新戦力を加えてみてもこれだ。というか初っ端から文売は無理だ。
いくら有望なルーキーといえど、そのひとりだけでは流石に無理がある。
結局、どこまでいっても野球はチームスポーツなのだ。総合力勝負だ。
そんな総合力を上げる方法がないかというと、
昨年末のドラフトは、
1位~5位まで、自分的には自信がある。
そのルーキーたちがどこまでやれるかは、あとはルーキー次第。
選手名鑑に目を通しながら頷く。
神奈川は今、プロ12球団の中でも最底辺に位置している。
そこから這い上がるためにも、興行として盛り上げるためにも。
――ルーキーたちには、ぜひとも、一軍に這い上がってきてほしい。
東京ドームでの開幕カード3連敗を経て。
次回の対戦カードとなる相手は東京エレクトロ。
昨季は怪我人が続出しまくり、勝負どころではなかったようだが、それでも我が極貧神奈川打線を打ち合いで完敗に追いやっている。
前年、セ・リーグでの順位は5位。しかし打ち合いになったが最後、大抵のチームは勝ちを奪われることが多い。
投げる、守る――それよりも、打って、打って、打ちまくる。
要するに、完全打撃重視の編成というわけだ。
しかも、だ。スタメンの中には
3番、絶好調時は『神様』とさえ呼ばれるであろう攻撃力を誇る高卒新人
4番、エレクトロが今季に獲得したというベネズエラ出身の
この二名はオープン戦でも開幕3連戦でも、ホームランを量産している。
特に三塁手――
そんな天才が組み込まれた超攻撃的打線と戦わなくてはならないのだ。
見渡してわかる。本拠地となる横浜スタジアムのスタンドからは、はっきりと。
「……諦めムードだな」
選手たちが最初から諦めてしまっては、もうどうにもならない。
確かにスタジアムの観客席は閑古鳥が鳴いているような有り様。ファンはいても3、4人ほどだ。
今日先発する神奈川の投手も死んだような顔して相手のバッターボックスを見つめている。
こうなると、大量失点かつ大敗は覚悟しないといけまい。また俺の首の皮も薄くなるが。
1番は運良くショートゴロ、2番は小坂の懸命なジャンピングキャッチでショートフライと、ここまでは順調。そう、順調なはずだ。だが次は――
『3番の村上宗満がバッターボックスに入ります。開幕戦では2打席連発、そのあと2戦もそれぞれ1本放っています。今日もその一発はあるのかどうか注目のルーキーです』
投手が完全に気圧されている。素人目からしても、恐らくわかるだろう。
――この打者には、確実に打たれる。
ならばと右腕から投じられたストレート。
その直球は内角低めに外れるような球だった。
いわゆる釣り球にしようとしたのだろう。
だが初球、難なく見逃してボール。
そう宣告された投手が構え直し、もう一度右腕から放つ。
今度はチェンジアップ。ストレートのような軌道から一気に減速する変化球をストライクゾーンに放られる――はずだった。
いつの間にか白球は舞い上がっていて。
試合開始早々、こちらの壁を一瞬でぶち破ってくるょうな一撃。
先制したのはやはり、東京エレクトロだった。
村上のホームランを皮切りに、4番一塁手からも一発、5番
しかもバックスクリーンに。本当に恐ろしい破壊力だ。
なんとか6番
エレクトロの先発にも手も足も出ずあっという間に三者凡退。攻撃時間、僅か6分だった。
2回表も7番
だがその次の9番
2回裏の神奈川は相変わらず三者凡退。出塁すらできていない。
ここまで来ると、もう頭を掻きむしりたくなってくる。
というか自分、すでに発狂してないだろうか。こんな極貧打線を目の当たりにして。
あちらの攻撃は痛いが、でもこちらの攻撃はちっとも通らない。
ファンなら間違いなく発狂しているだろう。本当に申し訳ない。
3回表には1、2番こそ凌いだが、またもや村上のホームランが飛び出し、どう見ても勢いはあちらのものだ。
4番は外野フライに抑えたものの、絶望的なことに変わりはない。
――4-0。3回時点でこれだと、大敗はほぼ明らかだ。
3回裏こそようやく8番遊撃手の小坂からセンター前ヒットが飛び出し、なんとか完全試合は免れるが、その後は続かず。
4回表は5番に四球、6番は小坂がショートゴロを捕り、ゲッツーに仕留める。7番は小坂がまたもやゴロアウトに終わらせる。
4回裏では三者三振。上位打線が完全に封じられてしまっている。
5回表の打順は8番から。……が、投手がマウンドへ行こうとしたところを、中監督が引き止めていた。
「……
これから起こる出来事はとうに見えている。
あとはそれがどう転がってくれるかだ。
『神奈川ブルーホエール、ピッチャーの交代をお知らせします』
スタンドが一気に静まり返る。
一瞬、静寂がこのスタジアムを支配する。
『背番号、25!』
背番号が告げられ、すらりとした体型の選手がマウンドに駆け寄る。
確かに4点ビハインドだが、この場を凌げるのはあの
次に叫ばれた、その名は。
『
神奈川ブルーホエール、2020年度ドラフト
それこそが、彼――宮西尚史だ。
ボールを受け取り、取り出し、見つめる。
その際、宮西の表情は確かに
「さて」
忙しなく手を机に打ちつけながら、バッターボックスに目を移す。
「これは打てるかな?」
どうしても、口角が上がらずにはいられなかった。