夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない   作:木暮鬼一

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いつも章ものエピソードは10話程度で収めているのですが、そうなると1話1話の文字数が常に数万文字を超えることに頭を悩ませているこの頃です。

※筆が乗ればたったの半日で書ききれますが、その分、誤字脱字が増えるというジレンマ。

いつも誤字脱字には目を通しているんですが、どうも執筆用のWordからハーメルンに文章をコピペすると意外な所でトラブルが起きているようで、毎度の如く皆様の誤字脱字報告には助かっています。
流石にコピペしたハーメルンで数万文字の誤字脱字確認は地獄です。



『対策委員会編』第5連作
栢間エスミ 『過去の記憶と今』


 

 少女は夢を見ていました。

 

 いえ、夢というよりは記憶の追体験とでも言いましょうか。

 

 そこは砂漠でした。

 もっとも砂漠化が進んでいる街の中と訂正するべきか、何であれ一歩一歩前に進むたびに足底がアスファルトの上に積もっている砂を踏み歩き、そのたびにジャリッジャリッと不思議な音を奏でます。

 この自治区が見るも無残な姿になるもっと前。それこそ、少女が生まれるずっとずっと昔であったのなら、特別な機材でも使って毎朝のように雪かきならぬ『砂かき』でもしていたのかもしれません。

 しかし終わりの見えない砂漠化を前にして先人たちが降参を選んでしまって以降、月日が経つにつれ街中に積もる砂の量は日々増えていきます。

 それこそ砂の積もる量は増えるくせに、住んでいる人々は次第に減っていくという有様。もはや、一種の過疎化が進んでいる状況でした。

 

 少女が、そんな衰退の二文字にただひたすら歩むだけとなっている自治区の街中を複雑な様子で眺めていると、不意にその背中にドンッと何かがぶつかり、次の瞬間にはお腹に腕が回されました。

 そして明るい声が少女の頭上から降り注ぎます。

 

「もう、私を置いて先に行っちゃうなんて酷いよ、ホシノちゃん‼」

 

 ぎゅうっと、まるで逃げる獲物を仕留めるかのようにして、少女のお腹に回されている腕に力が込められ、同時に少女の肩もしくはその後頭部にかなり柔らかい何かが形を変えて押し付けられます。

 それが一体何なのか、正直言うまでもないでしょう。

 

「ちょ、ちょっとユメ先輩‼ 歩いているところを後ろから急に抱き着かないでください‼ もし転んだら危ないじゃないですか!?」

「ひぃん……ご、ごめんねぇ……」

 

 抱き着かれたことに対する驚きなのか、それとも背後に押し付けられている何かに対する羞恥心か、どちらにしろ『ホシノ』と名を呼ばれた少女は、そのまま背後にいる人物のことを『ユメ先輩』と呼び、その行動を厳しく注意します。

 するとホシノより遥かに背の高いユメは、目の前にいる彼女に対して悲しそうな声を発すると、そのままトボトボと小動物のごとく動きで後ろに下がりました。ホシノの瞳がその様子を捉えます。

 

「……すみません、ユメ先輩。声が大きかったですよね。別に怒ってる訳じゃないんです。だから……そんな所で縮こまらないでください。見ているこっちが罪悪感を抱くじゃないですか」

 

 ホシノが見ている先で、まるで怯えた小鹿のように身体を酷く震わせながら道の端でうずくまり始めたユメ。高身長の少女がぐっと身体を縮めている様子はあまりにも違和感があり、同時にその身体の大きさを嫌でも認識させます。

 とはいえ、これでもユメは傍にいるホシノより年上の先輩であり、一応この自治区を管理している学園の生徒会長でもあります。生憎と学園に在籍している生徒は彼女たちを含めたった2人しかいないとはいえ、その役職を手にしている生徒の姿ではありません。

 あまりにも情けない。

 しかし、同時にこのまま放っておくこともできません。

 

 故に、ホシノは溜息を吐いて彼女のそばに駆け寄ると『ユメ先輩』と名を呼びました。

 

「すみません。いきなり抱き着いてきたユメ先輩が悪いですけど、怒鳴った私も悪かったです。反省しています。だから、もう怒ってないので一緒に校舎に行きましょう?」

 

 そう言って立ち上がらせるために自身の片手をそっと差し出すと、直後……ホシノは満面の笑みを浮かべたユメに勢いよく抱き着かれたのでした。

 

「わあっ!?」

「行こ行こ!! 一緒に行こうホシノちゃん‼」

 

 先ほどは背後からの抱き着きでしたが、今回は違います。

 正面からの熱い抱擁。まさに抱きしめるという言葉をまんま体現したかのような強いハグです。ホシノはあっという間にユメの豊満な胸に顔を埋められると、行き場を失った両手がバタバタと宙で暴れ出します。

 

「ホシノちゃんって優しいから、きっと私のことを見捨てないって信じてたよ‼」

「さっきの姿は嘘の演技だったってことですか、それ!? 後輩の心を利用するなんて詐欺師も同然ですよユメ先輩‼!」

「そんなことはないよ‼ こんな事をするのはホシノちゃん……だけだから‼」

「今の間は何ですか!? なんで私のあと少しだけ間を置くんですか!? いや、言わなくても大体理由は察しますけど、それむしろ余計にタチが悪いですからね‼」

 

 急いでユメの胸から顔を出したホシノが怒りと困惑の声を出しますが、ユメも『違うよ‼』と強く否定します。しかしホシノは『何も違いません!!』と、彼女もまた先輩の返事に対して強い否定の言葉を口にするのでした。

 

 そうして人気のない街中で足を止め、延々と意味のない言い争いをしていた2人の少女達。

 

 彼女達がようやく言い争いを止めて仲直りをし、そして自分らにとって学びの場所である校舎に着いた時、既に時刻は昼に差し掛かろうとしていました。

 

 

 

≪1-2≫

 

 

 

「……一応この学園の生徒会なのに、登校時間が昼になるなんて……」

 

 校舎に着いて早々、玄関口で溜息を吐くホシノ。

 その後ろには苦笑した様子でユメが立っており、後輩の独り言に対して『困っちゃったね』と彼女なりに言葉を選んで返事をしました。するとホシノが呆れた様子で視線を後ろに向けます。

 

「ユメ先輩。言っておきますけど、登校が遅くなったのは途中でいきなり道草を食い始めたユメ先輩のせいですからね。何ですか、その両手に抱えているガラクタは」

 

 ホシノの言う通り、ユメの両手にはレンガや花、中身が空の瓶といった、あまりにも使い道の無いガラクタが山ほど抱えられていました。何個かはユメの手から滑り落ち、ホシノが素早い動きでそれを回収していくのですが、それにしても彼女がこれを集めた理由が分かりません。

 すると後輩からの質問に、ユメは嬉しそうにしながらこう返すのでした。

 

「ほら今週は久しぶりに〝彼女〟が来てくれているから、せっかくだしいつも私たちの悩みを解決してくれる代わりに何か恩返しをしようと思って。いつもこういうモノを描いてたりするでしょ?」

「いや、流石にそんなガラクタを寄越されても困ると思うんですけど……というか、それよりもアビドスの何処か景色の良い場所に連れて行った方が一番役に立てると思いますよ。創作意欲とか掻き立てられると思いますし、このアビドスの良さをもっと知ってもらうのにも最適なはずです」

 

 相も変わらず呆れた様子で彼女の些細な善意を否定し、より効果的とも思われる提案を口にしたホシノ。するとユメは『確かに‼ やっぱりホシノちゃんは流石だね‼』と後輩が出してきた提案に対して喜びの反応を見せるのでした。

 ホシノはあまりにも眩しい笑顔を間近でみたことで不意に顔をそらすと、頬を赤く染めながら口を開きます。

 

「……まあ、それでもユメ先輩が苦労して集めて来たわけですから、一応見せるだけ見せてみませんか?」

 

 そして彼女の頑張りが無駄にならないよう、ホシノなりに気を遣うのでした。

 ユメは笑顔を浮かべたまま、感謝の言葉を口にして移動を開始します。

 

 やがて2人が校舎内の廊下を歩き始めて、およそ数分ぐらい経った頃でしょうか。

 

 アビドス学園の本校舎自体はだいぶ昔に砂の中に埋まってしまっているとはいえ、ここ別校舎であっても建物としての規模はそれなりにあります。

 そのため数多のガラクタを手にしながら歩くのは流石に骨が折れるもので、道中で何度かユメが身体のバランスを崩したりするなど、幸いその手に持つモノを全て床に散乱させるなどの事故こそ起きなかったものの、ホシノは常に冷や汗をかいていました。

 

 しかしそんな苦労も遂に終わりを告げます。

 

「ホシノちゃん、ようやく着いたね。ここだよ」

 

 ある教室の前で足を止め、ユメが嬉しそうに顔を綻ばせながら後輩の名を呼びました。

 直後、先ほどまで冷や汗をかいていたはずの後輩ことホシノは頬を薄っすらと赤く染めながら『そんなこと分かってます』と、やけに緊張した声で返事をしました。

 ユメの視線がふとホシノの顔に注がれます。

 

「もしかして、緊張してるの?」

「……してません」

「本当に? でもホシノちゃん、顔が真っ赤だよ? 上手く会話出来るか心配?」

「そんなのっ……っ……す、するに決まってるじゃないですか。だってあの人……顔とか、凄く綺麗ですし……見ていると何だか、心が掴まれたような気がするんですから……どうやって話せば良いのか、いつも苦労してるんですよ」

「うんうん、その気持ちはよく分かるよホシノちゃん。私も初めて会った時は『こんな女神みたいな美人さんが本当にいるんだ』って、凄く驚いちゃったもん。初めて会った時とか、それはもうカッコよくて凛々しくて凄かったんだからね」

「それ、ユメ先輩が危うく美術品詐欺にあって酷い目にあうところを間一髪助けて貰った話のことですよね。何十回と聞いているので流石に覚えました……」

「あ、あれ。そうなの?」

「というよりユメ先輩、早くその扉を開けましょう。ちょっと手が疲れてきました。このままだと、先輩だけじゃなくて私もこのガラクタを落とす危険があります」

「そ、それは大変だね‼ う、うん分かった。ここは先輩の私に任せて、今から扉を開けるからね‼」

「えっ? ま、待ってください先輩‼ 先輩がその扉を開けるんじゃなくて私が――」

 

 普段から頼りない姿を見せてしまっている分、こういう時ぐらいは後輩に少しでも良いところを見せようとでも思ったのでしょうか。

 どう見てもホシノよりも抱えているガラクタの数が多いにも関わらず、ユメは無理して身体を動かし教室の扉に手をかけようとしました。そして次の瞬間、無理に腕を動かしたことで抱えているガラクタの重心が変化し、グラッと彼女の身体が再びバランスを崩します。

 

「えっ、わっ……あわわわわっ!?」

「危ないです先輩‼」

 

 体勢を立て直そうと無理に身体を動かしたことで余計にバランスを悪くしたユメ。彼女はそのまま手元にあるガラクタを酷く揺らしながら、ついでに自身の身体も右に左にと回るようにして揺れ出し、まるでスケート場の上で暴れるスケート初心者のような動きを始めました。これではいずれ、転倒するのは確実でしょう。

 しかしいくら頑丈なキヴォトス人の身体とはいえ、このまま横転して打ち所が悪かったりしたら非常に大変です。

 故に咄嗟の判断で手元にあるガラクタを手放し、急いでホシノは敬愛する先輩の身体を支えようと両手を差し出して動き出しました。しかし直後、揺れる身体が勢いに乗ってしまっているユメはそのままホシノを突き飛ばすようにして押しのけると、そのまま彼女の上に覆いかぶさる様にして転倒するのでした。

 その後、2人の手にあったガラクタが主の支配から解放されて宙を高く舞い、そのまま次々と廊下の床に落ちていきます。とはいえ幸いにも校舎の廊下にまで入り込んでいた外の砂がクッション代わりの役目を果たし、空の瓶などが割れたりすることは決してありませんでした。

 

 ホシノは頭に手を当てながら痛そうな表情で自身にかぶさっているユメに声をかけます。

 

「イタタッ……ユメ先輩、焦らないでください……怪我はないですか?」

「ひぃん……ごめんねホシノちゃん……怪我はしてないよ。ホシノちゃんは?」

「私もひとまず無事です。ガラクタに関しては、まあ全て大丈夫そうですね」

 

 そうして2人揃って上体だけ起こし、周りに散乱しているガラクタに目を向けます。

 すると次の瞬間、先ほどまで閉じられていた教室の扉が勢いよく開かれ、中から1人の美少女が姿を現しました。

 

「……君たち……これは何事?」

「あっ」

「っ!?」

 

 透き通った声に加え、微かに漂う良い匂い。

 こんな砂漠に飲まれつつある街にしては全く不釣り合いと言っていいほど、2人の前に姿を現した少女は非常に綺麗でした。

 ユメはまるで救世主が現れたかのように笑顔を浮かべ、対してホシノは瞬く間に顔を真っ赤にして彼女から視線をそらしました。やがて美少女は周囲に散乱しているガラクタに目を向けると、そのままユメに向かってこう言葉を返します。

 

「廊下が騒がしいからデッサンを中止して来てみたけど……この惨状。これ、もしかして梔子がやったの?」

「え、えへへ。そうと言える……のかな? うん、私がやりました、ごめんなさい」

「一応聞くけど、どうしてこれを校舎に持ってきたの?」

「そ、それはね‼ ほ、ほらエスミちゃんって、よくデッサンをしてるでしょ!? だからそういうのに向いてそうなモノを道端で拾って持ってきたの!! な、何て言うんだっけ、こういうの……え、えっと」

「ああ。私のためにデッサン用のモチーフを持って来てくれた感じ?」

「そ、そうそう!! それ、モチーフ‼ どうかな、エスミちゃんから見てデッサンするには良さそう!?」

「……うーん……」

 

 ユメから『エスミ』と名を呼ばれた美少女は、そのまま傍に落ちている空の瓶を拾い上げ、興味深そうにそれを見つめます。続けてレンガであったり木材だったり、中には枯れかけている花までじっくり観察した彼女は、やがて苦笑してその顔を縦に動かしました。

 

「可もなく不可もなく、と言った所だけどデッサンのモチーフとして使うにしては十分だね」

「本当に!?」

「勿論。まあデッサンのモチーフに正解は無いし、表現力を磨くならむしろ何でも描いた方が良いからね。というか、わざわざこれを私に届けに来たの?」

「そうだよ。エスミちゃん、忙しいのに時々こうしてアビドスに遊びに来てくれるし、いつも私達の悩みに協力して人助けまで協力してくれるでしょ? 絵を描くのが大好きなエスミちゃんの事だから、きっとこうすれば恩返しになるかと思って……迷惑、だった?」

「ふふっ、そんなまさか。アビドスに遊びに来ているのはちょっとしたストレス発散目的で、私なりに美術をより磨くための武者修行みたいなものだったんだけど……むしろ私の為に余計な時間を使わせてゴメンね」

「いや、エスミちゃんが謝ることじゃないからね!? エスミちゃんがアビドスに来てくれるのは大体2週間か3週間おきぐらいだけど、むしろ私達からしたら来てくれるだけでも十分嬉しいんだから‼」

「まあ休日を利用しているから滞在はほんの2、3日ぐらいだけどね。でもそっか、君たちの迷惑になってないのなら私としても嬉しいかな」

 

 エスミはそこで一旦ユメから視線を外すと、彼女の傍にいるホシノに意識を向けました。

 

「小鳥遊も私のためにこれを届けてくれたんだね。ありがとう」

「あっ……いえ……私はただユメ先輩の手伝いをしていただけで……か、栢間先輩に恩返し出来るようなことは、私はまだ何も……」

 

 顔を真っ赤にしながら、エスミから依然として顔を逸らし緊張した様子でしゃべり続けるホシノ。普段のしっかり者としてのイメージが強い彼女には非常に珍しい姿です。

 すると後輩のあたふたした姿を間近で見ていたユメは、何かを思い出した様子でエスミに声をかけました。

 

「そうだ!! エスミちゃん、今日って外に出かける時間はある!?」

「外に? 別にこのままデッサンをするか、君たちの手伝いをするぐらいで時間を潰そうとしていたから、むしろ出掛けるぐらい全く構わないけど、どうして?」

「エスミちゃんに、これからアビドスの中で景色が良い場所に連れて行ってあげるね‼ そうすればエスミちゃんの描きたい何かが見つかるかもしれないでしょ!?」

 

 そう言うと、エスミの瞳がきらきらと輝きだしました。

 正直、このアビドスで生徒として毎日通い続けているユメ達とは違い、外部からの客人であるエスミはまだこの自治区について詳しくありません。なので、他でもない現地の人であるユメ達の案内でアビドス観光が出来るとあれば、彼女としてもかなり幸せな提案でした。

 

「良いよ。その提案、乗った」

「良かったぁ……あっ、これはね。元々はホシノちゃんが考えてくれたんだよ? だからお礼とか誉め言葉はそのままホシノちゃんに言ってね!?」

「ちょ、っと!? ユメ先輩!?」

「へぇ、そうだったんだね」

 

 感謝と慈愛に満ちた目でホシノに再び視線を向けるエスミ。

 ホシノはまたも恥ずかしそうに彼女から視線を外しましたが、しかし『これではいけない』と心を決めたのか、ようやくエスミに視線を向け、相変わらず恥ずかしそうにしながらこう言いました。

 

「は、はい……ユメ先輩の言う通りです。これならきっと、栢間先輩の創作の役にも立てて、アビドスの良さを知ってもらう良い機会なので……まあ。ほとんど、砂漠に埋もれてしまっていますけど」

「そんな事はないよ。私の為だけじゃなくて、アビドスの為になることも両方考えてやっぱり君は立派だね。ありがとう。その善意、ありがたく受け取らせてね」

「……ありがとう、ございます……嬉しいです……」

「梔子も、こんな素敵な後輩を持てて幸せだね」

 

 彼女の言葉に対してユメは『そう。ホシノちゃんは凄いんだよ‼』と声を大きくして返事をしました。エスミは肩をすくめながら『知ってる』と呆れつつ笑みを浮かべます。

 

「それじゃあ2人とも、まずは床に散乱しているものを拾い集めて教室の中に運ぼうか。私も手伝うよ。その後は、小鳥遊が提案してくれたアビドス観光に出掛けよう」

「うん、賛成!!」

「はい。分かりました」

 

 エスミはそのまま砂が積もっている床に片膝をつくと、周囲に散乱しているガラクタを拾うため自ら手を伸ばします。そしてそれはユメやホシノも同じでした。

 砂に埋もれていたガラクタを拾い上げ、適度に振っては砂を落とし、また壊れていないか注意して見ながら腕に抱きかかえる。そうした行動を何度も続け、徐々に散乱していたガラクタが次々と3人の手元へと場所を移していきます。

 さてそんな中、ホシノは傍に落ちているガラクタを熱心に拾い集めながら、ふと相手に気付かれないよう熱い視線を向けていました。

 視線の先には、エスミがいました。一体、何を思って彼女を見ているのでしょうか。

 

「ん?……どうかした、小鳥遊?」

 

 すると突然、エスミの綺麗な翡翠色の瞳がホシノに向きました。

 その瞬間、ドキッ、とホシノの胸が大きく高鳴ると同時に冷えつつあった頬や耳に再び熱が集中する気配を感じ、少女は慌てて顔をそらします。

 

「い、いえ!! 何でもありません!!」

「……そう?」

 

 他人に見られることなど日常茶飯事であるエスミにとっては、そんな気になる事でも無かったのかもしれません。酷く慌てるホシノから視線を外し、彼女は再びガラクタを集める作業に戻ってしまいました。

 ホシノはもう一度だけエスミに視線を向けると、流石にこれ以上は良くないと判断し、ようやく自身の作業に集中することにします。

 と、そうしようと思った矢先、ホシノの視線が今度は先輩であるユメを捉えました。

 そこには良い光景を見たと言わんばかりの満面の笑みを浮かべ、後輩であるホシノをじっと見つめているユメの姿がありました。

 面倒なところを見られた、とホシノは眉をひそめます。

 

「何ですか、ユメ先輩」

「ホシノちゃん……私、先輩としてホシノちゃんのことを全力で応援するからね‼ こういう時は勢いのある行動が大事だからね‼」

「そういうのじゃありませんから‼ むしろ何の根拠があってそう言ってるんですか!?」

 

 思った通り、後輩のためを思ってか両手で拳を作り応援アピールを始めたユメ。

 当然の事ながらホシノは顔を真っ赤にしながら声を荒げると、一方で2人のやり取りをちゃんと見ていなかったエスミは『本当、仲が良いね。君たち』と呆れつつも楽しそうに笑みを浮かべるのでした。

 

 

 

≪??????????≫

 

 

 

「……酷い夢……」

 

 まるで溜息を吐くようにして出てきたのは、悲壮感の漂う言葉でした。

 そしてムクリと上体を起こし、ぼんやりと教室の窓から空を眺めます。

 

 ちょっとした昼寝のつもり……そう、昼寝のはずだったのです。

 

 ここ数年、ちゃんとした睡眠も取れずにいる彼女にとって、こうして空き教室に1人で居座り、机の上で昼寝をするのはもはや日常茶飯事のことでした。

 今日もその例に漏れず、まるで作業をするようにして昼寝をしていたのですが、気付けば遠い昔の記憶を呼び起こしていたようです。

 

「……あんな過去を思い出したところで……もう、取り返しがつかないのに……」

 

 昔に比べてすっかり長くなった自身のピンク色の髪を弄りながら、少女は『よっこらせ』とわざとらしく声を出しながらスクッと立ち上がりました。

 そして机の傍に置いてある愛銃のショットガンを手にすると、気分転換を図るためか校舎を飛び出し、相変わらず砂に埋もれつつある街中へと彼女は向かいました。

 

「…………」

 

 少女は砂が積もっているアスファルトの上を踏み歩きながら、ぼんやりとした様子でただ前へ前へと歩き続けます。そしてふと歩みを止めて後ろを振り返ってみますが、当然ながらそこには誰もいません。傍にはガレキや誰が捨てたのかさえ不明な空の瓶が散乱しており、その光景も彼女の瞳が向けられます。

 しかしそれだけ、それだけです。特にこれといった反応を見せる事も無く、少女は黙っていました。

 

「…………」

 

 やがて彼女は気を取り直して歩みを再開します。過去の幻影を振り払うようにして、ともかく心の中に浮き出ている何かを鎮めるようにして、ひたすら前に進み続けるのです。

 そうして校舎からだいぶ離れ、街の外れ近くまで移動を続けたらしい彼女はふと空を見上げました。

 そして驚きで目を丸くしました。

 

 何故なら、空一面が真っ赤だったのです。

 

 とはいえ勿論、決して悪い意味ではありません。

 校舎から歩き続けて数時間。時刻はもう夕方です。彼女の視線の先にある空模様は、まさに【夕暮れ】と呼ばれるものでした。しかしながら、数時間も歩き続けるというのは控えめに言って正気の沙汰ではありません。それほどまでに今の少女は精神状態が良くなかったことを指していました。

 故に、少女はそこでようやく自身の異常性に気付いて足を止めると、酷く大きな溜息を吐いてそのまま空を眺め続けます。

 

「……帰らないと……」

 

 ぼそっと口から出てきたのは、そんな一言。

 

「はぁ、何してるんだろ……変な夢を見たせいで途方もなく歩き出して、このままだと皆が心配しちゃうよ」

 

 連絡を入れているのならともかく、少女はあのまま誰にも声を掛けることはなく、勝手に校舎を飛び出してしまいました。念の為、心配をかけて捜索なんかされては困るので、ひとまずモモトークで皆に連絡を入れた少女は『ごめんね~』と一言を最後に添え、そのまま懐に携帯をしまいます。

 

「……うん。帰ろう……」

 

 そして肉体的にではなく、精神的に疲れ切った声を出した少女は、ようやく踵を返して元居た場所に帰ろうとしました。

 

「……はっ?……」

 

 しかしその瞬間、少女は見ました。いいえ、見てしまったのです。

 視界の先で……数年も前にこちらから一方的に別れを告げて以来、一度としてこのアビドスに足を踏み入れることのなかった人物の姿を、彼女の瞳は偶然にも捉えてしまったのです。

 

「……な、んで……あの人がここに?……そもそも、どうして1人で……」

 

 先ほどようやく校舎で待っている皆の〝先輩〟として気分をリセットしていたはずの少女は今、再びその身にまとう空気を変えてしまいました。そして視界の先にいるその人物を注視しながら、少女は懐にしまったはずの携帯を取り出し、もう一度モモトークを開きます。

 

『ちょっと外せない用事が出来ちゃったから、このまま家に帰るね~。皆も私のことは待たず、ちゃんと家に帰るんだよ~?』

 

 随分とほんわかした文面に対し、それを1文字1文字打ち込んでいる少女の顔は極めて険しく、失礼ながらこのモモトークを打っているのが彼女だとは誰も思わないことでしょう。

 やがて、校舎に戻るはずが突如として家に帰ると心変わりしてしまった事に対して、皆から怒涛の如く返信が押し寄せて来たのですが、それすら見ることなく携帯をしまってしまった彼女は、そのまま視界の奥先にいる人物に向かって歩み始めました。

 

「……今さら……ここに戻って来て、貴女は一体何を考えているんですか……私……ちゃんと、警告したはずなのに……」

 

 手に持つショットガンの銃口を下に向けたまま、少女は複雑な様子で独り言を呟きます。

 ちなみに彼女が先ほどから注視している人物ですが、向こうは近づいてくる少女の姿に気付いた様子は全く無く、何やら高台らしき所から茫然と街を眺めていました。

 その姿はまるで、懐かしき昔を見ているような……遠い過去に想いを馳せる旅人のようで、かなり強い悲壮感が漂っています。それに加えて遠くから見ても目立つほど、その人物は非常に綺麗な美少女なため、不思議な話ですが一種の芸術のようでした。

 

 少女はそうした数年ぶりとも言える〝懐かしい〟姿を見せる相手に目を奪われながらも、静かな足取りで気付かれることなく近づくと、そのまま背後に立ち、自身にとっても懐かしい言葉を口にしました。

 

「これが私たちの故郷。アビドス自治区の姿です……ようこそ、栢間先輩」

 

 直後、本来ならこの場にいないはずの声を聞いた事で相手は動揺してしまったのか、バッと勢いよくその美少女は振り返りました。

 そして向こうもまた自身の視界に少女の姿を捉えると、酷く驚いた様子で目を丸くするのでした。

 

「……小鳥遊……なんで君が、ここに?」

「…………」

 

 少女はぐっと息を飲みます。

 変わらない。全く変わらない。

 いつだって、何度聞いても飽きない心地の良い声。

 その素敵な翡翠色の瞳も、絵を描くのに邪魔だからと長くなった髪をまとめてシニヨンにしているその薄い青色の髪も、その綺麗な白い肌も何もかも……昔と変わらない。全く変わっていません。

 唯一違うとすれば、右手にはめられている黒色の革手袋でしょうか。昔はあんなモノ、使っていなかったはずです。正直、数多の芸術作品を生み出し、世間からは〝神の右手〟などと呼ばれている彼女の手には全くと言っていいほど不釣り合いな代物です。

 あんなもの何ではめているのでしょうか。

 

 とはいえ、少女は昔と変わらない相手の姿に対し、何処か安心すると共に酷く複雑な気持ちを抱いたまま、強い足取りで相手に歩み寄りました。

 

 そして未だに驚き、困惑に満ちている美少女のすぐ目の前にまで迫った少女は次の瞬間、ガシッと相手の右手首を握りしめ、自身の下に引き寄せます。

 

「っ!?」

 

 直後、少女は手に持っているショットガンを地面に落とすと、そのまま両手で美少女の身体を受け止め、強く抱きしめました。

 まるで再会を喜ぶような熱き抱擁であり……同時に、獲物を逃さまいとする酷く容赦のない抱擁です。

 事実として、少女は自分よりも遥かに背の高い美少女の身体を抱きしめながら、自身の瞳をまっすぐ相手に向け続け、こう言ったのです。

 

「……お久しぶりです、栢間先輩……いいえ、エスミさん……私、ちゃんとあの日言いましたよね……今度また私に会ったら……次は絶対に逃がしません、と」

「……っ!?……そ、それは……」

 

 エスミ、と名を呼ばれた美少女はそのまま返事に困りましたが、少女は気にすることなく真顔のまま、エスミの瞳をのぞき込むようにして見つめ続けます。

 

「……なのにたった1人でアビドスに戻って来て……私のこと、ナメてるんですか?……」

 

 少女こと、小鳥遊ホシノは相変わらず真顔のままゆっくりと首を斜めに傾けました。

 

「帰しませんよ?」

 

 その目は本気でした。

 

 

 







栢間エスミ→梔子ユメ
・ともかく明るい人。美術品詐欺から助けた縁から、その後も何度かアビドスに足を踏み入れては気分転換する感じで彼女の助けをしていた。彼女の身に起きた悲劇について、実は少しだけ関与してしまっている。その後、当時のトリニティの美術部存続問題に自ら介入した事をきっかけにアビドスに足を踏み入れることは2度とないはず……だった。



栢間エスミ→小鳥遊ホシノ
・頼りになる強い子。当初は彼女の正体に気付かず、ユメの後輩として接していた。当時のエスミは気分転換と武者修行目的で休日にはキヴォトス各地を訪れるなど放浪ムーブをかましており、そこで見て来た経験をホシノに語ったりもしていた。やがてユメの身に起きた悲劇をきっかけにホシノが変わってしまった事を受け、今でも彼女に対して深い申し訳なさを感じている。



梔子ユメ→栢間エスミ
・凄く頼りになる、めっちゃ良い人。美術品詐欺をきっかけに知り合いになったことで、以降も何度かアビドスに遊びに来てくれるようになった。本人は友達になりたかったが、肝心のエスミが一貫してNOを突き付けて来るので諦めていた。またエスミに対するホシノの姿を見て、何かと後輩の背中を押しがちだった。



小鳥遊ホシノ→栢間エスミ
・大人びていて素敵な人。彼女にとってともかく〝憧れだった〟人物。



※アビドスに立ち入っていた頃のエスミ(当時2年生)はトリニティでの立ち回りに四苦八苦していたので、割とアビドスでの原作知識が抜け落ちたままホシノやユメと接していた。簡単に言えば、こうなったのはエスミの自業自得。

もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)

  • 拳銃(M1911,グロック等)
  • リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
  • 自動小銃(HK416、AK-47等)
  • 短機関銃(M1921、MP5等)
  • 小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
  • 散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
  • 機関銃(MG42、M249等)
  • 対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
  • 擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
  • 素手
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