2回、3回、4回とイニングが過ぎていく中。
両チーム無得点のまま、試合は膠着しつつあった。
ヒット数はガイアントが5安打、こちらは小坂の弾き返したセンター返しの1安打だけ。
得点だけ見れば互角だが、ヒット数に目を向ければ勢いは一目瞭然だった。
ではなぜこんな膠着状態に陥りつつあるのかというと――
3回でワンアウト、一・二塁の大ピンチを迎えた際は、普通ならレフトへ突っ切っていく打球を変態的な速さで捕球し、二塁へトス。そのまま
そんな神がかったプレーには流石の相手ベンチも動揺したらしく、投手よりも
しかも打棒でも4回表にセンター返しで一度はガイアントのエース・内海を攻略している。そのあとに盗塁を決めノーアウトのまま二塁に進めたが、連続三振に倒れ、点にはならなかった。
打ち合いにも弱く、投げ合いにも弱く。
そんなチーム事情なため、投手は打たれ、打者は空振り。
それでもこんなに点が入らない。不思議なぐらい失点しない。
ショートのいる方向へのゴロやライナーが恐ろしいほどカットされているから。
こうもなると、守備の大切さを痛いほど実感してしまう。まさに神様仏様小坂様だ。
「これ、1点でも入れれたら神奈川、勝てるんじゃないんですか?」
オフィス内で。
スタッフの誰かのそのボヤきを皮切りに。
「間違いねぇ! 勝てる……! 勝てるんだ……!」
「開幕戦で静かに凍りつく神奈川はもういないんだ!」
「神奈川優勝! 神奈川優勝!」
次々とスタッフが立ち上がり、気づけば一種のお祭り騒ぎ。
「長月さん! 長月さーん! これ勝てますよね!? 一点でも入ったら! あの巨人軍団に!」
「よーし、みんな! 祈るよ! 神奈川必勝、神奈川優勝だァ!」
『お――――!』
まだ無得点。試合は6回、7回、8回を迎えてもなお、膠着したまま。
本当に勝てるのではないか。
ヒット数からは目を逸らしたくなるが、もしかしたらの一発もありえるこの展開。
本当にもしかしたら、もしかするのでは――
神奈川が先発を降板させ、リリーフへの継投に切り替えた直後だった。
喧騒は、ひと振りで霧散した。
神奈川の投手が投じた白球は。
高々と舞い踊り。
歓声とともに、ライトスタンドに消え去った。
ガイアントの4番による無情な一撃。
9回裏。ツーアウト、二・三塁。
神奈川の投手が膝から崩れ落ちる光景を、目の当たりにする。
中監督は口を開いたまま動けない様子で。
その場にいたナインの誰もが、呆然としていた。
――3-0のサヨナラ負け。
神奈川にとっては悪夢のような開幕戦となってしまった。
「……中さん、どうします?」
球団の面談室。俺と中監督は向かい合って、今後を見据えていた。
「サヨナラ負けの初戦含め、ガイアントとの開幕カードは3連敗。チーム内の雰囲気も……」
「…………」
そう告げられても、中監督は顎を擦るのみ。
なにかを考え込んでいるようだが、いったいどうするつもりだろうか。
「……予定より早いかもですが、もうこうなったら仕方ありません」
中監督は机から身を乗り出して。
「リリーフに今年のドラ4、入れましょう!」
「……ふむ?」
いきなりルーキーを一軍に昇格させようという提案だった。
そうすることで実戦経験を積ませ、一軍にも慣れさせ、少しでもチーム内の雰囲気を改善するつもりなのか。
だがひとつ、思い当たることがあった。
「あの
「なるほど。中継ぎにするのは俺も賛成です。……ところで小坂さんのほうは、どうでした?」
「……正直負け続きで申し訳ないと思えるぐらい、あれは大活躍してます。このまま一軍に定着させようかと」
そうなるな、という感想に尽きる。
だってあんな守備を何回も繰り返されたら、こっちもたまらん。小坂中毒になりそうなほどだ。
「……次こそ勝ちましょう!」
そう締めくくって、この対面を終えた。