夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない   作:木暮鬼一

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先週月曜日にこちらの作品のR18版を投稿させて頂きました。
https://syosetu.org/novel/388924/

こちらの作品のIF等を題材にした話にも関わらず、多くの方々に読んで頂き感謝です。
更新頻度は限りなく低いですが、楽しんで頂ければ幸いです。




栢間エスミ 『再会』

 

 ワイルドハント芸術学院。

 この日、トリニティ総合学園から『栢間エスミ』という1人の生徒を短期留学という形で迎えたこの学園で、今まさにその留学生であるエスミが恍惚とした表情を浮かべながら学園に足を踏み入れていました。

 

「凄い。ここって、もしかして私みたいな画家にとっては楽園なのかも……」

 

 目の前の景色に心を奪われる、というのは正に彼女のことを意味するのかもしれません。

 ブルアカ世界に転生して既に18年。前世の人生の分を含めれば、もう四半世紀もの年月を送ってきたエスミでしたが、そんな人生経験が豊富な彼女でさえも目の前に広がる景色を目にしたのは生まれて初めてであり、同時に深い感動を覚えていました。

 先程から隣に立っている寮監隊のミリアも自身が在籍している学園の景色を前にして、自慢げに胸を張ります。

 

「ええ、そうでしょうとも。ここワイルドハント芸術学院は文字通り芸術に特化し、芸術を極め、芸術によって栄えた自治区になります。街並み、建築物、彫刻、絵画。その全てがワイルドハントの生徒達によって生み出され、長い年月を得ることでその価値を日々高めてきました。こうして自治区の至るところに飾られている作品は、私たち芸術家の卵にとっては目指すべき境地であり、誉れとも言えますが、芸術が好きな方にとってはある意味で自治区そのものが〝美術館〟と言えます。感動してしまうのも無理はありません」 

 

 彼女の視線が、今も尚キラキラと目を輝かせているエスミに向けられました。

 

「とはいえ、もしも4年前……エスミさんがトリニティ総合学園ではなく、このワイルドハント芸術学院への進学を選ばれていたのなら、今頃きっとエスミさんの手で生み出された数多くの作品が、この学園の至るところで飾られていた事でしょう」

「ふふっ、そんな大げさな。私の作品で良ければワイルドハントに寄贈するぐらいはするのに。まあ、運送費ぐらいは負担してもらう必要があるけどね」

 

 クスクスと小さく笑い、エスミは未だ学園の方に熱い視線を向けています。

 ちなみに彼女の視線の先にあるものですが、そこには技法や分野問わずに飾られている絵画や彫刻、銅像が並んでいる特殊な廊下であり、先ほどからエスミはあの場所に行きたくて仕方ないといった反応を見せていました。

 その姿を眺め、ミリアは『ふぅっ』と息を吐いて肩をすくめます。

 

「エスミさん。もし飾られている作品を間近でご覧になりたいのでしたら、どうぞお構いなく。この学園に足を踏み入れた方は誰であれ、芸術作品を鑑賞する権利があります。もちろん留学生として滞在されているエスミさんも同じです」

「良いの?」

「もちろんです。一応鑑賞されている間だけ、寮監隊の幹部として不慮の事故が起きないよう目を光らせて頂きますが、かといってエスミさんの楽しみを奪うような真似はまず致しません。ですので、さあ……共に行きましょうか、エスミさん」

 

 作品群がある方へと手を伸ばし、優雅に笑みを浮かべるミリア。

 エスミはそんな彼女に対し気恥ずかしそうに苦笑すると、その場で軽く感謝のために頭を下げるのでした。

 

 

 

≪1-2≫

 

 

 

「ボスは今頃、ワイルドハントにもう到着している頃かな」

 

 ガツンッ、と釘を打ち付けた際に響く大きな音と共に、ハンマーを片手に高身長の少女がそう言葉を零すと……それを傍で聞いていた美術部部長のフランが作業の手を止め、机から顔を上げました。

 現在、美術部の部長であるフラン、そして副部長である少女の2人は経年劣化により損傷が激しくなった絵画の修復作業を行っている最中でしたが、ふと唐突に栢間エスミの話題を出してきた親友に対し、フランの訝しげな視線が向けられます。

 

「リノ、突然どうしたの? もしかして、遠くに行かれた栢間様のことが心配?」

「そりゃあ心配はするよ。今、トリニティはどこもかしこもギスギスしていて空気が悪いし、どうも雰囲気が悪いんだから。まあボスの事だからたぶん大丈夫だとは思うけど、それでも一度ゲヘナで襲撃を受けている訳だし、不安ぐらい抱くのはむしろ当然でしょ」

「それは杞憂だよ。栢間様が行かれたのはあのワイルドハント芸術学院。外部からの持ち込みが厳しいことで有名な寮監隊による検閲と規則がある学園で、治安もそれなりに良い。あんな無法地帯も同然のゲヘナと一緒にするのは、むしろワイルドハントの生徒達に失礼だよ」

「そりゃゲヘナに比べたらどこの学園もそれなりに治安は良い方だろうけどさ……でもねぇ」

 

 ガンッ、ガンッ、と次々に釘を打ち付けながら、年月が経ちボロボロとなってしまっているキャンバスを傍に置き、その代わりとなる新しいものを作っている少女、名を小豆リノ。

 とはいえ身長170もある女子が立ちながらハンマーを片手で振り下ろすその姿は、見る人によっては些細な恐怖を抱くことでしょう。勢いよく振り下ろされたハンマーが釘の尻を叩き、あっという間に全体の半分が沈みます。それをあと2回か3回繰り返すだけで1本の釘の打ち込みは瞬く間に完了です。

 随分と手際の良い光景ですが、とはいえやはり怖いものは怖いです。

 

 それでもこの場にいるのはハンマーを片手に釘を打つ少女……小豆リノの親友である、フランだけ。

 その彼女も今、近くに置いてある古い絵画をじっくりと眺めながら机上で絵具を作成しています。絵画にある色と全く同じ色の絵具を作成しているのでした。とはいえ本来、同じ色を作成するというのは非常に至難の業であり、普通は人の手で同じ色を生み出すことは事実上不可能とも言われています。

 故に、絵の修復作業といっても全く同じ色を作るのではなく、〝肉眼〟では判別できないレベルに近付けることを目標とされていました。

 

 しかしながら、この場にいる2人はあの栢間エスミから直接教えを受けている者達であり、加えて美術部の中では才能が抜きん出ています。特に美術に関する仕事において、絵画の修復を最も得意とするフランはこの手の仕事はもはやお手の物。手元で作成中の絵具と絵画の色を何度も交互に見比べながら、彼女は時間をかけて限りなく近い色に近付けていきます。

 

 一方で、それぞれが別の形で修復作業をしている間も2人の会話は未だに止むことがありません。

 

「普通はさ。ボクとか、フランがあの人の護衛に付くべきじゃない? 美術部の活動の一環とか何とかで理由を付ければ、無理やりにでもボスに同行することぐらいは出来たはずなんだから。それにフランは美術部の部長だよね? 部長権限とか何とか使ってさ、今からでもティーパーティーに進言してきなよ」

「ちょっと、そう簡単に物事を言わないで貰えるかな? 栢間様の短期留学を考え、そしてそれを無理やり実行に移したのは、現在ティーパーティーのホスト代理を務めているナギサ様なんだから。セイア様の身に起きた悲劇の後、今のナギサ様はどこか暴走気味に次々と強硬的な態度で政策を行っているし、一度は白紙になったはずのエデン条約の実現に今はとにかくお熱状態。そこに栢間様の件で私たちが口を挟めばどうなることやら。栢間様に対するナギサ様の並々ならぬ想いを考えれば、ああいった行動を取るのも無理はないだろうし……どちらにしろ、私たちは恐らく目の敵にされると思う」

「……あっそ。別に他人の個人的な事情なんてボクからしたら心底どうでもいいけどね。ボスの身を案じてくれているのは正直ありがたい事だけど、あれだとまるで『私の力では貴女を守ることが出来ません』と断言しているようなものだよ。良いのかな、仮にもこの学園のトップがあんなので。いうて、病弱過ぎて中々表舞台に姿を現さなかったセイアさんも優れたトップだったとは言い難いし」

「その話に出たセイア様がああなってしまった以上、今度は自分の番かもしれないって流石のナギサ様も疑心暗鬼に陥っているのかもね。心中お察しするよ」

「おやおや、あの金剛フランともあろう者が向こうの立場を重んじて肩を持つなんて珍しい。どうやら毎日毎日、政治家の皆様を相手しているおかげで流石のフランも心変わりでもしたのかな」

「……ねぇ、リノ。今日は随分と私に対するあたりがきついけど、何かあった?」

 

 お互い『親友』と自称するぐらい仲が良いことで知られている2人ですが、今日だけは何だか様子が変でした。正確にはリノが常に不機嫌そうな様子なのです。キャンバスを作成するのに使用しているそのハンマーも、何やら心の中に秘めている複雑な気持ちを上乗せしながら振っているようにしか思えません。

 一旦、絵具を作る手を止めてフランは心配そうに親友の顔を見つめました。

 

「リノ。私達は親友だよね? 1年の頃から共に栢間様を支えると誓い合った仲なんだから、せめてリノが抱いているその気持ちを私に打ち明けてほしい……」

 

 対してリノは嫌そうに眉をひそめながらもハンマーを振る手を止めません。しかし、親友からの言葉に応えるようにして自身の口を開きました。

 

「なら聞かせてもらうけどさ。フランは何で未だに気にしないふりをしてるの?」

「気にしないふりって……何が?」

「死んでるんだよ、人が。それもこの学園の生徒が」

 

 ビクッ、と彼女の肩が僅かに震えます。

 どうやら今までずっと気にしない振りをしていたのでしょう。ですが、親友であるリノはその反応を見たところで、空気を読んであえて口を閉ざすような事はしません。

 

「少し前までティーパーティーのホストを務めていた百合園セイア。彼女がある日突然、ヘイローを壊されて死亡した……犯人は不明のままで、そんな彼女の遺体を発見したのは真っ先に現場に駆け付けた救護騎士団の蒼森ミネらしいけど、その彼女も現在は所在が不明ときた。しかもこの件を知っているのは学園の中でもごく僅か。昔からその手の情報を集めるのが得意なシスターフッドやホストというトップを失ってしまったティーパーティーの上層部。そして、その上層部の中の1人と秘密裏に協力関係を築き、その伝手でセイアさん殺害の情報を得たフランとこのボク……ねえフラン。このセイアさんの殺害事件さ、関与しているのはフランが計画のために利用している協力者の聖園ミカさんと、彼女がトリニティに招き入れた例のアリウスの転校生だよね」

「…………」

「その無言は、肯定か何かのつもり?」

「……まあ……胸を張って違う、とは言えないから」

 

 フランは暗い表情のまま、親友から目をそらしました。

 その態度を見て、リノは増々不機嫌な表情になります。

 

「けど、詳しい事情は私にも分からない……基本的にアリウスとの接触や連絡はミカ様ご自身でされていて、私は学園に関する情報や物資の秘密裏にアリウスに手配するだけでそう深くは関わっていなかったから。あの日、セイア様が殺害された時もそう。私はミカ様に頼まれていつものように物資をアリウスに引き渡す予定の場所に運んだだけで、あとは部室に居残っていつものように制作をしていたよ……」

 

 落ち着かない様子で自身のこめかみを手で押さえながら、彼女は言葉を続けます。

 

「結局セイア様が殺害された件については、ほぼ一方的にその連絡がモモトークを通じてミカ様から届いただけであとは音沙汰無し。だから実を言うと本当にミカ様やアリウスが関与しているのか断定は出来ない。それを本人に直接尋ねようにもミカ様は訳があって現在は部屋に閉じこもっているみたいだし、その真偽も探れないといった状況。正直、完全にお手上げ」

「じゃあ転校生は? あの謎の転校生についてもフランは何も知らないって? 聞けばあの転校生、ミカさんの発案でボスのところに預けていたらしいけど、どう見ても怪しすぎるでしょ、あの子。個人的に気になって素性でも調べ上げようとしたけど、ボスに気付かれて止められたから結局何も分からずじまいで終わったし。そっちはどうなのさ、何かそれなりに情報はないの?」

 

 先程から彼女が口にしている〝転校生〟というのは、トリニティ総合学園にやって来たばかりの変わり者、白洲アズサのことを指していました。

 例のセイア殺害事件が起きるまでの間、エスミの下で教育という名目で預けられ、主にトリニティ総合学園に関する校則や作法などを学んでいました。そのため四六時中エスミと行動を共にしていたのですが、例のセイアの一件が起きてからは2人が行動を共にすることは無くなり、エスミがワイルドハントに留学という形で去ってからは常に1人で行動しているなど、かなり謎に満ちた生徒になります。

 故にそんな生徒に関する情報が知りたいと親友に尋ねたわけですが、肝心の相手は申し訳なさそうに首を横に振るのでした。

 

「まったく全然……私もあの転校生についてはアリウスからやって来たという点を除けば一切知らない。私のような立場で関わり過ぎるのは良くないって、ミカ様に言われてその転校生に接触することは禁じられていたし……もちろん素性が不明なアリウスの生徒だから私も栢間様の身を案じてはいたけど、結局何も起こらないまま日々は過ぎていくばかり。ただセイア様が殺害されても最終的に栢間様が襲われなかったということは、元から栢間様も含めてターゲットにしていた訳じゃ無いんだと思う……もっとも、本当に例の殺害にミカ様やアリウスが関与していたならの話だけどね」

 

 確信は出来ないといった様子でそう口にした訳ですが、その言葉に対しリノは大袈裟に溜息を返しました。

 

「いや、何もそう疑問に思う事は無いね、フラン。ほぼ十中八九、ミカさんやその謎の転校生……いや、何なら例のアリウスとかいう分校は間違いなくセイアさんの殺害に関与している。間違いない」

「その根拠は?」

「じゃなければ病弱とはいえ一応ティーパーティーのホストを務めているほどのセイアさんの居所が漏れるはずがないでしょ。このボクですら、セイアさんがよく身を隠していた場所の所在は掴めなかった訳だし。ボスもあの人に会う時は徹底的に人目を避けていたからね。加えてセイアさんはサンクトゥス分派の首長。つまり警備も厳重だ」

「……まあ、それはそうだけど」

「分かるでしょ。そんな秘密性も高ければ厳重な警備の目すらかいくぐって犯人はセイアさん殺害を成功させてみせた。これは必ず絶対に情報を裏で回した人がいるはず……そんな事が出来るとすれば立場的に情報を手にしやすいティーパーティーの幹部、ミカさんだけ。それに過去の歴史が語るにはアリウスはこのトリニティ総合学園から追放されたかつての同胞らしいじゃん。少し無理やり過ぎる考察だけど、復讐として学園トップのセイアさんを襲う動機も理解出来る。ほら、これでもう既に答えは出ているようなものだとは思わない?」

 

 確かに明確な証拠が無い分、無理やり過ぎる推理ではあります。

 しかし情報収集のスペシャリストであるリノが、これまでに得た情報と状況を元にして組み立て、そして導き出した結論なのですが正確性はともかく本当にそうなのかもしれません。

 それに情報が一体どこから生まれ、そしてどういう経緯で相手に伝わるのかをよく理解している者が言うだけに説得力もあります。

 故にフランはその言葉を重く受け止めながら『そっか……なら、そうなのかもしれないね』と言葉を零すと、それっきり口を閉ざし黙ってしまいました。その姿を見て、リノは信じられないといった様子で目を丸くします。

 

「驚いた……あの政治嫌いで有名なフランのことだから、この一大スキャンダルを利用して何かティーパーティーの瓦解に向けて一波乱でも起こすのかと思っていたけど、今回は随分と現実を重く受け止めているんだね?」

「それは……流石の私でも、ティーパーティーのトップのセイア様が殺害されるなんていう事態が起きるとは全くの想定外だったからね……てっきり、いつもみたいな政治家連中の趣味の悪い陰口合戦や悪戯程度で済むとばかり思っていたから……まあ仮にミカ様が本当に首謀者なら、あの方の協力者でもある私はアリウスに物資を支援したり、情報を提供したりして間接的にセイア様の殺害に関与した共犯者になってしまったわけで、おかげで例のティーパーティー瓦解計画を実行出来たとしても事が公になれば私は必ず罪を受けるだろうね。そうなった場合は、栢間様から受け継いだ美術部を以前のように再び廃部の危機に立たせることになる……ようは元々立てていた計画が全てパーになってしまったんだから、その事について酷く頭を悩ませるのはむしろ当たり前だよ」

「それもそうだね。けれどこの件に関しては他でもない、ボスの為を思うがあまり周りを見ようともせず、ミカさんを焚き付けてティーパーティーの幹部にまで押し上げて一定の権力を握らせたフランのせいなんだから、これに関しては完全に自業自得としか言えないさ」

「親友に対して、リノは相変わらず手厳しいね」

「言わせて貰うさ、当然。ボクにとってキヴォトスの頂点にいるべき方はティーパーティーでもないし、失踪した連邦生徒会長でもない。ボスだけだ。そして、あの方を支えるための数本の柱としてボクの隣に立つべき存在は親友であるフランだけしか居ないっていうのに、その肝心の1本の柱が道を誤って自分から崩れそうになっていて一体どうするんだか。あの人の身を大事に思うのなら、これを機にこれまでの自分の行き過ぎた暴走についてしっかりと反省することだね」

「…………」

「ちょっとちょっと。なんだい、その顔は?」

「何って……至って普通の顔をしてるつもりだけど」

「嘘つけ。『暴走なんて私、そんなこと別にしてないのに』って思ってる顔だよ、それ」

 

 そう言われてフランは嫌々ながらに息を吐き捨てます。

 

「そりゃあ……今まで栢間様の為を思って懸命に動いてきたのに、それを今さら暴走だなんて……普通、暴走って言うのは今のナギサ様みたいなことを言うはず」

「いや、ボクからすればフランもナギサ様さんも大差ないね。良かれと思ってお互いボスに相談もせずに勝手に突っ走っている訳だから。まあ決定的な違いがあるとすれば、フランは立場的にまだまだ弱い美術部の部長を務めているだけの庶民。対するナギサさんは現在トリニティのほぼ全てを管理できる最高指導者の位置にいる。フランは今、かろうじて壁にぶち当たった事で止まってくれたけど……ボクが次に懸念しているのは、ナギサさんだ」

「……あの方も、栢間様に対する想いは人一倍強いからね。留学という形で危険なトリニティから無事離したものの、つまりそれは学園の支配者でもあるナギサ様の手元からも離れているということ。リノの言う通り、自分の力では栢間様を守れないと分かった上での決断だったのか……単なる自暴自棄じゃなければ良いけど」

「あのフランにしては珍しく政治家さんたちの心配をしているところ悪いけどさ。そんなフランだって、仮にも今はセイアさん殺害に関する共犯者になっている訳だから、今は目立つ活動は控えるべきじゃない? ひとまずは、あのミカさんの危険極まりない計画から手を引くべきだね。これ以上悪事に加担していたら、むしろボスに迷惑をかけるばかりなんだから」

 

 フランは疲れたようにして苦笑して、首を横に振ります。

 

「そうしたいのは山々だけど、実はそう簡単にはいきそうにないかも……」

「……どういうこと?」

 

 首を傾げたリノに対し、フランは肩をすくめます。まるで全てが手遅れであるかのように。

 

「セイア様殺害の報告を受けたあの日、ミカ様から追加の指示があってね……栢間様が不在の間だけ、あの転校生の保護を頼まれてしまったんだ。それもアリウスからの転校生だってバレないようにして欲しいって」

「……完全にミカさんのいいように使われてるじゃん……最初は利用する気満々でいたのに……情けない」

「否定はしないよ……だから……出来れば、その転校生の世話をリノにお願いしたいんだ」

 

 その言葉を聞いて、リノは心底嫌そうに顔を歪めました。

 

「フランさ……もう後戻りが出来ない以上、親友として最後まで付き合うけど……それはそれとして、腹は立ってるから1発だけ顔面殴らせてくれない?」

「分かった…………その、出来ることなら思いっきりお願い…………あっ、そのハンマーは下ろして……それで殴られるのだけは嫌だから」

 

 おもむろに片手で持つハンマーを振り上げたリノは親友の情けない声に溜息を吐くと、仕方ないといった様子でハンマーを傍にあるテーブルに置きました。

 そして強く手を握りしめ、フランの下に駆け寄ります。同時にフランも作業中の机から離れ、自ら殴られるためにリノの下に歩み寄りました。

 

「ボスが帰ってきたらさ、ひとまず土下座と説明……しなよ?」

「もちろん……そうする」

 

 直後、2人がいる部屋から大きな音が鳴り響き、続けて部屋の窓から1人の生徒が投げ出されるや否や、一体何事かと美術部の部員たちが慌てて駆け付けることになるのですが、詳細を伏せておきたい当事者たちの対応により、やがてこの件は【美術部部長と副部長の私闘】という珍妙な形で片づけられたのでした。

 

 そして、2人が美術部でちょっとした騒ぎを起こしていた中、ワイルドハントでも1つの問題が起きていました。

 

 

 

≪1-3≫

 

 

 

「私って、望んだ形の再会であればこれでも大手を広げて喜ぶ方だけど……望まない再会の場合は、すぐに不満そうな態度を取ってすぐに話を終わらせるんだけど、貴方はそれを承知の上でわざわざ会いに来たの?」

 

 ワイルドハントにある美術館の一角にて、嫌そうな表情を浮かべながら栢間エスミはとある来訪者と対峙していました。

 ちなみに案内と護衛を兼任していたミリアは現在、緊急の用件が入ったためほんの少しだけ席を外しています。つまり今、エスミは文字通り護衛もなしに1人でした。

 そんな彼女の隙を見計らってか、唐突に会いに来た人物がいたのです。

 相手はエスミの嫌そうな反応などお構いなしに言葉を返してきました。

 

「……その通りだ。ここは芸術の都であり、学びの都市、ワイルドハント……私とそなたが再び出会う場としては、これ以上に最適な場はキヴォトス全土を探しても何処にも無いことだろう……ある意味で、定められた運命であるとも言える……」

 

 その人物は2つの頭を持ち、見た目はまるでマネキンのようでした。その身体が動くたびにギギッと何かが軋む音が鳴り響きます。エスミはそんな謎の人物を前にして今度は目を細めると『そもそも私に会うのは禁止にしていたはずだけど』と呆れたように言葉を返しました。

 

「……そなたが提示した条件は2年間の接触禁止。そして、トリニティ自治区への立ち入りだ……既にそなたは留年という形で在学4年目を迎え、例の2年の歳月はとうの昔に過ぎている。そしてここは立ち入りが禁止されたトリニティでは無い……かつての約束は今もこうして無事に果たせていると言えるはずだが?」

「まあ、それはそうかもしれないけど……正直、このタイミングで貴方に会いたくはなかったかな」

「ふむ……私はこうして再び会えて胸が躍っているが……どうだろうか、我が天使。ウリエルよ……同じ芸術に身を捧げ、芸術を敬愛する者同士、ここは私の顔を立てる形でしばしの間だけそなたの時間を頂きたい」

 

 エスミは視線を周囲に走らせ、この光景を誰も目撃していないことを確認すると、複雑そうな表情は崩さないまま仕方なく顔を縦に振りました。

 

「分かった。他でもない、ゲマトリアの一員でもある貴方がこうして直に会いに来たということは、それなりに大事な話が私にあるんだろうね。でもここは人が多いから、少し場所を移そう……だけど、私はここに来たばかりで土地勘も全く無いんだけどね……」

「その心配は無用だ。密談に最適であり、人目に付かない場所に心当たりがある……来たまえ、案内しよう」

 

 すっと手を差し伸べる相手。エスミはその態度を見て苦笑しました。

 

「その行動、まるでこれから貴方とデートでもするみたい」

「そなたが望むなら、そう振舞うことも造作ないが?」

「いや、結構。私と貴方は別にそういう仲じゃないからね。それに味方でも無ければ敵でもないし……まあそれはともかくとして、案内をよろしく頼んだよ……ゲマトリアの1人、マエストロ」

 

 そう相手の名を呼び、エスミは静かに彼の手を自身の〝右手〟で取りました。

 マエストロは自身の手を取ったエスミの行動に満足した様子で頷きます。

 

「わざわざその手を使ってくれた事に感謝する、ウリエルよ……そなたの信頼に応えてみせよう」

「むしろ、応えてくれないと困るんだけどね」

 

 そう言葉を交わした2人は、そのまま誰の目にも触れることなく瞬く間にその場から姿を消しました。

 

 

 

 やがて緊急の用件を無事に終わらせてきたらしいミリアがこの場所に再び戻ってきたのは、エスミがマエストロと共に姿を消して僅か数分後のことでした。

 

「……エスミさん?」

 

 杖代わりにしている銃を握る手に力をこめ、ミリアはやや不愉快そうに眉をひそめます。目立つ獣耳が周囲の音をくまなく拾い始め、やがてピクッと動きました。

 

「どうやら、悪い虫でも入ったのかもしれませんね」

 

 彼女はすぐに付近にいた寮監隊の生徒を呼びつけると、すぐに命令を下します。

 

「至急、学園内を捜索してください。客人であるエスミさんの身が危険です」

 

 

 






もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)

  • 拳銃(M1911,グロック等)
  • リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
  • 自動小銃(HK416、AK-47等)
  • 短機関銃(M1921、MP5等)
  • 小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
  • 散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
  • 機関銃(MG42、M249等)
  • 対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
  • 擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
  • 素手
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