夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない 作:木暮鬼一
その日、トリニティ総合学園内は今までに無いほど異様な空気を迎えていました。
「ねぇ、聞いた? 前までティーパーティーのホストを務めてたセイア様がいきなり姿を全く見せなくなった理由、どうやら持病が悪化したみたいだよ」
「あれ、そうなの? 私が聞いた話だと政治に嫌気がさして自分から中退したって聞いたけど……」
「そんなバカな話あるわけないでしょ。サンクトゥス分派の首長も務めてる人だよ? どうせあの小柄な体格に合わない仕事を多く引き受けすぎて、限界を迎えて体を壊したに違いないって。私、初めてあの人を見た時からずっと心配だったんだよね。めっちゃくちゃか弱そうな人が学園のトップに立ったんだなぁって」
「ちょっと……私たちみたいな庶民がそんな失礼なことを堂々と口にするのはマズイよ……サンクトゥス分派の生徒にこの話を聞かれたりでもしたら……何されるか分からないよ」
「そうそう。お嬢様生徒たちは皆してどこかピリピリしてるし、ティーパーティーの生徒なんか毎日毎日、凄い険しい顔をして過ごしてるもんね。私達がなんか失言でもしたら、あの人たちすぐ怒り狂うかもしれないね」
「パテル分派もフィリウス分派も、ホストのセイア様がいきなり姿を消してからは何だか触れちゃいけない問題を抱えてるみたいで少し怖いし、一理ある」
「それで言ったらさ。あの絵が凄く上手い先輩、確かうちの学園にいたでしょ。名前は、何だっけ……?」
「えー、あんた……あの人の名前知らないの? エスミ先輩でしょ、元美術部部長の画家」
「あ、私知ってるよ。凄い綺麗で人気者の先輩さんだよね」
「そのエスミさんがどうかしたの?」
「なんか数日ぐらい前にいきなり留学したらしいよ。それも突然」
「留学って、こんな時期に?」
「私、その話なら美術部にいる友達から聞いたよ。ワイルドハント芸術学院に短期留学しに行ったんだよね」
「そうそう。何でもホスト代行を務めてるナギサ様が勝手に短期留学を決めたらしいね」
「何それ横暴じゃん。いくら学園のトップだからって無理やり留学を決めるとか……」
「分かる分かる。私も『何それあり得ない』って思ったもん。だってエスミ先輩、数か月ぐらい前まで入院してなかったっけ? それなのに退院してまだ日が浅いのに短期留学とか……ナギサ様は何を考えてるんだろうね」
「どうせあれでしょ。政治的な駆け引きが何たらって……エスミさん、凄い美人で有名な画家さんだし、きっとワイルドハント芸術学院に留学させることで何か上手い話でも釣り上げるつもりなんじゃない?」
「何だか、エスミ様も大変だね。こうも政治の道具に利用されちゃって」
「私、まだエスミ先輩のお姿を見たかったなぁ……絵を描いてる姿、凄く様になってて目の保養になってたのに」
「あんた、それはもう先輩のファンになってるでしょ」
「むしろこのトリニティでエスミさんが嫌いな人なんて何処にもいないから。ともかく人望が凄いって有名だし」
「なんか画家だけじゃなくて情報屋としても活動してるって聞いたことはあるよ。いつもトリニティの一歩二歩先を見てるって」
「あーあ……エスミさんが学園のトップを務めてたら良かったのになぁ……」
トリニティ総合学園とは、このキヴォトスにおいて最も歴史が長く、かつ抱える生徒数が非常に多い学園です。
中でも政治に長けた生徒、家が裕福な生徒、優れた才能を持つ生徒も数多く在籍しており、時としてそれらは、特にこれといって秀でた能力を持たない一般庶民の生徒達から常に羨望と嫉妬の目を向けられてきました。
故に彼女たちはこうして学園の至る所で数多く集まり、トリニティ自治区内で起きた出来事や事件について互いに熱く意見を交わしては、出処が不明な噂すら鵜呑みにして己の感想を堂々と表に吐き出すのでした。
特に政治や権力に無縁な生徒たちからすれば、自身の生活さえ脅かされない限り、トリニティで起きている暗躍や権力闘争なんかは全く関係がありません。あること無い事を口にしたところで、その責任をわざわざ負う必要はありません。
部外者というのは、こういうものなのです。
さて、そんな政治とは無縁の一般生徒達がこうして10人ほど数多く集まって井戸端会議をしている光景を、ただ静かに目撃していた生徒が実はここに1人だけ居ました。
「……まずい、かもしれない」
彼女の名は小樽チェリ。
先ほど彼女達が話題に挙げていた〝桐藤ナギサ〟の専属付き人であり、またワイルドハント芸術学院に短期留学した〝栢間エスミ〟の唯一無二の愛弟子になります。
所属はフィリウス分派。ようは政治側に属するお嬢様生徒の1人であり、あそこで井戸端会議をしている彼女達からみれば完全なる部外者です。
チェリはそのまま足音を立てずにその場から離れると、急いでフィリウス分派の本部に向かいました。
「……至る所で例の噂が流れてる……これは良くない……」
本当はただ気分転換のつもりで学園内を出歩いていただけでした。
それがまさか、偶然とはいえ一般生徒たちの井戸端会議を目撃することになるとは。しかも話題に挙げられていたのは自身の主人であるナギサ、そして師匠であるエスミです。
もっとも彼女達は不平不満を口にしている訳では無いのでそう酷く心配することはまず無いのですが、それでもやはり噂というのは徐々に誇張され、やがて取り返しのつかない情報へと姿を変えていきます。
今は何とか噂程度で済んでいるのでマシですが、この状態を放置するのは正直あまり良くありません。
チェリはやや駆け足でフィリウス分派の本部に到着すると、そのまま焦った様子でナギサがいる部屋へと向かいました。
「失礼します、ナギサ様」
ドアの扉を数回ノックし、中にいるナギサから『どうぞ』という声を聞くと共に入室したチェリ。すると部屋の中ではちょうど書類仕事の真っ只中であったらしいナギサが、一旦手元の作業を止めて視線を彼女に向けてきました。
「これはチェリさん、お疲れ様です。ですが本日は確か、休暇を取ってお休みをされていたはずではありませんか?」
「いえ、主であるナギサ様がこうも忙しくされているのに、そう呑気に休んでいる場合ではありません……失礼ですがナギサ様。今、学園内で生徒達が一体何を噂しているか、ご存知でしょうか?」
「……なるほど、そういうご用件でしたか」
首を小さく前後に動かして頷き、何やら納得した様子でナギサは机上で手を組みます。
「セイアさんの身に起きた悲劇。そしてエスミさんの短期留学。恐らく学園の皆さんが噂をされているというのは、今挙げた2つの件でしょうか」
「……はい……」
「チェリさん。貴女が一体何を恐れているのか、私にはよく分かります。このまま噂を放置していれば、後々取り返しのつかない事態を招くのではないか? そうお考えになられているのでしょう。ですが心配はいりません。所詮、噂は噂です。誇張されるにはまず理に適った情報が追加される必要があります。根拠のない嘘を噂に混ぜたところで、それに筋が通らなければ物事を動かす力にはまずなれません。故に、それを補足される情報が今後追加されない限り、やがて皆さんの記憶から例の噂は完全に消えるはずです」
その言葉を聞き、チェリは自身の眉をひそめました。
「セイア様の身に起きた悲劇が世間に漏れることは絶対に無いと……そう仰るのですか?」
ナギサの身体がピクリと反応し、その目が微かに細くなります。彼女を良く知らない者からすれば『怒った!!』と、そう判断するかもしれません。実際に今のナギサから放たれている威圧感は尋常ではありませんでした。
しかし長年ナギサの専属付き人として付き合って来たチェリは、あの反応が〝動揺〟であるとすぐに見抜き、臆することなく言葉を続けます。
「世間にはまだ隠し通せていますが、いずれ真実が広まるはずです。セイア様が……何者かに襲撃され、ヘイローを壊されて殺害されたという驚愕の事実が……その情報が広まった時、このトリニティは……いいえ、キヴォトス全土に間違いなく混乱が広まります。先の連邦生徒会長の失踪に匹敵する大きな混乱です。ナギサ様が今現在進められている例のエデン条約にもかなりの悪影響を与えると思います」
「……ですが、セイアさんが殺害されたという情報はごく僅かな生徒しか知り得ない重要秘密です。各分派の首長を務めている私やミカさん。そしてチェリさんのようなティーパーティーの一部の幹部にだけにその秘密が共有され、外部では救護騎士団のミネさんだけが同じ秘密を所持しています。この中にいる方々の誰かが口を滑らせない限り、それが世間に漏れることはありえません」
するとチェリはその場で大きく首を横に振り、彼女の言葉を真っ向から否定しました。
「ナギサ様、どうかよくお考えください。その秘密を持っているのはデータ上に保管出来るパソコンや金庫にしまわれている文書ではなく〝人〟です。心の奥底にしまった所でパソコンや金庫とは違い永久に閉じ込めるには限度があります。特に、パスワードなどを必要としない私達が〝絶対〟にその秘密を口外しないとは全くもって約束出来ません」
「はぁ……チェリさん……付き合いの長い、私と貴女の仲です。そう言葉を濁さず、ハッキリとお伝えください……貴女は、何を言いたいのでしょうか?」
不安なのでしょう。または、恐れているのでしょう。
ナギサの目がまるで相手を射殺すような勢いでチェリに注がれ、自然と言葉の端々に強い感情がこもっています。しかしそれを恐れてはいけません。
チェリは主人であるナギサが懸念とし、そして不安に思っているであろう事を口にします。
「ミカ様です……あの方は、ナギサ様とは違って隠し事が出来るお人ではありません。もちろんパテル分派の首長として上り詰めた実力や実績があることも重々承知していますが……この3年間、ナギサ様の大切な幼馴染であるミカ様の人となりを傍でよく見ていた私の見解としては、あの方に秘密を握らせ続けるのはあまりにもリスクが大きいと思っています。外部に秘密が漏れるとしたら、間違いなくミカ様からでしょう」
「チェリさんっ……貴女は、私の大切な友人であるミカさんを疑っているのですか!?」
感情が高ぶり、語気を強くして椅子から立ち上がったナギサ。彼女にとって幼馴染であるミカがエスミと同じく大切な存在であることはチェリもよく分かっていました。だからこそ、そんなミカの事を遠回しに『全く信用できない』と口にすることで、ナギサの怒りを買うこともしっかりと理解していました。
しかしチェリは彼女の専属の付き人です。ナギサの手足として動き、ナギサの幸せを願い、ナギサの不安を取り除く義務があるのです。故に彼女は止まりませんでした。
「落ち着いてください、ナギサ様。何も私は、あのミカ様が〝故意〟で情報を流すような方であると言った訳ではありません。誰かに利用され、うっかり口を滑らせてしまう可能性があると話したまでです。それにティーパーティーのトップであるセイア様が殺害されたという事は、恐らく犯人は次にナギサ様かミカ様を狙うはずです。もちろん私が居る限りナギサ様には指一本たりとも犯人に触れさせるつもりはありませんが、ミカ様には私のような専属の付き人がおりません」
「それは……確かにそうですが……それが何か?」
「恐怖に怯えているのは今のナギサ様だけではなく、ミカ様も同じであるという事です。人は、一度恐怖を持てば必然と誰かに相談し、感情を共有したがるものです。ミカ様にとって頼れる生徒はナギサ様を除けば師匠しかいません……ですが、その師匠は現在、ナギサ様の意向によりワイルドハント芸術学院に短期留学されています」
「ええ……セイアさんと最も親しくされていたのは他でもないエスミさんです。それに聞いた話によればセイアさんが襲撃されたあの日、行き違いでエスミさんが彼女の下を訪れていたようです。となれば、襲撃犯の狙いは初めからエスミさん……もしくはセイアさんと同時に殺害する事を狙っていた可能性もあります……だからこそ私は、このトリニティには安全が無いと判断し、エスミさんを急遽ワイルドハントへ短期留学させたのです。奇しくもワイルドハントからは以前から何度かエスミさんの短期留学について打診をされていたので絶好の機会と捉えました」
「師匠も最初は渋っていましたが、ナギサ様からセイア様殺害の件を聞いたことで考えを改めてくれましたし、過去に一度ゲヘナで襲撃を受けている師匠の身を思えば、あの時のナギサ様の判断は決して間違っていなかったと私はそう信じています。流石に無理やり実行させた短期留学なので、世間からは『ナギサ様の横暴だ』と依然として厳しい意見が出ていますが全く気にする事はありません。私もナギサ様の立場であったなら、きっと師匠の身を案じて同じ判断をしたはずです」
その言葉を聞いて、ナギサは安堵の溜息を吐きます。
チェリも一度だけ表情を和らげましたが、すぐに厳しい表情に変えました。
「ですがミカ様にとっては、短い間とはいえ一番頼れる方を失ったと言えるはずです。ナギサ様もご存知の通り、ミカ様はかなり師匠に信頼を寄せていましたので」
「そうですね。事情があって中々エスミさんに会えない私を気遣ってか、よく内緒で遊びに行かれていたとエスミさん本人から直接聞いています。正直、ミカさんのその人目を気にしない自由過ぎる行動を密かに妬んではいましたが、それだけエスミさんの事を心強く思っていたのでしょう……」
「とはいえ、その心強い師匠も今は不在です。セイア様が狙われた以上、次に襲われるのは自分かもしれないという恐怖を抱きながら、今も尚ミカ様は過ごされています。正直に申し上げて、その心労は計り知れません」
「ではチェリさんの考えとしては、その恐怖に押しつぶされてしまったミカさんが、やがてセイアさんが殺害されたという秘密を人知れず誰かに打ち明けてしまう恐れがあると……?」
「あくまでも私の予想です。蓋を開けてみれば、ミカ様はそんな恐怖や不安など一切抱いておらず、いつものように明るく過ごされているだけかもしれません……しかし、悪い予感がしているのです……」
「悪い予感……ですか」
「はい。ただどう表現すればいいのか……ともかく、ミカ様に関してはあらかじめ手を打つか、護衛が無理なら誰か監視を付けておくべきかもしれません。それに世間に広まっている噂もあのまま放置するのはよくありません」
「……分かりました。ひとまずミカさんの件については幼馴染である私の方から直接彼女に話をしてみます。チェリさんが懸念されている噂については、しばらく静観しておきましょう。今のところ、噂の中身は真実からほど遠いですし、この段階で私達の方から無暗に動いてしまっては余計に怪しまれてしまうでしょう。ただし、念には念を入れて今まで以上に事細かな情報も仕入れておくことにします」
「……承知しました。私の意見を聞いた上でナギサ様がそう判断されたのなら、もう私からはお伝えする言葉はございません。これからもナギサ様の付き人として、誠心誠意奉仕致します」
今までの非礼を詫びているのか、その場で深く頭を下げるチェリ。
ナギサは『必要ありません。むしろ私のためにありがとうございます』と笑みを浮かべて感謝を述べると、チェリも小さく笑みを零しました。
「……ところで、師匠の方は大丈夫でしょうか。仮にもセイア様を襲った犯人が、師匠も狙っていてワイルドハント芸術学院にまで足を運ぶような事があったとしたら……」
「……そればかりは私達の手でどうにか出来る話ではありません。留学された以上、エスミさんの身柄はしばらくの間ワイルドハント芸術学院が受け持ちます。彼女の身に何かが起きた場合、必然それはワイルドハント側の責任となり、我々トリニティ総合学園との関係にヒビが生じる事でしょう。したがって、向こうもエスミさんの身には細心の注意を払うはずです」
ナギサは既に遠くの地に行ったエスミの身を案じるようにして、視線を窓の向こうへと向けました。
「今は……ご無事であることを祈りましょう。少なくとも、ここに居るよりは安全です」
≪1-2≫
「身元の確認ですが、これで無事に終了しました。トリニティ総合学園から送られてきた短期留学の手続きも既に完了しています。本日より、貴女様はここワイルドハント芸術学院の生徒となりました。ようこそワイルドハント芸術学院へ。かねてより我々は貴女様のお越しを長い事お待ちしていましたよ、栢間エスミさん」
緑色に限りなく近い暗い青色のスーツを着こなし、見るからに立派な黒マントを着用している生徒がそう言葉を発すると共に、その美貌に似合う薄い笑みを浮かべてエスミを歓迎します。
「……ありがとう……」
ここはワイルドハント芸術学院の出入り口。
そして今、エスミは【寮監隊】と呼ばれるワイルドハントに存在する治安維持組織の生徒から先ほどまで検問を受けていたところでした。
正直、エスミの前世では全くと言っていいほど情報が無かったワイルドハント芸術学院。故にエスミとしてはここで起きる全ての出来事が未知であり初見になります。当然、事前情報もないため原作のどういうネームドキャラが在籍し、かつこの学園でどんな事が起きているのか、その全てが謎に包まれていると言えるでしょう。
いわばエスミの前世の知識すら頼りにならない未開の地なのです。
がしかし……そんな彼女でも、本来なら見知らぬ生徒しかいないはずのこの地で、あろうことか過去の記憶を呼び覚ますかのように、エスミは自身の眉をひそめていました。
何故なら、先ほどエスミの留学手続きを確認してくれたワイルドハントの生徒にどこか見覚えがあるからです。
「御覧の通り、ワイルドハント芸術学院は歴史が古く、あらゆる芸術に特化した学園になります。既に画家として大成され、名声すらも手にされているエスミさんにはもう必要のない話かもしれませんが、多くの生徒がここで己の芸術を極め、日々努力を重ねています」
「……」
「数多の技術、数多の知識……そして数多の芸術作品。きっとエスミさんにも満足してもらえる事でしょう」
そう言葉で説明しながら彼女は、手続きが完了したエスミの留学に関する一式の書類を他の寮監隊の生徒に渡すと、本部に届けるためか先に学園に向かわせます。
そして書類を手放したことで空いた右手に何やら杖らしきものを持つと、それをコツンッと地面に立てながらエスミに近づきました。
「とはいえ、エスミさんは遠い所から来て頂いた大事なお客様です。短期留学されている間だけは我々ワイルドハント芸術学院の生徒となりますが、依然としてトリニティ総合学園の生徒であることに変わりはありません。もしも貴女様の身に何かが起きれば、その責任を負うのはワイルドハント芸術学院となるでしょう」
「……そうだろうね」
「そこでエスミさんには少し不便をかけてしまう事になりますが、短期留学されている間だけ専属の護衛をご用意することに致しました」
「私の護衛?」
エスミの表情を見つめながら、生徒は心底楽しそうに……むしろ、遂に待ち望んでいたかのようにしてその綺麗な目を細めて首を縦に振りました。
「ええ、護衛です。流石にこのような場でエスミさんを襲うような不届き者がいるとは思えませんが、用心に越したことはありませんので。もちろん必要とあればエスミさんのご相談に乗ることも身の回りの世話も担当致します。そのため表向きには留学とありますが、実際のところ当校でのエスミさんの扱いはVIP待遇同然となります」
「随分とまあ……破格の待遇だね」
「当然です。エスミさんは、このキヴォトスにおいて非常に優れた芸術的才能をもつお方。ワイルドハント芸術学院の生徒達からすれば、今も尚生きる伝説であり、偉大な芸術家の1人であることに変わりはありません」
「なるほどね。正直、そういった誇張されすぎた賛美の言葉は既に聞き飽きてはいるんだけど……でも、ありがとう。芸術に日々熱意を注いでいるワイルドハントの生徒から直接そういう言葉を貰ったのは実は初めてだから、とても嬉しいよ」
クスッと笑みを零し、エスミは感謝の言葉を返します。
すると目の前にいるワイルドハントの生徒は薄く頬を赤く染めると、何やら言葉を伝えようとしましたが、どうも自身の望んだ言葉では無かったのか途中で口を閉ざしてしまいました。その代わりに、杖を持つ手とは逆の手をエスミに差し出します。
「……これは?」
「出来る事なら、私との握手をお願いします」
「握手……それはつまり。君も、私が生み出す作品のファンなのかな?」
「もちろんです。先ほどはエスミさんの偉業を讃えさせて頂きましたが、かくいう私もエスミさんが生み出す数々の絵画には常に心を奪われて来ました……しかし一部の政治家や資産家が権力誇示のため、作品のほとんどを買い占めている現状については多少ながら不服を抱えてはいます。エスミさんの作品は個人が独占して良いものではありません。より広く、より多くの人々にその美しさを、その壮大さを伝えるべきだと思います」
彼女はエスミの瞳をのぞき込むようにして見つめると『エスミさんは、どう思われますか?』と尋ねてきました。
一方でエスミは少しの間だけその言葉に対して静かに黙ると、やがて小さく息を吐くと共にその場で肩をすくめ、黒の革手袋をはめている右手で彼女の手を強く握りました。
「私の考えについてはまた今度、時間があった時に聞かせるよ。そういう芸術に対する価値観とか、信条というのはそう簡単に受け入れられるものじゃないからね。話すのなら、ちゃんと正式な場を設けて真剣に語り合おうか」
「……そうですか。分かりました。ですが……ふふっ、やはりエスミさんらしいですね。とはいえ、私は貴女のそういう所も気に入っているのですが」
何やら満足した様子で喜ぶ彼女に対し、エスミは首を傾げました。
「今日、君に会った時からずっと思っていた事なんだけど……君、もしかして以前どこかで私に会ったことがあったりする?」
そうは言ってもワイルドハント芸術学院に在籍している彼女をどこかで見たという確かな覚えはありません。過去の記憶を遡ってみても、こんなにもスタイルが良く、かつ綺麗で顔が整っている生徒に会ったことがあるのなら、間違いなくエスミも覚えているはずです。
しかしながら、彼女から漂う雰囲気、言動、見た目。
そのいずれもが過去にエスミに対して随分と
なので、エスミとしては不安が半分、かつ警戒が半分と言った形で静かに自身の空いている左手を愛銃のニキへ伸ばします。
「……」
目の前にいるワイルドハントの生徒の視線がほんの一瞬だけエスミの左手に注がれました。エスミの小さな動きを見て一体何を思ったのか。僅かながらに彼女の口角が上がります。
同時に握手する手にも力がこもりました。
そして彼女はこう口にします。
「いえ、そんなはずはありません。こうして直接お会いするのはお互いに初めてのはずです。恐らくエスミさんは、私によく似た誰かと勘違いされているのかもしれませんね」
「……そう……なら、単なる私の気のせいだね」
ハッキリと否定されたことで安心したのでしょう。
ホッとした様子で緊張を解いたエスミは愛銃に伸ばしかけていた左手も下げると、安堵からか視線も地面に落として小さく息を吐き出します。その瞬間、ワイルドハントの生徒の視線がまるで獲物を狩るようにしてエスミに注がれますが、再びエスミと視線が合うといつものように薄い笑みを浮かべました。
「ところで、さっき君が口にした私の護衛の事だけど……その護衛を担当してくれる生徒にはいつ会えるのかな? 出来れば早いうちに挨拶だけでも済ませておきたいけど」
「ああ、その事でしたらご安心ください。既にこの場におりますので」
「えっと……どこに?」
「ですから、今エスミさんの目の前にいる生徒ですよ」
エスミの目が驚きで見開きました。同時にワイルドハントの生徒がクスクスと笑いました。
「君が、私の護衛を?」
「はい。こう見えて私、寮監隊では幹部をやらせて頂いているのですが、キヴォトス全土に名を馳せるエスミさんのような方をお守りする護衛となれば、やはり実力やそれ相応の地位が必要ですので。そこで僭越ながら立候補させて頂きました」
「そう……なら、改めてこれからは宜しく。短い間だけど、何かがあったら君を頼らせてもらうね」
「はい。この学園に滞在される間は思う存分、私を頼ってください。私もエスミさんには以前から〝興味〟がありましたので。この出会いを機にお互い距離をより縮めることが出来れば幸いです」
「あー……私、友人は持たない主義だから距離感は程々でお願い……」
苦笑してそう口にしたエスミ。
続けて彼女は最も大事なことをワイルドハントの生徒に尋ねます。
「そういえば君の名前を教えて貰って無かったけど……名前は何て言うの?」
「ミリアです。苗字に関しては、今のところ控えさせてください。少し事情があるので」
「なるほどね。私は普段、人を呼ぶときは苗字なんだけど……まあ君にも事情があるみたいだから今回は私が折れるとするよ。役職が幹部ということは普段は寮監隊の仕事で忙しいはずなのに、わざわざ護衛を務めてくれる訳だからね」
「ご理解を頂けたようで感謝します。ではまずは〝私達〟の部屋に案内しましょう」
「……ん? 私達?」
ちょっと一旦待ちましょう。
今、ミリアの口から謎の単語が出なかったでしょうか?
エスミが『私の聞き間違いかな』といった具合で訝しげな視線をミリアに送ると、彼女は頬を赤く染めながらこう返事をするのでした。
「ええ。我が校の生徒会に値する組織【芸術評議会】の取り決めにより、今後エスミさんが過ごされる部屋は私と同部屋になりました。短い間ですが、これから宜しくお願いします、エスミさん」
「…………」
嬉しそうに喋るミリアとは対照的に、エスミは何やら驚きに包まれた様子で唖然としています。そしてようやく再起した時、エスミは信じられないといった形でこう言葉を零しました。
「……私……同部屋とか人生初めてなんだけど……」
もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)
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拳銃(M1911,グロック等)
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リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
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自動小銃(HK416、AK-47等)
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短機関銃(M1921、MP5等)
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小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
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散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
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機関銃(MG42、M249等)
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対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
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擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
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素手