夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない 作:木暮鬼一
栢間エスミがゲへナ学園に足を踏み入れるのは、実に2年振りとなります。
懐かしい話をするならば、サンクトゥス分派の悪事に関与していた犯罪グループを潰すためエスミがカヨコと共同して襲撃犯を撃退したあの日以降、彼女はゲへナを訪れていないのです。
一応エスミの目的に快く協力してくれたカヨコとはその後、何度かライブや美術館鑑賞を理由に遊びに付き合ったことはありますが、訪れた地域はゲへナやトリニティではなく全て他の自治区でした。
それにトリニティの生徒であるエスミが、昔から因縁のあるゲへナを訪れることをティーパーティーや周囲が許すはずがありません。あの頃は幸運にもエスミに全面協力してくれる『ツクス』という最強の味方がいたおかげで、何とか周囲を誤魔化し、決して例の件が表沙汰になる事はありませんでした。ですが彼女が学園を卒業して以降、エスミの行動はより周囲の目を引く事となり、美術部の部長という立場も相まって自らゲへナに足を運ぶことは無くなったのでした。
また実を言うと、これから会うカヨコとの再会も約2年振りとなります。
原因は単純ながら、2年生の中盤にエスミがトリニティ総合学園の美術部の部長を務める事となった為、今まで以上に多忙となりカヨコと会う機会が滅多に訪れなかったのです。
とはいえ原作に影響を及ぼさないよう、一応原作キャラの1人であるカヨコとの交友をなるべく深めないようにしていた……というエスミの私情が入った事情もあるにはありましたが、それでも他の自治区に気軽に遊びに行けるような余裕が無かったのは事実です。
もちろんナギサやミカほどではありませんが、モモトークでは何度かカヨコと連絡を交わした事はあります。電話で談笑したことも数回はありました。
それでもカヨコと直に会うというのは、この2年間全くありません。
その為、エスミの下に招待状という形で『再会のきっかけ』を贈ってくれたカヨコに対し、少なからずエスミは彼女に対し感謝を抱いていました。
いくら相手が原作にバリバリ絡んでくるブルアカキャラとはいえ、エスミにとっては貴重な同い年の同級生。こう言ってはあれですが、周囲が何かと有名人なエスミに気を遣っている独特な環境下で過ごしている分、他の学園故に立場を気にしないカヨコの丁度良い距離感がエスミは大変恋しかったのです。
(でも招待状か……何に招待されたんだろう、私?)
さてゲへナ自治区行きの列車の中、窓の外を眺めながらおもむろに懐から招待状を取り出すエスミ。
封筒には達筆な字で『ゲへナ学園 3年 鬼方カヨコ』とだけ書かれています。
既に出発前に中身を拝見しましたが、エスミを招待した件に関する詳細が分かるような物は何1つとしてありませんでした。一応ゲへナ自治区のとあるパーティーに参加してほしいというカヨコからの直筆の手紙が招待カードと共に同封されていましたが、それだけです。結局エスミが一体何に招待されたのかは皆目見当もつきません。
「……彼女のことだし、何か理由があるんだろうけど」
封筒を指で優しくトンットンッと叩きながら、苦笑とともにエスミはそう言葉を漏らします。
ナギサ達に比べれば関わった回数は両手の指で数える程しかありませんが、それでもカヨコという人物についてエスミはそれなりに理解をしているつもりです。本来であれば、言葉を濁して強引に人を招くようなことをする人物ではありません。
暗にエスミを遠回しに巻き込みたくない理由でもあったのか、単純に公に出来ないパーティーなために詳細を省いて招待したのか……ひとまず今の時点で気にしても仕方ありません。そもそも断る権利を持っていながらカヨコに詳細も聞かずにわざわざゲへナに来ているのはエスミ自身なのです。
謎は謎のまま、全ての真実を知るのはカヨコに会ってからでも構わないと、窓の外に視線を向けつつエスミはそっと瞼を閉じるのでした。
そして疲労が蓄積している身体を休めるため、また徐々に姿を現しはじめた不安や懸念から目を逸らすため、彼女はやや固い列車の座席に身を沈めながら大きく深呼吸を行い……眠りにつきます。
ゲへナに到着するまで、まだまだ時間は掛かりそうです。
《1-2》
「……ゲへナ行きの列車の中で眠るなんて……カヨコさんの言う通り、全く危機感がありませんね。はぁ…………あんな平然と無防備を晒す人が、ゲヘナの風紀委員会で長いことマークされている人物だなんて信じられません」
さて、日々の疲れですっかり熟睡を始めてしまったエスミから少し離れて……丁度〝眠り姫〟と化しているエスミの姿がよく見える座席で座っているある少女は、何やらぶつぶつと小声で彼女に対し文句を言っていました。
ちなみにこの少女、髪は薄い青でキリッとした目つきと、横乳が丸見えの制服を着こなす少々癖の強い恰好が目立ちますが、それを意に介さないレベルで厳しい視線を周囲にまき散らしていました。鬼のような気迫すら感じられます。
「……カヨコさんからの頼みでわざわざトリニティ駅から列車に乗り込みましたけど、そもそもどうして私があのトリニティ生徒なんかの護衛を……」
どうやら少女はエスミがこれから会う予定のカヨコからの頼みで護衛を務めているようです。先ほどから遠慮なく厳しい視線を周囲に向けているのも、彼女なりにエスミに近付こうとする者を追い払っているのでしょう。
まあ、もう少しだけ穏便な方法があるとは思いますが……それでも良い虫除けになっているのは確かでした。
「まったく、カヨコさんもカヨコさんです。あの危機感の欠片もないトリニティ生徒の何処に惚れたんでしょうか……まあ確かに見た目は悪くないですけど……危うく見惚れてしまうほどに美人ですし」
もはやツンデレのつもりなのか、気付けば視線がエスミの方へと固定されてしまう少女。しかし少女の言う通り、トリニティ生徒という事もありお忍びでゲへナを訪れる以上、今のエスミはある意味で変装をしていました。
とはいえなんて事はありません。ただトリニティの制服を脱いで、わざわざ私服を着ているだけです。
しかし私服として着ているのは全て、彼女の恵まれたスタイルや美貌を余すことなく晒すためナギサやミカが必死に厳選した服装たちであるため、誰が見ても育ちの良いお嬢様だと勘違いしてしまいそうなほど綺麗で魅力的な姿を今のエスミはしていました。いわばナンパや芸能界のスカウトが飛びついてもおかしくは無いのです。
エスミの護衛を務めている少女の存在がなかったら、さて一体どうなっていた事か。
一応キヴォトス全土でもそれなりに知名度があるエスミですが、それでもトリニティ自治区に比べれば多少は環境が変わります。
特に今から向かうのはかの有名なゲへナ自治区。
トリニテイから離れゲへナに近付けば近づくほど、自由で乱暴者でルール無用の荒くれ者達が集ってきます。
混沌とした世界で長いこと生きて来たカヨコが、それなりに平和なトリニティで生まれ育ったエスミの身を心配し、護衛を派遣するというのもある意味では当然の判断と言えるでしょう。
「ですが……流石に居眠りはありえません。私の負担が増すだけじゃないですか……」
もっとも護衛を務めている少女は大層不服のようです。
仕方ありません。ゲへナに到着するまで時間はまだたっぷりと残っているのに、肝心の護衛対象であるエスミは今もスヤスヤと眠っているのです。無防備な姿を晒せば晒すほど、護衛を務める者の心労は増していき、加えて警戒の度合いも上がります。
「……はぁ……」
溜息を付き、少女は仕方なく席から立ち上がると……わざとらしくホルスターに収めている銃に手を当てて周囲を威嚇しながら静かにエスミの〝隣〟に座りました。
すると何やら良い匂いがします。
発生源は間違いなく隣で居眠りをしているエスミからですが、何か香水でも付けているのでしょうか。もしくは香りの良いシャンプーでも使用しているのか、ともかく忘れそうにない心地の良い匂いです。
もっとも、少女からすればゲへナにいる猛獣たちを引き寄せる〝誘惑の香り〟にしか思えず嫌そうに……そして面倒そうに顔を歪めるのでした。
「はぁ……早くゲへナに着いてください……この空気、ハッキリ言って耐えられません……」
トリニティから来た絶世の美少女を無事にゲヘナに辿り着くまで警護するという、何とも退屈過ぎる状況に絶望感を抱き、エスミを護衛している少女こと……ゲへナ学園の風紀委員会に属する2年生、天雨アコは大きな溜息を吐くのでした。
《1-3》
トリニティ総合学園・ナギサの私室。
「ひまぁ……何か面白いこと無いのかなぁ……?」
腕をのばし、足ものばし、だらしなくソファの上で横たわっているのはティーパーティーのパテル分派に所属している聖園ミカになります。
よほど暇なのが気に喰わないのか、バタバタと足を振り上げながら気晴らし目的で暴れる始末。その様子はまるで幼児です。
一方で、その姿を眺めながら静かに紅茶を飲んでいる桐藤ナギサは苦笑と共に肩をすくめていました。
「ミカさん。はしたないですよ? ここは私の部屋なので誰にも見られる心配はありませんが、一応周囲の目は気にしてください。あと……下着、見えていますよ」
「だって抱えている仕事は全て終わらせちゃったし、学園はそれなりに平和で仕事は増えないから今の私って物凄く暇なんだよ? ナギちゃんは違うの? というか下着見ないで、ナギちゃんのエッチ」
密かに顔を赤らめながらもミカは慌てて足を下ろすと、ナギサの目に入らないようピッタリと閉じました……が、幼馴染であるナギサは至って気にしていない様子で平然と言葉を続けるのでした。
「私は業務以外でもフィリウス分派の次期首長候補としてやるべき事が多いので、今のミカさんのように時間を持て余すようなことはありません。むしろ、ミカさんの方こそパテル分派の次期首長候補に名乗りを上げてみては如何ですか? お世辞抜きで、貴女なら首長の座を勝ち取ることが出来ると思うのですが……」
「えー。首長になるって事はティーパーティーの次期生徒会長になるって事と同じなんだよ? ナギちゃんは色々と目標が高くて優秀だから気にしないだろうけど、私はそんな地位欲しくないもん。面倒くさい」
サンクトゥス分派では依然として次期首長が定まらない状態が続いていますが、それはミカが在籍しているパテル分派も同じです。
何しろティーパーティーの中ではゲへナ嫌いの生徒が多く集まっている分派ということもあり、親ゲへナ寄りの政策をするのか、それとも反ゲへナ寄りの政策をするのかで度々候補者選びで難航するのです。
ちなみにパテル分派の先代と先々代は共に反ゲへナ派で活発に活動をしていたのですが、現在のパテル分派の首長を務めている生徒は親ゲへナ派です。
これは去年、キヴォトスを混沌に陥れた当時のゲへナ学園のトップ『雷帝』が失脚し、それに伴い瞬く間に弱体化したゲへナを相手にする為、あえて親ゲへナ派の生徒を首長に担ぎ上げたという明確な理由が存在するのですが、そのおかげで次の首長も親ゲへナ派にするかで激しい論争が起きているのでした。
こればかりは仕方ありません。
ティーパーティー……更に広げればトリニティ総合学園全体を代表して反ゲへナ派としてのカラーを強めていたパテル分派が、ここに来て親ゲへナ派に傾倒したとなれば求心力の低下はもちろん内部分裂を起こす危険すらあります。
とは言っても反ゲへナ派の首長が台頭するとなれば、現在の首長の苦労が水の泡になるのは目に見えています。ティーパーティーの活動にも支障をきたす事でしょうし、首長候補が未だに決まらないのも当然と言えるでしょう。
「それに、もし私がパテル分派のリーダーになったらエスミちゃんに気軽に会えなくなるでしょ? エスミちゃんって意外とそういう立場の人とは滅多に関わろうとしないし」
「それは……そう、かもしれませんね……」
「ナギちゃんはどうなの? フィリウスの方は何だかナギちゃん路線で確定みたいな雰囲気出てるけど、もし本当に首長になったらエスミちゃんが学園を卒業するまで全然会えなくなるかもしれないよ?」
現在エスミを含めた各分派の首長らは3年生ですが、1年の終わりに部や委員会の引継ぎが行われるのとほぼ同時期にティーパーティーの各分派も同様に首長の引継ぎが行われます。
もちろん正式に後任がその地位を手にすることが出来るのは現在の3年生が卒業し、進級する新年度を迎えてからという事になりますが、それでも次期首長という一足早い〝肩書〟は手に入ります。
となれば当然、今までのように『ティーパーティーに所属している1人の生徒』というナギサへの認識はあっという間に『次期生徒会長となるフィリウス分派の代表』という大きな肩書へと進化し、ナギサに対する周囲の視線も瞬く間に増えることでしょう。
それは好奇心か、尊敬か、もしくは敵意か。名家のお嬢様という事もあり元から注目はされていましたが、肩書を手にしてからはその視線も倍増する事でしょう。
悲しいことにエスミはそういった視線や空気を何かと気にする人物なので、『卒業までの数か月間は絶対私に会わないようにして』と釘を刺される可能性があります。
出来ることならそのような未来は来ないで欲しいと願いつつも、正直あり得る未来なだけにナギサは大きな溜息を吐くと……不安と恐怖を身体へ押し戻すかのように、ぐいっと紅茶をあおるのでした。
「……そういえば、そのエスミさんに関してですが……本日、急遽休みを取って何処かに出掛けているようです」
「何処かって……自治区の外ってこと?」
「はい。ティーパーティーのホストにすら詳細を伝えずに行かれたようですね。一応、翌日には帰られるようですが……」
ミカは首をひねりながら『誰にも知られたくない場所に行ったのかな?』と呟きましたが、ナギサはそれを完全に否定します。
「エスミさんはそういう隠し事をするような方とは思えません」
「でも最近のエスミちゃん、部活とか仕事とかでかなり無理して動いていたから相当疲れが溜まってると思うし、もう全てが嫌になって頭を冷やしに行ってるかもしれないよ?」
「もしくは、急用で外出する必要が生まれたのか…………どちらにしろ、部長が不在の美術部が気がかりです」
「いやいや、エスミちゃんが帰ってくるのは明日なんでしょ? 部長が1日いないだけで大袈裟すぎるよ、ナギちゃん☆」
「…………」
ミカは気付いていないようですが、美術部の部長に就任して以降のエスミは〝丸一日〟部を空ける事は決してありませんでした。
あったとしても1時間、もしくは数時間。
それこそ以前、ナギサに頼んでヌードモデルの写真を撮る依頼をした時や正義実現員会を相手に美術講習を開いた時のように、部を空けるとしてもせいぜい半日が最大でした。
果たして本人が自覚しているのかはさておき、エスミは分派や政治争いから美術部を守ることに固執し、緊急事態に備えて何かと部室に居座り続けていたのです。
もちろん一度衰退した美術部を見事に復活させた立役者なので過保護になるのも無理はありませんが、そんなエスミが丸1日も部を空ける……これを成長と見えるか、もしくは変化と見るかは人による事でしょう。
(まさか……エスミさんは美術部を託せる信頼できる〝後任〟を見つけたのでしょうか? それとも部を空けてでも外出しないといけない何か……もしくは〝誰か〟に会いに行かれたのか)
またはその両方が原因か。
ナギサは既に空になっているカップに寂しげな視線を落とすと、そのままソファで寝転がっている幼馴染を一瞥し、続けて視線を部屋の窓へと向けます。
「……何かに巻き込まれていないと良いのですが……」
彼女の身を案じる言葉は、偶然にも学園中に鳴り響いたチャイムによってかき消されました。
≪1-4≫
ゲヘナ自治区。それはキヴォトスで最も治安が悪く、そして混沌としている場所。
絶えない銃撃戦に爆発。日々横行する犯罪にテロ活動。
エスミとしては正に2年ぶりに訪れる場所ですが、あまり過去の記憶に比べて街が様変わりしていないことに少し驚きを感じました。
正直なところ犯罪や喧嘩などで街が破壊され尽くし、その度に新しい建造物が建っているとばかり思っていたのです。
「それはこの地区が風紀委員会によって過剰な破壊行為が行われないよう徹底的に守られているからです。ここから離れた地区では既に4回ほど街並みが変わっていますよ」
するとエスミの隣でやや面倒そうにゲヘナの現状を説明してくれたのは、先ほどまで彼女を車両の中で警護してくれたゲヘナの風紀委員会に所属する天雨アコになります。
日々の疲れで完全に熟睡していたエスミを起こす事も無く、律儀に護衛としての職務を全うしてくれた少女。まあエスミとしては道中の護衛に関し感謝しつつも、よりにもよってブルアカ原作キャラの1人に出会った事で多少居心地の悪さを感じているのですが……それはそうとアコに対し言葉を返します。
「私が前に訪れた時に比べて犯罪率は低下したの?」
「まさか。むしろ以前よりも悪化しています。恐怖政治と暴政を働いていたトップがいなくなり、今のゲヘナは文字通り〝王〟が不在の無法地帯。新手の犯罪組織も相次いで誕生していて、いくら掃除しても這い出てくるゴミのような状況です」
「……そう」
何だかゲヘナの現状を説明するアコの目が段々と細くなり、口調も荒々しくなっている気がします。
話題選び失敗したな、とエスミは内心で反省していると……ふと視線の奥で誰かが手を振っているのが見えました。
「……あれって?」
「はい?……ああ、どうやら無事に到着したみたいですね」
エスミに連れられてアコも視線を向けると、途端に先ほどまでの表情が一変し何やら安堵したような笑みを浮かべます。
向こうにいる彼女に早く会いたかったのか。それともエスミの護衛と言う面倒な仕事をようやく押し付けられるという安心感からなのか。どちらにしろ今までで一番良い表情をしています。
そういえばこの時期はまだ彼女達は仲が良かったのかな、なんて余計なことを思いつつエスミは小さく手を振り返しながら自分をここに呼んだ張本人、鬼方カヨコを出迎えました。
「エスミ、ようこそゲヘナ自治区に。道中の旅は大丈夫だった?」
「久しぶり、鬼方。もちろん君が寄越してくれた護衛のおかげで何事も無かったよ」
「そっか。それなら良かった……アコも、非番なのに護衛を引き受けてくれてありがとう」
「全くですよ。せっかく手にした休暇を満喫しようとしていたのに、いきなり仕事を押し付けて来るなんて……まあカヨコさんからの頼みですし、今日は何やら手が離せない事情があるみたいだったので仕方ないですけど」
助かった、という感謝の言葉と共に礼を言うカヨコ。対してアコは肩をすくめつつも、自身の休暇が護衛という仕事で台無しになった事に対してあまり気にしていない様子です。
エスミはそんな2人の姿を見比べながら首を傾げました。
「君たち……仲が良いんだね?」
原作では何やら犬猿の仲のような立ち回りをしていた2人でしたが、今の2人は何だか互いを信頼し助け合う〝相棒〟のような空気を醸し出しています。それこそカヨコからの急な頼みに対し、貴重な休暇を放り投げることが出来るアコという関係からそう思うのも当然でしょう。
それが何であんなギスギスした空気になってしまうのか、心底謎です。
「仲が良いって……私にとってカヨコさんは尊敬出来る先輩ですよ? 役職は全然違いますけど」
「まあ友達みたいな感覚でアコと付き合ってるわけじゃないけど、それでも大事な仕事を気軽に任せることが出来る関係なのは確かかな」
「大事な仕事って、この人をただトリニティからゲヘナに着くまでひたすら護衛していただけですよ?」
「それが大事だから。頼む前に言ったよね? エスミの身に何かがあったらトリニティとゲヘナの間に争いが生まれかねないって」
「だったら、そんな重大な立場にいる彼女に言ってください。無防備な姿を晒して居眠りはしないで欲しいって。危機感が無さ過ぎて結構大変だったんですからね」
「……ちょっと待って、どういうこと? エスミ、ここに来るまで列車の中で寝てたの?」
突如、信じられないといった様子でカヨコがエスミの肩を掴むと顔を近づけてきました。
「まあ、最近忙しくて……見えないところで疲れが溜まってたのかもね」
対してエスミは悪びれる様子もなく、苦笑をしながら返事を返しました。よく見れば僅かながらに目の下にクマが出来ています。相当忙しい日々を送っていたのでしょう。
「……どうして、そんな状態でゲヘナに……」
「君が呼んだからだよ。ほら例の招待状」
懐から招待状を取り出しカヨコに見せつけます。
「差出人の名前だけ書かれていて、詳細は不明。事情は把握していないけど私に何か協力してほしい事があるんだよね?」
「…………それは」
あまり口には出せないのか、エスミの肩から手を離して少しばかり距離を取るカヨコ。
その姿を見てアコは面倒な事になったと溜息を吐きました。
「えっと貴女の名前は確か、エスミさん……でしたよね? その招待状は今日の夜に開催される、とある祝賀パーティーに参席できる特別なモノになります。参席するのはゲヘナ自治区に在住の資本家や企業の重役、または銀行家。主催者は最近ゲヘナに新店舗を構えた家具メーカーの企業で、表向きは『ゲヘナにおける新事業の成功を祝すパーティー』らしいです。しかし……」
「……裏の理由は違うんだね?」
彼女の言葉を引き継ぎ確信をもってエスミがそう尋ねると、アコだけじゃなくカヨコも大きく頷きました。
「エスミも知ってる通り、今のゲヘナは無法地帯も同然で法律や治安が行き届いてないでしょ? だからこれをチャンスと捉えて沢山の悪徳企業や犯罪組織が勢力を伸ばそうと躍起になってる。今話した祝賀パーティーを開く家具メーカーも私やアコが調べた限りだと間違いなくクロだと思う」
「もしくはそれを利用されようとしているか、ですかね。家具業界ではそれなりに知名度があるメーカーなので流石に会社そのものが真っ黒だとは言い切れませんが……一応、トリニティにも進出しているメーカーになります」
「……会社の名前は?」
エスミはアコから例の祝賀パーティーを開く家具メーカーの名前を聞くと、静かに何度か頷くと顔をしかめます。
「……その会社、最近トリニティに新店舗を構えて絶賛大人気だよ。そっか、あの会社なんだね」
「あら、エスミさんは既にご存知でしたか」
「まあね。前に、私の知人とその手の話題で会話した記憶があったから」
忘れることはありません。
何しろナギサから祝いとして高価な〝ナイフ〟をプレゼントされたあの日、トリニティ自治区にオープンしたばかりの家具メーカーについて会話をしていました。
あの後ナギサやミカと共に店そのものを訪れましたが、特に異変を感じるようなことは何もなく、至って生徒達から大好評の店という感想だけを抱いたのですが……ゲヘナに進出するため、あえてクリーンな事業に専念していたのでしょう。
もちろんアコが言うように会社全体が犯罪に手を染めておらず、一部が腐っているだけとも言えます。
まあどちらにしろ、無法地帯にも等しいゲヘナでわざわざ盛大に祝賀パーティーを開くというのは何やら裏があると見て間違いありません。
「それで? そのパーティーを監視するためにゲヘナの風紀委員は参席するの?」
「もちろんそのつもり……だったのですが、向こうの主催側からキッパリと断られてしまって。その件もあって私やカヨコさんは余計に疑いを持つようになったんです。何しろ例の祝賀パーティー、参席者は全員名は伏せて非公開となっているんですよ? 簡単に言えば決して表に出ることのない秘密の祝賀パーティー……あまりにも怪しすぎません?」
「まあ元からゲヘナに店を構えている企業が安全のために開くならともかく、外部からやってきたばかりの新参者がそんなことを自ら率先して行うんだから疑うのはむしろ当然。だけど向こうには公に声明文を出されて風紀委員会の参席を断られたから、それを無視して強引に参加したとなったら後で面倒なことになりそうで…………だから、それで……その…………」
また言葉を濁し、今度はその先の続きを言おうとしないカヨコ。
流石に現状をまだ詳しく把握しきれていないエスミも、カヨコのそんな姿を見ていると嫌でも察してしまうものです。
「なるほど……つまりキヴォトスでもそこそこ有名人の私がその祝賀パーティーに招待されて参席したとなれば、鬼方や他の風紀委員は堂々と『栢間エスミの警護』という名目で潜入出来るという訳だね。トリニティから来た客人をゲヘナ側が責任をもって守る、立派な口実の誕生だね」
ゲヘナとトリニティの関係をよく知っている人ほど、その対応に対し文句は言えないでしょう。
もしここで警護を担当している風紀委員の参席を断れば、その祝賀パーティーに何か裏があると認めているようなものであり向こうも受け入れざるを得ません。それにエスミが手にしている招待状は恐らく本物。カヨコ辺りが必死に手に入れてくれたのでしょう。
「ところで一応聞かせてもらうけど、もし私がゲヘナに来なかったらどうしてたの?」
「その場合はカヨコさんを含め、風紀委員の精鋭を連れて祝賀パーティーの会場を外から監視し何か異変があれば即突入する、という作戦を実行するつもりでした」
「………成功する見込みは薄そうだね。なら私がこうして来たのはむしろ正解だったのかな?」
あながち風紀委員会……強いて言えばカヨコに良いように利用されている感は拭えませんが、エスミは気にしない素振りを見せながらくすくすと笑いました。
しかし彼女の態度にいち早く反応したのは他でもない、カヨコでした。
彼女は申し訳なさそうな表情をしたままエスミが持つ招待状を奪い取ると、首を横に小さく振ります。
「いや、エスミは帰っていいよ。この祝賀パーティーに参加する必要は無いから」
「えっ、ちょっとカヨコさん!?」
「……理由は?」
突然の言いようにアコが酷く慌てる一方、エスミは冷静に腕を組んで彼女に理由を尋ねます。
「理由も何も……まさかエスミがクマを作って居眠りするほど疲弊してるなんて知らなかったし、今の流れを聞いて自分がただゲヘナの政治と風紀委員会の面子のために利用されているのは分かったでしょ? 2年前の時はただ好きな美術が悪事に利用されていることに腹を立ててエスミ自ら介入していたけど、今回の件は美術とか芸術は全く関係ない。ただ私たちの、ゲヘナの都合のために呼ばれただけ……本当は理由も話さずに参加してもらうつもりだったけど、エスミに嘘を吐いてまで利用するのは……正直、嫌だ」
「……カヨコさん」
珍しく弱気な姿を見せるカヨコに対しアコは心配そうな視線を送りますが、逆にエスミは呆れたように肩をすくめました。
「なら、仮に私がここで引き下がるとして……それからどうするの? 私がいれば君たちは胸を張ってパーティーに参席して、悪事を止められるかもしれないんだよね? それなのに数時間もかけてゲヘナに来させたのに、今度はトンボ返りで私をトリニティに戻すの? 流石に呑気に居眠りしてた私を警護してくれた天雨に失礼じゃないかな」
「そ、そうですよ!! 休暇を潰してまで協力した私の労力はどうなるんですか!? まさかエスミさんをトリニティに帰す時も道中警護しろとは言わないですよね!?」
「…………」
カヨコは険しい顔つきでアコやエスミの顔を何度も見比べると、手元にある招待状に一度視線を落とします。
彼女の中では今回の件に関して色々と納得がいかないでいたのでしょう。本当はその招待状をエスミに送ることすら嫌だったに違いありません。
しかしエスミの協力で1つの悪事を潰せる可能性が高まるのなら、それに越したことはありません。
彼女は招待状をそのままエスミに手渡します。そして口を開きました。
「……ならこの件を引き受けてくれる代わりに1つ約束して。パーティーの間、絶対に私の視界からいなくならないで」
「また私をお姫様扱いするの?」
「違う。もう2年も経ってるし、お互いに見えない部分で成長はしてると思う……けど、私にはゲヘナの生徒として客人を守る義務がある。エスミの身に何かが起きたら、たぶん……私はあんたを呼んだことを一生後悔すると思う……だから約束して。絶対に」
「大袈裟、と言いたい所だけど今はゲヘナ自治区にいるんだからそうは言ってられないね。良いよ、私を無理に呼んだ責任としてちゃんと守って貰おうかな」
ぐっと強く招待状を受け取ったエスミは、そのまま微笑をカヨコへ向けます。
するとカヨコもぎこちないものの笑みを返してくれました。これにて一件落着。ひとまずトリニティにトンボ返りする必要は無くなりました。
「さて、ならこの祝賀パーティーが開くまであと数時間ほど時間があるね。その間に準備を済ませようか」
「準備? これ以上何を用意するつもり? もう風紀委員は厳選して会場の傍で待機させてるし、他に用意する事なんて何も……」
疑問を抱きながら首を傾げるカヨコ。と、彼女に連れられて疑問符を頭に浮かべているアコ。
エスミはそんな2人の姿が面白く内心で笑うとこう言いました。
「パーティーと言えばそれに合った服装を着る必要があるからね。鬼方はどうなのか知らないけど、私はこれまでに何度もパーティーに参席した経験があるから多少はファッションに心得がある。だから今すぐに自治区の服屋さんで衣装を買ってこようか」
「待って、今から私とエスミの分を買うつもり? ゲヘナの自治区で?」
「ついでに風紀委員の分もね。表向きは祝賀パーティーなんだから、ドレスコードとして失礼の無い服装をしないと……さあ、行こうか」
招待状を懐にしまい、先に歩き出すエスミ。
それを見て『いや、エスミはあまりこの地区のこと知らないでしょ?』と呆れながらカヨコが付いて行きました。
そうして2人はそのまま隣同士で並ぶと、あれこれと会話を続けながらぐんぐんと地区の奥へと向かっていきます。既に背丈はそこそこ離れ、やや長身のエスミが視線を若干下に下げながら言葉を放ち、それを彼女より背丈が低いカヨコが見上げながら言葉を拾って返事を返していくその姿は、はたから見れば付き合いの長い親友に見えることでしょう。
「あの2人、意外にもお似合いですね」
一方で1人その場に取り残されたアコは、何やら満足そうな……むしろ面白いものを見れた喜びで満面の笑みを浮かべていました。
「カヨコさんがあんな表情を見せるというのも、かなり珍しいですし……エスミさんって、案外良い人なのかもしれませんね」
なら今までどんな感情を抱いてエスミを見ていたのか、とアコに問いただしたい所ですが、生憎とそのような質問が出来る者はこの場にはいません。
それでもトリニティの生徒が偏見をもってゲヘナの生徒を嫌うように、彼女もまた無自覚ながらトリニティ生徒であるエスミの事を心底嫌っていたのでしょう。
しかしそれも今日を以て終わりです。いつも険しい顔をしているカヨコから色んな表情を引き出しては、彼女の真意に気付いては心に寄り添ってくれる寛大な心の持ち主として、既にアコはエスミに対し好意的な見方をしていました。
やがてカヨコによって休暇が取り潰されたアコは今後の予定が無いからと、自身もまた彼女達の背中を追うのでした。
≪・・・・・・・・・・≫
「ところで鬼方。さっきの話で結構気になってたけど……もしかして君、風紀委員会に所属してるの?」
「……さあ、どうかな……今はまだ秘密にさせて。そのうち、エスミにはちゃんと伝えるつもりだから」
「そう。まあ気が向いたら教えてね。私はいつでも待ってるから」
「うん……もちろん。お互い無事に卒業したらね」
割とこの手の話とは無関係ですが、カヨコ×アコの関係ってトムジェリみたいで自分は好きですね。
利害が一致すればとことん協力するけど、それ以外は基本喧嘩しかしない。
トムジェリの公式歌で言うところの『なかよくけんかしな♪』状態です。
というより、この歌知ってる方いますかね?
もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)
-
拳銃(M1911,グロック等)
-
リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
-
自動小銃(HK416、AK-47等)
-
短機関銃(M1921、MP5等)
-
小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
-
散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
-
機関銃(MG42、M249等)
-
対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
-
擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
-
素手