夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない 作:木暮鬼一
明けましておめでとうございます。
気付けば信念を迎えて1か月弱が経ち、早くも仕事に忙殺されている日々を迎えています。
記念すべきブルアカの周年イベントも大盛況のまま終わり、遂にみんなが待ち望んでいた百合園セイアの実装がされて早くも作者は彼女をお出迎えした訳ですが、あまりにも可愛い挙動をするので驚いてしまいました。
プライベートの話をすると、最近通販でテーブルと座椅子を購入しました。これで腰痛を気にする事なく床でパソコン作業が行えます。
あと親族が私のために東京マルイの【M1851 NAVY】をプレゼントしてくれました。最高です。リボルバー信者の私にとって最高の品です。
本当はエアガンに関してはマルシン派ですが、M1851は中々エアガン化されていなかったのでこの際製造会社は気にしません。
あまりにも素晴らしい高クオリティに涙を流したのはここだけの秘密です。あれで10歳以上の品物だと言うのが心底恐ろしい……。
余談ですが作者はマルシン製のガスガンSAAを3丁所持しています。キャバルリーモデルやショートモデル、あと木製グリップ製の計3点を愛用するほど狂ったリボルバー信者なので、早くブルアカにもSAA持ちの生徒来て欲しいです。
というより、COLT社の銃が好きなのでブルアカ運営、どうかSAAとかM1911の銃を使用する生徒の実装を心待ちにしています……。
長々と話しましたが近況としては以上になります。
感想、誤記訂正等の連絡いつもありがとうございます。
今年もまた作者の無理のない範囲で頑張りますので、宜しくお願い致します。
栢間エスミ 『大聖堂とシスター』
「シスターフッドから絵画制作の依頼?」
特にこれといった大問題が起きることもなく平和な時間だけが流れ、気付けば2年生へと進級してしばらく経ったある日。栢間エスミは読んでいる最中だった分厚い本から顔を上げると、目の前にいる後輩こと愛弟子にそう言葉を返しました。
「はい。大聖堂の一部区画に是非とも師匠の作品を飾りたいって、今年シスターフッドに入ったばかりの私の友達が言ってましたよ? なんでも最近まで修繕工事をしていた区画があるらしくて、あまりにも殺風景なので見栄えを良くしようとシスターフッド内で議論されているみたいです」
愛弟子。名を
ちなみに緑色の長い髪をポニーテールにしてまとめているチェリは本来、所属しているフィリウス分派の活動に時間を割いている事が多く、中でも敬愛しているナギサの付き人という立場もあってかエスミと一緒に美術活動をする事はそう多くはありません。
今日もその例に漏れずエスミの仕事場に来ることは無いと思っていたのですが、良い情報を仕入れてきたと尻尾をブンブンと振り回す犬のように姿を見せてきた為、ひとまず話は聞いてあげようとエスミが中身について尋ねたのが事の始まりでした。
まあ結局の所、そのチェリが仕入れてきた情報とやらはエスミとしては正直快くないものだったようで彼女は呆れたように眉をひそめます。
「友達って……それ、ようはシスターフッドからの正式な依頼じゃなくて人伝って事だね?……言っておくけど私は基本誰からも制作依頼を受けることはしないし、仮にシスターフッドが頭を下げて来たとしても彼女たちの為に私が作品を作る事は無いよ。残念だけど、その友達には後で小樽の方から断っておいて」
「えー!? せっかくシスターフッドと縁を作る良い機会なのに引き受けないんですか!?」
『話はこれで終わりだ』といった様子でエスミが再び本に視線を落とすと、チェリは美味しい話を逃したと言わんばかりに抗議の態度を取り始めます。
しかし肝心のエスミは聞く耳を持たない様子で難解な字が並ぶ本から顔を上げる事をしません。
「師匠これはチャンスですよ、大チャンス!! あの中立を貫くお堅いシスターフッドが美術作品を欲しがっているんですから、ここはさり気なく彼女たちの望みを叶えてあげれば、これを機に向こうと仲良くなれるかもしれませんよ!?」
「たった1つの絵を献上しただけで仲良くなれるのなら、今頃私はトリニティ自治区に住む人々全員と仲良しだろうね」
冷たく言い返すエスミに向けてチェリは肩をすくめ溜息を吐きました。
「もぉ……師匠はどこの派閥にも所属しない一匹狼の芸術家なんですから、せめて後ろ盾になってくれそうな味方を増やしてみませんか? ナギサ様の話だと情報屋として中立の立場を築いているみたいですけど、流石に孤立無援な副業ですし無理があると思うんですけど? シスターフッドは野心も持たない
「そう? むしろ特定の派閥と親しい間柄になったら、それこそ中立を貫く情報屋としての価値が損なわれると思うけどね。味方でも無ければ敵でもない関係性を貫く方が私としてはとても過ごしやすいよ。それに小樽はシスターフッドを清廉潔白と言うけど、前身組織が〝アレ〟だけに未だ学園内で畏怖の目で見られているのは事実だし、政治に不参加とはいえティーパーティーに対する発言力は極めて大きい。正直、懇意にしていたら他の派閥を触発しかねないね」
「……じゃあ私の――」
「フィリウス分派は結構。余計に周囲を刺激するから、それ」
チェリの言葉を遮るようにしてピシャリと否定の言葉を被せたエスミ。
そもそも中立の立場に居座るエスミとは別で、チェリはこのトリニティ総合学園を仕切る三大派閥の1つであるフィリウス分派に所属している生徒になります。エスミとは共に美術に情熱を注ぐ師弟関係を築いているとはいえ、外部からは『エスミを引き込むためにフィリウス分派が寄越した工作員』として見られる事も少なくなく、その行動には常に責任が生じます。
今のように周囲に誰もいない2人きりの空間であれば多少の冗談は通じますが、彼女達の仲を邪推に感じる者がこの手の会話を聞けばほぼ間違いなく誤解を受けることでしょうし、むしろ嬉々として噂を流すはずです。
故にエスミとチェリが共に美術活動をする際は決まって2人きりで活動場所は室内のみと制限が掛かっているのでした。
とはいえ今後もしエスミが他にも弟子を取るような事があれば状況は大きく変わる事かと思いますが、今のところチェリ以外を弟子に取る予定はエスミには無いため現状維持のままとなるでしょう。
ひとまずハッキリしているのは、中立を好むエスミも弟子であるチェリも自由に美術活動をしている訳では無いという事です。
「……はぁ」
少し話がそれましたが、エスミは溜息を吐くと同時に読んでいた本を近場の棚に戻すと、同じ棚から今度は厚とじタイプのフラットファイルを取り出しました。
前世における【六法全書】並みに分厚いそのファイルを机に置いたエスミは、そのままファイルの中身を漁って何かを探し始めます。一方、弟子であるチェリはと言うと自身の師匠が一体何をしているのか皆目見当もつかない様子でいました。
「師匠? そんな分厚いファイルなんか取り出してどうしたんですか?」
「これは私が今までに描いてきた作品を簡単にまとめた資料だよ。原画そのものを販売した作品や、版画として売りに出して原画自体を保管してあるものは全てこのファイルで確認出来るようにしていてね」
「なるほどなるほど、つまり作品リストみたいなモノでしたか。でもどうして今それを?」
「私は誰からも絵の注文を受け付けはしないけど、絵を〝売る〟事に関して言えば話は別だからね。小樽が教えてくれたシスターフッドの話が事実なら、聖堂に飾るのに適していそうな作品を紹介するぐらいは出来るよ」
「ということはシスターフッドの為に一肌脱いでくれるという訳ですね師匠!!」
目をキラキラと輝かせ、両手それぞれで拳を作り天高く振り上げてガッツポーズをしてみせるチェリ。
それはシスターフッドに所属しているらしい友人の力になれた事への喜びか、もしくはエスミがお人好しである事への感謝を示しているのか、どちらにせよ喜びを全身で表す弟子の姿にエスミはただただ苦笑するのでした。
「まあ、ひとまず大聖堂で飾るのに良さそうな作品の厳選は私の方でしておくから、小樽はその例のお友達にこの件の事を伝えておいてね。私の作品を買うかどうかは結局のところ向こうのトップが決める事だからちゃんと相談してくるように。もし私以外の画家の作品を飾るつもりなら、それを紹介する事も出来ることも一応伝えて貰えると助かるかな」
「お任せください師匠!! この小樽チェリ、師匠が生んだ素晴らしい作品をより多くの生徒達に触れてもらう為にもシスターフッドとの商談を見事成功させてみせます‼」
「いや、向こうには普通に提案するだけで良いんだからね? 別に商談すると決まった訳じゃ無いか――」
「ではこれから師匠の作品を布教しに大聖堂に向かいますので、ここで失礼します‼」
訂正をしようとしたエスミの言葉を最後まで聞く事もなく、背筋をピンと伸ばして挨拶をしたチェリはそのまま勢いよく部屋から飛び出す形で去っていきます。その姿はさながら時速70キロで走る兎のようであり、むしろ飼い主に従順な犬のようでもありました。
「……え? これって私の絵を布教する話だったの?」
さて1人茫然と部屋に取り残されたエスミはと言えば、元々はシスターフッドに恩を売るだの助けるだの味方に付けるだのと議論していた話題が、知らぬ間に自身の絵を布教することに置き換わっていたため非常に困惑した様子を見せるのでした。
《1-2》
小樽チェリがシスターフッドの活動拠点である大聖堂に出発してしばらく経った頃。
ようやく大聖堂に飾るのに良さそうな作品の厳選が終わったエスミの下に、何とチェリ本人からモモトークが送られて来ました。ピロンッと小さな着信音が鳴り、エスミは一体何事かと首を傾げならスマホを手にします。
ちなみに余談ですが、友人関係を築こうとしないエスミにとってスマホはいわば連絡手段の道具でしかなく、その機器に登録されている連絡先はほとんどが企業か取引先のみになります。それらを除いてエスミとのモモトークを行う権利を得ているものは僅か数名。
桐藤ナギサ、聖園ミカ、鬼方カヨコ。そして弟子である小樽チェリの計4名です。
基本、エスミと直に交流する機会が極端に少ない事からモモトークを活用する他3人と違って、チェリは美術活動を通して共にいる事が多いため会話を目的にモモトークを利用する事は滅多にありません。
故に彼女から連絡を来ると言うことはつまり、緊急の用件か何か報告があるという事になります。
さて、では気になるチェリからのメッセージですが少し気持ちを落ち着かせて確認してみると『すみません、紹介する作品が手元に無かったので出来れば大聖堂まで師匠の作品リストを届けて貰えませんか⁉』という、まるで家に置き忘れた宿題や弁当を親に学校まで届けさせようとする学生みたい(事実として彼女は学生ですが)な内容の文面がそこには広がっていました。
正直、緊急な要件かと思っていただけに誰もいない部屋でエスミが豪快にもずっこけたのはここだけの秘密です。
そして現在、厳選した作品リストを手にして栢間エスミは未だかつて訪れた事のなかったトリニティ総合学園の大聖堂にこうして足を踏み入れていました。
「……これが、大聖堂」
大聖堂。
正に神を信仰するシスターフッドの活動拠点にして、トリニティ総合学園の長きにわたる伝統と歴史を感じ取る事が出来る歴史的建造物とでも言うべき存在。
ちなみにトリニティ総合学園のモチーフの元と言われているのがイギリスである事を考えると、恐らくこの大聖堂の元ネタは外見や規模を見るに【カンタベリー大聖堂】。つまり建築方式は【ロマネスク様式】と言えるでしょう(美術脳なエスミによる身勝手な考察)。
とはいえ実在のカンタベリー大聖堂は大火災における再建と巡礼者対策の増築のため、尖塔アーチや装飾をメインとしたゴシック様式を12世紀ごろに取り入れたので厳密にはロマネスクとゴシックを融合した独特の大聖堂となります。
またこのカンタベリー大聖堂の東端には聖職者トマス・ベケットの遺骨を納めていた【
余談ですが対立していたヘンリー2世の支持者に暗殺され、後に聖人へと認定された聖職者トマス・ベケットの遺骨は1220年に墓からこのトリニティ礼拝堂に移動されました。それにより多くの巡礼者がこの礼拝堂に通うになり、やがてジェフリー・チョーサーによる【カンタベリー物語】が誕生するきっかけとなったのでした。
果たして同じトリニティの名を擁するこの学園の大聖堂にも、そのようなエピソードを持つ礼拝堂が存在しているのか気になります。もしくはゲーム本編で登場するアリウス分校に関する大きな秘密でも眠っているのでしょうか。
とまあ美術建築の雑談や考察はさておき、どちらにせよカンタベリー大聖堂もこのトリニティ総合学園の大聖堂も神を信仰する人々にとって聖地であることに変わりはありません。
「あっ、師匠!! こっちです、私はここにいます!!」
そんな信仰心の欠片も持たないエスミからすれば立ち寄る事さえ勇気が必要としたこの場で、彼女のちょっとした臆病を嘲笑うようにして声を張り上げてエスミを呼ぶ者がいました。今更説明することもありません、弟子のチェリになります。
一応この場が神聖なる大聖堂内部であることを配慮してか、チェリの声は決して周囲に迷惑をかける程の声量ではありませんでしたが、それでも普段なら聞くことのない『師匠』という単語に加えてシスターでもない生徒が教会に居る事から自然と周囲からの注目を浴びてしまいました。
「…………ごきげんよう」
ひとまずエスミは周囲に対し軽く会釈をして挨拶の言葉を口にすると、素早い足取りでチェリの下に向かいその胸に作品リストを押し付けます。
「小樽。大聖堂の中で声を出す必要は無いから」
「すみません。師匠がこの大聖堂の迫力に圧倒されて茫然としているように見えたので」
舌をチロッと出して本気半分冗談半分で謝罪をしてくるチェリ。確かに彼女の言う通り、滅多に大聖堂に来ることが無いエスミはこの聖地の存在感に圧倒され、感動と衝撃を受けていたのは事実です。
しかし何も呆けていた訳ではありません。ちゃんと視界の隅にチェリの姿を収めていれば反応を返したはずなのです。
それこそモモトークでも活用してくれれば声を出さずに済む話であったため、エスミは困った表情をしながら周りに視線を走らせました。
「それで? 君が会うつもりの友人は何処にいるの? せっかく私も大聖堂に来たことだし可能なら直接会って話をしようと思うんだけど」
「残念ですけど彼女は別件で不在です。どうやら先輩方の業務に駆り出されたみたいで、連絡しようにもモモトークに既読が付かないんですよね」
「なら小樽は何をしに来たの? 友人がいない大聖堂に留まる理由は?」
「もちろん例の区画に絵を飾る気があるかどうかを聞きに来たんですよ。友達が居なくても別に他のシスターフッドに会えば済む話なので。ただ、肝心の師匠の絵を紹介する方法を考えていなくて……すみません。師匠を使い走りにする弟子なんて最低ですよね」
「まあそれは気にしなくても別に大丈夫。私としてはこうして大聖堂に足を運ぶ機会を得たことだし、今度から同じミスをしなければ済む話だから」
まだまだ未熟な弟子の姿に肩をすくめつつも批難はしません。
誰しも先の目的に夢中になるあまり準備を怠り、挙句物事の過程を飛ばそうとする事は多々あります。この件をきっかけに成長さえしてくれればエスミとしては別に構わないため、決してチェリに対し失望を感じることはありません。ただまあ、多少は落ち着いて行動して欲しいと思ったりはしますが。
「それじゃあ、私も小樽に同行してシスターフッドに話をしに行こうかな。私が居た方が向こうとの話もスムーズに進むだろうし」
するとチェリは首を大きく横にぶんぶんと振り回し、同時に両手も激しく動かして明確な拒絶の意を示してきました。
「いえいえ!! 師匠にそこまで付き合って頂くわけにはいかないです!! シスターフッドとの話し合いは全て私に任せて、師匠は終わるまでの間はこの大聖堂を見て回ってはどうですか!? きっと創作の良い糧になると思います!!」
「……本当に大丈夫?」
「勿論です!! どうか私を信じてください師匠!!」
「……そう。ならシスターフッドとの話し合いは全て小樽に任せるけど、あまり失礼の無いようにね。君は一応フィリウス分派の生徒なんだから、場合によっては誤解を招く恐れがあることを忘れないように」
「心得ています、師匠!!」
自信に満ち溢れた発言と共に笑みを浮かべるチェリ。
果たして本当に彼女に任せて大丈夫なのか、いささか不安ではあります。しかしこれ以上彼女のやる気を削ぐ訳にはいかず、エスミは溜息を吐いてチェリを見送る事にしました。
「あっ、例の修繕されたばかりの区画はこの先の通路を進んで東になります。誰でも立ち入りが可能みたいなんで、わざわざシスターフッドに許可を取る必要は無いですよ」
「なるほど。教えてくれてありがとう、小樽」
「いえいえ。じゃあ師匠、行ってまいります」
去る間際、ご丁寧にも最近修繕を終えたばかりの区画について説明をしてくれたチェリ。ああいう気遣いを自然に出来るのは流石だなと感じ、エスミは彼女の後姿を見届けると自身もまた行動を開始しました。
≪1-3≫
トリニティ総合学園の大聖堂は、長い歴史を誇る建築物であると同時に至る所で老朽化や腐食が問題視されてきました。
今回のように一部の区画を修繕工事するというのは割と珍しい事でも無く、ボランティア活動や献金によって得た資金を元に年々改築をしているのが現状になります。とはいえ大聖堂そのものを一度建て替えた方が早い話であり、まるで延命治療を施しているようなシスターフッドの対応に少なからず不満を抱いている生徒がちらほらと存在していると聞きます。
しかし逆に長い歴史を誇るこの大聖堂をそのまま後世にまで遺したいという生徒たちの声も上がっているのも事実。
エスミとしてはこの歴史ある大聖堂をこのまま残して欲しいという気持ちを抱きつつ、それでも大規模な改築は免れないだろうと考えていました。
「にしても…………広い」
さて彼女が今いる場所は大聖堂の中でも多くの生徒達が行きかう回廊です。
いかんせん大聖堂そのものが巨大なせいで歩き回るのが非常に大変だったため、こうして回廊に出て気持ちを切り替えている最中でした。とはいえ呑気に休憩しているという訳ではなく、懐から手帳を取り出して大聖堂のあらゆる場所に目を向けながら必死にスケッチをしています。
普段は足を運ぶことがない場所であるが故、創作のためのデータ収集中といった所でしょうか。
やはり写真や資料で見るより、こうして肉眼で特徴や雰囲気を味わうのはとても大事です。生憎とデッサンには不向きな手帳とシャープペンシルといった道具を使用してのスケッチにはなりますが、別に写実的な描写を求められている訳では無いのでエスミは構う事なく描き込み続けます。
ただし夢中になって描くのは構わないものの通行人の邪魔になってはいけません。彼女はひとまず壁に背中を預け、行き交う生徒に軽い会釈をしながらスケッチと観察を交互に繰り返しました。
(こうした教会の背景を扱うなら、やっぱりメインは天使か宗教関係かな? もしくは聖職者や動物を……いや最近はあまり宗教画に手を出していないし、ここは昔のトリニティをイメージした作品を……)
場所にはよりますが、大聖堂そのものをメインとして描く作品は限りなく少ないです。
それこそ聖職者や聖書に関連した人物を描き、あくまでもオマケの背景として教会を描くのがほとんどで、今のエスミのようにスケッチ等で残された絵ぐらいしか現存がありません。
故に描くとしてもやはり人物が必要となるため、エスミはそれに適した人材はいるだろうかと悩みました。
「ごきげんよう。何かお困りごとでしょうか?」
さあどんな人物を描くべきかとエスミが悩みに悩んでいたその時、彼女の視界に入る位置で誰かが突然声を掛けてきました。つい反射的に視線を向けてみれば、声を掛けてきたのはシスターフッドの生徒のようでエスミよりも若干ながら背が高く非常に落ち着いた印象を感じさせます。
見た目から判断して同年代か、もしくは上級生といった所でしょうか。ただシスターフッドの服装は学年問わず同じなため実際の年齢を把握することは出来ません。
「……すみません、絵の題材で少し悩んでいただけです。シスターのお手を煩わせる程では無いので、どうかご安心ください」
ひとまずエスミは描きかけの手帳を懐にしまうと、続けて深く頭を下げました。
一般の生徒とは違い、相手は大きな政治能力を持つ派閥に所属している生徒。なるべく失礼が無いよう言葉に気を付けながらエスミは事の説明をします。
「そうでしたか……こちらこそ申し訳ありません。大聖堂内でお困りになっている方をお見掛けした場合、すぐ力になり助けるようにと教えを受けていたもので……」
確かにシスターフッドのお膝元である大聖堂の回廊で、手帳を片手に深く悩んでいる生徒の姿を見てしまえば何事かと思う事でしょう。ただの勘違いだったとは言え、彼女の対応はシスターとしては何も間違っていません。
それ故、親切心から声を掛けてくれた手前そのまま立ち去って貰うのは心底申し訳ないと感じ、エスミは彼女に1つ質問をする事にしました。
「こちらの大聖堂ですが、何処か美術作品を飾っている場所はありますか?」
「美術作品ですか?…………そういえば過去に彫像を何点か飾っていたと聞いた事があります。ただ、元々彫像を飾っていた区画の老朽化が酷かったため修繕工事を行う前に作品そのものは撤去されてしまったとか……」
「なるほど彫像を。もしかして、過去に彫像を飾っていたというその場所は最近修繕工事を終えたばかりの区画では?」
「ご存知でしたか。はい、数週間ほど前に修繕工事を終えたばかりになります」
「例の撤去された彫像は今もその区画に?」
「いえ、肝心の彫像は飾っていなかったかと…………私はその区画に何度か足を運んだ記憶はあるのですが、綺麗に塗装された柱や壁を除けばあまりにも殺風景な場所になります。彫像が1つでも飾られていれば非常に目立つはずですので間違いはありません」
「…………」
エスミの勘違いで無ければ、シスターフッドはその殺風景な区画を変えるべく絵画を飾るかどうかで議論をしていたはずです。
チェリの友人伝手による話ではありましたが、もしそれが事実であればシスターフッドは以前まで彫像を飾っていた区画に今度は代わりとして絵画を飾ろうとしている、という事でしょうか。
正直な話、絵画よりも撤去した元の彫像を飾れば済む話と言えます。
これだけ長い歴史を誇る建造物ですから彫像の1つや2つ飾るのはむしろ当然と言えますし、日光や劣化に著しく弱い絵画に比べれば彫像の保存耐性は遥かに優れているはずです。
特に彫像関係はいわば立体的に具現化されたその教会の存在を表す象徴のようなもの。撤去して以降、そのまま元に戻さないというのは些か信じられません。
それこそ修復不可能なレベルの損傷を負ってしまい区画に飾るのを断念したとあれば話は別ですが、ボランティア活動や清掃活動に熱心なシスターフッドがそんな事故を起こすとも思えません。
(出来る事ならシスターフッドに関わりたくは無い…………でも、その彫像が凄く気になるんだけど)
エスミが本業としている専門は画家ですが、美術を苛烈なほどに愛する彼女にとって彫刻分野もまた愛を向ける対象の1つ。
只でさえ歴史あるトリニティ大聖堂に(紆余曲折はあったものの)足を踏み入れたと言うのに、その大聖堂でかつて飾られていたとされる彫像を目に出来ないのは非常に残念です。美術狂いなオタクである彼女の事ですから、新たに芽生えてしまったこの好奇心を抑えることはまず無理でしょう。
最悪この目で直接彫像を見ることが叶わないとしても、何故シスターフッドが彫像を飾ることを辞め、代わりに絵画を飾るという方向に走ることとなったのか、その謎を解明し真相を明らかにしたいと強く感じるようになっていました。
しかし『好奇心は猫をも殺す』という言葉があるだけに、そう迂闊に首を突っ込むのは非常に危険です。まずは自身の立ち回りを今一度確認し、チェリからの報告を待つべきでしょう。真相解明に動くべきか立ち止まるべきか、それを決めるのはそれからです。
「あの……何かありましたか?」
「……いえ、何でもありません」
おっとつい大好きな美術に思考を引っ張られてしまい、目の前にいるシスターの存在を完全に忘れていました。彼女のおかげでエスミは新たに興味をそそられる情報を得ることが出来た訳ですから、ここは何かシスターに対しお礼を伝えるべきです。
そこでエスミはわざとらしく咳を出して喉を整えると、突然シスターの両手を包み込むようにして握りました。
「ひやっ⁉」
「シスター。とても貴重なお話を聞かせて頂き誠にありがとうございます。貴女が話してくれた内容は私にとって非常に価値のあるもので、久しぶりに心を強く刺激されました。もし貴女さえ良ければ今後ともトリニティ大聖堂に関していくつかご質問をしても宜しいですか? 可能であればこれを機に知人という形で今後も少しばかり交流をさせて頂きたいと思っています。もちろん貴女のご迷惑にならない範疇に留めるつもりですが、如何でしょうか?」
「あ、あの……顔が、ち、近い……です‼ まずは落ち着いてください!?」
「ん? ああ、これは失礼しました。つい興奮してしまって」
「い、いえお力になれたのであれば光栄です。その……先ほどのお話ですが、私で宜しければ何時でもご協力致します」
「そうですか、ありがとうございます。ああそれと、最後にもう1つだけ貴女にお願いが」
エスミは『逸材を遂に見つけた』といった感想を胸中で抱くと、まるで道端で将来有望な人物を見つけたスカウトのような空気を纏わせ、シスター相手にこう口を開きました。
「是非とも私の作品のため、アートモデルになって頂けませんか?」
「ア、アートモデル……モデル……モ、デ、ル?……ええっ⁉ わ、私をモデルにですか⁉」
「はい、その通りです」
仮に大聖堂内をメインに描くにあたって、その神秘的で長い歴史を感じさせる建築物の中でアクセントとして描写されても一切の違和感を抱くことがなく、むしろその存在感を助長させるに長ける人物。
正にこの大聖堂で活動しているシスターフッドをおいて他にいません。
特に今エスミと会話をしているこのシスターは、清楚であると同時に生真面目で柔らかい印象を感じさせます。それこそ神に奉仕するシスターの理想的な人物像と言っても過言ではなく、エスミが悩むに悩んでいた作品の欠けている題材に彼女はあまりにも適任でした。
一方で肝心のシスターは唐突にお願いされた『アートモデル』の単語にかなり動揺をしているようでしたが、既に美術脳へと思考が切り替わっているエスミはもう止まりません。
その綺麗で整った美貌をフル活用するが如く、シスターに対し1歩2歩と距離を縮めたエスミは再度懇願するように言葉をぶつけます。
「お願いします。私には貴女が絶対に必要です。貴女の存在が、周囲に放つ雰囲気が、私の心を射止めました。不安に思う事かもしれませんが決して野暮に扱うことは致しません。その身を一切汚すことなく、懇切丁寧に扱うと約束致します」
聞く人によってはだいぶ誤解を招く言葉ですが、これでもエスミは本気ですし大真面目です。ただし多くの人々が行き交う回廊の場で堂々と口に出す言葉ではありません。現に周囲を歩いていた他のシスターや一般の生徒などが顔を真っ赤にしてエスミ達を眺めていました。
しかし、どうしても彼女をモデルにして作品を描きたいと欲が暴走しているエスミはもちろんのこと、半ば彼女に口説かれているシスターも間近にあるエスミの美貌や並べられた誘い言葉の数々に頭がパンクしているようで、2人そろって周囲の事はまるで眼中にありません。
「……何してるんですか、師匠……」
そんなこの場を行き交う生徒達が自然と足を止めてしまう異様な光景が広がっている中、どうやらシスターフッドとの話を終えて来たらしい小樽チェリは、眉をひそめて自身が敬愛する師匠の姿を遠くの方から眺めていました。
(まったく……変に野次馬が出来ているから気になって見に来たけど、まさか師匠がシスターフッドを口説いてるなんて……これは絶対にナギサ様にお見せ出来ない光景だよ!! )
別にエスミは口説いている訳では無いのですが、遠く離れたチェリの場所からではエスミが手を握ったまま相手のシスターを間近で見つめている姿しか見えず、肝心の会話の中身は聞き取ることが出来ません。
まあ実際に交わしている会話もそこそこ誤解を生むような単語を発している訳ですが、遠目で見てもトリニティ内では知らぬ人はいないレベルで有名な栢間エスミが、とある1人のシスターを相手に夢中になっているとしか思えず好奇心からか段々と人が集まってきています。
となると当然、チェリのように状況を正確に把握出来ていない生徒たちの間でこんな囁き声が生まれてくるのでした。
「あら、あれは2年の栢間エスミさんではありませんこと?」
「そうですわね。確かティーパーティーの間でも注目をされているお方だとお聞きしているわ。噂にたがわず知性のある方ね」
「もー人が多くて見えないよ‼ ねえ、あれは一体何をしているの⁉」
「知らないの? なんでもエスミ先輩があのシスターに一目ぼれしたらしくて告白してるらしいよ」
「違う違う。エスミ先輩が困ってるところをあのシスターが助けてくれて、そのお礼として家に招待されたんだよ」
「ん? シスターって恋愛オーケーなの? というか家に招待とか凄すぎ。エスミ先輩、副業のおかげか裕福そうだもんね」
「皆が言ってるエスミ先輩ってあの有名な画家の人のこと? どれどれ……てっ、うわっ⁉ 噂で聞いてたけど本当に美人じゃん。何あれモデルなの⁉」
「そうだよねー。トリニティってお嬢様系の生徒多いけど、エスミ先輩って私たちと同じ庶民のはずなのに、あんな綺麗な姿見ると中々そうは思えないよね」
「エスミ様に口説かれるなんて羨ましいですわ‼ あの幸運なシスターは一体どこのどなたですの⁉」
「あらご存知ありませんでしたか? 彼女は今年シスターフッドに加入されたばかりの新年生にして、既に将来のトップの座が約束されたも同然の素晴らしい素質をもつお方、その名も『歌住サクラコ』さんになります」
「ええそうです。我々シスターフッドの間で既に多くの期待を集めている、正に将来有望な新星なのです。この機会に是非とも覚えてください。とはいえ、あのお堅いイメージの強いエスミ様を篭絡するとは中々の手腕です。流石はサクラコさん」
「なんか突然現れて説明し始めたんだけど、このシスター達……てか別に篭絡はしてないよね、あれ? むしろあのサクラコってシスターがされてる方じゃない?」
「まあそもそも画家に告白されるシスターってかなり珍しいよねー」
「あんな美人の先輩に間近で告白されても堕ちないって、あのサクラコって言うシスター中々強いメンタルをしてるわ」
などなど……真実から大きく剥離した誤情報が各地で出回っている中、チェリはふと耳にしたとある名前に意識をもっていかれました。
「……歌住……サクラコ?」
それは栢間エスミの弟子であるチェリとしてでは無く、桐藤ナギサに仕えるフィリウス分派のチェリとして反応した瞬間でした。
(最近、フィリウスの間でマークされ始めたって聞く重要人物の名前と同じだけど……そんな生徒が何で師匠と一緒に?)
先ほどまでのエスミに対する呆れやサクラコに対する嫉妬は何処へやら、チェリは目を細めて遠くにいる2人の姿を再び視界に収めます。その姿はさながら監視対象を観察している捜査官のようであり、加えてチェリが敬愛しているエスミに何の目的でサクラコが近付いているのか、その真意を確かめているようにも見えました。
ちなみに、今のところ彼女たちはまだ周囲の混乱に満ちた状況に気付いてはいないようで、2人だけで何やら必死に会話を交わしています。
生憎と気になる会話の内容を知る術はありませんでしたが、エスミが真剣に何かを話し、それをサクラコが困りながらも何度か頷いている様子から見てどうやら一部の生徒が話していた『告白』やら『家に招待している』というのはあながち間違ってはいないのかもしれません。
本当はエスミが必死にお願いしているアートモデルの件を渋々ながらサクラコが了承しただけに過ぎない話なのですが、このような状況下でそれを信じるような者は誰一人としていませんでした。
ちなみに、エスミが生きていた前世の四字熟語の中で『瓜田李下』という言葉が存在します。
君子行と呼ばれる詩を語源とした『李下に冠を正さず』と『瓜田に履を納れず』を合わせた語句であり、意味を大雑把に説明すると『誤解をされるような紛らわしい行為はしてはいけない』。
美術の事となると後先考えずに暴走してしまうエスミにとって、正に胸に刻むべき素晴らしい言葉とはなりますが、彼女がそれを真に理解するのはだいぶ後の事となるのでした。
小樽チェリについて
・栢間エスミの弟子にして、フィリウス分派に所属している桐藤ナギサの付き人。
・年齢15歳。身長およそ170センチ。緑色の髪をポニーテールにしている長身クール系美人(見た目だけは)だが、エスミとナギサが関わると割と暴走しがちの困った高等部1年生。
・かつてエスミの絵を偶然にも鑑賞したことで美術に魅了されてしまい、以降エスミを最大の推しとして崇め尊敬している生粋のエスミオタク。故に画家エスミの魅力を日々周囲に説きまわる布教活動に余念がない(この活動はエスミ非公認かつ本人は知らない)。
・ナギサには絶対的な忠義を誓っており、いわゆる忠犬属性持ちの生徒。
・フィリウス分派の生徒だが意外と交友関係は広く、公私混同はしないタイプ。
・普段は冷静で誰からも頼られる彼女だが、エスミ×ナギサのCPに対して人一倍興奮するややキモい一面がある。流石に自覚はあるのかこの件はエスミにだけ明かしており、ナギサの前では一切口に出そうともしない。
・こう見えて病弱体質。
・身長とおめでたいオタク脳に色々と栄養を吸われたのか、実はまな板である。
名前の元ネタは実在した芸術家、サンドロ・ボッティチェリ
(生1445~没1510)
美術に興味がない人でも一度は見たことがある【ヴィーナスの誕生】(1485作)を生み出した画家であり、メディチ家が統治していたフィレンツェを代表する芸術家の1人。
ちなみにボッティチェリとはあだ名で『小さな樽』を意味する。
もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)
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拳銃(M1911,グロック等)
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リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
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自動小銃(HK416、AK-47等)
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短機関銃(M1921、MP5等)
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小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
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散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
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機関銃(MG42、M249等)
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対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
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擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
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素手