夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない 作:木暮鬼一
「お待たせしました。こちらが頼まれていた資料になります」
ドンッ、とかなり分厚い書類が音を立てて机上に置かれると、まず始めに予想外の分厚さにキオの顔が歪み、次にエスミが面白そうに笑みを零しました。
一方でこの分厚い書類をわざわざトリニティ大聖堂から持ち運んできたチェリは額に僅かながら汗をにじませていると、なるべく早足で持って来たのか乱れた呼吸を整えています。
「小樽、わざわざありがとう。こんなにも量があるのは予想外だったけどよく運んできてくれたね。お疲れ様」
「いえ、師匠のお力になれるならこの程度の力仕事大したことはありません」
資料がある机を挟んで、向こう側にいるチェリに労いの言葉をかけるエスミ。するとチェリは笑みを浮かべて己の師に対し深く一礼を返しました。
対してチェリの隣にいるキオは訝しげな目で書類を見つめながら、恐る恐るといった様子でエスミに声をかけるのでした。
「エスミさん。彼女が運んできたこの目を疑う書類の山は一体何ですの?」
彼女はキオからの質問に対し、部屋の窓から見えるトリニティ大聖堂に視線を向けます。
「これはあのトリニティ大聖堂で長い間保管されてきた、美術作品の全ての記録や情報が保存されている資料だよ」
「これまでの全てをまとめた資料!?……ちょ、ちょっとお待ちになって。エスミさんは、あの大聖堂が建設されて今年で既に何年になるのか、しっかりと理解されたうえで仰っているのかしら!?」
「もちろん。それを考えてみれば、この量で済んでいるのは幸運だったかもね」
「とても1日で終わるような量ではありませんわよ!?」
驚愕といった様子でキオは声を荒げますが無理もありません。
この3人の中では背丈も体格も上のチェリだからこそ難なく運んできましたが、この資料の量は決して楽観視できるものでは無く、1枚1枚目を通すだけでも途方もない時間を費やす事になりそうです。
何よりこうして3人が集まっている美術室で、この山のような資料をばらまいてしまえば部屋中隙間なく埋める事が可能でしょう。
最初に資料の山を見たキオが途端に表情を歪ませるのも当然と言えます。
「師匠。私もシスターフッドからこの資料を受け取る際、友人である若葉ヒナタに事情を説明したところ、キオと同じでかなり驚いていました。私と同じ1年生でありながら既にシスター達の間で〝ワーカホリック〟として有名なヒナタが驚くほどの量です。流石に我々3人だけで中身を全て確認するのはいくら何でも無理があるのでは?」
「そうは言っても美術部の活動を再開した時には、面倒な手続きや整理に掛かりっきりでこの資料に目を通す時間は無くなるだろうし、新入部員に手伝わせる訳にもいかないからね……」
「貴女はそう仰るけれど、そもそもエスミさんはこのような書類をシスターフッドから取り寄せて何をされたいのかしら? 私は今日、貴女に部の活動再開前に事務仕事を手伝ってほしいと呼ばれて来ただけでして、肝心の仕事の詳細に関しては何も聞いていませんわよ」
背中で広げている羽をゆらゆらと揺らしながらキオが不満の言葉を口にします。
エスミは『ごめんよ。説明不足だったね』とその綺麗な表情を苦笑いへと変え、事の説明を始めました。
「まず今回、シスターフッドから過去の資料を取り寄せた理由は大きく分けて2つ。1つ目は美術部の活動再開にあたって今後はティーパーティーから優先的に依頼を受ける事になる訳だけど、ティーパーティーだけじゃなくシスターフッドからも制作依頼を受けることが決まってね」
「シスターフッドから? 慈善活動に熱心な団体にしては少し意外ですわね……」
「ここ最近は老朽化した区画の修繕工事やリニューアルで大聖堂もだいぶ変わってきたからね。信徒に限らず、より多くの生徒にも気軽に足を運んで欲しいという願いもあってか積極的に美術作品を飾ることにしたらしい……これは本来、外部から名の知れた芸術家の作品を買い取るものだけど、私が部長となって美術部を率いると正式に発表されてからは、是非とも美術部に依頼を受けて欲しいと言われてね。部員にとっては良い経験になるし、何より政治とは距離を置いている組織でもあるから、せっかくだし引き受ける事にしようと思って」
「あら、そういう事でしたのね。確かに基本高額な取引が中心となる美術作品の注文と調達はそう簡単なものでは無いですわ。むしろエスミさんと私達がいらっしゃる美術部の作品であれば、知名度も調達も、何なら問題が起きた際の対応も全て解決することになる……向こうも考えましたわね」
しかしそこでキオは目を細めて首を横に振ります。
「ですがその件とこの資料に何の関連性があるのかしら?」
彼女が疑問の声を上げた途端、エスミはすかさず指を2本立てました。どうやらこの後は 2つ目の理由を説明するようです。キオは肩をすくめて腕を組み、チェリは相も変わらず背中に腕を回した状態で直立不動の姿勢を取ります。
「シスターフッドは知っての通り普段は慈善活動をしているとはいえ、今もなお神を深く信仰している組織。いくら向こうの願いで依頼を受けたからといって、ただ無難に作品を作れば良いという訳にはいかないからね。過去にどんなテーマの作品を飾り、人々にどう感じてもらいたいという思惑があったのか、また今のシスターフッドは以前に比べて何を目指し変化しているのか……それを知る為に、わざわざこうして膨大な数の資料を取り寄せたというわけなんだよ」
「なるほど流石は師匠です。大聖堂とシスターフッドはどちらもトリニティの中ではかなり歴史が長いですから、思想や活動の変化はどうしても起きるはず。むしろその傾向や流れを把握出来れば、今後も似たような制作依頼が来た際にすぐ作品のテーマが決まると言う事ですね」
「貴女はエスミさんの直弟子とお聞きしたけれど、むしろ全肯定Botみたいな方ですのね……まあ、シンプルとはいえ理解出来るお話でしたわ」
しかしながら、もはや山と称してもおかしくはない量の資料をこれから相手にする訳ですから、キオは絶望を含めた深い溜息を吐きます。
「はぁ……では、そうと決まれば早速取り掛かりますわ。ちなみにチェリさん、この資料の扱いに関してシスターフッドから何か忠告は受けていらっしゃるの?」
「いや、シスターフッドからは特に何も。強いて言えばかなり年代物の書類があるので取り扱いには注意してほしい、という事ぐらいしか言われていないです」
「ふむ……となれば、作業は慎重にかつ丁寧に行う必要がありますわね」
「本目の言う通り。今回は特別に許可を貰っているとはいえ、これはシスターフッドが保持している大事な機密資料だからね。外部に漏れないよう私達3人で借りている間は厳重に管理をしておく必要があるし、場合によっては適度にシスターフッドに立ち合って貰うのが良いのかもしれないけど……」
「それは名案ですわ。とは言っても上級生のシスターに来て頂くわけには参りませんわね。せっかく新しい首脳陣で美術部が再出発されるのですから、私達と同じ年頃のシスターに来て頂き、これを機に年を重ねて徐々に親睦を深めると致しましょう。チェリさん、先程お話に出ていた貴女のご友人のシスターですが、早速この件に関わって頂けないかしら?」
そう尋ねられたチェリでしたが、彼女の期待とは裏腹に申し訳なさそうに首を横に振りました。
「ヒナタは今、受け持っている仕事があまりにも多くて手が離せないようなので恐らく無理ですね。只でさえ大聖堂で物品管理の業務を担当しているので美術部に足を運ぶ余裕は流石に無いかと。むしろ副部長という役職に異例にも私達1年生を抜擢させた師匠の方こそ、この状況に適した人物に心当たりがあるかと」
「あら、そうですのエスミさん?」
彼女の言葉につられて、キオの好奇心に富んだ瞳がエスミにぶつけられます。
するとエスミは苦笑いと共にこう零すのでした。
「確かに、いるよ……もう会うことは無いと思ってはいたけどね……」
「……?」
その意味深な言葉にキオは自身の眉を僅かにひそめましたが、今更彼女の人脈の広さや心情について問う事はせず、すぐに意識を切り替え『では早速ですが、その方にご連絡をお願い致しますわ』とエスミに言葉を返すのでした。
《1―2》
「再びエスミさんにお会いできるとは思いもしませんでした。数か月ほど前に、恥ずかしながら絵のデッサンで私がアートモデルになって以来の再会でしょうか? お元気そうで何よりです」
ペコリ、深く礼儀しいお辞儀と共に綺麗な声色で挨拶を口にしたのは、シスターフッドの若き有望株こと歌住サクラコになります。
一方で美術部の部室で彼女を出迎えたエスミは、小さく頭を下げ『久しぶり』と挨拶を返すと、サクラコを傍の椅子に座らせます。
「大聖堂の補修工事で忙しい中来てもらってごめん、歌住。無理を言ってシスターフッドからお借りした大事な書類だから〝もしも〟の場合に備えておきたくて……」
「エスミさんの事情については先輩のシスターから既に伺っています。何でも例の大聖堂が保管している美術作品をまとめた資料が、皆様の美術製作に必要不可欠であるとか……私のような新米のシスターがお力になれるのなら、喜んで本件に手をお貸しいたします」
「……そう。別にそう熱意に溢れなくても構わないのに相も変わらず真面目だね、君は」
原作本編でも生真面目なキャラを突っ走って周囲に誤解を与えていた人物なだけはある、
と内心で感想を抱きながらエスミは机上にシスターフッドから借りた資料のいくつかを広げました。
サクラコはその広げられたリストに視線を向け、驚きかもしくは恐怖の溜息を吐きます。
「……こちらが、トリニティ大聖堂で管理されている美術作品の全てをまとめた資料……凄いですね。こんなにも多くの作品をシスターフッドが所持していたとは……」
「大聖堂を活動拠点にしているのに、歌住はこの資料を見るのは初めて?」
「はい。私は生徒の皆様のカウンセリングや大聖堂内の掃除、そしてシスターフッド関係の事務仕事が主な担当になるため、備品の管理や保全といった裏方の仕事は別の方々が担当されています。それにエスミさんが机に広げられた資料は今から数十年以上も前の代物……本来であれば、外部への持ち出しが禁止されている貴重な書類になります。存在そのものは以前からお聞きした事がありましたが、こうして現物を見るのは私も初めてになります」
「……なら余計に取り扱いには注意しないとだね」
口ではそう言うものの、底のない深い深い美術愛を抱くエスミにとってこれから目にするのは未だに一般公開されていない美術作品の数々が事細かく記載された代物になります。美術オタクであるエスミからすれば、もはやこれは聖書と言っても過言ではありません。
言うなれば歴史ある古い図書館の倉庫から、年代物の図鑑を取り出してきたようなものであり、今とは違った記述形式や文字の羅列を目に出来るのです。多少は血が騒いでも仕方がありません。
「ところで、もし仮にこの書類が破れたり紛失なんかした場合は、シスターフッドからどんな処罰が下るのかな?」
「しょ、処罰ですか?……えっと……そ、そうですね。正直シスターフッドが美術作品の展示や管理に前向きになったのはごく最近の事ですので、損害に対する明確なルールが既に定まっている訳では無いのですが、この中にある年季の古い書類などを万が一にも紛失または欠損した場合は……賠償金、もしくはボランティア活動という形で代償を支払って頂くことになるかと……」
「なるほど……賠償金ね。いくら払えるかな……」
「ば、罰を受ける前提で作業をされるおつもりなのですか?」
酷く慌てた様子でサクラコがおろおろと椅子の上で揺れると、エスミは微笑して『冗談だよ』と新米シスターの彼女からすれば中々に心臓に悪い会話をするのでした。
「けど特別に許可を貰って大聖堂から運び出したことに変わりはないからね。歌住も、もし私の行動や資料の扱いに何か問題があれば遠慮なく注意してもらって構わないから」
「しょ、承知しました。エスミさんや他の皆様からの期待、そしてシスターフッドを代表して来ている以上、しっかりと己が役目を全う致しましょう」
小さく笑みを浮かべる彼女。その笑みが一体何を意味しているのか、少なくともエスミ自身としては会話の流れから本件に対する彼女なりの意気込みを感じましたが、見る人によってはいらぬ誤解を抱きそうなだと密かに思うのでした。
《1―3》
「何やらあのお2人、とても仲が宜しいですわね」
「……別に。師匠にとっては普通の光景ですけど、何か?」
「どうして私に対して怒っていらっしゃるの、貴女……」
さてエスミとサクラコが未だに終わる事のない会話を続けている中、広々とした美術室の片隅にて既に資料を漁っている最中のチェリ、キオの両名は遠くにいる彼女達に気付かれないよう小声でそんな会話をしていました。
「それはそうと、あのシスター……サンクトゥス分派の間でよく名前が上がっている有名人ですわね。能力と人望共に文句はなし、シスターフッドにおいて未来のリーダー候補とさえ言われている方……意外な方と交流があるのね、エスミさんは」
普段なら画材等が置かれているテーブルに数多の資料を積み上げ、1つずつ丁寧に確認をしながらも、キオの目線は先ほどから時々サクラコに向けられています。
その目にあるのは好奇心か、もしくはサンクトゥス分派と対立する恐れがある危険人物か否かを見定めているのか……彼女と同じく作業中のチェリはそんな姿に肩をすくめました。
「歌住サクラコ。私達と同じ1年生でありながら、既にシスターフッド内で多くの人望を集めているだけでなく、人を率いる能力にも秀でた優秀な生徒です。ただし時として他人を扇動し、自身の望む結果を得るためなら手段も問わないとも噂されている方なので、フィリウス分派では密かにブラックリスト候補として注目されている生徒でもありますね」
「ブラックリスト……そのような噂をお持ちの方が、ああしてエスミさんと間近でお話しされているのに、よく平然としていられますわね貴女?」
「師匠があの程度の人間に簡単に騙されるとでも?」
「……貴女に尋ねた私が間違っていましたわ」
強火オタクというのは正に目の前にいるチェリのことを言うのだろう、とキオは面倒そうな表情を浮かべながら思いました。
どうもこのチェリという同い年の生徒は、異常なほどエスミに心酔しているようです。その姿はもはや信者そのものであり、よくこれで彼女の一番弟子が務まるものだとキオは心底呆れました。
「まあ、あのサクラコさんに関しては噂を鵜呑みにする事は無いですわ。あの方はああ見えて、苦労人と生真面目を合わせたようなお人よ」
「……どうして今日初めて彼女に出会ったキオにそんな事が分かるんですか?」
「この目があるからよ」
アイパッチが施されている片眼鏡を外し、キオは露わとなったもう片方の瞳をチェリに向けます。
「そういえば、キオはいつも左目を隠していますね。何か理由が?」
「私、生まれた時から左目の視力が異様に高くて……それに何と言うのかしら、この左目で対象を見ると……相手の気を感じることが出来ますの」
「……えっ、気?」
呆気に取られた様子でチェリが首を傾げると、キオは口元に手を当てて笑い出します。
「その顔……フフフ、滑稽ですわね」
「……当り前じゃないですか。いきなり『気が見える』とか全く訳が分かりません……キオはいつから超能力者にでもなったんですか?」
「失礼、先ほどはあまりにもザックリとした説明でしたわ。そうね……より正確に言えば、その対象の感情が〝色〟で見えますのよ」
「???」
ますます意味が分からないといった様子で、チェリは思わず腕を組んでキオを睨みつけます。自分をからかうな、とでも言いたいのでしょう。
クール系の美少女である彼女がその姿勢をすると妙に様になるのですが、いかんせん先ほどの呆気に取られた姿が記憶に新しく、相変わらず笑みを浮かべたままキオは説明を始めます。
「チェリさんは【共感覚】という言葉をご存知ですわよね」
「ええ、まあ一応……1つの刺激を受ける事で、通常の感覚とは異なる種類の感覚も自動的に生じるとかいう、あれの事ですよね……?」
「そうですわ。文字に色を感じたり、匂いや味に明確な形を感じたりするなど、共感覚と言ってもその種類は様々。私の場合、この左目がその共感覚を発生させるトリガーとなっていますのよ」
チェリは彼女の左右で色の違う瞳、いわゆるオッドアイを見つめながら小さく息を吐きました。
「オッドアイなのも、実はそれが原因ですか?」
「まあ、そう思って頂けると幸いですわね。実のところ私も詳しい事情は知りませんの……ただ右目で見る分には何も問題はありませんわよ? 現にほら……こうして左目だけを隠せば、チェリさんが今抱かれている感情は何も分かりませんもの」
再びアイパッチで左目を隠し、キオは手をひらひらと振りながら満足そうに語りかけます。
「この能力に慣れるのは大変でしたわ。何しろ相手の感情が丸わかりになりますのよ? 私、こう見えても出身地ではそれなりに有名なお嬢様でしたの。ですから下心や敵意を隠しながら接して来る方々を常に相手にするのが嫌になってしまって……態度だけは誤魔化せても、その心の中にある感情はこの左目では誤魔化せない。ですからこうしてアイパッチを使用することで、なるべく人前で両目を晒すのは控えるようになったのよ」
「随分と……生きづらいように見えますね」
「貴女の言う通りですわ。これでも私の身体の一部として生まれ持った目……ただその能力を拒絶してしまっては、共に生きて行くことなど到底出来ない。ですから私はこの左目を生かすことの出来る何かをずっと追い求めてきましたの…………そうして、他愛もない日々を送ってしばらく経った頃、私はあるパーティーにご招待された先で偶然にも1つの彫像を目にしましたのよ」
気付けば、向こうで会話しているエスミやサクラコに対する意識は既に削がれ、チェリは目の前にいるキオの顔だけをただ見つめ、その彼女の口から出てくる言葉に真剣に耳を傾けていました。
「その彫像はその地区で功績をあげた偉人を模した作品でしたわ。迫力のある力強いポーズと共に顔はかなり険しかったですわね……でも、この左目に映った色はまさかの黄色でしたわ」
「黄色……芸術においてそれは〝喜びと光悦〟を意味する色でしたね」
「ええ。今から強敵を相手にするかのように顔は極めて険しいのに、その彫像から溢れ出ている色はまさかの喜び……その時、私はこう思いましたわ。この目を以て、その物体に宿る感情を再現した作品を自身の手で生み出してみたいと……いわば、私が彫刻家として誕生したきっかけとも言えますわね」
利き手を使って自身のアイパッチを静かに撫でる彼女。
チェリは黙ってその仕草を眺めます。
「それからの経緯は初めて貴女にお会いした際に説明した通りよ。私は彫刻家として生きる事に熱意を注ぎ、ひたすら作品を生み出し続けた先でサンクトゥス分派のお抱えの彫刻家として拾われた。奇しくも、サンクトゥス分派は珍しく〝目〟に秀でた方々が多く集う分派。私のような変わり者なんて、そう珍しくはありませんでしたわ」
「そっちはそうでも、私は違いますけどね……師匠はこの事を知ってるんですか?」
「あの方に美術部の副部長になって欲しいと直にスカウトされた際、こちらから全てお話ししましたわ。思えば、エスミさんは快く受け入れてくださったわね」
「その時は、アイパッチを外して?」
「ええ。他でもない、エスミさんからのお願いでしたもの……その時の彼女の色は確か……フフ、さて一体何色だったかしら?」
とはいえ当時のことを鮮明に覚えてはいるのでしょう。
しかし知らない振りをしてチェリをからかう彼女に対し、気になる内容を教えて貰えなかったチェリは、もう彼女に興味は無いとばかりに視線を手元の資料に落としました。
「何であれ、貴女の奇妙な謎が知れて少しばかりホッとしました。前々からその左目が不気味だと思っていたもので」
「随分と容赦なく言われるのね、貴女。左目を使わなくても大体の色が分かってしまいそうよ」
「でしょうね。恐らくきっと……紫ですよ。私の色は」
「あら奇遇ですわね。私もそう思っていましたわ」
その瞬間、2人は視線を交わすと互いに意味深な笑みを浮かべました。
元より、双方ともに対立しているサンクトゥス分派とフィリウス分派に所属する者。尊敬するエスミの下で芸術を磨く者同士とはいえ、相容れぬ部分も確かにあるのです。
「ところでその左目ですけど、是非とも今度ナギサ様と師匠が一緒に居るところを見て頂いて、その時の2人の色を私に教えてください。是非とも」
「貴女、私の左目は人間観察用の道具ではありませんわよ?」
「なら今度、私の実家が携わっている事業のおかげで手にした良い石材を格安で売ります」
「良いですわ、取引成立ね」
しかしながら妙に気が合うのもまた事実でした。
ちなみにチェリが頼んだ観察の件は、直前でエスミに見付かってしまい禁止となりました。
本目キオについて
・サンクトゥス分派専属の彫刻家であり、セイアの数少ない親友。
・身長159。アップスタイルにしている青い髪と羽を持ち、赤と緑のオッドアイが特徴の美術(彫刻)オタク。
・非常に優れた共感覚と呼ばれる能力を持って生まれ、普段はアイパッチで隠している左目で物や人を見るとその対象物の色が分かり、また見えた色からある程度の感情すら把握できる。
・自身の在り方すべてを受け入れてくれたサンクトゥス分派に多大な恩を感じており、分派そのものへの忠義が大変厚い。そのためフィリウス分派に所属しておきながら忠義は全てナギサ個人に捧げているチェリとは相性が非常に最悪であり、普段は彼女と罵り合っていることが多い……というより何なら互いに大嫌いである。
・エスミに対しては共に芸術家として大成している者同士、かつ美術オタクという事もあり一定の尊敬を向けているものの、基本的にその感情は〝同志〟のそれに近い。
・実は頭に血が上ると口論よりも先に拳が出るタイプ。
名前及び人物の元ネタは実在した芸術家、
アンドレア・デル・ヴェロッキオ
(生1435?~1488没)
世界的に有名な芸術家【レオナルド・ダ・ヴィンチ】を10年以上にも渡って育て上げた師匠であり、同時にダヴィンチを含めたルネサンス盛期を代表する三大巨匠【ラファエロ・サンティ】と【ミケランジェロ・ブオナローティ】の2人それぞれの師匠を育てた、いわゆる〝大師匠〟とも言える存在。
ヴェロッキオとは向こうの言葉で『本物の目』を意味しており、事実として彼の工房では非常に優秀な弟子が多く集っては大成し、彼自身も弟子の育成技術が非常に長けていたのみならず、芸術で多くの名作を生み出した。
既に工房の親方としての資格を持つことが許されたダヴィンチが、資格を得た後も依然として彼の下で教育を受けていたとされる記録が残されており、彼の影響を濃く受けていた。
(いかんせん、弟子のダヴィンチが有名になり過ぎてヴェロッキオの存在が薄くなりがちではあるのだが)。
またヴェロッキオは画家、彫刻、建築、学問、音楽、全てにおいて優秀な才能を開花させており、あの『万能の天才』と謳われたダヴィンチの師匠なだけあり、芸術に活かせる技術や知識は貪欲に詰め込んでは作品に反映させていった。
もっとも、彼が一番熱中していた分野は彫刻または金細工や鋳造であり、生前から彼が生み出す絵画は周囲からの評価が高いにも関わらず、人生後半は彫刻に没頭していた。というより元々彼の専門分野は彫刻である。
とはいえそんな彼は当時の時代情勢も関係するとはいえ、支援してくれるパトロンを頻繁に変えてしまう芸術家にしては非常に珍しく、生まれ育ったフィレンツェを長きに渡り支配していたメディチ家の当主『コジモ』『ピエロ』『ロレンツォ』の三大に亘って、没するその瞬間まで仕えていた(一応時の教皇に作品を制作したり、晩年はヴェネツィアに移住はしていたが)。
ちなみにチェリのモデルにさせて頂いた【サンドロ・ボッティチェリ】より10歳年上で、一時はヴェロッキオの工房にボッティチェリ自身が訪れ共に作業をしていた過去がある。
そのため後世ではボッティチェリもまた、ヴェロッキオの弟子の一人とする見方があるものの、当時から残されている文献では工房の弟子名簿に彼の名前は載っておらず、あくまでも共同作業者として共に作業をしていただけ、とする説が有力とも言われている。
もちろんダヴィンチ同様に、ボッティチェリが彼から受けた影響はかなり大きく、後世に残る作品にはヴェロッキオからの影響を受けたと思われる絵画様式が多数発見されている。
もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)
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拳銃(M1911,グロック等)
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リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
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自動小銃(HK416、AK-47等)
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短機関銃(M1921、MP5等)
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小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
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散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
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機関銃(MG42、M249等)
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対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
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擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
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素手