夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない 作:木暮鬼一
メリークリスマス
サンタさん、お金と時間と休みをください……。
「ねえ、ミリア。君……慈愛の怪盗のこと知ってる?」
「……エスミさん、突然どうされましたか」
その日は普段と変わらず天候に恵まれ、窓の外では早起きの小鳥が元気にさえずるなど大変気持ちの良い朝から始まりました。
こういう場合、いつもならパンやコーヒーと言った軽めの朝食を取り、そのまま互いに世間話をしては頃合いを見て創作活動へと身を乗り出すのがエスミとミリアの両名にとって通常の流れなのですが、今日はどうもエスミの様子が変でした。
彼女は淹れたての苦いコーヒー入りのカップを口元に運びつつ、黒い革手袋をはめている右手で器用にスマホを操作すると、画面に表示されたあるネットニュース記事をミリアに見せます。
そこには『慈愛の怪盜。再び美術品を盗む』とかなりシンプルな文言が並んでいました。ミリアの視線がほんの一瞬だけその記事に注がれると、あとはエスミだけを見つけます。
「エスミさん。この記事は一体?」
「少し前にキヴォトスのどこかであの慈愛の怪盗にまた美術品が盗まれたらしくて。その記事はその時の様子をそれなりに書き出してくれたモノだよ。ミリアも寮監隊の幹部とはいえ、芸術が盛んなワイルドハント芸術学院に所属する生徒なんだから、芸術に関する事件を起こしてキヴォトスで有名人になっている彼女の話は流石に聞いたことがあるんじゃない?」
「……ええ、もちろん存じ上げていますよ。エスミさんの知名度には劣るかもしれませんが、彼女もまたキヴォトスをある意味で騒がしている時の人ですので」
ミリアは普段と変わらず落ち着いた丁寧語で返事をすると、エスミとは違って砂糖を入れて甘くしているコーヒーを口に運びました。その時、カップが彼女の唇に触れたことで口角が少し持ち上がるのですが、その姿がまるで笑っているように見えました。
しかしエスミは視線を一度手元のスマホに落とすと『そうだろうね』と短く呟き、先ほどのミリアの姿に違和感を覚えることもなく、そのまま用が済んだスマホを懐にしまいました。
「それで? どうしてその方の話を私に振ったのでしょうか。エスミさんの事ですから、何か理由があっての事だと思いますが」
まだコーヒーが残っているカップを両手で大事に抱えながらエスミを見つめていたミリアでしたが、そんな彼女からの視線を浴び続けていたエスミは1度だけでなく2度も溜息を吐くと、あまり口にしたくはない様子で『……数か月前』と言葉を発しました。
「私が込み入った事情で病院に入院している間、トリニティ自治区のある企業が経営不振から破産をしちゃってね。それなりに大きな企業だったからニュースにもなった程なんだけど、知ってるかな?」
「おや、そうでしたか。残念ですがワイルドハントに在籍している私はその話を聞いたことがありません……しかし富裕層が多く住まうトリニティ自治区に拠点を置くほどの企業ともなれば、いくら経営不振とはいえそう簡単に破産してしまうとは思えませんが……それで、その企業がどうかされたのでしょうか」
「実はその企業、トリニティ自治区で色々とイベントの主催なんかを務めるほどのところで、特に芸術分野のイベントをよく開いてくれてね。それこそ芸術コンクールなんかも定期的に開くほどだったんだ」
当時を懐かしく思っているのか、それとも企業が率先してその類のイベントを開いてくれていた事に深い感謝を抱いているのか、エスミは微笑してコーヒーを一口飲みました。
「だけど経営不振で倒産することになって芸術コンクールが開けなくなったどころか、むしろ逆に債権者に支払うためのお金が必要になってね。それでその企業は今まで保有していた芸術コンクールの受賞作品のすべてを売りに出すことにしたんだよ。コンクールの主催はその企業だったわけだから、必然ながらコンクールに応募した作品全ての所有権はその企業が持つことになる。後で聞いた話だけど、売りに出した作品の中にはプロの芸術家になった人たちの処女作も相当数紛れ込んでいたようだから、それなりに工面することが出来たみたいだけどね」
肩をすくめて息をほっと吐いた彼女。
しかし今度は続けて困った様子で苦笑するのでした。
「まあその処女作の中には、私の作品も含まれていたんだけど」
「……そういう事でしたか」
ミリアはその話を聞いて困惑することも、特に驚くこともなく、むしろ何やら納得したような様子で目を細めるのみでした。しかしその不可解な行動は僅か一瞬であり、エスミがふと視線を向けた時には普段の様子に戻っていました。
「しかしエスミさん。話に口を挟むようで申し訳ございませんが、その話と先ほどの〝慈愛の怪盗〟に一体何の関連性があるのでしょうか。今の時点では両者に繋がりはあるように思えません。よもやそのエスミさんの処女作を買い取ったのが例の慈愛の怪盜なのでしょうか」
もっともらしい質問をしたミリア。対してエスミは視線を一旦彼女から逸らすと『そうだったら別に構わないんだけどね』と独り言を零しました。
「ふむ、その反応を見るにどうやら違ったようですね」
「そうだね。確かに例の慈愛の怪盗さんは私の処女作を買うことはしなかったよ。だけど、代わりに彼女はその作品を盗んでいったんだ。それも私の目の前で」
「……おやおや」
まるで物語の先の展開を楽しむ傍観者のような感想を零すミリア。
一方でエスミは先の展開を話すのが大変面倒くさいと言わんばかりに顔をしかめると、ひとまず続きを話し始めました。
「正確には私の処女作は一度、既に人の手に渡っていてね。ただしその人は私の処女作ならより高価に売ることが出来るかもしれないと踏んで、少し月日が経った後に私の処女作をオークションに出すことにしたんだよ。まあ、こういうのはコレクターや画廊の間では頻繁に行われていることだからそう気にする事でもないけどね……ただその肝心のオークションでまさかの問題が起きてしまった訳だけど」
「慈愛の怪盗が予告状でも出しましたか?」
「ふふっ、正解……メッセージの内容は忘れたけど、かなり難しい暗号だったかな。まあ別にその点は重要じゃなくて……世間を騒がす犯罪者からの挑戦状ということもあってか、オークション会場の方もかなり厳重に警備を強化したり、色々と手を尽くしてくれたんだけど……結果は残念。例の怪盗さんは誇らしげに私の目の前で作品を奪ってしまったんだよね、これが」
あの時の光景が脳裏に焼き付いているのでしょうか。
酷く悔しそうな顔をすると共に、エスミは自身の右手で握りこぶしを作りました。
ミリアはそんな彼女の様子を眺めながら、ふと疑問に思ったことを口にします。
「エスミさんは、慈愛の怪盗のことがお嫌いですか?」
それは好奇心によるものなのでしょうか。
ミリアにしては珍しく、やけに真剣な目でエスミを見つめています。エスミとしては彼女が何故そんな反応で聞いてくるのか不思議に思いつつも、熟考することもなく即答しました。
「好きか嫌いかで言えば、嫌いだよ」
直後、ミリアは小さく『っ⁉』と呻きました。しかし、その小声はかろうじて相手に聞こえることはなく、何もなかったかのように平常心を装いながら、ひとまずカップを口元に運びます。
「……ですが世間では〝慈愛の怪盗〟と呼ばれているほどですから、あの方には何か信念があるのかもしれません。現に聞く話によれば被害にあわれている方々は皆、違法に取引して作品を手にした者や、私利私欲目的で芸術品をぞんざいに扱う者ばかり。芸術をこよなく愛するエスミさんにとっては、芸術のためならば周囲の反応や噂も気にせず思い切った行動に出る者同士というある種の〝同志〟であると言えるのではありませんか?」
既にエスミの強烈な美術愛については周知の事実となっており、特に誇張された噂までもが広がっている中、ミリアは例の怪盗とエスミは似た者同士だとあえて口にしました。
その意見に対し、エスミは渋々といった形で頭を縦に振るのでした。
「そうだね。もちろん彼女なりに深い理由があって盗みを働いているのかもしれないね。私も正直、彼女の美術に対する気持ちや正義感の強さは素敵だと思うし、その信念は立派だと思っているよ……だけどその善意で起こした行動が犯罪となれば話は別。いかなる理由があったとしても芸術作品を〝盗む〟なんて行為、そう簡単に好意的に捉えることは出来ないからね」
怒っている訳でもなく、不快に思っている訳でもない。
あくまでもエスミは例の慈愛の怪盗が罪を犯していることについて否定的な意見を述べました。
「確かにあの慈愛の怪盗さんが盗みに動いたことから分かるように、例のオークションには色々と真っ暗な部分があったのは否定しないよ。私の処女作をオークションに出すと言っておきながら、実際は裏金作りのために違法に絵画取引をするつもりだったようだからね。実際、私がそのオークションに出向いたのは、それを防ぐつもりだったんだけど……まさか第三者の怪盗に盗まれるなんてね」
「では、むしろそのおかげでエスミさんの作品が犯罪に悪用されることは無くなったと好意的に捉えるべきではありませんか? 盗まれてしまったのは残念ですが、エスミさんの作品に汚点を付けるような悪しき犯罪が生まれなかっただけ幸運と呼ぶべきかと」
「まあ資金洗浄や裏金作りに悪用されるのと、例の怪盗に盗まれるので比較したら、確かにミリアの言う通りかもしれないけど……でも、それでもやっぱり盗みもまた立派な犯罪だよ。それを私の前で実行してみせたんだから、彼女は」
「…………」
ミリアはもはや何も返事をすることはなく、もう一度カップを口元に運びました。そして既にコーヒーが空になっている事に気づきました。
しかしそのまま新たなコーヒーを補充することもなく、空になったカップを手にしたまま彼女はエスミに視線を戻します。
「ではもし再び慈愛の怪盜がエスミさんの作品を盗むことがあれば……その時もまた、エスミさん自ら全力で食い止めるおつもりなのでしょうか? それこそ貴女の芸術品を悪用するかもしれない、邪な気持ちを抱く者の手から……」
「そうだね。その時が来たらもちろん私の手で慈愛の怪盗を今度こそ撃退してみせるし、私の作品を悪用する者もあとでまとめて潰すつもりだよ」
エスミは『当然だ』と言わんばかりの様子で即答しました。
実際、美術のためなら徹底的に相手を叩き潰すことぐらい彼女なら平気で行うことでしょう。ミリアはそんな彼女に対して素直に凄いと感じる一方、こんな質間を投げてみました。
「ところで、既に慈愛の怪盜の手に渡ってしまったエスミさんの処女作ですが。こちら、取り戻すことをお考えになったことは無いのでしょうか? エスミさんの事ですから、あの手この手で人脈を駆使して慈愛の怪盜の根城を突き止め、ご自身の処女作を例の怪盜から奪還してみせることぐらい造作もない事だと思うのですが。確か、ヴァルキューレ警察学校にも何人かお知り合いがいらっしゃると話を聞いた事があります」
空になったカップの底を指で撫でながらそう質問をしてみると、エスミは何とも煮え切らない様子で返事を濁し、同時に視線を逸らし始めました。
「あー、それはね……まあ、うん。別にそう必死に取り戻したいほどの作品でも無いというか、あの処女作は私にとっては良い意味でも悪い意味でも初めて尽くしの作品だったからね。確かにいつかはちゃんと自分の下に取り戻したいとは考えているけど、あの慈愛の怪盜のことだから私利私欲目的で利用する心配は無いというか……あまり、そう事を急ぐことでも無いと思って」
「ふむ、つまりエスミさんは今すぐにでも例の処女作を取り戻したいと考えてはおらず、加えて美術品を大切に扱う慈愛の怪盜の下なら盗まれた作品が悪用される心配もないため、今のところは様子見として行動を控えていると……そういう事でしょうか」
「まあ……そんなところかな」
「そうでしたか。しかし創造主であるエスミさんの心境はともかく、世間の反応は流石にそうはいかないのではありませんか? 特にあの有名画家の栢間エスミの処女作ともなれば、かなりの値打ちとなります。いつか、慈愛の怪盗の手から作品を取り戻されることを切に望む方もいることでしょう」
「確かにね。ちょうど私の知人にも1人、あの作品を取り戻そうと熱心なファンがいるよ。それこそ彼女はあの作品が慈愛の怪盗に盗まれたオークション当日、私と一緒に会場にいた目撃者だった訳だし」
「おや、てっきりあの日会場にいらしたのはエスミさんだけかと思っていましたが、同伴者の方がいらしたのですね」
「そりゃあもちろん。芸術品を扱うオークションと言うだけあって、上流階級の大人ばかりが招待されている会場だったから、私もそれなりに服を新調する必要があったからね。幸い、そういった場にはかなり慣れている知人が自ら協力を願い出てくれたから、私は彼女と一緒に参加をしたという訳なんだ。実際、他人をあしらうのも上手かったし、彼女のおかげで私も自由に動けたところがあったから、かなり助かってはいたからね」
「なるほど、なるほど……ではそこまでエスミさんに協力的な方ともなれば、慈愛の怪盗に処女作が盗まれた時は大層怒りを抱いたことでしょう。数多くいるファンの1人として、エスミさんの為に必死に行動したにも関わらず、結果として慈愛の怪盗に作品を盗まれ、そのまま勝ち逃げされたのですから」
そうミリアなりに感想を口にしてみると、エスミは苦笑いをしながら頭を縦に小さく振りました。
「そうだね。あの時は本当、彼女を宥めるのが大変だったよ。それこそ怪盗に盗まれる以前に、オークションで私の処女作を正々堂々と競り落とすつもりでいたから尚更余計にね。まあ気持ちは分かるかな。彼女、私のあの処女作に凄い思い入れがあるから」
「おや、そうなのですか」
まるで『その気持ち。当時、会場で目にした私の方が一番誰よりも勝っているはずですけど?』と言いたげに目を細めたミリア。
しかしその後、エスミはこう口を開きました。
「だってあの処女作、私と彼女を出会わせてくれた始まりの作品だからね」
「……はい?」
呆気に取られた様子で乾いた声を漏らすと、エスミはそんな様子を見て楽しそうに笑みを浮かべました。
「私はね、ミリア……あの日、あの処女作を通して彼女に出会わなければ現在の栢間エスミという〝画家〟はまだ誕生してなかったと思うんだ。それだけ私は彼女に対して多大な恩があるし、向こうも必死に協力してくれた訳だから。そしてそれは、当事者でもある彼女がたぶん一番分かってる……だから、ファンの一人として私のことを誰よりも理解していると常に豪語する彼女にとって、あの処女作は絶対に取り戻したいんだと思う。他でもない、私たちの思い出のためにね」
「…………」
ミリアは何も言えず、ただ無言でした。
しかし内心複雑な気持ちを抱いているのか、そう大きく表情を崩すことはありませんでしたが、小さく息を吐いて肩をすくめるといった些細な反応だけは見せるのでした。
「それはまた……相当、大事な想いが込められている作品のようですね」
「私からしたら、あの処女作はまだ技術も経験も浅い頃に描き上げた未完成品みたいなモノだから正直恥ずかしいんだけど、彼女にとってはそうだね……うん、絶対に誰にも渡したくはない、かけがえのない作品なんだと思う。まあ、今はトリニティ自治区も色々と慌ただしくて、流石の彼女も本腰を中々入れられない状況なんだけどね」
エスミは大げさに肩をすくめ、またもカップを口につけると『あっ、空になってた』と零し、先ほどのミリアとは違って新たなコーヒーを補充するために席を立つことにしました。
「とまあ、ちょっと長く話し過ぎたところもあるけど、私とあの慈愛の怪盗に関する出来事の話はこれでおしまい。このあと私はいつものように創作活動に入るから、ミリアの方は休むなり、私と一緒に絵を描くなり好きにしていいよ。私がワイルドハントに滞在できる時間も残り少ないわけだし」
「……ええ。そうですね。では、お言葉に甘えて私も今回はエスミさんと共に絵を描かせて頂きましょう」
何やら真剣な表情で考え事をしていたようですが、エスミに不審に思われるよりも先に普段の様子にいち早く戻ったミリアは、既にコーヒーが空になっているカップを手にして自身もまた席を立つのでした。
その後しばらくして、ワイルドハントに滞在できる時間も残り数日と迫ってきた中、突如としてエスミの下にある知らせが飛び込んでくるのでした。
それは例の慈愛の怪盗が、盗んだエスミの処女作を本人に返すという衝撃的なもの。
ご丁寧に受け渡し方法や日時、場所まで指定してくるという親切なメッセージでした。
とはいえ他でもない、あの慈愛の怪盗本人からのメッセージという事もあり、エスミは大変困惑しました。これもまた何かの暗号なのか。それともあえてエスミを騙しているのではないかと。
しかしエスミの専属警護を担当しているミリアがやけに強気に『今回だけは、怪盗の言葉を信じてあげても良いのでは?』と助言してきた為、ひとまずエスミは向こうの真意はさておき、その誘いを受けることにしました。
しかし、本来であれば争いや等価交換もなく無傷で自身の作品が返還されることを純粋に喜ぶべき所ですが、エスミはある一点にだけ不安を抱えていました。
それは他でもない受け渡し場所。
何故なら、慈愛の怪盗が指定した受け渡し場所は、アビドス自治区に限りなく近かったのです。
「……何か、物凄く……というか、かなり嫌な予感がする……」
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素手