夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない 作:木暮鬼一
これにて栢間エスミ高等部1年生編は終了です。
最後の話である今回は文字数1万7千超えとなっているため、誤字脱字の確認はしていますが抜けがあるかもしれません。
いつも誤字脱字チェックをしてくださってありがとうございます。
合わせて感想もありがとうございます。毎度励みになります。
次回は主人公の独白タイム予定です。
トリニティ自治区の某所にて本日、栢間エスミの個展が開かれていました。
およそ300人は簡単に収容できる会場を貸し切りにし、エスミが画家として活動を始めてから今日に至るまでに制作してきた作品のおよそ50点が展示されています。
キャンバスのサイズは大小様々で特にテーマなども決めていない自由な個展ですが、来場者のほとんどは彼女の顧客か噂を聞きつけてやってきたファンばかりで、芸術に熱心で寛大な自治区という事もあり初日の昼時点で既に数百人が来場しているなど大盛況でした。
元々彼女の知名度が高いとはいえ、個展でここまで多くの人を招くことが出来るのは人気者の証と言えるでしょう。
とはいえ今回は作品の鑑賞だけに留めた展示のため、絵の購入を巡る商談は一切禁止となっており、あまり会場に長居せず作品を鑑賞して満足するとそのまま立ち去る人がほとんどです。
「おお栢間様。お会いできて光栄です‼」
「これはこれは、お久しぶりです栢間さん。いやぁ以前にも増してお綺麗ですなあ」
「エスミ様、貴女のファンです‼ あの、サインを頂けませんか!?」
「栢間さん是非とも今回の大盛況な展示に関してご感想を!!」
ですがこの場に展示されている作品を生み出した創造主こと、栢間エスミ本人が姿を現すとそうはいきません。
美しく整った容姿に数多の作品を生み出してきたその実力を胸に堂々とした立ち振る舞い。加えてトリニティ総合学園に通う生徒という事もあり、未来有望な彼女と交流を深めたい者達であっという間に人だかりが生まれるのでした。
元よりエスミが参加するギャラリートークがこの後に控えているとはいえ、やはり本人を前にして早くも声を掛けたいと気持ちがはやるのでしょう。面識のある顧客に富裕層、サインをねだる熱いファンに取材メディアなど集まってくる人の種類は様々です。
ひとまず時間は限られているため、エスミはよく絵画を購入してくれている顧客との交流を最優先にすると、あとは臨時で雇ったスタッフや画商の手で丁寧に人払いをしてもらいました。
「皆さん。本日は私の個展にお越しいただきありがとうございます。ご覧の通り多くの方々に足を運んで頂いて感謝に堪えません。小規模の個展はこれまで何度か開催してきましたが、今回のような大規模は初めてだったので」
頭を下げて感謝の言葉を述べ、しばらくエスミは顧客たちとの会話を楽しみます。
今回は絵の購入を含めた商談等はNGなので主に作品制作に関する小話や秘話などで話題を盛り上げ、今後の展望や描く予定のテーマについてエスミは彼らと言葉を交わしました。
やがて立ち話として20分……いえ30分ほどが経過した頃、とある人物の来訪を目にしたエスミは『申し訳ありません。ここで失礼させて頂きます』と断りを入れると、そのまま移動を開始しました。
「ツクス様。本日はお越し頂き誠にありがとうございます」
軽く頭を下げてエスミが声を掛けた相手は、彼女が在籍しているトリニティ総合学園ティーパーティーの〝元〟ホストにしてサンクトゥス分派代表の生徒会長、ツクスでした。
彼女もまたエスミの作品を購入して頂いている立派な顧客の1人であり、かつ彼女の大ファンを自称する者になります。本日はエスミからの招待を受けて個展に足を運んでくれたようでした。
「ごきげんよう、エスミさん。他の方々とお話し中だったようですが、私の下に来て宜しかったのでしょうか?」
「お気遣いありがとうございます。ですがもう既に数十分は話し込んでいたので問題はありません。むしろ私はツクス様の来訪を心よりお待ちしていました」
「おや、かの高名なエスミさんを長いこと待たせてしまうなんて。時間を取らせてしまい申し訳ありません」
「いえツクス様のご事情があることですし、何より私の方から個展に来られる時間の指定はしていませんでしたので気になさらないでください」
「そうですか。では……お互いに落ち着ける所でお話しましょう」
ニッコリと微笑むツクスに対し、エスミはあくまでも営業スマイルで反応を返すと彼女を連れてギャラリーの一角に移動しました。道中、道すがら出会う人々に軽い会釈と挨拶を繰り返しながら2人はとある1枚の絵画の下に辿り着きます。
それはP50号( 1167mm×807mm)のキャンバスに描かれた油彩画でした。
色鮮やかな配色と強弱のついた明暗が目立ち、この作品のイメージを一言で表すなら『暖かい』に尽きます。ちなみに〝P〟とは風景型を意味しており、一応このキャンバスには人物も少なからず描かれているものの、全体図としてはどこかの自治区の日常を描いた風景画となっています。
とはいえ実際の風景をそのまま再現(いわゆる写実主義もしくは自然主義)した訳では無く、あくまでも実在する街をモデルに空想(フランドル派)として描いた作品のようで、それこそこの作品のイメージを『暖かい』と称したように太陽光や影の明暗もさることながら全体の色合いがともかく鮮やかでした。
故に人物や建物等がかなり細かく描かれている分、まるで撮った写真をそのまま暖色系に加工したかのように見えるため、このような作品も生み出せるのかとツクスはつい感嘆の溜息を吐きました。
「これは……とても素晴らしい作品です。空想と現実が入り混じった風景画の作品を直接目にすることは少なく、少々驚いてしまいました」
「風景そのものは実在の自治区を少し参考にしましたが、明暗や色に関しては屋内のアトリエで制作したので、このような現実離れした独特の表現方法に繋がったと思っています。トリニティ自治区は主に宗教画や歴史画をメインに扱っていますが風景画となるとそう数は多くありません。ツクス様があまり見慣れないのも当然かと」
「まさかエスミさんはこのような画法もお得意だったとは。増々ファンになってしまいますね」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。制作には3週間ほど掛かりましたが、この個展で展示されている作品の中では唯一の最新作になります。意外と他の方々からも好評で嬉しい限りです」
画廊ではよく一般的に目にするP50号サイズとはいえ、長身のツクスはともかく150センチ代のエスミからすれば床に置いても胸元の高さまである大きなキャンバスです。デッサンをしながら構図や細部を調整し、そこから絵具による色付けをしていく工程を考えれば、あまりにもキャンバスが大きくかつ絵の繊細さが求められる事でしょう。
それを学園に通う生徒という身でありながら、今日の個展に間に合わせ3週間で仕上げるとは……やはりエスミの作品を仕上げる速さは中々に異常です。
彼女の歳で利き腕が悲鳴を上げるのも無理はないと、この時ツクスは静かにエスミの右腕に視線を送りました。
「……いつの日か、エスミさんがキヴォトスを代表する画家になられるのが楽しみです」
その言葉にエスミは小さく肩をすくめます。
「果たしてその日が来るでしょうか。キヴォトスにはワイルドハント芸術学院といった芸術に特化した学園もありますし、他の自治区に目を向ければ私のような画家はそう珍しくはありません。正直なところ、10本の指に入ることが出来れば御の字です」
「私としては、10本はおろか3本の指に入るほどの才能と実力の持ち主であると受け止めています」
「……随分と私を買って頂けるんですね」
「おや、お忘れですか? 私は貴女の大ファンを自称するしがないトリニティ総合学園の3年生ですよ」
目の前にある作品から隣のエスミに視線を移し、彼女はさも楽しそうに満面の笑顔を浮かべました。
対してエスミは呆れたように『ティーパーティーのホストがしがないとは?』と疑問の声を上げるのですが、ツクスは相も変わらずに笑顔のまま首を横に振ります。
「〝元〟ホストです、エスミさん。既にフィリウス分派代表の彼女にホストの座は明け渡しています。しばらくの間、私はサンクトゥス分派内の〝掃除〟に専念する事になるので、近々ティーパーティーには私の代わりを送るつもりです」
「ああ……そういえば、ツクス様がホストの座を降りてもう1週間でしたか」
「ええ。先月、サンクトゥス分派の本部宛に何やら〝重大な情報〟が入ったUSBメモリーが届いたことで、サンクトゥス分派は証拠のもみ消しやトカゲのしっぽ切りに奔走する事となり、その混乱を抑えるため私は予定よりも早くホストの座を降りる事になりました」
ツクスの言う通り、先月サンクトゥス分派の本部に謎のUSBメモリーが届けられたことで、今までの平穏はどこへやら一気に大混乱へと陥ったサンクトゥス分派。
ある者は謎の理由で休学となり、またある者は所属していた部署を異動され、中にはティーパーティーから脱退される等々……対立関係にあるパテル分派やフィリウス分派はもちろん、他の派閥ですら困惑してしまう程の大混乱と大粛清が突如始まったのです。
おかげで酷い惨状となったサンクトゥス分派は組織として正常に機能するのに最低でも1年は掛かると言われ、派閥のトップに居座るツクスはその立て直しのためにティーパーティーを一時抜ける事となりました。
また現状はパテル分派とフィリウス分派がティーパーティーを牽引する事となりますが、流石に『ライバルが減ったか、よし天下取るぞ‼』と野望にひた走ることは全く無く、これでもトリニティを代表する三大派閥の1つであるサンクトゥス分派が一夜にして大混乱になり機能不全に陥った事から『明日は我が身かも……』と各々が完全に萎縮してしまっていました。
まあこれはトリニティ特有の派閥争いがしばらくの間は沈静化するという事でもあり、派閥争いとは無縁の庶民や一般生徒からは『何か知らないけど平和になる‼』と現状については概ね好評です……被害を受けたサンクトゥス分派はたまったものではありませんが。
「ホストを引き継いだフィリウス分派も、次に控えているパテル分派も、聞く話によるとしばらくは学園運営の現状維持に努めるとの事です。とはいえ、平穏が続くのは持って1年か2年と言った所かもしれませんが」
「確かにそうですね。サンクトゥス分派と同じ目に合うこと無くただ時が過ぎれば、パテル分派もフィリウス分派も自然と警戒は解いてしまうはずです。サンクトゥス分派としては、それまでに組織の立て直しを急がなければ派閥争いから離脱することになります」
「おやおや、それはつまり……私に死に物狂いで働いて欲しいという願望でしょうか?」
そう言われたエスミは微笑を返すと『ツクス様は元よりこれがお望みだったのでは?』と口にしました。対してツクスは……少々苦笑いをしています。
「確かに私が望んでいた事ではありますが……流石にやり過ぎですよ、エスミさん」
「さて、やり過ぎとは何のことでしょうか」
ここに来てエスミは近くに待機している画商に目配せを送ると、すかさずその人物は1つのファイルを手にして2人の下に駆け寄ってきました。
「お話中のところ失礼致します。もし栢間先生の作品にご興味があれば、是非ともこちらの作品リストを拝見しては如何でしょうか。本来は非売品となりますが、ツクス様は先生の大事なお客様ですので是非どうぞ」
エスミの合図で駆け寄って来たとはいえ、流石は商人。自然な演技でこの個展で展示されている作品をリスト化した特別なファイルをさり気なくツクスへと手渡します。
ちなみに一部の画廊では契約している様々な画家の作品と紹介文を載せた非売品のファイルを所持している事があり、それを来客に見せることで相手の趣味趣向を把握するのに役立てることがある為、今回のようなケースはそう珍しくもありません。いわば画商による商談用の必需品アイテムとも言えます。
ですので、画廊に何度か足を運んだ経験があるツクスは不自然に思う事なくファイルを受け取ると中身に目を通し始めました。
「……これは」
すると何ページかファイルをめくっていた手がふと止まり、ツクスはやや驚いた様子で目を見開きました。それを見て、周囲の視線を確認しながらエスミは何食わぬ顔で言葉を送ります。
「ツクス様、時間が許す限りご自由に見て頂いても構いません。これは顧客の方に向けた特別な資料ですので周囲の目を気になさる必要は全くございません」
「……流石はエスミさんです。よく考えましたね」
面白い、とでも言いたげに笑みを零しながらツクスは開いたページを凝視します。
そこには他のページ同様に作品の写真と紹介文が載っていましたが、よく見るとその紹介文に書かれているのは作品とは全く無縁の内容でした。
《1―2》
この度は個展に来て頂きありがとうございます。
さてこの文を読まれているという事はつまり、既にサンクトゥス分派に私がお送りした『犯罪に関わった生徒全員の名前とその詳細な記録』が保存されているUSBメモリーが届き、さぞ大混乱に陥ったサンクトゥス分派を立て直ししている最中かと思われます。
ご存知の通り、先月私は例の件を解決するためゲへナ自治区に赴きました。
そこで私は画材メーカーから商品を強奪しようとした襲撃犯を撃退した後、強奪した品を偽造する工場へと向かい、サンクトゥス分派がこの件に関わった記録とその情報全てをかき集める事となりました。
結果は驚くことに商品の強奪や偽造は画材だけに限った話ではなく、他の企業にも対しても同じ罪を犯していたようで、その売買のほとんどにサンクトゥス分派の多くの生徒が関わっていることが判明いたしました。
果たして犯罪グループに個人情報や派閥の弱みを握られていたのか、それとも利用し利用される関係だったのかは個人的には全く興味のない話ではありましたが、ライバル派閥を妨害するためとはいえサンクトゥス分派は随分と暴走状態だったようです。
もしくは組織としては当の昔に腐敗していたのかもしれません。犯罪と知りつつも平然と利用する程ですから可能性としては高いでしょう。
またこれは余談とはなりますが、商品を強奪し偽造や売買まで行った犯罪グループはヴァルキューレ警察学校に通報し対処して頂きました。今頃はこの件に関わった外部の者や生徒に捜査の手が及んでいる事かと思われます。組織としてほぼ瓦解したのも同然なため、同じ被害が繰り返されることは2度と起きない事でしょう。
しかしサンクトゥス分派がこの犯罪に少なからず関わっていた件については、トリニティ側でしっかりと処分させるという事で特別に黙認して頂きました。
ですがもし私がお送りしたUSBメモリーの件をサンクトゥス分派が見て見ぬふり、もしくは証拠隠滅を図った場合、躊躇うことなく私はヴァルキューレ警察学校にこの件を報告しキヴォトス全土にサンクトゥス分派の悪事を公表させたに違いありません。
とはいえこの文を読まれているという事は、幸運にもサンクトゥス分派は正しい対応に動いたという事なのでしょう。私としてもトリニティの行く末を担うティーパーティー内部のパワーバランスを崩すことは本意ではありません。最悪、トリニティそのものが大混乱に陥る所だった恐れがあります。
しかし元はと言えば美術を派閥争いのために悪用し、私の怒りを買ったそちらが始めた所業であり罪になります。
私は依然としてトリニティの派閥争いに興味はありませんが、この件をきっかけに泥沼な政治の世界に片足を踏み入れる事となりました。無論これは承知の上であり、報復を受ける覚悟もあります。
ですがあの日アトリエで直接お伝えしたように、私は美術やその文化を守る為ならばいかなる犠牲も払うつもりです。それこそ、この身が朽ちようとも。
今後、私の愛する美術を再び汚すことがあれば、例えパテル分派であろうとフィリウス分派であろうと私は迷うことなく勝負を挑むつもりです。もちろん立て直されたサンクトゥス分派が再び同じ道を歩むのなら、今度こそ私は徹底的にこれを叩き潰すことでしょう。
そのような未来が来ることが無いよう、心より願います。
栢間エスミ
《1―3》
それは一種の告発文であり、同時に栢間エスミの強い覚悟と想いを載せた手紙でもありました。
「……こちらの〝紹介文〟に書かれている内容ですが、こちらはエスミさんの本心でしょうか?」
「はい。心の底に押し込めていた想いを露わにしたものになります」
「……ふむ」
なるほど。彼女は本気だ。
周囲を誤魔化すためとはいえ、作品ファイルの紹介文に堂々とこのような文面を載せるとは……肝が据わっていると評するべきか、それとも美術愛が強すぎる狂人と酷評すべきか。
確かにあの日、アトリエで彼女に『後悔のないように、お好きになさってください』と遠からず背中を押して激励をした側であるため、サンクトゥス分派にUSBメモリーを送ったのが彼女本人であるとツクスは当然ながら知っています。
しかしそれは混乱状態であるサンクトゥス分派も同じです。
ツクスのような優秀なトップが存在しているように、サンクトゥス分派にも派閥に忠誠を誓う生徒や能力に秀でた生徒は多数在籍しており、そのうちの何名かはエスミの仕業であると薄々勘付いている状態です。
流石に犯罪に関わった生徒の肩を持つことはしませんが、それでも当分の間はサンクトゥス分派が混乱状態でまともに組織として機能しないのは明白。危うく三大派閥としてのパワーバランスが崩れかねない被害を受けた訳ですから、分派の一部が彼女に対し不満や恨みを抱えないはずがありません。
いくら愛する美術を汚されたからとはいえ、報復としてエスミが与えたダメージはあまりにも大きすぎたのです。
今回はサンクトゥス分派に完全に非があるため手出しは控えていますが、今後もし同じ形でエスミが報復を行えば……今度ばかりは彼女の身の安全は保障出来ない事でしょう。
その頃にはもうツクスは卒業している身であり、サンクトゥス分派の一部過激な生徒たちの行動を抑える事が出来ません。
「…………」
しかしエスミのファンを自称する者として、何より彼女とトリニティの未来を〝視た〟者として、互いに味方という関係にはならなくとも敵対関係にならずに済む妙案がツクスにはありました。
今こそ、それを口にするべきだと彼女は察しました。
「……エスミさん。貴女の身を心より心配する者として、私から2つほど提案をしてもよろしいでしょうか?」
「ツクス様から提案ですか……断る理由もありません。お聞かせください」
「聞く耳を持って頂きありがとうございます。ではまず1つ、今後からエスミさんは学園の生徒と画家という身分だけに留まらず、新たな顔を持つことをお勧めします」
パタンッ、と小さく音を立ててファイルを閉じた彼女は聞く耳を持つ者がいないか周囲を見渡します。有難いことに先ほどの商人がさり気無く人払いをしてくれているため、今から話す重要な会話を聞かれる心配はありません。
「私からのアドバイスとしては、情報屋になるとよろしいでしょう」
「……情報屋、ですか?」
随分と意外な提案だ、とエスミは首を傾げました。
「ええ。何しろエスミさんはトリニティ自治区で最も高名な画家になります。派閥に属することなく今も尚パトロンを持たない事で注目を浴びているエスミさんは、これまでその立場を利用して自身の得となる情報を数多く集めてきた事でしょう……それはトリニティ総合学園でも十分通用するはずです。どのような派閥も迂闊には手を出すことの出来ない情報を握り、それを上手く利用すれば身を守れることでしょう」
なるほど、かなり理に適った話と言えます。
元からエスミは自身の画家としての立場を利用して、得となる必要な情報を顧客や業界人などから多く集めてきました。それこそ一時期ワイルドハント芸術学院に進学しようと躍起になって情報をかき集めていた去年が懐かしく思えます……まあ例のあれは、とあるお嬢様こと顧客第1号に説得されて中止となったわけですが。
しかしトリニティ総合学園に進学したことで彼女の美貌や画家としての実力に強く惹かれた生徒たちとの交流が中等部に比べて格段に増えた為、ツクスの言うようにトリニティのあらゆる派閥に関する情報がポンポンと手元に落ちてきているのは確かな事実です。
生憎と情報のほとんどは風の噂程度で真偽が問われるモノばかりでしたが、もしエスミが彼女達との交流を上手く利用して独自の情報網を形成することが出来れば、ほぼ間違いなくトリニティ総合学園で情報屋としての地位を築くことが出来ることでしょう。
何より美術を心から愛する者として、今回のサンクトゥス分派のような所業を見逃す訳にはいきません。事前に情報を掴むことが出来れば、最小限の被害で食い止める事が可能になるはずです。
ツクスの提案通り、情報屋としての顔を持つのはエスミ的にも〝有り〟と言えました。
「とても素晴らしい案だと思います。まさか私が情報屋になる日が来るとは思いもしませんでしたが ……ちなみにもう1つの案は一体何でしょうか?」
今の案だけでも十分受け入れるに値する内容だっただけに、エスミは興味津々になって彼女に尋ねました。
「残るもう1つの案ですが、エスミさんには私の知り合いの相談役になって頂きたいと思います」
「そ、相談役……?」
これはまた……情報屋の事といい、随分と予想外の提案です。
「相談役ということは、ツクス様のお知り合いはサンクトゥス分派の首長後継者になられるお方でしょうか?」
企業における重役の1つであり、主に社長や会長を支えて企業に降り注ぐ様々な問題を共に助け合い解決していくのが相談役に求められる大事な仕事です。
実際は任意で定める役職の為、企業によっては相談役の有無や仕事内容はかなり違いがあるのですが、トリニティ総合学園における三大派閥の場合はトップに就任するのがほぼ確定的な人物を支える役職として存在していました。
故に、ツクスが相談役を必要としているその例の知り合いもまた、サンクトゥス分派のトップを務めるのに値する人物と言えるのです。
「ええ、正にその通りです。〝あの子〟はサンクトゥス分派のトップを務めるのに相応しい才能と頭脳を持つ、私の自慢の後輩です……しかしなにぶん身体が弱く、加えて私を超える能力を持っている事から1人で悩み事を抱えがちなため、可能であればエスミさんには彼女の心の支えになって頂きたいのです」
「な、なるほど。随分と〝訳あり〟なお方という事でしょうか……ところでツクス様を超える能力というのは一体?」
エスミとしては本性を隠し通しながら笑顔を張り付けて気品に立ち振る舞う生徒会長のツクスを直に見てきている訳で、現在のティーパーティーはおろかトリニティ総合学園の中では彼女は傑出した実力者と言えます。
そもそも大混乱中のサンクトゥス分派を立て直している最中にも関わらず、平然とエスミの下に会いに来るどころか、激務による疲労や弱みすら一切周囲に見せようともしないのですから政治家としての能力は他に比べて群を抜いています。
そんな彼女すら超える能力というのがエスミとしてはだいぶ気になる部分でした。
「おや?……そういえばエスミさんにはまだお伝えしていませんでした。せっかくですので、この場で打ち明けると致しましょう。実を言うと私、遥か先の未来を視ることが出来るのです」
「……は?……み、未来を……えっ……!?」
出来る限り声を落としての会話だったとはいえ、ついエスミは目を見開いて驚きの声を上げました。
てっきり政治家としての能力に秀でているのかと思えば、前世でも聞き慣れたチート能力の持ち主であると本人の口から軽く暴露されたのですから当然の反応です。
「ツ、ツクス様……それは、つまり……?」
「いわゆる未来予知。または千里眼と呼ばれる能力です。とはいえ正確な未来を視ることが出来るのは数か月先が限度ですが、それでも最大で数年先の未来を視ることが可能です。私はこれを活用することで過酷な政治の舞台を戦い抜いてきました。あの日、新入生代表のスピーチをされたエスミさんに直接お会いしたのも、実はこの未来予知が一枚噛んでいたりします」
「つまり、私に接触して色々と黙認してくれたのも全て……サンクトゥス分派の問題を解決するためだったと言う事ですか?」
「ええ、ご名答です。私がサンクトゥス分派の暴走を止めようとしなかったのも、未来予知によってエスミさんが介入される事を知っていたからです。もちろん私の手で暴走を止めることは十分可能でしたが、そうなれば最悪サンクトゥス分派で内部分裂を起こす危険性がありました。結果として私が負担する労力が想定より大きかったのは少々意外でしたが、派閥そのものが瓦解する事に比べれば些細な問題です」
「……なるほど。そのリスクを考えると、確かに未来予知通り私を利用することが一番の最善策になりますね」
口ではそう言うものの、結局の所これまでの行動や結果は全てツクスの想定内だったと言う事になります。
ある意味で彼女に良いように利用された感が拭えませんが、だからこそ苦労を掛けたという事でツクスなりにエスミの身を心配して2つの提案をしてくれたのでしょう。
しかし1つ目の案は良いとして、エスミは2つ目の案に関して疑問から質問をしました。
「ですが私がその次期後継者の方の相談役になるメリットは一体何でしょうか? 情報屋になるメリットは既に説明して頂けましたが、流石にサンクトゥス分派に混乱をもたらした張本人が相談役になったと後に知られれば周囲は当然反対しますし、第一私が派閥に所属することになってしまいます」
美術を守る目的で派閥争いに自ら介入したとはいえ、依然として派閥そのものに所属することは決して無いエスミ。無論、その点は十分理解しているとツクスは笑みを零して話を続けました。
「その点はご安心ください。相談役とは言いましたが、厳密にはカウンセリング…………より砕けて言えば話し相手になるだけで構いません。あの子の『個人的に信頼を置く知人の1人』という扱いであれば周りの方々も渋々ながら受け入れてくれる事でしょうし、何より首長後継者となるあの子に気に入られれば、エスミさんに直接危害を及ぼそうとする者は現れないことでしょう」
「……ツクス様は随分とその方に期待をされているようですね……」
「おや、私とあの子の関係について気になりますか?」
別に他人の人間関係に首を突っ込む気はないのですが、まだサンクトゥス分派のトップに就任した訳でもない後継者候補との交流をやたら強く勧めてくるのですから、エスミとしては気になってしまうのは当然。
それこそエスミなりにサンクトゥス分派については色々と調べていましたが、ツクスがここまで期待を寄せるような人物は見たことがありません。
未来予知というチート武器を有するツクスが『私を超える能力』と豪語する程ですから、純粋にその人物に興味があります。
「そうですね。私とあの子の関係性について簡潔に一言で表すなら〝師弟〟と言えるでしょう」
「……師弟?」
「ええ。私は未来予知という能力を持っていますが、あの子はむしろ未来、現在、過去を見通すことの出来る完璧な千里眼の持ち主です。しかもその全てが正確でありかつ完全な意識を持った状態で覗くことが出来るのですから、この時点で私より遥かに優れた能力の持ち主と言えます。エスミさんもそう思いませんか?」
「むしろ、このトリニティで同じ能力を持つ方が2人もいる事に素直に驚きが隠せないのですが…………ということは、同じ未来予知の能力を持つ者としてツクス様がその方にご指導かお世話を?」
その言葉にツクスは大きく頷きます。
「未来予知と言っても、お互い任意の判断で未来を視ることは出来ません。未来を視るという点においては非常に便利ですが、不意に能力が発動するため精神や体力に少なからず悪影響を与えてしまうのです。私の場合は未来を視た直後に視力が著しく下がるだけで済みますが、過去や現在も視ることが可能な彼女はそうはいきません。正確であるが故に、現実と夢の区別も付きにくいという弊害が生まれているため、私はそれに苦しむ彼女を長いこと傍でサポートしてきました」
そこでツクスは懐から1台のスマホを取り出すと、何やら短く操作を行って静かにエスミに差し出します。好奇心から覗き込んでみると、スマホの画面には一枚の写真が表示されていました。
高等部1年か2年と思われるツクスと、ベッドの上で横になっている獣耳の生えた少女が互いに微笑んだ姿で映っています……正直なところ、エスミとしてはその獣耳少女に何やら見覚えがあるのですが、この時点では思い出すことが出来ません。
ひとまずこの少女がその例の後継者かと問うと、ツクスはそこで初めて寂しげな笑みを浮かべるのでした。
「ええ。互いに4つか5つは歳が離れているため、私にとっては妹のような存在の子です。元々身体が弱いこともあり能力の反動で寝たきりになる事が多いのですが、それでも非常に高い思考を持つ優秀な子なので将来サンクトゥス分派のトップに立つのはほぼ確定的と言えます。ですが……」
「それだけ歳が離れているとなれば、この方は今……まだ中等部ですね?」
「……その通りです」
今の時点でまだ中等部。という事は今年をもって卒業する身であるツクスは今後、この子が高等部に進級しても傍でサポートをするのが不可能になることを意味しています。
中等部の間はあまり派閥に関係なく過ごせたかと思えますが、ツクスが目を掛けていたほどの優れた頭脳と特異な能力を持ってトリニティ総合学園に進学すれば、ほぼ間違いなくこの子は次期サンクトゥス分派の首長として担ぎ上げられる事でしょう。
それこそ以前のような腐敗していたサンクトゥスであれば、その能力を悪用された可能性すらあります。
「私がサンクトゥス分派の立て直しに全力なのは、実を言うとこの子の将来の為でもあります。以前のサンクトゥス分派であれば、彼女の能力に目をつけ悪用するか監禁するかの二択だった事でしょう。私がエスミさんに彼女をお任せしたいのは、派閥に属しようともせず、常に美術だけを最優先に考えている貴女であれば、彼女を悪用すること無くいざという時に助けになってくれると信じているからです」
「……それは未来予知で視たからですか? それとも、ツクス様ご自身の私に対する信頼でしょうか?」
ツクスは一旦瞳を閉じると、持っていたファイルを彼女に返しこう言いました。
「私が視た数多くの未来予知の中で、唯一エスミさんが関わっているのが確認出来たのは数年も先の未来になります。そこまで遠い先の未来となると正確さに欠け、確実にその通りになるとは限りません…………ここまで言えば、私があの子を貴女に任せたいという言葉の本気が伝わるでしょうか?」
「……十分です」
エスミは小さく頭を下げて『私の方で出来る限りサポート致します』と案を受け入れるのでした。ツクスはクスッと微笑します。
「ありがとうございます。エスミさんがこの案を受け入れてくれるかどうかは、未来予知でも視ることが無かった光景でしたので、少々緊張してしまいました」
「ツクス様が緊張されるほどですか…………ところで、いつ頃からこの方との交流を行うべきでしょうか?」
そう尋ねるとツクスは考え込むようにして顔をそらします。
「そうですね……この子がトリニティ総合学園に進学するのは来年ですし、私はひとまずサンクトゥス分派の立て直しでしばらく手が離せなくなるので、出来れば来週辺りにエスミさんを紹介させて頂ければと。交流としては週に1回の程度で構いません。内容はお任せします」
「分かりました。高等部に進級されても同じ頻度で構いませんか?」
「勿論です。あまりにも頻繁に出会っては周囲に誤解を与えてしまう事でしょう」
何であれ、この獣耳少女との仲をそれなりに深めておけば、サンクトゥス分派の方から嫌がらせを受けることはほぼ無くなるはずです。
サンクトゥス分派の問題に首を突っ込んだ以上、これからは政治の世界ともお付き合いをする訳ですからエスミは覚悟を決めました。
「…………ん?」
ふとそこで、エスミは何だか嫌な予感を感じ取りました。まるでそう……何か重要なことを忘れているような。エスミはその嫌な予感が『写真を確認しろ』と言っているような気がした為、ツクスに断りを入れてもう一度スマホの写真を確認します。
「獣耳……病弱……ベッドで寝たきり……未来予知……サンクトゥス分派……来年から高等部?」
ブルアカ世界で生を受けてもう15年。
美術愛こそ変わらないものの、段々と前世での事細かな記憶が忘れかけているためうっかりしていましたが、そもそもエスミはこのブルアカ世界で他のネームドキャラとは関わらないことを信条にしてきました。
桐藤ナギサしかり、聖園ミカしかり、鬼方カヨコしかり。
彼女たちと出会ってしまったのは仕方ないとはいえ、なるべく交流は深めないように気を付けているのは変わりありません。問題は今後から、他キャラとも出会うばかりか親密な仲になってしまう事です。
出来れば関わる人数は最小限に抑えたい。もし可能なら交流は出会ってしまったあの〝3人だけ〟に留めたい。
そう願い、未だに感じる嫌な予感から逃れるようにしてエスミは口を開きました。
「…………ツクス様。可能であれば、この方のお名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」
そんな訳がない。
たまたま自身の美術愛に素直に従って行動を起こしただけで、それがきっかけで新たな出会いが生まれるはずが無い。自分が愛を捧げている美術が巡り巡って自身の生き方に対して首を絞めることになるなんて、そんな悲劇が起きるはずが……。
「この子の名前はセイア。百合園セイアと言います」
「……な……るほど」
この瞬間、エスミは引き攣った笑いと共に完全に固まってしまうのでした。
どうやら彼女の強烈な美術愛は、ある意味で幸福と波乱を常にもたらすようです。
やがて後にウキウキで個展を見に来た桐藤ナギサが、ギャラリートークを目前にして壁にうなだれるエスミを目撃したことで『何があったんですか!?』と軽く騒ぎになったとか?
まあもっとも、後々復活を果たしたエスミがギャラリートーク内でさも平然と〝右手〟の件を公表した事によって、さらに大きな騒ぎが起きてしまう事となるのですが……それは当事者だけが知る話となります。
ちなみに付き添いで同行していたミカ曰く『右手の件でナギちゃん、顔が真っ青になってて結構ヤバかったよ?』という事でした。
≪???????≫
キヴォトスのとある某所。
誰も近寄ろうとはしない廃墟同然のビル群が立ち並ぶここは、一部のマニアからは『映像受けする!!』と主に配信関係で話題になっている有名な地区でした。
とはいえ普段はヴァルキューレ警察学校の生徒による見回りが行われており、退学処分や中退を覚悟してまで立ち入ろうとする者はほぼいません。
しかし今日、日中にも関わらずこの地区に足を踏み入れる者が1人だけ姿を現していました。
「……活気を無くした街はその場に残る限り人に利用される定めだが……このような場所を面会に指定するとはな」
タキシードを着こなす双頭のマネキン人形のような見た目をしたその謎の人物は、誰に対しての不満なのかそう口にすると、まるで幽霊が如く誰の目にも触れることなくその地区へと入ると瞬く間に姿を消しました。
そして廃墟となった地区の中で、かつては音楽や演劇の会場として利用されていたらしいホールにたどり着いた双頭の人物は、そのステージ上で観客席に向けて背を向けて立ち尽くす1人のスーツ姿の黒く無機質な姿をした人物を視界に収めます。
「到着した。少々予定より早いが、問題はないだろう」
双頭の人物はそう声を掛けながらステージに上がると、かなりの年季が入っているらしく踏み歩くたびに床がギシッギシッと音を立てます。この様子ではあと10年もしないうちに完全に朽ちる事でしょう。
しかし双頭の人物もスーツ姿の人物も特に気にする素振りは見せず、ただ会話だけを開始します。
「ええ。むしろ予定より早めに会談が終わりそうなので構いません。早速本題に入りますが、私の抱えている実験の一つが失敗に終わりました」
「以前、そなたが考案した『犯罪と生徒の関係性』による実験のことだろうか?」
スーツ姿の人物は困ったように肩をすくめると、自身の下にたどり着いた双頭の人物に身体を向けます。
「その通りです。犯罪と理解しつつも生徒は己の野望や欲望のためにそれを利用することで、果たして所属している学園にどのような悪影響を及ぼすのか。あくまでも余興として行っていた実験ですが、私の見立てでは最終的に生徒会そのものが解体という結果に至ると思っていました……生憎と、そうなる前に利用させていただいた組織が瓦解してしまいましたが」
「……そなたが関わったという痕跡はあるのか」
「いいえ。私が行ったのはあくまでも助言のみです。今頃はヴァルキューレ警察学校によって全面的に捜査が行われているかと思いますが、私の存在を知ることはまず無いでしょう。もちろんこのゲマトリアに関しても」
「ふむ、であれば私を呼んだ理由は何だ。私がここに来たのは、そなたの神秘とは無縁の実験失敗に関する愚痴を聞くためではない」
「勿論存じています。私としても望んだ結果を得られず腹を立てている訳ではなく、むしろ1つの犠牲によって新たな発見が出来たと報告したかったのです」
「……聞かせてもらおう」
するとスーツ姿の人物は懐から何枚か束になっている写真を手渡してきました。双頭の人物はそれに目を通します。
「……この写真に写っている生徒は?」
「私の実験を阻止してみせた勇敢な生徒たちです。施設にあった防犯カメラに写っていた為、独自のルートで入手しました。パーカーを着込んでいる生徒はゲヘナ学園所属ですが、特にこれといった興味のある情報はありません。ですがもう片方の生徒は……」
「……これはトリニティ総合学園の生徒か」
「ええ、正にその通り」
面白いものが見れたとスーツ姿の人物は『クックックッ』と笑い声を漏らしました。
「……遥か昔よりトリニティとゲヘナの仲は険悪のままである……にも関わらず、共同してそなたの実験を阻止したという事だろうか。偶然か奇跡か……うむ、興味深い」
「どちらが歩み寄ったのかは分かりませんが、どちらにせよ『呉越同舟』という言葉を現実で再現して見せた実例と言えるでしょう。恐らく、歩み寄ったのはトリニティ生徒です」
「……このトリニティ生徒に関しては私には心当たりがある。近年、芸術界に突如として現れた新星の画家で間違いはないだろう。芸術を追求する者として個人的に注目をしていた生徒だ」
「私の方でも調べさせていただきました。何でも派閥に所属することなく一匹狼を貫く生徒であるとか? 通っているトリニティ総合学園の政治にも全く興味は無いようですね」
「正に芸術にのみ人生を捧げている生徒と言える。しかし芸術以外には関わりそうに無いこの生徒がそなたの実験を阻止する事になるとはな……何があった?」
好奇心からそう尋ねてみますが、スーツ姿の人物は困ったように首を横に振ります。
「私には見当も付きません。しかし長年対立していたゲヘナの生徒と交流し、共に行動するような前例にないトリニティ生徒です。私の考えでは、この生徒の活動基準は全て〝芸術〟に左右されているのでしょう。丁度この実験には芸術関係も対象として含めていました。この生徒の逆鱗にでも触れたのかもしれません」
「…………そなたが芸術を研究の1つとして利用している事にはこの際目を瞑ろう。それで私に何をして欲しい?」
「このトリニティ生徒を、貴方の方で預かってはみませんか」
双頭の人物は写真に目を通し、そのままスーツ姿の人物に視線を戻します。
「……そなたの研究対象になり得る人材ではないのか?」
神秘をいかなる方法で研究し探求する者として、このような〝芸術〟に左右されるような生徒は彼の研究における観察にピッタリと言えます。
あくまでも芸術を追求し、その実現に至る手段や方法に対する美学を持つ者としては相容れない存在ではありますが、その根本を否定するつもりはありません。
故にそんな相手がこうもあっさりと『研究対象』を手放すのは、双頭の人物としても正直意外でした。
「私としても出来れば今後も観察を続けてみたい所ですが、むしろ掛け持っていた案件が1つ減った事で残りの方に専念すべきかと思いまして」
「……そういえば、そなたはアビドスの件も関わっていたな」
「ええ。まだ進捗としては微々たるものですが、順調そうに見えていた実験が失敗に終わった事なので、心機一転としてアビドスの方にだけ専念する事にしました。来年あたりから何か物事が大きく進展する気配がしますし、『二兎を追うものは一兎をも得ず』という言葉もある事ですので」
「……それでこの生徒の件を私に預けると?」
「むしろ貴方からすれば、この生徒を利用することで芸術の表現に役立てることが出来るのでは? 同じ芸術家同士、得るものがある事でしょう」
「…………良いだろう。私としても、この生徒には興味がある……譲ってくれた礼として、この生徒に関する新情報はそなたにも共有しよう」
双頭の人物は満足そうに写真をしまうと、そこで思い出したかのようにスーツ姿がこう尋ねてきました。
「ところで、この生徒……栢間エスミですが、彼女の芸術愛はいわば狂気とも言えます。そう遠くないうちに彼女はその愛によって文字通り〝死〟を受けることになるでしょう。それが物理的な死を意味するのか、それとも精神的な死を意味するのかは私には分かりませんが、何であれ一方に対し強い想いを抱く者と言うのは……必ずその身に代償を払うものです」
「…………」
「その日が来るまで、貴方の望む結果が得られると良いですね」
背中の方で腕を組み、いつ訪れるか分からない不確かな未来に向けてスーツ姿の人物はそう楽しそうに口にするのでした。
「……そなたは、芸術家という存在をよく知らないようだ……」
しかし双頭の人物は冷たく言い返します。
「ほう?」
「……己に宿る意思を具現化し、それを実現化させ、大衆の目に焼き付ける……古来より、芸術はその道を常に辿ってきた……生きている限り、より多くの創作物を生み出し後世へ自身のイデオロギーを残す……芸術の虜となっている者であれば、むしろ死を前にしてこそ真の芸術作品を生み出すというものだ……」
「つまり、貴方としては大歓迎であると?」
「……これ以上の長話は無用と言える。私はこれで失礼する」
「…………クックック。ええ、良いでしょう。手段や方法を重視する貴方からすれば、今後の彼女の行動には目が離せないという事なのでしょう……どうやら、私もそれに値する〝生徒〟を見付ける必要があるようです」
「……そなたに目を付けられた生徒は、さぞ恨みを持つであろうな」
双頭の人物はそう言い残すと、もう用は無いと言わんばかりにステージから立ち去りました。
ただ1人、ステージ上に残されたスーツ姿の人物は背中で腕を組んだままホールを見渡します。
「数年後のキヴォトスが楽しみですね」
そう誰にも聞かせることのない独り言を口にした後、コツコツと音を立てながらステージから降り、ホールの出入り口へと消えていくのでした。
栢間エスミの秘密・12
・当初は、いつどの日にブルアカキャラに出会いどんな交流をしたかをクソ真面目に記録にして残すことでキャラとの関りを把握しようとしたが、B5の記録ノートが10冊に到達した所でただの『思い出日記』になっている事に気付き書くのを辞めた。
ちなみに2冊目に入った時点で彼女が関わったブルアカキャラは既に二桁に達していた。
現在は誰にも見られないように厳重に保管し、ちょっとした黒歴史として扱っている。
もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)
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拳銃(M1911,グロック等)
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リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
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自動小銃(HK416、AK-47等)
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短機関銃(M1921、MP5等)
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小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
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散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
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機関銃(MG42、M249等)
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対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
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擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
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素手