夢叶って画家になれた転生主は、ともかくブルアカ本編に関わりたくない   作:木暮鬼一

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栢間エスミ 『再会そして亀裂』

 

「師匠。数か月に及ぶワイルドハントへの短期留学、お疲れさまでした。お元気そうで何よりです」

 

 芸術家として名を馳せているエスミの愛弟子。

 かつティーパーティーの現ホスト代行にしてフィリウス分派の首長を務めている桐藤ナギサの忠実な付き人である生徒、小樽チェリがまるで偉大なる王の帰還を喜ぶ家臣のような空気をまといながら、学園の校門にて師であるエスミを温かく出迎えました。

 

 身長170にも及ぶその長身と、同年代の女子に生徒に比べてそこそこガタイの良い身体。

 加えて女子受けの良いキリッとした凛々しい顔つきと、顔を動かすたびに揺れる後頭部のポニーテールが最大の特徴でもあるチェリ。

 まさにクールビューティーな生徒とでも称すべきか、彼女が放つ存在感はこの場においてはエスミの次に大きいものでした。

 

 さて、この自治区には彼女のファンクラブなどが存在しているとも言われているほど、学園内では類れるクール系美少女として知られているチェリですが、この日この時だけは尊敬する師匠の帰りを今か今かと待ちわびている忠犬のようなオーラを放ち、嬉しそうにエスミの下へと駆け寄るのでした。

 

「薄々予想はしていましたが、やはり留学に向かわれた時に比べて荷物が少々増えていますね。これでは荷物運びも大変でしょうし、力には大変自信があるこの私が師匠のお部屋までいくつか荷物を運びましょう」

「そうして貰えると助かるよ。正直、君の迎えが無ければ何往復かする覚悟でいたからね。ところで美術部を任せてる金剛たちの方はどう? 彼女たちは元気にしてる?」

「ご心配には及びません、師匠。彼女たちは元気にしています。ただし今は部の活動がかなり忙しいようで生憎と手が離せないみたいです。なので本日のお出迎えは私一人ということになります」

「そう。でも君だけでも来てくれて助かったよ。けど、小樽の方は逆にティーパーティーの仕事を放置して来て大丈夫だったの?」

 

 エスミの足元に置かれている無数の荷物(キャリーケースや梱包された画材等々)を軽々と手に持ち始めながら、チェリは心配そうに声をかけてきた師に対しニッコリと笑みを返します。

 

「急ぎの案件や仕事はちゃんと全て片付けてきました。幸い、例の条約締結に関する仕事も一応ひと段落がつきましたし、今は次のフェーズに向けて私たちティーパーティーの幹部生は一旦小休憩中といった所です。何より師匠の手助けをしてほしいとナギサ様のお願いもありましたので、いわばこれは私なりの〝大事な業務の延長戦〟と言ったところになります」

 

 見るからに重そうな荷物を両手に無数抱えておきながら一切苦しそうな姿を見せない愛弟子を眺めながら、エスミは『なるほどね。相変わらず君は色々と頼りになるね』と嬉しそうに微笑し感謝の言葉を返しました。

 

「これぐらい大したことはありません。久しく貴女の弟子としての手伝いが全然出来ていなかったんですから、今日ぐらいは私の事をこき使ってください。師匠」

「ならこの荷物を全て整理するまで私に付き合ってもらおうかな? それに君の近況報告も聞いておきたいし」

「ええ、勿論喜んで」

 

 チェリは笑みを浮かべたまま『では行きましょうか』と声をかけると、荷物を手にしたまま先に学園の中ヘと入っていきました。

 対してエスミは残った荷物を手にしたまま学園の校門近くまで歩みを進めると、そこで一旦立ち止まり視線を僅かに上へと上げました。

 

「……ただいま……トリニティ」

 

 数か月とはいえ久しく離れていた故郷への挨拶を済ませた彼女は、その後言葉を続けることは無く、静かに学園の中へ歩みを進めるのでした。

 

 

 

≪1-2≫

 

 

 

「そうですか……無事にエスミさんは学園に着かれましたか……ええ……はい。その報告を聞けて安心しました……ええ、そうですね。それでは引き続き彼女の荷解きの手伝いをお願いします……はい。今日はティーパーティーの業務から離れて頂いても構いません。チェリさんには今日一日、エスミさんのサポートをお願いします……はい。ありがとうございます。それでは」

 

 ピッ、と相手との通話を着る音を鳴らし、そのままスマホの画面を消してそっと机に置いたナギサ。

 そして安堵のため息を吐くや否や、腰かけている椅子に自身の背中を深く預けました。

 すると彼女と対面する形でもう1つの椅子に腰かけている幼馴染のミカが、心底嬉しそうに笑みを浮かべているのが見え、ナギサは不思議そうに首を傾げます。

 

「ミカさん。何だかとても嬉しそうですね?」

「もちろん嬉しいに決まってるでしょ? なんだって久しぶりにエスミちゃんに会えるんだから☆ でも……う~ん。やっぱりどうしようかなぁ。会うだけじゃなくて久しぶりにエスミちゃんとお泊りをしたいかも。一緒にお風呂に入って、お喋りをして、布団に入るの。ワイルドハントがどんな学園だったのか知りたいし。あっ、せっかくだしナギちゃんも一緒にどう?」

 

 ニコニコしながら手振り身振りでエスミとの再会スケジュールを組み立て始めるミカ。

 ナギサはその様子を微笑ましそうに眺めながら『……』と無言の視線を向けると、フッと小さく息を吐き、続けて外の景色でも眺めようと部屋の窓に近寄るために椅子から立ち上がりました。

 

「ミカさん。エスミさんとの再会に胸を躍らせるのは全く構いませんが、彼女はきっと長旅で疲れている事でしょうから会うのは数日ほど日を置いてからにしませんか? それに近頃のトリニティの情勢と言いますか、治安に関してもあまり安全とは言い難いですから、その泊まりの件も今はー旦保留にして当分の間は控えないと……特に、護衛もなしに出歩くのは流石に危険です」

 

 窓にそっと手を触れ、外の景色を眺めながら不安そうに眼を細めた彼女。

 やがてナギサは大きな溜息を1つ吐くと、顔だけミカに向けて『お願いします』と口にしました。

 

 しかし幼馴染であるミカから返ってきた反応は、ナギサの望んでいたものとは全く違いました。

 

「ダメだよ、ナギちゃん。それはダメ。一緒にお泊りしようよ。絶対に」

「……はあ。ミカさん……」

 

 呆れた様子で溜息を吐き、大事な幼馴染の名を口にするナギサ。

 はたから見ても分かる通り『今のトリニティの状況からして、それは無理なのだから駄々をこねないで欲しい』という切実な願いが今の言葉に込められているのは一目瞭然です。

 当然、ナギサの幼馴染として長い付き合いのあるミカがその真意を汲み取れない訳がないのですが、それでも彼女は断固とした様子で首を縦には振りませんでした。

 

「ナギちゃんってば、ここ最近忙しくて満足に寝れてないよね? あのゲヘナとトリニティの条約に、奔走してるせいでストレスも溜まってるだろうしそれにエスミちゃんと久しぶりに会えるんだから。ここはさ、気分転換をするつもりで一緒にお泊り会をしようよ」

「……それは……私の体調を気遺ってくれてミカさんには心から感謝していますが、それでもやはり……あのセイアさんの一件がある以上は、エスミさんとの不用意な接触は控えるべきだと思います」

 

 セイアの名が出た途端、ミカの表情は一瞬だけまるで心苦しそうに酷く曇りましたが、それでも瞬時に明るい表情へと切り替えると『分かってるよ、ナギちゃん』と返事をしました。

 

「ティーパーティーのホストだったセイアちゃんが殺されたから、残っている私たちもいつか狙われるかもしれないって凄く心配なんだよね。それにエスミちゃんを巻き込みたくないって気持ちは、私も同じだよ。ゲヘナで酷い目にあってるエスミちゃんをこれ以上危険な目に合わせたくない」

「そ、それならば――」

「でもね、それでもやっぱり、私はお泊りがしたい……私たちがまだ中等部で3人仲良くお茶会や遊びに行っていたあの頃みたいに……また3人で楽しい時間を過ごしたいの……」

「それは果たして……こんな状況下でする事でしょうか?」

「こんな状況だからだよ、ナギちゃん。今のナギちゃんは幼馴染の私じゃなくても誰が見ても無理をしてるのは丸わかりだし、何だかエスミちゃんから強引に距離を置いてるようにも見えるよ? そんな全然身体にも心にも良くない状態を長く続けたら、絶対どこかでナギちゃんが壊れちゃうかも……言っておくけど、私はそんなナギちゃんを見るのは嫌だからね」

「…………」

「それにナギちゃんがこの後も無理をしすぎて壊れたら、今頑張って進めてるあのエデン条約はどうするの? 私は正直あんな無理難題過ぎる条約がどうなっても別に気にしないけど、ナギちゃんはどうしても実現させたいんだよね? だったら、ここで少し気分転換でもして身体やメンタルを回復する必要があると思うよ」

「……ミカさんにしては、随分と説得力のある言葉ですね」

「むー。せっかく人が心配してあげてるのに、ナギちゃんってばそんな酷いこと言うんだぁ?」

 

 頬を膨らませ、大げさに腕を組んでそっぽを向くミカ。

 ティーパーティーの生徒会長の1人というだけではなく、パテル分派の首長ともあろう生徒が随分とまぁ子供じみた態度を取りました。しかし、よくよく考えればミカもナギサもまだ17歳の子供。

 生活品の一部としてさも当たり前のように銃器を持ち歩いているという異常にさえ目を瞑れば、こういう光景が毎日広がっているべきなのです。

 

 トリニティ総合学園のトップとして、日々重い責任や不安に押しつぶされかけているナギサが、果たしてその事実に気付いてくれるのかどうか。

 

 何であれ先ほどの幼馴染の明るい態度に多少は心の重みが取れたようで、ナギサは呆れではなく安堵の溜息をつくと、そっと窓から離れてミカの方へと歩み寄りました。

 

「分かりました。今回だけは、ミカさんのお願いに従いましょう……実を言うと、私も久々に3人で一緒に過ごしてみたいと思っていました」

「本当!? じゃあ早くエスミちゃんと相談して日程を決めようよ‼ というか、今すぐエスミちゃんに電話で聞いてみるね‼」

「い、いえ。今日は流石にワイルドハントから戻ってきたばかりで荷物の整理も済んでいないはずですから、相談は後日にした方が――」

「ダメ!! こういうのは早い方が良いんだよ!? 大丈夫、私達のエスミちゃんならきっと分かってくれるはずだから、ちゃんと話を聞いてくれるよ……たぶんね‼」

「はぁ。一体どうしたらそう自信気に言えるんですか……言っておきますけど、そのお泊りの件、エスミさんから無下に断られても私は知りませんからね?」

「その時はナギちゃんの胸で泣くから慰めて!!」

「えぇ……」

 

 そう口にするや否や、懐からスマホを取り出し意気揚々と連報先でエスミの名を探し始めるミカ。

 どう考えても今のエスミはまだチェリと共に荷解きの真っただ中であるはずなので、そう簡単に電話に出てくれるとは思いもしないのですが、しかし何だかんだナギサやミカに甘い彼女なら3コールもしないうちに電話に出てくれるかもしれないという謎の期待感もありました。

 

 事実として、ミカが電話をかけて僅か2コールした後、今2人が会いたくて仕方ない少女の声がスマホのスピーカーから聞こえてきたのでした。

 

『はい。栢間だけど……いきなり電話だなんて、どうかしたの?』

 

 久しぶりに聞くエスミの声。

 ミカも、そしてナギサも嬉しさのあまり互いに息を飲み込みました。

 

 ほんの数秒だけ生み出された無言の間。しかしその直後に、ミカが元気な声で返事をするのでした。

 

「あ、あのねエスミちゃん‼ ちょっとお願いしたい事があって――」

 

 

 

≪1-3≫

 

 

 

 ピンポーン、と来訪者を告げるベルの音が鳴り響き、静かにソファで読書をしながら寛いでいたエスミは無言で本を閉じると、トコトコと部屋の歩きながら真っすぐ玄関へと移動します。

 

 そして丁寧な動きで扉のロックを解除し、ガチャリとその扉を開けたその瞬間、ガバッと何者かが勢いよくエスミの胸元に目掛けて抱き着いてきました。

 

「おっと、と……ちょっと聖園。そんな強く突撃して……流石に危ないよ」

「えへへっ。やっとエスミちゃんに会えると思ったら嬉しくて、つい☆」

 

 モゾモゾとエスミの胸元に顔をうずめながら、ひょっこりと視線だけを上げて彼女と言葉を交わす聖園ミカ。

 ご丁寧にエスミの背中にまで腕を伸ばし、決してこの抱擁は解かないぞと言わんばかりにギュウギュウに抱き着くその姿は、まるで遠距離恋愛していた恋人と久しぶりに出会えて興奮しているかのようでした。

 

 もっとも、エスミとしては少しミカの抱擁が強過ぎるせいで若干息が苦しい訳ですが、せっかくの再会で心底喜んでいる彼女の笑みを見ると即座に『苦しいから離して』と言う気にはなれず、代わりに溜息を吐きながら優しく彼女の頭を撫でるのでした。

 

「でもまあ、久しぶりだね。元気だった?」

「う~ん。ちょっとだけ気持ちがナーバスにはなってたけど、こうしてエスミちゃんに無事に会えたから全部吹っ飛んじゃった☆ あぁ~……エスミちゃんの匂い……この柔らかい胸……本物だぁ……最高……‼」

「そこまで喜んで貰えるなんて少し嬉しい限りだけど……あの……流石に胸に顔を埋めたまま話すのは勘弁して欲しいと言うか……いや、今更君にそれを言うのは無駄だったね」

 

 思えばよくミカに胸を揉まれたり、時々お泊りをしては勝手にエスミの胸を枕代わりにして爆睡しているミカなのです。この程度のことで厳しく忠告したところで、果たしてミカは止まるでしょうか。

 いいえ、きっと無理です。彼女なら懲りずに同じことをこの先もする事でしょう。

 なので仕方ないといった様子で肩をすくめたエスミは、依然として抱き着きながら胸に顔を埋めて匂いを堪能しているミカを一旦放置し、視線を扉の方へと向けました。

 

「聖園はこんな感じだけど……良ければ、君も再会のハグでもする?」

「い、いえ。私は流石に遠慮すると言いますか、確かにエスミさんに再会出来て嬉しいのは事実ですが、今のミカさんのようにその身体に抱き着きたい程かと言われるとそうでは無いと言いますか……いや、決してエスミさんの身体に魅力が無いから抱き着かないという訳では無くて――」

「うん、分かったから一旦落ち着いて。いつもの桐藤らしくないよ。別に久しぶりの再会でハグするのが当たり前という訳でも無いし、ハグをしなくても私は全然気にしてないから」

「そ、そうですね。え、ええ、もちろん分かっていました……では、気を取り直して。お久しぶりです、エスミさん。ワイルドハントへの短期留学、本当にお疲れ様でした。ご無事で何よりです」

「……うん。ただいま、桐藤」

 

 未だ扉付近で姿勢正しく立ち続け、かつ綺麗で清楚なオーラを放ちながらも、トリニティ総合学園のトップである今のナギサの瞳にはエスミだけが映っています。

 それほどまでに彼女もまた、エスミに会いたかったのでしょう。

 今もこうしてエスミに抱き着き、その胸に顔をうずめて匂いまで嗅いでいるミカと同じくらい再会した喜びを胸に抱いているのかは定かではありませんが、何はともあれエスミは明るくニコリと笑みを零すと、彼女達2人との出会いを喜ぶのでした。

 

「……それで。いつまでミカさんは抱き着いてエスミさんの胸に顔を埋めてるつもりですか?」

「えっ? このまま一日中エスミちゃんに抱き着いても良いんだよね。違った?」

「一体何を寝ぼけたことを言ってるんですか、全く良くはありませんが?」

「あー……そっか、ナギちゃんってばエスミちゃんの胸の柔らかさや匂いを堪能したことが無いからそんな事が言えるんだね。うんうん。じゃあ仕方ないね☆ この良さが分かってたら、絶対に離れようだなんて思えなくなるのに……残念だねナギちゃん。エスミちゃんの身体の良さを味わえなくて☆」

 

 見せつけているつもりなのか、相変わらず抱擁を辞める気配は無く、むしろドヤ顔をしたままエスミの大きな胸に顔をさらに埋めるミカ。

 ちなみに今のエスミは完全に部屋着姿(リブニットと呼ばれる服)のため、ミカに匹敵するその大きな胸を普段から上手く隠している学園の制服は着ておらず、誰が見てもつい『デッカ』と口にしてしまうような恰好をしています。

 

 という事は、絶世の美少女としても有名なエスミの抜群のプロポーションを堂々と周囲に晒している中、彼女に抱き着き、かつその胸に顔をうずめているミカが一体どれほど羨ましい立場を手にしているのか、わざわざ口にする事でもないでしょう。

 

 当然、エスミ本人としては非常に反応に困る状態なので疲れた溜息を吐くや否や、顔を上に向けて現実逃避を図るのですが、肝心のナギサはと言うと笑顔のままビキビキと額に青筋を浮かべていました。

 対してミカは幼馴染相手に余裕の笑みを零しつつ『ねえねえ、エスミちゃん』と甘い声を出します。

 

「昔みたいにまた一緒に下着姿で寝てみない? 今度は私がエスミちゃんの下着を付けてみた――」

「ミカ?」

「——いのは止めとこうかな。うん、やっぱり止めるね」

 

 流石に堪忍袋の緒が切れる寸前のナギサが珍しく呼び捨てで発した『ミカ』という名前の響きは、ミカのちょっとした悪ふざけを停止させるにはむしろ効果てきめんどころか十分過ぎたようで、暴走した焦りか、それとも身の危険からか、顔を青白くさせたミカは素早い動きでエスミから離れると、ぎこちない笑みを浮かべながらナギサの身の回りをピョンピョンと跳ねつつ『い、いやぁ!! 今のは冗談だよ冗談‼ えっ、えへへっ☆』と機嫌を悪くした幼馴染を宥め始めるのでした。

 とても先ほどまでドヤ顔で彼女相手にマウントを取っていた人物とは思えない変わり身の早さですが、それだけエスミだけでは無く、幼馴染であるナギサの事も心底大事だというミカの想いの強さの証でもあります。

 

「………」

 

 一方で、ようやくミカの抱擁から解放されたエスミはふぅっと息を吐くと、先ほどまでミカが顔を埋めていた自身の胸にそっと片手で触れました。

 そこには未だに彼女の温もりが残っていました。まるでその部分だけ、ホッカイロで暖められていたような気分です。

 もっとも、あれほど長いことミカに抱き着かれていたのだから当然と分かっているものの、つい面白くてエスミは彼女たちに気付かれないよう微笑しました。

 

(転生者としてこんな事を思っちゃうのは絶対に間違ってるけど……やっぱり、ミカやナギサと一緒に居ると楽しいし、正直心が温まる……)

 

 エスミはそっと胸元で拳を作ると、そのままギュッと何度か手を開いては握りしめ、やがて満足した様子で手を下ろしました。

 

「……2人とも。そこで喧嘩なんてしないで、せっかく泊まりに来たんだから私の部屋の中に入って。嫌ならそのまま帰っても良いんだからね?」

 

 そして黒色の革手袋をはめている右手を使い、彼女たちを手招きするのでした。

 

 

 

≪1-4≫

 

 

 

「先ほどはミカさんが大変失礼なことをしてしまい、誠にすみませんでした」

「もう、別にさっきのことは気にしてないのに」

「ですが……いくら中等部からの付き合いとはいえ、エスミさんの胸に顔を埋めるなんて……」

「彼女には胸に顔をうずめられたばかりか、これまで枕代わりにされたり、直に揉まれたりと色々とされているからね……何て言うのかな。もうあれぐらいの対応は慣れたかも」

「エスミさん。出来れば、ミカさん相手とはいえ、あそこまで自身の胸を好きに触らせるような事はしないで欲しいのですが……ミカさんは一応ティーパーティーの1人ですし、パテル分派の首長という立場もあります。その……そもそも世間の目がですね……」

「安心して。それぐらい聖園も分かってるよ。あんな変態行動、私と2人っきりの時だけか、君が一緒にいる時にしかしてないから。ちゃんと節度は守ってる子だよ」

「そ、そうですか。それを聞けて安心し……は、無いですね。どちらにしろ、エスミさんの胸を好き放題してるのは変わらないみたいですが!?」

「フフッ」

 

 クスクスと笑みを零しながらエスミは『いやでも本当に。私は全然気にしてないよ』と言葉を続けます。

 その手元では彼女の大好きな苦味の強いコーヒーが絶賛作成中であり、流石にコーヒー専門店のような完全手作りではなく、あくまでも市販のインスタントコーヒーではあるものの、丁寧な手つきでコーヒーを作るその姿は喫茶店の店員として働けばそのビジュアル目当てで客が増加すること間違いなしと言えるほど、非常に様になっていました。

 

 ちなみにそんなエスミの隣に立ちながら、ナギサもまた自身の大好きなロールケーキを制作中であり、こちらはナギサによる完全自作となっています。

 

 というのも現在、エスミとナギサの両名は共にキッチンにて軽食の準備中であり、エスミは3人分の飲み物を、ナギサは3人分の菓子を用意し、残っているミカはパーティー用にリビングのセッティングをしていました。

 

 正直、ナギサ達が高等部へと進級して早くも3年。

 昔のように何度かお茶会パーティーを開けていた頃に比べて、生徒会長という随分と重く責任感のある役職を手にしてしまったナギサやミカは流石にそう気軽にパーティーを開く時間的余裕が無くなっていた為、こうしてエスミの部屋でお泊りを兼ねながらお茶会をするのはかなり久しぶりでした。

 

 勿論、エスミが大怪我を負って半年間も病院で入院生活を送っていたという事情もそこには一応含まれる訳ですが、それはそれとして3人は共に心からこの時間を楽しんでいました。

 

「ところでエスミさん。もう少しで今作っているロールケーキが完成しますが、その後はエスミさん用に苦味のあるロールケーキを作る予定です。ちなみに苦味の強さはどのくらいが良いでしょうか?」

 

 エスミがふと彼女の手元に視線を向ければ、確かに既にふんわりと焼けているロールケーキを丸めて等間隔に包丁で切っているのが見えました。

 相変わらずロールケーキ作りに関しては手早くて正確だと感心しながら、エスミは『出来れば、うんと苦い方が良いかな』と言葉を返します。

 

「うんと苦い……ですか。えっと、具体的にはどの程度の苦味が好きなのでしょうか」

「別に桐藤が思うレベルの苦味で大丈夫だよ」

「いえ、そうはいきません。なるべくエスミさんの好みに会うロールケーキを生み出したいので、是非ともその苦味について具体的に教えてください」

「そうは言っても苦味を言葉で伝えるのは中々難しい気が……あっ、そうだ」

 

 何やら名案が浮かんだとばかりに視線を上げたエスミ。

 すると直後、彼女はおもむろに黒色の革手袋を右手から外すと、丁寧に近くにあるキッチンシンクで右手を洗い出し、その後手元で作っている最中のコーヒー……が入っているカップに、その右手の指を少しだけ浸しました。

 触覚過敏ということでやけに感覚が過剰になっている中、淹れ立てで熱々となっているコーヒー入りのカップにその指を入れればどうなることか。

 

 それが分からないエスミではありませんが、それでも何やら目的があって起こした行動を今更止めるつもりは無く、エスミはじっと我慢しました。

 

「……よし」

 

 やがてほんの数秒後に指をカップから出すと、当たり前の事ながらその指には淹れ立てのコーヒーがびっしりと付着しています。

 ポタッ、ポタッと真っ黒な水滴がそのままカップに落ちていく中、未だ真剣にロールケーキを切断している最中のナギサに対し、エスミは優しく声をかけました。

 

「桐藤、少し手を止めて顔をこっちに向いて貰える?」

「え? わ、分かりました……はい。これで大丈夫ですが、一体どうかされました――んっ!?」

 

 刃物故に危なくないようにと包丁を遠くに置き、不思議そうに首を傾げながらエスミに顔を向けたナギサ。

 直後、彼女の綺麗な顔……その中でも柔らかそうな唇に向けて、エスミは右手の指を突っ込みました。

 流石に何かあって怪我をさせてしまっては危ないので、なるべく優しく、かつゆっくりとした動作で行った訳ですが、それでもエスミの大事な右手……中でもその指を口に突っ込まれたナギサの目は、瞬く間に驚愕の色で染まるのでした。

 

 少しして、ペロッと口に入れられたエスミの指を舌で舐めるナギサ。ですが、反応はありませんでした。

 

「……おっと。反応は無い感じ?」

 

 普通の人ならまず『苦いっ!?』と思わず口にしてしまうような、かなり苦味の強いコーヒーが付着したエスミの指。それを苦味が全然好きでもないナギサが不用意に舐めた訳ですから、てっきり慌てふためく面白い反応が見れるとばかり思っていたエスミは、つい呆気に取られた様子で彼女に対し言葉を投げました。

 

 がしかし、その後のナギサが取った行動は全く驚くものでした。

 

 チュウッ。

 

「ひゃっ!?」

 

 なんとエスミの指を舐めた程度では止まらず、驚くことにナギサはそのまま吸い付いて来たのです。

 ご丁寧に、吸い付くどころか舌で舐め回してすらいます。

 触覚過敏ということで感覚が過剰になっているエスミにとって、その行為は自身の予想を上回るものであり、普通は感覚が過剰になっているせいで見知らぬ人相手では嫌悪感や不快が勝る中、不思議と長い付き合いであるナギサに指を舐められ、かつ吸い付かれたことで彼女が感じたのは……気持ち良いというものでした。

 

「ちょ、ちょっと!? い、今なんで私の指に吸い付いてっ!?」

 

 とはいえ、です。

 彼女を翻弄するつもりが、むしろ逆に自分自身が酷く慌てしまっている中、勢いでナギサの口から指を抜いたエスミは少々息が乱れた様子で彼女を見つめます。

 ナギサは楽しそうに笑みを浮かべていました。

 

「すみません……エスミさんのお好きな苦味というのがよく分からなかったものですから、確かめようとつい指に吸い付いてしまいました。もしや、不快にさせてしまったでしょうか?」

「……い、いや……そんな事は……無いけど」

 

 むしろ未知の感覚どころか、妙に気持ち良かった訳ですが、それを言うのは何か別の心の扉が開いてしまいそうだったので黙ることにします。

 エスミは先程ナギサの口の中に入れた自身の指を一瞥すると、そのまま首を横に振って再びナギサに視線を向けます。

 

「それで……私の好きな苦味、分かったの?」

「はい。今私の口の中に入れたコーヒーがそうですね? ならばエスミさんが作っているこのコーヒーを使えば簡単に苦味の強いロールケーキを作れると思います……ただ、以前に比べてエスミさんのお好きな苦味、少し強度が上がっているようですね」

 

 相も変わらず、普段のように落ち着いた様子でそう口にする彼女。

 おかしい。エスミのよく知る普段のナギサなら、あの程度の行為でも酷く慌てて恥ずかしがるはずなのですが、どうやらミカと同様にエスミと長いこと会えていなかった分、ちょっとやそっとの悪戯では動揺しなくなったのかもしれません。

 

 むしろこのままでは、悪戯に対する仕返しの攻撃でエスミの方が大ダメージを受ける可能性が高いと言えるでしょう。

 

(はぁ……私も久しぶりに彼女達に会えて、何だか柄でもない行動をした自覚はある訳だし流石に止めよう)

 

 再びキッチンシンクで丁寧に右手を洗い出し、軽くタオルで拭き取るエスミ。

 その間、ナギサの視線はじっとその右手に向けられていました。すると次第に思い詰めたようにして、酷く暗い表情を浮かべるようになりました。

 特に彼女が見つめていたのは、生々しい右手の傷跡になります。何者かによって刺されたとされるその傷跡。今のエスミが触覚過敏という厄介な症状を持つことになった、そもそもの元凶。

 

 あの時、あの日々、病室で寝たきりで意識不明の重体となっていたエスミを見る度に、何度も視界に入っていたその右手に対し、ナギサはついこう呟くのでした。

 

「……私の力不足です。本当にすみません」

「えっと。いきなり何? どうかしたの?」

 

 いきなりナギサから謝罪された事で困惑した様子を見せるエスミ。当然です。

 しかしナギサはそんな彼女を気にもせず、暗い表情のまま話を続けました。

 

「あの時期、エスミさんにワイルドハントへ短期留学して貰ったのは、その間にセイアさんを殺害した犯人を何とか突き止め、どうにかこのトリニティに平穏を取り戻すための時間稼ぎのつもりでした。あの日、セイアさんが殺害された時、エスミさんが彼女の下を訪れていたのは私も知っています。だからこそ、犯人はティーパーティーの一員である私やミカさんだけでなく、エスミさんも狙うかもしれないと思っていました」

 

 エスミはその言葉を聞きながら、右手に黒色の革手袋をはめます。

 彼女の耳はちゃんとナギサの言葉を拾っていました。

 

「エスミさんは聡明な方です。それに昔からどこか達観していて、私やミカさんが驚いたり動揺するような事態でも、常に冷静で対処される凄い方です……ですから、きっとセイアさんの件も貴女なりに解決するかもしれないと心のどこかでは思っていました。セイアさんとエスミさんは非常に仲が宜しいようでしたから」

「……そうだね。私達は、傍から見れば血の繋がってない姉妹みたいな関係だったかもしれないね……」

「しかし貴女は動かなかった。セイアさんが殺害されたという話は私達ティーパーティーやごく一部の者にしか知られていない秘密ですが、何故かエスミさんには独自の情報網があるにも関わらず、セイアさんの件があっても動こうとはしませんでしたね」

 

 それはエスミを問い詰めるのではなく、何処か安堵しているような声色でした。

 ふと、エスミはすっと視線をナギサに向けます。そこには微笑しているナギサの顔がありました。

 

「君は、私に対してどう思ったの」

「嬉しかった……その言葉に尽きます」

「嬉しい?」

「ええ。エスミさんは私やミカさんにとって非常に大切な方です。友達を持つことを嫌がる貴女はきっと否定するかもしれませんが、もう私達は幼馴染と言っても過言ではないほどの付き合いをしていると思っています。だからこそ、セイアさんという犠牲者が出ているこの事件、貴女には解決に乗り出して欲しくはありませんでした。例え既に犯人に目星が付いているとしても、です。もし動き出せば、向こうは必ず貴女を口封じのために消そうとしていた事でしょう」

「そう……生憎だけど、百合園の件に関しては私も犯人には心当たりは無いよ……今だって、この事態をただ眺めてるだけだからね」

 

 スッと付いた嘘は、有難いことにナギサに怪しまれることはありませんでした。

 

「そうでしたか。では、ひとまずエスミさんが犯人に狙われる心配は無いようですね。今のところセイアさんに続く被害者は出ていないようなので、あくまでも彼女個人を狙った犯行だったのか、それとも私やミカさんに標的を定めて機会を得るために潜伏しているのか……情けないことに、その情報は未だ全く掴めていない訳ですが、エスミさんが狙われる危険性が消えただけも素直に喜ぶべきでしょう……」

「……桐藤」

「……心配しないでください、エスミさん……今度は、私が貴女を守ります。そしてミカさんの事も守ります……お2人は私にとって大事な方々ですから……絶対、失いたくはありません……それに、ようやく例の条約が実現しようとしているんです……‼」

 

 エデン条約。

 あれほどナギサが実現したいと願っていた条約。これさえ実現すれば、エスミの為になると本気で思っているナギサにとって、やはりその条約実現に向けた執着心は非常に凄まじいものでした。

 エスミはすっかり準備の整ったコーヒー入りのカップに両手で触れると、じんわりと感じる温かさで心を落ち着かせながら、何とも言えない笑みをナギサに向けました。

 

「君が真剣に打ち込んでいる仕事だからね。今さら私からあれこれ小言や苦言を言うつもりはないよ……ただ、出来るだけ無理はしないようにね」

「安心してください。ミカさん、エスミさん、そして私の3人で幸せな日々を過ごすのに必要不可欠な仕事です。何があっても私はこれを実現させ、叶えてみせます……」

「……そう……応援、してるね」

「あの……それで実は、もう1つだけエスミさんに伝えておくべき事がありまして……良いでしょうか?」

 

 するとコーヒー入りのカップに両手を添えているエスミに向かって少しだけ距離を縮め、ナギサはそっと彼女の左手に自身の手を置きました。

 自身の手に置かれたナギサの手は、随分と熱を帯びていました。

 エスミは視線を手元とナギサ、交互に向けながら最終的に彼女に視線を固定すると『桐藤?』と彼女の名を呼びます。

 

「……私、これをいつ伝えるべきかずっと悩んでいたのですが……こうして久々にエスミさんと再会出来たことで、今伝えないと後々後悔するような気がして……」

「そんなにも重要な話?」

「……はい。聞いてくれますか?」

「…………うん。いいよ……聞かせて」

 

 左手に置かれているナギサの手に対し、革手袋をはめている右手を上から重ねるようにして置いたエスミ。

 そのままギュッと少々強く握ってあげると、ナギサは目を何度か瞬かせ、しかし視線だけはエスミの翡翠色の瞳にだけ注がれていました。

 エスミも彼女に応えるようにしてその瞳を見つめ返します。

 

「あの……エスミさん……」

「……なに、桐藤」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 長い、長い、沈黙。

 先ほど手を洗う時に使ったキッチンシンクの蛇口から、水滴がピタッと落ちる音だけが響き渡ります。

 お互い、少しでも距離を縮めればキス出来なそうなほどの近距離でいる中、ようやくナギサは言葉の続きを口にしました。

 

「以前……私がエスミさんに贈ったナイフですが、もしかして紛失されたのでしょうか?」

「……え?」

 

 ナギサが伝えたかった事、それは過去にエスミに対してプレゼントした例のポケットナイフの事でした。

 お互いが初めて出会った日を記念日とし、それぞれプレゼントを贈り合った際にナギサから貰った大事な美術用のナイフ。

 しかしそのナイフはエスミがゲヘナの地でアリウス分校のサオリと交戦した際、どこかに紛失してしまっていました。一応、プレゼントしてくれたナギサには内緒で、ゲヘナ側に頼み込んであの土地一帯を探して貰ったのですが、残念ながら見つかることはありませんでした。

 

 よって、紛失してしまった事をひた隠ししながら今日まで過ごして来たわけですが、やっぱりナギサには気付かれてしまったようです。

 

 仕方ありません。エスミは申し訳ないと言った様子でナギサに向けて頭を下げました。

 

「ごめん。せっかくオーダーメイドで贈ってくれたのに……それと、紛失したことを今まで黙ってた事も」

「いえ。むしろ私の方こそ、エスミさんが入院されていた頃から気に掛けていたにも関わらず、今まで尋ねようにも尋ねることが出来ませんでした……ですが、無くされたというのならば仕方ありませんね。また次の記念日の時に、同じナイフをオーダーメイドでプレゼントします」

「……良いの?」

「ええ、構いません。無くされたナイフも、きっとエスミさんによく使って頂いて感謝しているはずです」

「……そう、かもね」

 

 ふと革手袋をはめている右手がピクリとうずいた気がしましたが、エスミはそれを無視してニコリと笑みを浮かべます。

 

「私も今度の記念日には良いプレゼントを贈らせて貰うね。今度はロールケーキじゃない物にするよ」

「それは楽しみです。でしたら、その日はお互いに過ごしてみませんか。せっかくの記念日ですし」

「そうだね。出来たらそうしようか」

 

 そうやって2人してまだ先の未来についてクスクスと楽しそうに笑いあうと、突然向こうからドタドタと誰かが駆け寄って来るのが分かりました。

 やがてその来訪者は『じゃじゃーん!!』と元気の良い声を発すると同時に、エスミ達がいるキッチンへと足を踏み入れます。

 

「リビングのセッティング、完了だよ‼ さあ2人とも早く準備をして――っと、わーお!! 私がいない間に仲良く手まで繋いで身体をくっつくなんて、やっぱりナギちゃんもエスミちゃんを独り占めしたかったんだね!?」

「ミカさん。これは別にそういう訳では……」

「そう。ただ普通にお話をしてただけだよ」

「いやいや、そんなラブラブカップルみたいに至近距離でいながらそれは流石に無理があるじゃん⁉」

 

 ですがそう驚きつつも『白状しないとまた抱き着いちゃうよ☆』と元気に声を張り上げ、ニッコニコな笑みを浮かべるミカ。

 対して、ナギサやエスミは彼女に負けじとあれこれと言葉を投げては冷静に対応をしました。

 

「そういうのじゃ無いから……あっ、せっかく来たんだから飲み物を運ぶのを手伝ってくれる?」

「全然それぐらいすぐに手伝うよ。でもでも、やっぱりさっきのはナギちゃんと何もなかったの~?」

「はいはい。そうやってグイグイと来ないの。ほらっ、これ聖園たちの飲み物。あとこれは桐藤が作ってくれたロールケーキだよ。大事に持ってね」

「うわっ、とっても美味しそうなロールケーキ!! ナギちゃん、やっぱりお菓子作りが上手いね‼」

 

 親指を上げて『流石!!』と褒めたたえ来るので、ナギサは苦笑しながら『ありがとうございます』と冷静に言葉を返します。

 

「それじゃあ、私と聖園は向こうで準備してくるから、桐藤は残りのロールケーキ宜しくね」

「バイバイ、ナギちゃん‼ これからは私がエスミちゃんを貰っちゃうね~‼ えへへ~!!」

「こら。そうやって煽らないの」

 

 嬉しそうにエスミに身体を近づけながらも、それでも手にはしっかりと飲み物やロールケーキを落とさないよう持っています。何だかんだ、ちゃんと働いてくれるのが彼女です。

 それを半ば保護者的な立場で付き添うエスミと共にリビングの方へと消えていくのを、ナギサはただ黙って見送りました。

 

「……はぁ」

 

 そして酷く失望したような溜息を吐くのでした。

 

「……エスミさんへの告白……やはり出来ませんでしたね……」

 

 肩をすくめ、もう一度溜息を吐いたナギサ。

 すると先ほどまでエスミが作っていたコーヒーのセットが視界に入り、ナギサはおもむろに淹れ立てのコーヒーがあるカップを手にすると、少しだけそれを口に含みます。

 

「っ!?……今度は、流石に苦いですね……」

 

 しかしあまりの苦味の強さに顔をしかめると、優しくカップを元あった場所に戻します。

 先ほどは全く苦味なんて感じなかったはずなのに、と疑問に思うことはなく、ナギサは当然だと言わんばかりに苦笑いをするのでした。

 

「……好きです。エスミさん……」

 

 

 

≪??????????????≫

 

 

 

 あれから、一体どれほどの時間が経ったのでしょうか。

 

 無事に出来たエスミ専用の苦味の強いロールケーキを用意して、紅茶やジュース、コーヒーなどが並んでいるリビングにて久しぶりに3人だけのお茶会パーティーを開いたのがつい数時間前のこと。

 

 その後、皆でお風呂に入りたいと駄々をこね始めたミカに従う形で、やけに大きなバスタブ(どうやら昔ミカがお泊り用に購入したらしい)で3人一緒に入浴しました。

 流石にお泊りムードで頭が完全にハッピー汚染されていたミカが、半ば暴走する形でエスミの裸体に抱き着き彼女の胸を揉み始めたりといった悪戯をしたことで、生まれて初めて聞いたエスミの甘い声に心をかき乱されたナギサは、それはもう平常心を務めるのに必死でした。

 

 もちろんエスミとて黙って一方的にやられる側ではありませんので、しっかりとミカの頭部には彼女の拳が振り下ろされ、代わりにナギサがエスミの身体を洗うという非常に幸運な役目を手にしたのでした。

 ただ生憎とエスミの成長しきった裸体を間近で見ながら、ナギサがその身体を無事に洗えたのか、と問われれば否と答えましょう。

 

 流石にまだ互いに幼かった中等部時代ならともかく、同性すら魅了する抜群のプロポーションを持つほどに成長し、同時に想い人でもある彼女の身体に容易に触れるというのは、流石に友人ですら無い自分がして良い事では無いとブレーキがかかったのです。

 なので、身体を洗ってほしいとエスミ本人からの願いだったとはいえ、ナギサはそれを固く断ると、さっさと自身の洗いを済ませて真っ先に風呂場から上がってしまったのでした。

 

 そこからは3人で互いに髪を乾かし、雑談を洗ってすることで少々時間を潰すと、やがて就寝するからとベッドにそれぞれ潜り込んだのですが…………気付けば、ナギサは真夜中にも関わらず、つい目が覚めてしまうという事態に陥っていました。

 

「……困りましたね……」

 

 本来なら寝てしまえば朝まで熟睡コースに入るのですが、どうも久しぶりに3人集まってのお泊り。かつエスミの部屋という条件も合わさってか、どうやら脳が興奮で活性化してしまったようです。

 まあ別に他人の寝込みを襲うなどという趣味がある訳ではないのでこのまま二度寝をすれば済む話ですが、ふと他の2人はどうしているのかとナギサは身体を起こしました。

 

「……あら、エスミさん? ミカさん?」

 

 すると不思議なことに、2人がそれぞれ寝ていたベッドはもぬけの殻でした。

 一瞬、実は今日一日お泊りをしているという幻覚を見ていたのではと疑ったナギサですが、ちゃんとミカとエスミが寝ていたであろう痕跡がベッドには残っているので、それぞれ別の用事で離れているだけかもしれません。

 

「せっかくですし、私も起きましょうか」

 

 2人がいなくても別にナギサは関係ありません。このまま寝るだけで良いのです。

 しかしやはり、今のトリニティは少しだけ不穏と言うべきか、まだセイアの件でナギサが不安を抱えているのは事実なので、せめて2人の姿だけでも目にしておきたいとナギサはベッドから離れると、足音を立てずに周囲をそっと歩きはじめました。

 

 やがてどうでしょうか。

 ナギサが歩き出して数分もしないうちに、エスミとミカの会話がリビングの方から聞こえて来たではありませんか。

 

(お2人とも、こんな真夜中に何を話しているのでしょうか?)

 

 寝室とリビングを繋ぐ廊下には、それぞれ部屋ごとに扉が存在するため、2人の会話は聞こえても肝心の姿は見えません。そのため、話声だけが聞こえてくる中、こんな真夜中に何を会話しているのかと一旦その場で立ち止まりナギサは考えました。

 幼馴染であるミカは普段は天真爛漫な活発系美少女ですが、それでもパテル分派の首長という重い役職を手にしている立場にありますし、彼女なりに執務にはちゃんと真面目に対応しています。

 なので、それに関する悩みでもエスミに打ち明けている最中なのかもしれません。エスミはよく人の悩み相談に付き合っては助言をしてくれることがあるため、何も不思議な話ではありません。

 

 ですが直後にリビングから聞こえて来たミカのある台詞で、それは全くの見当違いだったとナギサは思い知るのでした。

 

「エスミちゃん……前からずっと、エスミちゃんの事が好きでした。私と、恋人になってくれませんか?」

 

 カチンッ、とその場の時が全て止まる感覚がしました。

 

 そして、リビングの扉を開こうとドアノブに手を伸ばしかけていたナギサは、まるで信じられないものを見たかのような様子で目を大きく見開きます。

 

「……え?」

 

 自分が言いたくても言えず、逃げてばっかりだった愛の告白。

 それを小さい頃からの仲である幼馴染のミカがこうもあっさりと実行してみせたのです。

 それも、ナギサの想い人である栢間エスミに対して。

 

 衝撃か、それともショックか。

 

 ナギサの頭は瞬く間に真っ白になりました。

 

 

 





BSSとWSSってありますけど、何で一人称が俺用のOSSは無いんですかね?
※心底どうでも良い疑問

もしも仮にブルアカ世界に転生して生徒になれるなら、どんな武器を所持して愛用したいですか?(※作者は愛用するならリボルバーしかあり得ません.)

  • 拳銃(M1911,グロック等)
  • リボルバー(SAA、コルト・パイソン等)
  • 自動小銃(HK416、AK-47等)
  • 短機関銃(M1921、MP5等)
  • 小銃(M1ガーランド、Kar98k等)
  • 散弾銃(ベネリM4、AA-12等)
  • 機関銃(MG42、M249等)
  • 対物ライフル(AW50、ヘカートⅡ等)
  • 擲弾発射器(M79、ダネルMGL等)
  • 素手
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