夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない   作:木暮鬼一

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本日で遂に、この作品を初めて投稿して半年が経過しました。

未だ原作本編にすら突入していないにも関わらず、読んで頂きありがとうございます。
最近は1話につき1万文字超えが当たり前となっていて、読むのも大変かと思いますが更新する度に読んで頂きありがとうございます。
感想も、誤字脱字チェックの報告も、全てモチベーション維持と共に大変助かっています。
2年生編は来週の月曜に投稿する話をもって終了し、あとは3年生編さえ終われば本編に入ります。

大まかな話の流れは既に作っているので、あとは中身を執筆するだけですが……リアルの仕事も忙しい時期に突入したので、焦らずゆっくり更新していければと思っています。

話は変わりますが、そろそろナギサ&ミカの新衣装来ても良くないでしょうか?
実装してください運営様。



栢間エスミ 『消えた彫刻』

 

 

 

 シスターフッドの新米、歌住サクラコは基本主な活動場所が大聖堂のみと限定されている事情からか、どうも学園内の噂や世間の流行に疎い一面がありました。

 

 それはもはや度を超えていると言っても過言ではなく、上級生や同学年の間で当たり前のように話題に出る有名人、栢間エスミに直接会うまでその存在を知らなかった程です。

 とはいえ庶民出身の生徒の中にも、サクラコ同様にエスミの存在はおろか噂さえ知らない者もいるわけで決してサクラコだけが異常という事ではありません。

 

 それに有名人でもあるエスミと出会い、挙句にはアートモデルという体験までさせてもらったことで、普段は大聖堂で一般生徒相手にカウセリングを担当しているサクラコの下にはエスミの過激なファンやガチ恋勢、もしくはエスミと懇意になりたい生徒達の多くが彼女のアドバイスを求めて大聖堂に足を運ぶようになりました。

 いわばシスターフッド本来の活動に少なからず影響を与えたのです。

 

 もっともサクラコ自身、自信を持って他人にアドバイスを下せるほど栢間エスミという生徒のことを深く知っている訳ではありません。ですが学園内でも5本の指に入ると言われるほどの有名人である彼女と接点を持ち、あまつさえアートモデルとして公衆の面前でスカウトされたのは覆ることのない事実です。

 おかげでシスターフッドの間では『あの栢間エスミを虜にしてみせた!!』とか『派閥に属さない一匹狼のエスミに接近して交流を深め、遂には彼女の信頼を勝ち取ってみせた期待の新人!!』といった内容でやたらと事実が誇張されては周囲から強い尊敬を集めるようになり、当のサクラコ本人が知らないだけで現在組織の中で一番出世街道を突っ走っていました。

 

 ただし一応訂正しておく事があるとすれば、当時エスミについて詳しく知らなかったサクラコは、ただ大聖堂内で困っている(実際は誤解でしたが)彼女を助けるつもりで声をかけただけであり、それがまさか後の自分に恩恵をもたらす事になるとは思いもしなかったに違いありません。

 

 そして今日、サクラコは再びエスミとの間で交流を深めていたのでした。

 

「エスミさん。そちらの資料ですが紙の材質を見るに50年ほど前の代物のようです。くれぐれも扱いにはご注意ください」

「なるほど。気を付けるよ」

「こちらの資料は……おや、既に年季が入っていてボロボロのようですね。こちらは経年劣化による破損ということで我々の方で対応致します。エスミさんは引き続き作業の方を続けてください」

「ありがとう」

 

 美術作品が事細かに記載されているリストや資料を1枚1枚丁寧に確認していきながら、 時たまに起きる問題や処置についてサクラコは悩むことなく適切な対応を取り続けます。

 それは離れた場所でエスミと同じように作業をしている副部長のキオやチェリに対しても同じであり、あまりにも優秀なので時々彼女たちの方から対応を求めてサクラコの下に歩み寄って来るほどでした。

 そうして時には雑談を、また時には彼女たちから美術に関する雑学を教えて貰いながら、気付けばサクラコはこの時間を非常に心地良く感じていました。

 

(皆さん、とても楽しそうですね。特にエスミさん……普段は澄ました顔をされていますが、先程から常に目をキラキラと輝かせていて……美術の事になると、エスミさんでもああいう表情もされるのですね)

 

 これでも親しいシスター仲間や生徒達からの話で、栢間エスミは大の美術好きであると聞いた事はありました。

 そもそも本業として画家活動をして成功を収めている訳ですから美術が好きなのは当然と言えばそうなのですが、人によっては『異常だ』だの『狂ってる』だのと褒めているのか貶しているのかよく分からない評価も口にする者がいた為、本当の真意は分からないでいました。

 

 それに以前、アートモデルとしてサクラコが彼女の創作活動に協力していた時は、エスミは常に真剣な表情でキャンバスに筆を走らせており、とても美術好きの人物が見せる一面とは当時は思えず、好きというより〝仕事〟として美術に向き合っているのでは勘違いしたほどです。

 

 しかしそれがどうでしょうか?

 

 今の彼女は資料を手にしながら時々笑みを零したり目を輝かせたりして、年相応な少女らしい可愛い一面を覗かせていました。普段はやけに大人びた振る舞いをしているだけに、いくら彼女でも大好きな美術となると流石に素が現れるようです。

 この姿を見れば『大の美術好き』という周囲からの評価にも納得がいきます。

 

「……エスミさん。少し宜しいかしら?」

 

 さて、ぽわぽわした暖かい空気に包まれ、知らぬ間にサクラコの意識が沈みかけていたその時、離れたところで資料漁りをしていたキオが唐突にエスミの下へとやって来ました。

 

「本目、どうかした?」

 

 アイパッチが施された片眼鏡を左目に掛けている少女はエスミからの問いかけに『まずはこれを見て頂けるかしら』といくつかの資料を目の前に広げます。

 どれも今から数十年以上も前に記録された美術作品を詳細に記録した資料になります。紙の材質や状態を見るに取り扱えない程痛んでいる訳では無さそうですが、キオが言いたいのはそこではありませんでした。

 

「この資料に載っている年代別に別けられた作品リスト、明らかに途中でパッタリと記録が途絶えているモノがありますわ」

「……よく見せて」

 

 訝しげな顔でキオを見つめたエスミはそのまま彼女の言う通り資料を睨みます。傍では作業の手を止めたサクラコが何事かと視線を彷徨わせていました。

 

「……本目の言う通りだね。この資料に記されている年代……詳しく言えば1世紀以上も前の年代に入ってから、トリニティ大聖堂は今に至るまで〝彫刻作品〟を全く管理しなくなっているね」

「彫刻……ですか? あの、それが何か問題でもあったのでしょうか?」

 

 サクラコが疑問の声を上げるとキオは彼女に対し説明を始めました。

 

「今の時点で私達が資料から確認出来た古い年代はおよそ数百年以上も前……その年代から今日に至るまで大聖堂は実に多くの美術作品を仕入れ、管理をされて来ましたわ。絵画、 ステンドグラス、彫刻、柱、装飾された家具などなど……どれも定期的に点検や保全がされ、こうして記録として今日に至るまで残されている……」

 

 キオは続けて『シスターフッドの備品管理の徹底さは見事ですわね』と感嘆の息を吐きました。

 

「しかしそれがある年代を境にして突然、新しく作品を仕入れるどころか管理の記録さえ付けなくなったモノがありましたの」

「それが先ほど口にされた、彫刻という事ですね」

「ええ。そもそも教会が彫刻作品を管理し、飾ると言うことは神への信仰……または信徒に向けて教義を広めることが目的となりますわ。他にも英雄性を讃えるために教会関係者や聖職者をモデルにして彫刻を作ってもらう事も多々ありますわね。どちらにせよ、本来は教会と彫刻作品の関係性は強いはず……それが突然前触れもなく繋がりが途切れてしまった、と。芸術に秀でた者ならば、この事実に疑問を抱くのはむしろ当然のことですわね」

「歌住は初めて会うから知らないかもしれないけど、本目はサンクトゥス分派お抱えの優秀な彫刻家だからね。画家を本業としている私や小樽に比べて、彼女が持つ彫刻関連の知識や経験はかなり群を抜いている。他でもないそんな彼女が『これはおかしい』と疑問を抱くんだ……この件は他にはない特殊な事例という事になるね」

「エスミさんにそう言って頂けて大変光栄ですわ。しかし貴女の方こそ、元々この彫刻の件に関して前から疑問を抱いていたのではなくて?」

「えっ、そうなのですかエスミさん?」

 

 備品管理は本来サクラコの担当外とはいえ、シスターフッドの一員として活動を始めてもう半年以上が経過しています。

 そのサクラコに比べて、組織の人間ではないエスミが彫刻の件で始めから疑問を抱いていたと言うのですから驚きでした。

 

「ふふ、そう驚くことでも無いよ。随分と前に……それこそ君と初めて会話をした時、以前は彫像作品が飾られていた区画の事を私に話してくれたでしょ?」

「えっ、は、はい。確かにその話をしていた記憶はありますが……もしかして、エスミさんはその時から疑問を抱かれていたのですか?」

「疑問、というより違和感かな。過去に大聖堂で彫像を飾っていたなら、どうしてそれを再び飾ろうとしないのか。代わりに絵画を飾るといっても、新しく作品を仕入れて管理する手間を考えたら以前のものを引っ張ってくるだけで十分だからね」

「つまり、この資料と先ほどのエスミさんの発言を組み合わせると、シスターフッドもしくは大聖堂は過去に〝ある事情〟から彫刻作品を完全に手放すことにした、という事になりますわね」

 

 椅子に座っているサクラコは膝の上で手を握りしめ、恐る恐るといった形で口を開きます。

 

「それは……シスターフッドが過去に表沙汰に出来ない何かに加担し、その証拠隠滅を図ったかもしれない……という事でしょうか?」

「うーん……確かに私も最初はそれを考えたよ? だけどシスターフッドは元々慈善活動には熱心で、カウンセリングで生徒達の相談に乗る事もあるから必然と秘密事は多くなる組織だからね。確かに表沙汰に出来ない何かをしていた可能性は捨てきれないけど、それを長いこと秘密に出来るとは正直思えない」

「いかなる組織も人も、秘密はそう長く隠し通せるものではありませんわね。丁度私が所属しているサンクトゥス分派も去年……ああ、これはサクラコさんには関係がありませんわね」

「……まあ、そういう事だからシスターフッドの件に関しては別に不安を抱くことは無いかな。むしろこれは宗教上の理由が原因として関わっていそうだからね……」

 

 肩をすくめたエスミに反応するように、キオとチェリも小さく頷きます。

 ただし状況をよく理解出来ていないサクラコはただただ首を傾げるのみでした。

 

「宗教上の理由……ですか」

「そう。そもそもの話、大聖堂に彫刻作品が飾られる一番の理由はさっき本目が説明したように神への信仰と教義を広めること。という事は、信徒や人々にとって大聖堂にある彫刻作品は全て『信仰するべき対象』として見る事になる。これは理解出来るよね?」

「え、ええ……私も1人のシスターとして聖書や聖職者に関する知識は一通り学んでいるつもりですので……もし聖職者の方々をモデルにした彫刻作品を目にすれば、私も他の方々のように信仰の対象として扱っていたかもしれません」

 

 そう口にすると、エスミは机の上で腕を組み険しい顔つきになりました。

 

「なら、もし彫刻作品に信仰を捧げるのがそもそも〝間違い〟だったとしたら?」

「……っ!? エ、エスミさん!! それはつまり……!?」

 

 ここまで来ると宗教問題やデリケートな部分に一番敏感な組織に身を置いている者として、 サクラコも何やら察したのでしょう。

 キオがエスミの後を引き継ぐ形で会話を続けます。

 

「いわゆる【偶像崇拝】と呼ばれるものになりますわね。神は唯一無二である、という考えが浸透している宗教であれば、神以外の存在に信仰を捧げるのはあってはならない事。となれば、イコンという形で生み出された彫刻作品を教会で飾るのがそもそも間違いだと、過去にシスターフッドの内部や外部問わずに声が上がっていた可能性も捨てきれませんわ。それらの事情を踏まえ、管理していた彫刻作品の全ての管理を投げ出し、扱う事を禁止した……今の所、この説が有力そうですわね」

「ではシスターフッドは過去に大規模な宗教改革が起きていたという事ですか? しかしそのような話、シスターの私は今まで一度も聞いたことがありません……!!」

 

 そもそもトリニティ総合学園という長い歴史を誇る学園に拠点を置くシスターフッドが、 そのような大規模な改革を過去に行った場合、基本生徒だけで運営をしている自治区は宗教に関連する政治を含めて大変な事になっていたはずです。

 それこそトリニティの歴史そのものに記録として残されるような出来事になっていた事でしょう。

 しかしサクラコだけではなく、エスミ達も含めて皆トリニティの生まれでありながらそのような出来事が過去にあったとは歴史で習ったことがありません。

 その点はキオも重々承知しているらしく、肩をすくめました。

 

「もちろん先ほどの例はあくまでも有力な説の1つに過ぎませんわ。実際に宗教問題が起きたものの、表社会に出る前に崩壊したとも言えますものね……他に有力な説があるとすれば……そうですわね、彫刻作品そのものに問題があったという事ぐらいかしら?」

「作品そのものに問題、ですか。つまり飾り続けることが出来ない何かが彫刻作品にはあった、という事ですね」

「ええ。サクラコさんが彫刻分野に関して何処までご存知かは分かりませんけれど、彫刻と言っても制作に使われる素材は様々ですの。木材、石材、青銅、粘土。この中から一般的に教会などで飾られる彫刻作品の素材は大きく分けて2つ、石材と青銅になりますわ」

 

 するとキオは何処からか1枚の白紙と鉛筆を取り出すと、サクラコの前でその紙に何やら絵を描き始めます。

 まず最初に長方形の四角(恐らく石)を描き、そこから横に向かって矢印を引いて簡単な像を隣に描いて見せます。

 

「この長方形はひとまず石と思って頂けるかしら?……まず、石を素材とした彫刻の作品を生み出す際は、このように元となる大きな石を用意いたしますわ。次にそこから道具を用いて余分な石を多く削り取りますの。近年は石を砕くのも削るのも機械任せになりつつあるけれど、私は昔らしくノミで行っていますわね。そうして自身が望む作品が出来上がるまで、地道にコツコツと石を削り続ける……美術業界ではこの手法をカービングと言いますわ」

 

 キオは続けて新たな像を描き始め、そこから再び矢印を横に向かって描き出し、次に先ほどの像を分断させた絵を描いて、続けて何やら液体のようなものを垂らす描写を加えます。

 

「今度は青銅を用いた彫刻ですわね。こちらは予め、青銅を注入するための空洞の作品を作り上げますわ。いわゆる〝型〟と呼ばれる段階ね。この時点で使う素材は粘土。それをしばらく放置して乾燥させた後、半分に切り分けて中に液体化させた青銅を流し込む……その後、放置して固形化したものが【ブロンズ像】と呼ばれる彫刻作品ですわ。ちなみにこの手法は業界ではキャスティングと呼ばれていますの」

「な、なるほど。彫刻は奥が深いのですね……」

 

 芸術にあまり詳しくないサクラコからすれば、かなり一杯一杯になる知識ではありましたが、むしろ彫刻作品と言っても中身はこんなにも手法や素材が違うのかと勉強になりました。

 

「さて、では素人である貴女に質問ですわ。今説明した2つの中で〝保存〟に適しているものは何か。お分かりになるかしら?」

「保存……それはやはり、青銅を使用したブロンズ像……キャスティング、でしょうか。 金属が素材ですし、石に比べれば耐久性で遥かに勝っているかと」

 

 現代でも街中や至る所で簡易的なブロンズ像が置かれることは多々あり、金属故に〝錆びる〟という問題はあるものの、耐久性そのものは申し分ないはずです。

 するとキオは意味ありげな笑みを浮かべると、ひとまず手を叩いて拍手をしました。

 

「半分は正解になりますわ。実際はカービングで生み出された彫刻も花崗岩や大理石を素材として利用すれば耐久性に関しては何も問題はありませんの。ただし物理的な衝撃には弱いのが欠点とはなりますわね」

「おや? では総合的に考えれば保存や物理に強い青銅をメインに作品を創作すれば、後世にも作品を長く残せて作者としても製作が楽なのではありませんか?」

 

 美術にあまり詳しくない者による率直な意見ではありましたが、エスミは面白そうに笑みを浮かべたのに対して、キオは不服そうに頬を膨らませました。

 

「……いいですこと、サクラコさん。この機会ですので、詳しくご説明いたしますわね?」

「えっ、は、はいっ!!」

 

 まさに鬼気迫る様子でキオが近づいてきたため、サクラコは無意識に背筋を伸ばして返事を返しました。

 

「確かに保存という一点だけを見れば青銅が勝っているかもしれませんわ。しかし表現という点において見れば、大理石を用いた石の彫刻は青銅には無い利点がありますわ!! 何しろ大理石は人の皮膚と同じ表面下散乱を持っていますのよ!! これがある事で他の石材や金属には表すことの出来ない奥行や、人の生身に近い立体感を生み出すことが出来ますの!! そもそも石材を用いた彫刻は太古の昔から利用されてきた伝統のある手法であって――」

「はいはい、オタク特有の好きなものを熱く説明しちゃう行動はそこまで。サクラコさんが困ってるから……はーい、落ち着いて落ち着いて」

 

 石材関係を扱う彫刻家として何やら怒りのトリガーでも引いてしまったのか、毅然とした態度を一変させてサクラコに詰め寄らんばかりに迫るキオを、いつの間にか傍までやって来たチェリが羽交い絞めで引き離していきました。

 

「……ごめんよ。彼女は彫刻の事になると時々暴走しちゃう性格で……驚いたよね?」

「い、いえ。私も素人として余計なことを口にしたばかりに、キオさんを不快にさせてしまいました……申し訳ございません」

「いや歌住は悪くないよ、全く……そもそも彼女に説明させた私の落ち度だからね、あれは」

 

 疲労の溜息を吐いてエスミが視線を遠くに向けると、未だにチェリに羽交い絞めにされているキオが彼女と熱く口論をしています。互いの体格差を考えれば圧倒的にチェリが優勢なため、あの手この手で暴れているものの一向にキオは拘束から解放されていません。

 

(……彼女たちは一旦無視しておこうか……)

 

 自分と同じで美術に対する愛は深いものの、どうもキオは彫刻に対する熱意が度を越えている所があり、肯定的な意見を述べれば嬉々として語り、逆に否定的な意見を口にすれば鬼のような形相で彫刻の素晴らしさを語りたがる激しい一面があります。

 いわば彫刻過激派オタクとでも言うべき人物であり、それでいて親しい友人や知人には比較的寛容的であるため、エスミは幸運にも彼女の逆鱗に触れたことはありません。

 

 まあ他でもない相手に余計な誤解を与えてしまいがちなサクラコと会話をしていたのです。何を勘違いしたのかは分かりませんが、恐らくキオは自身が好きな石の彫刻を小バカにされたとでも思ったのでしょう。

 こればかりは互いの噛み合いの悪さを考慮しなかった〝部長〟であるエスミの責任です。もっともキオも例の目を使えば誤解を抱くことは無かったはずですが……まあ過ぎたことは仕方ありません。

 

「……それじゃあ話を戻そうか。歌住は彫刻の種類の違いや利点について聞いたと思うけど、結局の所どちらも共通してある問題があってね……それは〝酸性雨〟なんだ」

「酸性雨が?」

「そう。青銅を使用しているブロンズ像は長く晒されると金属が溶けて汗を流しているような状態になるし、大理石などで出来ている彫刻はむしろ本来の光沢を失うばかりか溶けてしまう……それこそ屋外に飾っていたとなれば尚更にね。こればかりは既に被害を受けている彫刻には成す術が無くて……」

「では皆さんが話されていた有力な説のもう1つが、その酸性雨による被害が原因で彫刻の管理を放棄したという説になるのでしょうか」

 

 エスミは困ったように苦笑しました。

 

「資料を見ても彫刻が管理されていたのはかなり昔だからね。当時の知識や技術面を考えると適切に酸性雨に対する保全を行っていたとは考えられないから、仕方なく撤去して彫刻を仕入れる事自体も禁止したのかもしれない。それに当時は写真技術が無いから過去の作品の状態を確かめる手段もない……あり得なくもない話だとは思うけどね」

「そうでしたか……ですが宗教改革の件も、その酸性雨の件も、どちらも理由としては十分に考えられる話ではありますが…………しかし」

 

 サクラコの言いたい事は分かると、エスミは微笑して小さく頷きました。

 

「まあ所詮、詳しい事情を知らない外野の身勝手な考察の一部に過ぎないけどね。過去のシスターフッドに何が起きたのかを知る術は無いし、勿論それを聞こうとも思わない……ただ、彫刻に秀でた本目が美術部に居てくれているから、彼女の優秀な腕が発揮できるためにも、今の大聖堂に彫刻作品を飾って良いのかどうかは気になる所だけどね……」

 

「……あの、それでしたら」

 

 するとここで、サクラコが何かを思い付いたような表情で静かに手を上げました。エスミは無言で先を促します。

 

「……私なんかで良ければ、その問題……解決できるかもしれません」

「……それは、ほんとなの?」

 

 思ってもいない言葉が出てきたことで、エスミは呆気に取られた形で返事を返し、遠くで口論をしていたキオとチェリも彼女の言葉を聞くや相次いで動きを止めました。

 

「はい。この歌住サクラコに全てをお任せください。必ず、皆様の助けになりましょう」

 

 自信と慈愛に満ちた完璧な台詞を発したサクラコは、笑みを浮かべて深くお辞儀をするのでした。

 

 

 

《1―2》

 

 

 

 サクラコによる思わぬ助け舟。

 

 それはシスターフッドの現リーダーに直接面会することで、例の彫刻作品が管理されなくなった理由と、彫刻家であるキオが携わった作品を今後大聖堂に飾って良いのかを尋ねると言う、極めてシンプルなものでした。

 

 もちろんエスミ達も最初からこの考えが浮かばなかった訳では無いのですが、ティーパーティーと肩を並べる事が出来るほどの武力や組織力を有するシスターフッドに対し、あろうことか過去にあった出来事を根掘り葉掘り聞くのは流石に躊躇いがあったのです。

 特にシスターフッドは活動上どうしても秘匿情報が多い組織という事もあり、ずかずかと踏み込んでいけばむしろ大変失礼にあたります。

 それこそ、ようやくどこの派閥にも属さない形で新しい美術部を再スタートさせるというのに、エスミ達の余計な好奇心で自ら悪評を広めるわけにはいきません。

 

 故に、他でもないシスターフッドの一員であるサクラコからの提案は大変ありがたいものでした。正に『救い』と呼ぶに相応しいものだったのです。

 

 さて、では気になるシスターフッドの現リーダーとの対面の結果ですが……無事に成功に終わりました。

 

 もっとも例の彫刻作品がある年代を境に一切管理されなくなった原因は向こうも詳しい事は分かっておらず、残念ながらエスミ達の疑問を全て解消させることは出来ませんでした。ですが過去は過去であるという考えから、今後は彫刻作品の展示を許可してくれるようになったのです。

 他にも禁止エリアを除いた大聖堂の各区画への自由な立ち入りの許可、大聖堂で管理されている美術作品の一部貸し出しなど、もはや至れり尽くせりな状態でエスミ達からすれば大満足の収穫となりました。

 

 こうなると例の美術資料の提供だけではなく、もっと始めから他の提案や譲歩もしておくべきだったと思う所ですが、流石に彫刻作品が管理されなくなった云々の件は向こうも全く気付いてはいなかった話であり、結果論とは言えエスミ達の言及のおかげで却ってシスターフッドの美術に対する認識は前向きになったのでした。

 

『過去に何があったかにせよ、彫刻もまた美術と教会、そして信仰を結びつける大事な要素の1つです。しかしその事実を長い間認知出来ていなかったのは、他でもないシスターフッドの美術に対する意識の低さが招いた結果でしょう…………エスミさんや美術部の皆様のおかげで、我々はより一層美術と宗教の繋がりを再認識することが出来ました。ありがとうございます』

 

 と、清楚美人と言っても過言ではないシスターフッドの現リーダーから感謝の言葉まで頂きました。

 まあエスミとしては、生徒たちのみで自治区や学園を運営していくというこの異質な世界を考えてみると、こういった複雑な事情や認識の齟齬が出てくるのも無理はないと感じています。

 僅か3年間しか学園に在籍できない以上、受け継がれるべきものが受け継がれず、誤った認識や誤解だけが後世にまで残り続けると言うのも別に珍しくはないのです。

 

 やっぱり、こういう事情にこそ頼りになる大人の介入が不可欠なのかもしれません。

 

 エスミはいずれ来るだろうブルアカ原作本編の〝主人公〟の来訪を待ち望みながら、先程の自然な会話の流れで『ところで、エスミさんさえ良ければ今後は我々シスターフッドの下で活動をしてみませんか? 良きシスターになれると思うのですが……』とさり気なく勧誘してくる現リーダーにお断りの言葉を返すのでした。

 

 

 

《1―3》

 

 

 

「それで……シスターフッドのトップとの面談を終えたにも関わらず、どうして私達は未だ大聖堂に留まっていらっしゃるの?」

 

 あまり外に出歩きたくはないインドア派なのか、既に疲労を感じさせる表情をしたキオがエスミに言葉をぶつけます。

 

「せっかく大聖堂に足を運んだ訳だからね。区画への自由な立ち入りも許されているし、 この際だから観光でもしようと思って」

「観光、ね……右を見ても左を見ても、神を信仰する熱心な信徒とシスターばかり…………随分と周囲からは浮いていますわね、私達。これで本当に観光なんて出来るのかしら」

「キオ。師匠はこのトリニティはおろかキヴォトスでも傑出した画家の1人なんですよ? 師匠の言う観光とはつまり、創作に欠かせない情報収集とインスピレーションを得るための行動という事に違いありません。私達も芸術家の卵としてその精神を見習わないと!!」

「……いや、本当にただの観光だからね?」

「貴女はそのエスミさんの言動は全て正しくて意味があると思い込む信者ムーブはお止めになるべきですわ。ハッキリ申し上げて、ご本人に迷惑ですわね。それに私は卵ではなく既に大成した芸術家の1人ですわ…………はぁ、あの有名な栢間エスミの唯一の弟子と評判でそれなりに期待はしていましたのに、実際はこんなにも周りが見えていない長身だけが取り柄の阿呆でしたのね」

「なっ!? し、失礼ですね貴方は!! 私はこう見えて師匠に才能を認めて貰えた唯一無二の一番弟子ですからね!? ただの美術部副部長として師匠の部下に留まっている貴女なんかより、私の方がちゃんと師匠のことを理解していますから!! 大好きな石ばっかり削り過ぎて、性格までだいぶ尖らせてしまったようですね貴女は!!」

「あらあら、宜しいですわ。喧嘩なら喜んで買いますわよ!!」

 

 そう口にするや否や逆鱗に触れた者同士、160センチ未満のキオと170センチのチェリが互いに顔を近づけて睨み合いを始めました。

 背丈はそれなりに差がある2人ですが、キオは自身が持つ羽を最大限に広げて相手を威嚇し、対してチェリは体格の良い自身の身体をアピールするが如く仁王立ちをしています。迫力で言えば双方ともに負けていません。

 むしろエスミとしては、その様子はまるでじゃれ合う鳥と猫のようで中々微笑ましい絵図ではありましたが、決して公衆の面前でやる行為ではありません。

 ここは大聖堂の内部なのです。

 

「……2人とも、喧嘩するなら置いていくよ?」

 

 おかげで周囲からの好奇の目に晒されたエスミは羞恥心でうっすらと耳を赤く染め、未だ止むことのない2人からの反応を待ちます。

 ですが残念なことに一向に止む気配が無いのを察すると、これ以上この場に留まるのは恥ずかしいと判断し、仕方なく2人を無視してその場から立ち去る事にしました。

 

「そもそも貴女はサンクトゥス分派で、私はフィリウス分派!! 本来は互いに睨み合う政敵同士!! 師匠にスカウトされただの何だのと言ってましたけど、本当はあの手この手を使って師匠をサンクトゥス分派に引き込むつもりで入部を決断したのではないんですか!? それに聞く話によると、分派の為にならない事はしない主義と聞いてますけど!! さあ教えてください、一体何が目的なんですか!?」

「ハッ、それを言うならチェリさんの方こそ、フィリウス分派に所属しておきながら忠誠を誓うのはあの桐藤ナギサさんだけとお聞きしましたわ? 分派ではなく個人の下で活動されるなんて組織に所属する方として果たして信用ができるのかしら? それこそナギサさんご自身が求めれば、今すぐにでもエスミさんを拘束して彼女の下に送り届け、挙句には監禁でもしそうですわね?」

「んなっ!? そ、そそ、それはつまり、監禁をしてしまえばナギサ様と師匠が2人きりで常に一緒になるという事ですか!?…………何ですかそれ同棲ですか、同棲ですよね!? 最高じゃないですか監禁!!」

「ちょっとお待ちなさい!! 冗談で言ったつもりでしたけれど、流石にその思考はキモイですわよ貴女!?」

「キモイのは自分でも重々承知していますとも!!」

「なら口に出すのはお止めなさいな!! ここは大聖堂ですのよ!?」

 

 口論の話題が常に自分の事で一杯の中、白熱し続けている後輩2人の存在を必死に無視しながらも依然として周囲から好奇な目を向けられているエスミは、どんどん熱を帯びていく耳や頬を意識しつつ急いでスマホを取り出してモモトークを開きます。

 トークを送る相手は、桐藤ナギサでした。

 

『ごめん。小樽のせいで変な噂が流れるかもしれないから、後で彼女をしばらく仕事部屋にでも監禁して反省をさせといて……あと、変な噂は信じなくて良いからね』

『監禁? 噂? あの、どういう事ですか。そこで一体何が起きているのでしょうか?』

『知らぬが仏だよ、桐藤』

『エスミさん!?』

 

 直後にナギサからの通話を知らせる音が鳴り出しますが、エスミはそれすらも無視し、この場から逃げるようにして立ち去るのでした。

 

 





栢間エスミの秘密・15

・学園内外問わず、勧誘したがる政治派閥や資産家、何なら絵画ファンやガチ恋勢もいたりする割と人気者のエスミ。
 そんな彼女に関する噂もそれなりに数多く飛び交っており、中でも『エスミには同棲しているパートナーがいて、それをひた隠している』という噂が有名で、しかも周囲は割とガチでこれを信じている。
 少なくとも後輩達の間ではエスミは【年下専門の女誑し】としても有名なため、余計に誤解が広がっているのが現状。エスミをよく知る同級生や先輩たちは流石に噂を信じてはいないものの、むしろ誰相手でも心優しいエスミに恋人がいない事に関しては疑問を抱いている模様。



 ちなみに、別に誰とは言わないがこの噂を信じてしまったとあるお嬢様がエスミの下に押しかけて『やっぱり私とパトロン契約を結びましょう。私の方がエスミさんを必ず幸せにできます(意訳)』と暴走する事となる。
 もちろん誤解は解いたし、パトロン云々の話もエスミは当然断った。

もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)

  • 拳銃(M1911,グロック等)
  • リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
  • 自動小銃(HK416、AK-47等)
  • 短機関銃(M1921、MP5等)
  • 小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
  • 散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
  • 機関銃(MG42、M249等)
  • 対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
  • 擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
  • 素手
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