弱小球団のGMになりまして   作:佐月檀

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開幕カードで絶望しても諦めない

 3月の最終盤。刻一刻と開幕戦を迎えつつある球団内には、重苦しい空気が漂っていた。

 普通の球団ならば、これが緊張だったりするのだろう。だが、うちは違う。

 絶望。弱すぎて勝てないという一種の諦めムードだ。

 開幕戦でガイアント相手は勝てっこない。そう思い込んでいるスタッフが大多数だろう。

 

「でも、助かりましたね。この2021年からセ・リーグにもDH制が導入されて」

 

「うん? どうして?」

 

「だってうち、ピッチャーが振るだけ振ってアウトになりまくりますもん。相手ピッチャーは投げても上手いし振っても上手いのに」

 

 やめてくれスタッフ、その言葉は俺に対してクリティカルすぎる。

 有望なピッチャーを編成できていない俺にも、間違いなく責任の一端はあるはずだ。

 

「まっ、ルーキーがひとり出場するようなんで、どこまでやれてるかだけ見ようかと」

 

「ああ、()ね」

 

「……というかあの監督、なんでドラ5を開幕スタメンに起用するんですかね……」

 

「すまん、それは俺だわ」

 

「えっ、長月さんが入れたんですか」

 

「うん、なんとかなるはず。たぶん」

 

 困惑がオフィス内に広まっていく中、テレビにはガイアントの本拠地、東京ドームが映し出される。

 ズームアップされている選手は、これからマウンドに上がるガイアントの開幕投手、左腕の内海宏斗(うつみひろと)

 対する真っ青なユニフォームに身を包んだ神奈川の選手も、トップバッターが打席に入る。

 

「あー……これはもうダメだ」

 

「だな……」

 

「ヒット出せれば御の字だ」

 

 次々と上がってくる諦観の声。

 どうせ勝てっこないという諦めが、オフィス内に蔓延していく。

 

 1番中堅手(センター)、内海の直球からのチェンジアップに対応できずあっという間に三球三振。

 2番一塁手(ファースト)、こちらも最後はフォークで三振。

 3番二塁手(セカンド)、これもチェンジアップに惑わされ三振に倒れ。

 

 あっという間に、神奈川の1回表の攻撃が終わってしまった。

 これから守備に入る選手たちも、心なしか肩を落としている者もいた。

 だが、自然とひとりの選手に視線が注がれる。

 冴えないサラリーマンのような、眼鏡をかけた選手。

 それに俺は、ひとつの希望を見出す。

 

 1回裏、ガイアントの攻撃。

 こちらの右腕が挨拶代わりのストレートを投じると。

 ライナー性の打球はレフトの方向へと飛んでいった――はずだった。

 

 気づけばその打球は、眼鏡の選手のグローブの中にすっぽり収まっていた。

 そう。今の強いライナーを捕球してしまったのだ。

 

「おいおい……嘘だろ!?」

 

 誰かがそう叫ぶ。

 当の眼鏡の選手――遊撃手(ショート)は何事もなかったかのように投手へ返球する。

 

「……なるほど、な」

 

 顎を撫でながら。

 ドラフト5位のショートに確信を抱く。

 ――この選手はやっぱり俺の知るあの選手(幕張の防波堤)だと。

 

 続く2番遊撃手(ショート)が打った打球は、こちらのピッチャーの股下をくぐり抜けてしまう。

 が、その先には誰よりも素早く反応したグローブが。

 グローブに収め、難なく一塁へ送球し、アウトにしてしまう。

 続く3番右翼手(ライト)の打球もピッチャー返しだったが、こちらも捕って一塁へ。ショートの守備だけでガイアントの1、2、3番を三者凡退に抑えてしまった。

 

「えっぐい守備だなぁ……」

 

 思わず、そんな声が聞こえてくるほどには。

 オフィス内の誰もが驚嘆していた。

 

「すみません長月さん、あの選手は……?」

 

「彼がドラ5なんて俺も信じられないから。……あの眼鏡の選手でしょ?」

 

「はい、名前は確か……」

 

 ――小坂優(こさかまさる)

 

 社会人野球から神奈川に入団した、その職人は。

 

「守備たまらん……」

 

 俺にそう言わしめるほど、守備が上手すぎた。

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