夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない   作:木暮鬼一

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およそ1週間強ぶりの更新になります。

仕事先の残業三昧、治療のため病院に通院する日々、あと話の執筆時間の確保等でなかなか更新出来ませんでしたが、次回は問題なく11月25日(月)午前0時に投稿されます。

来月は一度手術と健康診断が入る週がありますが、何も問題なければ話は更新出来るかもしれません。


余談ですが、作者の個人的な願望としてブルアカのASMRでミネ団長とナギサが実装されて欲しいです。
いや割と切実に……。




栢間エスミ 『少女は報復を誓う』

 

 

「私にお話があるとの事でお伺いしましたが、まさかトリニティで最も躍進されている芸術家のアトリエに足を運べるなんてとても光栄です」

 

 トリニティ総合学園から少し離れて、ティーパーティーの現ホストの座に居座っている高等部3年のツクスは今日、栢間エスミの誘いにより彼女の〝アトリエ〟にお邪魔していました。

 

 アトリエ、別名では工房と呼ばれるここはいわば芸術家による作業場であり、作品の保存や多種多様な画材を保管する倉庫の役割を担う場所でもあります。人によってはアトリエを第二の家として扱うものもいるため、芸術家にとってアトリエというのは非常に特別な意味を持つのです。

 

 しかし今年に入ってトリニティ総合学園に進級したエスミは、以前に比べてこのアトリエで制作を行うことは滅多に無くなり、予定では来年にこのアトリエを引き払うつもりでいます。そのため保管していた作品や画材等の多くは既に別の場所へと移され、今では必要最低限の物しか置いていないというなんとも寂れた姿と変わっていました。

 まあツクスからすれば『トリニティで最も有名な画家である栢間エスミの工房』という意味を持つこの場所に踏み入れただけでも感動的なようで、部屋の中心で静かにデッサンを行っているエスミをよそに終始興奮していました

 

「……普通の人なら、このような寂れたアトリエを目にして喜ぶことは無いと思いますが、ツクス様は少し変わった方ですね」

 

 窓際に置かれている石膏像(トリニティの過去の偉人らしき生徒を模した姿)を眺めながら、鉛筆を右手にそうロにするエスミ。それは呆れというよりかは、まるで同類を歓迎しているかのような雰囲気でした。

 

「しかし人目を避ける目的のためとはいえ、このような遠い場所に足を運んで頂きありがとうございます。周囲の方々の目を盗んで来られるのは大変だったかと……」

 

 キャンバスを立てかけているイーゼルにそっと鉛筆を置き、身体の向きをツクス方に動かして深々と頭を下げるエスミ。そのまま『ご苦労お掛けしました』と言葉を述べます。

 

「ふふっ、気になさらないでください。エスミさんが私の下に来るのではなく、わざわざご自身の下に呼んだという事はそれだけ私が貴女に信用されているという事の証です。心配はなさらなくとも、尾行はされておりませんのでご安心を」

 

 近くに置いてあった木製椅子をエスミの傍まで持ってきて、そのまま硬い椅子へと腰掛けたツクス。そして足を組んだ彼女は文字通りリラックスした様子でエスミに視線を向けました。

 

「では本題に入りましょう。学園から私を遠ざけたほどですから、かなり重要なお話をされるおつもりでは? それも、ティーパーティーに関することについて」

「……既に察しておいででしたか」

「これでもティーパーティーの代表の1人を務めている者ですから。それに学園内ではなく、その外での密会となれば自ずと予想はつきます。学園内ではティーパーティーの三大派閥の目が常に光っていますので……それこそ自身らの分派代表が相手であろうと構うことはなく」

 

 彼女の言う通り、いくらティーパーティーの代表を務めている者であっても完全に視界を遮り、かつ音を遮断できる場所を手配することは事実上不可能であり、またそのような都合の良い場所はトリニティ総合学園に存在しません。もちろんよく探せば1つや2つ、それに適した場所を見つける事は可能でしょう。

 しかしその場所に向かう道中の姿を見られてしまっては意味がありません。故に監視の目を掻い潜るという意味では学園の外の方が遥かに有利であり、エスミもそれをよく分かった上でわざわざ自身のアトリエに彼女を招待したのでした。

 

「本題に入る前に1つツクス様にご忠告があります」

「内容について察しはつきますが、お聞きしましょう」

 

 さて背筋を伸ばし、目の前にいる人物が事実上トリニティの頂点に居座る者であると脳で理解しながら、エスミは真剣な表情で口を開きます。

 

「私は知っての通り、どのような派閥にも属さず贔屓にすることもなく、常に中立の立場に固執する頑固な絵描きです。正直、ティーパーティーそれぞれの分派の思惑や野望については知ったことではありませんし、興味もありません」

「ええ、エスミさんのような政治に無関心である生徒からすれば、それは当たり前の感情でしょう」

「……しかし私は画家です。美術が好きです。愛しています。このトリニティ自治区ではもちろん、キヴォトス全土においても一番を自称するほどには美術という分野に心を奪われている生徒です」

 

 彼女は自身の胸に手を当てて少しずつツクスの方へ前のめりになっていきます。その間、ツクスは一切微動だにせず、ただ間近に迫るエスミの顔をじっと見つめました。

 

「そんな狂った愛を美術に注いで生きている私が最も許せないのは〝美術〟を汚すことです。美術という存在に対する敬意に欠け、己の野望と目的のための足場にするような扱いを私は受け入れることはしません。例えそれが無関心を貫く派閥が相手だとしても、私は怒りを覚えることでしょう」

「……」

「ツクス様……貴女の所属されているサンクトゥス分派は、まさに私の怒りを買いました」

 

 美しく綺麗な顔立ちの者が怒りと憎悪をその顔に浮かべても、やはり神が作り上げた彫刻のように美しいものだな。とエスミの表情を見つめながらツクスは感じました。

 文字通り〝憤怒〟という言葉が似合うほどに心の奥底から感情を露わにしている1年の生徒を眺め、ツクスは手を組みます。

 

「サンクトゥス分派が何か失礼な事でも?」

「……美術部のことです。先月、私はツクス様との約束通り美術部に体験入部させて頂きましたが、部員の大多数がサンクトゥス分派の生徒で構成されている以上、私はこの部がよくある文科系の美術部とは何かが違うと怪しんでいました。正直なところそれを確かめる目的があって体験入部の話を受け入れたとも言えます」

「確かにサンクトゥス分派の生徒が多く部の大半を占めているのは事実です。周囲から怪しまれるのも当然ですが、憶測だけなら何とでも言える話ではありませんか? 何か証拠でも掴まれたのでしょうか」

「ええ、勿論です」

 

 するとエスミは傍に置いてあった鞄から絵具のチューブを何個か取り出します。

 

「これは美術部から無断で拝借してきた絵具になります。張られているラベルはこのトリニティ自治区に本社を構えている画材メーカーのもので、トリニティに住んでいる以上はどの画家も使用した経験のある画材の1つです。ただしこの絵具、私がよく知るメーカーの絵具にしては特色が全く違います」

「おや、特色ですか」

「そうです。美術に精通されているツクス様はご存知かもしれませんが、絵具というのはメーカーによって特色が全く違います。原材料や使用における光具合、塗りやすさや乾燥性など、他社との違いを明確にすることで特別さを強調し売り上げを伸ばすのが普通です。当然トリニティの歴史の古いメーカーが生み出す絵具にもその特色は存在し、中でも絵具の色の濃さを売りにしていました」

「ふむ……しかしエスミさんの手にある絵具は、そのメーカーのものでは無いと?」

「そういう事になります。私が持っているこの絵具、試しに使用してみたところ色は薄く透明感がありました。このような特色を持つ絵具はキヴォトス全土で探せば両手でも足りないほど存在しますが、偶然にも私はこの特色と合致するメーカーに1つ心当たりがあり、個人的な頼みで調べて頂いたところ驚く事にそのメーカーが生み出している絵具と同一であると判明しました」

 

 エスミは手に持っている絵具をイーゼルに置いて、今度は別の絵具を鞄から取り出しました。

 

「こちらがそのメーカーが生み出している絵具になります。チューブの形と大きさが似ているため、恐らくラベルだけを張り替えて美術部で使用していたのでしょう。ただし形と形状が似ているとはいえ、トリニティのメーカーが販売しているのは一般向けの絵具。逆にこちらのメーカーが販売している絵具はプロ向けです。値段もトリニティのメーカーに比べてほぼ倍の高さであり、まず正規のルートで仕入れたとは到底思えません」

「つまりエスミさんの考えでは、美術部は違法な手段でそのプロ向けの絵具を取り寄せ、しかも周囲の目を誤魔化すためにラベルをトリニティのメーカーのラベルに張り替えたという事でしょうか?」

 

 もしそれが事実であれば立派な犯罪行為であり、その違法な手段で取り寄せられた絵具メーカーは売り上げに大きく響く事となります。まず間違いなく揉め事へと発展します。

 

「はい。美術部が使用している絵具は全て一般向けものばかりで、いくら部活動の為とはいえ値段が倍高いプロ向けの絵具をそう簡単に調達できるとは思えません。また生徒個人で購入するにしてはメーカーがこの絵具を販売しているのは本社のみで……その本社を構えている自治区が現状は危険極まりない場所である事からまずあり得ない話です。とすれば、正規ではなく違法な手段で取り寄せたとしか考えられません」

「しかし違法な手段を用いてでもその絵具を欲しがっていた理由は何でしょうか? 美術部の事ですから恐らく作品の質を上げるために手に入れたと考えるのが妥当かもしれませんが」

「普通ならそう考える所ですが、ここでこの絵具を生産している自治区が大きく関係しています」

「そういえば肝心の生産地についてお聞きしていませんでした。一体どこの自治区で作られた絵具なのでしょうか?」

 

 既に分かっているくせに、と内心では思いながらもエスミは答え合わせをするかのように口を開きます。

 

「ゲヘナ自治区です。この絵具の生産を行っているメーカーはゲヘナ自治区に本社を構えています。先月、私が欠席をしてまでしてゲヘナに伺ったのは、他でもないこのメーカーとの商談のためです」

「そうでしたか。確かに私はエスミさんがゲヘナに行かれるとすれば〝画材〟に関する事であると予想していましたが、それがまさか美術部が違法に取り寄せている絵具のメーカーであるとは思いませんでした」

「……」

「おや、信じてもらえないようですね」

 

 不敵に笑みを浮かべるツクスに対し、特に何のアクションも返すことはせずエスミは会話を続けます。

 

「話を戻します。この絵具はゲヘナ自治区のみで生産されているモノとなりますが、それがトリニティ総合学園との間で正式な手続きも行われず美術部が違法で取り寄せていると知られれば、まず間違いなく双方の関係に傷が生じます……聞く話によればツクス様が現在のホストを退かれた際、次のホストに就任されるのは、確かフィリウス分派の代表様だったかと」

 

 確認を取るようにして尋ねてみると、すんなりとツクスは頷きます。

 

「よくご存じですね、ええその通りです。私が退いたあとのホストは事前に決めたとおりフィリウス分派の方が就任されます。彼女はゲヘナとの関係修復を強く望まれている方ですので、ホストに就任した際はそちらの政策に大きく舵を傾ける事でしょう。しかし、もしこの件が公になれば彼女の夢の実現は遠のく事になり、大きな影を落とすことになります」

「それがサンクトゥス分派の狙いでしょう。元々、フィリウス分派はゲヘナに対して友好的な派閥ですし、敵対する派閥への嫌がらせとしては十分すぎる行為です。大方予想がつくのは、フィリウス分派の方がホストに就任されてしばらくした後に、わざとこの違法に入手した絵具を世間に公表すると言った所でしょうか……勿論、美術部も無事では済みません。サンクトゥス分派は上手いこと隠蔽を図ることかもしれませんが、違法で画材を取り寄せたという犯罪行為そのものは美術部から消える事は決してなく、常に悪評が付きまとうことになるでしょう……本当。腹立たしいことですが……」

「ああ……なるほど。エスミさんが腹の底からお怒りなのは、我々サンクトゥス分派が美術部を捨て駒同然の扱いをしているからでしたか」

 

 納得がいったと大きく頷きながらツクスは満面の笑みを浮かべますが、エスミは『当たり前だろ』というメッセージを込めて彼女を睨みました。

 

「サンクトゥス分派が私の怒りを買ったという言葉の意味、ようやくご理解いただけましたか?」

「勿論です。確かに美術をこよなく愛するエスミさんにとって、画材を違法で入手するという犯罪行為に平然と手を染めただけでなく、美術を学び昇華していく場である美術部そのものを敵対派閥の嫌がらせの為だけに、身代わりよろしく悪評で汚すというのは耐えられない話でしょう。心中お察し致します。この件を公表されるのは明日あたりでしょうか?」

「……私が、ただ悪事の暴露だけで事を済ませるつもりだと、本当にお思いですか?」

 

 その言葉を聞き、ツクスは『おやおや……』と困った声をあげながら真顔で首を小さく傾けます。

 

「もしやエスミさん。我々サンクトゥス分派に対し、報復に出るおつもりですね」

 

 正気か?

 ツクスは鋭い視線を彼女に向けますが、エスミは動じることもなく返事を返しました。

 

「ええ、正にその通りです」

「ふむ……お分かりだと思いますが、貴女の目の前にいるのはその憎悪の対象であるサンクトゥス分派の代表です。トリニティをより良い道へ導こうとする生徒会長の1人ではありますが、同じくティーパーティーを根本から支えている強大な派閥の頂点に居座る者です。その者を相手に派閥への糾弾と報復の宣言とは、悪い言い方をさせてもらうなら愚か者の行動ですよ?」

 

 派閥の頂点に君臨するということは、その人物がいかに派閥に貢献し、かつ忠義を捧げ、周囲からの人望があるかを意味しています。

 当然、ツクスは長いことサンクトゥス分派に対して尽くしてきた貢献者であり、今もなお分派に対する忠義は全く消えていません。パテル分派、フィリウス分派相手の政治戦争を幾度も経験してきた歴戦の猛者なのです。

 

 エスミが口にした言葉の数々はそんなツクスに対する事実上の宣戦布告であり、サンクトゥス分派の敵として今ここで処されたとしても何も文句は言えません。退学処分という形で学園を追放される事すらあり得るでしょう。

 しかし、何もただ頭に血が上ったからこのような行動を取った訳ではないようで、エスミは楽しそうに微笑しました。

 

「愚か者の行動であるのは承知しています。ただ、私のことを一方的に『友』として接して来る厄介な知人に背中を強く押されたもので」

「おや、興味深い話ですね。その知人は何と?」

「好きなものが汚されそうになったら全力で守る……でなければ、今まで好きでいた事に対する裏切りだと……例え関わりたくない世界に足を踏み入れるとしても、知人は好きなものの為なら行動に出る、そう強い意志を私に見せてくれました」

 

 脳裏にチラつくのは、天真爛漫であどけない笑みをよく浮かべているピンク髪の少女。よもや自分がああして他人に甘えるとは思っていなかったものの、おかげで覚悟が付いたのは事実です。

 美術を愛し続け、その想いを引き継いで転生しただけではなく、夢見ていた画家にもなれたエスミ。

 

 そんな自分がここに来て、関わりたくないからと美術が汚されることに目を瞑るのは……あまりにも失礼です。

 

 実際のところ、違法取引で絵具を入手したからといって、それが外交に大きな問題を及ぼすとは到底考えられません。世間一般的によくある犯罪の大きさや妨害工作に比べれば、今回のサンクトゥス分派が犯している罪は本来の政治的紛争と比較しても全然生易しいとすら言えます。

 

 しかし今回の件を見逃したとして、これ幸いと同じ手で美術部はもちろん美術そのものを悪用する者は必ず現れる事でしょう。それは来年の話かもしれませんし、エスミが卒業した後の話かもしれません。実例を作るというのはそう言うことなのです。

 

 とはいえ芸術そのものを政治利用するというのはエスミの前世でも歴史上実際に起きていた事です。アメリカが冷戦時代に特定の芸術家を極秘に支援してソ連や共産主義に対抗して芸術作品による宣伝戦を行ったという事例があったように、どんな時代でも異世界でも芸術と政治は必ず絡み合う定めにあり、利用し利用される関係性なのです。美術もとい芸術を深く愛しているエスミも、その点は渋々ながら納得しこれまで受け入れてきました。

 

 しかし政治利用するなら、それ相応の扱いをするべきでしょう。今回のような扱いは美術もとい芸術に対する冒涜以外の何物でもありません。

 

「ツクス様、私は本気です。こうして貴女を私のテリトリーであるアトリエに呼んだのは、何も学園の目を避けるためだけではありません。これは意思表示です。美術に向き合ってきた私が、その美術に対する愛のためなら喜んで犠牲になるという覚悟をこのアトリエで示したかったのです」

 

 彼女は自身の右腰のホルスターに収めている“炎の人“のグリップに右手を伸ばすと、抜くことはなくただ静かに触れました。

 

「私の本気を、信じて頂けますか?」

「仮にその本気を信じるとして、エスミさんお一人で何が出来るのでしょうか」

「ご安心を。こう見えて、頼れる存在が私にはいるので」

 

 自信たっぷりにそう発言したエスミを見つめながら、ツクスは『やれやれ』といった様子で肩をすくめました。

 

「分かりました。後悔のないように、お好きになさってください」

 

 今後の展開を楽しみにしている観客のような笑みを浮かべ、ツクスはそう口にするのでした。

 

 

 

《1ー2》

 

 

 

「私って、もしかしてエスミに面倒ごとを解決する〝便利屋〟だと思われてる?」

「……そんなことは無い……けど」

「思ってるよね?」

「ごめん。私の知り合いの中だと、最も頼れるのが君しかいなくて……つい」

「はぁ……なら良いけど」

 

 不服そうな気持を言葉に乗せつつ、続けて『仕方ないか』と納得したような様子で栢間エスミによる『頼れる存在』こと、鬼方カヨコは肩をすくめました。

 さておよそ一か月ぶりの再会となる彼女たちは現在、エスミが以前訪れたゲへナの画材メーカーの物資倉庫に集まっており、トリニティで起きた派閥問題についてエスミがあらかたカヨコに説明し終えたところになります。

 

 ちなみに『何も聞かずに私に協力しろ』などという他人の自治区に足を踏み入れておいて更なる傲慢な態度をあのエスミが取れる訳がなく、自身がトリニティ総合学園の生徒であり、かつ以前は頑として教えなかった本名もカヨコには全て伝えたうえで協力をお願いしました。

 

 そのため以前までは頑として教えてもらえなかった本名を(成り行きはともかく)知ることが出来たので、カヨコは何度も何度も『栢間エスミ』と彼女の名前を呼んでは『素敵な名前だね』と褒めてくるのでした。

 

 まるで普段から可愛がっている野良の動物の名前をようやく知れた事で、その名を呼んで相手が反応するのを楽しんでいるように見えます……決してエスミは野良の動物なんかではありませんが。

 というより、今もエスミの顔を眺めながら名前を呼んできているではありませんか。返事を返すのも面倒になって無視を貫くエスミですが、いかんせんこう…………カヨコの声が良すぎて変な気分になりそうです! ! 恐るべしCV藤井ゆきよ! !

 

 まあ冗談はさておき、短い時間で名前を何度も呼ばれるという経験はほぼ皆無に近いのでエスミは片手をあげてギブアップの意思をカヨコに見せました。

 

「……鬼方。流石にそう何度も名前で呼ばれると恥ずかしいから、前みたいに美術バカって呼んでくれない?」

「いや呼ばないから。流石に人前で言えないでしょ、あの呼び名。周りに変な誤解をされるよ?」

 

 ぐうの音も出ない正論ですね、はい。

 

 ところで眉をひそめて拒絶した彼女でしたが、おもむろにスカートのポケットに手を突っ込んで『それで?』と首を傾げながら言葉を続けました。

 ふむ、どうやらエスミへの戯れモードは一旦抑えて仕事モードに切り替えたようです。目つきがガラリと変わっています。

 それを察したエスミもわざとらしく咳払いをして背筋を伸ばすと、彼女に言葉の先を促しました。

 

「美術の為とは言っても、問題を解決しに来たエスミはこのゲへナ自治区で何をするつもりなの? 色々とそっちの問題について説明は一通り聞いたけど、実際のところ違法で取り寄せた絵具はそっちの学園が保管しているわけだし、その絵具の提供場所さえ抑えれば問題は解決しそうだけど?」

 

 まだ季節的には肌に少々厳しい冷たい風が吹くこの時期。

 時々吹いてくる冷たい風からエスミを守るようにして、カヨコは彼女の隣にピタリと並び立ちます。そのさり気ない気遣いに心から感謝しながらエスミは説明を始めました。

 

「その肝心の提供場所が不明なんだよね。思い付く場所を手当たり次第探すのは時間が掛かるし、正義実現委員会はティーパーティーのお抱え組織だから頼るのはほぼ不可能。だから〝実行犯〟から抑えようと思って」

「実行犯?」

「そう。美術部、というよりサンクトゥス分派は違法でゲへナ製の絵具を取り寄せているけど、盗んでいる訳じゃないからね。実際に商品を盗むか手に入れる実行犯が別にいるはずだから、まずはそれを叩く……というより徹底的に潰す」

「なるほどね。そういえばゲヘナの画材メーカーはここ最近、積み荷のトラックが襲撃されてるって聞いたけど?」

 

 以前エスミが商談に伺った際、店員から伝えられた情報のことです。

 

 結局あの日以降も何度か襲撃は受けているようで、会社としては対策が底を尽きかけて困っていた為、こうして今日運搬する予定のトラックを護衛する目的でエスミはカヨコと共にこの倉庫に来ているのでした。

 

「もしその襲撃犯がサンクトゥス分派と繋がりがあるなら、強奪した画材を一度偽装のために何処かへ運ぶはず。結果的にサンクトゥス分派を痛い目に合わせることが出来れば僥倖かな」

「今更だけど、エスミはサンクトゥス分派のトップに堂々と宣戦布告をしといて向こうが妨害のために何かしてくるとは思わないの?」

 

 カヨコが疑問に思うのは当然であり、普通なら何かしら妨害の手が及んでくるはずです。

 こうして問題解決のためにゲへナ自治区に立ち入っているエスミに対し、何かしら理由を付けて引き戻す事だって可能でしょう。もしくは襲撃犯に情報を与えて計画を変更したり、何なら拠点を移すことだって出来ます。

 

「心配はいらないよ。今回のサンクトゥス分派の件にあの人は全く関わっていないからね」

 

 しかし心配無用とエスミはあっさりと断言しました。

 

「関わってないって……所属している分派なのに?」

「勿論。もし本当に私を妨害するつもりなら、新入生となったあの日にプロの画家になっている私をわざわざ美術部に〝勧誘〟するとは思えないからね。画家として活動していれば画材の見分け方は何となく分かるし、問題になっている絵具を販売している画材メーカーに会いにゲへナに行くことを本人に伝えた時も意外にもあの人は乗り気だったから……たぶんあれはサンクトゥス分派の暴走を私に止めて欲しいんだと思う。そもそも宣戦布告したとき目キラキラ輝かせてたし、あれはどう見ても私が行動を起こすのを待ち望んでいた気がする……」

「でもそれってつまり、自分が率いてる組織の手綱をちゃんと握れてないって事じゃないの? トリニティの生徒会長なんだよねその人? それで学園の運営ちゃんとやれてるのか心配になるんだけど」

「まあ…………トリニティって、トップの意思とか関係なく勝手に暴走する派閥多いから……」

「何それ、魔境じゃん……」

 

 原作のエデン条約編の時もそうです。各派閥のトップが所在不明なのを理由にパテル派が勝手に実権を握ろうとしてほぼ反乱に近い行動を取りましたし、意外と派閥の末端同士で決闘騒ぎを起こしているのも珍しくありません。

 エスミを良いように利用しているあの中身が読めないツクスでさえ対応に困るほど、今のサンクトゥス分派の暴走っぷりはヤバいのでしょう。

 

 ちなみにカヨコには既に説明した話ですが、ゲヘナに友好的なフィリウス分派とは違ってゲヘナをことごとく嫌うパテル分派は今回の一件には絡んでいないとエスミは判断しています。

 

 そもそもゲヘナを嫌う分派が好き好んでゲヘナ製品を取り扱うとは思えませんし、仮にパテル分派が絡んでいればこの件はかなり大事になっていたはずです。原作ではちょっと交流しただけでバトルが始まりそうになるほど険悪だった派閥ですし、何か取り返しのつかない大事を起こして外部のお世話になるのが目に見えます。

 

 何しろこの時代、まだ連邦生徒会の権力は健在ですし、学園間の紛争に発展すれば躊躇うことなく介入してくるでしょう。

 

 そんな事態にならないようにエスミもこのゲヘナ自治区での立ち回りはなるべく気を付けるつもりです。

 

「改めて言うけど今回はよろしく鬼方。実を言うと私、誰かとバディを組むのは今回が初めてなんだよね。おめでとう、君は記念すべき私のバディ1号だよ」

「はぁ、トリニティの生徒とゲヘナの生徒がバディを組むって、割と大事な気がするんだけど……」

「いわゆる〝呉越同舟〟という訳だね」

「いや、私達って別に全然仲は悪くないけど?」

「ふふっ、分かってるよ。私、君のことは心の底から好きだから」

「っ……よく恥ずかしがらずに言えるね、それ……嬉しいけど」

 

 さり気無く好意を伝えられ、その影響からかうっすらと頬を赤く染めるカヨコ。しかしそんな彼女に顔を向けることは無く、エスミは小さな声でこう呟きました。

 

「……好きだよ。ブルーアーカイブの世界で生きる全てのキャラが……私は心から好きなんだ……」

 

 まるで自分自身に言い聞かせるようにして呟かれたその小さな言葉は、エスミの耳にしか届きませんでした。

 

 

 






栢間エスミの秘密・9


・こう見えてバディ(相棒)というものに強い憧れを持っている。
あまりブルアカキャラと関わらないようにしようと懸命に欲望を抑えているが、割と美術関係でトラブルが起きた時はあっさりとその欲望を解放するし、何ならウキウキで組みたがる。

ちなみに知っての通り相棒1号はカヨコだが、後に相棒2号となるロールケーキ好きの人物は1号の存在を知らなかったので『私がエスミさんの初めての相棒ですね!!』と物凄く喜んだ模様。
エスミはそんな相棒2号の喜ぶ様を見て罪悪感から真実が言えず、後にトラブルが起きるのだが……それは後の話である。

もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)

  • 拳銃(M1911,グロック等)
  • リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
  • 自動小銃(HK416、AK-47等)
  • 短機関銃(M1921、MP5等)
  • 小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
  • 散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
  • 機関銃(MG42、M249等)
  • 対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
  • 擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
  • 素手
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