアムスは30代、久保田は故障明けという懸念点こそ残るが、それでも俺が知っている彼らなら、かなり投げてくれるはずだ。
……そう、斉藤は開幕戦を完封勝利し、その後も6月終盤までにチームトップの11勝をあげていた。
防御率も1点台で今年もセ・リーグを席巻かと見られていた矢先だった。
7月序盤での文売戦、相手エースの上原晃太との投げ合いのさなか、6回1点リードの場面で斉藤の右肩にライナー性の打球が直撃。
鈍い音もしたというので急いで医務室に運ばられると、その場で右肩の骨折と診断された。
全治3ヶ月。斉藤は歯を食いしばるしかなかったという。
その試合はウィリアムス、久保田、宮西、藤原の投手リレーで制したものの、斉藤の離脱は痛手すぎた。
今季も先発投手陣は7月までかなり奮戦してくれている。
特に意外だったのは、ルーキー藤浪晋二郎だ。
新たに正捕手となった伊東司と手が合うのか、MAX158Km/hの速球をズバンと内角ギリギリに投げ込むピッチングで、ここまで9勝をあげている。
……本人は速球をさらに伸ばしたがっていたが、嫌な予感しかしなかったため、投手コーチには「藤浪はカットボールだけ伸ばしてくれ」と伝えてある。
と、7月序盤までは投手陣が躍動する流れとなっている。
打線もバースを中心に爆発しているから、安定して勝ちを拾えている。
「突然すみません長月さん、少し、相談事がありましてね」
横浜スタジアムの練習場を視察中、声をかけてきたのは中監督だった。
困ったとばかりに眉をひそめているが、どうしたのだろう。
聞いてみて、中監督は言いづらそうに重々しく口を開く。
「実は稲尾が、緊急事態だからもっと投げさせろと……」
「おー……思いきるなぁ……」
まさかの稲尾からの申し出があったという。
確かに史実でも、稲尾という投手はチームや監督のために連投しまくったという逸話がある。
中3日でもなく、中1日でもなく、連日の登板。身体への負担は凄まじいものがある。
その結末が稲尾という野球選手のピリオドにも繋がってしまうのだが……。
「編成的に投手陣は揃ってます。松坂も和田も藤浪もいます。私としてはルーキーを使いまくるというのは……」
「…………いや、稲尾の登板間隔を少し詰めましょう」
「長月さん!? 正気ですか!?」
「稲尾には中4日、そのようなローテーションで先発させましょう。まだ1年目ですし」
「……わかりました。そのように提示しておきます」
安堵したような、困惑しているような、複雑な表情で中監督は頷く。
稲尾には申し訳ないが、今の神奈川は文売と3.0ゲーム差の1位。
ここでその差を縮められたりするわけにはいかないのだ。
斉藤の離脱は大きい。だがその穴を、あの〝鉄腕〟なら埋めてくれるはずだ。
ここで今さらなのですが、斉藤の元ネタの投手について書かせていただきます。
彼の元ネタとなる人物は、福岡に本拠地を置く球団で『負けないエース』と呼ばれた球団屈指のエースです。
そんな彼の投球を今さらながら映像で目にして、「ああ、こういった投手が出てくる作品を書きたい」と欲を出した結果が今作になります。
この作品ではそういった描写はありませんが、元ネタのエースは肩に爆弾を抱えていて、それが爆発し引退に追い込まれた、という人物です。
個人的な願望としては、彼がまたエースとして負けない姿を書きたい……そういう想いを抱いています。