夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない   作:木暮鬼一

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2025年も残すところ後1か月ですか。時が経つのは早いですね

最近、ストレス発散目的でナイトレインで遊んでます。パリィ大好き人間なので『執行者』を良く使ってますが『Kogure Kiichi』名義のプレイヤーと遭遇したら、たぶんそれは間違いなく私なのでお手柔らかにお願いします。

ブルアカに関しては個人的にはもうキャラを愛でる目的で育てているので、総力戦等々でお役に立てるかは分かりませんが、宜しければ下記のフレンドコードを利用してフレンドとなり弊生徒をご利用ください。

『AKWQUNCG』

※たぶんIDカードと助っ人を見たら丸分かりですが、作者は基本高身長のデカいイケメン女子キャラが大好きです。最推しはIDカードにいる子です。





栢間エスミ 『1日の終わり』

 

 絵画には【経年効果】と呼ばれる、ある変化が必ず訪れます。

 

 これは人間で例えると一種の〝衰え〟のようなものであり、主に絵具の変色やヒビ割れ、風化によるキャンバスなどの素材の腐敗や変形などを含めた、完成当初とは随分とかけ離れた変化を指す言葉になります。

 もちろん人によってはこれを効果ではなく〝劣化〟と呼ぶ者もいることでしょう。

 

 それもあながち間違ってはいません。

 

 実際、絵具というのは使用されている素材や製造過程における化学変化等の性質上、どうしても当初の色を長時間に渡って完璧に保つことは事実上不可能であり、特に乾燥というのは絵具における最大の天敵でありヒビ割れを生み出す要因です。

 他にもホコリや汚れなどもヒビ割れの原因になることはありますが、それらは適切な掃除や管理方法さえ徹底すればさほど問題はありません。しかしながら変色自体はどう手を尽くしたところで最終的には必ず訪れるものです。

 そのため美術館といった適切な管理や保存が出来る場所を除き、一般家庭における絵画の耐用年数は油彩画であれば数十年から50年程。水彩画に至っては10年または30年となります。むしろ早い場合だとほんの5年程度で変色が始まることさえあるのです。

 

 とはいえ、見方によってはそのヒビ割れや変色などは、絵画がこれまでに歩んできた人生の長さを象徴する変化であるとも言えるため、ごく一部の芸術家達はその変化の過程すらも見越した上で作品を生み出すことも時にはありました。

 言うなれば芸術家達は、この幾年月もの時間が経つことで現れる作品の変化を劣化ではなく〝成長〟であると考えたのです。

 

 事実として、数百年も昔に生み出された作品などは長い年月を経たことで酷く色が変色したり淡くなり、中にはすぐにでも修繕が必要なほど大きなヒビ割れを起こしているものもありますが、その状態がかえって作品の神秘性を強めていたりすることは多々あります。

 故に、後の芸術家達はあえて未処理の素材を用いて自然な風化を促したり、意図的に褪色する染料を使用して時間経過による色の変化を狙ってみたりするなどして、時間の経過によって起きてしまう作品の劣化をむしろ芸術表現のために最大限に活用することにしたのでした。

 

 これが【経年効果】と呼称される大まかな理由です。

 

 さて、では何故そのような話をいきなり始めたのか。

 それはその経年効果を活用した作品を今まさにエスミが直に鑑賞しているからです。

 傍にはゲマトリアの1人であるマエストロの姿もあります。

 

 現在、2人は屋外で展示されている数枚の絵画を交互に眺めながら、展示作品への感想を語り合っていました。これでもお互い度を超えた生粋の芸術家でもあるため、これらの作品を鑑賞したところで2人の口から出てくるのは創作家としての芸術的観点であったり、創作における技術や題材であったりと生産者視点になります。

 ちなみに作者の要望によるものなのか、貴重な作品が人の手で意図的に傷つかないよう、かつ作品に対する風化の調整または管理のためか、作品が展示されているこの屋外に立ち入りできる人数には制限が設けられています。

 その数は10人を下るかどうかといった所。

 しかも1回の鑑賞につき時間は30分程度と時間の上限も決まっており、一度退出した場合は手続きを行わない限り再び入場することは叶いません。

 加えて作品が展示されているこの屋外には風や空気の流れを利用するため、あちこちに高い壁が建てられており、立ち位置によっては人の目を避けることも十分に可能です。よって、そういった条件下が良い具合に重なった結果、先ほどからエスミとマエストロの存在に気付く者はおろか、そもそも彼女達を除き誰一人としてこの場に残っている者はいませんでした。

 

 そうしてこの展示場所に2人だけが取り残されて、およそ数分の時間が経過した頃。

 当初は微笑を浮かべながら満足気に作品を眺めていたエスミでしたが、先ほどから照りつく眩しい日の光をそっと片手で遮った途端、ふとある事に気付いたのか、ギョッとした様子で視線を隣に並ぶ立つマエストロに向けます。

 そして驚きと困惑からワナワナと唇を震わせ、こう言葉を零すのでした。

 

「私としたことが、うっかり美術鑑賞に夢中になって本来の目的を忘れるところだった……そもそも人気のないここに来た理由は、貴方と2人きりで大事な話をする為だったよね?」

 

 彼女の言う通り、2人がこの展示場所にきた理由はなにも経年効果を活用した作品を共に鑑賞し、芸術家同士でそれを熱く語り合う為ではありません。

 元々、エスミに大事な話があるからと接触してきたマエストロが密談をするのに持ってこいの場所があるからと案内された先が人気のないこの屋外だった、というだけの話なのです。

 もちろん初めは彼女達以外にも人がいたため、作品を鑑賞しながら適当に時間を潰してはいましたが、エスミというのは良くも悪くも美術狂いの人物……気付いた時にはもう、美術鑑賞に心を奪われ、当初の目的も忘れてただただ時間を潰してしまっていました。

 

 おかげで30分と定められていた鑑賞時間も、既にあと残り15分を切っています。

 果たして、マエストロが話したい話題というのは15分程度ですぐに終わる内容なのでしょうか。

 

「……確かに。そなたとの美術談義が思いのほか熱くなってしまい、危うく当初の目的を忘れるところではあったが、時間の心配をする必要はない……そう長くなる話では無いからな」

 

 しかし余裕な態度を一切崩さないマエストロの姿を見る限り、その心配は杞憂だったようです。

 エスミは心底ほっとした様子で胸をなでおろしました。

 

「なら気を取り直すとして……ゲマトリアの一員でもあるはずの貴方が、わざわざ私に会いに来た理由……その本心を話してもらえるかな」

 

 マエストロは身体を僅かに軋ませます。

 そして彼女から顔を逸らすと、遥か頭上にある眩しい太陽を眺めながら、まるで願い事をするかのようにして、こう言葉を零しました。

 

「そなたを、我が陣営に招き入れたいと思っている」

「——‼」

 

 正直、全く予想もしなかった言葉を前にしてエスミが驚愕の表情を浮かべた途端、2人の下に突如して突風が吹き、エスミの綺麗な薄い青色の髪を揺らします。その間も、エスミの視線は彼から外れることはありません。

 そしてマエストロは自身の整った服が風によって強くはためく中、顔を再びエスミに戻すと懇願するような形でこう言葉を続けました。

 

「より正確に伝えるのなら、同志として私の隣に並んで欲しいのだ」

 

 

 

≪1-2≫

 

 

 

『こんなお時間にまさか電話とは。今まで手紙やモモトークでやり取りをしていたボスにしてはかなり珍しいですね。どうかされましたか?』

「まあ、何て言うのかな。気分転換というか、ちょっと君に野暮用があってね。それにせっかくだからトリニティの近況もついでに知ろうと思って」

『そうでしたか。しかし近況と言われても、ボスがそちらに留学されてまだそれほど日数が経っていないので、ボクの口からお伝えできる情報はそう多くは無いのですが……』

「構わないよ。小豆がこの短い期間のうちに手に入れた情報で、何か真新しいものがあれば全て教えて」

『……了解です。では早速ながら、今のティーパーティーの状況について得た情報ですが――』

 

 時刻は既に夜中。

 日中は眩しく、そして輝く太陽の下に照らされていたワイルドハントの自治区も、今では半分雲に隠れてしまった月の僅かな光によって照らされるのみで、辺り一面は真っ暗な世界へと瞬く間に塗りつぶされていました。

 耳を澄ませば風によって揺れる葉や木々の音などが聞こえてきますが、芸術工作をする作業音や音楽などが四方八方から響いていた日中の賑やかさはもうありません。

 

 正に静寂です。

 

 そんな中、部屋の窓を開けっぱなしにした状態で外の景色を眺めながら、エスミは愛用しているスマホを使い、トリニティで現在美術部の副部長を務めている小豆リノ(その正体はエスミが情報収集のために自らスカウトした専属の部下)と通話をしていました。

 ちなみにトリニティにいる間は周囲の目を誤魔化すため、芸術に関する暗号文などを用いながらリノから定期的に情報を仕入れているエスミですが、今回はいつもとは違い遠く離れた他学園の自治区にいるため、このように堂々とスマホを使ってリノと通話しても特に問題はありません。

 また運が良いことに、エスミと同室であるミリアは現在シャワーを浴びるため一時不在としており、そのおかげでもあってか、久しぶりに周囲の目を気にすることが無いエスミは警戒心を解いた状態でリノとの通話を続けるのでした。

 

「……なるほどね。私が事前告知も無しに突然いきなりワイルドハントに短期留学したことで、ティーパーティーに対する庶民派の生徒達からの印象がだいぶ悪くなっている、と」

『正確には現在トップを務めているナギサさんに対する印象が悪くなっている感じですね。美術部の部員からも、昔から贔屓にしているボスが相手とはいえ、本人の都合も考えないで突然ワイルドハントに短期留学させるのはホストという立場を利用してナギサさんは職権乱用している、なんていう厳しい声も上がっています。それに例のエデン条約の実現に向けて、正実を使い無理やり治安を強化させたりして、去年とは全く比にならないほど自治区全体の空気をピリピリとさせているんですから、ボスが思っていたよりも学園全体の雰囲気はかなり最悪ですよ』

「そう……桐藤が」

 

 心配そうな様子でナギサの苗字を口にした時、一時の間を挟んで、ふとリノが他人の家の敷居を跨ぐような慎重さで口を開いてきました。

 

『やはり、ナギサさんとは中等部の頃からの付き合いでもあるボスとしては、今の状況について心苦しいものがある感じですか?』

「それは……まあ、どうだろうね。古い付き合いでもある私個人の意見としては、トリニティを代表するトップとして彼女なりに必死に頭を働かせながら学園を運営している訳だから、出来れば温かい目で見てあげて欲しいとは思うけど……だからといって、等しく全員がそう思える訳じゃないからね」

『……まあ、そうですね』

「特に政治というのは、何をしても賛否が出てしまう分野だから余計に難しいだろうし。それこそ君や金剛みたいに根っこから政治そのものを毛嫌いしている生徒達からすれば、桐藤の行動はむしろ学園の空気を悪くしている、なんて思うかもしれないね。特に彼女が実現に向けて進めている例の条約だって、きっと心から望まない者だっている。むしろ扱いづらい爆弾を手にしているような感じかな」

『それはよく分かります。何しろ例のエデン条約は本来、発起人であるはずの連邦生徒会長が失踪した事により、瓦解してしまい一度白紙になった曰く付きの代物です。それを依然として連邦生徒会長が行方知れずの中、トリニティ代表としてナギサさんが主導で勝手に進めているのですから、元からゲヘナに良い印象を抱いていない生徒達からすれば、まったく面白くない状況でしょう』

「ちなみに、小豆は心境としてはどうなの? 例の条約については」

 

 さり気ない形でそう質問を振ってみると、リノはほんの数秒だけ間を置くとすんなりと言葉を返してきました。

 

『ボクの心境ですか? いやぁ……そうですね……可もなく不可もなく、と言った所ですかね。ボク自身、あの無法地帯のゲヘナに直接足を踏み入れたことは未だに無いですが、ボスの身に起きた悲劇のことを思えば、今後の未来のためにも条約そのものは実現しても良いと思っています』

「なるほどね」

『しかし……それはあの連邦生徒会長が行方不明になる前の話。彼女が突然消えた今、例の条約はこれといった賛同者もいない中、ナギサさんが周囲の反対を押し切って強引に進めているという状況です。おかげで連邦生徒会という、本来なら調整を担うはずの組織がまったく介入してこないという事もあってか、前々から反ゲヘナを掲げているパテル分派などの反対派が次第にその声を大きくし始め、足並みを中々揃えようとはしません。つまり、ティーパーティーは例の条約をめぐって分裂の危機を迎えているわけです。ボクはこの件に関してだけは、あまりにも時期尚早だったと捉えています。もしくは時すでに遅し、と言うべきか』

「ということは、君は〝今あの条約を扱うのはタイミング的にも非常に危ないので断固反対だ〟と、そう言いたい訳だね」

『まあ、簡単に説明するならそういう事になります』

 

 エスミは苦笑し、腰掛けていたベッドから静かに立ち上がりました。

 

「そっか。でもありがとう。金剛と同じで政治嫌いを公言している君の口から、今の情勢について貴重な意見を聞かせて貰えて私は嬉しいよ」

『ははっ、フランに比べればボクの政治嫌いなんてそう酷くはありませんよ。せいぜい嫌味を口にしながら冷めた目を送るぐらいです。ボスがお望みとあれば、今の政治に対する見解ぐらい、むしろ喜んで口にしますとも』

「そう。ならまた今度それを聞かせてね……それで、そろそろ本題の……最初に君に言った、ある〝野暮用〟について話そうと思うんだけど、大丈夫?」

 

 一呼吸を行い、先ほどまでのやや緩やかな空気を一変させ、エスミはかなり真剣な表情でそう切り出します。恐らく、野暮用という割には何やら重要そうな用事が込められていると通話越しでも感じ取ったのでしょう。リノの方も自ずと背筋を伸ばすと『ええ、大丈夫です』と短く返事をしました。

 するとエスミはベッドから一旦離れると、ずっと開けっ放しだった窓を片手でしっかりと閉めました。

 妙に心地良かった夜風がおさまり、只でさえ静寂だったその場の音が更に無音へと近づきます。

 

 そして再びベッドに腰掛けたエスミは、こう口を開いたのでした。

 

「小豆。まず前置きしておくけど、これから私が君に話すことはお願いでも無ければ命令でもない。だから、もし無理だと感じたらすぐに断っても大丈夫だということを事前に言っておくね」

『ははっ。そんなボスにしては随分と珍しいですね。このボクが今までボスの頼みを即座に断ったことが1度でもありましたか?』

「……なら、金剛に張り付いて監視をして欲しい、と私が頼んだらすぐにでも引き受けてくれる?」

 

 その瞬間、ヒュッと息を飲む音と共にリノからの反応がぱたりと止んでしまいました。

 しかし耳を澄ましてみると、スマホのスピーカーからは密かに『……ぇ……いや……そんなはずは……』と酷く動揺している声が聞こえてきます。

 エスミはその様子をただ黙って聞き続けるのでした。

 

『……し、失礼しました、ボス。驚いてしまいました……ですが、あの……先ほどの話は一体?』

 

 やがて無理やり調子を落ち着かせてきたらしいリノが再び姿を現しましたが、流石に尊敬している先輩の口からまさか『金剛フランの監視をしろ』という驚きの言葉が飛び出て来たことに対し、未だ激しく動揺しているようです。声に落ち着きがありません。

 しかしまあ、無理もないことでしょう。

 彼女にとって金剛フランという少女は、共に栢間エスミという生徒に憧れを抱き、彼女のために働くことを誓い合い、今日まで切羽琢磨してきた唯一無二の同志にして大親友なのです。同じく政治を毛嫌いする仲という事もあってか、彼女たちの絆と友情の深さは、間近で見ていたエスミも良く知っています。

 しかし内心申し訳ないと思いつつも、エスミは会話を続けるのでした。

 

「言葉の通りだよ、小豆。君は彼女とかなり仲が良い。それも他者が入る余地もないほどに深い友情で結ばれている。だからこそ、万が一にでも金剛が暴走した時のために備えて、彼女だけのストッパーになってほしい」

『……ストッパーに……』

「ほら彼女は……金剛はその、私のことをかなり神聖視しすぎている所があるでしょ? 加えてあの過激レベルで政治嫌いな一面も。本当は、以前ゲヘナで怪我を負った私が入院したことをきっかけに大暴れをするかもしれないって内心結構不安でね。まあ結果的にその心配は杞憂だった訳だけど……今は私の代わりに立派に美術部の部長を務めているようだし」

 

 利き手に装着している黒色の革手袋に視線を落とし、エスミは肩をすくめます。

 

「だけど昔と同じで、今もそれなりに情勢は不安定だからね。例の条約実現に向けたティーパーティーの強引な動きや、私の短期留学の件で学園内部からはかなり不満の声が上がっているようだから、反政治思想をもつ金剛の事が余計に心配で」

『そういう事でしたか。ではボスは、彼女がそういった悪い空気に触発されて暴れ出すことを危惧していると……だからこそ、彼女の親友であるボクにその監視をお願いしたい。つまり、そうなんですね』

「でもまあ、少し言葉が悪かったかもしれないね。監視というよりは、君に彼女のことを見守って欲しいと言うべきだったかな?」

『……いえ、彼女にはむしろ監視という言葉の方が正しいです。あれはボスや美術のことになると後先考えない大バカ者ですから』

「この場にはいないけど、仮にも親友なのに随分と容赦のない言葉を口にするんだね、君」

『他でもない親友だからこそ、ですから。この程度の扱い、むしろボクたちの間では通常運転ですよ』

「そう。他でもない君たち自身が気にしていないのなら、私から言うことは特に無いかな」

 

 とはいえ、エスミが懸念していることはもう1つあります。

 

 それは近頃のフランはどうやら仕事の都合上仕方ないとはいえ、ミカとよく頻繁に出会っているという事です。聞く話によれば絵画の修繕であったり運搬であったりと、芸術関連の依頼でミカの方から積極的に美術部を頼っているようですが、元よりミカ自身はあまり芸術に対してナギサのように熱を上げていた生徒ではありません。

 むしろセイアのように『興味が無い』と口にするか、または『全然詳しくないから☆』と自ら公言して、さも当たり前のように一歩二歩と芸術から距離を置いていた側の人物なのです。

 故に、ここ最近の美術部への出入りの多さは流石のエスミも色々と気になっていました。

 単純に新しい趣味が増えただけなのか、それとも別の目的でもあるのか。

 

 それにミカの相手をほぼ専属で担当しているのは、現在美術部の部長を務めているフランになります。

 

 一応ミカはパテル分派の首長を務めている訳ですから、互いの組織の長同士、交流を深めること自体は何もおかしくはありません。

 ですが只でさえ例のエデン条約編に突入しかけているこの状況下、どうもエスミのあずかり知らない所で予想外の問題が起きているような気がしてなりません。

 現状、細かな所さえ除けば原作通りの展開に進んでいるので杞憂ではあると思うのですが、やはりエスミとしてはミカと交流を深めているフランを通し、得られる情報は多いに越したことはないでしょう。

 

(でも、原作だとあの疑い深いモードになっていた幼馴染のナギサさえ騙すほどの立ち回りをしてみせたミカの事だから、あまりこの手のルートは通用しなさそうだけどね)

 

 そう心の中で感想を零し、苦笑するエスミ。

 そしてふと時間を確認してみれば、通話を始めてそれなりに時間が経っていることに気付きました。

 用事も済んだ事ですし、そろそろお開きにしないといけません。

 早くしないとシャワーを浴びているはずのミリアが戻ってきてしまいます。

 

「それじゃあ、もしも親友の金剛を監視することに少しでも躊躇いがあったのなら、別に例の話は断っても大丈夫だからね、小豆。君たちの熱い友情に万が一にでもヒビが入るような事はしたくないし、ここ最近の金剛の頑張りは私から見ても流石だとは思っているからね。むしろ、金剛も含めて何か困っている事があれば、遠慮なく私を頼っても良いから」

『…………』

「ん、小豆? いきなり黙ってどうかしたの?」

『……い、いえ……そうですね、はい。本当にボクや金剛でさえ手が付けられないような〝問題〟が起きた時は……その時は……最後は責任を取って自ら腹を斬る前提で、泣く泣くボスに助けを求めます……』

「いや、そうなる前に私のことをすぐにでも頼って良いんだからね? 別に腹を斬る必要はないよ?」

 

 何だか既に問題を抱えているような口ぶりでしたが、リノの事なので今問い詰めたところで自ら口を開くことはしないでしょう。

 これは後々トリニティに戻った際、個別でリノとフランにじっくり確認しておくのが良いかもしれないと考えつつ、ひとまず時間も時間なので彼女との通話を終わることにしました。

 

「私はあと数週間ほどワイルドハントに滞在しているから、もし緊急の用件があるときは電話を掛けて来ても良いからね。今の環境下なら、お互いあまり人の目を気にする必要は無いだろうし」

『そうですね。そちらの自治区は外部からの持ち込みに関して、寮監隊による検閲がかなり厳しいと聞いています。従来のような手紙や小箱を利用したメッセージのやり取りは使えそうに無さそうですので、ボスの言う通りここは一旦スマホを利用して報告を行います』

「じゃあ当分の間はそうしよう。小豆、しばらく私はトリニティを不在にしているけど、そっちの方は頼んだよ」

『ええ。承知しました、ボス……そちらもゲヘナでの事件が再び起きないよう、くれぐれも気を付けてください。またその身が狙われるかもしれませんので』

「大丈夫だよ。触覚過敏になっても今でもそれなりに戦えるし、私の傍には頼りになる寮監隊の生徒が常に警護してくれているから。そう心配することはないし、安心して」

『……分かりました。ではボス、お疲れさまでした』

「うん。お疲れ様」

 

 ピッ、と小さな効果音を鳴らすと共に通話を切り、そのまま深い溜息を吐いたエスミは携帯を置いてベッドに横たわりました。

 ギシギシと小さくベッドが音を鳴らしながら、ふわふわとした布団が温かく彼女の身体を出迎えます。一応、既に寝間着に着替えているため今すぐにでも布団にもぐり込めば瞬く間に夢の旅に出発出来るのですが、エスミは部屋の天井を眺めながらただ寛ぐだけでした。

 

「…………」

 

 彼女は一体、何を思っているのでしょうか。

 今のトリニティ情勢に関することでしょうか。

 それともリノの口から語られたナギサやフランといった生徒達のことでしょうか。または現実逃避のため、愛する美術のことでも考えているのか。

 そんな第3者の視点ですら考えつかないような状況が続く中、突然ふわっとした良い匂いがしたと思うと、直後にエスミの視界にある少女がひょっこりと顔を覗かせてきました。

 エスミの目が驚きのあまり軽く見開きます。

 

「おやおや。いくら部屋の中とはいえ、私を前にしてそのような可憐で魅力的なお姿を無防備にも晒してしまうとは。最悪、そのままうっかりエスミさんを食べてしまうかもしれませんよ、フフッ」

 

 そこにいたのはエスミに負けず劣らずの美少女でした。

 

 

 

≪1-3≫

 

 

 

 音もなく突然現れた美少女を前にして、しばらくの間エスミは二度三度と目を瞬かせるだけで、まともな反応を返せずにいましたが、やがてほっと息を吐くと同時に呆れた様子で少女に対し、ジト目を向けるのでした。

 

「……驚いた。いきなり姿を現すから心臓が止まるかと思ったんだけど?」

「それは失礼しました。ですが、どうやらエスミさんは相部屋という環境下が本当に慣れていらっしゃらないのですね。この程度のことで大層驚かれるなんて。まあエスミさんを驚かせたい一心で足音を消していた私も悪いとは思っていますが。次回からは、もう少しだけ加減をしておきましょう」

「むしろ心臓に悪くない驚かし方を学んでほしいんだけど……もちろん、出来ることならだけど」

「はい。肝に銘じておきます」

「本当に? その何だか意味深な笑み。次もまた同じ手で私を驚かすつもりじゃないよね、ミリア」

「さあ、どうでしょうか」

「いやいや、勘弁して本当に……私、ジャンプスケアは苦手なんだから……」

「おや。それは良いことを聞けましたね」

「ちょっと」

「フフッ」

 

 楽しそうにクスクスと笑みを零す彼女は、先ほどまでシャワーを浴びるために部屋を不在にしていた同室のワイルドハント生徒であり、名をミリア。

 このワイルドハント芸術学院の治安維持を担当する組織、寮監隊の副幹部にしてエスミの専属警護を担当するほどの実力者であり、かつ滞在中はエスミと共にこの部屋で過ごすルームメイトになります。

 ちなみに今日一日ワイルドハントに着いたばかりのエスミに常に付き添い、学園の道案内をしてくれたのも彼女になります。

 

 当たり前と言うべきか、芸術を極め、かつ芸術をこよなく愛するワイルドハントの生徒という事もあって、大の美術狂いであるエスミのペースに終始合わせることが出来るだけに留まらず、エスミの好みや癖までも把握しているなど(彼女とは今日初めて出会ったばかりのエスミ個人としては少し不気味に思うほど)、あらゆる意味で人の心を上手く掴み、傍に寄り添う能力が傑出している生徒でもあります。

 基本、生徒問わず他人に対してはそれなりに一定の距離を置いているエスミであっても、出会ってまだ1日も経っていないにも関わらず既にそれなりの信頼をミリアに寄せているのですから、その時点でもう彼女は大変優秀だと分かってもらえる事でしょう。

 

 まあしかし実は、学園の道案内の道中で思わぬ〝人物〟と再会してしまったエスミが、別件で一時不在にしていたミリアの帰りを待つことなくその場を勝手に離れてしまい、何やかんやあった末にその人物との用事も終えて元居た場所に戻ってくると、なんとミリア主導で危うく寮監隊のメンバーを総動員して学園中を捜索される所だったなど、ワイルドハントに短期留学して早々ミリアに対し迷惑をかけてしまうという裏話があったりします。

 とはいえミリアの方も『少しの間とはいえ、エスミさんの傍を不用意にも離れてしまった私にも責任はあります』と擁護してくれたため、この件に関してはそう表沙汰になることもなく、むしろ芸術に関する問題が日常茶飯事レベルで起きているワイルドハントではよくある出来事の1つとして無事に片付いたのでした。

 

 ちなみに世間からは優れた画家としてだけではなく、美少女としても高く評価されているエスミですが、そんな彼女の隣に並んでもミリアは全く遜色ないレベルの見た目をしています。

 

 スラッとした細身の身体に、先ほどから喋る度にピクピクと僅かに反応させている細長い獣耳。

 そして同性であっても惹かれてしまいそうなほど非常に整った顔立ち。そこに常に落ち着いた雰囲気と言動も加わるため、細かな特徴こそ違うものの、ある意味ではエスミと同様にかなり目を引く容姿をしている生徒になります。

 また湯上りという事もあってか、元々白いはずの彼女の肌は現在ほんのりと赤くなっており、加えてシャンプーの匂いも漂わせているので、今の彼女を見たらこの手のシチュエーションに耐性のない者はあっさりと彼女の魅力を前にして屈してしまうかもしれません。

 実際、ミリアが率先してワイルドハントを案内している最中、何人かの生徒から声をかけられ、中には軽く悲鳴をあげている者もいました。

 

 ただ生憎とエスミはこういった状況下でも割と平然としており、今も尚こちらを見下ろしているミリアをじっと見つめた後、面白くなさそうに溜息を吐くとベッドから静かに起き上がるのでした。

 

「あら、もう宜しいのですか。てっきりそのまま寝てしまうのかと」

「未だに何かを企んでいそうな笑みを浮かべている君に見つめられたまま、私があのまま寝れると思うの?」

「むしろ私はエスミさんに見つめて貰えるのなら、あっという間に夢の旅に出かけてしまいそうです」

「……今まで私の胸を枕代わりにしたり、添い寝をすることでぐっすりと寝てしまう知人はいたりしたけど、流石に私の顔を見るだけで眠りにつける人は君が初めてだよ……」

「おや、そうでしたか。しかしその知人の方々はエスミさんの美しいお顔に見つめられることに、随分と慣れていらっしゃるのですね」

「まあ……かれこれ5年6年の付き合いだからね。世間からは美少女だの何だのと言われ続けてきた私だけど、彼女達とはもう長い付き合いだから案外、私の顔なんて見飽きたのかもしれないね」

 

 そう言って軽く笑ってみせたエスミでしたが、その言葉に対しミリアは何を思ってか僅かに目を細めると、そのままベッドに腰掛けている彼女の隣に移動し、まるで並ぶようにして自身も腰を下ろしました。

 そしてほんの小さな動きで自身の身体をエスミに寄せます。

 おかげで少しでもエスミが顔を動かせば、間近にはミリアの顔があるほどの近距離になりました。流石に肌が触れ合うほどの至近距離とまではいきませんが、湯上りでまだ冷めていないミリアの身体からは僅かながらに未だに熱気を放っているのが分かります。

 

「ミリア?」

 

 とはいえ、こうして至近距離に来られても全く動じないエスミは首を斜めに傾けながら、彼女の名を優しく呼ぶのでした。

 対するミリアはじっとエスミの顔を、その瞳をのぞき込むようにして見つめています。

 

「……私は、見飽きたりはしませんよ」

「え?」

「例え、エスミさんとの付き合いがこの先5年。10年。果てには数十年と続いても、私は貴女の美しいお顔に飽きることはありません。もちろん、お顔だけではありません。人を魅了する芸術作品が永遠にその者を虜にするように、私はエスミさんの全てに心を奪われ、常に惹かれているのですから」

「何だか、君の今の台詞……まるで愛の告白のようだね。例えも言葉選びも素敵だし、正直凄く似合っていた。というより、少し惚れちゃったかもしれない」

「おや、それは嬉しいお言葉ですね。ではせっかくエスミさんに惚れて頂いた訳ですから、このまま私と正式にお付き合いして頂けるでしょうか。もし付き合って頂ければ、エスミさんが創作に集中出来るよう身の周りのお世話は今後全て私が担当しましょう。その代わり、誰よりも先にエスミさんの作品を真っ先に鑑賞できる権利を頂くと共に、出来れば他の方にその作品を売ることもなく、エスミさんの名が付けられた美術館を私自ら創設してそこに展示を――」

「こら、調子に乗らない。それは強欲にもほどがあるから。それに私は誰とも付き合わないし」

 

 エスミは呆れた様子で肩をすくめると、片手をひらひらと振りながら彼女から距離を取ります。と言っても、拳3個分程度のほんの小さな距離です。ある意味、それなりにミリアに対して心身ともに許しているのでしょう。

 それを察しているミリアもまた、さらに悪乗りする事もなく、笑みを浮かべて小さく頭を縦に振るのでした。

 

「フフッ、少々私らしくない夢見がちな言葉を口にしてしまいました。ですがエスミさん、先ほど私が口にした言葉はどれも真実です。それだけは心に留めて頂けると幸いです」

「そう……まあ、私にぞっこんになるのも程々にね。私、基本そういうのはお断りしているから。求められてもその期待に応えることはたぶん無いよ」

「ええ、それでも構いません。むしろ、堅牢な砦の中に閉じこもるエスミさんのその心を、私が華麗に盗んでみせましょう」

「ぬ、盗むって……私の心、別に宝石じゃないんだけど……」

「フフッ、もちろん存じていますよ」

 

 自身の胸に手を当てて大袈裟にさすりながらミリアに対してジト目を向けたエスミでしたが、一方でミリアは獲物を狙う狩人の如くその真剣な目つきを一切崩すことなく、ただただ笑っていました。

 その姿は不気味というより、無理難題に挑む挑戦者のように思えたため、エスミとしては意外にも恐怖や不安を抱くことはありませんでした。

 そもそもトリニティから短期留学という形で来ている客人に対し、寮監隊の副幹部ともあろう者が『貴女が好きなのでその心を堕としてみせますね』と本気で考えるはずがありません。

 

 仮にもミリアが初めからその気でいるのなら、エスミは今頃ベッドに押し倒されて同人誌よろしく彼女に喰われていたに違いありません。今更ではありますがエスミ自身、今まで常に独り身で過ごしていたという事もあり、かなり無防備で過ごしていたという自覚はあるのです。

 

(でも原作のブルアカキャラって、みんなして倫理観はそれなりに守っている方だから、そう心配する事でもないんだけどね……まあ、例の七囚人だけは例外かもしれないけど。いや、でも流石に七囚人の皆がそれぞれ欲情に駆られるなんてことあるのかな?)

 

 割とどうでもいい方向に思考が持っていかれてしまったエスミでしたが、ふと気付けばもう就寝の時間です。ミリアの方も身体が冷えてきたようで、よく見れば少し眠そうにしています。

 かくいうエスミも今日はワイルドハントに到着して早々学園内を散策しては、思いもよらない人物との再会などで心身ともに疲労している身。

 欠伸や寝落ちこそしないものの、既に身体は限界を迎えようとしていました。

 

 ですがしかし、そう心配することはありません。

 

 今後しばらくはこのワイルドハントで短期留学生として過ごすのです。明日からはトリニティ特有の政治情勢や権謀術数に頭を悩ませる必要はありません。ぐっすりと就寝し、好きな芸術にのめり込む毎日が始まります。

 そう思うとむしろワクワクで眠れなくなりそうだと感じつつ、エスミは一旦ミリアに声をかけると、向こうも既に眠る気でいたため、そのまま互いに自身のベッドにもぐり込みました。そしてどちらかの『おやすみなさい』の言葉をきっかけにして、あっという間に就寝したのでした。

 

 

 

 こうしてワイルドハントに短期留学しにきた栢間エスミの1日は、それなりに大小さまざまな出来事を抱えたものの無事に終わりを告げました。

 明日からは、ブルアカ原作に関わることのない平和な1日が遂に始まります。

 これがこの先、彼女にとって幸となるか、それとも凶となるか。それはまだ誰にも分かりません。

 

 ただし1つだけ、翌朝エスミが目を覚ました時、昨夜はちゃんと自身のベッドで寝ていたはずのミリアがいつの間にかエスミのベッドにもぐり込んでいただけに留まらず、どういう訳かエスミの大きな胸に顔をうずめた状態で幸せそうに添い寝をしているという驚愕の光景が目の前に広がっているなど、早速エスミにとっては幸とも凶とも呼べない出来事が起きたのでした。

 

「……私の胸って、そんなに安眠効果があるの?……」

 

 

 

 





Q、エスミの胸を枕代わりにしている理由。



百合園セイア
A、寝やすいから。また胸の弾力と良い匂いが合わさって非常に落ち着く。
※枕を新調する際、エスミの胸の弾力を基準に品定めしている。ただしエスミの胸そのものを揉んだことは全く無い。


聖園ミカ
A、抱き着いて寝る時、そこにエスミの胸があるから。むしろ枕よりも良い。
※自身の胸も全く負けてないと思っているので、エスミさえ望めばいつでも自身の胸を枕として貸すつもりでいる。


桐藤ナギサ
A、そもそもエスミの胸で寝たことすらない……。
※寝てみたいと思った事はあるが、まずエスミと添い寝する機会が中々訪れない。その前に自身の理性が一番心配。


栢間エスミ
A、自分の胸で簡単に寝れてしまう他の面々が心底不思議で仕方ない。
※個人的にはナギサぐらいの大きさが一番好き。寝るならまずナギサが良い。ただし寝れるのかは知らない。


ミリア
A、他の面々がエスミの胸を枕代わりにしているのが気に食わず自分もしたかった。
※本当はちょっとだけ試して後は自分のベッドに戻るつもりが、思いのほか心地が良かったのでそのまま添い寝する形で寝てしまった。ちなみに凄く良い夢を見れた。

もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)

  • 拳銃(M1911,グロック等)
  • リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
  • 自動小銃(HK416、AK-47等)
  • 短機関銃(M1921、MP5等)
  • 小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
  • 散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
  • 機関銃(MG42、M249等)
  • 対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
  • 擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
  • 素手
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