弱小球団のGMになりまして   作:佐月檀

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チーム初白星は完封でお願いします

 東京エレクトロとの1戦目、その翌日の2戦目も落として。

 3戦目も負ければ、いよいよガイアントに続きまた3タテを喫するところなのだが。

 流石にそんなに負けさせてもらうわけにはいかない。こっちにも意地がある。

 

 横浜スタジアム。神奈川ブルーホエールの本拠地でプロ入り初登板となる投手がマウンドに上がる。

 斉藤克巳。先発ローテ6番手として今日まで温存してきたこのルーキーを今日、ようやく一軍でお披露目できる。

 本人の様子も落ち着いているようで、マウンドに上がっても緊張はなさそうだ。

 

 エレクトロの1番打者が打席に入り、マウンドを見つめる。

 バットを構え、獲物を狙うように。

 そんな視線を意にも介さず斉藤は直球を投じる。

 インハイギリギリに入ったそれに、打者が目を見開いているように見えた。

 続く2球目、インコース低めのストレート。これに振り遅れ、あっという間にツーストライクと追い込んでいる。

 ふとエレクトロのベンチを遠目に眺めれば、監督の目が泳いでいるような気がする。

 もしそうであるなら、この流れは貰ったようなもの。

 

 3球目、投げ下ろされたそれは、深く鋭く落ちるスプリットだった。

 堪らず反射的に振ってしまったのか、打者は呆気に取られたように口を開けていた。

 だが、そんなことなど気にかける素振りもなく、斉藤は次の打者に目を向ける。

 

 1球目は縦の軌道に曲がりながら落ちるドロップカーブ。

 しかしこの打者も反射的に反応してしまったのか、初球を叩いてしまい、ファーストゴロに。

 

「ここからだぞ、頼むよ」

 

 そんな呟きを零すも、正直そこまで心配していない。

 相手が村上だろうと、勢いそのままに投げ抜くだろうから。

 

 3番の村上が打席に入り、斉藤を注視する。

 どういうボールが来るのかを読みながらスイングするという算段だろう。

 斉藤が右腕を振り抜き、狙っていたかのように村上がフルスイングする。

 が、ボールはキャッチャーミットに収まっている。

 

「――――」

 

 村上が口を開く。なにかを呟いたようだが遠すぎてはっきりとは聞こえなかった。

 それでも構わず斉藤が2球目を投じると、またも村上はフルスイングするがこれも空振り。

 と、村上が額を拭う。そして頬を叩くと、バットを構え直す。

 

 斉藤が投じた3球目は、決め球らしきスプリット。

 村上は待ってましたとばかりにフルスイングしかけるが、落ちることに気がつきバットを寸止めする。

 が、それが回っていると見なされたようでストライクのコールが響き渡る。

 

 あっという間だった。

 あの村上が天を仰ぐしかないといったようだった。

 東京のベンチも流石にここまでの投手とは予想していなかったのか、監督が眉をひそめていた。

 

 

 

 1回表を無安打無失点で終え、1回ウラの神奈川の攻撃。

 先頭打者の小坂がいきなり三塁線を抜くライナーでツーベースヒットという最高の出だしを見せると。

 2、3番は空振り三振。

 しかし4番の二塁手(セカンド)、山田卓人が打席に立ち、初球からストレートを叩く。

 するとそれがピッチャーライナーとなり二遊間を抜くと、小坂は三塁を回り、一気にホームベースに生還。

 昨日までとは打って変わっての得点に、スタジアム内に悲鳴が響き渡る。

 悲鳴なのかと思ってしまったが、来てくれているのがほぼほぼエレクトロ目的だから仕方ないと割り切る。

 しかし相手も立て直して5番を空振り三振に仕留め、1回を終える。

 

「これ……いけるぞ!」

 

 俺がこんな叫びをあげている中、2回表、4番ペルジーニが斉藤から強烈な打球を放つが、残念そこは遊撃手(ショート)小坂がいる。

 ショートライナーに仕留めたあと、5番、6番も連続三振。

 エレクトロに攻撃らしい攻撃をさせず、2回表を締めた。

 しかし2回ウラ、こちらも三者凡退に倒れ、攻撃らしい攻撃はできなかった。

 

 

 

 投手の我慢比べになるかと予想しながら、腕を組む。

 すると、懐から携帯の着信音が。

 取り出し応答すると、その発信は球団スカウトからだった。

 

「うい、どした?」

 

 球団スカウトにそう投げかけると、彼は開口一番に「すみません」と謝ってくる。

 

「実は長月さんが目をつけてた大学生投手なんですが、もうすでにガイアントへの入団希望を出していたことが……」

 

「あー……うん。だろうね……。んで、他は?」

 

「あとは島根出身というよくわからん大学生投手と、横浜の弱小校でエースをしているという高校生投手もいたんですが……」

 

「あー……。いや、ちょっと待てって。ごめん、その人らの名前というか名字、名字覚えてる?」

 

「大学生の方は()()、高校生の方は()()といってたんですが……」

 

 沸騰しかける頭をよそに、すぐさま指示を飛ばす。

 

「すぐに交渉! 契約金とかその他もろもろ話しといて!」

 

「えっ、あっ、はいっ!」

 

 まさか俺が知っているビッグネームが飛び出すなんて思ってもいなかった。この好機を逃すわけにはいかない。

 

 

 

 と、目を離した隙に試合はすでに9回表。最終盤に差しかかっていた。

 スコアボードには1-0。斉藤がここまで抑えきってくれたのだろう。

 ツーアウト、ツーボール、ツーストライクの中、最後の打者となっていたのは、3番村上。

 スタジアムが静寂に包まれる中、斉藤が投じたのは、やはりスプリット。

 村上はそれを大胆に空振りし三振。これにてゲームセットだった。

 

 が、次に耳を疑うようなアナウンスが響く。

 

『斉藤克巳選手、ノーヒットノーラン達成です。勝利投手、斉藤。敗戦投手は――』

 

 えっ、と目を見開く。

 ルーキーが初登板でノーヒットノーラン?

 それゲーム? ゲームの世界かなここは?

 

 

 

 なんだか忙しくなりそうな気しかしなかった。

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