静まり返るスタジアム。マウンドから打席を見据えるは、今季初登板のリリーフ。
前のめりになり、捕手の動作のひとつひとつに頷く。
リリーフ――宮西はグラブにボールを握った手を押し込め、構える。
左腕を振るい、そして――横に薙ぐようにボールを放る。
左のサイドスロー。変則的な投手をここで投入したと見られるはずだ。
だがあの宮西はひと味もふた味も違う。
俺が知っている宮西ならば、この打席というかイニングは間違いなく。
打席に立つ8番打者を目の前に、宮西は挨拶だとばかりに内角高めに直球を投じ。
2球目、外角低めのストレート。
3球目、真ん中高めのボール球。
4球目、真ん中に来るような直球――に見えたがシュート方向に曲がりながら落ちるサークルチェンジ。これに速く振ってしまい、空振り三振。
「いい意味で神奈川らしくない、いい投手だなぁ……」
思わずそんな言葉を零すほどには。
確かにあの投手は、すでに俺の知る〝鉄腕〟の域にいるのかもしれない。
なればこそ、ここは期待できる。
「5回表、いけるな……」
確信。同時に、宮西の投じた一球が次の打者から三振を奪い取った。
続く2番もやすやすと空振り三振に討ち取り、この回を締めた。
が、5回ウラの神奈川の攻撃はまたも三者凡退。
ここまでとなると、得点はもう期待できないだろう。
6回表。東京の攻撃の前には、やはり宮西が回またぎで立ち塞がる。
しかしネクストバッターは今日の試合、2本のホームランを打っている絶好調の村上。
頼む、と専用席から手を合わせ拝むほかなかった。
1球目、内角低めストレート。村上がこれに反応するも空振り。
2球目、外角からやや外れたサークルチェンジを見送りボール。
3球目、インコースに高めのボール球を投じ。村上が振ってワンボール、ツーストライク。
そして――4球目。
投じられたのは、スライダーとカーブを合わせた変化球、いわゆるスラーブだった。
ストライクゾーンに入ったそれに標準を定め、村上はフルスイングし。
いきなりストライクゾーン斜め下に外れ、それを空振り。
村上から三振を奪ってみせた。
「よし! よし! おっけーい!」
続く4番の外国人一塁手――ペルジーニをショートフライに討ち取り。
5番をあっという間に三振させ、この回も無安打無失点で締めた。
だが問題はここからだ。
6回ウラ、神奈川の攻撃なのだが。
今もまだ4点ビハインドという状況な中、この打線でどうするか。
この回は8番の小坂から。また打ってくれることを願うしかない。
と、小坂がピッチャー返しで二遊間を抜き、一塁に。
今この場面で頼れるのは間違いなく小坂だろう。出塁すれば、盗塁も狙える。
その目論見通り、相手投手の2球目で小坂が一塁から二塁へ走っていく。
相手の捕手が投げたボールは小坂には追いつけず、盗塁はセーフ。
が、せっかくのチャンスだったのだが、9番打者が空振り三振に倒れてしまう。
「どうすんのこれぇ……」
なんとか、なんとか1点入れたい。
この場ではもう祈るしか。
ふとベンチに目をやると、ひとりの選手がバットを持って打席に立とうとしていた。
ここで代打か、と顎に手をやる。
どんな打者が出てくれるか。バックスクリーンを向いた瞬間、思わず口を開いてしまう。
『代わりまして、代打
そんな場内アナウンスが耳に入り、なおさら目を見開く。
まさか東京エレクトロにそのルーキーを当てるとは。
2020年度ドラフト3位。それで獲得したのが、高卒新人の山田卓人という選手だ。
山田はプロ入り初の打席に立ち、バットを構える。
二塁には小坂がいるチャンスの場面。ここはどう来るのか。
1球目、外角高めのボール球を見極めて。
2球目が投じられた瞬間。
白球は打ち返され、スタンドに運ばれていった。
ツーランホームラン。代打出場の山田は、最高の結果を出してくれた。
「しかし……エレクトロに山田当てるのって大丈夫なの……? ……まあいいか」
そんな自己完結をしながら、4-2というスコアボードを眺める。
ここから逆転か、という流れにはなっている。なっているのだが……。
続く2番、3番が凡退し、6回を締められた。
山田が二塁手用のグローブを持ち、二塁手として守備交代がアナウンスされる。
小坂と山田の二遊間。俺からしたら、眉唾ものだ。
7回表は投手交代……とはいかず宮西のまま。
このまま宮西で乗りきるつもりなのだろうか。
そんな俺の心配など知らんとばかりに、この回も三者凡退に抑え。
迎える7回ウラ。神奈川の攻撃だったが、ここはこちらも三者凡退。
8回表。宮西が額の汗を腕で拭う場面が散見され、やはり心配にはなる。
が、なんとか先頭打者から三振を奪い、あとのふたりも凡退させ。
しかし、ここらで宮西は限界だろう。8回ウラの三者凡退を眺めながら、誰を投入するのかと目を見張る。
9回表。東京エレクトロの攻撃。
『神奈川ブルーホエール、ピッチャーの交代をお伝えします。宮西に代わりまして――』
次に俺は目をぎょっとさせる。
『背番号22!
ビハインドの中登板したのが、まさかのドラ2だったからだ。
というか、いつの間に一軍に上げていたのか。
マウンドに上がった藤原が投球練習で投じたのはストレートのみだった。
しかし2点ビハインドで藤原か。意外すぎるというか、なんというか。
藤原は打席に立つ村上に対し、1球目ストレート、2球目ストレートでツーストライク。
そして3球目もストレートで村上を空振りさせ、三振に沈めた。
続くペルジーニと5番打者も全球ストレートで三振に切ってとり、あっという間に9回表を終えた。
というか、なぜこの場面で藤原を出したのだろうか……。
結果からいえば、試合は点差を詰められず敗戦となった。
宮西、山田、藤原……出せる切り札を全部出しても、勝てなかった。
しかし収穫はある。エレクトロとの3戦目。そこで斉藤がプロ初登板のつもりだ。
今季の初勝ち星は、もうそれしかないだろう。
だがその前に、収穫を活かさねばなるまい。
携帯を取り出し、中監督に要請する。
「すみません、長月です。ちょっとお願いが……」
――今季は1番に小坂、4番に山田でいきませんか。